第一話 夢
そこは自分の知らないはずの風景。
だが、自分はなぜかこの場所を知っている。
日の登らない
しかし、ここは太陽が昇る緑豊かな土地。
だが、そこは金属音や怒声、馬のかける音、飛竜の羽根の音、天馬の羽ばたき音が聞こえてくる。
そう、この風景は戦場だ。
闇夜兵と知らない白き兵が闘い、倒れ逝く。
斬られ、焼かれ、吹き飛ばされ、打たれて逝く。
自分はなぜか、
自分の後ろから、
「カムイ!」「カムイ……姉さん!」「カムイ姉様!」
自分の名が呼ばれる。
彼らを見ると、自分は彼らを知らない。
でも、彼らはどこか懐かしく、愛おしく思う。
そしてまた、自分の後ろから、
「カムイ!」「カムイ姉さん!」「カムイお姉ちゃん!」
自分の名が呼ばれる。
彼らはよく知ってる。
自分の大切な
そして、自分の横に剣を交えた兄と知らない男性。
でも、彼もどこか懐かしい。
「「カムイ!こっちだ‼︎」」
二人が自分に手を伸ばす。
赤い瞳が揺れる。
とても悲しい。
とても辛い。
自分がなぜそう思うかは解らない。
自分は手を伸ばす。
でも、どちらに?
ーー私はヒヤッという感覚を感じ、目を覚ます。
「おはようございます、カムイ様♪」
「今日も、沢山寝ていましたね。」
私は目を擦りながら、起き上がる。
彼女の名は暗夜王国の第二王女カムイ。
彼女は幼い頃より、この城『北の城塞』に限られた人達と住んでいる。
それは、彼女が病弱であるからとも言える。
そしてカムイは伸びをして、
『なにか、夢を見ていた気がするんですが……なんだったでしょう?』
姿勢を正すと、
「おはようございます。フェリシアさん、フローラさん。」
横を見る。
そこには、メイド服を着た長いピンクの髪をポニーテールにしたフェリシア。
彼女はとても明るいが、少しドジっ子である。
その双子の姉のメイド服を着た長い水色の髪を下にツインテールしたフローラ。
彼女はフェリシアとは違い、完璧に仕事をこなす。
彼らは、カムイのお世話をする専属メイド。
それに加え、彼女を守る為に、戦闘も行う。
さらに二人は氷の部族出身であり、触れるだけで物を凍らせる力を持つ。
私はベッドから降り、二人に身支度を手伝ってもらう。
私の寝癖で跳ねている長い髪を、フローラさんがとかしていく。
と、横で転けて水を盛大に零すフェリシアさん。
「フェリシア!あなた、なにやってるの!」
「はわわ!ご、ごめんなさい!」
フローラが、腰に手を当てて怒る。
私はフェリシアさんの前で膝をつき、
「大丈夫ですよ、フェリシアさん。拭いてしまえば、元通りです。だから、あまりフェリシアさんを怒らないであげて下さい、フローラさん。」
「カ、カムイ様‼︎」「カムイ様が、そう仰るなら……」
「さ、私も手伝いますから。」
と、三人で濡れた床を拭いていく。
それが終わると、フローラが頭を下げる。
「カムイ様、申し訳ありません。このような事をさせてしまい。」
「気にしないでください。私も好きでやってる事ですから。それに、私は嬉しいんです。フローラさんとフェリシアさんが来て下さって。ずっと一人だった私に、友達ができたんですよ。幼い頃の記憶が曖昧な自分に取って、お二人はとても大切な家族です。だから、私は本当に嬉しいんです!」
「カ、カムイ様ー‼︎」
と、フェリシアはカムイに抱きついた。
カムイは笑顔で彼女を抱き返す。
だが、フローラの表情が暗い事に気付き、
「もしかして、フローラさんは嫌でしたか?」
「いえ、そんな事はありません。私も嬉しいです。ありがとうございます、カムイ様……」
と、「コンコン」とドアが鳴り、開く。
一人の灰色の長い髪を結い下げた執事がお辞儀をし、
「おはようございます、カムイ様。」
「ジョーカーさん、おはようございます。」
彼の名はジョーカー。
彼もまた、カムイのお世話をする専属執事にして、バトラーだ。
そして、フローラとフェリシアの先輩だ。
ジョーカーは顔を上げ、
「早速ですが、マークス様とレオン様がお見えになっております。」
「マークス兄さんとレオンさんが!フローラさん、剣をお願いします。マークス兄さんに稽古をつけて貰ってきます!」
カムイは手を合わせて、喜ぶ。
だが、ジョーカーは眉を寄せ、
「カムイ様、あまり無理をなされては……昨日、体調を崩されたばかりですし……」
「大丈夫ですよ、ジョーカーさん!私は、この通り元気です!」
と、カムイはガッツポーズを取る。
ジョーカーは頭を下げ、
「……わかりました。マークス様方にお伝えしてきます。」
「お願いしますね。」
ジョーカーは部屋を後にする。
フローラが剣を渡しながら、
「カムイ様、ジョーカーの言う通り、あまり無理はなさらぬようにお願いします。お身体が弱いこと、お忘れないように。」
「そうですよ、カムイ様!無茶は禁物です。カムイ様は、すぐ無茶しちゃいますからね!」
二人にそう言われ、上目使いで、
「わかってます。無茶はしません、約束です。」
カムイは剣を受け取って、屋上に向かう。
扉を開け、そよ風が頰や髪を撫でる。
「おはよう、カムイ姉さん。今日は元気そうだね。」
「レオンさん、おはようございます。」
カムイの前には、カチューシャをつけた金髪の少年がいる。
彼は暗夜王国の第二王子レオン。
カムイの弟であり、暗夜の天才魔導師であり、ダークナイトだ。
そして、神器・ブリュンヒルデの持ち主だ。
よく見ると、レオンのマントは裏表逆だった。
カムイは苦笑して、
「レオンさん、マントが逆ですよ。」
「え⁈」
レオンは急いでマントを直す。
カムイは辺りを見回し、
「あれ?レオンさん、マークス兄さんはどこですか?」
「ああ、今に来るよ。ほら……」
レオンが扉を指差す。
そこから、眉を寄せた金髪の男性が出でくる。
彼の名は、暗夜王国の第一王子マークス。
カムイとレオンの兄であり、剣術はとても強いパラディンだ。
そして、彼もまた神器『ジークフリート』の使い手である。
カムイはパッと笑顔になり、
「マークス兄さん、おはようございます!」
「ああ、おはよう、カムイ。」
「マークス兄さん、今日は剣を教えてください!」
カムイは剣を振るう。
マークスは苦笑して、
「教えるのは構わないが、先日体調を崩したばかりだろう?無茶はいかんぞ。」
「無茶じゃありません!少しだけ、少しだけでいいので!」
「仕方ないんじゃない、マークス兄さん。カムイ姉さんは、言い出したら諦めが悪いよ。」
レオンは肩を少し上げる。
マークスはため息をつき、
「少しだけだぞ、カムイ。」
「はい!お願いします、マークス兄さん!」
カムイは構える。
マークスも、腰の剣を抜く。
レオンは少し離れたところで、二人を見守る。
「行きます!」
カムイはマークスに近づき、剣を横に振る。
それをマークスは剣を斜めにして受け止める。
カムイは右に回転して、再び横に剣を振るう。
だが、これもマークスは剣を斜めにして受け止めた。
カムイは一端後ろに下がって、左手に握る剣を構え直す。
そこに、マークスが剣を振り上げてくる。
カムイは剣を横にして受け止める。
「甘いぞ、カムイ!」
マークスはカムイの持っている剣を弾く。
「きゃ!」
剣はカムイの後ろの方で回転しながら、突き刺さる。
カムイは尻餅をつく。
両手を上げ、
「参りました、マークス兄さん……」
マークスは剣を鞘にしまう。
レオンが近づき、
「今日も、マークス兄さんから一本取れなかったね。」
「はい……」
マークスの手を借りながら、カムイは立ち上がる。
そして、ガッツポーズを取り、
「でも、いつかちゃんと取ってみせます!」
「だが、カムイ。なにも、剣士に拘らなくてもいいのだぞ。お前には才能がある。だが、体が弱いのだ。魔法師や弓兵といった後方の方が、お前には良いのではないか?」
「魔法の方も、僕が見る限りは悪くないしね。」
二人は互いにカムイを見た。
カムイは剣を鞘に戻し、
「それでも、私は剣士でいきます。なぜかは解らないんですが、そうの方がいいって……そう思うんです。」
「そうか。では、私は一端城に帰る。」
「もう、ですか?」
カムイは残念そうな表情をする。
マークスは苦笑し、
「すまないな。今回は、お前の様子が気になって来た。この後すぐに、戦場に向かわねばならん。」
「そう、ですか……。気をつけてくださいね、マークス兄さん。」
「ああ。レオンはもう少しここにいる。後は頼むぞ。」
「任せて。」
マークスは、扉に向かいながら、レオンと互いに頷き合う。
レオンはカムイを見て、
「さ、姉さん。僕たちも中に入ろう。」
「はい、レオンさん。一緒に、お茶でもしながら本を読みましょう。」
「わかったよ、姉さん。」
二人も中に入っていく。
マークスは、老人騎士と話していた。
彼は、カムイの護衛騎士ギュンター。
幼い頃から、カムイの世話もしていた。
それなりの年齢でありながら、その実力は劣っていないグレートナイトである。
マークスはギュンターを見て、
「では、ギュンター……」
「わかっております。この城の護りはお任せ下さい。マークス様もお気をつけて。」
「ああ。では、頼む。」
マークスはマントを羽織り、馬に乗る。
そして、馬を駆ける。
『カムイの剣の才能は悪くない。だが、体が弱いのだ……いや、それには語弊がある。あの子はどこも悪くない。体も、心臓も、どこも弱くはない。それこそ、体力も動きもいい方だ。なのに、何かの呪いかのように病弱なのだ。それはやはり、カムイの精神的な問題なのか。何故ならカムイは……』
マークスは考え込む。
そして数日前、ここに来る途中に会った人物を思い出す。
フードを深くかぶり、マントで身を包む者。
あの声からして、女性なのは間違いない。
マントからチラリと映った顔の大半は、仮面で隠されていた。
その者は、マークスを見て言った。
ーー暗夜の第一王子。時期に歯車は動き出す。貴殿は知っている。あれを想うのであれば、貴殿はあれを、あの城より出さぬことだ。
マークスは眉をさらに寄せる。
と、目の前に、木の陰から人が出てきた。
マークスは馬の手綱を引き、飛び越える。
そして馬を落ち着かせ、剣を握る。
「貴様は!」
「久方ぶりだな、暗夜の第一王子。」
マークスは目の前のフードを被った人物に、剣先を向ける。
そして思う。
この人物に剣を向けると、心のどこかで剣が鈍る。
この声には聞き覚えがある。
だが、目の前の人物は敵か味方か解らない。
警戒を解くわけにはいかない。
「貴様は……何者だ!」
フードの彼女は彼を見上げ、
「……少なくとも、今は敵ではない者だ。暗夜の第一王子、運命の選択はすでに始まっている。貴殿が疑うは身内。」
「なん、だと……?」
「貴殿の知る王は、もう居ない。あれは王の姿をした傀儡。」
「父上を侮辱するか!」
マークスは、フードの彼女の首元に剣先を突きつける。
だが、フードの彼女は微動だにせず、
「貴殿は誰よりも知っているはずだ。あれは、既に貴殿の尊敬した
「貴様……‼︎」
マークスはフードの彼女の首を斬り裂こうとした。
だが、彼女は後ろに少し下がり、
「暗夜の第一王子、あれの命を救いたければ、貴殿は
そう言って、彼女は森の闇に消えた。
マークスは剣をしまい、再び馬を走らせる。
カムイはレオンとお茶を楽しみながら話をしていた。
「そうだ、レオンさん。お庭に行きましょう!リリスさんが育てているお馬さんが、仔馬を産んだんです。一緒に見にいきましょう。」
「いいけど……この時間帯だと、外は冷えてるだろうね。ジョーカー、姉さんに上着を頼むよ。」
「かしこまりました。レオン様の上着も用意しますね。」
ジョーカーは二人の上着を用意する。
そして、二人は庭へと向かう。
無論、ジョーカー・フローラ・フェリシアも付き添う。
カムイは庭の広い一角で、親子の馬と共にいる青い髪の少女と老人騎士がいた。
青い髪の彼女の名はリリス。
この『北の城塞』でカムイの従者の一人であり、厩舎係だ。
フローラとフェリシアの後輩にあたる。
カムイは小走りで、リリスとギュンターの元に行く。
「ギュンターさん、リリスさん。」
「カムイ様、こんな時間に外に出ては風邪を引かれてしまいます!」
「大丈夫ですよ、リリスさん。レオンさん、この仔馬がそうなんですよ。可愛いでしょ♪」
と、心配するリリスをよそに、カムイは仔馬を撫でる。
レオンは苦笑して、
「そうだね、姉さん。ギュンター、リリス。すまないけど、少しだけ姉さんに付き合ってくれ。」
「レオン様も、大変ですな。」
「酷いです!レオンさんも、ギュンターさんも!だって、可愛いこの仔が仕方ないんです!」
「はは、そうだね。」「そうですな。」
カムイが、頰を膨らませる。
それを、全員が笑い出す。
しばらくそうしていると、リリスはあるところを見て瞳を揺らし、
「カムイ様‼︎」
カムイに覆い被さる。
それと、同時だった。
親馬が暴れ出し、カムイに襲い掛かる。
フェリシアが二人の前に出る。
その前に、フローラが出る。
そして、レオンが魔術で馬を木の根でかこう。
ギュンターとジョーカーが抑える。
さらに、すぐ近くで火の魔術が爆発する。
カムイは驚き、
「え⁈一体何が……?」
「カ、カムイ様、お怪我は?」
フェリシアが、バッと振り返る。
カムイは起き上がり、
「わ、私は大丈夫です。それより、リリスさんに擦り傷が!すぐに手当を!」
カムイはハンカチを取り出し、リリスの手の甲に縛る。
リリスはそれを包み込み、
「ありがとうございます、カムイ様。」
「お礼をいうのはこちらです。皆さんも、ありがとうございます。」
頭を下げるカムイ。
カムイはリリスの側に近づいてきた親子馬を見て、
「でも、良かった。爆発が起きたから不安でしたが、この子達が無事で。」
と、頭を撫でる。
カムイは嬉しそうに、
「この城にいるみんな、私の家族なんです。勿論、この子達も。」
「……そうですね、この子達は幸せものです。」
「リリスさんも、私の家族ですよ。」
「……え?ほ、本当ですか、カムイ様‼︎」
「本当ですとも。リリスさんは、私のもう一人の妹です。フローラさんとフェリシアさんは、もう一人のお姉さん。ジョーカーさんは、もう一人のお兄さん。ギュンターさんは、もう一人のお父様です。」
「カムイ様に、父君と思われているなんて光栄ですな。」
ギュンターは腕を後ろに組んで、微笑む。
ジョーカーに関しては、祈るように手を組んで泣いていた。
フェリシアは笑顔で、フローラは苦笑していた。
リリスは瞳を揺らして涙を流しながら、
「ありがとうございます、カムイ様‼︎カムイ様に、妹と言って頂いて、私はとても嬉しいです!」
カムイはリリスの帽子を拾い、彼女の頭を撫でて、
「リリスさんは頑張り屋さんの妹です。」
「姉さん、いい雰囲気を壊して悪いんだけど……そろそろ中に入ろう。体が冷えてる。」
レオンがカムイの上着を掛けながら言う。
「私は部屋を温めてきます。」
「私も、温かい飲み物を用意してきます。」
ジョーカーとフローラが歩いていく。
フェリシアが慌てて、
「私も手伝います〜!」
二人を追いかける。
リリスは涙を拭い、
「そうですよ、カムイ様。カムイ様が風邪を引かれては、みんなが困ってしまいます。私は、この子達を送ってきますね。」
「私も、共に行こう。」
リリスとギュンターは二匹を連れて行く。
レオンはカムイの肩に手を回し、
「さ、姉さん。」
「は、はい。」
カムイを連れて行きながら、レオンは爆発が起きたところを横目で見る。
『さっきの魔術……いったいどこから?それに、威力も強くもなく、低くもない。魔術に長けた者の技だ。』
二人も中に入っていく。
庭の森の影、一人のフードで顔を隠した者が見据えていた。
そっと、その場を離れ、
『動き出した……これは一度、あちら側に行かなくては……』
城外へ出て行く。
そして森の中にある湖の中へと入っていった。