ファイアーエムブレムifでやってみた   作:609

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第二章 運命の闘い
第十五話 いざ、透魔王国へ


黒き幼い王女は想う。

自分が赤子だった頃、自分には多くの異母兄弟姉妹(きょうだい)がいた。

けれど、争いごとが起こり、多くの人がいなくなった。

当時の自分は下町の乳母の家に預けられていた。

だから、争いに巻き込まれる事はなかった。

そして、普通の子として少しの間暮らしていた。

だから自分が暗夜の王族だと聞いた時、とても驚いた。

そして、その事を聞いた時は、とても悲しかった。

どうして仲良くできないのか、と。

 

ある日、兄や姉が会いに来た。

自分は王族として暮らすようになる。

暗夜王(お父様)に会った。

とても恐ろしく、怖かった。

冷たい瞳、色のない肌。

あれは人間なのだろうか、と。

幼い自分にも分かった。

けれど、本当の父を知る兄や姉は信じていたのだ。

いつか、優しき頃の()に戻ると。

 

自分は初めて彼らとは違うきょうだい()に会った。

体が弱く、加護のある北の城塞から出られないと言う。

初めて会った時は、一番上の兄の影に隠れて戸惑っていた。

けれど、次第に自分に笑いかけてくれるようになった。

話しかけてくれるようになった。

自分は嬉しかった。

この姉に会いに行くのが楽しみだった。

それは、兄弟姉妹(きょうだい)みんなで笑えあえる、この時間がとても幸せだった。

 

姉が行方不明となってしまった。

そして父が偽物だと知った時、自然と受け入れるのは早かった。

それは自分が、本当の()を知らないからかもしれない。

それ以上に、あの優しい姉が自分たちとは血の繋がりがないと知ったのが悲しかった。

姉は自分たちを恨んでるかもしれない。

そう思うと辛く、悲しかった。

けれど、あの姉にもう一度会いたい。

 

兄たちと共に、あの父王(偽物)を討つ。

自分は護りたいモノの為に戦うと決めた。

兄姉(きょうだい)を、臣下(仲間)を。

守られてばかりの自分が、彼らを守る。

姉と共に行けと、一番上の兄が言った。

自分は覚悟を決めて向かう。

姉は昔と同じ、優しい笑顔で自分を迎えてくれた。

新しい姉も出来た。

たとえ、血の繋がりがなくとも、家族(きょうだい)にならるのだと。

 

姉の本当の家族()

彼女との出会いは、本当に良かった。

年も近く、自分より大人しい。

けれど、意志の強い白夜の末の王女。

彼女も、自分と同じくらいあの姉が好きなのだ。

 

そして次第にあの姉を中心に仲間が集まってくる。

暗夜も、白夜も。

とても楽しい。

暗夜も、白夜も関係なく共に戦い、笑いあい、悲しむ。

姉はいつだったか言っていた。

暗夜と白夜は共に過ごせる日が来る。

共に手を取り合い、平和な世を創れるのだと。

 

自分は想う。

それは意外にも簡単なのだと。

けれど難しい。

でも、実現できる未来だと。

 

 

ーーフードの彼女は、ある人物と会う。

岩の上に腰を掛けていたフードを被った男性。

彼は彼女を見て、

 

「君が戻って来たという事は……」

「ああ、カムイ達が来る。仲間を連れてな。」

「そうか……では、行こうか。」

 

彼は立ち上がる。

敵の目をかい潜り、ある場所へとやって来る。

目の前の巨大な魔法陣を見る。

 

「ここだね。けど……」

 

そして辺りを見渡す。

彼女は右手を腰に当て、

 

「安心していい。この辺り一帯は、結界を何重にもしている。それに、すでに感知されないように隠している。」

 

そして目の前の魔法陣を見る。

 

カムイ達は無限渓谷へとやって来た。

相変わらず、雷鳴が轟いていた。

カムイは辺りを見て、

 

「空が入れ替わる前に着けたのは良かったのですが……どうしましょうか、アクアさん。」

「そうね……彼女の事だから、もしかしたら……」

 

アクアはある場所へと向かう。

そこは岩陰に隠れた広い場所。

アクアは辺りを見て、

 

「かつては、ここに扉があったの。」

 

アクアがその広い場所を歩く。

と、足元に大きな魔法陣が浮かび上がる。

ここに居る全ての仲間が入るくらいの大きさだ。

リョウマ達もその魔法陣の上に乗るが反応がない。

レオンは魔法陣を調べ、

 

「……凄いな。これは相当細かく調整された陣だよ。こんなのできて、名が知れてないなんて……」

「レオン、つまりこのままでは反応はしない、という事か?」

 

マークスが眉を寄せる。

レオンは頷き、

 

「そういう事になるね。空が入れ替わる時に、何らかの力が働くと考えても……ピースが足りない。これは恐らく僕らが捕まって、ここに連れてこられる可能性も考えた策だと思うんだ。だから、他にも何かあるはずだ。」

「レオン王子の言うとおりなら、どうしたものか……。もう時期空の色が変わってしまう。カムイやアクアは、何か聞いてないか?」

 

リョウマは腕を組んで二人を見る。

カムイは首を振り、

 

「私たちは、ここに来れば分かると言われただけです。」

「そうか……」

 

リョウマは眉を深く寄せる。

と、マークスがハッとして、

 

「そうだ!これがあった!」

 

マークスは懐から紙を取り出す。

それをリョウマに渡す。

 

「それはかつて、彼女が私の机に置いていったものだ。」

「……水、竜?……もしや、虹の賢者以外にも、いにしえの竜がいるのか?待てよ、彼女はいつだったか言っていたな。自分の加護は水だと。」

「だが、その彼女はいない、か……」

 

マークスはさらに眉を深くした。

アクアは胸のペンダントを握りしめる。

そしてそれを離し、カムイを見る。

 

「カムイ、竜化はできるかしら?」

「え?あ、はい。やってみます。」

 

カムイは以前、アクアから貰った竜石を取り出す。

石が光り、カムイは包まれる。

姿は人から白銀の竜へと変わる。

初めてそれを見た暗夜の兄弟姉妹(きょうだい)は、

 

「こ、これは竜……じゃあ、やっぱり姉さんは竜の血が濃いんだね。」

「ああ、カムイ。凄いわ。」

「お姉ちゃん、すっごーい!」

「……ああ。とても綺麗だ。」

 

それを見たリョウマは納得したように、

 

「マークス王子たちは、初めて見るのだったか。だが、アクア。カムイを竜化してどうするのだ?もしや、この竜とはカムイの事なのか?」

「ええ。たぶん、そうよ。」

 

アクアは空を見上げる。

白夜と暗夜の空が、変わり始めた。

アクアは歌を歌い出す。

 

「ユラリ〜♪ユルレリ〜♪」

 

魔法陣を包み込むように、水が覆い始める。

魔法陣が光だし、彼らは包まれる。

 

光が収まり、瞳を開けるカムイ達。

そこは雷轟く無限渓谷から、辺りは森へと変わる。

空には宙に浮かぶ大地の欠片、その近くには廃墟もあった。

カムイは人型に戻り、辺りを見る。

 

「ここは……透魔王国。では、来れたのですね!」

「ええ、良かった。」

 

カムイとアクアは胸を撫で下ろす。

リョウマ達も辺りを見る。

リョウマは辺りを見て、眉を寄せる。

 

「……ここは……」

 

そして、マークスと互いに見合うのであった。

と、彼の前にフードの彼女ともう一人のフードの者が立つ。

 

「よく来てくれた。心から感謝する、ありがとう。私は君たちを待っていたよ。」

 

フードの者が微かに見える口元から笑みがこぼれる。

と、カムイの側に浮いていたリリスが震え出す。

それに気付いたカムイはリリスを見上げ、

 

「リリスさん?どうかしましたか?」

「お、お父様ー!」

 

リリスは、フードの者に飛んで行く。

そして彼女は人の姿に戻り、抱き付いた。

リリスの竜の姿しか知らない者達、リリスとは違う竜だと思っていた者達は声を上げられないくらい驚いていた。

カムイに至っては、リリスの言葉に驚く。

リリスは涙を拭い、

 

「お父様……私は確かにあの時、あなたの死を確認しました。なのに……」

「ああ、けれど……彼女に救われた。こうして、娘に会えたのは嬉しく思うよ。」

「お父様……そうです、お父様!あの方がーー」

 

リリスが彼に何かを言おうとした。

けれど、リリスの口に指を当てて、首を振る。

そして、悲しそうに微笑んだ。

フードの者はある三人を見て、

 

「君たちにも、こうしてまた会えて良かった。」

 

その三人は覚悟を決めて、前に出る。

 

「はい。僕らも、あなたにもう一度会えて良かった。あの時はとても急なことでしたから。」

 

ラズワルドは、そうフードの者に言った。

そして、その隣にはルーナとオーディンも居た。

ラズワルドはマークスを見て、

 

「マークス様、シュヴァリエ公国で言いましたよね。この国の秘密を知ってると。」

「ああ。」

「僕を含めたルーナとオーディンも、ここの秘密を知っています。僕たちは、この方に透魔王国、白夜王国、暗夜王国を救って欲しいと依頼を受けて、この世界に召喚されてやって来たんです。」

「つまり、この世界の住人ではないと?」

「……はい。そして、依頼が完了すれば、僕らは元の世界に戻る。そう言う契約なんです。」

「……そうか。だが、それはお前の……いや、お前たちの自由だ。好きにすればよい。私たちの事は気にせずにな。」

 

マークスは彼をジッと見て頷く。

フードの彼女が咳払いをし、

 

「ゴホン。積もる話もある。だが、ここで長話は禁物だ。幾ら厳重に結界を張ったとはいえ、敵の懐なのだ。注意しろ。」

 

彼女は彼らに背を向ける。

そして歩き出す。

 

「隠れ家に案内する。ついて来い。」

 

彼女に連れらるまま、家に来る。

馬や天馬、飛竜を庭で休ませる。

彼女の案内された隠れ家は、ある種広い屋敷だった。

カムイがフードの彼女を見る。

 

「ここは?」

「ここは、父や母に隠れて、兄と共に遊んでいた隠れ家だ。敵にも、簡単には見つからないだろう。それに、ここならいい拠点になる。」

 

そう言う彼女の声は、どこか嬉しそうだった。

中に入り、広い部屋でフードの彼女が説明を始める。

 

「では、説明しよう。ここは禁忌の国となった透魔王国。竜たちの生まれ故郷にして、竜の加護のあった国だ。そして、かつては白夜と暗夜の王族とも交流があった。」

「……過去形か。」

 

リョウマは目を細める。

フードの彼女はそれを受け流し、

 

「この国は、加護を与えていた竜が闇に堕ち、呪いを与えた。」

「呪いだと?」

 

マークスも、目を細める。

フードの彼女はそれも受け流し、

 

「この国以外で、この国の事を話せば泡となって消える。つまり、死ぬという事だ。」

 

フードの彼女はアクアを見る。

アクアは頷き、

 

「この国の竜の力は強いわ。その竜は、現在はこの国の王をしているの。名は、ハイドラ。そして、見えない敵とはこの国の兵たち。彼らは死人……透魔王ハイドラは、心を操る力があるの。だから、死んだ者も操られる。暗夜王ガロンも、同じ。あの王はもう、傀儡なの。そして、心に潜む。だから闇を持つ者の中に隠れて、こちらを監視してる。おそらく今も……」

「……アクアさんのお父様は、この国の王で、その竜とは友だった。けれど、殺されてしまったんです。国を追われたアクアさんは、暗夜に流れ着いたみたいなのです。」

 

カムイも説明する。

アクアはマークス達を見て、

 

「そう。だから私は、暗夜王ガロンの血は引いていないの。」

 

マークス達は黙って見つめた。

それはたとえ血の繋がりがなくとも、自分達は兄弟姉妹(きょうだい)だということ。

そしてそれは、白夜も同じと言うように見る。

そんな中、椅子に座っていたフードの者は拳を握り合わせ、俯いた。

 

「すまない、アクア。」

「いいえ、あなたが私と母を暗夜に飛ばしてくれたから、私は生き残れた。こうして、透魔王国を救う手段を……大切な人を救う手段を得たのだから。だから、顔を上げて下さい……ハイドラ様。」

 

アクアは膝を着き、彼の握り締める手を包む。

いや、それ以前にアクアは今、彼をなんと言ったか……

 

「ア、アクアさん……えっと、今なんと?」

 

カムイが目をパチクリさせる。

フードの彼女は反応はない。

彼に召喚された三人も反応はない。

が、他の者達は違う。

武器をいつでも構えられる体勢に変わる。

何故なら、彼を『ハイドラ』と呼んだのだ。

アクアは立ち上がり、

 

「ハイドラ様、と言ったのよ。けど、安心して。彼は、この国を支配しているハイドラとは少し違うの。」

「どういうことです?」

 

カムイがアクアを見ていると、

 

「ここにいるハイドラ様は、この国を支配しているハイドラの欠片とも言える。あの竜は闇に堕ち、自我を失った。あるのは世界の消滅。ここいるハイドラ様は、その残された心の欠片だ。」

「そう、なんですか……リリスさんのお父様は凄いのですね。」

 

カムイが少しホッとしながら言う。

が、とうのリリスはどこか悲しそうな表情も見せる。

 

「……リリスは堕ちたハイドラ(本体)が、器を手に入れる為に用意した存在だ。リリス自体は竜に近い……のだろうな。」

 

フードの彼女が少し冷たく言う。

カムイは少しムッとする。

だが、彼女は本題に入った為に反論することができなかった。

 

「これで、向こうに戻ったら透魔兵を見ることができる。だが、忘れるな。向こうで口にすれば、それは死に繋がる。」

「けど、どうやって向こうに戻るの?あなたとハイドラ様……それに私の力を使っても、この人数を向こうには簡単には戻せない。それに、白夜と暗夜の空は入れ替わってしまったのよ。扉が失われてる今、向こうに戻っても、こちらには戻って来られないわ。」

 

フードの彼女は腕を組み、左人差し指を顎に当て、

 

「それは問題ない。あの魔方陣には、あの場で発せられる力を溜め込み、維持する術式を組み込んだ。ある程度、扉の代わりぐらいにはなるだろう。それ故に、力自体はそんなにない。だがら、向こうに戻り、こっちに帰れるのは一回ずつだけだ。透魔王さえ倒せれば、あとは扉が復活する。元の国には帰れるから、安心していい。」

「……ねぇ、一ついいかしら。向こうに戻って暗夜王を討つ。そして、こちらに戻って来て透魔王を討つ。そうしなければ、世界は平和にはならない。けど、それは敵にも分かっているはずよ。素直にこちらの策戦に乗ってくれるかしら?」

 

アクアが眉を寄せる。

カムイが思い出したように、

 

「あの軍師のルフレさん、ですね。ですがーー」

「ちょっと待って下さい、カムイ様!」

 

透魔軍師ルフレを思い出し、何かを言おうとしていたカムイを、ラズワルドが止める。

ルーナとオーディンも、どこか納得のいかない顔になっていた。

 

「カムイ様……今、『ルフレ』って言いましたか?」

「はい。もしかして、知っているのですか?」

「……ルフレは、僕らの世界の国の王の友であり、軍師と同じ名です。軍師としての才に優れ、王を導いていた。けど……いえ、そのルフレはどんな人ですか?」

「えっと、銀髪で綺麗な黄金の瞳を持ってます。剣だけでなく、魔術も使えるみたいです。あ、紫に近いコートを着ていて、フードとかもありましたね。こうして考えると、あなたに似てるかも。」

 

ふと、カムイはそう思い、フードの彼女を見る。

彼女はカムイの方を向き、

 

「お前の見た目の間違いではないか。」

「……そうですかね?」

 

カムイは自分の銀の髪を触る。

ルーナは頰に汗を一つ流し、

 

「カムイ様、そのルフレの右手の甲に、赤い痕はなかったかしら?」

「……すみません、そこまで詳しくは。」

「そう。でもそうね。『彼』が敵にいるなんて、思いもしなかったわ。」

 

ルーナは眉を寄せる。

カムイは「ん?」と思い、

 

「あ、あの……私たちの知るルフレさんは『女性』ですよ。こう髪を左右に結い上げた。」

 

カムイが髪を左右に髪を結い上げる。

それを戻すと、

 

「……女性?男性ではなく?」

「も、もしかして……『マーク』じゃないか?ルフレさんの娘の……」

「かもしれない。カムイ様、性格は?」

 

ルーナ、オーディン、ラズワルドは互いに見合った後、カムイを見る。

カムイは頷き、

 

「一回しか会ったことはありませんが、常に笑っているんです。ですが、どこか本当の笑みとは思えない作りの様な感じがします。あと、仲間を平気で斬ります。」

「…………そうですか。これは、直接確かめてみないと無理かもしれない。マークか、もしくは僕らの知らない世界のルフレさんかも。」

 

と、三人は眉を寄せる。

フードの彼女は一人沈黙していた。

と言っても、フードや仮面で表情は解らないのだが、

 

「…………話を戻すが、まずは向こうに戻って暗夜王ガロンを討つ。おそらく、向こうには簡単には戻れないだろうな。私たちが向こうにいない事を利用して、それに伴い暗夜王ガロンは必ず白夜に進軍する。白夜を落とせば、こちらとして策戦は失敗。透魔王を討ったとしても、意味がなくなる。その為に、敵は足止めに来るはずだ。その間に、暗夜王ガロンは白夜進軍の準備を整え、動く。なら、こちらはあえて相手の策戦に乗るだけだ。私たちは敵の策戦に乗りつつ、暗夜王ガロンが白夜に進軍する前に、白夜に戻って態勢を整える。無論、暗夜王ガロンには気付かれずに、だ。その為には、再びあの魔法陣を使わねばならない。」

「なら、今すぐ戻ればーー」

「無理だ。」

 

リョウマが立ち上がるが、フードの彼女はそれを即答で否定する。

リョウマは彼女を見て、

 

「なぜだ。」

「そもそも、なんの為にこの拠点に来たと思っている。この国の説明し、今後の策戦について話すだけなら、あの魔法陣の近くの茂みにでも隠れて言えばいいだけだ。だが、貴殿たちも度重なる戦闘で疲労も溜まっている。今は休むべきだと言っている。」

「我々なら、問題ない。平和のためならーー」

「お前たちは超人ではない。」

 

マークスも立ち上がり、フードの彼女を見た。

彼女は冷たく言い放つ。

 

「貴殿らが竜の血を引き、竜脈を操れるとしても限度があり、竜脈のある場所にも限りがある。これは変わらない。なにより、あの魔法陣を使うのにも力がいるんだ。彼はともかく、私はそう何度もやれん。」

「そ、そうか……」「う、うむ……」

 

彼女の言葉はどこか怒っているかのように、重みがある。

リョウマとマークスは一歩退る面持ちだった。

タクミが素っ気なく、

 

「それは分かったけど、いい加減あんたの名前くらい喋ったらどうなのさ。」

「それには、僕も賛成だ。大体、君は約束の為に透魔王を討ちたいと言うが、普通だったら諦める話だ。たかが、約束の為に自分の命を賭けるなんて、普通は逃げ出す。」

 

レオンはジッと彼女を見る。

フードの彼女は彼らに背を向け、

 

「私の事は好きに呼んでいいと言ってある。それに、私は元々約束の為にしか動いていない。貴殿の言う『たかが』約束の為に、私は幾度となく犠牲を支払っている。私はその犠牲になった者たちの為にも、逃げることも、諦めることも許されない。いや、私自身が許さない。何があろうと、約束を遂げるまでは……それ以外に、今の私の存在理由はないんだ。」

 

彼女は部屋を出て行った。

と言うわけで、一行は休息を取る事となった。

近くに温泉も湧いていて、彼らはゆっくりしていた。

 

リョウマとマークスは森の中で、互いに見合っていた。

そして手を互いに差し出す。

握手し合い、

 

「やっと、ここまで来れた。」

「ああ、マークス王子。あの時貴殿が言った言葉を、俺も強く想う。我らが欠けてしまった鎖……もう一度、あの笑顔を見たいと俺は想う。無論、今のカムイも大切だ。だが、俺たちはケジメを付けねばならない。」

「勿論だ。共に、運命を打ち砕こう。」

 

二人は手を離し、頷き合う。

と、リリスとハイドラが共にいた。

 

「リリスではないか。」

「マークス様。」

 

リリスは頭を下げる。

マークスは苦笑した後、

 

「親子の時間を潰してしまい、すまないな。」

「いえ。ですが、リョウマ王子と何を?」

「互いの覚悟を誓いあっていたのだ。」

 

マークスはハイドラを見て、

 

「ハイドラ殿、どうか我々を信じて下さい。我々は平和の道を必ず作って見せます。」

「もとより、君たちの事は信じているよ。むしろ、こちらの都合で白夜も、暗夜も巻き込んでしまった。本当に申し訳ない。」

「……我らも、あなたと同じ立場なら同じ事をしたでしょう。」

 

リョウマも、横で頷く。

ハイドラは小さく微笑み、

 

「ありがとう、本当に感謝している。君たちは、本当に若い頃のスメラギ王とガロン王にソックリだ。」

「父上をご存知で?いや、彼女が言っていたな。白夜と暗夜の王族とは交流があったと。」

「だが、それらしき文献は何もなかった。いや、消されていたという事は事実と捉えるべきか。」

「ああ。透魔王の呪いの事を考え、彼女が抹消したんだろう。暗夜に関しては、彼女が直に行って消したと言っていた。白夜の方は、察してくれたスメラギ王がやってくれた、と言っていたからね。」

「そうでしたか。もう少し、彼女と話そうと思っていたのですが、彼女が見当たらないので困っていたのです。知りませんか?」

 

リョウマは苦笑しながら言う。

リリスが思い出したように、

 

「誰にも見つからないような場所で、休んでいるのではないでしょうか。以前、言われていましたから。」

「そうか、感謝する。もう少し、マークス王子と探してみよう。」

 

二人は彼らの前を後にする。

が、マークスは立ち止まり、リリス達に振り返る。

 

「リリス。お前やハイドラ殿が許すのであれば、二人でカムイに会いに行ってやってくれ。そして、あの子の話し相手になってやって欲しい。真実を言えないのなら、なおのことそうしてやって欲しいのだ。」

「そうだな。リリス殿やハイドラ殿が一緒なら、カムイも大喜びだろう。大切な時間を過ごして欲しい。」

 

リョウマも、立ち止まっていう。

二人は二人に苦笑してから、再び歩き出した。

リリスは眉を寄せて、驚きながら、

 

「マークス様、リョウマ王子……もしかして……」

 

リリス達も、その場を後にする。

 

フードの彼女は拠点の少し離れた所にいた。

自分の目の前にはベンチ型のブランコがある。

そこに腰をかけ、足を少し動かして、ブラブラ揺れていた。

 

それは自分の中に残る記憶。

兄と共に、両親に内緒でここに遊びに来た。

元は兄が見つけた秘密基地。

兄曰く、かつて透魔王国には多くの竜がいた。

その竜達の中に、人の姿となって人間の生活をしていた者もいたと言う。

その竜が使っていた屋敷だろうと。

 

ーーさぁ、おいで。俺が押してあげる。

ーー次はお兄ちゃんだよ。私が押すの。

ーー君じゃ、まだ無理だよ。代わりに、一緒に座ろう。

ーーうん!

 

兄は優しかった。

ここを教えて貰ってからは、何かあるとこのブランコの所に自分はいた。

それを見つけて、共に家に帰るのは兄だった。

 

フードの彼女はブランコを止める。

右手で仮面を外し、左腕で目元に当てる。

 

兄が自分を見つけ、その兄と自分を見つけるのはアベル。

彼の優しくも厳しい顔を覚えている。

その後、父がやって来て心配そうに自分を抱きしめてくれた。

母はアベルと一緒になって説教する。

それを、いつも優しく味方してくれるのは父と兄。

あの懐かしい光景、二度と戻らない時間。

いつから、狂ってしまったのだろう。

あのアベルが父を裏切り、世界の破滅を望む。

何度も、何度も、それは繰り返される。

知っているのは、自分と彼と……おそらくアクア。

彼女は自分の言った『秘密の小屋』を知っていた。

覚えているはずのない『闇に堕ちた竜の子』を知っていた。

それに、彼女は歌姫にして、この国の王女。

そして、ーーなのだから……

 

フードの彼女は、人の気配を感じ取る。

仮面をつけ、短剣に手をかける。

だが、それはすぐに離す。

 

「……何の用だ、白夜の第一王子、暗夜の第一王子。」

 

奥から出て来たのは、リョウマとマークス。

フードの彼女は立ち上がり、彼らの前に行く。

リョウマが真剣な顔で、

 

「すまない、何やら想いにふけっていたのだろう。邪魔した。」

「構わん。昔の事を少しだけ思い出しただけだ。」

「ここは、遊び場か?」

 

マークスが辺りを見る。

フードの彼女はブランコを見て、

 

「……私が幼い頃、兄と共に遊んだ場所だ。人間の真似をしていた竜の残したものではないか、と言っていた。」

「人間の真似をしていた竜?」

「虹の賢者様が言っていただろう。遥か昔、十二の竜は覇権争いをしていたと。その竜たちの中にも、こう言った人間の暮らしと言うものに興味があったのだと。人間と違い、竜たちは幾年も生き続ける。ある種、楽しみが欲しかったんじゃないか。だが、この地を後にした十二の竜は、お前たちの世界で覇権争いを始めた。ここでは、あの時代に夜刀神の真の使い手がいなかった。だから被害は大きくなった。」

「……お前の父上ではないのか?それか、お前の兄君か?」

 

リョウマは腕を組み、何かを想いながら聞く。

フードの彼女は右手を握りしめ、

 

「……ここに、私の父は存在しない。あの父は存在できても、本来存在するはずだった父は消された。その因果は兄をも消した。私はもう最初の家族には会えない。父にも、兄にも、母にも……彼らにも。そしてそれと同じく、姉と妹にもなれない。」

「それは、どう言う意味だ?」

 

マークスに至っては、これでもかってくらいに眉を寄せていた。

フードの彼女は彼らに背を向け、

 

「……私には、もう約束以外何も残っていないと言う話だ。それより、明日は向こうに戻る為の策戦などを話し合う。今日はもう休んだらどうだ。」

「なら、お前も休むんだぞ。」

「……やることが終わったらな。」

 

彼女は、彼らの前から離れて行く。

近くにある水も出ない、もう使われず壊れた噴水の石壁に横になる。

空中に文字を書くように指を動かし、それを口パクする。

しばらくすると、彼女の肩は上下する。

 

 

ーー透魔軍師ルフレの自室。

彼女は大きなベッドに横になっていた。

目元を両腕で当て、一人寝ていた。

目が覚め、起き上がる。

窓に近づき、自分を見る。

彼女はそのまま、窓の外に目を向ける。

相変わらず、この部屋から見える風景は荒れた大地。

元は綺麗な庭があったのだろうが、もう見る影はない。

それを冷たい眼差しで見た後、寝室を出る。

沢山の本の中から、一冊の本を取り出す。

それをソファーまで持って行き、座って読み出す。

 

『……かつて、十二の竜は故郷を離れた。だが、故郷に残った竜がいた。その竜は、人間と交流を持ち、国を加護を与えた。一方、故郷を離れた十二の竜は争っていた。覇権を巡り、ある者は神器を創り、またある者は己の血を人に与えた。またある者は、その覇権争いから身を引き、別の世界へと旅立った。人を巻き込んだこの争いで、多くの竜が息絶えた。そして、人の命も失われた。けれど人は竜たちを、一族で受け継ぎ、国や部族で始祖竜として崇められた。けれど、この争いを悔やみ、今なお生きる竜は償いを求めて生き続ける……』

 

彼女は本を閉じる。

そして机の上に本を置き、

 

「……幾年も生き続けた竜は死に、故郷に残った竜は闇に堕ちた。なんとも滑稽で、愚かなのか……」

 

彼女は瞳を閉じ、

 

『……そうでしょ、お父さん。あの時代には、夜刀神の真の使い手がいなかった。いれば、このような終わりは来なかっただろう。いや、それでも起きてしまうのは、やっぱり必然なのだろうか。』

 

そして目を開く。

天井を見上げ、

 

「運命は何を望み、叶えるのか。」

 

彼女の手を握り合わせ、おでこに当てる。

 

「私はただ、あの場所に帰りたかっただけなのに……」

 

彼女は目を細め、悲しそうに呟いた。

そして唇を強く噛み締めた。

 

 

翌朝、カムイ達はある部屋に集まっていた。

と言っても、カムイ、アクア、ハイドラ、リリス、両王族しかいない。

フードの彼女がカムイ達を見て、

 

「さて、魔法陣の転移準備をしている間、敵は向こうに帰さない為の時間稼ぎをして来るだろう。奴らとの本戦は、暗夜王ガロンを討った後だ。本来、来る方法でこの国に来ていない以上、敵には居場所は特定されにくい。だが、この地を何重もの結界や魔術で誤魔化している以上、気付かれるのは時間の問題。なら、あえてこちらから出向き、撹乱すればいいだけのこと。」

「そうは言っても、どうするのだ?」

「こちらの最優先事項は、ここにいるハイドラ様を護ること。彼を失えば、あの魔法陣は意味を無くす。そうなったら、移動手段は完全に失われる。敵は別の意味で、このハイドラ様を手に入れたがっている。そこで、あえてハイドラ様を連れて行く。多少危険かもしれんが、その方が敵の目はそちらに向くからな。だから、こちらはハイドラ様を護りながら拠点をバレないようにする。という訳で、この陣形に目を通してくれ。」

 

フードの彼女が言う陣形は、4チーム。

内、二組は拠点に残り、護る。

もう二組は、常に互いを確認できる位置だった。

 

「これを交互に入れ替え、敵にこちらは人数がいる事を意識させる。カムイ、アクア、ハイドラ様は、常に敵には意識してさせる必要がある。無論、私もそちらに行く。リリスは拠点に残って、もしもここが攻められた時は残った者達を連れて逃げろ。土地勘がないと危険だからな。」

「ハイドラ殿やお前は分かるが、カムイやアクアも常に行くのか?」

 

リョウマは、彼女に眉を寄せる。

フードの彼女は当然だと言うように、

 

「ああ。カムイは夜刀神の使い手であり、透魔王を討てる存在だ。そして、彼女は歌姫だ。彼女の歌には透魔王に操られた者の心を呼び覚ますことも出来る。敵からしたら、殺しておきたい存在だ。それが今回は一つに固まって行動している。潰しておけるチャンスは逃さないはずだ。」

「問題なのは、軍師ルフレね。彼女の策戦が、どこまでこちらの策戦に乗ってくれているか。それに、逆に私たちが、彼女の策戦にはまっていないか。」

 

アクアが冷静に分析する。

 

ーー同時刻、とある玉座の間。

透魔軍師ルフレは階段を登っていた。

目の前には空席の玉座。

彼女はマントのようなコートを翻して、正面を見る。

そこには、多くの透魔兵。

横には、見慣れた同格の者達。

軍師ルフレは叫ぶ。

 

「さぁ、やっと本格的にあなた方に動いて貰う日が来ました。我らが王、ハイドラ様の為にその身を投じなさい!全ては、ハイドラ様の夢の為、世界に破滅を‼︎」

 

軍師ルフレは腕を上げ、振り下ろした。

奥の物陰にいた白き巫女は、手を握りしめ、祈るように呟く。

 

「とうとう動き出してしまうのね……」

「大丈夫だ。あの子達なら、必ずことをなしてくれるはずだ。だから、信じるんだ。」

 

近くに控えていたフードの男性が呟く。

白き巫女は涙を拭い、

 

「ええ。」

 

軍師ルフレはさらに大きく叫ぶ。

それはリョウマ達の側にいた彼女が、叫ぶ。

 

「さぁ、皆さんーー」「さて、ここからがーー」

 

互いの目の前の者達を見て、

 

「戦争の始まりです!」「戦争の始まりだ!」

 

二人はまるで、互いの策戦を潰し、潰られるように叫ぶのであった。

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