ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
面白かったですね。さすがです、尾田っち!
テゾーロ財団シャボンディ諸島支部にて。
フォードとの戦いから1ヵ月経過し、傷も完治したテゾーロはようやく職務に手をつけられるようになった。
テゾーロ財団の最大の事業は、海列車とテキーラウルフだ。これを一年でも早く成し遂げ、テゾーロの野望達成に更に近づかねばならない。しかし、時には休息も必要だ。そこでテゾーロは……。
「ステラ……いい加減、籍入れよっか」
「そうね、大分仕事も落ち着いてきたようだし」
『ブーッ!!』
その一言に、飲んでいた物を盛大に――それこそ噴水のように吹き出すハヤト達。
「けけけけ、結婚するのか!?」
「何だよ、そんな驚くことか? あ、第41話でもう言っちゃってるからってお前らには言わなかったな」
「こらこらこら!! 何てこと言ってんですか!!!」
顔を真っ赤にしてテゾーロに詰め寄るハヤトとシード。
「付き合いも無しでか!?」
「普段一緒だからなァ」
「そうね……仕事でも一緒だし……」
「
「シードの言う通りだ!! それに段階というものがあるだろう!? 式も挙げないのか!?」
付き合い等を全部吹っ飛ばして結婚のステージへ上がろうとしているテゾーロに、軽い怒りさえ湧き上がってきたのか青筋を浮かべている二人。
「我々の知らないところや気づかないところで様々な進展があっただけじゃないんですか? それとも焼きもちですかな?」
ハヤトとシードを見下すかのような嘲笑の表情を浮かべるサイ。この男、冷徹な諜報員であるはずなのにテゾーロと関わって以来随分と感情豊かになっている。
しかしサイの一言は、一理ある。元々テゾーロ財団は、テゾーロとステラが興した組織だ。お互いに支え合って助け合って、脳を雑巾のように絞りながら今に至っている。それにテゾーロ財団は
「……私は知ってましたから、別に気には留めませんでしたがね」
タタラはそう言いながら、額の第三の目に目薬を一滴垂らす。三つ目族の額の目は、やはり普通の眼球のように乾くこともあるようだ。
「お前も目薬さすんだな……そりゃあお前は知ってるだろう」
「ええ、この前一緒に呑んだ時に聞きましたからね」
「まァ、そういう訳だ……お前ら、今日留守番頼まァ。これからちょっと出掛けてくるから」
「出掛ける?」
「ほらアレ、指輪買いに」
「私も行ってくるわ」
外出の準備をする二人に、銃の手入れをしていたメロヌスは声をかける。
「……せっかくの結婚指輪なんだ、ちょっとくらい奮発しても問題ねェだろ? 予算的にも」
「勿論、むしろ金は腐る程ある」
「メロヌスが気を使うところじゃないわ」
(いつの間に呼び捨てになったんだ……?)
そういう訳で、身支度を整えた二人は外出。
テゾーロとステラ――二人きりの外出は久しぶりである。その最中に二人の手は繋がれる……ことは無く、テゾーロの手はポケットの中に収まりステラはバッグを携えていた。
だがそれは二人にとっては自然体……笑い合う雰囲気は暖かく、他人から見ても親密な関係だと見て取れるだろう。
「予算は全然OKだし、良いモノ買っちゃう?」
「私は何でもいいけど……そこまで派手じゃなくてもいいと思うわ」
「じゃあシンプルに――」
ドッ!
「きゃっ!」
「ステラ!!」
ステラはすれ違った通行人に肩をぶつけ、転倒しそうになる。
すかさずテゾーロは指にはめていた黄金の指輪にゴルゴルの能力を伝導させ、細い触手のように伸ばしてステラを受け止める。
「ステラ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫よテゾーロ。すいません、ぶつかっちゃって……」
「いえいえ、こちらこそ。するるるる……」
「!」
――あの男は……!!
テゾーロは、その男に見覚えがあった。衣装こそ違えど、その独特な笑い方と身体的特徴は知っている。
(まさかこんな所で会うとはな……タナカさん)
それは、後に自分自身の部下となる男――無機物ならなんでもすり抜けることができる〝ヌケヌケの実〟の能力者である、あのタナカさんだった。
「では、私はこれにて……」
「すまねェな」
陽気に去るタナカさんに手を振るテゾーロ。
そしてテゾーロがステラに気遣いながら歩いて行ったところで、タナカさんは路地裏へと隠れる。その手には、何と財布が。
実はタナカさん、ステラとぶつかった際に彼女の財布を盗んだのだ。
「……ハァ、女性なのでイケると思いましたが……」
タナカさんはステラの財布の中身を拝見し、溜め息を吐く。どうやら期待した額ではなかったようで、「私の方がまだ持ってる」と呟く程だ。
その時だった。
「――え? アレ? 私の財布が無い!?」
タナカさんは自分の懐を探って、財布が無いことに気づく。
(まさか…あの女、いつの間に…!?)
「ひーふーみー……まァまァ入ってんな」
「はっ!!」
「指輪買ったらタタラやレイリーが通う賭場にでも行く?」
「テゾーロ、財布変えたの?」
「――って、ヤッたの
路地裏から出てきたタナカさんに、テゾーロは〝武装色〟の覇気を纏った拳を振るった。
「ステラの財布を返せやゴラァァァァァァ!!!」
ドゴンッ!!
「あ゛ーーーーっ!!!」
*
ステラの財布をスッた、頭部が胴体に比べ極端に大きい珍妙な体型をした二頭身の男――タナカさん。その頭にはキレイに大きなたんこぶが頭巾を突き破ってできている。
「タナカさんよ……相手が悪かったな、天下のテゾーロ財団を引っ張ってるおれ達から財布を盗もうなんざ100年早ェ。スリってのはやってる内にいつの間にか自分のも盗られちまうのが運命よ。さ~て、この落とし前をどうつけようかな」
「あの……もうすでに
「バーロー、世の中そんなに甘くないの。覇気を纏った拳骨一発で済ませるわけねェじゃん。世の中広いぜ? 落とし前のつけ方が理不尽なレベルに達するモンもあるしよォ」
「
クック海賊団船長として〝
「さ~て……どうするかなァ~」
「まさか、殺す気じゃあ……」
「その手段は
さすがのテゾーロも、命で償えとは要求しない。
「ねェ、テゾーロ」
「?」
「せっかくだし……この人にも指輪選び手伝ってもらわない?」
「――ハァ!?」
ステラの提案に、素っ頓狂な声を上げるテゾーロ。
「ステラ、話の流れわかってるよね? これどういう状況かわかってるよな!?」
「でも指輪は二人だけじゃ決められないと思うわ……」
(おいィィィィ!! とんでもない事実発覚しちゃったよ!! 思った以上にズレてるよ!!)
どうやらステラ、大人の雰囲気があるが言動にズレが生じやすいようだ。もっとも、テゾーロ自身はズレてるどころか論理が吹っ飛んだような会話をしている風なところも見られるが。
するとそれに乗っかってか、タナカさんも口を開いた。
「そ、そうです! こう見えても私、宝石類や指輪類の目利きも得意でして!! いやァ奇遇ですな――」
「……」
(ヤバイ!! 哀れな人を見る目だっ!!)
テゾーロの何とも言えない目に、若干震えるタナカさん。恐らく、嘘をついていることも見破っているだろう。
「……だがステラ――」
「暴力だけじゃダメよ、もっと別の解決方法が必要よ。テゾーロ、それはあなたが一番わかってるはず…」
「……そこまで言うなら君の言葉に従うよ」
(折れた!!)
ステラの提案をあっさり呑んだテゾーロ。どう考えても態度は先程まで強硬的なイメージだったのに、すっかり穏健派路線である。
「まァ……その後はおれが決めるけど」
(やっぱり安心できない!!)
あくまでもステラの提案を受け入れただけで、テゾーロは落とし前をつけるのを諦めてはいない…ようやくそれを理解し、人生初の絶望的状況に顔には出さずとも心の中では泣きじゃくるタナカさんであった。
その後、テゾーロとステラは己の名が刻まれただけのシンプルな銀の指輪を買い、互いにとても嬉しそうな表情を浮かべた。
ただしタナカさんの金で買ったので、たった一日で懐が冷え込んでしまったことをタナカさんは陰で嘆いていた。
やっとタナカさん出せたよ、やったぜ!
皆さん、大変長くお待たせしました。
一応ダイス→バカラ→カリーナの順に部下兼テゾーロ財団職員にする予定です。