艦隊これくしょん ー空に誓った約束ー   作:ジャスSS

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第十話 唯一

――「加賀。 作戦会議の時に言ったこと、覚えてるよな?」

 

夏を強く感じる七月の下旬。

 

学生達は既に夏休みに入っており、多くの学生の声が聞こえるようになった。

 

しかし、新潟鎮守府の艦娘達にはそのようなルールは一切なく、むしろ大事な場面を迎えようとしている。

 

「提督……さすがに忘れるわけありませんよ」

 

加賀のツッコミが入ったような言葉。

 

切れがある、と錯覚させる程の。

 

「ブリーフィングでは何度も確認しています。 それに、こういう場面は何度も経験しています」

 

吹雪とは別の意味で頼れる存在となっていた加賀。

 

その経験は、新潟鎮守府に直接注入している。

 

「だよな……よし、信頼しよう。 加賀のこと」

 

信頼――この言葉を発した瞬間、海原の脳にある外国語が思い浮かんだ。

 

(Βерньιй……この世界にもいるのかな……)

 

「さて、提督。 そんなこんなであっち側も終わったみたいですが」

 

加賀は視線を向こう岸に向ける。

 

そこには、吹雪ら軽巡以下の艦娘達。

 

加賀が視線を送ると、彼女達の内の一人、神通が手を振った。

 

「……準備が出来たようですね。 では、彼女達が来てから、抜錨しようと思います」

 

「……そうか、行ってしまうのか」

 

どこか感慨深く考える海原。

 

だが、この情景は、今後何度も見ていくはずだが――

 

「……生きて帰ってこいよ」

 

「……その言葉、出撃の時いつも言ってますね」

 

そう。

 

海原は艦隊の出撃の際、常に"生きて帰ってこいよ"と言う。

 

一種のルーティーンのようなものなのか、どうなのか。

 

「大丈夫です。 いつもそう言っては帰ってきているので」

 

「……お前、吹雪に似てきたな」

 

「そうですかね? ……と、そろそろですかね」

 

日に日に吹雪らしくなっている加賀。

 

あまりその類いの話をしたくなきのか、話を避け、出発しようとする。

 

「……皆、大丈夫?」

 

加賀の問いに、一人一人が応答を続ける。

 

全ての艦娘の準備が完了していることを確認した加賀は、錨を抜く作業を行う。

 

その目には、さっきまでの余裕顔はなくなり、凛とした顔となっていた。

 

「……では、行きましょう。 新潟艦隊、抜錨」

 

加賀が抜錨するのと同時に、駆逐艦、軽巡達も抜錨を開始。

 

そのまま大海原へと向かい、進めていった。

 

「……信じます。 彼女達のこと」

 

海原と同じような言葉を発する。

 

言葉の発信源は、秘書艦吹雪。

 

「……お前は俺に似てきたか?」

 

「……?」

 

「いや、忘れろ」

 

しかし、吹雪はその言葉を忘れることは出来なかったのである。

 

その高い知能によって――

 

「……んじゃ、戻るか」

 

 

 

 

 

――日本海の洋上を走る五人の艦娘。

 

彼女らは新潟鎮守府の艦娘達である。

 

宗谷海峡へと向かっている艦隊は、既に北海道の近くを進んでおり、あと二時間半後に宗谷海峡の佐渡鎮守府艦隊と合流する見込みだ。

 

「加賀さん。 艦娘に囲まれて守られる気分はどうですか?」

 

輪形陣を組む新潟艦隊。

 

その中央に位置するのは、鎮守府唯一の正規空母、加賀だ。

 

「そうねえ……不快な気分――ではないけど、いい気分ではないわね」

 

長良から投げ掛けられた質問に、丁寧に答えた。

 

加賀の言葉には、嘘偽りが一切ないように感じられる。

 

「……そうですか」

 

「どうしたの? 確かに、今回初めて輪形陣を組んだけども」

 

長良の素っ気ない返事に、違和感を覚える加賀。

 

その考えは、他の艦娘も同様であった。

 

「長良さん……珍しい質問ですね」

 

睦月型駆逐艦の二番艦、如月の問い。

 

同じ駆逐艦の深雪とは違い、大人しいながらも、年齢に似合わぬ色気を持つ艦娘である。

 

「いや、昨日見た本の中にですね、輪形陣の際に真ん中に居座る空母は、様々な感情を抱くとのことで……」

 

「なるほどね。 それで、一番身近にいる私に聞いたと」

 

「あ、はい……」

 

笑いを含む声で話す加賀とは対照的な、長良の声。

 

長良の正確な感情は測り知れないが、良い気分ではないこは確かだ。

 

「……私は責めないわ。艦娘の感情を知りたいということは今後にも繋がることよ。 この《艦娘》という仕事はチームワークが必要不可欠よ。 そういう意味では重要なことよ」

 

長良に向け、優しい言葉を発する加賀。

 

加賀の心中を理解した長良は、安堵の声をもらす。

 

「は~……危うくでした」

 

「良かったな、長良!」

 

深雪が勢い良く話に割り込む。

 

この艦隊の中において、深雪は誰にも敬語を使わない唯一の艦娘であった。

 

だが、その深雪に対して不満を持つものは誰もいない。

 

「戦う前に、体力を消費した気がします……」

 

「あら、じゃあ帰ったら提督にそのことを報告しないと。 長良は戦う前に体力を使い果たしたと」

 

「え、ええええええ!!!」

 

楽しそうに長良に話した加賀と、それに対し愕然とする長良。

 

その掛け合いに、周りは思わず笑ってしまう。

 

「……と、この話はもう止めなきゃいけないわね……」

 

突如、加賀が真面目な声で艦隊に呼び掛けた。

 

それに呼応するように、全艦娘の気持ちが変わる。

 

「どうしたの?」

 

深雪が好奇心旺盛な子供のように質問した。

 

「恐らく、そろそろ皆さんの所にも届くでしょう」

 

「ということは……電文?」

 

スマートフォンなどの普及が進んだこの時代。

 

そんなこの時代において、艦隊への連絡手段は軍事用に改造されたタブレットを持ち歩いている。

 

「……あ、来ました」

 

「こちらも」

 

加賀より遅れて、軽巡の二人に、電文が届けられる。

 

「……これはまずいことになりましたね……」

 

一文一句を見逃さず読み終えた神通が呟く。

 

「大丈夫よ。 この状況、ブリーフィングの時確認したじゃない」

 

頼もしく感じる加賀の一声。

 

吹雪らがいないこの状況において、最も信頼でき、信じられるのは、この加賀である。

 

「さて、この状況を持ち直しましょうか」

 

 

 

 

 

――新潟鎮守府の通信室に、二人は座っていた。

 

互いに緊張感を張り詰めさせている。 その理由は勿論――

 

「まあ、加賀達もしっかり確認してるし、心配はないけど……」

 

「やはり、不安なんですか?」

 

不安を煽る話し方をする海原。

 

その話し方を心配したのか、吹雪が話しかける。

 

「……うん」

 

少し間を空けてから答えた。

 

なぜなら、吹雪に強い姿を見せようかどうか、迷っていたから。

 

その心情を察したのか、吹雪が話し掛ける。

 

「大丈夫……と思っておきましょう。 その方が気が楽です」

 

「……だな」

 

か細い声を出す。

 

しかし、その本質には芯を取り戻したように感じる。

 

「まあ、今回はあんまり想定していないことなんですよねえ……まあ、そうなる可能性を提示しただけ、対応はできるのでまだマシですかね」

 

まだ、想定しただけマシ――つまり、普通は想定しない出来事であるということだ。

 

そこまでの出来事が、今加賀達に襲いかかってくるのだ。

 

 

 

 

 

「宗谷海峡に陣取ってた佐渡鎮守府艦隊が敗走……?」

 

怪訝そうな表情をとる如月。

 

事実、目の前の電文は、彼女達のピンチを知らせている。

 

この電文は新潟艦隊全体に届けられ、全ての艦娘が同じように怪訝そうな表情を浮かべさせていた。

 

「詳細を確認します。 宗谷海峡に陣取る佐渡鎮守府は、敵艦隊からの奇襲を受け、敗走中。 三十人ほどの艦隊の内、五隻が轟沈、八隻が大破、七隻が中破。 傷をあまり受けていない艦娘は現在、大破している艦の曳航を行いながら佐渡鎮守府へ撤退中!」

 

「敵艦隊は?」

 

「現在こちらに向かっています!」

 

三十人の艦隊を破った艦隊――それをたった五人でなんとかしなければいけないという事態。

 

まともにぶつかったら、艦隊の壊滅は必至だ。

 

そのような状況の中、旗艦加賀は一人思っていた。

 

(……吹雪、あなたは凄い人だな……)

 

加賀が過去を思い出した。

 

 

 

――作戦会議の時、吹雪はある戦策を披露していた。

 

「私からは二つです。 まず一つ。 これの実行は加賀さんの判断に任せますが、とりあえず言っておきます。 作戦開始から宗谷海峡に着くまで、今までよりスローペースで進むことです」

 

「……ッ!?」

 

吹雪の提案に恐れたのか、思わず吹雪を睨んでしまった加賀。

 

「……先程も言いました通り、これは加賀さんに判断を委ねたいと思います。そして二つ目ですが――」

 

「……待て」

 

吹雪を睨んだ加賀が吹雪を止めた。

 

そのまま、思ったことを話していく。

 

「なぜ、この策を考えたのですか? 遅刻してしまったら、こちらが先に着くまでに敵が来る可能性が――」

 

「もし、敵が宗谷海峡の艦隊に奇襲を仕掛けてきたら……」

 

吹雪の言葉にハッとする。

 

「私達が入ったところで混乱に巻き込まれてしまう……私達がそれを抑えようとしても、彼女達は聞く耳持たずでしょう。 それに、早い内に体力を消耗したくないですし」

 

後述の理由が建前で、前述の理由が本音であると、加賀は察した。

 

しかし、加賀は吹雪の話を止めない。

 

「もう二つ目ですが――」

 

 

 

――「この状況も想定できる新人、か……」

 

一人ふけっていた加賀。 そんな時に――

 

「加賀さん? 加賀さん!」

 

「……ん、ああごめんなさい」

 

長良に叩き起こされる。

 

すると、ふっと微笑み、艦隊へと連絡する。

 

「これより、敵艦隊からの撤退作戦を開始します。 長良、敵艦隊の詳細は?」

 

突如として話す加賀に驚く長良。

 

しかし、それよりも彼女の頭に引っ掛かったのは、加賀が敵艦隊の詳細を知ろうとしていることである。

 

「え、あの、加賀さん……」

 

「長良」

 

加賀の威圧を感じたのか、仕方なく報告する。

 

「あ、はい……情報によると、敵艦隊は恐らく十二隻。 戦艦二隻、重巡三隻、軽巡二隻、駆逐艦五隻となっております。 ですが、まだ確定しておりません」

 

「そう……なら、楽勝ね」

 

余裕のある言葉を発した加賀を、全ての艦娘が不思議に思う。

 

さらに、この言葉はある加賀の考えを示していた。

 

「……え、戦うんですか? 連中と……?」

 

「……? ええ、勿論だけど……」

 

艦隊にざわめき―無線機の中で―が起きる。

 

そのざわめきは加賀も勿論聞いており、それに反応して加賀が口を開く。

 

「敵は今どこ?」

 

「え、恐らくあと一時間後には砲撃を受けると思いますが、それが?」

 

「そう。 じゃあ手短に説明するわね――この撤退作戦での戦いについて」

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