学園黙示録 〜7日も生き残れたら上々Death〜 作:シータが立ったァァア!!
2DAY ——まともな食事が欲しい今日この頃。
——AM6:00
ナナシの朝は早い。日が昇り始める頃には既に、目が勝手に醒めてしまい、その身体を生活の為の作業へと繰り出してしまう。テキパキと動けるその姿は、屋外仮設キャンプもどきに寝ていたとは考えられないほどの快調ぶりだ。
さて、そんなナナシがやっている事と言えば。
回収作業である。
基本的には、昨日中に集められなかった鉄資源、その他の回収である。特に、真鍮製品は重要中の最重要物質であり、入手が極めて困難な品である。何故ならば、真鍮の鉱脈が存在しないため完成品をスクラップするしか真鍮が手に入らないからだ。
基本的に真鍮はドアノブやカジノコインに使われている為、これらを回収、スクラップしていく事となる。ゴミ箱や《奴ら》からのドロップを狙っていく事となる。
「真鍮が作れたらなぁ……」
無理である。ナナシが出来るのは鉱脈を掘って鉱石を採取、それをフォージに突っ込むのが限界である。
そもそも真鍮は合金であるので鉱脈が存在しないという致命的な欠陥がある。これをどうにかしないといけないのだ。
「……ん、合金?」
自身の思考を整理していた時、ふとある考えが浮かんだ。
自身はかなり前、『精錬鋼』という物を精錬した事がある。これは所謂鋼であり、合金だ。自然には存在しない鋼だが、それをゲーム中ではナナシは作っていた。
つまり、ナナシはフォージを作れば合金も作れるのだ。なんてこった、製鉄工のおっちゃん達の仕事が減っちまうじゃねぇ〜かッ!
つまり、ナナシは既に合金を作成する手段を持っているのだ。
「あ、でも結局銅がなきゃ意味が無いか」
真鍮の7、8割は銅である。また、残りの部分も亜鉛で構成されている為、此方も精錬しなければいけない。
銅鉱脈も亜鉛鉱脈も、どちらも掘り当てなければ真鍮は作れない。更に困った事に、ゲームでは何方の鉱脈も、と言うか鉱石すら存在しない。
ゲームパワーに頼りきっているナナシにこの二つの鉱石が手に入るか、疑問である。
この事実を即座に叩き出したナナシは再び、深い絶望の深淵へと叩き落とされた。これでは銃弾の量産が出来ないでは無いかと。
それでも、ナナシの手は止まらない。せっせせっせと首をぐるんぐるん振り回しながら数多くの棚をsearchしている。また、廊下へと排出されている鉄製品もインベントリに入れている為、案外速いスピードでインベントリが埋まっていく。それはもう、一部屋でインベントリがMAXになる程に。
「こんなもんかな」
インベントリが埋まりきった為、ひとまずこの教室の回収作業を中断する。鉄製品がかなり手に入ったので、良しとする。今一番に必要なのが鉄なので、銃弾素材である真鍮よりは現段階では
「あ、ナナシ。もう起きてたのね」
声の掛かった方向を振り向くとそこには例のピンク色少女、高城 沙耶がいた。
もう起きていたのか、意外に早起きだとお前は密かに彼女を褒めた。
「それよりどうしたのよ。あんた、
確かに彼女の言う通り、ナナシの服には今大量の血が付着している。これが誰のものかと言えば勿論、ナナシのものでは無い。
現在校舎内には、8割がたの《奴ら》が消失したとは言え、まだまだ数体の《奴ら》がいる。この血はそのうちの一体と出くわし、至近距離でトゲトゲバットを繰り出した際についた返り血である。
そこで、ナナシはふと思った。着替え、どうしようか、と。
「……あ、そもそも風呂はどうしようか」
ピンク色そっちのけで思考に入り浸るナナシ。しかし、その考えは最もとも言える。
何故なら7DTDには空腹やダメージ、重力はあっても汚れという概念が無い。至近距離で棍棒振り回しても、ゾンビに殴られても、骨折しても血の匂いが臭わないのだ。その代わりにと言って、手に持っている肉類はガンガン臭うが。
まあ結果から言えば、風呂がないのだ。ナナシが作れるメニューの中に。
「なあ高城、学校に風呂ってあったっけ?」
「ある訳ないでしょ! ……って、確かに風呂はどうしようかしら。このままじゃかなりの間臭うわよ」
臭うどころの話では無い。風呂に入らないと言う事は雑菌が身体に住み着き、体調を崩す元となる。この世紀末世界では行動の幅を縮められるというのは死を意味する。これは、かなり早めに対処しなければならない。
幸運にも、まだ水資源はある。消火栓からドバドバと流れ出てくるくらいの量があるので、他所からタンクへと適度に補給していけばまだ持つだろう。
問題は、風呂本体と熱源である。
「(熱源は焚き火を代用すればなんとかなるが……風呂は……)」
適当な所からかっぱらってくるしかない。ナナシはその考えに行きついた。水道も未だに流れてはいるが、いつまで持つか分からない。今はなんとかなっているが、かっぱらうべき資源はまだまだ沢山あるだろう。
「……効率を上げる方法を考えないと」
他所からかっぱらってくるとなると、運送時に掛かる時間がそれなりには嵩張って来る。今は短距離だがまだ良いが、長距離となると話は変わってくる。
1と2の差ではだいぶ変わって来るのだ。例えるならば、1km先の物を狙撃する際に1mmでもズレれば明後日の方向へ飛んで行ってしまう。それほどまでに、小さな積み重ねは大きな山となるのだ。
——グゥッウゥううう〜
ふと空腹の時を知らせる腹の虫が鳴く音が、静かな空間の中一つ響いた。その音の発信源はナナシの目の前、つまりはピンク色である。
そんなに腹が減ったのだろうか。
「わっ、私じゃないわよッ!?」
「いや、何も言ってないんだが」
先走って否定するとは、何を考えているのだろうか。その驚きようと言い、最早自白である。
しかし、彼女の腹の虫の言い分も一理ある。ナナシも回収作業による疲労が溜まっている。そろそろ飯の支度をした方が良いだろう。
「よし、それじゃちゃちゃっと料理を作っちゃいますか、というか配っちゃいますか」
実は事前に料理は幾つか作ってある。昨夜の深夜時刻になっても全然眠くならないナナシはこの時間にも起きて作業をし続けていたのだ。具体的には燃焼作業である。
因みにその作業は深夜3時まで続いていたりする。
ナナシは脳内インベントリで自分の空腹ゲージと渇きゲージを確認して、チェストの中から『水入り瓶』と『水入り空き缶』を幾つか取り出す。また、それと同時の今朝のメインディッシュも取り出す。
そんなこんなで朝食も準備をしていると、いつの間にか他のメンバーが起きて来た。現在時刻は6:50 学生にしては中々の早起きぶりである。
「意外と早起きだな、お前ら。もうちょっと寝てても良いんだぞ?」
「あ、ナナシ先輩……いえ、大丈夫です。この世界はもう異常の領域に片足を突っ込んでるし、こう言った生活にも慣れなきゃいけないと思うので」
そう述べるのはリーダー的ポジションの学ラン男、小室君だ。年相応と言うべきか、元厨二病の時にでもこう言った現状をイメージしていたのか。その瞳は真っ直ぐだった。
「確かにそうだよな、今までのようにダラダラしてたら大変だよな……はい、これ」
「あ、これはどうも。ありがとうございます」
確かに彼の言う通りだと少しだけ関心しながら、彼に今日の朝食を手渡しする。
因みに今日のメインディッシュは缶詰め(小室のはハム缶)とゆで卵である。副菜は無い。ジュースも無い。
「すまんな、それくらいしかなくて」
「いえ、こんな状況ですし、物資が足りないのは分かってますから」
おお、なんという好青年だろうか。この歳の子だったら文句の一言でも言って良いと思うのだが。
ナナシは少しだけ感動しながら、残りの缶詰めとゆで卵を各員に配っていった。缶詰めは校庭一掃作業後にsearchした結果かなりの数があるので、あと2食分は確保出来てある。
と言ってもそれには『キャットフード』なども含まれているが。因みにナナシの分の缶詰めは『チリビーンズ』 所謂激辛豆である。飲み水ガブ飲み間違いなしだ。
「……もうちょっとマシなの無かったのかなぁ」
贅沢言うなこの腐れク◯虫がッ! である。
朝食を各員が食べ終わった頃。屋上では何故かメンバー会議が行われていた。
因みにこの中で一番叫んでいるのがピンク色、高城である。
「だから言っているだろ! もうちょっと此処に残ろうって!!」
「なんでよ!? 家族を探しに行くんじゃないの!?」
「勿論行くさ! でも、もう少しだけ待って見ようって話だよ!」
「はぁ!?」
こんな感じで、会議と言うよりはただの夫婦喧嘩である。高城の相手は勿論、例の小室君だ。
因みに、こうなった
とりあえず事態の把握をしようと、ナナシは前へ飛び出した。
「はいそこまで〜。で、どうしたんだ?」
「聞いて下さいよナナシ先輩! 高城の奴が此処を離れて今すぐに家族を探しに回ろうって言うんですよ!」
「当たり前でしょ! 今この瞬間にもあんたの家族は恐怖に震えているのかもしれないのよ?」
その言葉と最初の言い争いでナナシは、なんとなくだが事態を理解した。
つまり、この場所を抜け出そうと言うのだ。家族を探しに。
「へえ、いいんじゃないか? 行きたいって言うなら、俺は止めない」
「ナナシ先輩!」
ここは自由の国、日本である。女神像は置いてないが、それなりには自由が解放されている。それはこの、既に狂ってしまった現状でも有効だ。
しかし、小室にはナナシの回答はお気に召さなかったようだ。
渋々と言った表情で、ナナシは続ける。
「——止めないが……もう少し、待ってくれないか?」
「はぁ!? 誰があんたに為に——っ」
「もう少しでクロスボウの素材が人数分集まりそうなんだ。行くならせめて完成品を受け取ってからにしてくれ」
この言葉には流石の高城も顔真っ赤である。自分を引き止めようとしていると思っていた相手がまさか脱退を許してくれ、更には武器までも授けようとしている。どうせいなくなる者だと言うのに。
「知り合いが死ぬのは流石に目覚めが悪いしね。どうせなら物資が揃ってからの方が良いだろう?」
「先輩……」
「……なんで?」
ナナシの言葉に何故か小室は感動した様子。しかしそれとは正反対に、高城は顔を曇らせる。
かと思ったらガバッと顔を上げて……その、むき出しになった歯を見せながら、叫んだ。
「なんでよ……なんであんたはそんなに余裕なのよ! なんで正常でいられるのよ!!」
「なんでって……そもそも俺は異常じゃないか」
「そんなのは嘘よ! 異常だったらそんなに寛大な判断は出来ないわ。自らの労働力が減るのに、更に物資すら恵もうとしてる。なんでそんなに他人思いになれるのよ!!」
訳の分からない強補正が掛かり、ゲーム中の能力を行使し、1日足らずで学校を占拠する。更には死体が持ってないものまで、死体漁りで手に入る。こんなチート野郎を、正常だとは言えるのだろうか。
いや、言えない。故にナナシは異常でも、正常でもない。異物。この一言に限る。
「(……まあ俺自身、なんで冷静かなんて考えたことなかったけどな)」
それでも、ナナシは他人思いである。謎補正の冷静さが功をなして数数の生存者を生還させてきた。重要なアイテムすら使用した。
彼自身、なんで、と言われても答えれないのだ。
——だが、それでも彼の心に秘めた想いは、ただ一つ。
「高城みたいな美少女には決して《奴ら》にはなって欲しくないんだよ」
「……!!」
主に、敵として出会った際にナナシのメンタルがガリガリ削られてしまう為に。美少女の死体カバー何故自ら壊していかなければならないのだ。
罪悪感と残念感でナナシの胃の痛みがマッハでブッシャである。
「って、この話辞めようぜ。なんかしおらしくなってきた」
その一言でナナシは、この話を強制的にぶった斬った。別に続けても良いが、特に面白そうでもない。無駄な体力は消費したくないのだ。卵の在庫的に。
いつの日も、一番大事なのは食料なのだ。