ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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第39話〝二人の素性〟

 ここはテゾーロ財団のシャボンディ諸島支部。事務所のオフィスでは、二人の男がソファに座りテゾーロとステラと会合していた。

 一人は、深緑のパーカーと白Tシャツ、ジーパンを着用した薄い茶色の髪の毛の少年〝シード〟。もう一人は黒と紫のチェック模様のシャツを着用して青いネクタイを結び、背中にスナイパーライフルを背負っている黒コートの黒髪青年――銃の扱いに長けた賞金稼ぎ〝メロヌス〟。

 二人はテゾーロ財団で働こうと、テゾーロに接触したのだ。

「……つまり、成程……二人はテゾーロ財団(ウチ)で働きたいわけね」

「はい」

「ああ」

 テゾーロはお茶を啜りながら二人に問う。

「じゃあ、経歴教えてもらおうか。まずはシード君から」

 テゾーロはシードにそう言いながらペンを握る。

 シードはどこか言いにくそうな表情だが、口を開いた。

「僕は元海軍中将の息子で、海軍の将官として海軍に入ってました。武術から学術まで色々と叩き込まれて、六式と覇気を習得してます」

「六式を?」

 六式。それは自らの身体能力を極限にまで鍛えることによって習得できる体技であり、名称通り六つの技で構成されている。

 指の先に力を集約させ、弾丸のような速さで相手に撃ち込む〝指銃(シガン)〟。

 全身に力を込めて肉体そのものを鉄と同等、あるいはそれ以上に硬化させる〝鉄塊(テッカイ)〟。

 敵の攻撃から生じる風圧に身を任せ、紙の如くヒラヒラと相手の攻撃を躱す〝紙絵(カミエ)〟。

 その場から消えたかのように見えるほど瞬間的に加速し移動する〝(ソル)〟。

 強靭な脚力によって空を蹴り、宙に浮き空中移動ができる〝月歩(ゲッポウ)〟。

 凄まじい速度で脚を振り抜き、蹴りと同時に扇状の「飛ぶ斬撃」を放つ〝嵐脚(ランキャク)〟。

 これら六つの技はどれも「純粋な体技」なので、覇気と併用すれば六式の技の威力・防御力を格段に向上させることも可能だ。世界政府の諜報機関であるサイファーポールや海軍の将校はこの六式(わざ)を覚えている者が多い。

「じゃあ、悪魔の実とかは?」

「悪魔の実の能力もありますよ」

「何?」

「僕は〝ホネホネの実〟の能力者……骨を生み出し、自在に操ることができます。」

 シードはそう言いながら、手を叩く。

 すると突如空中に人間の大腿骨が現れた。

(まるでクラッカーみたいだな……)

 新世界編にてルフィを大いに苦しめた、〝千手のクラッカー〟の異名を持つシャーロット・クラッカーは〝ビスビスの実〟という手を叩くことであらゆる種類のビスケットを生み出して自在に操る事ができる「ビスケット人間」であった。

 恐らくシードも、似たり寄ったりの芸当が可能なのだろう。

「僕の生み出す骨の強度はダイヤモンド並み。無尽蔵に生み出せる上、剣にも盾にもできる、攻防に長けた能力です。勿論、人間以外の骨も生み出せます」

「魚の骨を生んで出汁をとるのはできるの?」

「とったことはあります、美味しかったですよ」

「いや、そこはどうでもいいだろ!! つーかそれ才能の無駄遣いだろ!!?」

 ステラのどうでもいい質問にしっかり答えるシードに、メロヌスがツッコミを炸裂させる。

「んで、何で軍を辞めたんだい。更なる高みも目指せたろうに……」

「……ある事件で、ちょっと……」

「「ある事件?」」

 シード曰く、自分は海軍准将として〝偉大なる航路(グランドライン)〟前半の巡回任務をしていたという。

 悪魔の実・六式・覇気という大出世の三拍子が揃った期待の新人であり、実直に職務をこなす真面目さといかなることにも前向きで優しい人柄から上層部からの期待も大きかった。しかし、そんな中起こったオハラのバスターコールで、海軍に対する想いと絶対的正義に対する不信感を抱いてしまったという。

「僕はあの場にいながら、何もできなかった……学者達が完全な「悪」だと言う証拠も無いのに……ただ可能性だけで罪の無い人達の命を奪うのは我慢できないんですっ……!!」

「まァ……軍務としては正しくても、人道的に正しくないのは心に来るよなァ」

「……テゾーロさんは、今の海軍をどう思いますか?」

「さァね……おれァ海兵じゃないし、別にどうとも思ってない。だが、正義の反対は必ずしも悪とは言えないのは確かだと思うぞ? 自分の正義は、他人から見れば悪に思えることもあるだろう」

「……!」

「自分の生き方が正義にも悪にもなる……おれはそう考えるがねェ……」

 そばに置いてあった急須を手に取り、湯呑みに茶を注ぐ。

 テゾーロは海兵ではない。掲げる正義は人それぞれであり、それを肯定も否定もしない。何が良くて何が悪いというのは、案外何にでも変わってしまうのだ。

「そうですか……」

「まァ、あくまでもおれの考え(・・・・・)だ…参考にしないように」

 ズズ、と茶を啜るテゾーロ。

「さて、次は君だなメロヌス」

「ああ……」

 メロヌスはお茶を飲み干し、口を開く。

「おれはメロヌス……賞金稼ぎをやっていた。能力者じゃないが、覇気と銃火器の扱いと数学が取り柄だ」

「ちょっと待て、数学が取り柄と言ったな?」

「!」

 テゾーロは数学という言葉に反応し、歓喜しそうだった。

 その反応に、メロヌスは戸惑う。

「ちょっと待ってろ……」

 テゾーロは机の引き出しから、ある物を取り出した。

 それは、テゾーロ財団の収支報告書だ。

「この収支報告書に記載されている現時点の収入と支出の額を出してみろ」

 収支報告書を手に取ったメロヌスは、ペラペラとめくって一通り見てから数十秒程考える。

 そして、その答えを導きだした。

「収入は5兆と6200億ベリー、支出は2兆と1000億ベリーだな」

「マジかよ……」

 メロヌスの答えは正解だった。

 そう、確かに収入は5兆6200億ベリー、支出は2兆1000億ベリーであるのだ。

「すごいわ……暗算で答えを出せるなんて……」

 ステラが驚愕するのも当然……メロヌスは収入と支出の両方の総額を暗算で(・・・)導き出したのだ。

 収入も支出も、額は13桁だ。13桁の計算を暗算で、それも数十秒で導き出せるのは恐ろしいレベルである。

「どうやって導き出したの?」

「そうだな……おれの頭の中には大きなホワイトボードがあって、それを使ってるから紙と鉛筆を使わずに頭の中で思考できるって言えばいいか?」

(まるでノイマンみたいだな……)

 テゾーロは、メロヌスがノイマン博士のように思えた。

 20世紀科学史における最重要人物の一人である天才数学者のジョン・フォン・ノイマンは、コンピュータ並みの圧倒的な計算能力を誇っていたことで知られる。そんなノイマンは1ヘクタール――10000平方m――の巨大な脳内ホワイトボードを有しており、人間離れした思考を行う事ができたという話もある。

 そして目の前にいるメロヌスは、まさにそのノイマンに酷似した計算能力と思考回路の持ち主だったのだ。

(これはある意味で戦力だ……)

 テゾーロ自身、驚愕せざるを得ない。

 今まで会計についてはテゾーロとステラの二人だけで担っていた。しかしメロヌスはたった一人で二人分の仕事をこなせる可能性があるのだ。

「君、会計をやれる自信があるか?」

「数学ネタなら何でもこなせる自信はあります」

「よし、採用!」

 テゾーロはメロヌスの正規雇用を決定する。

「あ、あの、僕は……?」

「君も採用。ウチは今人材不足だから」

 シードの正規雇用も決定。

 もっとも、テゾーロは最初から正規雇用しようと考えてはいたが。

「今の流れだとメロヌスは会計士、シードは戦力に採用だ」

「戦力!?」

「いやァ、最近海賊の往来が酷くてな。一応「対策」はあった方がいいなって。君、一応元海軍准将だろ? 戦えるでしょ」

「ハァ……」

 テゾーロも暇ではない。それなりの実力者がテゾーロの代わりに戦う必要があるのだ。

 その為にも覇気を扱えるような猛者はぜひ社員として迎えたい……という魂胆だ。

「テゾーロ、二人の為の衣装も必要ね」

「そうだな、後で渡す必要がある」

「? 制服でもあるのか?」

 二人の会話に、質問するメロヌス。

 その質問に、ステラは答えた。

「そう……厳密に言えば、白のラインが入った衣装なら何でもいいの」

「「ハァ……」」

 その時、ドアを開けて白いラインが入った黒いロングコートを着た少年が現れた。

 先程テゾーロ財団に所属したばかりのハヤトだ。

「テゾーロ、報告したいことがある」

「何だ?」

「実は封筒が届いて……」

 ハヤトはテゾーロに、小さな封筒を渡す。

 その中身を確認すると、一通の手紙が入っている。テゾーロはそれを取り出すと……。

「! これは……!」

 その紙に書かれていたのは、世界政府からの令状であった。


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