――気がついた時には、体が横に倒れていた。
視界には雑草ばかりが見える。
(……?)
天国とは思えなかった。
天国であれば、もっと心地よくさせる何かがあるはずだ。
それは雰囲気であったり、一つ一つの物体から出る質感だったり――では、ここはどこなのか。
ただひたすらに考え、考えぬいたが、大した答えは見つけられなかった。
そんなことよりも動いた方が良いと感じた彼は、横たわってる体を起こし、周りを確認した。
周りを見渡すと、赤レンガの建物が見つかった。
彼の脳内で、海軍という言葉が連想される。
艦これ好きの彼からすれば、海軍という言葉が目の前にぶら下がるのはやや嬉しさを含むのだ。
自らの身辺確認よりも目の前の物を選んだ、青年――
物の入り口は、横須賀にある海軍幹部候補生学校に近い匂いがする。
彼自身もどうやらそう思っていたらしく、入り口の前で思い出すような仕草をしていた。
周りを見渡してみると、何人かの人―制服姿の男達―が外で騒いでいる。
何が起きているか、彼はやはり気になってしまったが、あくまで気になる程度に留め、その中に入っていった。
建物の看板には、"海軍幹部候補生学校 横須賀校"と書かれてあった。
――何気なく学校を歩く海原。
だがある時、あるポスターを見てしまう。
なんと、そこに描かれているものは、なんとあの深海棲艦の姿。
艦これを知っている彼からすればこの紙切れは衝撃と、不信感を運んできた。
更に、それは複数あり、それぞれのポスターには別々の深海棲艦が写っていた。
そんな彼に、一つの可能性が思い浮かんだ。
それは、ここが艦これの世界であることで、彼は転生してここに来たということだ。
若干夢見すぎなように見えるが、彼はもう既に確信――というより、過信しているようだ。
だが、寧ろ彼は動揺していた。
元の世界に戻れないこと、この世界には知り合ってる仲間などいないこと、そして、何故ここに来れてしまったのか、ということがあるから。
複雑な感情を心に抱きながら、彼は自らの寮へと辿り着いた。
ここには、数人程の仲間がいるはずだが、実質的に言えば初対面の相手。
先程までの感情が嘘みたいに、彼の心は混沌に包まれていた。
恐る恐る、ドアを開ける。
一つ一つの動きが、彼の不安を丁寧に表現していた。
だが、目の前に広がっていた景色は想定の範囲外をゆく物だった。
ベッドは一つしかなく、部屋は小さい。
しっかりと綺麗になっているのがまだ救いか。
まさかの個人寮に、彼は混乱の渦に入ってしまった。
そんな中で、ベッドの上にちょこんと置かれていた紙を発見する。
そして、その紙には卒業証書の文字が書かれていた。
このことはつまり、自分はこの学校を既に卒業しているということを示している。
しかし、この卒業証書には驚愕の事実が紛れ込んでいた。
「……え、首席……!?」
思わず閉ざされていた口を開けてしまった。
しかし、海軍学校の首席ということを鑑みれば、致し方ないのも頷ける。
海原が部屋で棒立ちになっている中、部屋内のスピーカーが突然音を上げる。
「……出席番号3番。 学校長室へ来て下さい」
突然の呼び出し。
人生で一度は経験し、一瞬で自らを恐怖の底を陥れる瞬間だ。
しかも、ただでさえ心が不安定な海原だ。
並の人間なら耐え難い不安感を伴っていると想像できる。
が、行かないことの方がより大変だと彼は自覚していた為か、なんの躊躇いもなく部屋を後にした。
学校長室の前に到着する。
ドアは高級そうな木目調であしらわれていた。
ドアをノックする。
「出席番号3番、海原海斗です」
自らの名前と出席番号を告げると、ドアの向こう側から声が聞こえてきた。
「入ってどうぞ」
その言葉を受け、厳かなドアを開ける。
開けた先には、いかにもな老人が一人、いかにもな秘書が二人いた。
「……来たか。 では、早速君の配属先を伝えよう」
「はい……はい?」
またも声を上げてしまった。
だがやはり、いきなり呼び出されて、訳も分からぬまま配属先を伝えられる――色々なことが詰め込まれていて、大変だ。
そんな海原に、対する三人は気にも留めなかった。
「海軍幹部候補生学校第二十五期卒業生、海原海斗。 貴官を新潟鎮守府司令長官に任ずる」
この瞬間、彼の運命の歯車は動き出した。