――自信満々に策を語ろうとする吹雪。
「司令官、見てください」
吹雪は地図のある一点を指差した。
「まず、本作戦の概要を復習しましょう。 本作戦の目的は、《樺太周辺深海棲艦の殲滅》です。 その達成のため、深海棲艦に逃げられないよう包囲網を敷きます。 この包囲網において、最も突破されやすい地点、それはどこだと思いますか?」
「……宗谷海峡? あそこ狭いし、乱戦になりやすいし」
「そうです宗谷海峡です。 あそこは乱戦になりやすいので、例え数量で有利を取ったとしても、不利な側にやられる可能性が十二分にあります。 恐らく、ここにはそこまで人員を配置しないでしょう。 また、数が少なくても勝機があるということから、私たちにもチャンスがあるということでもあります」
「なるほどね。 つまり、宗谷海峡で逃げ込んできた深海棲艦を待ち受けて叩くと。 なんか弱いものいじめみたいだな」
「こうでもしないといけないんですよ……それに、こういうことをするのは、もう一つの目的があるからなんですよ」
「……ほう」
「この作戦で明確な戦果を挙げることで、今後国からの待遇の改善を要求することです」
その言葉に、思わず怯んでしまう。
「……そ、そんなことも考えてるの?」
「ええ。 というか、これが一番大事な部分でしょうか」
「……なんかその……凄いね」
「装備は古いし、数も多くない。 艦娘も頭数が絶対的に足りない。 とにかく、今はないない尽くしなんですよ。 その状況を早く変えたいんですよ」
「まあ、気持ちは分かるよ。 確かに、今はないものだらけだ」
「とりあえず、国に強さを見せつければいいんです。 そうすれば、いざという時に戦えます」
「いざって……例えば?」
「……佐渡鎮守府が攻撃されたときとか」
瞬間、海原の背中が凍る。
それまで笑みを含んだ顔だったが、突如として笑みを失った。
「……はは。 そんなこと言うなよな。 怖すぎるわ」
「……でも、可能性としては十分あるんですよ」
「大体、深海棲艦が佐渡鎮守府を奪ったとして、すぐさま新潟には来れねえだろ」
「ここが戦力のない基地だということは偵察で判明するはずです」
「国が助けにくるだろ。 本土に上陸されてしまったら国民の士気なんてだだ下がりだぞ」
「すぐさま助けにこれないのがいまの兵の配置なんですよ。 防衛は全て佐渡鎮守府に任されているんです」
凛とした顔で語る。
「それを直すためでもあるんです。 だからこの作戦に参加するんです」
「……そんなことまで考えていたんだな……ありがとう」
「いえ、これは《戦場に出ない艦娘》である私の役目です」
「……吹雪」
「はい?」
恐る恐る、話していく。
「居心地、悪くない?」
「……はい? どういうことですか?」
「あ、その、戦闘をしないことに対してだけど……」
「あー、そのことですか。 それなら大丈夫です。 艦隊の皆さんにはしっかりと理解してもらってますし。 私も、この役目が適任だと思ってますし」
落ち着いて受け答えをする吹雪。
その声音には、覚悟の念が入っているようにも見える。
「……強いな。 吹雪は」
ボソッと呟く。
「ん? 何か言いましたか?」
「いや、気にしないでいい。 それより、作戦について」
「あ、そうですね。 とは言っても、さっき言ったことがほぼ全てなんですが」
あっさりと話を終わらせる吹雪。
「現場での戦術に関しては加賀さんに任せましょう」
「そうだな。 俺たちが決めるのは戦略レベルの話だからな」
「ただ……」
「ただ?」
何か思案を巡らす吹雪。
その吹雪に問う海原。
「一つだけ……戦術レベルの話で加賀さんに伝えたいことがあるんですよ」
「ふーん……」
――「以上が本作戦の概要です。――質問はありますか?」
翌日、鎮守府での作戦会議が行われた。
場所は鎮守府内にある会議場。
学校の会議室のような部屋となっており、海原達は一番奥の席に。
加賀らは、海原達から見て右手に手前から加賀、長良、如月。
左手に手前から神通、深雪が座っている。
本来ならば大きい広間の壇上に提督らが立って説明するが、新潟鎮守府は規模が小さいため、こじんまりとした会議となっている。
「……はい。 加賀さん」
真っ先に手を挙げた加賀を、吹雪が指す。
「本作戦は不確定要素が多すぎます」
口を開いて一発。
勿論、加賀もしっかりとこの作戦を見た上での質問だ。
「確かに、海峡での戦いでは、少数でも勝てる可能性は十分にあります。 ですが、こちらが負ける可能性も十分にあるわけです。 また、海峡は狭いので、負けてしまえば一気に私達が沈められる危険性だってあるんです。 敵は高い生産力を持つ深海棲艦――ですがこちらは数が限られてくるんです。 そういった部分は私達が考えるべきですが、この策を考案したのは提督達ですので、このリスクをどのようにして軽減するべきと考えますか」
加賀の強い視線が海原に突き刺さる。
同じように、吹雪を除く他の艦娘達も視線を海原に送る。
それぞれ、思いは同じだろう。
「……その質問は私が答えます」
この質問に答えるのは、新潟鎮守府の頭脳、吹雪。
次は吹雪に視線が集まる。
「今回、私はこの戦術を提案します」
手短に説明する吹雪。
その説明を、加賀らは真剣な眼差しで聞いていた。
説明を終え、各艦娘が納得の表情を見せる。
「……賭けの要素もありますが、安定する戦術ですね。 この策を実行すれば、リスクは軽減するでしょう。 ありがとうございました」
同じく、加賀も納得し、そのまま席に座った。
海原、吹雪は安堵し、席に座った。
「よし、納得してくれたな」
小声で吹雪に話す海原。
吹雪はそれに余裕のある声で応える。
「この戦術は自信作なんです。 納得してもらえると思いましたよ。 まあ、不安もありましたが」
頼もしく感じる吹雪。
それは、新潟鎮守府の艦娘全員が感じていたことであった。
「……他の質問は?」
座ったまま言う。
「……はい、神通さん」
次に手を挙げたのは、長良と共に艦隊の準リーダー的存在となっていた、軽巡神通。
「本作戦は他の鎮守府も参加しているようですが、佐渡以外の鎮守府との交流はあるでしょうか」
大人しい神通にしては、珍しい質問――吹雪は違和感を感じ、神通の周りを見回した。
(神通の周りに――いた)
神通の隣、艦隊の元気印の深雪が顔を赤らめ、下を向いている。
吹雪は察したのか、微笑みを深雪に向ける。
「吹雪型の四番艦は残念に思うでしょうが……今回、他の鎮守府との交流は、佐渡鎮守府以外、恐らくないでしょう」
その言葉を聞いたのか、深雪は吹雪の顔を赤面のまま見やった。
一方、吹雪は微笑みを崩さないまま深雪を見る。
新潟鎮守府唯一の同型艦同士であるためか、良いコンビとなっている二人。
「……はいはい、二人。 姉妹漫才は終了ね」
埒が明かないと見たのか、海原が止めに入る。
その言葉に応え、二人は漫才もどきを止めた。
「……今回は交流がないですが、今後はあるかもしれません。 恐らく」
確証のない言葉に渋々納得する深雪。
顔は未だに赤らめていた。
「……さて、他に質問は?」
三度目の問い。
この問いに反応する人はおらず、静寂が訪れる。
「……では、作戦会議を終了します。 お疲れ様でした」
――作戦会議後の会議室。
既に加賀らはいなくなっており、部屋には吹雪と海原のみとなっている。
「……あれ、成功するのかな?」
吹雪に語りかける海原。
「そうですねえ……リスキーっちゃリスキーですけど、これぐらいのリスクはどこも背負ってるでしょう。 大丈夫です。 誰も沈めさせません」
強い信念を示した吹雪。
"誰も沈めさせません――"
この言葉は、海原の頭に常にある言葉だった。
またも聞くその言葉に、海原は安心と不安が入り交じった気持ちを抱く。
「……俺も、沈めさせる気なんてないから。」