ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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遅れて申し訳ありません、やっと更新です!
いやァ、レポートが中々終わんなくて…えっ、言い訳無用?
すいません!


第41話〝「橋の上にある国」テキーラウルフ〟

 1週間後。

 五老星との対談を終えたテゾーロは、早速出向して東の海(イーストブルー)のテキーラウルフに到着していた。

 テキーラウルフはどうやら冬島のように1年中冬らしいので、テゾーロやステラ達もコートに袖を通している。ちなみにテゾーロのコートは「FILM GOLD」の際のあの羽毛が付いた黒いロングコートで、ステラはフード付きの黒いロングコートである。

「……酷いな……」

 テキーラウルフは、はっきり言って職場環境が最悪だ。

 労働者は多いが、全体的に不健康そうだ。服もつなぎだけで鎖につながれ、何百人も過労や病気で倒れている。警備兵の方が温かそうなのは、こういうケースのお約束なのだろう。

(700年経っても完成しないのは、職場環境を改善してないからだな…。作業効率を考えると、やはり職場環境の改善が先か)

 職場環境等の改善は、職場の物理的レイアウトや労働時間、作業方法、組織及び人間関係などを改善する事で労働者のストレスを軽減し、メンタルヘルス不調――うつ病などの精神疾患――を予防することができる。

「この事業の責任者は?」

「はっ、私です」

 温かそうなコートと帽子を身に着けた男が、テゾーロの前に立つ。

 テキーラウルフの巨大橋建設の責任者だ。

「ここの労働者は、基本どういう生活で?」

「朝から深夜まで橋の建設です! 以上!!」

(暗殺教室の鷹岡の時間割の方がマシじゃねェか!!)

 ※鷹岡の時間割については、暗殺教室第39話をご覧ください。

(思った以上に酷いな……よくこれで反乱とか起きなかったな700年間……)

 700年もあって一度も反乱が起きなかったのはある意味すごい。

 いや…実際はあったのかもしれないが、粛清され、後々隠蔽されたという黒歴史があってもおかしくはない。しかも事業主は天竜人…世界一気高い血族と評され、世界の頂点に君臨する権力者達だ。歯向かって傷つけようものなら、命の保証はないだろう。

「これじゃあ、みんな過労で死んじゃうわ……」

 さすがのステラも、これは酷いと驚愕している。

 彼女の言う通り、この状況では過労による死者が相次げばこの先何百年経っても橋は完成しないだろう。

 これは何とかしなければならない。

「よし……今日からおれが主導して橋を造るから。以後よろしく。まずは……一時休業だ!!」

 

 

 橋の建設を一時中断してから3時間後。

 テゾーロは部下と共に仮設テントを設けシチューを配食。労働者達は涙ながらに歓喜し、テゾーロ財団の社員達が作ったシチューを頬張っている。

 空腹と過労という地獄を味わい続けた彼らにとって、テゾーロの介入は天からの恵みに等しい。それくらい厳しい環境下で生きていたのだろう。

「念の為に食糧をいっぱい積んでおいてよかった、今日のところはこれといった問題は無いようだな」

「一時はどうなるかと思ったわ……」

「まァ、餓死者も出るって聞いたときァひやりとしたね」

 労働者達と同様、シチューを食べながら会話を交わすテゾーロとステラ。

 するとテゾーロは、ここへ来てステラに告白した。

「……なァ、ステラ」

「何?」

「そろそろ……籍、入れよっか」

「!」

 目を見開くステラ。

 そう……親密な関係であるテゾーロとステラ、実はまだ入籍していなかったのだ。仕事が多忙であるため、中々切り出せないでいたのだ。

 だが驚きはそこまで……次にはわかっていたかのように、ステラはクスリと笑い声を漏らした。

 テゾーロも口角を最大限に上げて笑みを浮かべている。

「指輪も買いに行くか」

「あなたの能力で作らないの?」

「結婚指輪は買うものだろう?」

「式とかどうするの?」

「飲み会レベルで十分さ。式を挙げる程の時間があるとは言いにくくなっているからなァ…」

「なら、シャクヤクさんの所ね」

「ぼったくりの店で挙式は、中々のエンターテインメントだ」

 二人が出会って、早3年半以上。

 やっと話題となった結婚について、二人は仲睦まじい様子で語り合う。

「このギルド・テゾーロ、良妻ステラを愛してる」

「私も愛してるわ」

 二人は触れるだけの短いキスを交わす。

「今は仕事中……続きはまたいつかだ」

「ねェテゾーロ……あなた、子供も考えてる?」

「……誰に似るかは楽しみだな。あ、ゴチになりました」

 シチューを食べ終えたテゾーロは食器を片付け、早速職務に当たった。

 ビジネスは素早い切り替えが重要である。

(……まずはあいつに電話しよう)

 テゾーロは事務所から持参した電伝虫で通信し、ある人物と交渉することにした。

 その相手は……。

「やあスライス……こちらギルド・テゾーロ」

《テゾーロか! 久しぶりだな、儲かってるか?》

 新世界有数の名門一族「スタンダード家」の現当主である石油王・スライスだった。

「実は頼みがあってな…確かスライスって、石油関連の生業やってたよな?」

《……それがどうした?》

 テゾーロの頼み……それは、スライスの石油製品を購入したいという内容だった。

 テキーラウルフは冬島のような環境であり、その中での作業は酷なモノである。そこでテゾーロは石油を燃料にした暖房器具が必要と考えたのだ。

《テキーラウルフって……お前って色んな事業(こと)やんだな》

「おかげさまでね」

《……まァ、ウチは石油関連のネタは大体やってるからな……何なら暖房器具も送ってやるよ、どうせろくでもねェ職場環境なんだろ?》

「本当か!? それはありがたい、すぐにでも頼む」

《つっても、新世界からテキーラウルフへ流すんだ……何日かかるか》

 新世界とテキーラウルフの間には、あの「赤い土の大陸(レッドライン)」がある。物資を流すにはそれを越えねばならない。

 「赤い土の大陸」は雲によって頂上が見えない程標高が高く、また切り立った崖になっているため陸路で越えることは困難とされている。越えるためには、聖地マリージョアを通り抜けるか聖地マリージョアのほぼ真下に位置する「魚人島」を通り抜けるかに限られる。前者の場合はマリージョアの通行許可を得て大陸の上に引き上げ、船を乗り換える必要があるため金がかかる。後者は海中を航海しなければならないため、通常の船でそのまま航行することはできず、シャボンディ諸島で船をコーティングする必要があるが、こちらも金がかかる。例外は「赤い土の大陸」をよじ登る巨大な電伝虫を船として所有するジェルマ王国ぐらいだ。

《時間がかかってもOKなら、すぐにでも手配する》

「よろしく頼むよ、今回の事業は成功すれば莫大な利益を得られるからね……」

 そう言ってテゾーロは通話を終えようとしたが――

《そうだ。テゾーロ、少しは警戒心持った方がいいぞ》

「は?」

《裏社会の大物達が、お前を一目置き始めているようだ》

 スライスの言葉に、瞠目するテゾーロ。

 この世界の裏社会は、はっきり言って現実世界の約3000倍は危ない。戦争屋と呼ばれる軍事国家、大海の支配者達、〝西の海(ウエストブルー)〟に君臨する「西の五大ファミリー」……現実世界の極道やギャングとは比較にならない程の力を有している。そんな連中がテゾーロに注目し始めたのだ。

《おれもそういう類の(・・・・・・)情報は耳にするが……今のところ目立った動きはないらしい。だが一応気をつけとけ、連中もバカじゃねェ》

「わかった……忠告感謝する」

《暫く経ったらおれの部下がそっちへ行く…そん時に輸送費を払ってくれ》

「OK……じゃあお互い儲かろう」

《じゃあな、頑張れよ》

 スライスはテゾーロにそう忠告して通話を切った。

「――思ったよりも早く面倒事に巻き込まれる、か……。こいつァ腹ァ括っておかなきゃな……」

 自分が一端の実業家という枠を超えたということをようやく自覚したテゾーロであった。


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