艦隊これくしょん ー空に誓った約束ー   作:ジャスSS

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第五話 切込

――横須賀海軍基地の一部分。

 

そこに青年――海原は双眼鏡を首に掛けながら立っていた。

 

目的はもちろん、先程会った艦娘――瑞鶴の模擬戦闘を見るため。

 

「やっぱり海はいいよなぁ…… この中で演習観られるのか……」

 

一人で呟いていく。

 

端から見れば、ただの変人だ。

 

「もうすぐなのかな。 というかどこから瑞鶴たちは出てくるのかな?」

 

 

 

「はぁ!? 他の二人がいない!?」

 

「うん」

 

素っ気なく答える一人の艦娘。

 

その艦娘の言葉に、瑞鶴は沈んだ感情で呟く。

 

「なんか前兆あったかな…… この前初めて組んだのに……」

 

「……分からない。 というより、そういうのはなんもなかったよね」

 

「は~、結局今回も二人でやるのか~」

 

どこか残念がる瑞鶴。

 

しかしそこに、フォローが入る。

 

「でもさぁ…… ここで良いとこ見せられば、"彼氏さん"に良いとこ見せられるんじゃない?」

 

小悪魔のような声で瑞鶴に言う。

 

「……は? あんたばかなの?」

 

「おやおや? そんな事言っといて実は……」

 

「……はぁ」

 

さすがに呆れたのか、言葉を無視して抜錨の準備を進める瑞鶴。

 

しかし、瑞鶴はまだ追及される。

 

「なんで? あの人と一緒にいたの? ねぇ、なんで?」

 

「……だからあんたも嫌われるのよ」

 

言葉の意味を理解できず、ポカーンとして立ち尽くす。

 

「……この模擬戦に勝ったら教えてあげるから」

 

「おお! これは勝ちなけねばいけませんね!」

 

やれやれ、といった表情をみせる瑞鶴。

 

「さ、いい加減行きましょう。―――《青葉》」

 

この言葉に重巡青葉は嬉々として応えた。

 

 

 

 

 

――水上に立つ瑞鶴。 その隣には青葉もいる。

 

二人はこれより、錨を外して模擬戦へと挑むことになる。

 

二人の艦娘の内、瑞鶴が叫ぶ。

 

「空母瑞鶴、抜錨します!」

 

錨が抜かれるのと同時に、勢い良くとびだす瑞鶴。

 

そのあとに続くように、青葉も叫ぶ。

 

「重巡青葉、抜錨するよ!」

 

 

 

「……さて、敵は見えた?」

 

大人しい波が立つ洋上を進む瑞鶴たち。

 

「うーん……あ、見えたよ!」

 

双眼鏡を片手で持ちながら敵に気付く青葉。

 

すぐさま瑞鶴に詳細を伝える。

 

「空母1。軽巡2。駆逐1。 合計四隻だね。陣形は空母を中心とした輪形陣。 空母の前に二隻の軽巡。後ろに駆逐艦がいるよ」

 

「ありがとう。 さて、どうしようか……」

 

洋上で何かを考えるように腕を組む瑞鶴。

 

ここで青葉が何か思い付いたように瑞鶴に提言する。

 

「昨日言ったさ……あの作戦、今できないかな……?」

 

「え? いや、あれは昨日突然思い付いて、そこから想像を膨らましてあんたに勢いのまま言ったやつだから…… 完成度も悪いし、今ここでやっても失敗するでしょ…… っていうか、青葉だって"この作戦は無理があるよ"とか言ってたじゃん」

 

青葉の提言にすぐさま否定する瑞鶴。

 

「いや、あのときはそう言ってたけどさ、それはあくまで《成功はかなり厳しい》って言ってただけ。 で、今はそれらの《条件》が満たされそうなの」

 

この青葉の提言に、瑞鶴は何かに気付くような表情を見せた。

 

「……確かに良いかもしれない。 よし、じゃあ昨日話した内容は……」

 

「大丈夫。 覚えてるよ!」

 

胸を張って言う青葉。

 

(まったく。 こういう時は頼もしいんだから)

 

「じゃ、私も昨日話した通りに動くから。 青葉はあいつらの《注意を引き付けて》おいて」

 

「はーい。 では青葉、行ってきます!」

 

勢い良く駆け出す青葉。

 

「さて、青葉がしっかりと動いてくれたら、今度は私の番。私がこの作戦の主役なんだから」

 

 

 

 

 

――「? 瑞鶴なにしてるんだ?」

 

双眼鏡を両目に当て、遠くの瑞鶴を見やる。

 

遠くに見えていた瑞鶴は既に発艦作業を終えていたが、発艦した艦載機の内容はさすがに知ることは出来なかった。

 

それでも――

 

「ここまで速力を落とす必要があるのか……?」

 

そこに洋上の瑞鶴は速力を落とし、敵艦隊を中心とした円の外周を進んでいるように見える。

 

これが意味することは――

 

 

 

「……バケモンたちが来たか」

 

それまで、双眼鏡でのみ見られた青葉が、現在では裸眼でもなんとか見れるほどにまで近づいてきた。

 

もうすぐ、砲雷撃戦が始まりそうだ。

 

「何故だと思う? ここまで青葉が来るのは」

 

敵艦隊の旗艦である空母艦娘が駆逐艦艦娘に意見を伝えさせた。

 

「私にも分かりません……こちらは軽巡二隻が対応に当たりますので、数的有利はこちらにある……となると、あいつが何か変なことを企んでいるかと……」

 

「……ありがとう。 だが、ここで変に動く必要はない。 しばらくはいつも通りに」

 

了解の応答が三回響いた。

 

しかし、彼女はどことない不安を感じていた。

 

(……いや、相手はたった二人だ。 例えバケモンどもだろうが勝てるだろう。 きっと……)

 

彼女が不安を振り払ったのと同時刻に、重巡青葉と軽巡二隻による砲雷撃戦が始まった。

 

その頃、海原の視界から消えた瑞鶴は、一人静かに動いていた。

 

 

 

――"この作戦を成功するには、次の要素が必要となる まず、艦爆、艦攻をしっかりと相手に奇襲して切り込ませること。 そのためには、母艦であるあなたが気づかれないこと。 それと、防空戦力を残さないこと。 それらを達成するのは、一般的な艦隊運用なら無理だと思う"

 

"じゃあ、明日の模擬戦とかは? 四隻が相手だし"

 

"……あの連中はこんなこと、絶対に反対すると思うけど。 というか、瑞鶴はあの海で隠密行動できるの? 艦戦だけの編成で相手の視界を一点に縛らせることはできても、効果は一瞬よ。それに、直衛隊のことだってあるし……"

 

 

 

 

 

「つまり、その一瞬の間に動けば良いんでしょ。 簡単なことじゃない。直衛隊は……航空隊の皆さんに頑張ってもらいましょう」

 

自慢げな笑顔を見せ、意気揚々と敵艦隊へ向け弓矢を引いた。

 

 

 

――目視で確認された敵機。

 

しかしそれらは全て艦戦であった。

 

戸惑う敵艦隊。

 

しかし旗艦はこれを絶好のチャンスと捉え、艦戦を消耗しない形で敵機の漸減にあたる。

 

軽巡らは青葉との交戦中のため、駆逐艦と共に漸減を行った。

 

しかしそれは、彼女らにとって屈辱的な敗北劇の序幕に過ぎなかった。

 

(しかし、なぜここで艦戦を……? こちらも同じように艦戦のみの編成を組むと考えたのか……?)

 

この時点で、空母艦娘は直衛隊のみ発艦していた。

 

つまり、瑞鶴たちの様子を窺ったのである。

 

「あの……思ったのですが……」

 

「……?」

 

首を傾げる空母艦娘。

 

「敵は、こちらを横から切り込む、ということは……」

 

「いや、さすがに瑞鶴であろうと無理がある」

 

「……ですかね」

 

自然と納得する駆逐艦艦娘。

 

しかし、心のなかにはまだも不安が残る。

 

これは空母艦娘も同様であった。

 

 

 

――ある程度瑞鶴航空隊の数が減っていき、航空隊は空域からの離脱を行っていた頃であった。

 

「!? 右舷より、敵機発見! 超低高度でこちらに接近中!」

 

「なんだと!?」

 

この報告は、彼女らに大きな衝撃を与えた。

 

突如現れた艦載機。

 

それらのほとんどは艦爆艦攻であったことも、彼女らに衝撃を与えていた。

 

さらに、突如現れた上、艦隊との距離はそれなりに近く、空母艦娘による艦戦の発艦は出来られなかった。

 

この、華麗な奇襲劇にまんまとハマった彼女らは、大した抵抗もできないまま、瑞鶴航空隊による攻撃を待つだけであった。

 

 

 

 

 

――夕暮れ時の公園。

 

この公園は海軍基地内にあるため、軍人たちの憩いの場となっている。

 

そこに、昨日海軍幹部候補生学校を卒業し、明日から新潟へと旅立つ海原がいた。

 

瑞鶴とここで待ち合わせしていたのだ。

 

そこに、一人の少女――瑞鶴が走ってきた。

 

「よっ、おつかれ」

 

「ふふっ。 どうだった、私の戦い」

 

戦闘後のクールダウンのためか、長袖のジャージを着ている。

 

「うーん……凄いなって……」

 

「は? なにその感想。 もうちょっと良い答えが帰ってくると思ったのに……」

 

「え、そんなにいや? じゃあ、怪物……」

 

「怪物!? 私、一応女子なんだけど!」

 

「あぁ、ごめん。 怪物は言い過ぎたな」

 

謝る海原。

 

「ま、私自身も怪物だって理解してるけどね」

 

「……へ?」

 

「ううん、なんでもない。 さて、このまま二人でいると、誰か来たときに色々めんどくさくなるから、ここで一旦サヨナラにしましょうか」

 

瑞鶴の言葉に頷く海原。

 

「じゃ、最後に一つだけ。 どこの鎮守府に行くの? これだけ聞かせて」

 

一瞬言葉に詰まる海原。

 

だが、ここは正直に言った。

 

「新潟。 新潟鎮守府」

 

「……は? 新潟?」

 

「うん。 そう」

 

「ふーん。 じゃ、一年間、ちょっと待っててね。 一年後、すぐさま行くから」

 

「は? いやさすがに無理が……」

 

「では、そういうことで。 じゃあね!」

 

少し速めに歩く瑞鶴。

 

ある程度瑞鶴歩いた後、こちらに振り返った。

 

「今日は楽しかった! あなたが男子では最初の友達よ!」

 

その顔には、満面の笑みがこぼれていた。

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