ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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第46話〝宣戦布告〟

 2日後、テゾーロとサイは、聖地マリージョアに訪れていた。

 聖地マリージョアは、五老星や政府高官が籍を置く政治の中心であると同時に世界貴族「天竜人」の住居がある。

 その天竜人にお呼び出しを食らった。天竜人が奴隷でもなければ政府の人間でもない民間人を自らの居住へと迎え入れるのは前代未聞だ。

「……その天竜人が、アレか? おれがお前に命令させてた協力者なの?」

「ええ、天竜人の多くがアルベルト・フォードという名の実業家と怪しい関係らしいので」

 サイの言葉に、テゾーロは動揺する。

 ぶっちゃけ「多く」はどれ程かは不明だが、18の一族――ネフェルタリ家はマリージョア移住を拒否、ドンキホーテ一家は没落――の末裔の内の半分以上がフォードと関係があると考えれば、今までとはレベルも格も違う相手と戦うような事になる。

(相手はおれ以上の大物……油断大敵だな)

 そんなことを思っていると、巨大な邸宅が見えてきた。

 その邸宅は、聖地マリージョアの中では一際目立っていた。

「……城か? それとも教会か?」

「いえ、あくまでも邸宅です」

 その邸宅は、テゾーロが城や教会と勘違いするような印象だった。

 レンガ造りの3階建て、煙が立ち続ける煙突、急勾配の屋根…まるでイングランドの15世紀末頃から17世紀初頭までの建築様式「チューダー様式」だ。

「いかにも貴族って感じだな……」

「クズとはいえ世界()()ですから」

「お前がそれ言っていいの?」

「別に言っても法には反しませんよ」

 そう言っていると、正面玄関の扉が開いた。

 扉が開くと、一人の天竜人がテゾーロとサイを出迎えた。

 マント付きの特殊な防護服を身に纏った、ステッキを携えた40代後半の男性。天竜人の特徴的な髪型と立派な口ひげは、この世で最も気高い血族としての風格を醸し出している。

「アレ……天竜人って、こんなんだっけ?」

「いえ……天竜人の大多数は酷い容姿です」

 拍子抜けと言わんばかりにテゾーロは困惑し、政府に属する者として言ってはいけない発言をするサイ。

「大多数は酷い容姿か…ハハハ、否定はできんな」

「聞こえてるじゃねェか!!!」

 天竜人の一言を耳にし、サイを漫才のツッコミのように引っ叩くテゾーロ。

「よく来てくれた……私はクリューソス。さァ、中に入りたまえ」

「「……」」

 天竜人…クリューソス聖の様子に戸惑いつつも、テゾーロとサイは邸宅の中へと踏み込んだ。

 

 

 クリューソス聖の邸宅の応接室。

 応接室の中は中世の礼拝堂を思わせるような造りで、天竜人の圧倒的財力で集めたであろう様々なコレクションが集められていた。そんな部屋でテゾーロとサイは、クリューソス聖と会談することとなった。

「しかし…まさか天竜人が直々にお呼び出しするとは夢にも思いませんでしたよ」

「急に呼んで申し訳ない、()()()()()()()切羽詰まった状態でね」

 その言葉に、テゾーロは首を傾げた。

 世界の頂点に君臨する天竜人(けんりょくしゃ)が慌てる程の問題を抱えている。にわかに信じがたい内容だ。

「それで……私達をお呼びいただけた理由は?」

「……アルベルト・フォードを知っているだろう?」

「「!!」」

 クリューソス聖の口から出たのは、テゾーロ財団が狙っている男の名。

 テゾーロはまさかと思いつつ伺った。

「まさか、フォードを潰してほしいと……!?」

「察しがいいようだな……いかにもその通りだ」

 クリューソス聖曰く、フォードが天竜人と癒着し始めてから天竜人同士の対立が相次いだという。フォードと関係がある者と無い者による派閥争いであり、日に日に激しくなっているらしい。

 確かに、全ての天竜人が傍若無人の限りを当たり前のように行うわけではない。王下七武海ドンキホーテ・ドフラミンゴとその実弟ロシナンテの父であるドンキホーテ・ホーミングが「天竜人は神ではなく同じ人間」と考えていたように、天竜人にも違いは存在する。

「同情の余地も無いクズ同士で潰し合うのは結構ですけど、引っ掛かりますね。まるで邪魔者を排除したいというか……」

 テゾーロが気になったのは、天竜人同士である点。

 天竜人同士が対立するという事は、どちらかに明らかな〝敵〟が生まれているということだ。神のごとき権力がぶつかり合うとなれば、漁夫の利を狙う輩もいるだろう。

(確かマリージョアには存在自体が世界をひっくり返せるほどの「国宝」があるんだったな…それにもしもフォードが気づいてたら…)

 転生前に得た「ONE PIECE(このせかい)」の知識を思い出すテゾーロ。

 聖地マリージョアの内部には、存在自体が世界を揺るがす重要な「国宝」があるとされ、ドフラミンゴはそれを利用すれば世界の実権さえも握れていたと語っていた。

 もしかすると、フォードは軍事バランスの掌握だけでなく、世界の実権を握ろうと企んでいる可能性も高い。

「ますます野放しにできなくなったな…」

「わかってくれるか…あとは何となくわかるだろう?」

 テゾーロは考える。

 テゾーロ自身としては別に天竜人(クズ)同士潰し合っても誰も損は無いが、万が一「国宝」をフォードが手に入れた場合のことを考えると、放ってはおけない。

 ジンとの約束もある以上、どの道フォードとの全面衝突は避けられない。

「……わかりました。ですが相手はドがつく程の曲者……時間がかかります。それに――」

「案ずるな、私も天竜人……五老星に口利きできる程度の力はある。いざという時は私も力を貸そう」

「ありがとうございます」

 

 

 邸宅を出たテゾーロとサイ。

 マリージョアでの全ての用事が、ようやく終わった。

「……マリージョアだと、天竜人ってあのシャボンのマスクしないの?」

「自宅でも一々マスクしてたら暑苦しいでしょう? あれは外出用と聞いてますし」

 そんな雑談をしている時だった。

 葉巻を咥えた茶色スーツの男が、二人とすれ違った。

(アレは……!?)

 その男は、クザンが渡した資料に乗っていた男――アルベルト・フォードその人だ。

 真ん中分けの髪型で顔は片目に傷があるその姿は、まるで歴戦のギャングである。

「……お前がギルド・テゾーロか。話は聞いているぞ」

「!」

「私の周りをしつこく嗅ぎ回っているということは……それなりの覚悟があるのだろう?」

 フォードはどうやら、テゾーロが地下闘技場の件に首を突っ込んでいることを知っているようだ。

 それを聞いたサイは、動揺した。テゾーロのことを知るのは当然だが、なぜ彼がテゾーロが地下闘技場に介入しようとしていることまでも知っているのか。サイはサイファーポールの拠点やマリージョアで情報収集をしているが、サイもまたプロの諜報員……周囲に悟られる訳が無い。とすれば、考えられることはただ一つだ。

(サイファーポールの中に、フォードと通じている輩がいる……!?)

 フォードと通じている諜報員がいる。

 しかしサイはサイファーポールの人間でフォードに関わっている人物など知らない。諜報員たる自分でも知らない情報ともなれば……。

(「CP-0」か……!?)

 サイファーポールの最上級機関である「CP-0」は、世界貴族直属の諜報機関だ。

 クザンの情報では、天竜人とフォードは癒着している。それはつまり、テゾーロとサイの行動をCP-0が監視しているという事を意味する。

「テゾーロさん、どうやら想像以上の相手のようです……」

「だろうな……あのおっさん、相当ヤバいぞ」

 テゾーロとサイの会話に、不敵な笑みを浮かべるフォード。

「お前の経営手腕は耳にしている。中々大胆だと聞く」

「……おれがそうなら、あんたは外道な商売(しゅだん)ってことですな」

 その言葉に、フォードは癪に障ったのかテゾーロを睨みつけた。

 それに対しテゾーロは、至っていつも通りの態度でフォードを見据える。

「少しでも長く生きていたいのなら、私に喧嘩を売らん方がいいぞ……小僧」

「闇稼業を平然とやって聖地を我が物顔で歩く人に言われたくはないですなァ……クソジジイ」

 テゾーロとフォード……互いの全身から放たれる威圧に、ピシッと地面が微かに動く。

 実業家同士とは到底思えない覇気のぶつかり合いに、サイは気圧される。

「……と言いたいところですが」

「?」

「あなたを潰すとなれば、こちらとしても色んな準備がいるし時間もかかる…ここで失礼しますね」

 テゾーロはニカッと爽やかな笑みを浮かべると、サイの耳元で「帰るぞ」と囁いた。

 サイは無言で頷くと、テゾーロは口笛を吹きながら陽気に歩き始めた。

(この人は、何者なんだ……?)

 サイは改めて、テゾーロという男に疑問を抱いた。

年齢的には同世代。若者らしく大胆で突拍子の無い行動をして周囲を振り回すが、その一方で多くの事業を成功させた敏腕経営者のような老練な一面を見せる。バカ正直で筋が通った器の大きい人柄で、一見は相手の言葉を信じやすく騙されやすいかと思えば、いざ交渉となれば相手の隙を見逃さず機を窺っている。そして先程の様に相手が自分以上の格上でも怯まず、平然と罵ったり余裕を見せたりする。

 そう……経験の浅い新参者でありながら、どういう訳かプロの実業家以上の才能を発揮しているのだ。はっきり言うと、異質だ。

(ある意味で一番の謎だ……)

 サイはテゾーロが一番ミステリアスな人物だと感じた。

 しかしテゾーロの謎は一生解けないだろう。彼の「人格(なかみ)」は、〝本来(げんさく)のテゾーロ〟でないのだから。それに当の本人は……。

(アレ……今の声って若本じゃね? マジか、〝声の圧〟で勝てる気しないんだけど!?)

 フォードの声に、動揺を隠せないでいた。


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