ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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ワンピの最新話読んだんですけど……アレ、誰が勝てんの!?
アレと小競り合いして無傷だったシャンクスと赤髪海賊団、恐るべし……。

お酒は程々が一番ですね。


第82話〝龍と侍〟

 新世界、ワノ国。

 ワノ国本土から離れた場所に位置する鬼ヶ島では、魔人のような風貌が特徴の和装の巨漢が胡坐(あぐら)を掻いて新聞を読んでいた。巨漢の正体は、百獣海賊団総督である大海賊〝百獣のカイドウ〟である。

「……ほゥ、こいつか……」

 世経を片手に酒を呷るカイドウは、物珍しい物でも見るかのような眼差しで新聞に載った写真を見ていた。

 新聞には、近頃慈善事業で活躍しているギルド・テゾーロが率いるテゾーロ財団の活躍を大々的に報じている。その活躍の一部始終を収めた写真に、カイドウの知り合いが写っていたのだ。

「――ウォロロロロ……! ジン、てめェの主はこの小僧か……!」

 カイドウの知り合いは、ジンだった。

 知り合いの元気そうな姿に何を思ったのかは知らないが、笑い上戸で酒を飲み干し別の瓢箪に手を伸ばす。

 カイドウは大の酒豪であると同時に、酒癖が物凄く悪い。何の前兆も無く泣き上戸や怒り上戸になり、シラフの性格はどうなのかはともかく気性が激しい。うっかり怒らせて海の彼方へ吹き飛んだ部下は数知れず、飲酒中のカイドウの機嫌を損ねないよう部下達は常に細心の注意を払っている。

 しかしいつもの酒乱ぶりはどこへやら、今日に限っては上機嫌をキープしている。部下達にとっては非常にありがたいが、同時にいつものカイドウではないことに不安も感じていた。

「カ、カイドウ様……何か嬉しいことでも?」

「ウォロロロロロロ……何でもねェよ! ――ヒック!」

 いつも通り酔ってるカイドウは否定的な発言をするも、口角は完全に上がっており誰がどう見ても嬉しそうだった。

 

 なぜジンとカイドウが知り合いであるのか。

 二人の関係の始まりは、今から2年程前に遡る。

 

 

           *

 

 

 ワノ国の将軍・黒炭オロチと手を組みワノ国をほぼ制圧状態にしたカイドウは、その日は自ら海へ出て趣味である「自殺」を終えて根城の(おに)()(しま)へ戻る最中だった。

 悪魔の実の能力で龍に変化し、とてつもなく巨大な体をうねらせて海を渡るカイドウはふと、海を漂う何かを見つけた。

(……侍のガキ?)

 カイドウが見つけたのは、大量の漂流物と刀傷が刻まれた無数の人間の死体、巨大な板の上で刀を手にしたまま気を失っている一人の傷だらけの若者だった。

 カイドウは体をくねらせて近づくと、若者は気配で気がついたのか、ゆっくりと目を開けて目を見開いた。

 そして彼は立ち上がり、血を流しながらも濃厚な殺気を放って睨んだ。

「龍……邪魔するなら、斬る……!!」

 満身創痍で震えながらも、カイドウに刀の切っ先を向ける若き侍。カイドウの実力を知ってるかどうかはともかく、ボロボロの体に鞭を打って目の前の巨龍(カイドウ)を倒そうという威勢がいいだけの青二才――この場に部下達が居れば、誰もが嘲笑うだろう。

 だがカイドウは彼を嘲笑うことも罵倒もせず、ただ黙って見続けた。彼の目つきは本気で戦うという意思を宿しており、目の前の強大かつ巨大な敵を倒す気であるという〝強さ〟が伝わったのだ。

 しかし所詮は満身創痍の肉体……若者はフラリと糸が切れた人形のように倒れた。

「……」

 カイドウは顔を若者に近づけた。

 彼はまた気を失っただけらしく、息はまだあるようだ。

「……面白(おもしれ)ェ小僧だ」

 カイドウは巨大な龍の手で鷲掴みにすると、そのまま持ち帰った。

 今まで出会って来た中でも、この若者は面白味を感じたのだ。国を守護する「明王」として畏敬の念を集める〝百獣のカイドウ〟に恐れず剣を向け、なおかつ満身創痍の体を引き摺ってでも倒そうとした無鉄砲な若造――そんな彼に興味を抱いたのだ。

「ウォロロロロ……ガキの割には中々やれるじゃねェか……!!」

 カイドウは若者を連れて上機嫌に鬼ヶ島へと戻っていった。

 

 

 カイドウが若者――ジンを連れてきてから、百獣海賊団は暫くの間賑やかとなった。

 一味の幹部格を担う大物と互角以上に渡り合う実力に加え、ワノ国ではすでに継承者は途絶えたのではと噂された阿修羅一刀流という豪剣を使えることを知り、実力主義者のカイドウはジンを部下にするべくしつこく勧誘した。

 その度にジンは勧誘を蹴り、鬼ヶ島中を逃げ回りワノ国本土にまで逃げ、1年にもわたる勧誘という恫喝を躱してきた。しかしまだ諦めぬカイドウをどうにかするべく、ジンは意を決して大幹部すらやったことの無い「一対一(サシ)の飲み会」に打って出た。

 

 

「カイドウさん、あんたには世話んなった。この恩はいつか必ず返す」

「……どうしてもおれの部下にはならねェのかァ?」

 豪快に酒を呷るカイドウに、ジンもまた盃の酒を飲み干す。

「プハァッ! 勧誘はありがたいさ……でも何度も言うけどおれじゃあ役不足だよ。人には必ず「一番力を発揮できる場所」がある。おれはそれが海賊じゃないだけさ」

「うるせェ、このおれが「てめェなら大物になれる」って言ってんだ……ヒック! ありがたく仲間になりやがれ!! ウィ~……」

 カイドウという海賊(おとこ)は、諦め悪くジンをまだ部下にしたがっていた。彼は正式に百獣海賊団に入れば大幹部として迎え、ある程度の望みは叶えるとまで打って出た。それ程ジンの実力を高く買っているというわけだ。

 しびれを切らしたわけではないが、平行線のままであるのはよくないと判断したジンは勝負に出た。

「この際言っちゃうけど……地位や権力なんかどうでもいいし、そもそもおれァあんたに従う気はこれっぽっちもない」

「――んん!?」

 カイドウがジンを睨んだ瞬間、空気が凍りついた。

 最強の生物の――カイドウの怒りが、ジンの一言で誘発したのだ。カイドウが一度怒り狂えば、どんな輩でも無事では済まない。

 部下達は一斉に逃げ始め、カイドウから離れようとする。

(よし、かかったな)

 一方のジンは、笑っていた。

 このタイミングを待ってましたと言わんばかりの満面の笑みで、ジンは畳み掛けた。

「カイドウさんよ……これはおれ自身が決めたことだ。腹ァ括ってこの一味から去って自分の生き場所探そうってんだ、あんたはそれに水を差すような野暮な大海賊(おとこ)じゃないでしょ?」

「……何が言いてェ?」

「てめェの覚悟をてめェでおじゃんにしちまったら、その時点で男を名乗れねェでしょう?」

 その言葉を聞いたカイドウは目を見張った。

 それがいい兆候だと判断したジンは、カイドウが食いつくようなネタで事を丸め込もうと動いた。

「それにこの世界にいる限り、また会うことができる。あんたと再会できた時は、上司と一緒にいい酒持ってくるから、楽しみにしててくれ」

 ニカッと笑うジン。

 カイドウは「いい酒」という単語に反応したのか、口角を上げて大いに笑った。

「ウォロロロロロ……!! そりゃあ楽しみだ……!!」

 

 こうしてどうにかカイドウに認められ、ジンは鬼ヶ島を出て出国を敢行した。

 

 

           *

 

 

 カイドウのあからさまな上機嫌ぶり。

 それを見た部下達は、その理由を察し始めた。

「カイドウ様が上機嫌なのは、あの人の話題じゃないのか……?」

「だったら納得いくな……」

「おれ達、ある意味であの人に頭が上がらない気が……」

「あの人以外いないんじゃないか? カイドウ様のご機嫌取りに完全に(・・・)成功したのは……」

 部下達は小声で話し合う。

 カイドウの酒癖の悪さは部下達にとっては命取りになるが、ジンと飲み交わしている時の彼は大抵が上機嫌だった。「最強の生物」と呼ばれる自らを全くと言っていい程恐れないジンがとても面白かったらしく、何かと一緒に飲むよう強制していた。

 そんな彼も、一度だけ本気でカイドウを怒らせて――咄嗟に覇気を纏った愛刀で衝撃を和らげたが――海まで吹っ飛ばされたのだが、その時は何と泳いで戻って来たのだ。未だ怒り上戸のカイドウに対し、ジンが言い放った一言はあまりにも斜め上の内容だった。

 

 ――酔いが醒めちゃったから飲み直しに戻っただけだ、何か問題でも?

 

 まさかの発言に意表を突かれたカイドウは一瞬で笑い上戸になり、本当に飲み直した挙句「お前は大した野郎だ」と益々ジンを気に入ってしまったのだ。このやり取りは百獣海賊団の間では伝説として語られており、一味ではジンだけがカイドウと別の意味で唯一互角に渡り合える強者として認識されている。

「……敵に回したくないな……」

「ああ……」

 酒浸りの総督をよそに、部下達はジンのことを思いだし顔を引きつらせた。




次回辺りからフレバンス編が終焉に向かうと思います。

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