ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
第58話〝穴倉まで〟
フォードの逮捕に成功したテゾーロは、シャボンディ諸島にある病院に入院していた。
一連の報を聞いて慌てて駆けつけたステラ達は、病室でボロボロの彼と面談中だ。
「こりゃあ暫く仕事できねェや……」
「大丈夫? テゾーロ……」
「死んでねェから大丈夫だよ」
心配そうに見つめるステラの手を握り、笑顔を見せるテゾーロ。
実を言うと彼は、フォードとの戦闘で蓄積されたダメージが祟って気絶してしまい、寝込んでからもう1週間も経っているのだ。しかも最初の三日間は一度も起きなかったので、体調が若干狂っている。
もっとも…あのような激しい戦いをしたのだから、止むを得ないだろう。ステラが心配するのも無理はない。
「お前らにも苦労をかけるなァ」
「何を今更……」
「僕らは最初から覚悟してましたから」
「苦労する人生の方が面白みもあるしな」
ハヤト、シード、メロヌスがそれぞれ口を開く。
「ハヤト……あの後、どうなったんだ」
「フォードをやっつけた後は、色々な事が一気に進んだよ」
ハヤトは、テゾーロが気絶している間のことを話し始めた。
*
作戦終了直後、テゾーロは重傷を負い倒れた。
「――よくぞまァ、こんなズタボロで生きてるモンだ」
気絶して海軍の救護舞台に応急手当をされるテゾーロを眺めるスライス。
外傷もそうだが体の内部の傷も酷く、死には至らないが適切な処置を施さねばならない状況だった。
「しっかし、お前も中々考えたな。相手の戦意を奪う心理戦だったのか? サイ」
「正体を見破られない限り、こういう手口は結構通じるんですよ」
サイは手を振って合図する。
すると、スーツ姿の者達が一斉にジャケットを脱いで帽子を投げた。
スーツ姿の者達の正体は、「赤の兄弟」だった。
「まさかこうも容易く行くとはな……」
リーダー格のオルタは、そう呟く。
「変装は諜報員の基本。基礎は抜かりなくやったので、効果抜群です」
「数の圧力ってか? 結構賢いな」
「頭が良くなきゃ、諜報員はやれませんから」
愉快そうに笑うサイに、スライスも釣られて笑う。
「さて……「赤の兄弟」の皆さん。これからどうしますか? こう見えて私はまずまずの地位にいるので、色んな部署に掛け合うことができますが。勿論、このまま誰にも縛られず自由に流離うのも一つの選択肢ですが……」
「ああ……」
サイに問われたオルタは、今後の方針について答えた。
「スタンダード・スライス。おれ達はあんたに付いていく」
「おれ!?」
まさかの指名に、驚くスライス。
「ウチの仲間の多くは元奴隷――奴隷制度を黙認してる政府に不信感を抱いてる。テゾーロには返しきれない恩があるとは思うが……」
つまり「赤の兄弟」のメンバーの多くが、テゾーロは世界政府直下の機関であるサイファーポール――厳密にはサイだけが部下であるが――と繋がっているので信用し切れないという訳だ。
「おれは仲間の意思を尊重したいんだが…」
「……まァ、おれとしても別に問題ねェからいいぞ」
*
「そうか……あいつらはスライスの元に、か」
「今頃は奴の所で逞しく生きてるさ」
意外な結末に驚きつつも、安堵するテゾーロ。
「……んで、ジンは?」
「正式に財団に配属するって。筋は通したいとさ」
ジンはテゾーロ財団に配属するということを伝えるメロヌス。
「おれが寝てる間に結構進んでるな……」
「まァ、たった1週間で色々とありましたから」
メロヌスに続き、今度はシードが口を開く。
「テゾーロさんがアルベルト・フォードの件を終えるまでの進行状況と世間で起こった出来事も報告しておきます」
シードは書類を取り出して、3つの事柄を報告した。
まずは、テキーラウルフの橋の建造について。完成はまだ遠いが、現時点で目標の約半分にまで建造が進んでおり、順調にやれば橋の完成は早くなる可能性があるという。
次に、海列車の建造について。これはトムが送った情報だが、海列車自体はほぼほぼ完成しており、今は試運転や修正作業中らしい。
最後に、シャボンディ諸島の
「確か、あるビジネスの為にシャボンディの
「……」
「今がチャンスでは?」
「ケガ治ったらな……」
テゾーロは療養に専念することにした。
「ちなみにジンは今どこだ」
「テキーラウルフで休むって言ってたので、そのまま置いていきましたが……」
(あの野郎、絶対働いてねェな……)
同時刻。
ここは、世界政府が所有する世界一の大監獄「インペルダウン」。その中でも、あまりの凶悪性の高さから存在を揉み消された超大物や伝説級の危険人物が幽閉されているフロア――LEVEL6に、海軍大将センゴクは訪れていた。
「……格子越しとはいえ、顔を合わせるのは久しぶりだなセンゴク」
「……」
センゴクの目の前に〝彼〟はいた。
「気分はどうだ? アルベルト・フォード」
「はい、快適です――何て言う訳はねェのはわかってるだろう? まァ、存外悪くないが…退屈だな」
囚人服姿で海楼石の手枷で拘束された男――フォードは不敵な笑みを浮かべる。
「おれも焼きが回ったモンだ……あんなぽっと出の若造に足をすくわれたとはな。あいつは確かに若いしケツもまだ青いだろうが、まさかおれよりも一枚上手だったとは思いもしなんだ」
冷徹な目でフォードは〝覇王色〟の覇気でセンゴクを威圧しながら見据える。
フォードの覇気で一部の囚人や看守達が泡を吹いて倒れる中、センゴクはあっさりと受け流してフォードを鋭い眼差しで見る。
「……あの若造は、お前の回し者か? 智将と呼ばれるお前ならば、あいつを刺客として送り込んでも不思議ではないが」
「――いや……我々の協力者ではあるが、今回の件はテゾーロから先に首を突っ込んだ」
「フッ……どうやらあの若造は想像以上に頭のネジが何本かイッてるようだな」
呆れた笑みを浮かべるフォード。
「どの道貴様はここで終わる。残りの余生をのんびり過ごすがいい」
「……サウロの件、聞いたぞ」
「!!」
フォードが口にした名に、センゴクは目を見開いた。
サウロ――ハグワール・D・サウロは巨人族の
「……」
「囚人の身となった私にとって、もはやどうでもいいが……さぞかしあの世で嘆いているだろう――
「貴様っ……!!」
嘲笑するフォードに、怒りを露にするセンゴクだが……。
「センゴク大将! そろそろお時間です」
「! ――もうそんな時間か……」
看守の声を聞き、ハッとするセンゴク。
面会の時間は終わりのようだ。
「センゴク……忠告するぞ」
「?」
「このアルベルト・フォードがいなくなった世界は荒れるぞ……お前らで手に負えるのか見物だな」
「……」
センゴクはフォードを一瞥すると、コートを翻してリフトへと向かった。
(ギルド・テゾーロ。今回の件は見事だ……天に座した私を穴倉まで引きずり降ろしたお前の力を認めよう。だが、お前はこの世界の〝闇の深さ〟を知らない……いずれ思い知るだろうがな)
フォードは不敵な笑みを浮かべ、肩を揺らして笑った。