ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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ここでまさかのフレバンス編です!


第68話〝財団史上最も過酷な事業〟

 それは、突然の出来事だった。

「テゾーロ、これって……」

「――ああ、ステラ……とびっきりのデケェ仕事だ」

 この日、テゾーロ財団は騒然とした。

 何とテゾーロの元に「CP-0」がアポなしで尋ねてきたのだ。世界貴族直属の組織の登場にさすがのテゾーロも動揺し、急遽仕事を切り上げて彼らとの「密談」をすることになった。

 その密談の中で、ちょうどテゾーロはある令状を受け取って確認しているところだ。

「――どうしてもテゾーロ財団(おれたち)にこれをやれと? 政府が動けばいいんじゃないか?」

「同感だ、いくら何でも無責任すぎるだろ。何でおれ達が尻拭いしなきゃなんねェんだ――」

「口を慎め。これは世界貴族〝天竜人〟の命令だ、逆らうことは許されん」

 ジンとメロヌスはCP-0に対して苦言を呈するが、「天竜人の命令だ」と一蹴されてしまう。

 そのやり取りを見たテゾーロは、顎に手を当て考える。

(……ってことは、天竜人に直接関係するってか?)

 CP-0の任務内容は、闇の交易・興行によって絞り出される金や武器の管理や天上金輸送の護衛など、天竜人の繁栄を維持するための活動だ。時に五老星や海軍ですら把握できない越権行為を行うが、今回はどちらかと言うと「政府として関わるのは難しい」といったところだろう。

 さて、今回CP-0がわざわざテゾーロに令状を渡したのだが、その内容はある王国を援助せよという趣旨であった。

「あの……フレバンスって何ですか?」

「〝北の海(ノースブルー)〟に栄える王国だ、()()()()()()。珀鉛という鉱物資源で成長した国……「白い町」と言えばわかるであろう」

「ふ、夫人だなんて…!」

 顔を赤く染めるステラをよそに、CP-0の諜報員は口を開く。

 珀鉛産業で巨万の富を生んだフレバンス王国は、その収益の一部を天上金として世界政府に納めていた。天上金は莫大な額を世界貴族に献上するものだが、フレバンス王国はたとえどんなに高額な天上金を納めても尽きることの無い鉱物資源(はくえん)のおかげで常に裕福でいられた。

 しかし、その珀鉛産業で栄えるフレバンス王国に異変が起こったという。それは、突如としてフレバンス王国の国民達が次々と正体不明の病に倒れ始める――いわば感染爆発(パンデミック)のような事件が起こったのだ。その症状は肌や髪が白くなり、やがては全身の痛みが発生するというもの。すでに何人か死者も出ているという。

「政府はこれを不治の感染症であると判断し、フレバンスへと続く交通手段を閉鎖すべく動いている――」

「いやいや違うって、鉛中毒だろそれ」

「中毒……?」

 感染症とは、ウイルスや細菌などの病原体が体内に侵入・増殖して発熱や下痢、咳などの症状が出ることだ。感染してもほとんど症状が出ずに終わってしまうものもあれば、一度症状が出ると中々治りにくく時には死に至るような感染症もある。

 感染症は人から人にうつる伝染性の感染症と、動物や昆虫あるいは傷口から感染する非伝染性の感染症がある。当然それらに対する対策はあり、予防接種を受けたり免疫力を高めたりなどして人々は感染しないようにしている。

 しかしフレバンス王国で起こった感染爆発(パンデミック)は、感染症ではなく鉛中毒ではないかとテゾーロは提言したのだ。

「テゾーロさんの言う通りです。感染症なら人間の免疫力と病原体が戦って熱を出すはずです」

「シーちゃんが言いたいのは、要は感染症ってのは初期症状が風邪に酷似してるってこと。でもそれが出ないってことは……別の原因があるってこと――でしょ?」

「シ、シーちゃん……」

 シードとアオハルはテゾーロに続いて口を開く。

 そう、感染症の最大の特徴は初期症状が風邪に似ているということだ。それがゆえに最初は風邪だろうと思い込み、放っておいて暫く経ってからただの風邪じゃないと気づくのがお約束だ。だが今回フレバンス王国で発生した不治の感染症は、それらが見当たらないようなのだ。

 そうとなれば、考えられるのは別の原因であると結論づけるのは当然だろう。

「――とりあえずその案件は我々で預かりますが、フレバンス周辺の国々に「フレバンス王国で流行している病は、感染症ではない」と伝えておいてください」

「……わかった、良い結果を期待する」

 

 

           *

 

 

「――というわけで、〝フレバンス支援事業〟についての会議を行うぞ」

 夕方、テゾーロは社員達を集めて会議を始めた。

「まず言っておくが……財団はビジネスだけが仕事じゃねェ。慈善活動も立派な仕事だ。慈善活動は政府が主体になって行う気はねェだろうがな。それでいて、今回の事業は今までの事業とは違った危険を伴う上に結果がどうなるかもわからん。過酷な仕事となるだろう…ゆえに辞退を願う者は今すぐに名乗り出ろ、恥じることじゃない」

「……それくらいの危ない内容なんですね……」

「ああ、当然おれも最善を尽くすが……それでも心配だったり嫌だったりする者は辞退しろ。今ならまだ間に合う」

 今回の案件は、珀鉛の毒に苦しむフレバンス王国に関わる。言い方を変えれば公害に悩む国を支援するのだ。

 その公害は感染性は無いが、何かしらの形で珀鉛を摂取してしまうと発症してしまう危険性もある。社員の安全を確保するためにも、テゾーロはこうして忠告したのだ。

 それに対し、社員達は…。

「我々はテゾーロさんによって救われた。あなたには返しきれない恩がある」

「この財団で世界の為に働けるのならば本望です」

「おれ達はあんたについていくと決めてるんだ。今回は想像以上に過酷だろうが、おれ達は怖気づいて辞退なんざしないぜ」

「お前ら……恩に着る……!」

 社員達の心意気に、思わず感動してしまうテゾーロ。

 テゾーロは深々と頭を下げ、社員達に感謝した。

「では改めて…〝フレバンス支援事業〟についての会議を始めよう」

 テゾーロは〝フレバンス支援事業〟について説明した。

 今回の事業は、珀鉛の中毒による公害に苦しむフレバンス王国へ向かって国民の治療を行うというものだ。テゾーロの計画では、フレバンスの医者達と連携を図り珀鉛の中毒症状をやわらげて治療法を確立させる予定だという。

 テゾーロの説明を聞き、メロヌスは口を開いた。

「事業についてはわかったが、ウチには医者はいないぞ。そこはどうするつもりだ?」

 メロヌスの意見は、ごもっともだった。

 テゾーロ財団は、実を言うと専門医が配属されていない。これはシャボンディ諸島の病院やマリンフォードに置かれた医療塔と密接な関係を築いているため、財団の人間が倒れた際に診てもらうことができるのだ。

 しかしそれらの医療機関はあくまで財団と()()()()()()()()()()であって、さすがに財団の事業や活動の為に動くことはないのだ。

「そこよ、それについてアオハルが説明してくれんだ」

 テゾーロがそう言うと、アオハルが煙草を咥えながら前に出て書類を見せた。

 その書類は、世界中で活躍している医者達の名前が記されていてそのほとんどが二重線を引かれている。

「さっき調べたんだけどさ……おれの情報網だと、珀鉛の中毒症状を和らげることができる可能性がある医者が何人かヒットするよ」

「本当か!?」

「情報屋は伊達じゃないって訳ですか」

 アオハルの情報収集力の高さに感心するメロヌスとサイ。

 そんな彼曰く、双子岬の灯台守・クロッカスとドラム王国の医師ならば可能性はあるという。双子岬の灯台守であるクロッカスは、海賊王ロジャーが率いていたロジャー海賊団で船医を務めていた人物である。医者としての医術の腕は非常に優れており、不治の病にかかったロジャーの苦しみを和らげることができた程だ。そしてドラム王国の医師は、偉大なる航路(グランドライン)一とされる医療技術を持っている。世界に名だたる医療大国であるドラム王国ならば、珀鉛の中毒症状を和らげ、あわよくば治療法を確立させることも可能だろう。

「鉛中毒の一種であるなら、治療法は案外簡単かもな」

「ああ……体内の珀鉛を取り除けばいいんだ。蓄積された珀鉛を体外へ排出すれば、少なからず中毒死は免れるはずだ」

 中毒とは、端的に言えば毒性を持つ物質が許容量を超えて体内に取り込まれることによって機能障害を起こすことだ。その中毒の原因となる物質を体内から排除すれば、自然と治るだろう。

(とはいえ、あの〝珀鉛病〟が()()()()()()()完治できるかどうか……)

 珀鉛による中毒症状――珀鉛病の真の恐ろしさは、発症した者に子供ができるとその子供の寿命が短くなっているという、次世代への悪影響にある。

 原作において、ローはオペオペの実の能力で体内から珀鉛を取り除いたようだった。だがそれは「究極の悪魔の実」と呼ばれる()()()()()()()()()()()できたようなものであり、純粋な治療法で珀鉛病の完治は困難を極めるだろう。

 しかしここでフレバンス王国に救いの手を差し伸べないと、今後の悲劇は避けられない上にテゾーロとしても財団としても面目丸潰れだ。一度受けた依頼は達成せねばならない。

(じゃあ、いっちょやるか)

 テゾーロは首の骨をゴキゴキと鳴らしながら指示を与えた。

「サイ、お前は政府の機関で珀鉛に関する全ての情報を手に入れろ。少なからず報告書として保管はしてあるはずだ。アオハルは情報収集を続行、世界中の腕のいい医者の情報をありったけ集めろ――特に毒性学に詳しい医者を中心にな」

「……ギル兄はどうすんの?」

「そうだな、おれァ裏で手ェ回してドラム王国に掛け合ってみる。他の者は時間があればアオハルに協力するこった」

 テゾーロの指示を受け、部下達は動き出す。

「ギ、ギル兄って……お前……」

「何? 文句あんの?」

 呆れた声を上げるジンに対して〝覇王色〟の覇気で威嚇するアオハル。

 そんなアオハルを諫めるように、テゾーロもまた覇気を放った。

「アオハル、仕事だ……早く執りかかるぞ」

「……わかった」

 どこか不満げな表情ではあるが、アオハルは威嚇を止めた。

「さて、まずは……」

「飯ができたぞ」

 ハヤトの声に、一同は振り向く。仕事の前に、どうやら食事を摂ることになったようだ。

 テゾーロは社員達の様子を察し、仕事は一旦後にすることにした。

「お前ら、飯にするぞ~」

「今日はハヤトが作ったんだ」

「何だよステラさんじゃねェのかよ……大した味期待できねェな」

「叩っ斬るぞジン!!」

 

 こうしてテゾーロ財団は、後にテゾーロ自身が「財団史上最も過酷な事業」と言わしめる程の一大事業〝フレバンス支援事業〟に取り組み始めるのだった。




一応原作との相違点を示します。
・フレバンスが珀鉛産業の収益の一部を天上金として世界政府に納めている(多分原作のフレバンスもそうなっていると思います)
・フレバンスは政府加盟国(加盟国だと思いますが、描写がほぼ無かったので)

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