ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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やっと更新です。
6月最初の投稿です。


第62話〝試運転〟

 3日後。

 ウォーターセブンへと着いたテゾーロ達は、トム達の元を訪ねていた。

 このウォーターセブンではテゾーロ財団の支援もあり、肩身の狭かったトムズワーカーズにも多くの造船技師が協力して海列車の建造をしている。そして今から3日前、海列車のプロトタイプが完成したというのだ。

「海列車、完成するの思ったより早かったですね」

「あくまでもデモンストレーション用だ、まだ完成したとは言えないぞ」

「いずれにしろ、このウォーターセブンの希望の光となる存在は一刻も早く完成させる必要があるな」

 廃船島を訪れるテゾーロ・シード・ハヤトの3人は、素っ気ない会話を交わす。

 すると――

 

 ポーーーーーッ!!!

 

『!!』

 廃船島の方から大きな汽笛が響き渡った。

 音のした方に顔を向けると、そこでは海上に浮いたレールの上に置かれた機関車が煙突から煙を吐いて動き始めようとしていた。

「あれが海列車……!」

「海に浮かぶレールの上を走る外車船(パドルシップ)……さすがトムさんだな」

 外車船(パドルシップ)の技術は、大海賊時代開幕以前から存在していた。しかしそれを交通機関として成り立たせることは誰も構想したことが無く、更に軌道に乗せて走らせるなど前代未聞だ。

 しかしトムならばそれを成し遂げられるだろう。何せ彼は伝説の海賊船オーロ・ジャクソン号を建造した男――海列車建造の偉業は今後、世界政府にとって有益なものになるはずである。もっとも、テゾーロ本人はその未来を知っているため(・・・・・・・・・・・・)何の心配もしていないが。

「そんじゃあ、現状報告とでも――」

 その時だった。

 

 ドドォン!!

 

「あっ!!」

「!!」

 轟音と共に、海列車は脱線した。

「……いくぞ」

「え!? あ、はい……」

「……」

 

 

 転覆した海列車を引き上げ点検・修理を始める船大工達と頭を抱えるトムの元に、ようやくテゾーロ達は到着。

「トムさん、事故っちゃいましたね」

「おお、やっと来たか」

 テゾーロの来訪に笑みを浮かべるトム。その顔は汗だくであり、海列車建造の過酷さを物語っている。協力している船大工の何名かもバテており、普通に船を造った方が楽なくらいの重労働であることも窺える。

「一応遠くで観てましたけど、どうなんで?」

「設計図は間違っとらんはずじゃが……」

「――となると、修正するしかないですね。一寸の差も許されない微調整の連続でしょう」

 テゾーロはそう言いながら、回収された海列車の車体を見る。脱線による衝撃で車体は多少傷んでいるが、原形はしっかり留めている上に内部損傷も見当たらないので海列車の動力部は問題無いようだ。

「設計図は間違ってなくとも脱線するってことは……波の影響もあるでしょうが、車輪やレールにも問題があるかもしれない」

「……! 成程…」

「おれはこう分析したが……ハヤト、お前はどう思うよ」

「一度くらい陸で試せばいいんじゃないか? 何かしらのヒントくらいは得られるだろ」

 ハヤト曰く、海列車とそのレールは波や海流で常に何かしらの強い影響を受けるので、一度何の影響も無い陸地で走らせてレールや車輪などに欠陥が無いか試すべきとのこと。本来なら〝凪の帯(カームベルト)〟のような無風海域でレールを敷くのが理想だが、〝偉大なる航路(グランドライン)〟はそこまで甘くない。

「そうじゃな……そういうこった、すぐに準備するぞ!」

 トムの気合の入った一声に、船大工達は一斉に動き出す。

「さて…おれ達も手伝いますか」

「お、おれもか!?」

「ったりめェーだろ。お~い、アイスバーグ君。木槌の使い方教えてくんない?」

(そこから!?)

 

 

 廃船島に響く、木槌の音。

 そこでは、ウォーターセブンの船大工達と着替えてジャージ姿になったテゾーロ達が作業を取り組んでいる。

 裁判における海列車の建造にかけられた猶予期間は、10年。ある者はウォーターセブンの為に、ある者はトムの名誉の為に、ある者は今後の事業と野望の為に……それぞれの矜持が交錯する中で作業は進む。

 そんな中、一人の海兵がトムとテゾーロ達の元へ訪れた。

「船大工のトムだな?」

「? 海軍……?」

 海兵の正体は、サカズキだった。

 その姿を見たテゾーロは意外そうな顔で口を開いた。

「これは珍しいお客さんだこと……マダオさんが何しに来たの? 恫喝?」

「わしァ海兵じゃ。ヤクザ(モン)じゃないわい」

「その言葉、自分の見た目変えてから言った方がいいよ。ただでさえ海軍はヤクザみたいな面構えの皆さんなんだから」

 出会って早々サカズキを煽るテゾーロ。

 そんなサカズキ曰く、海賊王の船を造った男がまた危険な船を建造してしまわないように監視することを目的に訪れたという。恐らく、根拠としてはその造船技術で間接的にロジャー海賊団の偉大なる航路(グランドライン)制覇に貢献したがゆえだろう。

「未来の大将候補がこんな所で油売るなんて、海軍本部中将って思ったよりも暇人なんだねェ~」

「黙っときんさいや、若造がァ! クザンと一緒にするな!!」

 煽りに煽りまくるテゾーロに、さすがのサカズキも頭にきたのかついに怒鳴る。しかしテゾーロは彼と違って楽しんでいる様子だ。

「一々突っかかってくんなよ……」

「トムさんは立場が立場だ、我慢しろフランキー」

 不快な表情を浮かべるフランキーを諫めるアイスバーグ。

「サ、サカズキ中将……」

 そんな中、サカズキの名を口にし顔を引きつらせるシード。

 その声が届いたのか、サカズキはシードの顔を見て顔色を変える。

「……シードか?」

「……テゾーロさん、すいません……僕はここで……」

「! おい――」

 テゾーロは声をかけようとするが、それよりも早く逃げるように帰っていくシード。そんな彼の姿を見て、一同はテゾーロに視線を向ける。

「……訳ありか? テゾーロ」

 トムの問いに、テゾーロは一言も答えない。その意味を察したトムは眉間にしわを寄せる。

「あの子との溝はまだまだ深いようで」

「――あいつは海軍(わしら)の掲げる絶対的正義に染まり切っちょらんかった……腕っ節だけは一丁前の腑抜けじゃけェ」

「そういうこじ付け(・・・・)をするから、若い衆が中々来なくて海軍の高齢化社会が進むんじゃない? 皆違って皆良いってよく言うじゃんか。所詮はガキってあんたは思うだろうけどさ……シードはシードなりに頑張ったんだろ?」

 テゾーロはレールを枕木に固定する地味な作業をしながら、サカズキと会話を続ける。

「あんたら過激派っつーか左派っつーか……とにかく強硬的な姿勢ってのは融通が利かなくていけねェ。その内とんでもないボロを出すぜ?」

「……」

「……まァ、民間人の戯言として聞き流しといてもいいけどさ。そうそう、上層部(うえ)の報告には順調って伝えといてね」

 大きな欠伸をしながらテゾーロは作業を続ける。

「……全く、とんだ食わせ(モン)じゃわい」

 

 

           *

 

 

 同時刻、聖地マリージョア。

 マリージョアに置かれた世界政府の諜報機関・サイファーポールの本部では、サイが政府高官と面談をしていた。

「そうか、海列車も完成が近づきつつあるか……」

「テキーラウルフの橋の建設もジャヤの開拓も順調です。今はまた忙しくなったようですが、時間を見つけ次第マリージョアへ案内しようかなと」

「そうだな、ここまで働いたのだから報酬のほの字くらい与えんとな」

 政府高官曰く、これまでのテゾーロの功績を称えて彼自身が望むものを何でも叶えるとのこと。フォードの逮捕をはじめ、ジャヤの治安回復やテキーラウルフでの活躍も加味し、それ相応の報酬を与える気らしい。

「この件については五老星やコングとも掛け合って決める。お前はこの事をテゾーロに伝えろ」

「了解しました」

「それとテゾーロ財団の件は今年の〝世界会議《レヴェリー》〟の議題にも挙げる。奴の世界への貢献は確かなものだからな」

「はい。では、私はこれで……」

「うむ、ご苦労」

 サイは一礼し、部屋を後にする。

(今、世界はあなたを軸に大きく動いているかもしれませんよ……テゾーロさん)

 サイは帽子を深く被り、微笑んだ。


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