ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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実写版の銀魂がテレ東でやってたので生で見ました。
めっっっっっっっっちゃ面白かったです。


第72話〝鉄の社訓〟

 ここは双子岬。

 〝偉大なる航路(グランドライン)〟のスタート地点であり、リヴァース・マウンテンの(ふもと)にあるこの岬には、灯台守であるクロッカスという男がいる。

 その老人の元に、テゾーロの命を受けたサイが尋ねていた。

「……お前は政府の人間か? 単独とてサイファーポールの諜報員がわざわざ来たということは……私を捕まえにでも来たか?」

「まさか。元ロジャー海賊団といえど、あなたは海賊稼業から足を洗った身であるのは紛れもない事実……今更逮捕は筋違いでしょう。それにあなたを捕えるとなると、こちらとしても色んな覚悟(・・・・・)を決めなければいけないので……」

 歴史上で唯一〝偉大なる航路(グランドライン)〟を制覇した海賊王(ロジャー)の一味に、クロッカスは「ルンバー海賊団」という海賊団を探すべく船医として3年間海賊稼業をしていた。海賊王に関わった人物は、トムのような特例はいくつかあれど全て裁くのが世界政府の方針――クロッカスも政府によって捕らえられ裁かれる可能性があった。

 しかし元ロジャー海賊団の船員(クルー)達を積極的に捕らえようと動く者は、ほとんどいないのが実状だ。たとえ捕えようと動けば海軍もタダでは済まないからである。

 海賊稼業から手を引いた元副船長(レイリー)でも一対一(サシ)で海軍大将と互角に渡り合える実力を有しているし、新しい海賊人生を送っている元見習い(シャンクス)も白ひげを筆頭とした大海賊達と果敢に立ち向かったこともある。幹部から一兵卒までの全ての船員(クルー)が桁違いなのがロジャー海賊団であり、大軍を向けた際の損害を考えると手を出さない方が良いと政府と海軍上層部は判断したのだ。

 しかし、捕えようと動けば海軍もタダでは済まない以外にもう一つの理由(・・・・・・・)がある。

(それに……下手に手を出してかつての伝説を――かつてのロジャー海賊団の船員(クルー)達を復活させてしまうという最悪の事態(・・・・・)だけは避けたいですしね……)

 そう――もう一つの理由は「仲間想いの海賊団の再集結」である。

 たとえば、万が一にもクロッカスをロジャーの関係者として裁くとしよう。では、その報せを知ったかつてのロジャー海賊団――レイリーやシャンクス達はどう動くのか?

 ロジャー海賊団は船員(クルー)一人一人の能力が驚異的に高い上に、仲間の死を許さない白ひげ海賊団に匹敵する強固な信頼関係が存在していた。もしもかつての海賊王(ロジャー)の仲間を捕まえたら、それぞれの道を進んだ仲間達が再び集結し、待ち受ける戦力・罠・作戦などお構いなしに助けに来る可能性があるのだ。だからこそ政府の人間は迂闊に手を出せないのだ。

「そうか。それで……逮捕でないなら私に何の用だ?」

「――あなたの力を貸していただきたいのです」

「私の力、だと?」

 サイは意外そうな顔をするクロッカスに、ある資料を渡した。テゾーロ財団がフレバンスの医師達と共に研究している珀鉛病についての資料である。

「珀鉛………〝白い町〟か?」

「さすがにご存じで?」

「今、非常に慌ただしいようだからな。最近は「テゾーロ財団」とかいう組織が調査に乗り込んだと聞くが……」

「私はその「テゾーロ財団」に属している者です」

「!!」

 サイがテゾーロ財団に属していることを知ったクロッカスは、目を見開いて驚愕する。そしてサイの目的を察したのか、溜め息を吐きながら「成程、そういうことか」と呟いた。

「つまり、一人の医師としての(・・・・・・・・・)私の意見を聞きたいわけか」

「それがわかれば話が早い…Mr.クロッカス。その資料を見てご意見を」

 クロッカスはサイから渡された資料を黙読する。真剣な表情で一行一行を丁寧に読むその姿は、まさしく患者を診察する医者そのものであった。

「………私としては、キレーション療法を用いて治療できるはずだと考えている」

「キレーション療法……?」

 キレーション療法とは、合成アミノ酸の一種であるキレート剤を点滴して体内の有害金属を排出する療法である。キレート剤を投与すれば血液が浄化され、血流が増し、体内のあらゆる臓器機能を正常化して代謝機能を回復させることができるのだ。

 元々は毒ガスの被害を受けた軍人への治療法だったが、鉛中毒に対しても効果があることが証明されており海軍でも戦傷による鉛中毒発症の際はキレーション療法を用いるという。

「では、治療の見込みがあると?」

「安心するには早いぞ、小僧。この珀鉛病とやらの症状は鉛中毒とは異なる。普通の鉛中毒ならば摂取ルートを絶てればそれ以上の進行は無いが、こちらは摂取ルートを経っても進行は止まらん。時間との勝負だぞ、すぐにでも治療せねば手遅れになるぞ」

「……そのキレーション療法を用いてもですか?」

「キレート剤は有効であることは事実だ。しかし珀鉛病はキレーション療法だけで治る程度の中毒ではないのも事実だ」

 つまりクロッカスは、「早急にあらゆる治療法(しゅだん)を使って体内から珀鉛を排出させねばならない」と言っているのだ。進行性の中毒である珀鉛病の治療は、珀鉛が全身を蝕む前に全て排出しなければ命の保証はないからである。

「……私からはこれくらいのことしか言えん」

 クロッカスはそう告げ、サイに資料を返す。

「ご協力感謝します。かつて海で一番の評判を得ただけはありますね」

「過去の話だ。私はもう隠居の身……この岬でラブーンと共に穏やかに暮らすことにしている」

「ラブーン?」

 その直後、海が大きく盛り上がって頭部に無数の傷跡がある巨大なクジラが現れた。

「これは……〝アイランドクジラ〟……!」

「ラブーンは何十年も前に西の海(ウエストブルー)から来たルンバー海賊団から預かった彼らの仲間(クジラ)だ」

 クロッカスはアイランドクジラのラブーンの話をし始めた。

 群れからはぐれたラブーンはルンバー海賊団の航海についていくようになったのだが、共に〝偉大なる航路(グランドライン)〟を航海するのはさすがに危険すぎると判断されたので再会するまで預かることになった。しかしクロッカスはルンバー海賊団が「〝偉大なる航路(グランドライン)〟から逃げ出した」という噂が流れ、それを自身の口からラブーンに伝えたのだが信じてもらえないという。

「それ以来ラブーンはリヴァース・マウンテンに向かって吠え始め、〝赤い土の大陸(レッドライン)〟に自分の体をぶつけ始めた……妙な付き合いだが見殺しにもできん」

「……」

 沈黙が辺りを包む。

 ルンバー海賊団の末路は噂ではあるが、一切の常識が通用しない〝偉大なる航路(グランドライン)〟の恐怖は弱い心を瞬く間に支配するのは確かな事実(こと)――命惜しさに仲間(ラブーン)との約束を果たさず海から逃げ出した可能性は否定できないどころか寧ろ現実味がある。

 しかし、それでも。ラブーンは唯一の仲間の帰還を信じ待ち続けているのだ。その気持ちは、クロッカス自身もよくわかっている。

「――お前さんは政府の人間にしては話のわかる男と見た。そこで一つ、頼みがある。私はロジャーの船に3年間乗ったが、その間にルンバー海賊団を見つけることはできなかった……だが政府の情報ならば噂話よりも正確だろう」

「私に、ルンバー海賊団の情報を集めてほしいのですね」

「ああ……ルンバー海賊団の真相を…仲間の「本当の最期」を伝えたいのだ」

 そう言って頭を下げるクロッカスに、サイは微笑んで「重要な意見を述べた協力者(いしゃ)に対するお礼」としてルンバー海賊団の情報収集を了承した。

 

 

           *

 

 

 一方、フレバンスではちょっとした揉め事が起こっていた。

「なぜだ!? 臓器が必要ならばおれ達がいくらでもくれてやるというのにか!?」

 声を荒げるのは、臓器販売業者のジグラという男。その彼に対応しているのはテゾーロとメロヌスである。

「……我々は臓器売買に手を染める気は無い。あなた達と違って金銭目的でこの国に関わってるわけじゃないのでね……お引き取り願おう」

 テゾーロは丁寧な口調でジグラの申し出を断る。

 確かにテゾーロ財団は珀鉛病治療の為に臓器や血液を欲しているが、それは「無償の提供」としてである。金銭を受け取ったりすれば財団の名折れであり、その辺のマフィアや海賊と変わらない悪徳組織という風評被害を受ける。それ以前に闇取引で国を救うことに組織のトップであるテゾーロ本人が嫌がっているため、関わる気すらないのだが。

「色んな医療機関・加盟国に献血と臓器提供を求め、同時進行で優秀な外部の医者の意見を取り入れたりして治療法を確立させる。おれ達は汚ェ商売には手ェ出さないっつー〝鉄の社訓〟があるんだ、てめェとの話はこれまでだ」

 メロヌスはそう言ってジグラを追い払おうとしたが……。

「ジグラ、てめェのダラダラ言うところが気に入らねェんだよ!」

こういうの(・・・・・)は無理矢理にでも殺して奪うべきだろ!」

「よせ、お前らっ!!」

 どこからか声が響き、それを耳にしたジグラは顔色を一変させて諫めようとする。

 しかし、時すでに遅し――ジグラの制止を振り切って謎の男達が襲いかかった。

「臓器売買を目的とした暗殺集団か……」

「メロヌス、手ェ貸すか?」

「いや結構……おれ一人で十分だ。理事長」

 そう言うや否や、メロヌスは愛銃の銃身を握ってバットを持つように構えて襲い来る男達を次々と銃床で殴り始めた。

 メロヌスの愛銃は手動装填(ボルトアクション)であり、装弾数も加味すると2回は給弾が必要だ。銃弾と時間の浪費を抑えたい彼は、近接攻撃では愛銃を棒術のように操って打撃を与えるのだ。しかも何気に〝武装色〟の覇気を銃床に纏わせているため、強烈な一撃で成す術も無く男達は倒されていく。

「な……!!」

(……!!)

 戦い始めて2分程で、男達は全員地面に倒れ伏した。メロヌスは一度も発砲せずに(・・・・・・・・)、暗殺集団を無傷で全滅させたのだ。

 普段は煙草を咥えてデスクワークに勤しむ彼だが、元はと言えば狙撃に長けた覇気を扱う賞金稼ぎ――暗殺集団を一人で圧倒する程の戦闘力の高さは当然と言えよう。

「ウチと喧嘩するんなら、艦隊でも引っ張ってくるんだな」

「……ドサンピンの集い程度なら銃撃戦(オハコ)でなくとも十分ってわけか」

 メロヌスの強さにテゾーロは感心し、対するジグラは顔を青ざめて逃げるように去っていった。

「……理事長、これからどうする?」

「そいつらの処理は後で海軍に引き渡すとして……今後のことか?」

「一応研究は進展してる上にフレバンスの街の鉛管撤去も行ってるが……血液と臓器に関しちゃあ、さすがに売買は財団として手を染めるわけにもいかねェ。もっと別の方法を考えた方がいいんじゃねェか?」

「そうだな……一応おれもコネを使ってあらゆる策を講じるつもりだが、どうもそこに「闇」の連中が首を突っ込もうとする。悩みの種だよ……」

 莫大な金を動かすことができるテゾーロ財団は、裏社会の人間から見れば大金を得られる大物(・・)であり、どうにかして丸め込みたくなる組織だ。

 無論テゾーロもそれを承知しており色んな手段で跳ね除けるつもりだが、相手もまたしつこく関わってくるので、はっきり言って邪な考えで関わってくる裏社会の組織をこの手で潰したいのが彼の本音だ。だがそんな時間も惜しいので中々思い切った一歩を踏み出せないのだ。

「さて、どうするか…………ん? あ!! そうか〝あの手〟があったか!!」

「……!?」

 テゾーロはとっておきの手段があったことを思い出し、笑みを深めた。




先程石塚運昇さんの訃報を知りました……ご冥福をお祈りします。
運昇さん、黄猿の出番増やしますのでご安心を……(TдT)

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