艦隊これくしょん ー空に誓った約束ー   作:ジャスSS

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第十六話 敵対

――大演習から二ヶ月後、それぞれがまだ緊張し続けていた鎮守府だったが、今ではすっかり元気な鎮守府へと変貌していた。

 

大体は、駆逐艦達が騒ぎ立てているのだが。

 

「よーし、暁、コーヒー飲もうぜ!」

 

今年から入ってきた特Ⅲ型駆逐艦の新人艦娘、暁に話しかけるのは、こちらは特Ⅰ型駆逐艦の深雪。

 

「はぁ!? い、いきなりなによ!」

 

暁は自らのことをレディと読んでいるが、周りは特にそう思っておらず、寧ろそれを使って暁を弄っている。

 

特に深雪はよく暁を弄り倒すのだ。

 

今回の弄りは、暁の目指す女性像の一つ、コーヒーを嗜む、ということだ。

 

暁はこれまで何度かコーヒーに挑戦したものの、一回たりとも飲み干すことができていなかった。

 

「大丈夫だって! コーヒーなんてそんなに苦くない――」

 

言い切ろうとした瞬間、暁が顔を真っ赤にして反論してきた。

 

「ふ、ふん! 私はレディなんだから、飲めてと、当然よ!」

 

「よーし! じゃあコーヒーメーカーへレッツゴー!」

 

暁の肩を叩きながら前へ押し出す深雪と、内心怖がっているのに強がっている暁。

 

この光景はこれまで何度も目にしてきた光景だが、他の艦娘は何一つ飽きを見せていない。

 

「はぁ……楽しそうですなぁ、あの二人」

 

とある駆逐艦娘が話す。

 

言葉から、先程までの訓練の疲労感がひしひしと伝わってくる。

 

「秋雲、あれは天性の才能かあれ程若くないと出来ないようなことだから」

 

秋雲にフォローをいれるのは瑞鶴。

 

瑞鶴と秋雲は護衛される側とする側という関係があり、今こうして食事を共にしているのはそういう関係が存在しているからだ。

 

因みに、瑞鶴にはもう一人護衛がいるが、その艦娘はいつも孤食をとっている。

 

そして、瑞鶴と食事を共にしている艦娘は一人だけではない。

 

「瑞鶴はどうですか?」

 

不知火が疑問を呈していく。

 

あの大演習の後、一旦はタメ口で瑞鶴と話してた不知火だったが、いつも間にか敬語に近い言葉遣いをするようになった。

 

恐らく、彼女自身が気に食わなかったからだろうが――

 

一応、呼び名は"瑞鶴"と呼び捨てに変わったのではあるが。

 

「へ? いや、見て分かるでしょ? 私はそんなことしない人って」

 

「加賀さんと比べるとお喋りだけどね!」

 

瑞鶴が否定するが、秋雲がついでのように割って入ってくる。

 

「いや、加賀は静かすぎんの。 何考えてるかわっかんないし、常に視線が冷たいし……」

 

この二ヶ月、鎮守府の空母は加賀と瑞鶴の二人だけだったが為に、演習も遠征も加賀と行うことが非常に多くなっていた。

 

それ故、瑞鶴と加賀は互いに理解力を深めていったが、瑞鶴目線ではまだ理解できぬ部分があるらしい。

 

「まあ、加賀さんはまた別の話ですし……瑞鶴は単にちょっとお喋りな感じってだけだよ」

 

青葉が助け舟をすかさず出す。

 

「うん、まあそんな感じかなぁ」

 

秋雲も同意した。

 

「ま、瑞鶴がいて、結構私助かってるんだよね。 うちの鎮守府って、機動部隊が一つしかないじゃん。 んで、機動部隊に常駐してるのって、瑞鶴、加賀さん、私と曙、潮の五人なんだけど、加賀さんと曙潮の三人はマジで無口なんだよね。 曙と潮なんて分厚い壁がある感じにしか見えないし。 だからすっごい静かなんだけど、瑞鶴がいると少し明るくなるんだよね」

 

秋雲が瑞鶴の方を見ると、瑞鶴は顔を少し赤らめていた。

 

「でも、曙と潮は心配だな……だって同型艦で、年齢も一緒だし、養成所も一緒だったみたいだし……」

 

「あ、生まれ故郷も一緒って聞いたことあるよ!」

 

「それ本当!? じゃあ、なんでこんなに仲悪いんだろう……」

 

更に考え込む秋雲。

 

秋雲としては艦隊内でのギスギスはなるべく避けたく思い、それは勿論、瑞鶴も同じであった。

 

「なんか、言い争ってるって感じじゃないんだよね。 潮ちゃんはぼのちゃんのこと怖がってるように見えるし、曙は潮のこと軽蔑してる感じだし……」

 

曙と潮、共に特Ⅱ型駆逐艦の後期型であるが、いや、それ故か性格が正反対となっている。

 

目上の人である海原に対し、"クソ提督"と呼び、周りに対しても怖い形相で接する、正に反抗期真っ只中とも言える曙に対して、潮は目上の人に怯えており、更に同期、後輩の艦娘に対しても常に怯えているのだ。

 

正反対の性格だからこそ、反りが合わないということなのかもしれないが――

 

「なんとかしてほしいよ……ずっとギスギスなままだと作成行動にも影響が出るしさ……さすがに親友同士になれとは言えないけど、作戦会議とかで意見を交わせるぐらいの……そうだな、事務的な会話が出来るぐらいの関係になってほしいけど、今は一切話してないから、意志疎通も出来ずじまいだし……」

 

愚痴を喋る秋雲。

 

だが、この問題は彼女にとってかなりの死活問題であるのだ。

 

「まあまあ、いつかは司令官が気づいてくれるだろうし、そんときまでは我慢我慢!」

 

「うぅ、しゃあない、暫く待つか……」

 

落ち込みながらも、それ以上は何も喋ることはなかった。

 

やはり、騒がしい方が秋雲は好きなようだ。

 

 

 

 

 

――「いや~、うちも賑やかになってきたね~」

 

新艦娘がぞろぞろと入ってきたのに合わせ、改築して小綺麗となった食堂で食事をとるのは、海原と吹雪といういつもの二人。

 

「司令官は着任から今日までずっと私と一緒にご飯を食べるようになりましたね。 まあ、同じ仕事を行ってるんで、多少は仕方ないと思いますが……」

 

「ま、いいでしょ? 他の艦娘とも積極的に会話しているし、ぼっちではないはずだし」

 

吹雪から心無い質問を投げかけられるが、大して怒らないようだ。

 

実際、彼はぼっちではなくしっかりと艦娘とコミュニケーションをとれている。

 

「司令官、結構色んな人から親しまれてますよね。 駆逐艦の子とか、巡洋艦の人にも好かれてますし」

 

そんな海原は、艦娘からの親近感を獲得しているようだ。

 

まだ高校生程の年齢であるためか、駆逐艦娘の父代わりとはなれてないが、彼女達の兄貴分という立場となっていた。

 

「でも、海軍学校の時は友達いなかったんですよね?」

 

またも心無い質問――普通の人なら怒る所だが、彼はそもそもぼっち時代を生きてないのだから怒る部分がない。

 

「ん、まあそうだったね。 なんでかは知らないけど」

 

何も分からないことなので、こう言うしかないが。

 

「知らないんですか……まあいいですけどね――それにしても、ほんと賑やかになりましたよね……」

 

すると、吹雪はある二人の艦娘を向いた。

 

「遂に私達にも戦艦が着任するとは思いませんでしたよ」

 

その視線の先には、扶桑型戦艦姉妹の二人が。

 

姉の扶桑、妹の山城、二人とも戦艦という重い艦種とは裏腹におしとやかで、可憐な艦娘である。

 

子どもっぽい駆逐艦娘が騒ぎ立てている食堂内では、その大人っぽさが浮き彫りになっている。

 

「扶桑型ねぇ……妹の方はかなりのシスコンだけど、駆逐艦の子達に比べればまだ静かな方だね」

 

さりげなく山城の秘密を口に出すと、吹雪が引いた目で扶桑型――正確には山城の方を向いた。

 

「え、山城さんがシスコン……」

 

「……なんかごめん」

 

「いえ、謝る程でもないですよ。 でも戦艦が入ったことで結構変わりましたよね。 あの二人が来てくれたお陰で、艦隊運用がかなり楽になりましたし、様々な工夫も採り入れられました。 お陰で、作戦立案もやりやすくなりましたし」

 

「それは本当にあるよな。 少し不幸なところがちょっとあれだけど」

 

この鎮守府に来てからまだ少ししか経っていないが、既に不幸を証明する数々が報告されている。

 

演習で偶然会心の一撃をもらうことや、クローゼットの角に偶然足をぶつける等はかなりの数報告されている。

 

「でも、戦艦としては素晴らしい戦力だからな。 艦隊の中枢を担ってくれてるし」

 

「あの……司令官、少し提案なのですが……」

 

重い感じで海原に話そうとする吹雪。

 

「航空戦艦、というのが新たに艦種として制定されるのですが、扶桑型の二人をそれに挑戦させませんか?」

 

「……うん、良いと思う。 航空戦艦になったらより運用の幅が広がりそうだし、特別火力が落ちるわけではないよな。 だよね?」

 

「はい。 そこまで劇的には変わりません……それでもよろしいのですか?」

 

恐る恐る聞く吹雪。

 

「ん? 別に俺はいいけど。 けどなんで?」

 

「あ、鎮守府の提督とかには大鑑巨砲主義の人が多いと聞いたものなので……」

 

この世界における"提督"という役職のほとんどは男性である。

 

また、その提督の多くは年のいったお年寄りなためか、数十年前に起きた艦娘の発達による超弩級戦艦の誕生に浪漫を覚えて、未だに大鑑巨砲主義から抜け出せない人が多いのだ。

 

故に、吹雪は確認の為一応そのことを聞いたのである。

 

「ま、そもそも俺は空母が好きだし」

 

「あ、そうだったんですか、珍しいですね。 大鑑巨砲主義ではない人は最近それなりにいるらしいですが、空母好きというのは少ないと聞きました」

 

それほど、今の日本海軍にはロマンを追い求める人が多いということである。

 

「ロマンを追い求める人によって、上層部の犠牲になってしまった艦娘だっていますし……」

 

「あ、噂聞いたことあるぞ。 空母の適性が高いのに、最新型戦艦になれるってだけで戦艦にさせられた艦娘がいるって」

 

「確か……戦艦としては酷い適性でしたっけ。 上手いように動かすことが出来なくて、最大速力も理論値よりもかなり落ちてたり」

 

海原はある大型戦艦の名を脳裏に抱いた。

 

勿論違う可能性もあるが、なんとなくそんな気がする――気がするだけだが。

 

「今はどうしてるんだっけ?」

 

「今は横須賀にいるらしいんですが、まだまだ錬度が不十分すぎるんで出撃さえもしてないらしいです」

 

「……そうか」

 

将来の主戦力としての期待を受けていながら、まるで箱入り娘のように外には出さない――元の世界でもそのような艦がいたような――

 

「いや、でもあれは世界情勢とか色々あるし……」

 

ボソッとだべってたのだが、それを吹雪は見逃してくれず。

 

「うん? なんか言いましたか?」

 

目を見開きながら、重心を前に倒して聞く。

 

「いや、別になんもないが」

 

「……またその台詞ですか。 まあもういいですけど」

 

早々に諦める吹雪。

 

この一年間のやり取りの中で、もはやこの言葉の意味を問うことはしなくなった。

 

恐らく、無謀だと感知したのだろう。

 

「……なんか、そうやってはぐらかしているのを見ると、潮が頭の中に出てきますね」

 

「確かに。 そっちがそれを言うせいでこっちも頭の中に出てきたわ」

 

「え、それ私のせいですか?」

 

微笑みながら聞く吹雪。

 

その姿が面白いのか、聞かれる側の海原も思わず笑ってしまう。

 

「あぁ、そうだな」

 

「あ、そうですか……って、こんな話をしたいんじゃなくて……」

 

「潮と……ぼのだよな」

 

曙の名を出す時に少しばかり間をおいたのは、はたしてそういう呼び方は正しいのかどうなのかの判断に時間を要したからだ。

 

「ぼので良いと思いますよ。 それで、二人のことですが……」

 

「どうにかして最低限のコミュニケーションをしてほしいけど、互いに話そうともしないしな……」

 

「うーん……まだ暫くは加賀さんに任せましょうか。 まだ半年も経ってないですし、現状、私達も明確な解決法が分かりませんし」

 

「まあ、そうなるよな……ただ、いざ有事のこととなると……」

 

彼女らは着任してからまだ二ヶ月の身であるため、今は大きな作戦に参加する予定は建てられていない。

 

その面においてはまだ余裕があるように見えるが、もし何かが起こった際にしっかりと対処できるかが問題となっている。

 

「その時は加賀さんに任せましょう。 何かあった時は加賀さんが対処をすると確認し合いましたから」

 

この問題に関しては、機動部隊の旗艦を務める加賀が率先して対処に当たっている。

 

故に、海原らは基本的には口を挟んでおらず、現場の加賀にほぼ任せている状態なのだ。

 

「だな……まあ、加賀も無能ではないだろうし、焦らず待ちますか……」

 

背もたれに寄っ掛かりながら言う。

 

その言い方を鑑みると、海原はかなり加賀を信頼しているようだ。

 

「頑張ってほしいですね……と、そろそろ昼休み終わりそうですかね」

 

時計を見ながら吹雪が言うと、吹雪は食器を片付ける為に立ち上がる。

 

それに合わせるように、海原も食器を片付けようと立ち上がる。

 

「今日のご飯はどうでしたか?」

 

「うーん……やっぱり、専門の人がいると美味しいよね」

 

そう言うと、海原は食器返還口にいるある艦娘を見た。

 

「ですって、間宮さん」

 

「あら、それは嬉しいですね! 提督におっしゃっていただけて!」

 

嬉しがる給糧艦間宮。

 

このあたりのストレートさは、海原らにはないものだ――いや、吹雪はそれなりにストレートか。

 

「これからもよろしくお願いしますね」

 

「はい!」

 

満面の笑みで応える。

 

それを見た海原らは、執務室へと戻ろうとする。

 

「……間宮さん、嬉しそうでしたね」

 

「だな。 俺達にはない素直さだ」

 

自虐的に自らを批評する海原。

 

それに吹雪も同意する。

 

「まあ、別に今のままでも支障はきたしてないですし……」

 

「うん、別にいいよな……」

 

「……でも、いつかは必要ですよね」

 

含みのある吹雪の言葉。

 

海原が気になって吹雪に聞こうとすると、そこに一人の艦娘が走ってきた。

 

その艦娘は見た感じ焦りを隠せず、息も荒々しくなっていた。

 

「……ん? どうした、大淀」

 

この春、通信士としてこの鎮守府に着任した艦娘、大淀。

 

基本的には通信士として活動しているが、有事の際には軽巡大淀として戦場に登場することも可能だ。

 

その大淀が焦っている――何か大きな事が起きたということである。

 

不安に駆られる海原と吹雪は、緊張状態のまま大淀に聞く。

 

「大淀……何かあったのか?」

 

「はい……では、報告します」

 

大淀の目はどこか悲しげなように見えるし、希望を失ったようにも見える。

 

そして、決意を固めた顔にも――

 

「……佐渡鎮守府、敵深海棲艦からの奇襲を受け、壊滅せり。 敵深海棲艦、新潟鎮守府へ進軍中!」

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