第27話「万物焼き尽くす焔の月」
~彼岸 三途の川~
???SIDE
死者の魂が行き着く輪廻転生への登竜門、三途の川。
すべての魂がこの三途の川を渡り、地獄で閻魔の裁きを受けた後、輪廻の輪を巡る。
この時、悪行ばかりを積み重ねていると恐ろしいくらい長い間閻魔のありがたいお話――という名の説教――を聞く羽目になる。
彼岸花が咲き誇る三途の川の畔に、一人の男性が腰掛けていた。
「やれやれ。また此処に迷い込んだのか?」
――好きで迷い込んだ訳じゃない。――
その男性は茜色の人魂に声を掛ける。
実はこの人魂、何度もこの三途の川にやってきているのだ。
現世との繋がりが極めて弱くなっているのが原因らしい。
「いい加減、現世との繋がりを戻さないとそこらの人魂の仲間入りだぞ?」
――そんなこと言われても・・・・・・――
「その様子だと、まだ気づいてないようだな。」
男性は彼岸花の上に寝転がりながらため息を吐く。
「そろそろ気づけ。自分が何者なのか。」
――何を言ってるの? 私は九十九神。そんなのずっと前から知っている。――
人魂の言葉を男性は首を横に振って否定した。
「九十九神というのは本来、己の半身を持って生まれてくる。
だが、お前にはその半身という物が身近にあったか?」
――・・・・・・・・・・――
男性の言葉に人魂は言葉を詰まらせる。
「断言してやろう。お前は九十九神ではない。
いや、むしろ九十九神よりも上位の存在に近いだろうな。」
――どういうこと?――
「結論から言わせてもらえば、お前は神霊だ。
神霊は万物のすべてに宿ることができるが、お前はその依り代を失った。
だが、完全に繋がりが切れた訳じゃない。だから、こうやって迷い込んでるんだよ。」
――私が・・・神霊?――
「そうだ。」
男性の言葉に呆然としている様子の人魂。
刹那、「神霊」という言葉が引き金となって風化し、忘れ去られた記憶が蘇る。
何百年、何千年も前の自分の創製に関わる記憶を・・・・・・
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
私が“■ ■”として目覚めた時、最初に見たのは創造主の姿。
優しそうな目をした、黒い髪の女性。当然ながら私はその人のことは知らない。
だけど、あの人は私が目覚めた事を大いに喜んだ。
――ふふふ♪ 私が考え出した理論は完璧だったみたいね。
――何を、言ってるの?
それが私があの人に向かって発した最初の言葉。
普通なら相手が誰なのか確認する筈なのに、私はあの人が喜んでいる理由が知りたかった。
すると、あの人は変わらない笑顔でこう言った。
――神霊は万物に宿るけど、それは体を持っているわけじゃない。
じゃあ、神霊に依り代を与えて体を持たせたらどうなるのか。
私はその答えが知りたかった。その結果、貴女が誕生した。
――私が?
――そうだよ。火之迦具土様から分霊を借りてきた介があったよ♪
そう言って、私の創造主は笑った。
その時から私は創造主である天津理之神と剣となった。
人の姿になれるようになったのは、私が生み出されてからしばらく経った後。
初めて人の姿になった時に私はあの人から名前を貰った。
――まさか、分霊が完全に独立した存在になるなんて思ったも見なかったよ。
――そうですね。本体との繋がりが感じられません。
――じゃあ、名前をあげないとね。
――名前、ですか?
――うん。貴女は火之迦具土様から完全に独立した新たなる命。
だから、新しい名前が貴女には必要。
そう言って、前の主は私の名前を真剣に考えてくれた。
そして、私に与えられた名前は・・・・・・万物焼き尽くす焔の月、焔月。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「思い出したか?」
――おかげさまでね。――
「そうか。では、選別にこの刀をお前にやろう。」
そう言って男性は腰に携えていた鋼色の日本刀を茜色の人魂――焔月に差し出した。
以前の焔月の依り代になっていた物と同じくらいに長い刀剣である。
鏡のように磨き上げられた刀身には、呪符のように文様が刻まれている。
鍔の部分は不死鳥を模した形をしており、中心には宝玉が嵌め込まれている。
――どうして私に?――
「特に理由はないさ。俺はもうその剣は使わないからな。
その剣も使われるほうが本望だろう。」
――じゃあ、貰って置く。どっちにせよ、依り代は必要だし――
焔月が宿っていた依り代は妖刀の一件で依り代としての力を失ってしまった。
ゆえに、焔月が現世に戻るためには新たな依り代が必要となる。
男性はその依り代を何の理由もなく提供してくれたのだ。
「さっさと帰れ。俺はまた仕事に戻らないといけないんだ。」
そう言いながら男性は小さく指を振った。
すると、焔月の姿はなく、男性から渡された刀も姿を消してしまった。
「たく・・・。あまりにもじれったいから手を出しちまった。」
誰も居なくなった三途の川の畔で男性は自分に対してため息を吐いた。
「これは映緋様に説教されても何も言えねぇな」
大きな鎌を背負った男性――小野煉貴は誰も居なくなった岸で一人呟いた。
~八雲神社 湖~
虎熊姉妹が夢幻郷に侵入してから約三年。
鬼を纏め上げる長、夜沙神 奉鬼と仲良くなったゆかりはしばしば鬼の宴会に誘われるようになった。
そんなゆかりは湖の上で瞑想していた。
「・・・・・・・・・」
空中に浮かび上がった状態で静止しているゆかり。
その華奢な体から神々しいオーラが放たれ、それを包み込んでいる。
「はぁ・・・。焔月、中々目覚めないわね」
ゆかりは静かに目を開き、ため息を吐く。
妖刀異変の直後から今も尚、焔月は眠りについたまま。
約三年前、焔月はゆかりに「少し眠ります。」と言い残して眠ったのだ。
「まったく。何時まで眠ってるつもりなのかな?」
ゆかりは湖上で呟きながら空を見上げる。
春の空は青く澄み渡っており、心地よい春風が走り抜ける。
意識は完全に逸れているにも関わらず、神々しいオーラは鎧の様にゆかりを包み込んでいる。
「ん?」
視線を戻すと、ゆかりは少し前まで見慣れた姿を見かけような気がした。
一瞬、気のせいと考えたが、気のせいではなかった。
何もなかった湖の畔には一本の日本刀が突き刺さっていた。
「何だろう?」
ゆかりは湖上を滑空し、突き刺さった剣に手を掛ける。
すると、明るいの炎がその日本刀から立ち上った。
いかにも熱そうな炎なのに、ゆかりは特に熱を感じなかった。
やがて炎は刀身に吸収されるように収束していき、鋼色の刀身は明るい炎のような色に変わった。
《ふぅ・・・・・・ようやく融合が終わりました。》
「え・・・・・・?」
ゆかりに懐かしい声が響き渡った。
一瞬幻聴かと思ったが、その声は間違いなくゆかりの手に握られた日本刀から発せられていた。
「焔月・・・?」
《はい♪ お待たせしました、主。焔月、ただいま戻りました♪》
帰ってきた焔月は数年前と変わらない声で言った。
なお、この後、ゆかりや蒼月に根掘り葉掘り聞かれたのは言うまでもない。
◆おまけ◆
「まったく・・・貴方という人は」
同じ頃、煉貴は映緋の部屋で説教を受けていた。
「死神はどんな魂魄にも平等でなければなりません。
なのに、貴方という人は・・・・・・」
「返す言葉もございません。」
「それが貴方の美徳なのは理解しています。
ですが、やるなら死神としてではなく小野煉貴個人としてやりなさい。
しかも、祇園様から貰った剣を勝手に謙譲するなんて・・・・・・」
映緋はため息を吐いた。
煉貴が焔月に依り代として渡したあの日本刀はただの日本刀ではない。
女神を封じ込める祇園様が作った刀であり、友人である映緋に謙譲されたものである。
もっとも映緋は剣を嗜んでいるわけではないので、映緋から煉貴に謙譲されたのだ。
「罰として煉貴は半月間減給。」
「ちょ、ちょっと待ってください!!さすがにそれは酷すぎでしょ!!」
「あら、せっかく私があげた物が他の女に渡ったことを私が怒ってないとでも思ったの?」
映緋は笑みを浮かべるが、目はまったく笑っていなかった。
「それに減給されても大丈夫でしょ。私の給料は入ってくるのだから。」
「男性として妻に養ってもらうのは・・・・・・・」
「つべこべ言わない。」
こんな感じで煉貴は半月間給料半減という罰を負うことになった。
映緋「なんてとんでもない設定が出てきましたね。
焔月の正体と言い、煉貴と私の関係といい」
作者「後者の方は完全な後付だね。前者の方は最初から考えてたけど」
映緋「下手に設定を追加すると、同じことの繰り返しになりますよ。」
作者「問題ない。映緋の設定はもともと改訂前に出すつもりの奴だったから。」
映緋「初耳です。」
作者「まあ、結局ボツにしたんだけどね。前回は。」
映緋「どうしてですか?」
作者「映緋が地獄を追放されたから。この設定が生まれると同時に夫婦設定はボツになった。」
映緋「そんな裏話があったんですね」
作者「さて、次回からはようやく4章に突入します。
4章からは夢幻郷陣営に加わるオリジナルキャラが主になります」
映緋「それではまた次回。」