艦隊これくしょん ー空に誓った約束ー   作:ジャスSS

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第十三話 圧倒

――「数日間動いてなかったけど、意外と動けるもんなんだね!」

 

洋上でウォーミングアップ中の瑞鶴が、隣にいる青葉に向けて話す。

 

瑞鶴らが到着した翌日、朝七時に起きた新規着任艦娘らは、ウォーミングアップの後に、基礎練習、応用練習、その後に模擬戦闘を行うという練習スケジュールが組まれていた。

 

この模擬戦闘では、いきなり瑞鶴と加賀の戦闘が予定されている。

 

また、瑞鶴の強い要求により、加賀との戦闘から少し間を空けてから、不知火との模擬戦闘も予定されている。

 

「どう? 調子良い?」

 

「うん。 これなら、加賀さんに――」

 

全て言い終えようとした瞬間、加賀が割り込んできた。

 

「勝てる、とでも思ってるの」

 

突然割り込んだ為か、思わず怯んでしまう。

 

「そんなに驚かなくていいのよ。 私なんて、あなたにすぐ追い抜かされる存在だから」

 

「……! いえいえ。 そんなことは……」

 

加賀の自虐に、フォローを入れる瑞鶴。

 

しかし、加賀の真意をいまいち理解しきれていないようだった。

 

「あら、私は"今"追い抜かされているとは言ってないわ」

 

加賀の真意に気づいた瞬間、瑞鶴は思わず息を飲む。

 

「……つまり、今は私の方が上と」

 

「ええ。 そのつもりで言ったのだけれど」

 

加賀の威圧に、またも怯む瑞鶴。

 

やはり、歴戦の艦娘はオーラが違っていた。

 

「後、あなた、これから私に向けて敬語使うのは無しよ」

 

――やはり、違う。

 

この状況下において、このような事を言う艦娘など、他にいるのだろうか。

 

瑞鶴自身も、この言葉に驚いたのか、出す言葉がない。

 

「また後に」

 

それだけ言うと、加賀はその場を立ち去ってしまった。

 

残されたのは、戸惑っている瑞鶴と、何もできなかった青葉。

 

「……加賀さん、意外とぐいぐい来たね……」

 

青葉自身も、戸惑っていたようだ。

 

しかし、瑞鶴はそれまでの戸惑いの顔から、清々しい顔へと変貌していた。

 

「……なんか、むしろやる気出たんだけど」

 

「それ、なんか瑞鶴らしいねぇ。 そこが強さの秘訣でもあるんだけどさ」

 

瑞鶴に感心する青葉。

 

青葉自身も、横須賀養成所において上位にいた艦娘であるが――

 

「でも、加賀さんの自信の有り様も凄かったよね。 あそこまで自信満々だと、なんか気弱になるっていうか……」

 

「そうね。 確かに、気弱になるかもしれない。 でも私は絶対にならないから」

 

すると、青葉の方を向いて――

 

「"加賀"には負けないから。 絶対に」

 

それまで、常にさん付けしていた加賀に対して、遂にしなくなった。

 

これはすなわち、加賀の言ってたことに同意したことを表していた。

 

それは、瑞鶴の覚悟の証でもある。

 

これより先は、"ライバル"として競うということの――

 

「……実は、最初っから呼び捨てしたかった?」

 

「さあ? どうでしょう?」

 

 

 

 

 

――数時間後、新潟鎮守府の演習海域に、二人の空母が立った。

 

その二人とは勿論、瑞鶴と加賀である。

 

「――なんか、ここは燃えてくるね」

 

その二人から離れた沿岸で見守る海原と吹雪。

 

彼らから見て、左側に瑞鶴、右側に加賀がいる。

 

「え、何故ですか」

 

「まあ、なんと言うか……この二人は、互いにライバル視してるかなぁって」

 

彼の元の世界においては有名なことだが、この世界においてはそんなことは知られてもいない。

 

勿論、吹雪はきょとんとする。

 

「……よし、忘れるんだ」

 

「またですか。 私はそれを後何回――」

 

しかし、途中で言うのを止める。

 

この質問は過去に何度も聞いたことがあるが、一度たりとも答えてはくれなかったのだ。

 

言葉を出すことを止めた吹雪を気になったのか、遂に質問に答えた。

 

「……後百回この言葉を聞き続けてくれ」

 

「後百回ですねって、頭おかしいのではないですか」

 

百回はさすがに多すぎだが、海原は一切の修正を加えようとしない。

 

「まあまあ、もうすぐ演習が始まるみたいだし、演習に集中しようか」

 

やはり、話を切り上げるのを促すようになった。

 

「……はい。 今はこの模擬戦に集中しましょう」

 

この二人の周りには、何人かの艦娘がいるが――そのほとんどが緊張の面持ちだ。

 

それは勿論、この二人の対決だから。

 

海原らのように、談笑している人はいない。

 

「司令官は……この勝負、どちらが勝つと思いますか」

 

吹雪が海原に問う。

 

この勝負の勝敗は、昨日の夕食で最も取り沙汰されたホットトレンドだ。

 

「うーん……する。さすがに加賀だろう。 だって瑞鶴まだ卒業して数日しか経ってないよ。 いくら天才だからと言って、さすがに加賀に勝つなんて……」

 

この意見に吹雪が賛同する。

 

「同意見です。 というより、今思ったんですが、加賀さんもかなりの天才ですよね。 確か、養成所時代の時は一敗しかしてないとか」

 

加賀の武勇伝を語る吹雪。

 

だが、海原にとって疑問だったのは、その一敗は誰に負けた一敗なのか。

 

「そんなこと言われると、誰に負けたのか気になるな」

 

「うーん……詳しくは分からないですが、今は戦死してると聞いたことがあります」

 

今はもう戦死している――海原の脳裏に、昨日の加賀との会話が甦る。

 

あの時、加賀は赤城をどうしたのか――加賀が言っていた、"五年前の新潟鎮守府"は、大事件を巻き起こしていたはず。

 

その中で加賀は赤城を――失ったのか。 そもそも、五年前の事件の詳細がかなり曖昧なのだ。

 

何かあるに違いない――だが、現段階では情報が少なすぎる為、確証は何一つ掴めない。

 

ここで考え続けることは野暮だと思ったのか、ここで思考を停止した。

 

「……な、何か考え事を……?」

 

吹雪に心配される程思案を巡らせていたようだった。

 

慌てて心配を和らげさせる海原。

 

「いや、ちょっとね」

 

先程考えていたことを話す時間はないと考えたのか、切り上げることとする。

 

「……お、始まるな」

 

そうこうしている間にも、模擬戦は始まろうとしている。

 

 

 

――「これより、航空母艦瑞鶴と、航空母艦加賀との模擬戦闘を始める! 両者構えて――始め!」

 

審判を担当する長良の合図によって、模擬戦が始まった。

 

この合図と同時に、瑞鶴、加賀、両者とも一斉に弓を引き絞り、そして射る。

 

「お、加賀はスタンダードな編隊組んだな」

 

「瑞鶴さんはどうやら艦戦多めの編成ですね。 制空権確保の為でしょうか」

 

海原、吹雪らから見て右手に瑞鶴、左手に加賀が立っている。

 

「加賀は元から搭載機数が多い。 瑞鶴とて圧倒的に少ない訳ではないが、数の差はある」

 

瑞鶴の搭載機数が八十四機なのに対し、加賀は十四機多い九十八機の搭載が可能だ。

 

この十四機の差は、少なからず瑞鶴を不利にする。

 

「ですが、そのぐらいの差は技量で十分に埋められるはずです」

 

「そう。 不利とは言え、十分に巻き返せるし。 ただ、その技量が加賀よりも高いかって言われると……」

 

「そこですよね……」

 

数の差で下回っている瑞鶴は、他の面で加賀に対して優位に立つ必要がある。

 

だが、加賀に対して優位に立つ面があるかどうか――

 

「瑞鶴が制空権を取れば、まだ分からないよ?」

 

「……そうですね。 取れれば、の話ですが」

 

 

 

――その頃、鎮守府内の艦娘待機室では――

 

「……不知火、瑞鶴の模擬戦、見ないの?」

 

瑞鶴、青葉らと同じ横須賀養成所出身で、首席の瑞鶴に次ぐ、次席の椅子に座った艦娘、不知火が問われる。

 

「……えぇ。 私は別によいかと。 青葉さんは?」

 

ここで待機している艦娘達は、室内に備え付けられているモニターから勝負を見ていた。

 

「私は見るよ。 だって瑞鶴の夢が叶った勝負なんだよ! ちゃんと友人である青葉が見届けないと!」

 

「……気になったのですが、青葉さんと瑞鶴は、いつから仲良く……?」

 

ここでの不知火の反応は予想外だったらしく、青葉は長い時間思案を巡らす。

 

「……あの」

 

「私と瑞鶴は、共に嫌われ者だった」

 

それだけ言うと、青葉は立ち上がり――

 

「とりあえず今はこれだけ。 文章が纏まってないから」

 

と言うと、その場から立ち去ってしまった。

 

勿論、その行動に不知火は驚き固まる。

 

「瑞鶴と青葉さん……か」

 

そう呟くと、すっと立ち上がり、艤装を取り付けた。

 

 

 

 

 

――「……ッ! 制空権喪失!?」

 

瑞鶴が出した航空隊は四十機。

 

艦戦はその半分の二十機ある。

 

一方、加賀が出した航空隊は三十二機。

 

艦戦はわずか十二機だ。

 

このことはつまり、瑞鶴航空隊と加賀航空隊との錬度にかなりの差があることを示している。

 

「こっちは搭載機数の半分近い数を出してんのに、あっちは三分の一しか出してない……!」

 

災難続きの瑞鶴。

 

しかし、艦戦をあまり積んでいない加賀に制空権を取られたとなると、怖いのは航空攻撃だ。

 

勿論、瑞鶴航空隊の一部は加賀航空隊の弾幕を突破しているだろうが、効果的な攻撃は期待出来ない。

 

「ならば、避けるしかないわね……面白くなってきた!」

 

艦娘としてここに着任するまで、常に圧勝していた瑞鶴。

 

しかし、常に圧勝することは彼女にとってつまらないものであった。

 

そして、遂に戦って楽しい相手に出会えたのである。

 

「でもね……私、負けるわけにはいかいから!」

 

 

 

 

 

――「第二次攻撃隊、発艦始め」

 

加賀が呟きながら、弓を引き絞って射た。

 

この少し前に、瑞鶴航空隊で突破した機体による攻撃が行われたが、数があまりに少ないためか、余裕で避けることができた。

 

「瑞鶴は……なんとか避けられたようね。 そこはやはり、横須賀の首席……でも、この攻撃は避けられるかしら」

 

加賀が放った第二次攻撃隊は、その前の第一次攻撃隊よりも艦爆艦攻の数が増えている。

 

第一次では二十機だったのが、第二次では二十五機となった。

 

「艦戦の多くを落とせたのは予定通り。 後はとにかく攻撃を叩き込めば勝てる」

 

そう、ここまでは加賀にとって作戦通りの結果だった。

 

第一次攻撃隊で艦戦を多く落とし、第二次以降で攻撃機を中心に攻撃に転じる、これが加賀の作戦であった。 加賀は自らの機体達の錬度に絶対の自信を持っていたが、特に自信を持ってたのは艦戦。

 

自ら全国トップクラスと自負しており、実際、佐渡鎮守府との演習の際には、七十二機の艦戦に対し、半数の三十六機で迎撃、なんと制空権の確保に成功した。

 

今回は十機で二十機の艦戦を撃破しすることに成功したのである。

 

そして、制空権を確保した状態で艦爆艦攻を沢山入れた第二次攻撃隊で勝負を決することとしたのである。

 

 

 

 

 

――瑞鶴、加賀両者の第二次攻撃隊による航空戦は、既に艦戦をほとんど落とされてしまっていた瑞鶴の敗北に終わってしまった。

 

「なっ……!? この数は避けきれない……!」

 

その結果、加賀航空隊の艦爆艦攻のほとんどは生き残ってしまったのである。

 

「くっ……でも、避けきってやるんだから……」

 

この勝負、瑞鶴は始めから明らかに劣勢に立たされていた。

 

既に手持ちの艦載機の多くを消耗しており、ここからの大逆転は一見すると不可能のように見える。

 

だが、加賀の隙を突いて航空攻撃を仕掛ければ――

 

「負けてられない……絶対に」

 

瑞鶴にもプライドはある。

 

これまで一度たりとも負けたことがないのだ。

 

加賀の攻撃を避けることに集中し始める瑞鶴。

 

攻撃隊の攻撃まで、もう時間はほぼ無かった。

 

「さあ、当てられるもんなら当ててみろ!」

 

威勢の良い声を出したのと同時に、雷撃が始まった。

 

数は非常に多く、とても避けられそうにない。

 

だが、瑞鶴は天性の瞬発力、元々の艤装の速力をフルに活用し、次々と避けていく。

 

その姿は、まるで蝶のようであった。

 

しかし、そんな蝶であっても、敵の攻撃が当たってしまう時はある。

 

例え、最強の新人であっても。

 

「……!?」

 

瑞鶴に向けて一直線に進む魚雷の雷跡。

 

その全ては瑞鶴に当たっていない。

 

更に言えば、上空からの爆撃も一切当たっていなかった。

 

だが――魚雷の方に気をとられすぎたのか、それとも一瞬集中が切れたのか。

 

瑞鶴は上空から来た爆撃機に、ほんの少し遅れて反応してしまった。

 

だが、その一瞬の遅れが命取りとなる。 爆撃機から落とされた爆弾は瑞鶴へ真っ直ぐへと進んでいき――

 

 

 

 

 

――「瑞鶴が……そう」

 

艦娘待機室にて、青葉の報告を受ける不知火。

 

瑞鶴が完膚なきまでに叩きのめされたという事実に驚きの表情を見せる青葉とは対照的に、不知火は無表情を続けていた。

 

「まあ、こんなもんだよね……所詮ルーキーだし、相手は現役トップクラスの実力をもつ加賀さんだし……夢見すぎだったなって……」

 

いきなり勝つことに期待を抱きすぎていた青葉。

 

それも仕方ない、ここまでの成績を残した人間は初めてなのだから――

 

「どう? 不知火は」

 

話題を不知火へと変える。

 

この質問に対し、不知火は答えた。

 

「……無理」

 

それだけ言って、部屋を出てしまった。

 

この勝負の直後に模擬戦があるからだ。

 

「……もう少しなんか言ってよ」

 

青葉しかいない部屋で、ばつの悪そうに呟く。

 

「でも、無理ってことはないと思うんだけどな……相手とは年齢も結構近いし……」

 

不知火の相手――それは鎮守府の元気印、深雪であった。

 

錬度は非常に高いのではあるが、世界的に見ればまだまだであるのだ。

 

一方の不知火は瑞鶴同様、圧倒的な成績を残して養成所を卒業した艦娘。

 

決して不可能とは言えないのだ。

 

 

 

――「次は不知火……か。 勝てる可能性もありそうだよね」

 

この考えは、どうやら海原も同じようであった。

 

「そうでしょうか。 深雪だってかなり強いですけど」

 

一方、吹雪はそれに対して懐疑的な意見を出す。

 

先程の戦いから、やや慎重になっているようだった。

 

「そうかなぁ……と、もうすぐ始まる感じかな」

 

加賀の圧勝で終わった先の戦いに続いて、不知火も完封されてしまうのか――戦いを見届ける人達全員が、固唾を飲んで見守る。

 

「これより、駆逐艦不知火と、駆逐艦深雪との模擬戦闘を始める! 両者構えて――始め!」

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