――「司令官、こちらが四日後着任する艦娘達です」
朝の鎮守府。
日はそれなりに傾いているが、まだ東の方向にある。 時間にしてざっと――十時ぐらいだろうか。
「ありがとう」
秘書艦、吹雪から束ねられた紙を受け取る提督、海原。
「………空母……?」
「はい。 それがどうかしましたか?」
この世界は一応"艦これ"の世界であるが、ゲームの世界ではない。
(こんなに早く出会うことはないよな……)
「いや、なにもない」
リストには、《正規空母 加賀》の文字が載っていた。
――四日後の朝。
吹雪が執務室のドアを開けた。
「司令官。 追加の艦娘達が到着しました」
「そうか。 では、寮の部屋を案内して、荷物をまとめてもらってから、こちらに来てくれるように言ってくれないか」
「はい! 分かりました」
そのまま反転し、来た道を戻る吹雪。
その吹雪に聞こえないように、呟く海原。
「……今回来た艦娘は五人。 その五人とも、ゲームでも出てる艦娘か……ある意味、奇跡かもな。確か、この日本に存在する艦娘はおよそ八千人。 艦これで出た艦娘はおよそ180ほどだから……すごい確率だな」
何故こうなるのか――その答えは、誰も知らない。
「加賀型航空母艦一番艦、加賀です。 航空機の運用能力には長けています。 航空戦では、その運用能力をフルに使い、大活躍してみせます」
正規空母加賀がうやうやしく海原に挨拶をした。
それに続くように、新しく着任する艦娘たちが挨拶をする。
「軽巡洋艦、長良です。 駆逐艦を束ねるのは得意です! ぜひ、水雷戦隊で使ってください!」
「川内型軽巡洋艦の二番艦、神通です。 夜戦の戦いを得意にしています」
「駆逐艦、如月です。 旧式の駆逐艦ですが、よろしくお願いします」
「特型駆逐艦四番艦、深雪だよ! ………あ、じゃなくて、深雪です!」
「いや、別にいい。 敬語なんて使わんでいい」
「……へ?」
五人の中で最も遅く挨拶した深雪がポカーンとした表情となる。
「……とりあえず、ここまでの長旅、お疲れ様。 俺がこの鎮守府の司令長官、海原海斗だ。 まあ、提督なり、司令官なりいろんな呼び方をしても構わない」
優しく語りかけたおかげか、艦娘たちに緊張の色は見えない。
「では、これからについて。 今日は疲れただろう、ゆっくり休んでもらう。 昼食、夕食の時間になったらこちらから連絡をいれるので、連絡が来たら食堂に来てくれ。そして、明日からは演習を行う。 演習のメニューについてはこちらが考えるので安心してくれ。 あと、机の上に置いてあるこの紙は、この鎮守府のルール的なものと鎮守府の地図を纏めたやつだから、暇があれば読んで。 ……以上。 解散」
その言葉と同時に、新しく着任した五人の艦娘が紙を手に取り、部屋を後にした。
「これで良かったんですか」
「ああ。 これぐらいフレンドリーじゃないとな……」
鎮守府のルール。
その一つに、"互いに尊敬しあい、思いやりながらも、楽しく接する"という条文が書かれてあった。
「……ここは確かに軍隊だ。 だが、ここにいる軍人たちは年頃の女子だ。 本来なら自分のために生きるのに、わざわざ国のため、世界のために戦ってくれてる。 だからこそ、日常の中で楽しみを見つけてほしい。 そういう願いがあるんだ」
熱く語る海原。
その心遣いに感謝の念を呟く。
「…ありがとうございます。 私達のこと、そんなに考えてくださるなんて……」
「いいよいいよ。 というか、そういう環境じゃないと、俺もやってけないし」
「……え? なぜですか?」
不思議に思った吹雪は、海原の顔を見る。
「……俺にもな、色々あるんだよ」
"色々あるんだよ"その言葉は、これまで何度も口に出し、その度に内容を問われた、まさに《逃げ》の言葉であった。
しかし――
「そう……です…か」
吹雪はその内容を問うことなく、話を切り上げた。
「……あとは、皆がこのルールに賛同してくれるか、だな」
「そうですね……深雪はあの言動からして、多分賛同してくれるでしょうけど、他の人……特に加賀さんは賛同してくれなさそうですね……」
「いや、意外とああいう人こそこういうのに賛同する………と、噂をすればなんとやらってやつか」
二人は開かれたドアを見た。
そこには、ドアを開けた加賀が立っていた。
「どうした?」
「……この紙、鎮守府のルールについてですが……」
固唾を飲んで見守る。
「本当に、これの下に生活しても……?」
「勿論。 そうでなきゃ、そんなこと書かないだろ?」
ハッとする加賀。
「……ふふっ。 そうですね。 見落としてました」
すると、次は微笑みながら言った。
「楽しく過ごせそうです。 この鎮守府は」
その言葉だけ言い残すと、ドアを閉め立ち去ってしまった。
「……賛同してくれたのか?」
「みたい……ですね」
呆然とする二人。
「……まあ、第一関門は突破ってことで。 後の人は…いけるでしょ」
「ですね」
その後、このルールに全艦娘が賛同。
その結果、軍隊らしからぬ"気軽さ"がこの鎮守府に根付くこととなる。
――「吹雪。 これが今夏実行予定の作戦要綱だ」
海原たちが新潟鎮守府に着任して四ヶ月後の七月。
この間、新潟鎮守府は遠征と演習、稀に新潟の北にある鎮守府、佐渡鎮守府と合同して深海棲艦の漸減に当たっていた。
その結果、新潟鎮守府艦隊――通称《新潟艦隊》は飛躍的に錬度が向上した。
「凄い紙の量……これを読めということですか?」
「勿論。 すげえ量が多いけど、なんとか読破しよう」
「…面倒ですけど、やりますか」
「……つまり、樺太とその周辺海域に居座っている深海棲艦を叩くんですね」
「そう。 国が遂に決戦に臨もうとしたんだ」
「日本海軽視のあの総理がですか……珍しいですね」
この"艦これ世界の総理"は太平洋戦線を重視しており、逆に日本海戦線は軽視されている。
故に、太平洋戦線を構築している基地は厚い待遇を受けているが、日本海戦線を構築している基地への待遇は悪い。
新潟鎮守府も、その煽りを受けた基地の一つである。
「あの人、太平洋情勢を安定させているせいか、支持率が高いんですよね。 おかげで、日本海戦線が不安定なんですよ!」
「別に好転させているわけでもないのにな……最近ちょっとずつ反攻しているけど」
「反攻って言っても、この前やっと沖ノ島攻略したぐらいじゃないですか! あそこ、元々日本の領地ですよ!」
「まあ、確かに反攻スピードが遅い感じはするな」
(沖ノ島攻略には時間と労力と精神を消費するんだぞ……)
心の中で呟く海原。
「噂によると、次は北方にあるモーレイ海の哨戒を経て、アルフォンシーノ方面に進出するらしいですけど」
「なるほどね。 多分、モーレイ海哨戒とアルフォンシーノ方面進出の間に、キス島の撤退作戦があると思うよ」
「……へ? キ、キス島の撤退作戦……?」
怪訝そうな顔になる吹雪。
「……いい。 忘れてくれ」
「あ……はい。 忘れます」
「それで忘れられるんですかね……というか、話を戻そう」
脱線しすぎた話を戻す二人。
「えーと……国がようやく日本海に目を向けてくれたっていう話ですよね」
「そう。 そしてその紙には、最新鋭の装備の使用、兵の大量動員などが書かれてある。 太平洋より幾分かは劣るが、歴代最高の戦力をもってして反攻を行うと書いてある」
「つまり、私たち新潟鎮守府にも最新の装備が支給される可能性が……」
「それはない」
目を輝かせていた吹雪を、一瞬で落胆させた海原の言葉。
「なぜなら……ここを見てくれ」
その言葉の意味を説明する海原。
海原が指差した場所は、作戦の主戦力として参加する基地の名前が書いてあった。
「……ないですね。 新潟鎮守府の名前」
「つまり、国からは戦力として見てもらってない、ということだ。 そして……これだ」
次に指差した場所は、作戦参加の自由を与えられている基地の名前であった。
多くは日本海に面していないか、九州北部にある基地だ。
しかし――
「……こっちにありますね。 だろうな、とは思いましたが」
「俺も思ってたわ。 でもさ、逆に考えようぜ」
自信満々に、話していく。
「作戦参加は自由。 つまり、別に参加しなくても良い、ということにならないか」
「……はあ」
やれやれ、という表情になる吹雪。
「考えてみてください。 この戦いで人類側が負け、戦力をたくさん失い、その再建の隙に敵に攻め込まれたら」
「……確かにそうだが、この鎮守府でなにが出来るって言うんだ?」
「いや、これまでも様々な貢献をしてきたじゃないですか……それに、私に策があるんですよ」
自信満々に話す吹雪。
「……ほう。 珍しく自信を顔に出すな」
「今回の策については、ついさっき考えたんですよ。 だから、です」
「なるほどね。 んで、その策の内容は?」
「ふふ……では、聞いてください」
自信満々に、吹雪が話していった。