ONE PIECE ~アナザー・エンターテインメンツ~   作:悪魔さん

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ここいらから新章「魚人差別撤廃編」です。


魚人差別撤廃編
第95話〝成功への架け橋〟


 終焉とは、思わぬ形で訪れるものである。

 それがたとえ、この世界に大きな変化をもたらす一大事業でも。

「あ! 島だ!!」

 テキーラウルフで、希望の言葉が響いた。

 労働者達は作業をやめ、慌てて海を見る。声の主である見張りの少年が指差す先には、小さいが島のような影が。

「ああ……ようやくだ、ようやく完成(ゴール)だっ!!」

 労働者達は歓喜した。

 テゾーロの尽力と各国の――利権目的が多い――支援により、永久に完成しないと思われたテキーラウルフの橋がようやく完成しようとしている。700年も掛けてなお完成しなかった工事が、ついに終わろうとしている。

 それだけで、労働者達の心が晴れていく。だが――

「マズイぞ、資材が足りない!」

『!?』

 

 

 テゾーロ財団、新世界仮設事務所。

 工事が進む中、事務所ではテゾーロが電伝虫で作業現場の監督をしているシードと会話していた。

「成程……それでおれに電話を寄越したと」

《はい、すいません……》

「あ~、いいって。おれも色々とやってたし」

 テゾーロは頭を掻きながら応対する。

 テキーラウルフのあの巨大な橋はあともう少しで完成するのだが、ここへ来て資材が少なくなり島まで繋げることができなくなった。工事ではよくあることだが、労働者の心にダメージを負わせるには十分だろう。

「あともう少しって時に……!」

「そううまく行ったら、世の中つまらないけどね」

「それはそうだが……」

 グラン・テゾーロ計画の進行を進めている今、幹部達は一部遠方に出かけている。

 シードは酪農を学びたいとテゾーロに志願していたため、お望み通り叶えて〝東の海(イーストブルー)〟へと向かわせたが、シードは組織の中でもオールマイティな人間――海軍将校の経歴があるためチビではあるが事務も力仕事も得意だったのが仇となり通常業務で書類が溜まりやすくなった。ジンに試しにやらせてみたが、元々ワノ国で浪人暮らしが長かった分「学」が少ないため書類一枚こなすのに時間がかかる。そのため現場に飛ばされたということもあり、思わぬところで小さなブレーキがかかっているのが現状。

 アオハルは情報収集の為に〝偉大なる航路(グランドライン)〟から離れており、人手も足りない。

「資材が足りない、労働者も疲弊しきっている……じゃあ区切れもいいからそこで事業終了とするか」

《え?》

『は!?』

 テゾーロの大胆な提案に騒然とする。

 資材が足りないとはいえ、ここで易々と事業を終えるというのだ。

「世界政府は「島と島をつなぐ巨大な橋を造れ」とは言ってたが、もうそこまでくれば橋じゃなくても大目に見るさ……厳密に言うと大目に見させる(・・・・・・・)だけど」

《……》

「それに今ちょうど橋をこれ以上増築しなくてもいいのがあるしな」

「海列車か……!」

 そう、テゾーロは万が一を見越して海列車をテキーラウルフに敷くプランを用意していた。

 テキーラウルフ周辺の海域の天気は常に曇天かつ雪が降っているのだが、波は常に穏やかで風も弱く、海列車を敷くには絶好のスポットでもあるのだ。残された資材で海列車の駅を造り、そこにレールを敷けば島まで繋ぐことは可能……〝偉大なる航路(グランドライン)〟以外の海では初導入というPRもでき、一石二鳥だ。

「最後の任務だ、海列車の駅を造れ。デザインとかは全部そっちに任せる、おれは今から魚人島に向かわなきゃならない」

《魚人島? あの人魚で有名な?》

「ああ、そうだ」

 テゾーロは湯呑みのお茶を口に含む。

 フィッシャー・タイガーの一件から、テゾーロは世界政府――それも五老星から直々――に魚人島のリュウグウ王国へ向かうよう頼まれた。その目的は、タイガーのような危険な行動に走りやすい魚人・人魚を取り締まる政策を実施するようリュウグウ王国側に伝えるためである。

 テゾーロは「対応が間違ってる」だの「加盟国の統治に介入していいのか」だの愚痴を零しつつも、リュウグウ王国のオトヒメ王妃と出会えるまたとない機会でもあるだろうと考え承諾した。

「悪いな、今回は政府の思惑も絡んでいるからどうしても行かなきゃならない」

《そんなことが……いえ、テゾーロさんに大事な用があるのなら、そちらを優先するべきですね》

「すまん。あとは任せるぞ、責任は全ておれが取る」

《はい、必ずや期待に応えます》

 テゾーロは通話を終えると、着替え始めた。

「ギル(にい)、誰連れてく?」

「今回は少なくていいだろう、魚人島には屈強な兵士もいる。……そうだな、メロヌスとハヤトを連れてくとしよう」

 羽毛付きのロングコートに袖を通し、紅色の羽毛のストールをかける。

 メロヌスとハヤトはテゾーロの着替えが終わったのを確認すると、得物を携えて立ち上がる。

「副理事長やサイは連れてかなくてもいいのか?」

「確かにそうだな……」

「いや、今回は顔合わせ的なノリだ、もっと大きな仕事になったら呼ぶさ」

 テゾーロはメロヌスとハヤトと言葉を交わしつつ、仮設事務所の扉を開け外へ出た。

 

 

           *

 

 

 テゾーロ達は予め待ち合わせていたリュウグウ王国の軍隊「ネプチューン軍」の手引きで、魚人島へ到着した。

「これが……魚人島か」

「いつも〝上〟を通るからな、下は初めてだ」

「噂通りの美しい光景(エンターテインメンツ)だ、さぞかし()い統治をしているのだろうな」

 〝赤い土の大陸(レッドライン)〟の真下、海底1万m《メートル》に存在するリュウグウ王国の本島・魚人島は、「海底の楽園」と言われる〝偉大なる航路(グランドライン)〟の名所である。世経こと世界経済新聞でも観光名所だと大々的に宣伝しているので、経済的にも潤っているのだろう。魚人と人魚が仲良くしている場面もあり、人種差別が根強く残っているとは到底思えない風景だ。

 そんなことを考えていると、ナマズの人魚が現れ声を掛けてきた。

「貴様がギルド・テゾーロか。よくぞ来てくれたな」

「あなたは……」

「リュウグウ王国の左大臣を務めている。早速だが、諸君らを竜宮城へ案内する」

「竜宮城? 城なんかどこに――」

「ハヤト、上だ」

 テゾーロが指差す先には、はるか上空にあるシャボン玉にある豪華で美しく立派な王宮が。

「あそこか……」

「さあ、王と王妃がお待ちかねだ」

 

 

 十分後、竜宮城にて。

 左大臣に連れられたテゾーロ一行は、魚人島を統治するネプチューン王とその正妻であるオトヒメ王妃と邂逅していた。

「フム……お主がギルド・テゾーロか? わしはネプチューンじゃもん」

「オトヒメです、どうぞよろしく」

「テゾーロ財団理事長のギルド・テゾーロと申します。後ろの二人は銃を持ってる方がメロヌス、刀を背負ってるのがハヤトです」

 サングラスを外したテゾーロはメロヌスとハヤトを紹介し、それに応じるかのように二人は一礼する。

「うむ、遠路はるばる大儀じゃもん。魚人島の王としてお主らを歓迎するぞ」

「ええ、では早速お話でも……」

 テゾーロはそう言うと黄金の指輪を一つ外し、宙へ投げてから能力を発動する。

 指輪は融け、床に落ちると黄金のベンチが出来上がる。

「お主、能力者か……!?」

「私は〝ゴルゴルの実〟の能力者。黄金を自在に操る男です」

 黄金製のベンチに並んで座り、テゾーロは口を開く。

「では……私達が来た目的を話しましょう」

 テゾーロは落ち着いた様子で、危険な行動に走りやすい魚人・人魚を取り締まる政策を実施するよう世界政府がリュウグウ王国に要求していることを伝える。

 それに対しネプチューンとオトヒメは、激昂することもなく呆れることもなく、ただ静かに聞いていた。おそらく、二人も政府から何かしらの要求を突きつけられるのを覚悟していたのだろう。

「……」

「まァ当然と言えば当然じゃもん……タイガーの奴隷解放を黙ってくれる程、世界政府は甘くないのじゃもん」

「奴隷はまかり通るが奴隷解放は罪……全くけしからん話です」

 テゾーロは「懐の狭い連中だ」と愚痴を零す。

 その時、メロヌスは何かに気づいたのかオトヒメを見ながら口を開いた。

「話に割って入って悪いが……オトヒメ王妃」

「え?」

「あんた……どこか疲れてないか?」

 メロヌスの指摘が図星だったのか、オトヒメの目が泳いだ。

 わかりやすい人だと内心笑いそうになるも、メロヌスは続けて言う。

「野郎だらけの状況で無理をしなくてもいいんだぞ。下手に倒れられたらおれ達がやったと誤解されるからな」

「中々勘が鋭いなお主。じゃがそれも当然……」

 ネプチューンは溜め息を吐きながらオトヒメの事情を話した。

 オトヒメは魚人に対する差別を政治的な面から解決して人間との共存を目指しており、難破船の人命救助や島の子供達への教育、街頭演説に署名活動と意欲的に行動し続けている。ただし肉体は全力で平手打ちをしただけで手を複雑骨折するなど非常に脆弱であり、万が一の事が起きたらどうするのかと夫たるネプチューン自身も肝を冷やすことも多いという。

 自己犠牲も厭わず他者を助ける慈愛に溢れた人柄は国民から深く愛されてはいるが、目標の為に途中で命にかかわるような事に巻き込まれたら溜まったものではないだろう。

「……」

「オトヒメの夢見る世界は、遥か数百年昔、我々の先祖達が試みて……無念のまま潰えた夢そのものなのじゃもん」

「私は彼らと同じタイヨウの下に王国を移したいの。人間達が私達を理解してくれる日を待つのではなく、こちらが彼らに寄り添い知らねばならない」

 オトヒメの行動は常に危険と隣り合わせであるが、彼女はそれも覚悟の上であった。全ては、人間と魚人・人魚の負の歴史に終止符を打ち、子供達が人間と仲良く暮らせる明るい未来の為にである。

 そんなオトヒメの事情を知ったテゾーロ達は……。

「なあ、理事長……」

「これって、もしかして……」

「うん、できるっちゃできるよね」

「何じゃと!?」

「それは本当なの!?」

 テゾーロ曰く、テゾーロ財団は国家樹立を目的とした「グラン・テゾーロ計画」を進行中であり、ある程度骨組みができたら世界中の人々に移住先として募集をかけるつもりであったという。国は人がいなければ成り立たないからだ。

 オトヒメの人間との共存は、グラン・テゾーロ計画をもってすれば案外叶いやすいのだ。

「しかし、テゾーロ……魚人族と人魚族の偏見が……」

「それなら心配ないですよ。今マリージョアから抜け出した元奴隷の皆さんを抱えてるんで」

 さりげなく言ったテゾーロの言葉に、再び驚くネプチューンとオトヒメ。

 タイガーが起こした襲撃事件によってマリージョアを抜けてきた多くの奴隷達ならば、虐げられてきたという面では似たようなことがある魚人族・人魚族と心を通わせられるのかもしれない。

「使える資源は何でも使い、やれることは何でもやる。それもまた成功への架け橋ですよ」

「……そうですね、あなたの言う通りです」

 オトヒメはそういうや否や、テゾーロ達に頭を下げた。

「王妃……?」

「お願いがあります……マリージョアの天竜人達を、魚人族と人間との交友の為に説得してくれませんか」

 オトヒメはテゾーロに、天竜人達への説得を頼んだ。

 魚人島から地上移住という人間との共存を達成するには、この世の権力の頂点である天竜人の賛同が必要で、天竜人の後押しがあればきっと移住は可能になると考えたからだろう。

「……わかりました。一応知り合いの天竜人には掛け合ってみます」

「何と……天竜人とも繋がりが!?」

「ええ、際立ってマシな感性の持ち主ですのでご安心を」

 テゾーロは朗らかに笑うと、手を差し伸べた。

「……古い時代を終わらせる時が来ました。それを終わらせることができるのはあなたです、オトヒメ王妃」

「……人間と魚人・人魚の共存の為、お互い頑張りましょう」

 テゾーロとオトヒメは、握手を交わした。

 その光景を見ていたネプチューンは、穏やかに微笑んだ。




原作をチマチマとチェックしてますけど、カイドウって意外と人間味あるキャラのように思えました。(笑)

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