東方転生伝 ~もう1人のスキマ妖怪~   作:玄武の使者

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第30話 「白面金毛九尾の狐(前編)」

「白面金毛九尾の狐(前編)」

 

 

 

 

 

 

 

 

???視点

 

京都の都から千里離れた下野の国(現在の栃木県)。

内陸部に位置するその下野の国のとある山の麓の森の中で生死を掛けた熾烈な鬼ごっこが繰り広げられていた。

鬼は、大陰陽師として平安京に君臨した安倍晴明の子孫を筆頭とした都より派遣された軍勢。

彼らが追い掛けるのは、きつね色の髪に紅白の伝統的な巫女服を着た10歳前後の少女。ただ、普通の人間と違うのは頭には狐耳を、腰には“一本”のもふもふした尻尾を生やしていることだ。

 

 

「しつこいっ!!」

 

 

でも、どうして攻撃を仕掛けて来ないの?この辺りには人なんて居ないのに・・・・・・

 

 

「まさか・・・誘い込まれてる・・・・・・?そうだとしたら、一刻も早くこの場所から―――っ!!」

 

 

 

 

ドカ――ンッ!!

 

 

 

 

「きゃあぁぁっ!!」

 

 

少女が気付いた時にはもう遅かった。すぐ近くに立っていた樹の幹に貼り付けられていたお札が爆発し、その衝撃で少女の身体は岩壁に叩き付けられる。

 

 

「うっ・・・早く、逃げないと・・・・・・」

 

 

「無様だな、化け物。千人の軍勢を退けたかつての力は何処に行ったのだ?」

 

 

「くそっ・・・こんな封印さえなければ、お前たちなどっ!!」

 

 

少女のきつね色の髪の毛の先端にはいくつものお札がリボンのように縛られている。

しかも、外そうとして弾かれてしまうため、少女自身では外すことができない。

そのリボンは少女の力を抑え込める封印となっている。

 

 

「意気がるなよ、化け物」

 

 

「がはっ!!」

 

 

少女の鳩尾にゴツい男性の爪先が突き刺さる。

その箇所の肉が抉られて、少女の血が漏れ出す。

 

 

「確かに封印から解き放たれたお前は強いだろう。それこそ俺たちを一瞬で滅殺できるくらいに、な。

だが、お前は人を殺すことができない。お前は人間が大好きで大好きで堪らないが故にこうして地べたに這いつくばっている。」

 

 

「くっ・・・ううっ・・・狐火!!」

 

 

「おっと」

 

 

苦し紛れに得意技の“狐火”を放つ少女。しかし、その炎は余りにも小さくて弱々しい。

案の定、男性は怯むこともなく、“狐火”を避ける。

 

 

「今の内にっ!!」

 

 

「させるかよ!!」

 

 

逃げようとした少女の腹に男性の重い拳がクリティカルヒットする。

 

 

「がっ!!」

 

 

思わず意識を手放しそうになるが、何とか気丈な精神力で意識を繋ぎ止める少女。

 

 

「そう言えば、妖怪っていうのは人間よりも何倍よりも頑丈なんだよな?

なら、どれくらいやれば死ぬんだろうな。」

 

 

男性は少女の細い右足を掴むと自分の足で太ももを抑えて、右足をあらぬ方向に曲げていく。

 

 

 

 

メキメキッメキッ!!

 

 

 

 

ボキンッ!!

 

 

 

 

「あぁああぁぁぁぁっっっ!!」

 

 

少女の右足はあり得ない方向に曲がり、だらりっと力が抜ける。

暗い暗い森の中に少女の悲痛な慟哭が響き渡る。

 

 

「次は左足だな。」

 

 

 

 

ボキンッ!!

 

 

 

 

「あぁああぁぁぁぁっっっ!!」

 

 

男性は右足と同じ要領で左足の骨も折る。

さらに、今度はうつ伏せ状態になっている少女の肩を右手で固定すると左腕で少女の左腕を曲げていく。

 

 

「あがっ!!うぁっ!!」

 

 

肩が脱臼して左腕に力が入らなくなる。しかし、男性はそんなことお構い無しにさらに左腕の骨を細かく折る。

ボキンッ!!という骨が折れる音が響く度に少女は絶叫する。

 

 

「次は右腕だな。」

 

 

「や、やめっ!!」

 

 

少女の制止の言葉を無視して男性は少女の右腕の骨を粉々に砕く。

そんな惨たらしい光景を誰一人として止めようとしない。

 

 

「これで止めだ!!」

 

 

動かなくなった少女の身体をひっくり返してあばら骨を砕くように全体重を足に載せて踏む。

見た目100キロはありそうなゴツい男性の一撃は少女のあばら骨を折るには十分だった。

 

 

「ブハッ!!」

 

 

少女の口から真っ赤な鮮血が噴き出す。

折れた肋骨が肺か、心臓に突き刺さったのだろう。指一本ろくに動かせない身体になっても少女は死なない。いや、死ねない。

 

 

「こいつはたまげたな。ここまでやってもまだ死なねえのか。」

 

 

「もう・・・止めて・・・私は・・・愛情が欲しかっただけなのに・・・

 何で・・・何でこんなことをするの・・・・・・?」

 

 

少女の目じりからポロポロと涙が零れて、地面を濡らす。

 

 

「うるせぇ」

 

 

 

 

ズブッ!!

 

 

 

 

鋭い小刀が少女の喉を無情に貫いた。

 

 

「たとえお前が人を殺してなくても化け物は滅殺されるべきなんだよ。

それに、だ。そんな化け物に愛情を向けてくれる変人が居るわけねえだろ!!」

 

 

「っ!!」

 

 

・・・・・・そうだよね。化け物の私なんかが人間でもいいから愛情を貰おうなんて考えた罰が当たったんだよね・・・・・・

もう・・・いいや。身体は動かないし、痛みももう感じない。

私、死ぬんだ・・・・・・一族からも追放されて、こんな異郷の地で・・・・・・

 

 

「じゃあな、化け物。いや、白面金毛九尾の狐よぉ!!」

 

 

少女の首を切り落とそうと鋭利に日本刀が少女に迫る。

 

 

 

 

――四天結界!!――

 

 

 

 

しかし、無情に振り下ろされた日本刀は強固な結界によって弾かれた。

ただの日本刀にそんな物を貫ける筈もなく、欠片が宙を舞った。

 

 

「なにぃ!?」

 

 

「私からすれば、欲に目が眩んだ人間の方が数倍化け物だわ。」

 

 

誰・・・?私を助けてくれる人が居るわけが・・・・・・

 

 

「てめえ・・・何者だぁ!?」

 

 

「貴方のような外道な輩に名乗る名前はないわ。ただ言えることは、私はその者を助けに来た者ということだ。」

 

 

森の中に降り立ったのは満月のような金色の髪を持つ少女。

その少女は手に持つ刀を思いっきり地面に突き刺した。

その刹那、陰陽師を筆頭とする軍勢を取り囲むように大きな火柱が上がる。

 

 

「火之迦具土神の炎、その身に受けてみなさい」

 

 

立ち上った火柱はその姿は龍に変えて、都から派遣された軍勢を飲み込んだ。

その光景を薄れ行く意識の中で目撃しながら、少女は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~八雲神社 広間~

 

 

暖かい・・・。まるで日光に当たってるみたいで気持ちいい・・・・・・。

 

 

「目が覚めましたか?」

 

 

「だ、れ?」

 

 

「私は湖の妖精シアンデーム。貴女を助けたゆかりさんの親友です。」

 

 

「ゆ、か、り?」

 

 

「ああ、無理して喋らなくてもいいですよ?

いくらある程度傷が治ったからといって、完全に怪我が治った訳じゃないですから。

今はゆっくりと眠ってください。」

 

 

「う、ん」

 

 

シアンディームにそう返答すると少女は再び眠りについた。

 

 

◆    ◆    ◆    ◆    ◆

 

 

ゆかり視点

 

 

「眠っちゃった?」

 

 

「はい。大きな傷は癒えましたし、命の危険はないでしょう。

ゆかりさんの方は、って聞くまでもなかったですね。」

 

 

シアンディームが自身の“怪我を癒す程度の能力”を行使している傍ら、ゆかりは少女の髪に縛られている封印符を一枚一枚丁寧に外していく。

 

少女が運び込まれたのは八雲神社の広間。

隠れ里である夢幻郷に建設されたその神社には、熟練の陰陽師でもたどり着くことは難しい。

たとえたどり着いても、ゆかりの庇護下に居る妖狐までたどり着くのは不可能だ。

 

 

 

「いちいち数が多くて面倒だよ。」

 

 

まあ、それくらい厳重に封印を施さないと勝てないってことなんだろうけど。

九尾の狐の中でも白面金毛九尾の狐は一際強い力を持つ大妖怪だから、当然か。

でも、その大妖怪にこれだけの封印を施すのは無理だと思うんだけど・・・・・・

 

 

「シアンも疲れたら休んでいいよ?」

 

 

「いえいえ。この夢幻郷でいち早く治療を行われるのは私ぐらいですから。」

 

 

「くれぐれも無茶はしないようにね?」

 

 

「それはお互い様です。」

 

 

そんな会話を交わしながらゆかりとシアンは自分の作業に没頭した。

 

 

 

・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ふぅ、ようやく全部の封印が解き終わったよ。」

 

 

「こっちはもう少し掛かりそうです。右腕の骨が酷い状態で・・・・・・」

 

 

いくら何でも骨を砕かれてたら、シアンでもちょっと時間が掛かるか・・・。

いや、普通に治すと何ヵ月も掛かることを考えたら十分過ぎるくらいに早いんだけどね?

永琳ならあっという間に治せる・・・訳がないか。

 

 

「それよりも結界が悲鳴を上げてますよ?」

 

 

「知ってる。さすがにこれだけ濃い妖力を当てられたら、私の結界も持たないよ。

 というわけで、隔離。」

 

 

八雲神社を囲んでいる結界は少女の体から放出される妖力に悲鳴を上げていた。

それなりに頑丈な結界なのだが、相手は日本三大妖怪の一角である白面金毛九尾の狐。

その妖力も凄まじいが、ゆかりが能力を行使すると瞬く間に収まった。

 

 

「相変わらず便利な能力ですね。」

 

 

「隣の芝生は青く見えるもの。怪我を治せる貴女の能力も十分便利なものだよ。」

 

 

ゆかりはシアンディームにクスッと微笑みを向けた。

その時、バサッバサッと羽音を立てて、一人の妖怪が縁側の畔に降り立った。

 

 

「お帰り、黒蘭。どうだった?」

 

 

「雑な後始末だったわね。結構な数の生き残りが居たわ

 今、血眼になって貴女とその少女を探してるみたい。」

 

 

「そっか・・・・・・。結構本気で焼き尽くしたはずなんだけどね。」

 

 

たく・・・・・・どうして面倒な奴はゴキブリ並の生命力を持ってるのかね。

まあ、不用意に出て行って此処の所在地が知られる訳にはいかない。

しばらくは放置しておくしかないわね。

 

 

「ご苦労様、黒蘭。もう戻ってもいいよ。」

 

 

ゆかりがそう言うと、燕の妖怪――物見 黒蘭は再び空に舞い上がった。

 

 

「ゆかりさん、この子は一体どうするんですか?」

 

 

「どうもしないよ。起きてから本人の意思に任せる。」

 

 

そう言いながらゆかりは眠り続ける少女の頬を優しく撫でた。

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