艦隊これくしょん ー空に誓った約束ー   作:ジャスSS

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第十八話 悪寒

――少し大きめの部屋に、一人の空母、三人の駆逐艦が話を熱心に聞いている。

 

彼女達の視線の先では、空母加賀がこの戦いの概要を説明している。

 

「この戦いでは、いかに敵を退けさせるかが大事になります。 敵を沈めることではなく、撤退させることに力を入れてください」

 

先の会議での話を伝えてるようだ。

 

この策に、全員が力強く頷く。

 

既にやるべきことは分かっているようだ。

 

「では、具体的な動きを説明します。 我が機動部隊は敵艦隊に一番に攻撃を仕掛けます。 敵艦隊が射程範囲内に入ったら、即航空攻撃開始し、できるだけ弱体化させてください。 敵艦隊が接近してきたら、駆逐艦の護衛のもと、後ろへ退避して安全な所で攻撃を継続してください」

 

唯一の空母を保有する部隊であるためか、課せられた役割も大きい。

 

そしてここまでに大きな役割を課せられたということは、その行動の一つ一つで勝敗も決まるということだ。

 

責任重大な役割に、瑞鶴と秋雲、曙は大して動じなかったが、潮は不安な顔を見せている。

 

「……どうしたの潮」

 

加賀が訊くと、潮は慌て始め、そして黙り込んだ。

 

やたらと気になる加賀だが、これ以上問い詰めても意味がないと感じ、次の話へと移した。

 

「今回の戦いはかなり厳しいものになるでしょう。 故に、味方同士の連携がとても重要になります。 しっかりと周りをよく見て、自分がなすべき事を遂行してください」

 

この言葉が放たれた瞬間、加賀は曙と潮を見た。

 

そう、この言葉は主に彼女ら二人に向けた言葉なのである。

 

曙や潮自身、この言葉が自分達に向けられた言葉であるということは重々承知しているはずだが、彼女達は何もアクションを起こさなかった。

 

想定内なのか、加賀は顔色を変えずに話し続ける。

 

「この国の未来をも左右する戦いになるかもしれない。 しっかりと気を引き締めてやってください。 私からは以上よ。 質問は?」

 

加賀の問いに、この空間からは一切の動きを見せない。

 

質問が無いことを確認すると、全体に向けて言った。

 

「では、これでブリーフィングは終わります。 ……この戦い、絶対に勝ちましょう。 絶対に――」

 

その言葉を言う時の加賀は、どこか寂しげであった。

 

 

 

――鎮守府の廊下では、忙しそうに艦娘達が歩いていた。

 

敵深海棲艦の急な攻撃に、どの艦娘も焦りを抱いているようだ。

 

艦娘達の多くは艦娘待機室の方向に向かっていたが、中には自分の部屋に戻る人もいた。

 

恐らく、親か友達かぬいぐるみかにお祈りをしているのだろう。

 

そんな人の荒波の中に、蒼龍と飛龍はいた。

 

「ねえ飛龍! 待ちなさいよ!」

 

大声で飛龍に呼び掛ける蒼龍。

 

その声に、廊下をつかつかと歩く艦娘達は驚く。

 

「ねえ飛龍、今どんな状況か分かってるの!?」

 

この呼び掛けに、飛龍はピクリとも動かない。

 

「今かなりのダメージを負ってるのよ。 確かに艦載機を発艦させることは可能かもしれないけど、今飛龍はかなり精神が不安定で――」

 

「なんで!? なんで反対するの!? あんなに殺されたというのに!?」

 

いきなりの剣幕を見せる飛龍。

 

突然のことだった為か、蒼龍は直ぐ様には反応できない。

 

「皆……皆死んでいった……沢山撃たれて、どんだけ痛みを伴おうとも、戦っていって……そして、殺された……! 蒼龍も見たでしょ、目の前で、先輩が私達を庇って、血を吐き出して……死んでいったのをさ……」

 

涙目になりながら言う飛龍。

 

この飛龍に共感する部分があるのか、蒼龍は何も言い出せずにいる。

 

「他の皆も同じだった。 皆、私達を庇って死んでいって……そんな皆を殺した、最低な深海どもを、絶対に……絶対に、殺らなきゃいけない……!」

 

何か悪霊にとりつかれたように、恐ろしいことをズバズバと言う。

 

そんな飛龍に、蒼龍はまだ何も言い出せない。

 

「……だから蒼龍。 私を止めないで」

 

「……そんなこと……できるわけない……」

 

なんとか反抗してみたが、それまでの歯切れの良さが無くなっていた。

 

「だって私、飛龍を失いたくないから……!」

 

「……私は消えない。 絶対に、生きて蒼龍の元に戻るから。 だから蒼龍、私を――」

 

最後まで言いかけようとした瞬間、見知らぬ手が飛龍の腕を握った。

 

驚いた飛龍が向いた先には――

 

「……金剛さん、なんで止めるんですか?」

 

「……飛龍、今のあなたはとても精神が不安定デス。 その状態で戦ったら、間違いなく身体に大きなダメージが入るデショウ。 下手をすれば、死に至る可能性もありマス」

 

鋭い目付きで言う金剛に、飛龍は少したじろぎながらも反論した。

 

「艦娘の精神状態が自らにダメージを与えるということは噂には聞いたことはありますが、実際に起きたという用例を聞いたことがありません。 そのような確かに、可能性としてはありそうな感じもしますが……」

 

口答えをする飛龍に対し、金剛は少し間をおいて応えた。

 

「あ、そういえば飛龍は知らないですカ。 二ヶ月前、ある艦娘がそのようなことが起きて死んでしまったことを」

 

この言葉は飛龍にとって衝撃的らしく、大きく目を見開いて驚いた。

 

「え……! あれは深海棲艦によって殺されたんじゃ……!?」

 

「対外的には、そうなっていますが、実際は精神の不安定さによって身を滅ぼしまシタ。 デスよね、蒼龍」

 

いきなり話を振られて驚く蒼龍だが、咄嗟の対応で金剛に相槌を打つ。

 

「このことを知っているのは、佐渡でも限られた人デス。 私は偶々聞いてしまいマシタ」

 

それまで信じていたものは違うということを突如知らされている――もしかするとカマをかけている可能性だってあるのに、飛龍は一応納得した顔になっている。

 

恐らく、金剛のことをかなり信用しているからだろう。

 

また、何か飛龍自身にも心当たりがあるのか――

 

「……飛龍。 あなたはあの艦娘のように、無惨な死を遂げたいデスカ? それも、大切な人を残しテ」

 

またも涙目になる飛龍。

 

仲間を討った敵への復讐と、仲間の無残な死に様が頭の中を駆け巡って、彼女の心を痛めつける。

 

自分はどうしたいのか、本当に、このまま出たら死んでしまうのか――すぐには結論が出せず、ただひたすらに頭を駆け巡っていった。

 

「……私だって辛いデス。 とっても辛いデス。 でも、今私達にできることはないのデスヨ。 なら、できることはたった一つ。 信じて待つだけデス」

 

飛龍は俯いたままだったが、金剛も哀愁漂う声で話していた。

 

暫く俯いていた飛龍。

 

そしてその場は何かの緊張感に支配されており、二人だけの世界が形成されてゆく。

 

そして、飛龍の中で結論が出たのか――

 

「……金剛さん、蒼龍、私、バカなことしようと……」

 

「いえ、分かってくれたらノープロブレムデス。 では、部屋に戻りマショウ」

 

飛龍に促していく金剛。

 

飛龍は一人でそのまま申し訳なさそうな顔をして部屋に戻っていった。

 

その光景全てを何もせず見続けていた蒼龍が、慌てて金剛の所に駆け寄ってくる。

 

「金剛さん、すみませんでした……」

 

「いえ、これは貴女達の問題ではなく、私達の問題デス。 誰かが道を外しそうになれば、それを戻す人が必要デス。 そして、それが私達だったっていうだけデス」

 

淡々と語る金剛だが、その目には決意のようなものを浮かばせていた。

 

「……金剛さん、二ヶ月前のあれ、嘘ですよね?」

 

「Oh、気付かれてしまいましたカ。 蒼龍の気分を害したのであれば、今ここで謝罪シマース」

 

「え!? い、いえ、そんなのいいです!」

 

慌てて拒む蒼龍。

 

すると、金剛に向けて優しい声で言った。

 

「……この世には、つかなきゃいけない嘘だってあるんですよ」

 

――その言葉に、金剛は思わず感心したらしい

 

 

 

――洋上にて佇む五人の艦娘。

 

それぞれが非常に良い緊張感を持った面持ちのようだ。

 

特に、その部隊の旗艦を務める加賀は人一倍集中している。

 

「……瑞鶴、敵艦隊は見つかった?」

 

「いや、痕跡も発見できてない」

 

「……そう」

 

残念そうに返答する加賀。

 

何故か――それは、鎮守府による、敵艦隊の到達予想時刻よりも遅れていたからだった。

 

「このまま索敵を継続。 駆逐艦も、手持ちの望遠鏡で要確認すること」

 

了解の応答が、加賀の耳に鳴り響く。

 

しかし、未だに敵艦隊の発見に至っていない中で、次第に彼女達の集中力に錆が付き始めていた。

 

今はまだ高い集中力を持っているが、このまま長い時間拘束されたままでは、かなり集中力を削られるだろう。

 

早急に発見したい所だが、急ぎすぎるというのもこれまた問題だ。

 

「……まあ、このまま待つのが定石ですよね。 ですが、やはりなるべく早く見つかってほしい……」

 

さて、この願いが届いたのからかどうなのか、暫くして瑞鶴が声を上げる。

 

「! 第一八八航空隊から打電! 敵艦隊発見! レーダー送ります!」

 

送られてきたレーダーを見て、加賀は小さく笑った。

 

第一八八航空隊とは、今回の戦いで急遽設けられた偵察隊の名称だ。

 

「……どうやら、杞憂に終わるようね……全航空母艦、第一次攻撃隊の発艦をせよ!」

 

瑞鶴から届く、了解の応答。

 

加賀はそれを聞き終えてから、矢筒から矢を取り出して弓の弦に取り付ける。

 

「第一次攻撃隊、発艦します!」

 

放たれた矢が、次第に艦載機へと変形する。

 

緑に彩飾された戦闘機が、空を舞ってゆく。

 

「アウトレンジで……決めたいわね……!」

 

すっかり彼女の代名詞となってしまった、"アウトレンジ攻撃"。

 

どうやら、意識の中に残っているようだ。

 

「一発で決められないと考えておきましょう。 敵艦隊の数は膨大です」

 

偵察隊の情報によると、敵艦隊の総数は事前に伝えられた数のおよそ三十五隻はほとんど合っていたようだった。

 

しかし、今知れたとしても彼女達にとってみればその数はやはり多いことには変わりない。

 

そして、なによりも大変なのは、戦艦の数が多いことである。

 

その数、なんと十一隻。

 

戦艦は装甲が厚く、簡単には撃破できないのが特徴の艦娘。

 

一撃も重く、まともに攻撃を受ければ一発大破、下手すれば一発轟沈の可能性も無視できない。

 

「各艦、敵戦艦の動きに注視せよ。 全航空隊に告ぐ、戦艦の撃破を第一優先に」

 

加賀の発令に、それぞれから了解の応答が響く。

 

「さて、効果的な攻撃をしてくれるか……」

 

 

 

――洋上にて、輪形陣を組み立てている漆黒の艦隊が走ってゆく。

 

彼らは深海棲艦と呼ばれる、人類の知りえない未知の生物。

 

その生態は謎に包まれていたが、近年、生きたままの捕獲に成功、少しずつ謎の解明が進んでいる。

 

そんな彼らの中でも大きい方で、輪形陣の中心に位置する個体――戦艦ル級eliteが突如空を見つめだした。

 

怪訝そうに見つめるル級。

 

その視線の先に、零戦を始めとした戦闘機群が現れるのには、それほど時間を要さなかった。

 

「……!」

 

口元を動かすル級。

 

恐らく、味方に対空射撃の指示をだしたのだろう、ル級が口を動かしたのと同時に、随伴艦の多くが機銃を空へ向け、戦闘機の接近を警戒し始めた。

 

やがて、輪形陣に入った戦闘機を落とそうと深海棲艦が弾幕を張るが――成果はいまいちだった。

 

多くの戦闘機が弾幕を潜り抜け、零戦は質の高い護衛をまざまざと見せつけた。

 

そして、攻撃担当の艦爆艦攻連合隊が持つ、巨大な爆弾、魚雷が、ル級eliteに当たり――

 

 

 

――「戦果報告! 敵、戦艦ル級eliteを撃沈せり!」

 

瑞鶴の報告と共に、秋雲が声を上げた。

 

「また、戦艦ル級三隻が大破、二隻が中破になりました」

 

この報告に、秋雲は歓喜の声を挙げ、一方の加賀はこの報告に安堵した。

 

「……ふぅ、まずは第一目標達成です。 このまま敵艦隊の戦力を漸減させましょう。 目標は変わらず、敵戦艦です……この距離だと、後一回か……第二次攻撃隊の着艦後、駆逐艦の護衛の元、退避してください」

 

了解の応答が響く。

 

「……瑞鶴、第二次攻撃隊の準備は?」

 

「大丈夫。 今すぐ出せるよ」

 

と言うと、早速矢を弓につがえてアピールをとる。

 

「分かった。 じゃあ今すぐ発艦して」

 

「了解! 第二次攻撃隊、発艦始め!」

 

加賀の突然の要求にもしっかりと応える瑞鶴。

 

そうして出された艦載機群の編成は、第一次攻撃隊と似た編成になっている。

 

「さて、では私も……第二次攻撃隊、発艦!」

 

掛け声と共に、加賀も同じように戦闘機を送り出してゆく。

 

今回の加賀の編成は、第一次と比べて艦爆艦攻の数を増やしていた。

 

これは、敵の様々な艦が消耗したことによる対空能力の低下を考慮した結果である。

 

「ここで、元気な戦艦達を一気に潰してくれれば……」

 

「かなり、戦局が楽になるわね」

 

先の攻撃でかなりの数を沈めたものの、まだまだ戦力差は大きく、この第二次攻撃も同じような戦果を上げてようやく勝利が現実的になる程だ。

 

それ故、この第二次攻撃も戦局のキーポイントを握っていると言っても過言ではない。

 

「あ、第一次攻撃隊の皆が帰ってきました」

 

瑞鶴の視線の先に映る、数々の黒点。

 

先程大戦果を上げた、第一次攻撃隊の面々だ。

 

数の減りは――彼女達の予想より、かなり少なくなっていた。

 

「これは……想定外ね」

 

減ったのは三分の二程度。

 

「これで、第三次攻撃隊も沢山出せるようになる……」

 

「第二次攻撃隊の帰艦具合では、第一次、第二次を上回る数を出せるかもしれない……」

 

「ええ、そうなると、より未帰還機も少なくなるわね」

 

未帰還機の減少により、三次攻撃での期待も膨らみ始めた。

 

また、数の減りが少ないとなると、これの更に次の戦闘でも強い航空隊が送れるということでもある。

 

 

 

母艦に帰ってきた攻撃隊の面々は、それぞれの飛行甲板に着地しようとする。

 

それを待ち受けるかのように、加賀、瑞鶴は腕に付けられた飛行甲板を水平に持ち上げる。

 

やがてそこに戦闘機が次々と着地、一瞬の間に元の矢の姿へと変身していった。

 

「瑞鶴、第二次攻撃隊は今どう?」

 

瑞鶴に問う加賀。

 

「えーと……あ、もうすぐ攻撃開始しそう!」

 

嬉々とした表情の瑞鶴がレーダーを見る。

 

「あ、でも敵が速力を結構上げてるから、こっちとの距離もかなり縮まってる」

 

と言うと、瑞鶴は加賀にそのレーダーを送った。

 

「……!?」

 

それを見た加賀は、これまでにないほど青ざめた。

 

「これは不味い……至急、ここから退避します」

 

突然の命令、レーダーを見ている瑞鶴はなんとなく感づき始めた為か驚く素振りを見せなかったが、何も知らない駆逐艦娘達は呆然と立ち尽くす。

 

いつも騒がしい秋雲でさえも、いつも静かな曙や潮もだ。

 

「話は退避してる最中にでも話します。 まずはここから退避します」

 

かなり焦った様子の加賀。

 

ただ事ではないと感じ取ったか、まだも呆然と立ち尽くしているようだった。

 

「ではここから退避を――」

 

「加賀! 第二次攻撃隊から打電!」

 

一気に加賀が凍りつく。

 

先程までの明快なムードから一転、艦隊に流れるムードは最悪の二文字だった。

 

恐る恐る、加賀が聞く。

 

「……して、内容は?」

 

何故ここまで踏み込んだ聞き方をするのか、彼女は分からなかった。

 

確かに、敵が急速に速くなったことは脅威的だが、ここで大打撃を与えれば動きを遅らせることだって可能なのだ。

 

それに、敵は旗艦を失い、対空能力も指揮能力も弱体化しているはずだ。

 

先程は大丈夫だったのだから、今回も大丈夫なはず――なのに、何故。

 

何故、ここまで絶望に瀕したように、何か悟ったように、事を考えてるのか。

 

しかも、その"予感"が現実になるなんて、聞いてない。

 

「……嘘!?」

 

驚愕、絶望、悲哀。

 

負の感情を全て詰め込めたような声を発する瑞鶴。

 

そして、加賀の予感は"確信"へと移り変わっていった。

 

全てを悟ったかのように、だが何も知らないということを装い、聞く。

 

「どうかしたの!?」

 

この加賀の問いに、瑞鶴は一つ一つの言葉を丁寧に、そして震えながら発していった。

 

「……カワカワカワ。 援軍を求む。 我が航空隊、未帰還機多数。 敵戦艦への攻撃、ことごとく失敗。 戦果――ほぼなし」

 

その瞬間、加賀の確信は"絶望"へと移り変わっていた。

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