ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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満を持してあのババ…じゃなくて老医者が登場します。


第71話〝聞くのは後にします〟

 フレバンスでの滞在をはじめ、一週間が経過した。

 珀鉛病の治療と予防策の為にテゾーロ財団は様々な動きを展開していた。

「メロヌスさん! 珀鉛病研究に大きな進展が!!」

「何?」

 テゾーロに頼んで毒性学の本を貰ったメロヌスは、財団の仮設事務所でそれを読みながら部下からの報告を聞いた。

 珀鉛病の治療法を寝る間も惜しんで研究していた医師達が、治療法の確立につながると思われる発見をしたようだ。

「何でも、患者の血液や排泄物に珀鉛がかなりの濃度で混ざっているとか……」

「――ってことは、これで珀鉛病は鉛中毒の一種であることが確定したな」

 鉛中毒の患者は、尿や血液の中の鉛含有量が健康体の人のそれよりも多くなる。鉛中毒を治すためには鉛含有量を下げること、すなわち鉛の摂取を中止するのが効果的だ。そうすると半年程で尿や血液の中の鉛は漸減して元に戻るからだ。

 しかしそれは通常の鉛中毒の場合――珀鉛病はそうはいかない。珀鉛の摂取を止めたとしても、時間が経てば全身を蝕んでしまうからだ。珀鉛の摂取を止めればある程度の時間稼ぎにはなるだろうが、それも個人差があるので放置すれば死は免れない。

(血液か……)

「メロヌスさん、どうするおつもりで……?」

「……ありったけの血が必要になるかもしれない、理事長に掛け合って動かし――」

「その必要はねェさ」

「だね」

「「!!」」

 メロヌスの元に、ラムネを飲みながらテゾーロとアオハルが現れた。

「こ、これは理事長殿にアオハル殿!!」

「――二人共、そらァどういうことだ?」

「そんな事になるだろうと、すでにウミットに輸血のパックをありったけ寄越すよう頼んどいたんだよ。ちと高い買い物だったが」

 ウミットは〝深層海流〟の異名を持つ裏社会にも広く知られた海運王だ。様々な資源や武器、燃料、製品を運ぶのが海運業であるので、ウミットにとって輸血のパックを用意し運ぶことなど造作も無い。

「一応おれも仕事してんだぜ? 理事長舐めんなよ」

「さすがだ、抜かりが無い」

 テゾーロの不敵な笑みに、メロヌスもまた笑みを浮かべる。

「まァ、おれもちょっと最終手段を確保するために動いてるからサボってるとか言わないでよ」

「最終手段?」

「裏社会にも顔突っ込んでるなら聞いたことぐらいあるでしょ……〝オペオペの実〟のことを」

「!!」

 アオハルが口にした単語に、メロヌスは目を見開く。

 〝オペオペの実〟は「改造自在人間」となり、放出するドーム状のエリア内で移動・切断・接合・電撃といった外科手術で必要な行為を自在にできるようになる悪魔の実だ。医療に特化した悪魔の実であるため、医学的知識と技術が伴えば医術において絶大な効力を発揮する。

 オペオペの実の能力を以てすれば、珀鉛病に蝕まれた患者の体から珀鉛を取り除くことができる――アオハルはそう考えたのだ。

「おれはそれを求めて情報収集してんの。今はまだ行方どころか目撃情報すら無いけど」

「そりゃあ、世界中が欲しがる代物だしな」

 「海の悪魔の化身」とも呼ばれる悪魔の実のシリーズは、その効力や希少性から売れば1億ベリーは下らない値がつくという「取引での利点」と能力を得た瞬間から一生泳げない体質になってしまうという船乗りにとって致命的なデメリットから、悪魔の実の能力を求めたがらない者も多い。

 しかしオペオペの実の場合は違う。能力の強力さに加えて通常の相場ではあり得ない破格の値段で取り引きされることから、食う食わない問わず世界中の人間が欲しがるのだ。裏社会でも「オペオペの実争奪戦」を繰り広げることも多く、不確かな情報でも激化することもある。

「「〝オペオペの実〟による治療」……それこそがこの事業におけるテゾーロ財団(おれたち)の最終手段ってことだ」

「確かにな……」

「あ……あと、さっき良い医者の情報を見つけたよ」

「!! 本当か!?」

「うん、スゴイご高齢の方だけど腕は本物だよ」

 アオハルは二人にその医者の情報を書類で提示する。その書類にはサングラスを掛けたフランクな笑顔を浮かべる老婆の顔写真も載っている。

「名はDr.(ドクター)くれは……別名ドクトリーヌ。医療大国であるドラム王国において〝マスターオブ医者〟と称される程の優れた医術を持つ、120歳を超えるババ――じゃなくて老練な女性だよ」

「今ババアって言おうとしたよな? 言いかけたよな!?」

(ああ、あのばあさんか……。医療費って名目でウチからどれぐれェの金取るつもりなんだか……)

 アオハルがDr.(ドクター)くれはのことをうっかり「ババア」と言いかけたことにメロヌスはツッコミを炸裂させ、医療費の請求が莫大な額である気がしてテゾーロは顔を若干引きつらせる。

 すると、突然電伝虫が鳴り始めた。すぐ傍にいたテゾーロが受話器に手を伸ばし、通話を始める。

「こちらテゾーロ財団」

《ヒーヒッヒッヒッヒ!! お前がテゾーロかい?》

「!? その声は…もしやDr.(ドクター)くれは?」

《そうさ、よくわかったじゃないか……まァある程度の情報は把握してるだろうがね》

 電話相手は、何とDr.(ドクター)くれはご本人だった。噂をすれば影が射すとは、まさにこのことだろう。

「わざわざありがとうございます、Dr.(ドクター)くれは……国王殿から話は――」

《若さの秘訣かい?》

「聞くのは後にします」

 くれはの口癖をテゾーロは華麗にスルー。訊いてきた彼女に対し「聞いてない」と言わないのは、テゾーロなりの気遣いであるのは秘密だ。

《……まァ話は聞いてるがね。珀鉛の中毒を治したいんだって?》

「はい…今から情報を提供しますので、それで一度ご判断を」

 テゾーロはアオハルとメロヌスに対し、珀鉛病に関する現時点の全ての情報を記した資料を持ってくるよう命じる。

 すると40秒後、二人はテゾーロの元に山のような書類を置いた。どうやらかなりの情報を集めることに成功したらしく、テゾーロは絶句中。

《……で、情報は?》

「あ、はい。では……」

 テゾーロは書類を一枚ずつ読み上げていく。

 患者は肌や髪が白くなって全身の痛みが発生し死に至ること、患者から生まれた子供は生まれつき体内に珀鉛が蓄積されていること、鉛中毒といくつかの類似点があること……集められた情報をできる限り明確かつ丁寧に説明する。くれははそれを黙って聞いている。

 テゾーロの情報提供を大方終えた直後、くれはが電伝虫越しでついに口を開いた。

《成程……産まれた子供達(ガキども)にまで珀鉛が溜まってるってことは、胎盤とへその緒を通じて珀鉛が流れてる可能性があるねェ。次世代が先天性の鉛中毒になるのは妙な話だと思ったが…》

「そうか……!! そう考えれば辻褄が合う……さすがだ」

 珀鉛病患者から産まれる子供は、産まれる前は当然であるが妊婦と胎児の関係。言い変えれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。胎盤からへその緒を通じて珀鉛が流れ込んでいるとなれば次世代へ悪影響を及ぼすのは納得できる。

《鉛ってのは骨だけじゃあなく他の臓器や組織にも蓄積する。臓器の移植も視野に入れておくのと輸血の準備を忘れないことだね……じゃあ早速だが請求といこう》

「電話だけでも金取るの!? マジかよ!!」

 早速請求しようとしているくれはに、テゾーロは大声で本音を漏らしてしまう。

《ヒーヒッヒッヒッヒ……一応患者でも何でもないからある程度は譲歩するさ。請求額は通話料金と診療費を兼ねて1億ベリーだ》

(おれが金持ちであること知って言ってるだろ!!?)

 実際に治療していないのにもかかわらずとんでもない額の診療費を請求するくれは。本当に魔女みたいな人柄である。

「……わかりました、後日必ず送り届けますので」

《ヒーヒッヒッヒッ! ああ、ハッピーにいな小僧!》

 

 ブツッ

 

「……切れた」

 くれはの方から一方的に切ったのか、少し乱暴に通話は終わった。

 一連のやり取りを目の前で観ていたアオハルとメロヌスは、引きつった笑みを浮かべている。

「理事長……ストレス溜めすぎんなよ」

「……大変だね、ギル兄」

「お前らは早く仕事をしろ」

 

 

           *

 

 

 一方、海軍本部。

 現海軍元帥コングが居座る元帥室では、タタラが財団の社員を数名引き連れて密談をしていた。

「今回の軍資金の件は、いつもよりも抑え目に上納します。我々が今取り組んでる事業にはかなりの金が動くので、今回ばかりは妥協していただきます」

「ああ、センゴクやお前のところのサイからも一応耳にしている。お前達テゾーロ財団が今何をしているのかを」

 テゾーロ財団は海軍との契約で軍資金を提供する海軍のサポーターとなっている。提供する額は海軍とテゾーロが電話で交渉して決めるのだが、今回はテゾーロ財団の独断で提供しに来たのだ。

 それもそのはず、フレバンスの案件で相当(かなり)の額の金が動くからだ。その最大の原因は、輸血用の血液にある。

 輸血に用いる血液の多くは献血――血液を無償で提供するのだが、中には自らの血液を有償で採血させる「売血」という行為を行っている者もいる。売血は安全性や衛生面を考慮すると大問題だが、世界政府や各国の王侯貴族達は金に目が眩むのでスルーするどころか献血より推奨している始末だ。

 安全面と衛生面を重視するテゾーロ財団は、フレバンスの医師達と共にできる限り献血で血を集めようとするが、血の管理費や人件費、滞在費用などを考えると海軍に提供するお金も削らざるを得ないのだ。

「一国の全国民の命と世界政府に対する信用にかかってます。どうかご理解を……」

 タタラは深く頭を下げると、後ろで立っていた部下達も続いて頭を下げた。

「あ、頭は下げんでもいいだろう! 我々もそちらの事情を承知している、そこまでせんでもいい……」

 コングはタタラ達に財団の事情は理解していることを告げる。初対面の人物に深く頭を下げられたのが心にキテるようだ。

「コング元帥……我々の事業の都合によって軍資金の額は変動しますが、今後ともよろしくお願いいたします」

「――わかった……お前達の事業の成功を祈る」

 コングとタタラは強く握手をするのだった。




売血ネタはオリジナルですが、ワンピースの世界ならあり得そうです。
カタクリに始末されたけど、臓器売買の業者がいるんだから。

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