ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
ヒロアカとの両立に苦労してます…。
皆様の感想及び意見を活かしてこれからも頑張ります。
一週間後、ジャヤのモックタウンにて。
かつてテゾーロが一人で粛清した無法の町は、今は発展途上だが生まれ変わりつつあった。
少し前にテゾーロ・ウミット・ギバーソンによって設立した港湾労働者組合の力により、倉庫や港が次々に造られ、貿易の町となろうとしている。
元々モックタウンがあるこのジャヤという島は、荒れに荒れまくっている〝
さらにテゾーロの〝ゴルゴルの実〟の能力によって生み出した黄金を賃金として払うことで、噂を聞きつけた者達が続々と集まって大きな労働力となっている。
金の力、恐るべしである。
「昔来た頃と全然違うわ……」
「ステラ、これが金の力だ!! イッツ・ア・エンターテインメント!!」
かつて来た頃とは全く違う光景に、驚くステラ。それに対し赤いつなぎを着たテゾーロは、ステラに自らの力を自慢する。
テゾーロはその財力とコネを駆使し、揺るぎない地位を築いた。
今では政府及び海軍とも通じる強大な有力者と周知されるようになり、その力を恐れる者も出始めた。某明治剣客浪漫譚の武田ナントカみたいになっている気がするのは、きっと気のせいだろう。
「だがこれも野望への過程に過ぎない……おれはまだまだ強くなる」
「あなたの野望……この世界を変えることだものね」
「暴力の時代を終え、新時代のために革命を起こす……それこそがおれの人生であり、究極のエンターテインメントだ。このギルド・テゾーロが描く未来こそ、人々の希望の光となる」
暴力でモノを言える時代に終止符を打ち、新たな時代を創るために世界に革命を起こすことを野望として掲げるテゾーロ。
弱きを助け強きをくじき、時代を変えるには、力が無ければ意味が無いのだ。
(とはいえ、課題はまだ多い。グラン・テゾーロ計画はほとんど始まってないし、海列車も開通していない。早めに何とかしなければ……)
その時だった。
「! 客人か? 何の連絡も来てないが……」
テゾーロの元へ向かう、マントのようにコートを羽織ったスーツ姿の二人の青年。
一人はストライプのスーツ姿で、周囲の人間は気絶してないが覇気を放っている。どうやらテゾーロと同じ〝覇王色〟の持ち主のようだ。もう一人は白いスーツ姿で、腰にレイピアを差している。〝覇王色〟は有してないようだが、歴戦の強者としての風格を漂わせている。
「ギルド・テゾーロだな?」
「……ええ、私に何か御用でも?」
テゾーロは目を細め、両手の指にはめた指輪から火花を散らす。
それと共に、腰にレイピアを差した青年が柄に手をかける。
一触即発になるが、そこへストライプのスーツを着た青年が諫めた。
「待ったれよ、コルト。おれ達はテゾーロにケンカ吹っ掛けに来たって訳じゃねェだろ?」
「っ……失礼しました……」
一歩下がる、コルトという名の青年。
それを見たテゾーロは、内心安堵していた。今ここで戦いとなると、ステラは勿論のこと、周囲の人々に甚大な被害を与えかねなかったからだ。
「おれの名はスライス……新世界の資産家だ」
「では改めて……テゾーロ財団理事長のギルド・テゾーロです」
握手をするテゾーロとスライス。
お互い笑みを浮かべているが、少しでも相手の心の奥をくみとろうと見据えている。
「新世界の資産家が、一体何の御用で?」
「あんたと手を組みに来た。今一番波に乗っている実業家と結託するのは互いに利があるしこれといった損も無い……だろ?」
スライスはニヤリと笑みを浮かべる。
それを見たテゾーロは、少し考えた。
(新世界の資産家、か………これは大物に出会えた。逃すわけにはいかないな)
新世界は、言わずと知れた世界一危険な海だ。
デタラメを極めた天候と、〝白ひげ〟を筆頭とした大海賊や大物犯罪者達が常にナワバリ争いを繰り広げる超危険エリアで、振り返れば死が待っているような所だ。
そんな所で生きて商売をし、財を成している――とすれば、新世界のカネの裏事情も知っている可能性もある。新世界進出も考えると、彼と手を組むのは大きなメリットがある。
「詳しい話は、作業を終えてからにして欲しいな。1時間で済ませる」
「……わかった、待ってるぜ」
*
モックタウンに設置されたテゾーロ財団の事務所で、二人は待っていた。
すると――
「お待たせ」
「「……!?」」
事務所のドアを開けて、テゾーロは正装で二人の前に再び現れた。
全身ピンクのダブルスーツを着用しスカーフを巻いたその姿は、赤いつなぎ姿のその辺にいそうな工事現場の兄ちゃんではなく、一端のビジネスマンとしての威厳と風格を漂わせている。
「イメチェンか……!?」
「いや……普段着は赤のパーカー、外での作業はつなぎって自分で決めているだけだよ」
そう言い、ドカッとソファに座るテゾーロ。
「それで……何の御用でしたっけ? スライス殿」
テゾーロは目を細める。
「ビジネスだよ……おれとあんたが手を組めば、新世界を支配することができる。あんたの〝ゴルゴルの実〟の能力はすでに調べがついているしな」
スライスはそう言い、ニヤリと笑みを浮かべる。
テゾーロは思わず感心した。さすがは新世界で生きる人間…情報網のスケールがデカイようだ。
「……確かに私としても、新世界の情報網を得ている方との連携は重要と考えている。これからのことを考えれば、尚更ね」
テゾーロ財団は、活動拠点を新世界に移す計画を今練っている。
今は時期尚早だということに加え、海列車とモックタウンの方を優先するので本格的に始動してないが、いずれは新世界で活動する気だ。その上で、新世界の情勢を知るスライスとこうして面会できたのは、ある意味で奇跡と言える。
「まァ……こちらとしてもあなた方との連携は歓迎しますよ。デメリットの無い契約はやってナンボですしね」
髪の毛をモリモリと掻いて立ち上がるテゾーロ。
テゾーロは棚へ向かうと、そこから急須と茶葉、そして湯吞み茶碗を取り出す。
「……お茶飲みますか?」
「ん! ああ、丁度喉が渇いてたからコルトの分も頼む」
お湯を沸かし、湯吞み茶碗にお茶を注ぐテゾーロ。
ちなみにこのお茶はガープから貰った代物である。
「手を組むのは構いませんがね……少し聞きたいことがある」
コトリと湯吞み茶碗を置くテゾーロ。
スライスとコルトは手を伸ばし、お茶を飲む。
「あなたの仕事がわかりにくい。資産家であるなら、何で儲けているので?」
テゾーロは運輸業や林業、造船業を主な仕事としている。「ONE PIECE」の世界は現実世界と違ってほとんど海なので、海を利用した産業で儲けている。
この世界の資産家であるスライスは、何をしているのか……気になるところである。
「スライス様、私が説明してもよろしいですか?」
「ああ、いいぜ」
コルトがスライスに代わって説明するようだ。
「スライス様が生まれた一族は、代々石油業を営んでいる名門一族。新世界のみならず、この世界における石油業の大多数がスライス様の一族が牛耳っている」
(マジの石油王か!!)
鉱物資源の一種である石油は、様々な製品を生む。
軽油や重油、
かつてアメリカの実業家ジョン・D・ロックフェラーは、石油事業を開始して石油市場を独占し、アメリカの石油の90%をコントロールして史上最大とも言われる資産を保有したように、石油業は成功すれば巨万の富と力を得ることができる。そして目の前の青年は、それを成功に収めた一族の人間なのだ。
「……聞くけど、その一族の現当主って誰だい?」
「スライス様だが?」
テゾーロは思わず顔を引きつらせた。
自分は叩き上げで財を成した富豪だが、相手は生まれ持っての富豪だったのだ。
「そういやあ……あんた、海軍と裏で手ェ組んでんだろ? ここ最近大変だったろ?」
「……そうだね」
ロジャーが処刑されてから3年の間、テゾーロは色々と忙しかった。
海賊の往来が多くなったので大砲や銃火器を買うようになり、保有する船の武装も改めたことで例年より支出が多くなったことに加えて、一番の支出は伝説の大海賊〝金獅子のシキ〟の脱獄だった。金獅子脱獄によるインペルダウン内の被害は想像以上で、早急な修復が求められその修理費をテゾーロが全部負担したからだ。
「〝金獅子のシキ〟の脱獄時は政府上層部からインペルダウンの修理費を全部負担したよ。海軍と政府のミスをおれにも押し付けたのさ」
「……世界政府も随分とセコイな」
「いや、その見返りは貰ったよ? 支部の
陽気に笑うテゾーロに、スライスも苦笑いする。
テゾーロは中々頭が切れるらしい。
「まァ…オハラの件に関しては、おれの忠告聞かなかったからちょいとばかし経済制裁したけどね」
「〝経済制裁〟?」
「海軍への軍資金の提供をストップしたんだ。アレ、思いの外影響が出てビックリしたけど……」
経済制裁は、ご存知の方も多いだろうが、その名の通り経済力による制裁……経済的圧力をかける外交手段だ。
テゾーロは実はオハラへのバスターコールについて、政府上層部及び海軍上層部に対して「対象外の民間人を巻き込んだら制裁をする」と通告していたのだ。テゾーロ本人としては、世界の法を犯した以上は然るべき罰を与えるのが筋ではあると考えている。しかしそれと同時に、何の罪も犯していない人々に手を出すのは悪党から人々を守る立場の人間としてどうなのかとも考えている。故にテゾーロはバスターコールに参加するクザンを通じて上述の通告をしたのだ。
しかし案の定同行していたサカズキが――原作通りに――避難船を砲撃して沈めてしまったので、お約束の通りに無期限の軍資金提供の停止を申し出て実行に移そうとしたのだ。
軍資金のほとんどを彼から受け取っている海軍は焦ったが、それ以上に慌てたのは政府上層部の中でも中枢に近い一部の高官達だった。実は彼ら…テゾーロが提供した軍資金を、その権力を振りかざして一部横領していたのだ。莫大な富の一部を提供してくれる実業家から金を横領していたとなれば、万が一彼の耳に届いた時はそれこそマジでマズイ。
さらに問題なのは、その中にCP9長官であるスパンダインが関わっていたことだった。ただでさえ何の躊躇もなく経済制裁を実行しようとしたテゾーロ…もしもこの事を知ったらどんな要求や制裁をしてくるか皆目見当つかない。
「いや~、まさか政府上層部が横領していたとは思わなかったよ……しかも〝CP9〟の長官が絡んでいるときた」
「ちょっと待て……この話をしたってことは、気づいたのか?」
「当然。おれは〝あること〟を必ず行うよう海軍に頼んでるんだ」
「〝あること〟?」
「それはさすがに教えられないけどね」
テゾーロが行っている〝あること〟とは、海軍に対し定期的に領収書を送るようにしていることである。
これは不正を見抜きやすくするためである。たとえ小さな誤差でも、積み重ねれば大きな誤差となる。その誤差の原因を追及することで政府及び海軍の不正を暴こうというのだ。この領収書の意味を知る者はステラ以外にいない。他の者にバレると面倒事になるからだ。
「んで…その後はどうなったんだ?」
スライスはそう尋ねると、テゾーロは満面の笑みを浮かべた。
しかし、目が笑ってない。
「……ご想像にお任せするよ」
「……」
スライスはあまり深く追及しないことにした。
多分……いや、間違いなく彼らはテゾーロの手でヤバイ目に遭っている。それも、どっちかっていうと肉体的な方よりも社会的な方で。
「……それよりも、おれらとの件はどうするつもりだ?」
「ああ、お言葉に甘えて手を組ませてもらうよ。ただし条件がある」
「条件?」
テゾーロは机の方へ向かい、引き出しから書類を取り出してスライスに渡す。
それは、契約書だった。
「港湾労働者組合への加盟だよ。貿易業の発展の為にね……」
「サービス精神のいいことで……」
儲け話に食いつき、笑みを深めるスライス。
スラスラとサインし、契約書をテゾーロに渡す。
「……これからどうするんだ?」
「新世界に帰る。おれ達にもおれ達の仕事があるんでな」
ヒラヒラと手を振り、スライスはコルトを連れてテゾーロ財団の事務所を後にした。
それを見届けたテゾーロはニヤリと笑みを浮かべ呟いた。
「フッ……中々癖の強い石油王だな」