艦隊これくしょん ー空に誓った約束ー   作:ジャスSS

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第三十話 提案

――時は少し戻り、新潟沖航空戦勃発から二日後の鎮守府、執務室――

 

「司令官、粟島戦が先程終結したとの報告書が――」

 

「敗走したか?」

 

「――はい。 先んじて粟島に配備されていた防衛隊は多数の死傷者を出し敗走。 住民の避難は間に合いましたが、粟島は深海棲艦によって占拠されました」

 

覚悟していたことだが、いざその時が訪れるとやはり重苦しい気持ちになる。

 

「民間人に被害がなかったことだけが救いですね。 彼らの故郷は失われましたが……」

 

「それを一時的なものにすることが俺達の仕事だ。 勿論分かっているな?」

 

「はい。 ですが、今はまだ実行可能ではない――」

 

吹雪が見つめるのは、地図に描かれている佐渡島。

 

粟島を守り切れようが切れなかろうが、どちらにせよ次の作戦は佐渡島の奪還だ。

 

「大本営も、今はそちらに集中せよとの勧告を出しています。 見てください」

 

持っていた報告書を海原へと渡す。

 

「……お咎めはなし、か。 誰に責任を擦り付けるんだろうな」

 

「手頃な役人辺りでしょうが、まあその責任も軽いものでしょうね。 それよりも、これを」

 

吹雪が指差した文章には、新型艦載機の量産機の提供と設計図を送るという約束の文言が――

 

「噂の天山と彗星か。 高性能だとは聞いているが」

 

「主要四鎮守府では既に実戦投入されており、旧型よりも遥かに良い戦果を生み出しているようです」

 

「だろうな。 それと、新型艦上戦闘機の噂も耳にしたが……」

 

「烈風のことですか? あれはまだ開発が始まったばかりで、量産体制が整うのに二年かかるって言われてますよ。 紫電改の艦載機バージョンなら、もう試験運用はされていますが……」

 

「どちらもまだまだってとこか……零戦の拡張性が優れてる証ではあるが……」

 

「その零戦の改良型も、今回頂けるようですよ」

 

またも吹雪がある文言に指を差す。

 

「五二型――出来がいいと言われてる」

 

「バランスが良く、量産もしやすい。 海軍史上最高傑作とも言われてます。 これがあるから、烈風の開発を後回しにしているとも考えられますが」

 

そう言って取り出したのは、今となっては旧型に成り下がった、零戦二一型。

 

「翠色の機体らしいですよ。 それはもう、こんな無機質な機体なんかよりも……」

 

「なんか当たり強いけど、まあ無機質なのは同意だな」

 

二一型の機体は白を基調としており、両翼には日の丸があしらわれている。

 

少し寂しさを感じるのも無理はない。

 

「――そうだ、諜報の潜水艦隊から連絡は?」

 

「まだ来ていません。 まあ送り出してからもう一ヶ月ですから、そろそろ――っと、噂をすればなんとやらですね」

 

FAXで送られた情報――一文字ずつ、言葉を紡いでいる。

 

 

 

 

 

――海上で、じっと観察する三人の艦娘。

 

スクール水着のような制服を着ており、一般人からしてみれば破廉恥に思うだろう。

 

では何故このような格好なのか――

 

「聞いたことある? イク、ゴーヤ? 潜水艦がこのような制服なの」

 

「大本営の趣味なのね?」

 

「んなわけないわよ。 合理的だからよ合理的!」

 

「確か、水泳選手が着てるモデルを潜水艦用に改良したって話だよね?」

 

「そういうことよ」

 

「ふーん。 でもなんでいきなりその話を?」

 

「昨日あんた達がそういうこと話してたじゃない。 なんでこんな変態チックな服なのねー! って」

 

イムヤに指摘され、顔を赤くしながらもイクは反論する。

 

「そんなこと言ってないのね! 言ったのはゴーヤなのね!」

 

「ちょっ! ゴーヤはそんなこと言ってないでち! イクの嘘でち!」

 

「どちらでもいいでしょうに……」

 

二人の言い争いに呆れた彼女は再び観察を行う――と、あるものを発見した。

 

「む……あれはまさか……」

 

「イムヤ? どうし――あれは――!」

 

「イク、鎮守府に報告。 至急お願い」

 

「了解でち!」

 

軍事タブレットを通じ、イクと呼ばれていた潜水艦――伊19は、鎮守府へと情報を送信した。

 

 

 

 

 

――一方、鎮守府の駆逐艦寮では、深雪が部屋から追い出された状況となっていた。

 

「白雪? そろそろ入れてほしいんだけど?」

 

ドアの前に座り、白雪をしつこく催促する。

 

しかし、白雪は何も反応を示してくれない。

 

「……叢雲はなんとも思ってないよ? むしろあんたが沈まなくて良かったって言ってたけど?」

 

「……また嘘をつくつもり? 貴女に会った時からそうだけど、嘘ばっかり吐いて――」

 

「じゃあ連れてくるよ、あいつ。 それなら信じてくれるな?」

 

深雪が提案という名の追撃をすると、またも反応をしなかった。

 

「……深く考えすぎだ白雪。 艦娘としての職を得た以上、誰かを失うことなんてごまんとあるだろ。 その上で長く戦い、そして元の人間に戻るにはそれらを糧に前に進まなきゃいけないんだ。 まあ、叢雲は死んでないけど……でも、これから誰も死なないなんていう保証は、どこにもないんだ。 だから白雪、今お前に必要なのは――」

 

説教の途中で聞こえた、白雪のすすり泣く音。

 

さすがに言いすぎたかと思う深雪は、そこで一旦言葉を止めた。

 

すると白雪は、その合間に話し始めた。

 

「……私が犯してしまった失態、どんだけあると思う……? 提案した作戦は大失敗、加賀さんを大破させて、蒼龍さんも中破に追い込んでしまった……しかもその時、あろうことか私はただボーッと棒立ちして――叢雲ちゃんに庇われて、あの子を死ぬ寸前にまで追い詰めてしまった。 全ての責任は、私にある。 私さえ、ちゃんとしておけば、こんなことには――!」

 

「白雪! 自分に酔いすぎだお前!」

 

話を遮った深雪は、喝を入れるように白雪に言い放つ。

 

「なんだよ自分のせいって。 たかが駆逐艦の一隻に誰が責任を押し付けるんだよ。 しかも旗艦でもない、駆逐隊の一隊長なお前が、責められる道理はどこにもないっての」

 

「でも――」

 

「お前が提案した作戦は誰が採用した?」

 

「……加賀さん」

 

「だろ? お前はただ作戦を提案しただけで、それを採用するかどうかは加賀さんが全て握っている。 そしてその結果の責を取るのも、加賀さんの役割だ。 まあボーッとしてたのは後で説教されるかもしれないけど――たいして言われないだろうし、気にする必要はねえよ」

 

何も言えず、ただただ黙り込む白雪。

 

続けて深雪が言う。

 

「とにかく、お前がそんなに考える必要はないってことだ。 お前はただ毎日、訓練に励むだけでいい。 そのことだけを考えて艦娘人生送りゃいいんだ。 責任とかなんとかは、もうちっと偉くなってから考えろ」

 

「……そっちこそ、偉くもなんともないくせに」

 

白雪の不意を突かれるような言葉に、思わず深雪は笑ってしまう。

 

「ははっ! 確かに、それもそうだな……ってそうだ! いい加減早く中に入れてくれよ! また床で雑魚寝はごめん被りたいぞ!」

 

深雪の叫びに、少し笑って応えた白雪。

 

「……はいはい。 今開けますよ」

 

ようやく開かれた扉。

 

そこから見えた白雪の目から、涙が数滴流れているように見えた。

 

 

 

 

 

――時は進み、航空戦から二週間半後の鎮守府、演習海域。

 

その名の通り、演習の際よく使われるこの海域は、海上戦闘の演習にはこれ以上ない程ピッタリとも言える施設である。

 

また、戦闘を行わない海上訓練にも対応しており、輸送作戦の向けた訓練もここで行うことが可能だ。

 

ほぼ全ての設備が一回り古臭いこの鎮守府において、唯一トップレベルの設備を誇る施設だ。

 

そして今、その海域において躍動しているのは、空母娘三人と駆逐艦娘十四人。

 

「くぅ……やっぱりなかなか当たんねえな……速すぎにも程があるだろ……」

 

「新型なのですから致し方ないです。 むしろこれらが味方機であるということを喜びましょう」

 

空を舞う無数の航空機。

 

それに向け、今まさに弾幕を張っているのは一航戦の秋雲だ。

 

そんな彼女の隣で弾幕を張っている不知火は、雪風、如月と組んで現在、第三駆逐隊の一員となっている。

 

この航空演習限定のようだ。

 

「秋雲さん! 複数の爆撃攻撃機が輪形陣を突破しました!」

 

「了解! ライン突破か……如月! 二駆と十一駆の方は!?」

 

「チラ見した感じ――あっちも大分ボロボロな状況だわ……もしかするとこちらよりも酷いかも……」

 

如月がチラッとだが見えた光景は、航空隊にかなり翻弄されている、第二駆逐隊と第十一駆逐隊の姿が。

 

なかなか墜とせられない現状に、イラつきと焦りが見える。

 

「了解……厳しいな、やっぱり」

 

「一回目の時からこういう感じだけど……二回目になって、より酷くなった感じね……」

 

「次でラスト……なんとか持ち直しておきたいね……よーし!」

 

何かを決意した秋雲。

 

無線機に口を近づけ、設定を駆逐艦全員に聞こえるようセッティングし、そしてつらつらと話していく。

 

「全駆逐艦に告ぐ! 次の三回目の航空攻撃が、この演習最後の対空戦闘だ。 その攻撃で、一番敵機を撃墜させた人には、間宮さんとこの好きなやつ、なんでも奢ってやろう!」

 

そう秋雲が言うと、各地から大きな歓声が上がっていく。

 

「ただし! 私が一番になった場合、みんなから奢ってもらうことになるから、ちゃんと私に勝ってよー!」

 

そのことを話すと、今度は不満を唱える声が上がる。

 

というのもこの秋雲、非常に対空戦闘に長けており、演習の際は必ずトップの座につくからだ。

 

しかし勝てば間宮アイス――その甘美な響きに、一部の艦は気合いを入れ直した。

 

「秋雲……またその手を使うの? この前のやったのに……」

 

呆れるような表情で、秋雲に問う。

 

「私に勝てないアイツらが悪い! まあ、そろそろ勝ってくれると信じてるけど?」

 

自分は悪くないと、腕組みしながらキッパリ言う秋雲。

 

「もう二度と使えないと思うけど? 夕立とかがいくら子供っぽいからって、そう何度も引っ掛かるわけないでしょ?」

 

「うっさい! 私に勝てさえすればいいし、ホントに勝ったら奢るつもりだし」

 

「はいはい……分かったわ」

 

結局呆れ顔は変わらず、これから訪れる第三次航空隊に備えるべく、如月は気持ちを切り替えた。

 

先程までかは目の色が本気になっているようで、なんだかんだ言って彼女も勝とうという気持ちが湧いてきているのだろうか。

 

それと同じように――いやそれ以上に、夕立や雪風などは目の色を変えてきた。

 

遠い地点にいる秋雲には知らされていない点は、少し残念だが。

 

「少しでもやる気になってくれりゃ、いいんだけどな……」

 

呟く秋雲。

 

対空番長とも呼ばれている彼女は、駆逐艦等で構成される対空部隊の隊長に任じられることが多く、対空戦闘戦闘時は隊を纏めることを託されている立場だ。

 

それ故の悩みが、彼女自身に存在しているのだろう。

 

「秋雲、敵さんのお出ましよ」

 

「了解……さて、ただで間宮アイス、食わせていただきましょうか……!」

 

空を見つめ、彼女は言った。

 

 

 

 

 

――「瑞鶴ちゃん、艦載機の格納、完了したよ」

 

「こっちも!」

 

蒼龍、飛龍が瑞鶴に呼びかけた。

 

「了解! んじゃ、これで今日の演習はおしまい! 各自艤装を工廠まで持ってってね」

 

「もちろん!」

 

元気ある二つの声が、青く澄んだ空に響く。

 

すると背後からもう一つ、別の声が聞こえた。

 

「どうかしら、その子達の調子は」

 

「そりゃもういい感じよ! 離着艦だって、もうあんたより上手くなってるし!」

 

「加賀さん、戦果はどうだったんですか?」

 

蒼龍が興味津々な様子で聞く。

 

同じく興味津々の飛龍も、加賀に対し催促する。

 

「なかなかいい感じよ。 やっぱり、今までのよりだいぶ格が違う感じがするわね。 でもまだ機体の素性能でゴリ押してる感があるから、より性能を引き出せるようになれば、また良くなるはずよ」

 

思わず零れてしまう笑顔で、彼女達に伝えてゆく。

 

「まだ伸び代があるんですか? 末恐ろしいマシンがやってきましたね……」

 

自らの艤装に入っている艦載機に目をやる飛龍。

 

「大本営ではもう既にこれの次世代機が開発されてるって聞くし、ワクワクが止まらないね! 飛龍!」

 

キラキラした目で話す蒼龍。

 

「そういえば瑞鶴、工廠に艤装預けに行ってからでいいから、この後執務室にお邪魔してくれないかしら?」

 

「執務室? なんでまた」

 

「提督がお呼びのようで。 何について話すかは聞かせてくれなかったわ」

 

「え――うそ、なんの話なのよ」

 

驚いた表情になり、疑念の意を持つ瑞鶴。

 

「聞かされてないわ。 ――まあ雰囲気からして、そこまでキツイことは言われないだろうけど」

 

「それが一番怖いのよ……」

 

明らか様に面倒そうな表情をする。

 

何も言われてない以上、何がぶっ込まれるか全くの不明だという点が、その面倒くささに拍車をかけている。

 

「行きたくなくても行きなさい。 一応上司の命令よ」

 

「そんくらい分かってるって。 んじゃ、私早めに終わらせたいんで、先に工廠に行ってくる!」

 

そそくさとその場を後にする瑞鶴。

 

後ろ姿から、どんよりとした雰囲気が少し伝わった。

 

 

 

 

 

――ドアを叩く音が聞こえた。

 

「失礼します。 第一航空戦隊瑞鶴、参りました」

 

室内の様子の確認すると、提督の姿が見つからない。

 

「司令官は今工廠に。 色々確認したいことがあるらしく……」

 

「そう……んで、用って何? お説教する為に呼んだ?」

 

苛立つ中で聞く。

 

「あなた程の方に、早々お説教する必要はないでしょうに……手短にお話しさせていただきます。 今冬発動予定の、佐渡島奪還作戦――通称さ号作戦において、我が鎮守府は総勢四隻と複数の駆逐艦からなる、空母機動部隊を運用します。 それに際し、瑞鶴――あなたに託したいものがあります」

 

それは一体何だろうか――瑞鶴の頭は、それでいっぱいに埋め尽くされた。

 

「空母機動部隊――旗艦の座です」

 

吹雪から告げられた言葉。

 

そしてそれによって頭は真っ白になり――

 

「はああああああ!?」

 

叫びとなった。

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