ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
ゴジラ総選挙が楽しみです。
テゾーロとしてこの世界に転生して、早9年の年月が経った。
気づけば自らは25歳となり、世界的に名を馳せる青年実業家として頭角を現していた。ちょうど転生してすぐの頃に立ち上げたテゾーロ財団も、今では様々な経歴を持つ有能な覇気使い・能力者で脇を固め、世界政府公認の一大民間団体として急成長していた。時の流れとは実に恐ろしいものである。
さて、聖地マリージョアの天竜人の居住区「神々の地」にあるクリューソス聖の邸宅にて、テゾーロはサイを連れてクリューソス聖と会談していた。
「髪型変えたんですか? クリューソス聖」
「まァ、あの髪型をキープするのが正直厳しくてね。それにこのひげではあの髪型は似合わんと言われたのでな」
頭を触りながら語るクリューソス聖。
クリューソス聖は天竜人の中では異端児であり、身分や階級といったものに無頓着である。ゆえに彼は妻と召し使いを邸宅に住まわせているのだが、どちらも元奴隷の一般市民であり命も生活も保障している。伝統といったものに対する拘りも無く、最近では例の外見が宇宙服に近い防護服とマスクが「暑苦しい」という理由で着ることが非常に少なくなった程だ。
「それで、私達をわざわざ呼んだ理由は?」
「………実は、これはあまりにも軽視している者が多くて中々言いづらい案件でな。君達ならば応じてくれると信じている」
「――というと?」
「実はある奴隷が、このマリージョアから脱出したのだ」
クリューソス聖曰く、その奴隷は迷彩柄のバンダナを付けた赤い肌の巨漢で、魚特有のエラやヒレらしきものが体にあったという。
(もしや、フィッシャー・タイガーか?)
フィッシャー・タイガー。
魚人島本島の近くに所在するスラム街「魚人街」の出身のタイの魚人で、後に聖地マリージョアを襲撃し奴隷解放を行ったことで世界的に名を馳せるようになる人物。人間を一切受け入れられない心情でもその度量の広さから、あのジンベエやアーロンからも尊敬されていた程の器の持ち主だ。
(彼もまた、消息を絶った時に世界貴族に奴隷として飼われていた時期があった者。念の為訊いてみるか)
テゾーロは前世の記憶を頼りに、サイに尋ねた。
「サイ、心当たりは?」
「クリューソス聖の言葉が全て真実とすれば、魚人族の冒険家であるフィッシャー・タイガーである可能性が非常に高いですね……世界的にも知られた冒険家ですが、確かに数年程前から行方知らずでした」
テゾーロの読みは当たっていた。
どうやらマリージョアから逃げ出した奴隷は、フィッシャー・タイガーだと判断して間違いなさそうだ。
「しかし、それをなぜ我々に?」
「これは私の憶測に過ぎないが……その逃げ出した奴隷が、復讐をしに来るのかもしれない」
天竜人の奴隷になるという事は、マリージョアで苦痛に満ちた屈辱的な日々を死ぬまで過ごすという意味である。
タイガーは奴隷として天竜人の所有物となり、悲惨かつ屈辱的な数年間を過ごし、人間への憎悪や嫌悪を色濃く心に刻み人生を狂わされた。その報復としてマリージョアを襲撃し、多くの人間を虐殺するのではないかとクリューソス聖は危惧しているのだ。
「私としては、そうなったのも我々の業だから甘んじて受ける必要もあると思っている。だが私にも護りたいモノがあり、彼らにも護りたいモノがある……どうにか未然に防いでくれないか」
クリューソス聖の訴えに、テゾーロは渋る。
フィッシャー・タイガーの案件もとい奴隷の案件に関しては、誰がどう考えても100
とはいえ、天竜人の味方をしないのもそれはそれで政府からの風当たりが強くなる可能性もある。海賊ならば無法稼業なので非難批判上等なのだが、力があるとはいえ民間団体であるテゾーロ財団にとって信頼性を損なうような事は避けねばならない。
「……どう思う?」
「そうですね……ここらで一度お灸を据える必要があるかと。どんな結果になろうと、所詮は世界政府と天竜人の因果応報・自業自得……いい気味です」
「おれの周りはいつから腹が黒くなったんだ」
爽やかな笑みで物騒な言葉を並べるサイに、頭を抱えるテゾーロ。
(さてと……原作通りならば来年の襲撃が確率的に高いわけだが、それがいつになるかまでは予測できないな。たった一人で襲撃するとなれば、夜中の奇襲が成功率が高いだろう。だが……)
出されたお茶を啜りながら、テゾーロは考える。
世界政府という巨大勢力の本拠地と言える聖地マリージョアへの単騎襲撃。奴隷解放が目的とはいえ、それを実行に移すのは武力行使に他ならない。テゾーロがクリューソス聖を介して奴隷解放を促すという手段もあるが、それでは天竜人達の同意を得るのに何年かかるか予測できず、その間に襲撃されてしまうだろう。
そして何より……。
(サイの言い分は理解できる。っつーかぶっちゃけた話し、おれもその方がいいって思うんだよな~……)
そもそもフィッシャー・タイガーが聖地マリージョアに乗り込んで暴れ回り、奴隷達を人種を区別することなく解放するという前代未聞の大事件が起こるきっかけを作ったのは、紛れも無い世界政府と天竜人だ。
サイのお灸を据えるという言い方はともかく、ここらで痛い目に遭った方が良いだろう。その程度で政府と天竜人の体勢が変わるとは到底思えないが、手痛いしっぺ返しを食らって世界中の人々の胸を空かせるためにはいい機会だ。とはいえ、何も対応しないのはテゾーロとしても困ること――海軍やサイファーポールが出張ってくれるだろうが、死者はともかく負傷者の続出は不可避だろう。
「わかりました。ではその件に関しては、護衛として私の部下の中でも信頼しやすい有能な部下を二人送り込みましょう」
「! ――すまない、感謝する」
テゾーロの承諾に、クリューソス聖は深々と頭を下げたのだった。
*
「それで、僕達がマリージョアでその襲撃犯を迎え撃てと?」
「護衛は構いませんが……」
「まァ来年の話だが……お前らなら大丈夫だろう」
5日後、開発中の島へ戻ったテゾーロはシードとタタラに話を伝えた。
テゾーロがこの二人を選んだのは、戦闘能力の高さもそうだが、テゾーロ自身が他の幹部達に現場に残ってほしいという本音があるからだ。
メロヌスは幹部の中でもトップクラスの切れ者であり、幹部の中でも古株であるので全幅の信頼を寄せている。その頭脳が現場を離れるのはテゾーロとしては痛手なのだ。アオハルとジンに任せることも考えたが、二人共戦闘能力が高いが情報収集能力も高いので交渉役を担ってもらいたいので却下した。タナカさんは事務方に回したく、ハヤトも周辺海域の巡回という任務もあるので、最終的には消去法でシードとタタラが残ったという訳だ。
しかし、シードは海兵としての経験ゆえにマリージョアへの出入りもあったので、マリージョアで勤務している海兵とも面識があるので連携しやすく、その上戦闘力もかなり高い。タタラも武闘派のハヤトと互角に渡り合える技量の持ち主なので、この二人を向かわせれば心配無用だろう。
「そういやあ、シード。お前農業したいっつってたろ? せっかくだしその足でどこかの海で習ってきな」
「いいんですか!?」
「人手に関しては問題無いし、今まで財団の仕事で縛ってきた。ここらで好きなことしたらどうだ?」
それにシードはかねてより――理由がコンプレックスの解決とはいえ――農業に興味を示していた。この島の開拓も当然必要であり、農業という分野に着手しなかったテゾーロ財団にとって、農業技術は貴重だ。
それを得たいという意欲が唯一あるシードに、来年から留学させるというのも悪くない。
「当日はそれで、な。一応これで掛け合ってはおくから、忘れないよう――」
プルプルプル――
「「「!」」」
テゾーロが最後に一言伝えようとしたその時、電伝虫が鳴った。
受話器を取り、テゾーロは通話を始める。
「もしもし、こちらテゾーロ」
《おお! テゾーロか、久しぶりじゃな!》
「トムさん! これはどうも」
電話の相手は、トムであった。
「忙しかったので中々連絡が取れず、申し訳ありません……何か御用で?」
《実はの、海列車が完成してな! すぐ観に来て欲しい!!》
「――本当ですか……!?」
海列車、ついに待望の完成。