ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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7月最初の投稿です。


第66話〝身長か〟

 アオハルが正式にテゾーロ財団に配属してから、早2週間。

 シャボンディ諸島に置かれたテゾーロ財団の事務所ではハヤト・ジン・タタラがテゾーロに直接呼び出されていた。

「さて、こうしてお前ら三人を集めたのは他でもない」

 どこか不機嫌そうなテゾーロに、首を傾げる。

 テゾーロの機嫌を損ねるようなマネをした憶えがないので、三人は顔を見合わせる。

「おれら……なんかやらかした?」

「いや……特には……」

「――何か言いたいことでもおありですか?」

「ああ、一つだけな」

 テゾーロは〝覇王色〟の覇気を放ちながら、イスから立ち上がった。

「メロヌスは会計士として、シードとタナカは事務として働いているわけだが……お前ら、戦闘と監督以外に何かやれよ(・・・・・)!!」

 バンッと机を叩いて青筋を浮かべるテゾーロ。怒るテゾーロを前に怒られた面々――ハヤトらは一斉に目を逸らす。事の発端は、テゾーロが財団の中に医者がいないということに気づいた際だった。

 テゾーロはある日、ペンを片手に今後の財団の計画を練っていた際に幹部格でありながら暇人が何人か混じっているのを知った。テゾーロ財団は幹部格だと力仕事だけではなく事業の監督や事務方、財務関連の仕事、連携機関・ビジネスパートナーとの連絡や交渉などを行っているのだが、どういうわけか仕事が少ない輩が出てきたのだ。それがハヤト・ジン・タタラである。

 メロヌスは計算能力とIQの高さを買われて、その能力を最も発揮できる会計士としてテゾーロ財団の財政面を支えている。シードは元々海軍の人間であり各種書類の処理を嫌という程に経験しているため、事務方で要領のいいタナカさんと共に活躍中だ。テゾーロ自身も海軍の上層部やビジネスパートナーと交渉をしたり、五老星やクリューソス聖と謁見して裏から手を回すなど立場やコネを使って事業を進めている。

 しかし、ハヤト・ジン・タタラの三人は事業の監督以外にこれといった仕事をしていない。彼らもまた財団にとって貴重な人材――与えられた仕事だけでなく、自分から動いて少しでも早く事業を進めてほしいのが彼の本音だ。

 要するにテゾーロは「せっかく入社したし時間もあるんだから、仕事に活かすためにも時間を見つけて多才(マルチ)になれよ」ということを言いたいのだ。

「いいか…お前らも一応幹部格だ。腕っ節だけじゃなくてもっと別の能力を伸ばせ、何でもいいから!!」

「くっ……ブラック企業が……」

「それはてめェらが手ェ抜いてるからだ!」

 その時、ドアを開けてシードが入ってきた。

「シードか、どうした?」

「テゾーロさん、大事なお話が……」

 その言葉に、目を細めるテゾーロ。

 するとシードは、こんなことを口にした。

 

「実は――酪農をしたいんです!!」

 

『――ハァァ!?』

 あまりにも斜め上を行った元海兵(シード)の申し出。

 ハヤト達は顔を引きつらせて若干引いているが、テゾーロは意外そうな顔をするだけで動揺を見せない。

「理由は?」

「実は、僕には生涯最大の宿敵との因縁があるんです……」

 シードは悔しそうな顔で拳を握り締める。余程複雑な事情のようであり、ハヤト達は眉間にしわを寄せるが……。

 

「……ああ、身長か」

 

『ハァ!?』

 テゾーロの一言で、三人は呆然とする。

 何と、生涯最大の宿敵の正体はただのコンプレックスだったのだ。

「海兵として、テゾーロさんの部下として、僕は色んな経験をして多くの修羅場をくぐり抜けてきた。それでもなお身長の壁は……コンプレックスの壁は大きい! こんな社会的ハンデを抱いて十数年……背の小ささを克服するために、僕は牛乳を一杯飲みたいんです!!」

(話の論点、そこか!?)

 シードの主張は、どう考えても我欲に満ちている。

 確かにシードは、財団の中では背は小さい方であるのは事実だ。だがそれは周囲が2mを平然と超えるデカさを有しているだけであって、シード自身が小さすぎるという訳ではない。しかし海軍もまた巨人族でもないのに3mを超える身長の人物もいるのも事実だ。

 要は海軍時代から引きずってきたコンプレックスとの因縁に終止符を打ちたいのだ。

(ハァ――ついにテゾーロ財団も酪農に手を……)

 顔や態度では示していないが、テゾーロは内心呆れていた。

 そもそも牛乳などに多く含まれるカルシウムには「身長を伸ばす」効果は無い。背を伸ばすには成長ホルモンを活発に分泌する行動が必要なのだ、カルシウムを大量に摂取するのではあまり意味を成さない。

 内容的には明らかに個人の問題なので却下しようと考えたその時、あるアイデアを思いついてポンッと手を叩いた。

「だとしたら農業の知識も必要だな。ちょっと知り合いのコネでその辺掛け合ってみるわ」

「本当ですか!?」

「待て待て待て!! いいのか、それで!?」

 あっさり了承したテゾーロに詰め寄るハヤト。

 どう考えても自分のコンプレックスをどうにかしたいだけのシードに、なぜそこまで手を回すのか疑問なのだ。

「酪農だろう? 品種改良しまくって市場取引すればいいんだから、成功すること前提で考えれば案外美味しい話じゃねェか? 土地はジャヤの森を伐採して確保すりゃあいいし。食糧難問題も少しはどうにかなるだろ」

 つまりテゾーロは、表の市場で大きな利益を得られるだけでなく国際的な問題の解決に一役買うことができる新規事業として始める気なのだ。

(いや……待てよ? 確かに一理あるぞ……)

 ハヤトはふと、この世界における食糧難問題を思い出した。

 〝偉大なる航路(グランドライン)〟だけの話ではないが、世界各国――特に世界政府非加盟国の食糧難問題はかなり深刻である。世界各国の一般市民が、世界貴族・天竜人への貢ぎ金「天上金」を搾取されているからである。具体的な金額は不明だが、それはもう莫大な額であり、そのせいで一国が飢餓で滅んだ事例もいくつかある。

 テゾーロは予てより天上金に関する問題を解決しようという姿勢であった。それを解決するプロセスの一環として考えると、ふざけているように思えるが真面目に考えると結構大事なのである。

 ハヤトも大分染まってきたようだ。

「……一理あるって思ったろ」

「まァ……解釈次第、か?」

 すると今度は、ドアを開けてサイが入室した。

「テゾーロさん、政府からの書状です」

「! ついに来たか……」

「ええ、許可が下りました」

 テゾーロの口角が上がっていく。

 不審に思ったジンは、サイに問う。

「何の話しだ?」

「シャボンディ諸島の人間屋(ヒューマンショップ)を潰す話です。胴元のフォードが逮捕された以上、あそこは不要ですから」

 シャボンディ諸島の闇ともいえる人身売買は、聖地マリージョアに近いゆえに天竜人が買いに来ることも多いため、世界的に禁止されながらも潰すことができなかった。元締めであったアルベルト・フォードがバックにいたからである。

 しかし彼が逮捕されてからは誰にも守られなくなったので、世界政府はシメシをつけるためにもこうして大胆に打って出たのだ。

(しかし、随分と大胆だな。天竜人の文句を跳ね除けたか?)

 天竜人が奴隷を買えなくなるとなれば、必ずや抗議の声を上げるだろう。その矛先は最高権力者たる五老星に向けられ、彼らの頭を悩ませていたはずだ。もしも五老星が天竜人の抗議を一蹴したとすれば素晴らしいものだが……。

 

(まさか……五老星よりも上(・・・・・・・)からの命令、か?)

 

 テゾーロの頭をよぎる、一つの可能性。

 天竜人をも黙らせる程の――五老星をも超える権力者の命令ならば、事がすんなり運んでも違和感は無いが……。

(しかし、そんな話は……いや、今はどうでもいいか)

 何やともあれ、政府から公式の書状を貰った以上、世界政府の権限の下にシャボンディ諸島の人間屋(ヒューマンショップ)を潰すことができるのは良いことだ。

「よし……すぐに支度をしろ。シャボンディ諸島1番GR(グローブ)へ向かうぞ!!」

 

 

 

 一時間後。

 シャボンディ諸島1番GRでは、テゾーロ達が人間屋(ヒューマンショップ)の経営者側と対峙していた。

「な、何だ貴様ら!?」

「我々テゾーロ財団は、この悪しき人身売買の拠点を潰しに来た。それ以外に理由など無いさ」

「だ、誰の許可を得て……!!」

「そうだ、おれ達のバックに誰がいると……!!」

 経営者側は往生際が悪く、抗議するがハヤトの一言で全てが変わった。

「ウチのバックは世界政府だ。人身売買は国際的に禁止されてんだから潰していいに決まってる……脅しても無駄だ、あんたらのバックにいた大物はすでにインペルダウンに幽閉されたからな」

 ハヤトがそう言うと、テゾーロ達がゲスイ笑みを浮かべはじめる。

 そしてテゾーロはゴルゴルの能力で黄金の指輪を融かし、フォードとの戦いで使用したあの巨大な番傘を作りだした。

「――っつーわけで、諸君!! 打ち壊し開始だ!!」

 テゾーロの号令と共に、社員達が一斉に人間屋(ヒューマンショップ)に雪崩れ込む。

 シャボンディ諸島に根付く闇――人身売買を撲滅するために忌々しい会場を更地にするのだ。すでに元締めは捕まっているので誰も守ってくれない丸裸の状態だ、バックに大きな力が無いので経営者側は何もできない。

「経営者側に同情はしないけど……まるでウチは圧力団体だな。あ、ライター切れてたんだ……」

 煙草を咥えるも、ライターが切れていることを思い出して溜め息を吐くアオハル。

 するとそこにメロヌスが近づき、拳銃を向けた。

「!」

 突然銃口を向けられて反射的に愛刀の柄に手を伸ばすアオハルだが、メロヌスは躊躇せず引き金を引いた。

 しかし引き金を引くと、銃口からは銃弾ではなく火が出た。そう、メロヌスが手に持っていたのは拳銃型のライターなのだ。

「――……火ィ、欲しいんだろ?」

「あ、どうも……」

 煙草に火をつけ、互いに一服するメロヌスとアオハル。

 テゾーロ達が大暴れして手作業で人間屋(ヒューマンショップ)を更地にする光景を見ながら、二人は煙を吐く。

「少しは慣れたか」

「ええ……まァ色々驚かされます」

 木材がへし折れる音や石が砕ける音が響く中、()(えん)(くゆ)らせる。

「ウチは色んな変じ……人間が揃ってる、お前とも気が合う奴がいるだろう」

「今変人って言いかけたよね? じまではっきりと聞こえたんだけど」

「揚げ足取るな。――まァ、ウチん中で何か困ったことあったら相談しな。こう見えて世話係も得意なんだ」

 その時、ふと羽音が聞こえてきた。

 それと共にどこからか手紙を持ったコウモリが現れ、二人の前に降り立ったのだ。

「これは……伝書バット?」

 伝書鳩のように手紙を運ぶコウモリ――伝書バットは、主に世界政府が連絡手段として使用しているコウモリだ。伝書バットが来たことは、世界政府側からの要請が来たという意味でもあるのだ。

 メロヌスは伝書バットが運んできた書簡を受け取り、中身を確認する。

「……これは、デカイ依頼だ」

 その書簡は、何と海軍大将センゴクの直筆の「とある依頼」だった。




原作がやっとワノ国に突入しましたね。
尾田っちとしても一番描きたかったところらしいので、楽しみですね。

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