艦隊これくしょん ー空に誓った約束ー   作:ジャスSS

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第二十二話 戦略

――午後十五時、新潟鎮守府。

 

「さて、敵侵略艦隊からは鎮守府を守れましたが……」

 

第一機動部隊が勝利の報告をし、今まさに休息に至っている執務室。

 

最前線で戦っていた艦達に比べて、不測の事態に備えて起きていただけの海原吹雪の両者は、昼下がりのこの時間に今後のことについての会議を開いていた。

 

なお、海戦の終了に伴う大本営への報告は予め準備しておいたのが功を奏したのか、早々に終え、昼飯をしっかりと摂ることができた。

 

「分かる、まだ脅威は消え去っていないっていうことだろ?」

 

「はい、今回はただ守っただけです。 敵戦力を削られはしましたが、それでも向こうが数的優位なのは容易に推測できます」

 

そもそも、佐渡鎮守府が陥落してしまったのが諸悪の根源だ。

 

その佐渡鎮守府はここよりも設備、装備、艦娘など、ほぼ全てが優れており、深海棲艦が落とすには今回仕向けてきた艦隊よりも遥かに強い艦隊を送っているはずだ。

 

「つまり、奴らに対抗するには圧倒的に戦力が足りないと……」

 

「勿論。 足りないことだらけです」

 

ずばり言い放つ吹雪だが、事実なのだから仕方ない。

 

「……司令官は、昔のドイツ陸軍が提唱した攻撃三倍の法則というのをご存知でしょうか?」

 

「あぁ、知ってるよ。 攻撃側が守備側を潰すには、守備側の三倍の兵力を使わないといけないっていう法則だろ?」

 

「えぇそうです。 まあ、現代ではこの法則は成り立たないという事もまことしやかにに言われますが……結局、敵基地を落とすには敵よりも遥かに優れた実力を持たねばいけないのは明白です」

 

「あぁ、確かにそうだが……吹雪は何が言いたいんだ?」

 

「いや、これからが話の本筋です。 実はこの法則にはある前提条件が必要なのですが……司令官分かりますか?」

 

「え、うーむ……」

 

吹雪に小難しい話をされる際、必ずと言っていいほど彼は腕を組む。

 

それは恐らくは癖なのだろうが――自分自身を頭良く見せる為、意識的にやっている可能性も否定できない。

 

「分かった、質だろ、質」

 

「そう、正解です。 この法則が成り立つ為には、互いの兵力が同等の質であることが必要となっています」

 

「……む、つまり吹雪が言いたいことは……」

 

「えぇ、そうです」

 

一呼吸置き、鋭い視線を海原に刺して言う。

 

「艦娘の練度を徹底的に鍛え上げ、高クオリティな装備も開発し、数の差をものともしない艦隊を編成します」

 

「……なるほど、んで、それに関するビジョンは?」

 

「はい、まず最初にこれを見てください」

 

椅子から立ち上がった吹雪は、会議の際いつも使うホワイトボードに文字を書き上げていった。

 

「まず、近日中に全艦娘に向けた特訓を開始しようと思います」

 

「特訓……となると、かなり厳しい訓練になるんだな?」

 

「はい。 それこそ、旧日本海軍のこどき苛烈さで行こうかと」

 

「お、おう……」

 

「あ、練習メニューは私が独自に組みますので、司令官は特別考えなくていいですよ」

 

「あ、うむ、分かった」

 

「さて、次に装備の充実です。 これに関しては明石さんに頑張ってもらわないといけませんが……こういう時こそ、司令官の出番です」

 

吹雪の言わんとすることを、先に読み切った海原は手を挙げて制止の構えをとった。

 

「分かってる。 大本営から新装備を沢山貰ってこいってことだろ。 それぐらいならお易い御用さ」

 

「よろしくお願いします。 特に最近、艦爆艦攻の新型機が量産体制に入ったとのことらしいので、そちらは多めに確保していただけると嬉しいです」

 

「あぁ、それは分かったんだが、それ以外の装備はどうやって調達するんだ? 電探とか爆雷とか機銃とか」

 

「あー、それもなるべく最新鋭のやつ貰えれば嬉しいのですが、明石さんがそういった装備には強いらしいので気にしなくても問題ないですよ。 あの人、航空機以外ならなんでも対応できますし」

 

そうだったのか、と驚かされる海原。

 

そういえば、彼はあまり明石や大淀が仕事している姿を見たことがない。

 

明石の工廠がやや遠かったり、大淀がわざわざ自分から報告しに行っている為だろうか――

 

「今回の海戦で露呈してしまった夜戦装備のなさも、今探照灯を作っているところらしいです。 明治節までには前回足りなかった分まで作れるらしいです」

 

「……あ、明治節までね。 了解した」

 

この世界に降り立って一年半が経とうとする海原だが、未だに一部祝日の名称が変わってるのに合わせられていない。

 

文化の日は明治節になっており、建国記念日は紀元節、勤労感謝の日は新嘗祭、と色々な祝日の名称が挿し変わっているのだ。

 

「大丈夫ですか?」

 

吹雪の問いかけに、首を縦に振った海原。

 

「では、次に艤装の改修、改造です。 改造は明石さんが任せてくれと言っていたので任せるとして、改修に関してです。 これは私と明石さんで決めますので、司令官は考えなくて大丈夫です」

 

「そう……因みに、どういうことを計画しているんだ?」

 

「次の打ち合わせで提言するのですが……まず、全艤装を一度入念にチェックし、最適な状態にチューンします。 チェックした後もアンケートだったりなんなりで艤装の状態を常時分かるようにする予定です」

 

「そうか、よく考えてるんだな……それで、気になったんだが……」

 

「はい?」

 

やや不思議そうな目をする吹雪。

 

「それ全部、昨日の内に考えてたの? それとも書類片付ける時に考えてた?」

 

吹雪は腕を組む――かと思いきや、意外にもすぐ答えが返ってきた。

 

「どちらでもないですよ。 今まで言ってたこと、前々から考えてたことですよ」

 

「あ、そうなのか……」

 

それほど先のことを考えていたことに対し、感心とも驚きともとれる声を表した。

 

「まあ、佐渡が陥落するなんて思ってませんでしたが、別に大したことありません。 ちょこっと計画を大きくするだけで十分ですし」

 

「へえ……よく考えてるな。 転属の可能性だって否定できないのに」

 

「あ、大丈夫です。 そういった事態になった時のことも考えてますから」

 

「とりあえずリスクは先に潰しておくんだな……」

 

「勿論ですよ司令官。 先にリスクを潰しておけばほとんどの憂いがなくなるんですから」

 

当たり前のように言う吹雪。

 

吹雪にとっては、このように先々のことまで思案を巡らすのは普通で、やらなくてはいけないと感じているのかもしれない。

 

艦娘の癖に戦闘能力が酷いというのも、その心構えに影響を与えてるのかもしれない。

 

「司令官も、先々のことはちゃんと考えてください。 私今、佐渡奪還後どうやって佐渡に拠点置けるか考えに考えてるんですから」

 

「あ、うん分かったが……まずは佐渡奪還が成功してからだな」

 

それは違うと言いたげになった吹雪だが、もはや覚るのを諦め、話の軌道を修正する。

 

「次に、潜水艦の確保です。 これに関しては本気で司令官には取り組んでもらう予定です」

 

「お、おう……確かに、俺でしかできない任務だな」

 

「個人的には、潜水艦は鎮守府の先陣を斬って敵基地に行く、最も危険な艦種ですし、事故が起こる可能性も他の艦種よりも高いので、できるだけ数を確保していただけたらと思います」

 

「なるほどね……ご希望の数は?」

 

「できるだけ多く。 とりあえず数が欲しいです……が、最低限三隻は確保してほしいなというのはあります」

 

「分かった。 最低三隻ね……」

 

"ゲーム"の方であれば、潜水艦を三隻集めることはそれなりの時間と資源を掛ける。

 

この世界においても潜水艦の数はあまり多くはないが、正規空母よりかは多いらしいので三隻集めるのは容易くない――はずだ。

 

「潜水艦であれば性能はあまり問いません。 まるゆとかじゃなければですが」

 

まるゆとは、海軍陸戦隊が装備輸送の為に開発した潜水艦の種類のことだ。

 

生産能力と予算の都合の為戦闘能力は全くと言っていいほど付いておらず、更に言えば陸戦隊が単独で作った為か、その劣悪性能には目を瞑らなくてはいけない。

 

因みに、海軍陸戦隊とは日本陸軍とは別の組織であり、ソ連開発の艦娘の陸軍版――言うなれば、"陸娘"を管理している、海軍の下部組織である。

 

「そもそも、なんで装備輸送の為だけに艦娘作ったの? それならリアル潜水艦で十分じゃん」

 

「艦娘を作った……という実績が欲しいだけですよ。 この世には艦娘を作れずに消えていった国家が五万とあるんですから、それだけ説得力はあるでしょう……国内ではどうかは知りませんけど」

 

「そして、大して運用せずに生産終了というね……まあ、あの子達ちゃんと陸戦隊に入れたから良いけど、艦娘が政治利用されるのはなあ……」

 

「それは仕方ないです。 軍事なのですから」

 

「ま、まあね……」

 

ある程度仕方ない、と考える海原だが、元々平和な世界で生きてきた性なのか、そういった考えに拒否反応を示してしまう。

 

「提督は優しすぎるんですよ。 厳しすぎるのも考えものですが、優しすぎるのも考えものですよ」

 

「わ、分かってるって! いつかは直すようにするから……」

 

苦し紛れの言葉に見えたが、許したのか、これ以上話を延ばしてもしても意味がないと感じたのか、それ以上追求することはなかった。

 

「話戻しますね。 次が最後なのですがこれは提案、というよりお願い事の色が強いのですが……」

 

少し言い淀んだ吹雪の言葉にゆっくりと頷く。

 

「大本営のご機嫌を取ってほしいのです。 勿論、出来る範囲でのことですが」

 

「出来る範囲で……?」

 

「私達では処理しきれないようなやつとか、長期的に見て駄目なやつ……例えば死ぬことを前提とした囮任務だったりは無理にやる必要はないでしょう。 ですが、上のご機嫌を取ればその分待遇が良くなるのは事実です――佐渡鎮守府なんてその象徴のようなものです」

 

太平洋と日本海に挟まれている日本は、その地理上太平洋側に戦力を注入している。

 

その反対にある日本海は、深海棲艦があまり強くないこともあり戦力をあまり注入されていないのが現実だ。

 

事実、鎮守府間での大演習では太平洋側が圧倒的実力を示しており、その反面日本海は敗北に敗北を重ねていた。

 

その日本海を鎮圧しようとする旧佐渡鎮守府はその中でも異彩を放っており、戦力は日本海側最大、これからの成長次第では日本第三位の実力を持つ佐世保鎮守府にも拮抗すると噂されていた。

 

――結果的には、その言葉は夢に終わったのだが。

 

「佐渡鎮守府の司令官は大本営幹部との会談がかなり多かったらしく、大本営の要求には何であろうと受け入れたらしいです――被害はある程度出ていたらしいですがね。 そういった司令官さんの働きによって、佐渡鎮守府はかなりの戦力を保持していたらしいです」

 

「ソースはどこから?」

 

「この件は蒼龍さんから聴取しました。 蒼龍さん、あの鎮守府でもそれなりに信頼を置ける立場だったらしいです」

 

「ふーんそうだったのか……」

 

「まあ、全て従ったりはしませんよ。 そんなことしたら鎮守府が持たなくなりますからね」

 

「でも、なるべく要求には応えろ、ということではあるんだろ?」

 

「ええ。 装備の拡充、新しい艦娘の着任にはそれなりに恩を売っておかなくてはいけませんからね。 それは今後も、です」

 

「分かった」

 

海原が頷いたのを確認した所で、ホワイトボードに新しい文を書いていった。

 

「これで佐渡奪還作戦についての私の構想は終わりです。 あくまで現時点での構想なのでまだまだ修正点はありますが、基本はこの形で行こうと思います。 勿論、司令官も何か意見しても良いんですよ」

 

「分かった。 万が一何か思いついたら吹雪に言うわ」

 

「はい。 あ、それともう一つ。 この作戦に何か名前を付けてくださると嬉しいです」

 

「え、名前!? わざわざ付けなくてもいいんじゃないかな……」

 

「カモフラージュ……の意味は大してないとは思いますが、一応軍の作戦ですし、なんか付けたくなるじゃないですか、そういうの」

 

「珍しいな、大した理由もなくそういうことやろうとするの」

 

「いや、大した理由はなくはないのですが……」

 

吹雪の言葉に少し疑問を抱くも、些細なことだと思い、それ以上の追求はやめておいた。

 

「ふーむ、じゃあ……」

 

首を傾け、腕を組みながら思案する。

 

「”そ号作戦”とかどうかな」

 

「はあ、良いと思います」

 

「お、おう、ありがとう」

 

反応がやや薄い事に憤りを感じたが、突然怒るという芸当が不可能な彼は結局お茶を濁したような形となる。

 

「では本作戦はそ号作戦で。 これからは間違えても佐渡奪還作戦と呼ばないようにしてください」

 

「はいはい。 頑張ってそう呼び続けるようにするよ」

 

いつもならここで念を押すのだが、今回は特にはなかったので、実はそこまで重要な事だと考えてないのかもしれない。

 

「さて……かなり話し込んでしまいましたね。 そろそろ執務に戻りましょうか」

 

気が付けば、時計の針は午後十七時を回っていた。

 

「今日は戦いを終えての宴会です。 それまで、何もしていない私達は仕事に勤しみましょう」

 

吹雪に促されるままに職務に戻る海原。

 

ところどころ吹雪の言動が不思議に感じた海原だが、それはどうでもよいものだと考えて、特に追求はしなかった。

 

だが、心の奥底にはその後も残り続けていったのであった。

 

 

 

――「眠い……」

 

完全に熟睡している不知火と共に横になる瑞鶴。

 

徹夜してしまった不知火に比べればまだ疲労は軽い瑞鶴だが、それでも昨日の航空戦の疲労は残っていた。

 

(これからどうなるんだろ、ここが最前線に立つわけなんだし……)

 

この鎮守府は、佐渡鎮守府が最前線にいることが前提となっているような、そういう鎮守府だ。

 

戦力が足りないのは佐渡鎮守府がいるからだし、駆逐艦が多いのは遠征や輸送護衛任務などの雑務を佐渡鎮守府の裏でこなせるようにする為である。

 

その新潟鎮守府は、最前線に立つにはかなり心もとない戦力なのが現状だ。

 

そうなると奪還の為に強大な戦力が送られてくるのが常識であるが、太平洋偏重方針を執っている大本営は下手すれば奪還は無用だと考えているのかもしれない。

 

逆に奪還に熱心だった場合、鎮守府の再編を考えているという可能性もある。

 

(……考え込む意味ないよなぁ)

 

内心そうは思っていても、どうしても考えてしまう。

 

艦娘となり、初年度に起きた動乱。

 

不安になるのも、無理はなかった。

 

「……ねぇ、不知火……」

 

不知火の方を向くと、安らかな顔でぐっすりと眠っていた。

 

今の瑞鶴とはまるっきり違う、清々しい程の寝顔だ。

 

(ま、らしくないか)

 

少しずつ侵食していく眠気に押されていた瑞鶴は、ゆっくりと目を閉じた。

 

その数時間後、飲めや騒げやのどんちゃん騒ぎになることは恐らくは知らないだろう。

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