ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
ウォーターセブン。
トムの報せを耳にし、テゾーロはタナカさんとサイを連れて廃船島へと駆けつけた。
「おお……これはすごいな」
三人の目の前には、キャラヴェル船よりも一回り大きいであろう蒸気機関車によく似た形の
「思ったよりも早く完成しての。お前さんが裏で手を回してくれたおかげじゃ」
「いや、さすがに二年は想定外でしたよ。まァうまく事が進んだようで何よりです」
「実は処女航海自体はすでに成功し、レールもセント・ポプラとサン・ファルド、プッチまで繋げておる。残るはジャヤとエニエス・ロビーってとこじゃな」
「試運転って言い方じゃないんですね、船舶だから……じゃあ物資の運搬を優先し、線路は少しずつ繋げていくと?」
「そういうことじゃな」
トムと会話をしたテゾーロは顎に手を当てる。
海列車の技術はウォーターセブンの希望の光となるだけでなく、世界中の島々の交流を変えることができる可能性を秘めている。客も物資も船も運び、天候に左右されることなく、海王類も寄ってこない仕組みを取り入れた海列車――誰でも安全かつ自由に海を渡れるようになる公共交通機関の普及は、世界中の全ての海を発展させられるだろう。
特に世界で最も航海が困難な海である新世界で導入すれば、かなりの経済的効果も期待できる。現に「FILM Z」でも海列車が開通しており、エンドポイント――新世界に三箇所あるマグマ溜り――の一つであるセカン島にも駅がある。
(ぜひ〝グラン・テゾーロ計画〟にも活用したいものだな)
その時、アイスバーグがテゾーロに声を掛けた。
「テゾーロさん。海を渡って他の島との交易ができることに皆は喜んでるけど、資材の無い島だから交易交渉は難航しているんだ。町は変わらねェのかな……」
「そうだろうと思ったよ……その辺りはおれが交渉しよう。テゾーロ財団の名は世界的に知られているんだ、この島の造船技術をアピールしてそれぞれの島の行政を動かせばいい」
その時だった。海の方から絶叫が響いたのは。
砲撃の音も聞こえており、何者かに襲撃されているのは明白だ。
「今のは?」
「っ――あのバカンキー!」
海の沖で海王類に追われるフランキー。
海列車が完成した後も、彼は対海王類用の戦艦「バトル・フランキー号」を造っては海王類に戦いを挑んでいるようで、自分勝手なキカン坊ぶりは変わってないようだ。
「……アレで何隻目なんだろうな」
「いや、そんなこと言ってないで助けましょうよ!!」
呑気に呟くテゾーロにツッコミを入れるタナカさん。
テゾーロはやれやれといった表情で波際まで近づくと、口笛を吹いて海王類の注意を引いた。口笛に反応した海王類は、フランキーから標的をテゾーロに変更して襲い掛かった。
「危ねェ!!」
「テゾーロさんっ!!」
フランキーとアイスバーグが叫ぶ。
それに対しテゾーロは、静かに海王類を見据える。
ドクンッ!!
見えない衝撃が、フランキーを襲っていた海王類を貫いた。
すると、海王類がその巨体を震わせ怯えた様子でテゾーロを見た。
「……悪いが、帰ってくれないか」
不敵な笑みを浮かべるテゾーロに海王類は恐怖を感じたのか、海に潜って逃げていった。
「……最近
「お前さん、それはロジャーと同じ……」
「そう、おれも〝覇王色〟だ」
己の実力が衰えていないことに満足気なテゾーロ。
相手を威圧する〝覇王色〟の覇気は、鍛錬による強化は不可能で自身の人間的な成長でしか強化されない。多くの修羅場を潜り抜けたがゆえ、テゾーロの〝覇王色〟は海王類を追い払える程に強化されたようだ。
「海王類は種類によるけど大抵が頑丈だからな、砲弾で倒せるような生物じゃない」
テゾーロは踵を返す。
ふとその時、テゾーロの視界にある物が入った。
「……ちょっとちょっと、アレ大丈夫なの? 放置しといて」
テゾーロが指差す先には、「
海王類との戦いでその多くは使い物にならない状態にまで破損しているが、その中にも破損が少なかったりまだ使えそうな船も残っている。
「ああ、あんたも気にするんだな……アレはフランキーが造った船だ」
「造るのはいいけど管理はちゃんとしねェとなァ……自由には責任が伴うんだし」
「ンマー、それをあのバカが理解してくれねェから困るんだ……」
頭を抱えるアイスバーグ。
テゾーロもまた、眉間にしわを寄せる。あの放置された小型船は、原作においてトムが濡れ衣を着せられエニエス・ロビーに送致されてしまう要因である司法船襲撃――あのスパンダムの謀略で利用されることとなったのだ。
トムを失うことはウォーターセブンやテゾーロ財団にとって大ダメージだが、いくら政府に手が回せても司法船襲撃の事実はもみ消せないし帳消しも困難なので、早急に手を打つ必要があるだろう。
「……?」
ふとテゾーロは、違和感を感じた。
何やら視線を感じるのだ。それは海列車の完成を祝う大衆の視線ではなく、もっと別の――それこそ、敵意を孕んだような視線だ。
「……」
テゾーロは目を閉じ、〝見聞色〟を発動する。
〝見聞色〟は意識すれば自分の一定範囲、あるいは島規模にある生物の存在やその心力から人物・強さをある程度見抜くこともできる。テゾーロは違和感――視線の正体を炙り出そうという訳なのである。
(ひい、ふう、みい……8人ぐらいか。何が目的だ?)
テゾーロが〝見聞色〟で把握できたのは、8人分の気配。
自分達に接触してこないということは、何らかの命令が下されている可能性がある。それは一体何なのかは不明だが、もしかすればすでに――
「――サイ、タナカさん」
「はい?」
「何か御用で?」
「ああ、少し調べてもらいたいことがあるんだが……」
*
日が暮れ、いつもよりも賑やかな夜が訪れる。
海列車完成を祝う宴が催される一方で、男はウォーターセブンの路地裏で子電伝虫――手乗りサイズの携帯用電伝虫――を用いて報告をしていた。
「主官、
《何ィ!? あの成金野郎が……クソッ!!》
悪態をつく上司に、男もまた苦い表情をする。
ギルド・テゾーロは賞金稼ぎから政府にも影響を与える重要人物にまで成り上がった男で、天竜人とも友好関係を持つ程の力を持っている。世界政府の活動にも貢献しており、フレバンスの救済事業の件は耳新しい。
《いいか、テゾーロに気づかれねェように先回りするんだ!! わかったな!?》
「はっ……」
子電伝虫の通話を終え、男は溜め息を吐く。
つい先日新しく就任した男の上司――CP5主官のスパンダムは、諜報員として未熟な面が目立つ卑劣極まりない小悪党だが大きな権力を持っていた。実の親があのオハラの一件で大活躍したスパンダインであり、サイファーポールにおいても絶大な権力を振るっている彼の息子なのだから逆らいようがない。
元々男は、別にトムが無罪でもいいだろうと考えていた。しかしトムの無罪を気に入らない――というよりもただ出世したいだけだが――スパンダムは何が何でもトムに罪を擦りつけようとしたのだ。
(あの小悪党みたいな主官が、テゾーロに勝てるとは思えない……)
賞金稼ぎからテゾーロ財団を立ち上げ、世界的実業家へと成り上がったギルド・テゾーロ。彼は五老星と面会できるだけでなく天竜人・クリューソス聖とも交友関係がある。コネに関してはスパンダムと同等、またはそれ以上だ。
スパンダムはトムを罪に問い、あわよくば
「ライバル意識、か……」
テゾーロとスパンダムは同世代であり、生まれも育ちも違う。しかし有能なのはどちらかと言うとはっきり言ってテゾーロだろう。スパンダムが焦ってるのは、テゾーロの出世の早さと有能さに嫉妬しているからだろうか。
(……とはいえ、任務は任務だ。トムズワーカーズに恨みは無いが――)
スッ――
「っ!!」
ふと、うなじに何かが当たった。
この感触を、男はよく知っている。「六式」の修行において熟練の実力者に背後を取られたときと全く同じ感覚だ。
「……これは一体、どういうマネですか?」
「!!」
男はまさかと思い、振り返る。
そこには、組織に属する人間ならば誰もが知る男がいた。サイファーポールにおいて唯一テゾーロとのパイプ役を兼任している男……サイ・メッツァーノだ。
「あ、あなたは……!!」
「
サイは冷酷な笑みを浮かべ、目を細めた。
司法船襲撃事件、かなり早まりました。
原作はルフィがシャンクスから麦わら帽子を預かった辺りだったはずですが、この小説では大分早くなりました。
次の投稿は来年……かな?