ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~ 作:悪魔さん
司法船がやって来た。どういう訳か海軍の軍艦も一隻来たが、誰もが護衛なのだろうと不思議には思わなかった。
さて、その裁判の判決なのだが、はっきり言って結果は目に見えていた。司法船が来たのは、前回の判決において海列車の建造を誓い、見事その約束を果たしたトムに無罪を告げるからだ。
人々が海列車で海を渡り、他島と交易して活気が戻ってきた。その結果を生んだのは他でもないトムであり、約束通り成し遂げた彼をやっぱり死刑だなどと判断しては、世界政府の司法に関する信頼が失われてしまう。それ以前に、本来船大工が誰に船を売ろうとも罪ではないのに「海賊王が乗ったから」という理由で裁いては、法によって決められたとしても魔女裁判だなどと言われてしまう。
信頼と威厳に対して非常に敏感な世界政府は、組織はデカイが肝っ玉は小さかったりするのである。
「では判決を言い渡す! 造船技師トムは約束通り執行猶予内に海列車を完成させ、ウォーターセブンを復活させた。よってトムのオーロ・ジャクソン号建造の罪を帳消しにし、無罪とする!!」
どこか機嫌のいい様子で告げる裁判長。
裁判長の判決にトムはいつものように大笑いし、フランキー達トムズワーカーズは安堵の声を漏らし、ウォーターセブンの市民は喜んだ。
*
裁判を終えた司法船内で、裁判長はサイと話し合っていた。
「これで
「うむ。しかし、まさか政府の役人が陰謀を企てておったとは……」
サイに話を振られ、裁判長は憤慨する。
トムが冤罪で裁かれそうになるという話を聞き、多くの事件を裁いてきた裁判長は久しぶりに怒りを覚えた。テゾーロ達が万が一を想定して動いていなければ、司法船襲撃事件が発生してトムがその罪を背負う羽目になるところだったのだ。
その上トムを冤罪で裁かせようと動いていたのは、よりにもよって政府側の連中――諜報機関のCP5だったのだ。政府中枢でもトムを裁く必要は無いという声が上がった矢先にこれとは、全くもって腹立たしい限りである。
「そちらが裏で我々に情報を流してもらわなかったら、大変なことになっていた……礼を言うぞ」
「礼には及びません、テゾーロさんから与えられた仕事をこなしたまでです」
「私はこれから
「うむ、ご苦労であったな」
時同じくして――
「ちくしょう、どうなってやがる……!?」
そう悪態をつくスパンダム。
司法船を攻撃し、その罪をトムに擦りつけつつ司法取引を名目にプルトンの設計図を奪うという計画……この出世間違いなしの謀略は完璧のはずだった。準備を整え、後は司法船を待つだけという所まで用意できたのにだ。
ところが当日になると、強力な武器を搭載したまま放置されていた例の四隻がそっくりそのまま
当然、スパンダム達は絶句した。何がどうなっているのか。もしかして計画が誰かにバレたのか。バレたとしたら、誰にバレたのか。そんな考えが頭を支配する。
――ハハハハ!!
突然、演技がかった笑い声が響いた。
それと共に地面の下から二人の人物が現れた。
「……出し抜かれた気分はどうだね? スパンダム主官殿」
「――ギ、ギルド・テゾーロ!?」
スパンダムの元に、ピンクのダブルスーツを着こなした男――テゾーロが現れた。彼の隣にはタナカさんもいる。
「全く、伝説の船大工を排除しようとは……彼の造船技術の素晴らしさがわからないのか?」
司法船襲撃というスパンダム達の謀略を知ったテゾーロ達は、たった一週間であらゆる手段を用いて手を回した。
まずテゾーロはサイと共に小型船を全て破壊して海に沈めた。真夜中に行えば音しかわからず、たとえ聞かれたとしても「波にやられた」や「海王類に沈められた」といった理由で丸め込むことも可能だ。そもそも武装した小型船を海岸に放置している時点でおかしいのだから、何が起きてもおかしくはない。
次に行ったのはコネを用いた手回しで、最初にトムの裁判を担当した裁判長とサイのかつての先輩であるCP9のラスキーに情報を提供した。裁判長に
手回しはそれだけでなく、海軍にも情報を流し、次期大将候補ともてはやされたボルサリーノとその部下であるストロベリー少将を動かした。二人は〝
「て、てめェ!! 謀りやがったな!? このおれを誰だと思ってる!?」
「それは貴様だ、スパンダム主官」
別の声が響いた。
スパンダム達は声がした真後ろを振り向くと、そこには煙草を咥えたヤクザみたいな海兵と長い頭で軍帽を被った海兵が部下達を連れて立っていた。ボルサリーノとストロベリーである。
「貴様の所業はすでに政府中枢にも伝わっている。大人しく拘束されてもらおう」
「わっしらもそんなに甘くねェんだよォ~……!」
「な、ななな……!!」
淡々と死刑宣告を告げる二人。
ボルサリーノは微笑みながら言っているため、余計に恐ろしく感じる。もはやヤクザの脅しである。
「エンターテインメントは、用意周到な準備が必要だ。少しでも狂いが生じれば全体が狂い瓦解する……「念には念を入れよ」ということわざは知っているだろう? アレは実に理に適っている」
四面楚歌のスパンダム達を嫌らしく追い詰めるテゾーロ達。
己の謀略が世界政府に知られ、海軍とタッグを組んで包囲網を敷き止めを刺しに来る。どう考えてもテゾーロの勝利だった。
「ま、待て!! おれ達は何もしてねェぞ、証拠も無しに拘束していいのか!?」
スパンダムが咄嗟に異議を唱えた。
実を言うと、テゾーロ達は言い逃れも不可能なぐらいに証拠を押さえられてるという訳ではない。CP5が裏で暗躍していたという決定的な証拠を示さなければ、拘束されることは無い。そうスパンダムは考えたのだ。
「確かにこれといった証拠は我々の手元には無い」
「なら――」
「だが五老星から直々に逮捕命令は出ている」
ストロベリーが告げた一言で、スパンダム達の顔色はあっという間に青くなっていく。
五老星は世界政府の最高権力者。海軍本部元帥も彼らの前では中間管理職に過ぎず、サイファーポールや海軍に絶対的な意思決定を下せる。そんな彼らが直々に逮捕命令を出すということは、スパンダムの計画は世界政府の頂点にまで伝わったという意味でもある。
「罪状は司法船襲撃未遂及び造船技師トムへの虚偽告訴……理解できるな?」
「ま、待ってくれ!! おれ達は五老星から命令を受けているんだぞ!!」
「それはプルトンの設計図の回収だろう?」
テゾーロが発した言葉に、スパンダムは目を見張り汗だくになる。
何とスパンダムの謀略の真の目的までもがテゾーロに筒抜けだったのだ。ボルサリーノ達もそんな爆弾発言について驚きもしないので、海軍側にもバレているのだろう。
「古代兵器プルトンの設計図……そんな代物が実在するのかどうかはさておき、貴様は一つ勘違いしている」
「な、何だと……!?」
「五老星は命令したのではなく
ストロベリーに段々追い詰められていくスパンダム達。そのあまりにも可哀想な彼らにテゾーロは「これはツライなァ」とこっそり呟いてしまう。
しかしスパンダム達がやらかそうとしたのは、一歩間違えれば世界政府の信頼と威厳を損ないかねない程の事。そんな彼らに遠慮など要らない。
「――ではボルサリーノ中将、ストロベリー少将。後は頼みます」
「おォ、あとは任せなよォ~……じゃあストロベリー、とっとと終わらせるかァ~」
「はっ! 全員、スパンダム達を拘束せよ!!」
「ま、待て!! やめろォォ!!」
こうして、トムが無罪になった傍らで人知れず謀略が阻止された。
後にウォーターセブンではトムズワーカーズを前身とした「ガレーラ・カンパニー」が設立、世界政府御用達の造船企業として成長していくことになる。
今思うと、これは司法船襲撃未遂事件でしたね。
タイトル変えた方がいいだろという方は感想にどうぞ。
次回辺りで、やっとマリージョアが……!
乞うご期待。