ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
長かった……!
拝啓 カイドウの旦那
お元気ですか? 相変わらず酒に酔ってるんでしょうね、はい。
差し入れ代わりに、こちらの近況をお伝えします。
おれはテゾーロ財団という世界政府とズブズブの民間団体で幹部やってます。ウチの職場の幹部は副理事長以外がヤバイです。
情報屋を副業とする〝剣星〟アオハル、元海軍本部准将のシード、サイファーポールの諜報員であるサイ・メッツァーノといったドがつく程の強者・曲者揃いであり、あの〝海の掃除屋〟ハヤトまでいます。
理事長のテゾーロは叩き上げのとんでもない猛者で、カイドウの旦那もきっと気に入る男です。黄金を生み出して操り、〝覇王色〟の使い手で、覇気の熟練もはっきり言って自分以上です。少し前に誰に覇気を習ったのか問い質したところ、「元大海賊、しかも二人」という返答でした。まさか元ロジャー海賊団かと食い下がったら、なぜかニヤニヤ笑ってたので滝汗です。
さて、ウチは今色んな事業、というより世界政府がやらかしてきた数々の不祥事の尻拭いをしていますが、ここ最近は〝
そういえば、ウチはこの事業が終われば〝
最強の生物のスカウトを蹴ったジン
追伸
おれはその場にいませんでしたが、少し前にフラミンゴにちょっかいされました。闇取引が得意なのでハメてくるかもしれません。騙されないようにしてください。
「うし、あとはこれで――」
「待たんかい!」
ドゴッ!
「いでっ!!」
ジンの頭に覇気を纏った拳骨を見舞うテゾーロ。
彼の頭には大きなたんこぶが出来上がり、あまりの痛さに悶絶している。
「お前、百獣海賊団と繋がってたのかよ……」
「人聞きの悪いことを……一年だけ世話になっただけだぜ」
「まァ財団に支障を来さない範囲での付き合いなら海賊相手でも多少大目に見るが………っつーかアレ、話し合い通じねェだろ」
「い、いや……通じるよ。居酒屋の酔っ払いの常連と思えば」
「あんな姿の常連が来たら店主涙目だぞ」
素っ気無い会話を繰り広げるテゾーロとジン。
自分の部下が海賊界でも断トツの危険度を誇る百獣海賊団と関係を持っていた……その事実を知れば、テゾーロどころか誰だって驚くに決まっている。
「ハァ……別に誰と昔付き合ってようが勝手だが、うかうかしないでくれよ」
テゾーロが頭を抱えながらイスに腰掛けた、その時。
メロヌスが扉を慌てて開けて入り、衝撃の報せを伝えた。
「理事長!! ベガパンクが解毒剤の開発に
「何っ!?」
イスに腰掛けていたテゾーロが声を上げて立ち上がり、顔色を変える。
ついに、珀鉛病の中毒を中和できる特効薬が完成した。世界一の科学者であることは知っていたとはいえ、資料を渡してから二週間も経っていない。こうも早く完成したのはテゾーロ自身も想定外であったので、驚きを隠せないでいる。
「さすがはベガパンクと言うべきか、もっと早く彼に頼るべきだったかと思うべきか……」
「いやァ、どの道珀鉛病の特徴を把握しなきゃできなかったと思うぜ」
テゾーロがもっと早くベガパンクに頼っていれば、もっと犠牲者は減らせただろうか。
しかしジンの指摘の通り、珀鉛の中毒症状は通常の鉛中毒とは違うので、毒を体外に排出すればいいという理屈こそわかっていても治療方法が異なり複雑である可能性がある。その上ベガパンク自身は医者ではないため、医学は得意分野ではない可能性が高い。
そう考えると、テゾーロがフレバンスの医者と共に珀鉛の特徴・性質を調べ尽くした上でベガパンクに頼んだのは正しかっただろう。
「理事長、ついに……」
「ああ……フレバンス中にこのことを伝えろ! 「光明は見えた」とな」
*
そこからは怒涛の勢いだった。
不治の病であった珀鉛病の特効薬の開発にベガパンクが成功したことで患者達は歓喜し、財団の者達も涙ながらに喜んだ。
そのことを世界経済新聞社がどこかの情報筋によって知ったのか、翌日には珀鉛病に関するテゾーロ財団の尽力とベガパンクの功績を号外で報じた。どの世界でもメディアは恐ろしいモノである。
量産された薬は全てフレバンスに流れ、人々の手に渡り無償で注射された。副作用で頭痛が伴ったが、患者達は珀鉛病の症状でもっと痛みに苦しんだため何とも思わなかったらしい。ちなみにテゾーロ財団も念の為に注射を受けている。
そしてベガパンクが薬を開発して三週間、テゾーロ財団がフレバンスで一大事業〝フレバンス支援事業〟をはじめてからちょうど一年。ついに目的を果たして事業は終結した。
*
さらに一週間後。
テゾーロはいつものピンクのダブルスーツではなく、黒いダブルスーツで黄金の装飾――薬指の指輪以外――を全て外した状態で慰霊碑のある広場にいた。テゾーロだけでなく、財団の者や医者達、フレバンスの王侯貴族、更には珀鉛病が完治した元患者達が集まっている。
この日は、テゾーロがフレバンスの王侯貴族達と共に計画した国葬の日である。
通常国葬は、国家に功労のあった人の死去に際し、国家の儀式として国費をもって行われる葬儀だ。しかしテゾーロは「珀鉛病との闘病で死んだ患者達は、我々財団よりも苦しい闘いをしていた」と王侯貴族を説得し、その闘病生活に敬意を称する意味合いも含めて行われることになった。
「……スーツは慣れないのですが……」
「おれだって我慢してんだから、耐えろ……」
洋服に慣れていないタタラの呟きに、ジンが囁く。
一方のテゾーロは、この国葬のニュースを知って急遽駆けつけたモルガンズと話していた。
「モルガンズ……」
「ご苦労だったと言うべきか、お悔やみ申し上げると言うべきか……」
モルガンズは険しい表情で口を開く。
裏社会でも大物として名を轟かせる三度の飯よりスクープな彼とはいえ、さすがに今回の件に関してはハイにはなれないようだ。
「アレを見ろテゾーロ……政府関係者の中でも中枢に近い連中が集まっている。護衛もサイファーポールだ」
「どうせパフォーマンスだろうよ……自分達が切り捨てといて、美味しい所はちゃっかり持っていく」
「救いの手を差し伸べられても、多くの者はその手の
互いに世界政府への皮肉を言う。
自らの損得で動く連中であるのは承知しているが、こうもあからさまだと呆れるを通り越して感心してしまう。さすが世界政府としか言いようが無いだろう。
「じゃあ、おれはこれから挨拶あるから」
「ああ、いい具合の記事を書くよ」
国葬は黙々と進んでいき、最後にテゾーロが書状を読み上げる。
「あなた方は誰よりも苦しみながら、命が尽きるまで闘い抜いた。その勇姿は世界の正義を背負って百万の海賊を薙ぎ倒す海軍の英雄達に並ぶ」
この日の為に直筆の書状を静かに読み上げるテゾーロ。
慰霊碑の方に向いているため彼の表情は一切わからない。
「私は……我々は、この国で起こった出来事を決して忘れない。必ずや未来へ、次代を担う全ての者達に語り継ぐことを誓う――命の灯が消えるまで闘い続けた〝英霊達〟に、黙祷」
覇気のこもったテゾーロの言葉が木霊すると、一同は黙祷を捧げた。
ステラも、幹部達も、フレバンスの医師達も、珀鉛病の件に関わった全ての人間が感謝と敬意、そして哀悼の意を示した。中には涙を堪える者や号泣しながらも歯を食いしばる者もいる。
珀鉛病患者は、治療法を確立すべく奔走したテゾーロ財団や医師達よりも苦しい思いをしながら闘い続けたのだ。命尽きるまで闘い続けた彼らがいたからこそ、今日がある。それがテゾーロ達の想いだった。
この光景は世界経済新聞が大々的に報道し、後にフレバンスの国儀「