ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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この小説でまだ回収しきれてない伏線がある気が……。



第93話〝聖地マリージョア襲撃事件・後編〟

 燃え盛る城と町。炎で夜空は真っ赤に染まり、建物が焼け落ちていく。

 その中で、タタラとアオハルは負傷した住人やマリージョア常勤の海兵、衛兵の応急手当をしつつ話し合っていた。

「迂闊でした、彼がまさかあんな形で侵入するとは……!」

「ヤマ張りすぎたね……おれも素手でよじ登る(・・・・・・・)のはお互い想定の範囲外だったよ」

 タタラとアオハルは当初、厳重な警備ゆえにタイガーは衛兵になりすまして侵入するだろうと考えていた。聖地マリージョアへは〝赤い土の大陸(レッドライン)〟を挟む〝赤い港(レッドポート)〟という巨大な港からシャボン玉で飛ぶリフト「ボンドラ」によって出入りする。その上で海兵や護衛達にバレないように侵入するには、衛兵になりすました方が都合がいいからだ。

 だが、実際は大きく違った。何とタイガーは〝赤い土の大陸(レッドライン)〟の断崖絶壁を素手で登り切り、かなり遠回りにマリージョアへと侵入した。恐らく正面突破だと阻害される可能性が高いと読んだのだろう。いくら魚人でも雲を突き抜ける程の標高(たかさ)であるあの赤い壁を岩壁登攀(ロッククライミング)で侵入は想像だにしておらず対応が遅れたのだ。

「やむを得ません。襲撃犯探しの前に、救える命を救いましょう」

 タタラは額の包帯を(ほど)いて唯一潰れていない「第三の目」を露わにすると、額の目の瞳孔が開き、それに合わせてタタラも顔を動かし色々な方角を見始めた。

 その行動に首を傾げたアオハルは、タタラに質す。

「……何してんの?」

「私の「真の開眼」をした額の目は透視ができます。それなりの短所こそありますが、〝見聞色〟の覇気と併用すれば全てを見ることができるので、こういう時に使えるかと」

 額に第三の目を持つ三つ目族は、「真の開眼」をすると特殊な能力を得られるという。純粋な三つ目族であるタタラの場合は透視ができる。範囲は限られている上に遠ければ遠い程精度が低くなるという短所はあるが、建物の裏に隠れている人間の姿・形を把握できるのは今回の非常時にうってつけだ。

「逃げ遅れた人はいないようですね……次へ行きましょう」

「天竜人は放置していいかな?」

「さすがにマズイでしょう、財団の信頼に関わるんですし」

 アオハルは不快感を露わにしつつも、タタラと共に聖地を駆け抜ける。

 人間は勿論のこと、魚人族や人魚族、手長族に足長族、巨人族、小人族……あらゆる人種の奴隷達とすれ違う。タタラのような三つ目族は人間(ヒューマン)オークションの相場リストにも載っていないからか、誰一人と見当たらない。

「タタラ……」

「ええ……同胞は捕まっていないようですね」

 穏やかな笑みを浮かべるタタラ。

 その時――

「は、放して!! 自由になれたのに!!」

「うるさい、奴隷風情が!!」

 タタラとアオハルの目の前で、男達が美少女三人組を引っ張っていた。

 海軍の軍服やコートを身に纏っておらず、ましてや衛兵のような鎧姿でもないため、恐らくサイファーポールといった政府の役人か天竜人の使用人だろう。

「……ったく、しょうがないなァ」

 アオハルはいつものどこか気怠げな目を鋭くさせ、睨みつけた。

 その直後、凄まじい圧が男達に襲い掛かった。その圧を食らった男達は一斉に泡を吹き、白目を剥いて倒れた。

「アオハル……!?」

「おれだって半端者じゃないさ。それなりの鍛錬はしているよ」

 そう、アオハルもまたテゾーロ同様〝覇王色〟の持ち主なのだ。

 〝覇王色〟は熟練した者が扱えば、使うタイミングから威力、威圧する対象、さらには影響が及ぶ範囲をも制御することができる。アオハルは普段こそやる気が抜けていたりどこか飄々としているみたいだが、れっきとした武人であるのだ。

「……そこの御三方。早く逃げてください」

「あ、あなたは……」

「礼など結構です、今は生き延びることを」

 三人組の美少女はタタラに短く頭を下げ、全速力で逃げていった。

「さて、あとは建物内――っ!? アオハル!」

「っ!」

 崩れ落ちる建物内で負傷者の捜索をしようとした矢先、二人の背後に大きな影が差した。

 そして僅かに漏れた殺気に気づき、一斉に避けて得物を構え距離を取る。

「……海軍、ではないな」

 影の正体は、大砲(バズーカ)や剣、拳銃などで完全武装した赤い肌の魚人。それも高身長のアオハルやタタラですら見上げてしまう程の巨漢だ。

「アオハル、彼が実行犯の……」

「ああ……フィッシャー・タイガーだ」

 対峙する三人。

 タタラは第三の目で睨みつけ、アオハルは覇気で威嚇するが、それに対し何の動揺もしていないタイガーはさすがと言ったところだろう。

「海兵でも天竜人共の従者でもないようだが……おれの邪魔をするなら、容赦しねェぞ!」

「因果な商売なんです、我々テゾーロ財団にも面子があるので」

「ならば、是が非でも通させてもらう!!」

 タイガーは手にしていた剣を振るい、一気に距離を詰める。

 狙ったのは、タタラだ。

「フンッ!」

 タイガーは剣を振るい、タタラはそれを仕込み杖で受け止めた。

 斬撃だけでなく魚人本来の怪力も受けたため地面が少し陥没し、タタラは踏ん張ってどうにか耐える。

「ぐっ……!」

「タタラ! 今助ける!」

 

 ブウゥン!!

 

 アオハルは愛刀を抜くと刀身にビームを纏わせ、伸ばしながら横一文字に薙ぎ払った。

 タタラを避けるように放たれた高熱を放つ一太刀はタイガーを狙うが、彼はそれをうまく躱した。

 

 ゴパァァ!!

 

「あっ……」

 ――が、そのせいでビームの刃はパンゲア城の厚い外壁をごっそり抉り溶かしてしまう。

「あ~……やっちゃった……」

「やっちゃったって――ちょ、何やってるんですか!? アオハルっ!!」

「いや、今の不可抗力でしょ……」

 タタラに叱責されるアオハル。

(何という威力だ……)

 一方のタイガーはアオハルの能力を目の当たりにし、冷や汗を流した。あのまま避けきれずに直撃していれば、火傷どころか最悪の場合胴体が真っ二つに焼き切られて即死する可能性もあった。

 心して掛からねばならない――そう判断したタイガーは、距離を取って間合いをはかるように構える。だが勝負はいきなり思わぬ形で終わることになる。

「!! アオハル、海軍が到着したようですよ」

「!」

 海軍が駆けつけたのを察知したタタラ。

 するとアオハルが黒電伝虫――盗聴用の非常に小さい電伝虫――を取りだし、通信の傍受を始めた。

《……ザザ――逃げ出し……奴隷な………》

「ハァ……ったく、肝心な時に困るよなァ」

「仕方ないですよ。色んな電波が飛び交ってるからじゃないですか?」

 盗聴用の黒電伝虫は他の電伝虫の電波を傍受できるはずなのだが、電波が悪いのかそれとも色んな電波を受信してるせいなのかよく聞き取れない。

 しかし、そんな中とても重要な電波の盗聴に成功した。

《……奴隷など………ザザ――どうなってもいい……え!!》

《奴隷なん――ザザ………早く助けるアマス!!》

「「!」」

 その内容に目を見開く二人。

 今の声は、その独特な語尾から天竜人の声だろう。その天竜人が「奴隷などどうなってもいい」「早く助けろ」と命令しているのだ。

 恐らく海軍が最優先する行動は天竜人の保護であり、奴隷や暴れ回る目の前の実行犯など後回しにするということなのだろう。奴隷達にとっては願ったり叶ったりだ。

「……退くとしようか」

「そうしましょう」

「何?」

 あっさりと退却しようとする二人に、怪訝な表情を浮かべるタイガーだが……。

「天竜人の命は絶対(・・)なんだ」

 アオハルは含み笑いを浮かべると、その真意を理解したタイガーは「そうか」と笑った。

 天竜人の命に逆らうこと――それはすなわち、(あら)(ひと)(がみ)の神命に逆らい世界に仇なすことを意味する。逆を言えば、襲撃の実行犯たるタイガーとマリージョアから逃げた奴隷を捕まえなかったことへの口実にもなる。天竜人の命令は政府の役人は勿論のこと、海軍もサイファーポールも従うので、たとえテゾーロ財団が政府から咎められても「天竜人の命を護ることが最優先」と告げればそれ以上の追及はされないという訳だ。

「……この言質を有効活用させてもらうとしよっか」

「ええ……ですが」

 仕込み杖を鞘に納めたタタラが、タイガーに忠告した。

「タイガーさん、これだけは言っておきます。あなたは形はどうあれ〝奴隷解放〟という偉業を成し遂げた英雄と同胞達から呼ばれるのは明白ですが、これは天竜人に刃を向けたことと同じ行為――これからは修羅の道で、心の奥の「鬼」との戦いが始まることでしょう……その「鬼」に勝てる自信がありますか?」

 その言葉に、タイガーは動揺した。

 タイガーは天竜人の奴隷だった過去があるゆえに、人間への恨みを消すことができずに人生を終わらせることもあり得る。人間の狂気と差別意識を知ってしまった彼は、どれ程の心優しい善人に会っても人間を憎悪する「鬼」が邪魔をすることだろう。

 タタラはタイガーに、その「鬼」を打ち負かせるのかと質したのだ。負の感情の連鎖を止め、次代が人間と和平し仲良くできる未来の為に。

「……おれはおれの心の中にいる「鬼」には決して屈さない。人間(おまえら)のようにはならない!!」

「……そうですか。それでいいんです」

「っ……!」

 微笑むタタラに、タイガーは目を見開く。

「……話は済んだ?」

「ええ――では行きましょう、アオハル」

 二人は顔を見合わせ、逃げ遅れた人々を助けるべく燃え盛る建物へと突入した。

 タイガーはその背中を黙って見届け、マリージョアから脱出すべく踵を返した。

 

 

 翌日、新聞を介し世界中を震撼させるニュースが広まった。

 魚人フィッシャー・タイガーによる「聖地マリージョア襲撃事件」――この世界の「禁止事項(タブー)」を犯し、たった一人で乗り込み奴隷解放を行った彼はすぐに指名手配された。

 この事件を機に、世界政府は大きく体制を変えることとなる。

 

 

           *

 

 

 シャボンディ諸島のテゾーロ財団支部。

 テゾーロにシャボンディ諸島の事務所に来るよう伝えられたタタラとアオハルは、昨日の一件の報告をしに来たのだが……。

「――お疲れさん。仕事は済んだようだな」

「!?」

「この人達は……」

 労いの言葉を掛けられた二人は、驚愕した。

 何と首輪や手錠をかけられた者達が、テゾーロの前で列を作り並んでいたのだ。

「テゾーロさん、まさか……鍵を!?」

「能力は使いようってやつだ。これくらい造作も無い」

 液体状の黄金を流し、元奴隷達の首輪や手錠を外すテゾーロ。彼はゴルゴルの能力を応用し、指輪を融かして鍵穴に流し込み解除しているのだ。

「元奴隷達は、どうするおつもりですか」

「故郷へ届けるか、おれのグラン・テゾーロ計画に与するかのどちらかだな」

 テゾーロは元奴隷達に、選択肢を与えたという。

 一つは故郷へ帰ること。帰り方は近ければ自力で、遠ければテゾーロ財団が送り届けるというもので、純粋な慈善事業である。テゾーロの尽力により人攫いの数も激減し、政府も襲撃後の対応に追われているので今がチャンスだろう。

 そしてもう一つは、グラン・テゾーロ計画に協力すること。これはテゾーロが開発している島に住民として住むことであり、国家樹立の為に移民として受け入れるという意味でもある。こちらは故郷がわからない者や親に捨てられた者などへの対応も兼ねている。

「報告は必要無い。大方、天竜人の救助要請を口実にタイガーを見逃したんだろ?」

「「っ!!」」

「おれはそれを責めやしないし、政府も責めようがねェだろ? 神に逆らう暴れん坊が二人も増えたら後始末が面倒だろうし、元々は政府の因果応報だからな」

 政府を嘲笑する言葉と共に喉を鳴らして笑うテゾーロ。

 元奴隷達の首輪と手錠を全て解除すると、二人にある仕事を与えた。

「さてと。お前ら、そこの別嬪(べっぴん)三人組をレイリーさんトコに連れてってくれないか?」

「え――」

「お前らなら、多少は心を許せるだろう」

 テゾーロが指を差すと、その先には昨日会ったあの美少女三人組だった。

「……無事だったのですね!」

「よくここまで……」

 三人との再会にタタラは思わず喜び、アオハルも安堵する。

「おれはまだやるべき仕事がある、その子らは頼んだぞ」

「ええ、お任せを」

 タタラとアオハルは、三人組を連れて事務所から出た。

(さてと……これでまた暫く海が荒れるから気ィ抜かねェようにしねェとな)

 テゾーロは今後の世界の変革を感じ取ったのか、愉快そうに笑った。




次回もタイガーのネタです。
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