ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
テゾーロがテキーラウルフの監督者になって半年が経過した。
様々なコネを駆使して職場環境改善に尽力し、その努力が報われたのか工事は思った以上にスムーズに進んでいた。
求人募集で大量の失業者や貧困者を手当たり次第に雇い、工事も作業効率アップの為に行った様々なアプローチが功を奏し、つい最近までブラック企業そのものだったのにいつの間にかホワイト企業と化している。
テゾーロはビジネスパートナー達に手を回して物資の補充を常に行っており、資材が無くなるという緊急事態は起きなくなった。
このままのペースを維持したまま工事し続ければ、10年以内に橋は完成する可能性もある。最近はウォーターセブンの海列車の工事も着実に進んでいることから、政府に認められて数多くの利権を得られるかもしれない。
そう思いながらテゾーロは能力で作り出した黄金のイスに座り、書類に目を通す。
すると――
「失礼するぜ……お前がギルド・テゾーロだな?」
「ん?」
テゾーロに近づく、一人の男。
赤い着物と袴を着用して革靴を履き、黒いマントを羽織り編み笠を被った好青年。腰には一振りの刀を差しており、雰囲気的には某有名流浪人のような「旅の剣客」といった所だ。
「おれか? いかにもそうだが……そちら様な何者で?」
「おれはジン……侍だ」
テゾーロに接触してきたジンは、被っていた編み笠を取る。
白い短髪のジンの顔にはいくつか刀傷が刻まれており、相当の修羅場を潜り抜けてきた強者であることが容易に窺えた。
「こんな辺境の地に来るとは、ずいぶん物好きな方でござんすね」
「まァな……よく他人から変わり者扱いされてる。それにおれァ雪が好きなんだ……特にこたつに入ってミカンを食うのが一番だ」
「それは
「ハハハ! そっちの方が正しいか…今何やってんだ?」
「収支報告書の確認。もう少し経ったら現場で石の加工とかに取り組む予定だよ」
二人の会話が、
アポ無しではあるが久しぶりの客人に、テゾーロは楽しんでいた。
「ところでだ、テゾーロ……おれの後ろにいる奴ァ、てめェの連れか?」
和気
その途端、キィンと金属音が響く。ジンの指摘に姿を現した男が、その身の丈程の刀を抜刀した音だ。
抜刀したのは、ハヤトだ。
突如出来上がった場の空気に、テゾーロの口からは制止の言葉が飛び出した。
「ハヤト、
テゾーロは大太刀を抜いたハヤトに声を掛ける。
しかしハヤトは警戒心を解かず、切っ先をジンに向ける。
「……一応客人なんだけど」
「……おれは何をしに来たのか言わない相手を、いきなり信用なんかしない。
ハヤトの言葉に、テゾーロは「そうっちゃそうか」と呟く。
実はここ最近、テゾーロに関するある噂が世間に広まっているのだ。それは、「テゾーロマネー」という話だ。
テゾーロマネーは、ざっくり言うとテゾーロの資産だ。テゾーロ財団が発足して以来、テゾーロは様々な事業で生み出した利益を札束と金塊に換算して所有している。その莫大な資産は今なお増え続けていて、テゾーロ本人すらその総額を把握しきれていないという。
それ程の資産ならば、金の臭いに惹かれた世界中の犯罪者が食いつくだろう。中にはテゾーロ財団に接触して盗もうと企むかもしれない。
「フッ……中々の忠犬を躾けてるようだな」
「信頼の厚い部下でござんすので」
テゾーロはイスから立ち上がると、指に嵌めたリングから火花を散らした。
それに呼応したかのようにイスは融け、あっという間にそれは梯子に変わった。
「おれァ今から作業場に行ってくるから、報告書の保管と客人のもてなしお願いね」
「テゾーロ!! いいのか!?」
「こんな所で暴れる訳にもいかないだろ、お互い」
ヒラヒラと手を振りながら、テゾーロは作業場へと向かっていった。
「へェ……中々面白い男じゃねェの」
「……客人として迎えるが、妙なマネしたら斬るからな」
「ハハハ…当たり前だ、こんな所で暴れるようなバカはしねェよ」
テゾーロ財団は、ジンを客人として迎えた。
*
「テゾーロ財団」テキーラウルフ支部事務所。
テントを無くして新たに突貫で建てた事務所に、ハヤトとジンは入る。
室内はとても快適であり、寒い思いをせずに済むような設備が施されている。厳しい冬が1年中続くような場所にいるからだろう。
「随分と金持ってるじゃねェの…さすがに世界に名を轟かす組織なだけある」
すると、奥の私室からシードが現れた。
「アレ? お客さんなの、ハヤトさん」
「ああ……ジンという侍だ」
「侍? ――ってことは、「ワノ国」の人?」
シードの言葉に、ジンは無言で頷く。
他所者を受け付けない鎖国国家である「ワノ国」は、侍という屈強な剣士達が強すぎて海軍も近寄れないとされている。ワノ国出身の者はその多くが強豪と言っても過言ではなく、新世界の猛者達とも渡り合えるのだ。
「でもワノ国って新世界でしょ?
「ああ、その点に関しちゃあ問題ねェ……旅をして生活してる身なんでな。そういやあ気になってるんだが……この組織の連中は白いラインが入った衣装ばっか着てるな」
「
笑いながらシードは言う。
テゾーロ財団は、左側に白いラインが入った衣装で統一している。制服は勿論のこと、私服やジャージ、作業着、コートも同様だ。
テゾーロ財団に配属すると、みんなこのような衣装を着るのだ。
「……それよりも、あなたはなぜ
湯吞み茶碗に急須の中のお茶を注ぎ、ジンの前に置く。
ジンは礼を述べてそれを飲む。
「……実はな、頼みがあんだよ。あんたらテゾーロ財団ならできるはずだ」
「……? 頼みとは?」
「
テゾーロの声が響いた。
全員が扉の方に視線を移すと、作業着姿のテゾーロがステラと共に立っていた。
「テゾーロから聞いたわ……ジンさん、私達でなければならない理由があるのでしょう?」
「何でわかった……?」
「おれがいるテキーラウルフまでわざわざ来た時点で、何も無いなんてこたァねェだろう。どこから来たかまでは追及しねェが、その道中に
その言葉に、ジンは呆れた笑みを浮かべた。
どうやら図星のようだ。
「そうさ……こいつは
「……」
*
新世界の豪邸。
そこでスライスは、コルトからある話を聞いていた。
「地下闘技場?」
「はい、スライス様に招待状が……」
地下闘技場。それは、〝
参加する者は、行き場を無くした者や流れてきた者、ヒューマンショップで売られた者が己の腕っぷしで生き残る場所である。
その闘技場で参加する者は、二通りあり一つは、上記のような理由で流れてきて此処で無理やり参加させられたりする者。もう一つは、自分の腕試しで来る者がいる。
その者は、噂を聞きつけてその闘技場の関係者を見つけるかあるいは、スカウトマンに声をかけられてその場所に行く。あるいは、その場所のことを聞きつけてナビゲーターを雇いそこに行くというやり方がある。
客の多くは富裕層や裏の住人に限られているが、電伝虫を使って裏に精通しているものが世界中で見られるという。
「天竜人も絡んでるいかがわしい所に行きたくはねェ…却下だ」
地下闘技場は、天竜人の娯楽でもある。
法的にはかなり問題があるため厳罰に処せられるのが普通だが、絡んでる相手が世界一の権力者なので海軍や政府上層部も迂闊に手を出せないのだ。
「お言葉ですが……問題なのは、テゾーロ氏に招待状が送られた場合ですね」
「あいつ、気に入らない連中は確実に潰すタイプだもんな絶対」
色んな大物達に出回るのだが、問題なのはテゾーロが食いついた場合だ。
天竜人相手でも問答無用で潰しに行きそうな勢いは、ある意味で恐ろしいからだ。
「首突っ込まなきゃあいいが……」
スライスは酒を飲みながらそう呟く。
しかしそんな彼の願いは、非情にもすでに手遅れであった。
ジンはYonkouさんが送ってくれたオリキャラで、地下闘技場はM Yさんがメッセージで送ってくれた設定です。
お二方、感謝してます。ありがとうございました。