ブレイブウィッチーズ-prière-
1話 休息?
「うー...さみい...」
502基地から少し離れているサウナ室へと向かう影が1つあった。
オラーシャの冬も次第に寒さを増し城郭と歳を隔てた川は凍り,歩いて渡れるまでの寒さだった。その寒さは扶桑・宮城で育った彼女にもそれ以上の冷たさを与えていた。
「何で基地内にねえんだよ...兵舎のすぐ近くに造ってくれりゃいいのに」
そう言いつつ管野は足の歩調を早めた。
脱衣所で脱いだ服を篭の中へいい加減に入れ,内部のサウナ室の扉を開ける。今までの寒さも相まって,より一層心地よく感じられる蒸気が管野のスレンダーな体を包んだ。
ああっ,とたまらず声が出す。今までの連戦からまともに休息を取っていない彼女にとってこのときばかりはネウロイのことは忘れて与えられた休息を無駄にはしない様に努めた。
上下に別れている椅子の奥の下の段にドカッと座る。
目を瞑り手で今まで銃口からの炎を浴び少し焼けた顔を拭いながら,気持ちを緩ませる。
「たまらねえぜ...」
ついつい言葉を発していた。管野はこのサウナ室には自分しか居ないものだと我が物顔でいた。だがその一言はある人物,管野にとってネウロイよりも脅威な彼女
「何が,たまらないんだい?」
自分の左後ろから聞き覚えのある声がしたが管野は一抹の不安を自分に言い聞かせるように首を横へ振った。彼女
だが悲しいかな,その声の持ち主は更に畳み掛けた。
「まさか僕の体に興味を!?」
ほら、幻聴が聞こえだした。疲れてるんだな,と現実逃避する管野。
「守るより攻める方が僕には合っているのに...でもいいよ...」
そう言い終わるが早いかパサッと何かが落ちる音がした。
管野の左の視界に入ったのは自分が座っている段に落ちてきた白い布...タオルだ。
恐らく、いや絶対これは体に巻いておくタオルである。
「お前いい加減にしろよ‼」
そう言い管野は落ちてきたタオルを手に掴み,後ろへ突きだした。
どうやら彼女が居たところは扉の死角となり見えなかったらしい。
管野は同姓だと分かっていても自分の顔が赤くなるのを感じていた。
強面を醸し出しているが管野も年端もいかないいたいけな少女、純情であるのだ。
そのタオルを突きだした相手,つまり声の持ち主はもちろん、好色男を表すかのようなヴァルトルート・クルピンスキー
「いやあ、扶桑人の白い肌ってのは中々乙なものだねえ」
ヴァルトルートは頷きながら管野を,正確には管野の肌をなめ回すように眺めた。
管野はこれ以上肌を隠す術もなく,言ってどうにもなるものではないと短い付き合いではあるが分かっていたので無視を決め込むことにした。
数分したらヴァルトルートも「直ちゃーん...」と小声で叫び何も言わなくなった。
「直ちゃんの意地悪...」
まるで後ろを向けば犬が耳を垂れて落ち込んでいるようなヴァルトルートを見ることが出来たのかもしれないが,今はとにかく休息を取りたかった。多少イレギュラーはあったがこれで休むことができる,と管野は安堵した。だがその沈黙も再びヴァルトルートによって打ち切られたのであった。
「もうそろそろかな...?」
「まだ上がんねえぞ」
「そうじゃないって」
管野は自分がサウナから上がる時間を聞かれたのかと思ったがどうやら違うようだ。本当はコイツから逃げたいが休息出来るのはココと自室位しかないので一先ずは耐えねばならない。
「じゃ,なんだよ」
「すぐに分かるよ」
そう言うとヴァルトルートはニヤリと笑みを向け鼻唄を歌い出した。言われる意味がわからず管野は足を組み頬杖をついた。ヴァルトルートが歌っているのは交響曲第9番の第4楽章,確かカールスラント出身の音楽家が作曲した「歓喜の歌」だっただろうかと管野はボーと考えていた。鼻唄が佳境にろうとしていた時にサウナ室の扉が開いた。
「あれ?管野、中尉ここにいたんだ」
すっと入ってきたのは同僚で同じくウィッチのニパだった。
自分の故郷を偏に守ったスオムス空軍のエースウィッチである。管野とほぼ同年代であるというのに管野にはない双丘が巻かれたタオルの中で窮屈そうにしている。
「やっぱり‼ニパ君だ」
ヴァルトルートは一層に笑顔を作った。どうやら先程中尉が言っていたのはニパがサウナにやって来ることだったらしい...何故だ?
ここで謎が沸き上がってくる。人物と時間帯が分かるのか、だ。
「なんでワタシが来る時っていつも中尉がいるんだろ?」
管野が疑問に思ったことはニパがほぼ代弁してくれた。ニパは座らず不思議そうに腕を組み首をかしげた。管野は次に来る答えが半ば分かっているのでヴァルトルートへは半目で一応顔を向けた。
「君たちを愛でるためじゃないか」
さも当然かのように真顔で答えた。つまり,彼女は愛でるために何時間もサウナにいるようだ。その顔に1発入れてやろうかと管野は思ったが呆れから力を抑えた。自分でも良くできたと思う。ニパなんかは「アハハ...」などと曖昧な笑みを浮かべている。
「ワタシ達502の通称が決まったんだって」
ニパは話題を変えようと座りながら話しかけてきた。管野から見てヴァルトルートは左上の段,下段に座っている管野との中間に座るかのように管野の左側に座った。
「知りたいでしょ?」と言わんばかりの笑みを自分に向けてくる。
「興味ない」
先程といいイラつきが増してきた管野は言い放ちプイッとそっぽを向いた。
みるみるとニパの顔から笑顔が消え涙目になりそうだ。どうやらとっておきのネタだったらしい,意気消沈してしまったのか「アハハ...」と先程の呆れ声より弱々しくなっている。
「ブレイブウィッチーズ、だっけ?」
ヴァルトルートがニパへ助け船を出した。
「そう,中尉知ってたんだね」
ゴメンね、と言うかのようにヴァルトルートは片目を瞑り舌を少し出した。
「ブレイブゥ?」
管野はニパへと向き直り聞き返した。これほど騒がれては無関心を貫き通すわけにもいかない。ニパは我が意を得たりと笑顔を輝かせ喋り始めた。
「隊長が決めたんだって、どんな強敵にでも勇気
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「ブレイブかぁ…」
サウナから上がりニパと一緒に談話室へと戻りながら何度も口ずさんでいるとニパが管野の顔を覗きこむ。
「気に入ったみたいだね」
自分が考えたわけでもないのに明るい笑顔を見せる,ニパ。こう言うときは変に小言を言って話題を減らすより相手に乗るしかない。不本意の話だがニパの笑顔はとても暖かく感じるものだ。
「ブレイブ
談話室の固い革を張りゴワゴワとする椅子に腰を下ろすと体から上がった蒸気が服の間を通り抜ける。
勇敢-特に敵に肉薄する管野にとってこの言葉がよく当てはまる。どんな敵でも自分の間合いにさへ入れば、この拳で倒す!パンっと左手に打ち付けた拳からいい音がした。
だが-
「勇敢過ぎるのも良くないわよ」
後ろから声が聞こえ,振り返ると談話室の入り口にロスマンが立っていた。
「えぇっ、ロスマンさん!?きゃっ!」
ニパは慌てて敬礼をしようと前へ足を踏み出したが立ち上がる瞬間椅子に置いていた手が滑り落ち後ろへと倒れこんだ。盛大に椅子の背もたれに頭を打ち付けるニパ。
「ニパさん、敬礼などしなくていいと言ったでしょう」
と言いながらロスマンはニパを立ち上がらせると席に座り直させ、管野の方へ向き直った。
「どうゆうことだよ」
管野は少し睨みながら問う。その態度を見て『あら、管野さんはよく分かってるわね。』と皮肉めいて答える。
「勇敢さは時に身の破滅を呼ぶわ、この前みたいにね」
それを言われたら返す言葉もない。管野は小さく舌打ちをし足を椅子の上へ上げ腕で膝を抱え込んだ。体育座りの形だ。
「臆病位がちょうど良いものよ、仲間が必ずフォローしてくれる。自分や仲間が怪我したりしては元も子もないでしょ」
「ロスマンさん、説教なら個人で呼び出してしてくれよ。俺は今疲れてるんだ。」
この状況を抜け出す精一杯の抵抗のつもりだ。
「いいえ,今しか言えないのよ。任務中の貴方は他の人の話を聞きそうにないから」
「臆病だったら,ネウロイは倒せねぇ」
押してダメなら引いてみろ、だ。管野は姿勢を崩しロスマンを直視し左足の膝を座席につけた。
「ネウロイを倒すのに臆病風に吹かれてたらユニットすら回せねえぜ。俺は扶桑に居たときからコイツ一本でやって来たんだ。そしてこれからもだ、今さら変えるつもりはねえよ」
管野はロスマンへ拳を突きだした。
そう、と残念そうに言いロスマンは踵を返した。どうやら頑固競争では管野に軍配が上がったようだ。
「あわわ…管野,謝ってこいよ。何かあってもワタシ知らないからね」
先程から泡を食っているニパ。
「うるせえよ…早く医務室行って治療してもらえ」
「ワタシは超回復があるからね」
ニパの体に青色の光が包み込み頭に出来た傷を治癒しているようだ。
5分もかからない話し合いだったが管野にはロスマンに言われた言葉が頭の中を反芻している。
火照った体とは正反対に頭は,すうっと冷たくなるような感じした。
「…先に帰る」
そう言うと管野は席から立ち上がり談話室を後にした。
しかし、その足が向かう先は自室ではなく、『司令室』だった。
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管野は司令室へ続く長い廊下を歩いていた。時折敬礼をしてくる整備兵に適当に受け答えをし,基地内で唯一華美な装飾が施された扉の前へとやってきた。扉をノックすると中から了承の意を返して来たので素早く司令室へと入った。ウィッチ少尉とはいえ基地内最高位の部屋へ入り浸っているのを見られると不味いからだ。
ウィッチに見つかれば妬みの種に,整備兵に見つかればお笑い草にされてしまうと管野は感じていた。
「管野か」
前よりも更に増したかのような書類から顔を出したのはこの司令室の主、グンドュラ・ラル少佐だ。トップエースだが負傷療養中により司令官として鎮座している。
ラルはおもむろに立ち上がり椅子を指差した。
「もう,やんねえぞ」
ラルとの「酒の代わりに書類仕事を行う」約束はこの前の時間で無効になったらしい。そうか,とラルは残念そうに言いながらペンを握り直す。
「何の用だ」
再び書類にペンを走らせながらラルは管野に尋ねた。
「考美,いつくるんだ」
「またか、まだ分からないと言っただろう」
「早くこっちに連れてきてくれ!隊長なら出来んだろ!」
「検討しよう」
管野がラルに聞いてくるのはもっぱら、自分が相棒と認める,雁淵孝美中尉のことだ。この相棒を扶桑は出し惜しみをしている。ラルの素っ気ない対応に管野は手を強く握りしめた。自然に自分の奥歯を握りしめ,歯ぎしりの音が顎の骨をつたって耳元に届く。今にも管野はラルに飛びかかりその歯を立てんばかりだ。
管野はもう待てないと言うように,大量の書類が置かれた机から身を内側に乗りだしラルへと詰めかけた。
「この前大型ネウロイを倒しただろ!あれで…!」
「まだ,焦っているのか」
その時ばかりは,ラルは書類から目を離し管野へと瞳を向けた。管野は気迫あるその瞳に圧され弾かれるようにラルから距離を取った。ここの頑固勝負ではラルに軍配が上がった。
焦り―そのせいでユニットの破損,最高と認めた二人さえも危険に導いたのを自分は思い出した。
ばつが悪そうな顔をし,退出の挨拶も程々に部屋を後にした。あまりの腹立たしさと,早く孝美に会いたいという心は,管野の視野を狭くしていた。
司令室の扉の近く,でサーシャとすれ違ったのを見落とすほどに。
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「失礼ながら,一部始終を聞いていました」
突然の訪問にラルは顔色1つ変えずサーシャに訪問客用の腰かけイスを指差し,着席を促した。これは司令官と現場戦闘隊長の間の礼儀,ではなく単にラルが少しでも書類から解放されるために長く足止めをするためである。ラルは久々に書類から解放され嬉々として3人分のコーヒーを注ぎだした。このコーヒーを部下に振る舞うのも彼女の日課になっている。
「司令室の前で私情を立ち聞きするとは,悪い奴だ。」
「私に戦闘任務を丸投げする隊長に言われたくありません。」
分かってきたじゃないか,と言うかのようにニッ,とラルは口角を上げコーヒーをサーシャに渡した。
出されたコーヒーを手に取りつつサーシャは続けた。
「この前の戦闘が良い経験となったみたいですが…」
「私には逆に見えたわ」
司令室にいる二人以外の声が聞こえた。
「エディータ,来たか」
ラルは唯一502隊内で『エディータ』と呼ぶ。
「さらに火を注いでしまった形だわ」
ロスマンもサーシャ同様,椅子に座り出されたコーヒーに口をつけ一口飲み切り出した。
「先ほど彼女に諭してみました,臆病にならないかと」
「それで,なんと?」
サーシャはカップを机に置き,ラルは目を閉じ耳を傾けた。
「変わらなかったわ,いえ今後も変わる気はないそうよ」
ロスマンはその時の管野を思い出しながら口に指を当て上品に笑った。
「だと思いました」
「同感だ」
サーシャとラルはフッ、と息を吐いた。
さっきも司令室に来てな…とラルはロスマンに経過を説明した。
「諭したのが裏目に出たかしら,隊長にはとんだご迷惑をお掛けしましたわ。」
ロスマンは悪い笑みを浮かべた。
「今回のは1つ貸にしておこう,これでエディータが逃げ出さないように出来る」
「お二人とも,ご冗談ですよね…?」
サーシャは涙目で訴える。
これ以上管野に外圧を掛ければ隊内での素行は更に目に見えて悪くなるのは赤子でも分かる。
『当分様子見』と言えば聞こえはいいが結局は『手をつけられない』というのが本音だ。
とにもかくにも管野の処分はこれで決まった。
「この代用品も今日までだ」
ラルはカップを少し掲げ話題を振った。
「あら,補給路が確保されたのね」
エディータは心なしか嬉しそうだ。それもそのはず彼女は平時ならば案外食事や趣味には余念がないからだ。補給路が確保されたのならば必然的に物資は多くなる。
それはさておき、話を戻そう。
「それだと嬉しいが…その逆だ。」
ラルは腹を割かれるような痛々しい表情を浮かべた。
「では,あそこはネウロイの手に…」
サーシャが言ったのは,ここペテルブルグからムルマン港を繋ぐ中継地点『ペテロザヴォーツク』の事だ。現地点は前よりウィッチとネウロイとの小競り合いが続いているが今までは管轄外であった基地からウィッチが出撃していたが,502発足につきペテロザヴォーツクの守備は無になっていた。
ここを制圧されれば502基地には主流の補給物資が届かない。昔の戦略で言うと「兵糧攻め」だろうか。
「大規模とは言わないが反攻作戦を取る」
ラルは最後のコーヒーが入ったカップを飲み干し概要を伝えた。
「ネウロイの数,種類は未確認。制圧されていることから陸上ネウロイの出現が考えられる。また,空輸を試みた223輸送大隊は陸上からの砲撃のみを観測しているため航空ネウロイはいない模様だ。」
「残りの物資は…いつまでもちます?」
長年の経験を生かし最も聞かねばならぬ質問をロスマンはした。その質問の答えによって解決の急の速度は変わってくる。
「1ヶ月,もって1ヶ月半だ。ユニットの修理は各部の残り2回分しかないと主計班長からの報告が挙がっている。」
一同に沈黙が流れた。前回と引き続き502基地は窮地に立たされていた。
「そこでこれまでの哨戒と合わせ,ペトロサヴォーツクへの偵察任務を行いたい」
サーシャとロスマンは同時に頷いた。
その動作にラルは少しだけ顔色を明るくした。
「では,編成は二人組
サーシャは,戦闘隊長として現実的な編成の案を考案した。3人組
1人で行かせたら危ない人もいますから,とサーシャは苦笑した。
「私も同意見だ,エディータ。お前はどう思う」
「何も言うことはありませんね」
ロスマンはサーシャの行動に少しだけ笑みを浮かべた。
「よし,では説明した通り各員に通達してくれ。編成要員はサーシャに一任する」
こればかりはすぐにはサーシャは返事をしなかった。少し間をおいてから
「すべて私なんですね」
と、こめかみに手を当て大きくため息をこぼした。
着任して以来書類仕事以外の仕事は彼女に丸投げされてきた。ロスマンに助けの目を向けたが既に彼女が座っていた所に姿はなく一歩早く部屋を退出したようだ。
ここ502では助け合う同志はいないらしい。
「隊長は部下を労ってくれません,上司としてあるまじき行為です。」
「サーシャ,時に人は理想を求めすぎる。ユニットの部品の融通に,弾薬の確保それが私の仕事だ。」
ラルは後ろの机に積み上がっている書類を指差しながら苦笑を浮かべた。
少し考えさせてください,そう言うとサーシャは半分になったコーヒーを机に置き立ち上がった。
「まだ,残っているぞ」
「今は勤務中です,長居は出来ません。隊長も仕事にお戻りください。」
サーシャは静かな笑みを一つ浮かべラルへ仕返しとばかりに言い放った。司令室にはラル一人が残りしばし閑散とした。
「まあ、あいつなら上手くやるだろ」
そう言うと再びラルは手にペンを取るのだった。
初めまして、しがない物書き。と申します。
このように小説を書くのは初めてで右も左も分かっていません。少しずつ投稿し読んでいただきたいと思います。他の作者の方々に負けないように日々精進して参ります。