ファイアーエムブレムifでやってみた   作:609

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第十六話 正体

とある双子は想う。

自分達の父は部族長。

その部族長たる父は、暗夜王を敵視していた。

昔は民を想う良き王だったと言う。

だが、王妃が死に、子が死に、おかしくなったのだと。

民を道具のように扱い、兵さえも平気で殺す。

 

そんな暗夜王は父の反逆を見抜いていた。

 

ーー部族長の娘二人を、ある城の世話係として寄越せ

 

つまり、人質だ。

この命に逆らえば、自分達の部族は滅ぼさせる。

従うしかないのだ。

自分達は身支度を整え、出頭した。

 

案内されたのは、高い壁に覆われた城。

そこには幼い姫が隔離されていた。

体が弱く、何かあるとすぐに熱を出す。

だが、双子の姉は関係ないと想っていた。

双子の妹は心配で心配で、忙しなく世話をしていた。

 

自分は想う。

この姫など、どうでもいい。

危なくなったら、何が何でも妹を連れて逃げると。

その為には、利用できるモノは何でも使う。

自分と妹は、戦闘訓練を受けた。

無論、メイドとしての訓練も。

けれど、触れ合う内に自分は恋をしてしまった。

自分の先輩にも当たる彼。

しかし彼は、自分には見向きもしない。

自分を救ってくれたと言う、あの姫だけを想う。

 

自分は別の意味で、あの姫が嫌いだった。

何も知らない世間知らずの姫。

けれど、それを言っては仕方ないのだ。

自分は人質。

もし、何か起これば部族は滅ぼさせる。

それでも、自分は知っていた。

自分はあの姫が嫌い。

……それでも、どこかあの姫が好きなのだ。

馬鹿正直な、あの姫の笑顔。

時に無下に扱っても、嫌な顔一つしない。

するのは、残念そうな悲しい表情。

 

ある日、あの姫が言う。

自分達の事を友だと。

それから成長した姫が言う。

自分達の事を姉だと。

自分はこの姫が大っ嫌いだ。

けれど、とても大好きなのだ。

とても大切なもう一人の妹(主人)

救って貰ったこの命、大っ嫌いで大好きな、あのもう一人(主人)の為に。

 

自分は想う。

最初は怖かった。

人質としてやって来たあの城が。

けれど、その城の主人は自分よりも幼い病弱な姫。

日によっては、外に出て少し遊ぶだけで熱を出す。

何とも、弱い姫だと思った。

 

自分は少しでも、姉や父の役に立とうと思った。

けれど、いつもどこかで失敗してしまう。

城に来てからもそうだ。

メイドとしての仕事もまともにできない。

失敗しては、先輩の執事に怒られる。

姉はため息を吐きながら片付ける。

とうとう自分は物陰に隠れて泣いていた。

すると、一輪の花が目の前に見えた。

涙を拭い、顔を上げると汗だくになった姫がいた。

自分が驚いていると、笑顔で姫が言う。

 

ーー笑っていて下さい、フェリシアさん。私はフェリシアさんの笑顔が大好きです。とても元気になれるんです。

 

自分は花を受け取り、彼女に負けないくらいの笑顔を見せる。

と、彼女はまた嬉しそうに笑ったが、倒れこんでしまった。

それから彼女は数日の間、熱で寝込んでいた。

自分は少しでも彼女が楽になるように、氷を作り続けた。

時には、姉に止められるまで彼女の額に手を乗せて冷やしていた。

彼女が元気になると、嬉しかった。

そして自分にお礼を言うのであった。

自分のせいで、あんなに苦しんでいたのに、彼女はそれを気にしていなかった。

自分は涙を拭い、彼女が大好きだったといった笑顔を向ける。

この主人の為なら、自分は何でもやれる気がする。

だって彼女は、自分を友だと、姉だと言ってくれた。

いつも、妹だった私にできた妹。

失敗しても、笑顔で許してくれる。

自分は少しでも彼女の役に立てれるように、彼女を守れるように強くなろう。

父達にも褒められた戦闘で、彼女が大好きだと言ってくれた笑顔で、そしていつか彼に負けないくらいの立派な世話係になろう。

彼女を何があっても護ろう、強くそう想う。

 

 

ーーカムイは、タクミとレオンと共にいた。

二人は目が合う度に、互いにムッとした後そっぽ向く。

互いに水と油とも言える二人。

カムイはそれを苦笑しながらも、嬉しそうに見ていた。

それは隣のチームも見ていた。

そちら側に、フードの彼女はハイドラを護りながらいた。

リョウマは彼女を見て、

 

「なぜ、あの二人を同じチームにしたのだ?あれでは、何かあった時に手を組めるかどうか……」

「リョウマ王子の言う通りだ。今のあの二人は、まるで水と油のようだ。私たちとは違い、そう簡単には手を取れないだろう。」

「いや、あの二人は共にいた方がいいんだ。似た者同士だからな。どちらも同じで真逆。いつだって、誰よりも愛に飢え、家族想いなのだ。だからこそ、似た者同士すぐに仲良くなれるさ……多分。」

「今、多分と言わなかったか?」

「……駄目だった時は、その時に考えるさ。」

 

彼女はリョウマ達の視線から逸れる。

しばらくして、透魔兵との戦闘を行う。

けれど、それは相手に認知させるため。

それが済み次第、戦闘を離脱する。

それを数回繰り返し、一行は拠点に戻る途中だった。

レオンの足場が突然崩れ、宙に放り出される。

 

「な⁉︎」「レオン王子、手を‼︎」

 

側に居たタクミが手を伸ばす。

レオンはその手を取る。

そしてそのタクミを側に居た臣下達が落ちないように支えた。

タクミは急いでレオンを引き上げる。

 

「た、助かったよ、タクミ王子。」

「ぼ、僕こそ、君の臣下に助けられた。」

「……それはお互い様だ。」

「それも、そっか……」

 

二人は互いに目が合う。

二人はジッと見た後、笑い出す。

互いにいがみ合うのが、馬鹿げてきたのだ。

レオンは彼の髪を見る。

先程のはずみで、髪を束ねていた布が破れてしまっていた。

彼の長い髪が落ちていた。

 

「すまない、タクミ王子。僕のせいで……」

「ああ、気にしないで。」

 

タクミは手を差し出す。

意図を察したレオンは、自分も手を差し出す。

二人は手を握り合わせ、

 

「レオン王子、これからは互いに協力し合おうか。」

「そうだね。これからは仲良くやろう、タクミ王子。」

 

二人は話をしながら拠点に戻った。

カムイや他の者達の心配をよそに、彼らは仲良くなったのだった。

フードの彼女は、タクミを呼び止める。

 

「……白夜の第二王子。」

「……なに?」

「…………。」

「なんなのさ、あんた。」

 

怒り出すタクミ。

フードの彼女は少しの間沈黙した後、一枚の布を渡す。

綺麗な赤い布、白い竜の刺繍の入った髪留めだった。

 

「……使う分には問題はないだろう。」

「ふーん。じゃ、向こうに帰ったら返すよ。」

「必要ない。それはもともと、貴殿に渡すつもりだった。」

「は?」

「……昔のカムイから、貴殿への贈り物だ。」

 

フードの彼女は、そう言って離れて行った。

タクミはそれを見て、

 

「……姉さんから?あれは夢じゃなかった……のか?でも、あれは……」

 

と、一人悶々と考え込んだいたタクミ。

その彼に近付いたリョウマが、

 

「タクミ、どうした?」

「ああ、兄さん。いや、あいつからこれを渡されたんだ。姉さんからの贈り物だって。」

 

タクミが向こうで、マークス達と話しているフードの彼女を指差した。

そして、先ほどの髪留めを見せる。

リョウマはそれをジッと見て、

 

「これは……やはり、そうか……」

「?兄さんは、何か知ってるの?」

「いや、忘れてくれ。だが、タクミ……それはカムイからの贈り物で間違いない。カムイが、お前の為に選んで買ったものだ。」

「ふーん。ま、ありがたく使わせて貰うさ。」

 

タクミはそれを使って、髪を結い上げる。

そして、タクミはその輪の中に入って行った。

リョウマは一人、フードの彼女を見てから、自分もそこに加わった。

そう言ったこともあったが、白夜と暗夜は手を取り合って協力し合う。

カムイ達は、昨日待機していた拠点組だった者達と回る。

それを数日行っていた。

 

長い廊下を歩いていた透魔軍師ルフレ。

彼女は魔導書を持って、歩いていた。

彼女は視線だけを後ろに向ける。

そこには、黒騎士アベルが白王と共に歩いていた。

そして、後ろの彼らもそれに気付き、

 

「おや?ルフレ殿ではないですか。」

 

彼女は立ち止まり、振り返る。

 

「アベル殿に、白王殿。珍しい組み合わせですね。」

 

と、笑顔で近付き話し込む。

 

ある日、ハイドラとリリスは拠点からかなり離れていることに気づく。

それに気づいたラズワルド、ウード、ルーナが駆けて来た。

彼らと共に、拠点に向かっていると、

 

「やっと見つけましたわ。あら?そこに居るのは、裏切り者のリリスね。まさか、欠片とともに居るとは思わなかったわ。」

 

それは、女魔導師だった。

敵に囲まれる。

 

「くっ!なんとしてでも、逃げるぞ!」

「分かってるわよ!」

「こっちは俺が!」

 

三人は武器を構える。

リリスはハイドラを護るように、立っていた。

人数的にも、こちらが不利なのは確か。

だが、三人はハイドラによって実力を認められている戦士。

そう簡単には倒せない。

が、一瞬の隙間をぬってハイドラの方に魔術が飛ぶ。

リリスがバッと覆いかぶさる。

二人は倒れこむ。

リリスはそっと目を開けると、ハイドラが驚いたように前を見ていた。

リリスもそこを見ると、銀髪の長い髪を左右に結い上げた魔術師が自分達を護っていた。

女魔導師は驚き、

 

「ルフレ卿、何故ここに‼︎」

「どうもこうも、ないですよ。私も、貴女がここに居るなんて思いもしませんでしたから。」

 

透魔軍師ルフレは、女魔導師に笑顔を向ける。

そこには、静かな殺気があった。

 

「くっ!あなたの策戦を無視したのは事実です。ですが、これは好機なのですよ。ここで、欠片を手に入れればーー」

 

透魔軍師ルフレは剣を抜き、剣先を女魔導師に向けた。

女魔導師は一歩後ろに退がり、

 

「ル、ルフレ卿!な、何をするのです。」

「ここにいる全員、生かして連れて行きます。後は私にお任せを。」

「で、ですが!」

 

透魔軍師ルフレは冷たい笑みを浮かべたまま、黄金の瞳を細める。

その瞳には、なんの躊躇いもない。

女魔導師は拳を握りしめ、

 

「わかりましたわ。ここは、あなたに任せましょう。ですが、兵を数名置いて行きます。」

 

彼女は三人の兵を残して、炎と共に消えた。

透魔軍師ルフレはラズワルド達、主に三人に振り返る。

彼らは眉を寄せ、

 

「君が、『ルフレ』か……確かに似てる。」

「くっ!あなた、マークじゃないの⁈少し姿は違うかもしれないけど、セレナよ!わかる?」

「俺はウードだ!クロムさんの妹のリズの息子の!あっちはアズールだ!」

 

三人は、彼女をマークだと思って叫ぶ。

仮に、別の世界のルフレだったとしても、『クロム』や『リズ』は分かると判断したからだ。

だが、彼女は無反応だった。

透魔軍師ルフレは辺りを見て、

 

「さて、そろそろ良いですかね。」

「ルフレ様、我々は何をすれば良いでしょうか?」

「……では、死んで貰います。」

「は……?」

 

透魔軍師ルフレは冷たい笑みのまま、剣をは振り下ろした。

一人の兵は青い炎に包まれて消える。

残り二人の兵は武器を彼女に向ける。

 

「な、何をするのです⁈ルフレ様‼︎」

「こ、これは裏切り行為ですよ‼︎」

 

彼女は剣を一振りして、

 

「そもそも、裏切るもない。私は味方ではないからな。」

 

兵の一人は見た。

それは兵の目を通して見ていた透魔王ハイドラ。

彼女の黄金の瞳が、違う瞳の色になるのを見逃していなかった。

 

透魔軍師ルフレは剣をしまい、

 

「全く……次は庇いきれんぞ。」

「あ、あんたは……‼︎」

 

ルーナ達は驚く。

透魔軍師ルフレにノイズが走り、フードの彼女へと変わる。

ラズワルドが彼女を警戒しながら、

 

「……君が、ルフレだったのか?つまり君は、敵の軍師……敵だったという訳か!」

「……私は、あの軍師の姿を借りただけだ。大体、軍師だったとして、私に何の利益がある。それに、私が軍師となるのなら、わざわざ敵の有利になるような状況は作らない。」

「あなたはルフレなの?それともマークなの?」

「お前達の知るルフレでも、マークでもない。それより、急ぐぞ。敵には、すでにばれてる。」

「わ、わかった……」

 

彼らは急いで拠点に戻る。

 

ーー廊下で話をしていた透魔軍師ルフレの元に、駆け足で兵達がやって来る。

彼女に槍を突き立て、囲う。

彼女は目を細め、

 

「なんです、これは。」

「あなたが、裏切り者という事です!せっかく欠片を見つけ、捕らえられたものを!」

 

女魔導師が透魔軍師ルフレに指をさす。

彼女は首を傾げ、

 

「……欠片を見つけた?つまり、あなたは私の策戦を無視したと。いくら、アベル殿の独断行動があったとは言え、貴女までも独断行動とは……」

「それは……そうでしたが、問題は貴女です!」

「そうでしたね……私は、今日は一度も外には出ていませんよ。それに……お言葉からすれば、ほんの少し前くらいに起きた事でしょう。でしたら、私はアベル殿や白王殿と雑談をしていました。そうですよね?」

 

透魔軍師ルフレは二人を見る。

黒騎士アベルは頷き、

 

「ええ、長い事お話ししていましたね。」

「……で、ですが!あれは、ルフレ卿です!大体、あの時もそうでした。カムイ達を殺せたチャンスを奪った。貴女の行動は、不自然です。」

「成る程、貴女のお気持ちはわかりました。そう思うのなら、そう思えばいいです。ですが、そうなった場合には、私は私のしたいようにさせてもらいます。」

 

透魔軍師ルフレは殺気めいた瞳で、彼らを見る。

彼女の髪がブワッと上がると、彼女を囲んでいた兵達が氷漬けとなって砕け散った。

彼女は彼らに背を向け、

 

「今日の所は自室にこもらせて貰います。と、言うよりかは、いた方がいいでしょうし。それでは失礼します。」

 

彼女は自室に向かって歩いて行った。

女魔導師は唇を噛み、透魔軍師ルフレの背を睨んでいた。

 

リリス達が無事に戻ってからは、フードの彼女は事実上疑われていた。

けれど、彼女はそれを気にしない。

むしろ、疑いたいのであれば疑えばいい、と言っていた。

その理由として、仲間ではなく協力者だからだと。

疑われようと、殺されようと、仲間ではない時点で関係ないと。

カムイ達は、そのような重苦しい中で動いていた。

暗夜王ガロンを討つには、フードの彼女の協力は必須だ。

ここで、辞めるわけにはいかない。

何より、カムイは彼女を敵だとは思えなかったのである。

そんな事を考えていたカムイは、両頰を叩く。

気持ちを切り替え、任務に挑む。

今日も、透魔兵には存在を見せた。

今日は少し戦闘が長引いたが、みな無事だ。

と、カムイは隣にいたクリムゾンを見る。

彼女の胸の鎧には、一輪の白い花がついていた。

 

「クリムゾンさん。そのお花、とても似合ってますね。」

「そうかい?ありがとう。これは、シュヴァリエ公国の女騎士のしきたりなんだ。一世一代の勝負の前には、胸元に花を挿す。本当の闘いはこれからだろうけど、これも大事な闘いだ。それを忘れない為にもつけてんだ。カムイ、私はあんたを信じて良かったよ。」

「クリムゾンさん。はい、私もです。みんなを信じて良かったです。」

 

二人は笑い合う。

それをフードの彼女は、仮面の下で視線だけを向けて見ていた。

少しして、リョウマ達と合流して休息を取った。

カムイはフードの彼女に呼ばれていた。

 

「どうしたんですか?」

「……いや、お前にやって貰いたいことがあるんだ。」

「やって貰いたいことですか?それはーー」

 

カムイは首を傾げると、フードの彼女が心臓を摘んで膝をつく。

カムイは眉を寄せて、駆け寄る。

 

「だ、大丈夫ですか⁉︎」

 

フードの彼女はカムイの腕を掴み、

 

「騒ぐな……」

 

そこから、意識は途絶えた。

 

カムイは、リョウマ達の元に走っていた。

と、目の前からジョーカーとフローラ、フェリシアが駆けて来た。

 

「良かった、カムイ様!急に居なくならないで下さい!」

「ここは敵の懐です。もっと、気を引き締めて下さい。」

「はわわ!ジョーカーさん、姉さん、そんなに怒らなくても……」

 

心配したが故のお叱りに、フェリシアがテンパる。

カムイは苦笑して、

 

「すみません、皆さん。彼女に呼ばれて来たのですが、彼女の体調が悪くなってしまったようなんです。それで、いまは奥で休んでるんです。」

「そうですか、あの人が……」

「でも、良かったです。彼女には止められたのですが、サクラさんとエリーゼさんを呼びに行く所だったんです。すみませんが、彼女の側に居てあげて下さい。すぐに呼んできますので!」

 

カムイは駆けて行く。

ジョーカーは二人を見て、

 

「仕方ない。行くぞ。」

 

そして三人は、彼女の元に駆けて行く。

 

カムイはリョウマ達と合流した。

マークスがカムイを見て、

 

「カムイ、どこに行っていたんだ。いま、ジョーカーたちがお前を捜しに行ったぞ。」

「はい。ジョーカーさんたちは、後から来ます。」

「それはーー」

 

マークスが疑問に思った瞬間、透魔兵が現れる。

その指揮を取るのは黒騎士アベル。

彼は冷たい笑みを浮かべ、

 

「皆さん。随分と挨拶が遅れてしまいました事を、まずはお詫びします。では、改めて……ようこそ、我らが国へ。この透魔王国の者として、我らが()に代わって歓迎致しましょう。」

 

彼は腰の剣を抜く。

彼の側から黒い炎が上がる。

その炎の中から、透魔兵達が現れる。

カムイ達は剣を構えて、戦闘を開始した。

透魔兵達をさばいていると、黒騎士アベルがカムイに襲いかかる。

カムイは剣をサッと上げて、受け止める。

 

「ほう、よく反応できましたね。えらい、えらい。」

「あ、あなたはどうして、このような事を!」

「……君にはわからないでしょうが、私は本当の君という存在を知っている。そして、君たちと居るあの子の事も知っている。」

 

黒騎士アベルは笑みを浮かべ、カムイを弾く。

カムイは空中で、一回転して着地する。

ハイドラが黒騎士アベルを見て、

 

「アベル!もうやめるんだ!こんな事をしても、何もいい事はないのだよ!」

「ええ、お優しいあなた様にはそうでしょうね。ですが、あなたは知らない。本当の『カムイ』を。何故、あの子があそこまで約束に縛られてるのか、さえも。」

「そ、それは……」

「何より、あなたの愛しき人を見殺しにしたのは、他でもない『カムイ』ですよ。」

「……知っている。報告を聞いているからね。けど、それは彼女の意志。彼女は、愛しき子らを守る為の選択を選んだのだ。私は、そんな彼女の選択を誇りに思う。」

「そうですか……残念だ。あなたには、怒りに満ちて欲しかったですよ。我が懐かしき主よ!」

 

ハイドラに剣を振るう黒騎士アベル。

その剣をカムイが受け止める。

 

「ぐっ‼︎」

「……ルフレ卿には、もう少し後でと言われましたが……致し方ない。あの子が居ないのが残念だが、君を壊させて貰う。」

 

黒騎士アベルは笑みを浮かべて、カムイを吹き飛ばした。

カムイは倒れる。

 

「くっ!」

「「カムイ‼︎」」

 

リョウマとマークスが気付く。

だが、カムイに振り下ろされる黒騎士アベルの剣を止めるのには間に合わない。

 

「させないよ!」

 

近くにいたクリムゾンが、飛竜でぶつかる。

それを見た黒騎士アベルは冷たい笑みを浮かべ、

 

「君は、死にたいのかい?いや、必然を考えるのなら……君は既に死んでいなければならなかった。そうだね……君は必然に従って貰おう。だから、ここで死んで貰おうか!」

「なに言ってるか、わからないね!けど、カムイは殺させないよ!」

 

そして、クリムゾンは飛竜から飛び降り、斧を振るう。

が、黒騎士アベルはその斧を弾き、剣を振り下ろす。

カムイは冷たい笑みを浮かべ、

 

「やると思ったよ、アベル!」

 

クリムゾンの腕を引き、カムイは前に出る。

そして、黒騎士アベルの剣をカムイの夜刀神が受け止める。

いや、受け止める瞬間に刀はフードの彼女が使う長剣へと。

それに加えて、カムイの姿もフードの彼女へと変わる。

 

「必然にこだわるお前なら、必ずやると思った。あの時、お前もカムイたちの会話を見聞きしていたのだろう。」

「成る程ね……全然気付かなかったよ。この間のルフレ卿の一件も、案外これかな。後で、報告しておかないと。」

 

互いに剣を弾いて、距離を取る。

 

ジョーカー達は、カムイに言われたように奥へと来た。

そして驚く。

木々に倒れていたのは、カムイだったのだ。

 

「カ、カムイ様⁈え⁉︎」

 

ジョーカーが駆け寄る。

フローラが倒れていたカムイを見ると、

 

「気絶しているみたい。……フェリシア。」

「は、はい!姉さん!」

 

二人はカムイにほんの少しの冷気を当てる。

カムイがハッとして、目を覚ます。

 

「フローラさんにフェリシアさん……それにジョーカーさんも。そうです!あの人は⁉︎」

 

フローラは眉を少し寄せ、

 

「……では、あの時のカムイ様は偽物だったと言う事ですね。」

「で、でも……見た目も、喋り方もそっくりでしたよ。」

「俺が、カムイ様を見間違えるはずがない。俺が、カムイ様を見間違えるはずが……」

 

フェリシアも困惑し、ジョーカーに至っては同じ事を繰りか返していた。

カムイは立ち上がり、

 

「えっと、どういう事ですか?」

「実はここに来る前に、カムイ様にお会いしたのです。私たちに、ここで彼女が休んでいるので、側にいて欲しいと。だから我々は、ここに来たのです。ですが、偽物だとは思えない程のカムイ様でした。もしあれが、あの方ならば……私たちは、とんでもない方と手を組んでいるのだと。」

「……そう、なのでしょうね。ですが、今は急いで戻りましょう。あの人が、理由も無しにこんな事をするとは思えません。」

「そうですね。」

 

カムイ達は急いで戻る。

 

黒騎士アベルは剣を構え直し、

 

「だが、驚いたな。君が、『カムイ』を演じるとは……あのカムイは、君とは正反対だったろう?まぁ、真似するのは誰にでもできる。けど、君ほど『カムイ』を演じる事ができる者はいないだろうね。なにせ、君ほど『カムイ』を知る者もいなければ、『カムイ』という名の呪いを知らない。」

「……アベル。お前も、その一人のはずだ。なのにお前は、闇を望む。私は、あの悲劇を繰り返さない為に……お前を討つ‼︎」

 

フードの彼女も、剣を構え直す。

お互いに地を蹴り、刃を交える。

リョウマ達は透魔兵達を倒しきり、彼女らを見る。

フードの彼女の刃が、彼の頬を掠る。

黒騎士アベルは、いつにない真剣な顔つきになり、

 

「……今回は本気と言う事か……なら、私も少し本気になろうではないか。」

 

黒騎士アベルは一歩踏み出し、彼女の剣を受け流す。

彼女の剣を弾く。

その剣はタクミの前に落ちる。

そのまま続けて、彼は剣を突き出す。

それは、彼女の右顔を掠る。

それはフードを裂き、仮面にヒビを入れる。

フードの彼女はとっさに大きく左に回転して、大きく退がる。

フードが落ち、彼女の隠して髪がブワッと広がる。

銀色の、少しフワッとした長い髪。

 

「……そうそう、君の存在に透魔王は気付いたよ。君という、存在を……」

 

黒騎士アベルは視線をタクミとレオンに向けた。

彼女はハッとして、駆け出した。

 

タクミとレオンはドクンと、何かゾッとするものを感じる。

レオンは頭を押さえ、魔術を展開する。

タクミも、瞳に光が消え、近くにあった彼女の剣を取る。

二人には黒と紫の禍々しいオーラが溢れ出す。

二人は近くにいたマークスとレオンにそれを向ける。

 

「に、兄さん……に、逃げて!」

 

レオンはマークスに叫ぶ。

それと同時に、魔術は放たれる。

タクミの方もまた、剣をリョウマにつき出す。

 

カムイ達がリョウマ達の元に戻ると、目を疑った。

カムイの瞳には、マークスに魔術を放つレオン。

リョウマに剣を突き立てるタクミ。

 

「兄さん‼︎」

 

カムイは叫ぶ。

だが、同時にレオンの魔術で、土煙が上がる。

カムイや、他の者達は顔を腕で覆う。

土煙が晴れると、

 

「な⁈」

 

カムイは目を見張る。

マークスは眉を深く寄せ、

 

「こ、これは……」

 

彼の前には魔法陣が浮いていた。

それが、マークスを護ったのだ。

 

「どうやら……暗夜の第二王子の方は……それほどではなかったようだな。」

 

レオンは膝を着く。

マークスはレオンに駆け寄る。

そして彼女の方を見ると、彼女はリョウマを庇っていた。

右手に短剣を持ち、左手で刃を持ち、受け止めていた。

だが、その刃は彼女の腹に刺さっていた。

剣の刃を伝って、血が流れ出る。

そこは、白夜にいた時に刃の欠片が刺さった所だった。

 

「お、お前……」

「白夜の第二王子は、こうなる事は何となくわかっていた……弟がこうなるのは、お互い分かっていたのだろう。」

 

タクミは光ない瞳を揺らぎ、剣から手を離す。

彼女の手から短剣が落ちる。

 

「ああ……だから注意していたが……すまん。」

「気にしなくていい……もとより、彼の攻撃を避けると言う選択肢はなかった。……受け止めると、受け止めてみせると約束したからな……」

 

彼女は剣を抜き、タクミを見る。

 

「彼を止めると約束していたからな……私には、歌の力はない……だが、私にできる事はやるさ……」

 

彼女は、アクアを見る。

アクアは頷き、歌を歌う。

 

「ユラリ〜♪ユルレリ〜♪」

 

タクミとレオンは苦しみ出す。

レオンは頭を押さえ、

 

「ぐっ‼︎うわぁー‼︎」

 

黒と紫の禍々しいオーラが弾け散る。

そして、手をついて肩を上下させた。

マークスは膝を着いて、レオンの肩に手を置き、

 

「大丈夫か、レオン!」

「あ、ああ……」

 

レオンはマークスの手を借りて立ち上がる。

だが、タクミはまだ囚われていた。

そして彼女は、傷を押さえて膝を着く。

リョウマが、倒れ込みそうになった彼女の肩を支える。

 

「彼は、適合性が高い。それを一番よく分かっているのは、君だろう……ね、カムイ様。」

「え……?」

 

カムイは首を傾げる。

と、リョウマが支えていた彼女の仮面が砕け散る。

その素顔を見たカムイ達は驚いた。

中には、察しがついていた者もいただろう。

カムイは瞳を揺らして彼女を見ていた。

そこには、自分と同じ顔がある。

彼女の瞳を見て、カムイは胸を押さえる。

その瞳を知っている。

けれど、あの瞳にはもう『自分』は映らないことを……

 

彼女は、赤い瞳でタクミを見つめる。

その瞳には、苦しむタクミの姿。

彼女の瞳が揺れる。

彼女は視線を一度落とした後、何かを覚悟して顔を上げる。

そして立ち上がり、フラつきながら彼に近づく。

彼を抱きしめて、

 

「自分を……見失うな、タクミ。」

「……姉……さん?」

「お前は、私に言った。自分を止めて欲しいと……兄弟姉妹(きょうだい)でいたかったと……。お前は知らないかも知れないが、リョウマ……兄さんも、私に同じ事を言った。それ以前に、お前は……白夜の一員として馴染めなかった私の手を引いてくれた。ずっと言いたかった……ありがとう、タクミ……それもずっと渡したかった……」

 

タクミが髪に結っている髪留めを見る。

その後、彼女は再びアクアを見る。

彼女は力強く頷き、再び歌い出す。

 

「ユラリ〜♪ユルレリ〜♪」

 

タクミは、彼女を突き飛ばす。

リョウマがそれを受け止め、支える。

タクミは頭を押さえ、

 

「ぐっ‼︎う〜、うあぁぁ‼︎」

 

タクミからも、黒と紫の禍々しいオーラが弾け散る。

それをカムイが駆け寄る。

 

「タクミさん‼︎」

「うぅ……大丈夫……」

 

タクミは左手で頭を押さえながら言う。

黒騎士アベルは左手を顎に当て、

 

「おや、失敗ですか……仕方ありませんね。」

 

彼は目を細め、剣を構え直す。

彼女はリョウマから離れ、左手を前に出す。

魔法陣が浮かび、魔術を放つ。

彼はそれを軽々避ける。

 

「あまり無茶をするな!」

 

リョウマが彼女の肩を引く。

彼女は肩を上下させ、

 

「ここで、奴を討たなければ……討たないと……」

「全く……諦めが悪いですよ、カムイ様。いえ、カムイ様の娘の『カンナ』様。」

 

彼は笑みを浮かべる。

アクアは大きく瞳を開き、瞳が揺れ動く。

そして、胸のペンダントを握り締める。

マークスは眉を寄せ、

 

「なに?何を言って……」

「カンナ……だと?バカな!カムイの子は、男子のはずだ!」

 

リョウマが眉を寄せて叫ぶ。

彼女は瞳が揺れ動く。

 

『まずい……闇に飲まれる……』

 

彼女の瞳がおぼろげになる。

その瞳には、こちらに向かってくる黒騎士アベル。

リョウマは剣を構え、迎え撃とうとする。

が、横から殺気を感じる。

彼女を中心に、黒い渦が生まれる。

そして、それが弾け飛ぶ。

アクア、ハイドラ、リリスは息を飲む。

それは翼を広げた、カムイと同じ姿をした竜。

けれど、違うのはその色は白銀ではなく、漆黒だということ。

漆黒の竜となった彼女は、黒騎士アベルに爪を振り下ろす。

彼はそれを避ける。

 

「……カムイ!」

 

駆け寄るリョウマに、彼女の尾が襲いかかる。

リョウマは剣で受け止める。

アクアが眉を寄せ、

 

「ダメよ、リョウマ!今の彼女は竜の暴走状態よ‼︎それに、今のあの子に、その名は聞こえないわ……」

「くそっ!」

 

リョウマは一端距離を取る。

黒騎士アベルは剣をしまい、

 

「やれやれ、困った子だ。巻き込まれるのは、避けたいですね。今回の私の仕事は終わりました。ですので、私はこれで失礼しますよ。」

 

彼は黒き炎に包まれて消える。

暴走した黒き竜は、近くにいたカムイとタクミを見る。

そこにハイドラが腕を広げて立つ。

 

「ダメだ!彼らを傷つけては!」

「グルルル!」

 

暴走した黒き竜は威嚇の声を上げる。

ハイドラはジッと見つめ、

 

「すまない……君が、そこまでなっていたとは気付いてあげられなかった。それほどまでの闇……君は、とてつもなく重く、苦しい状態だったのだね。」

 

ハイドラの彼女を見る瞳が揺れる。

暴走した黒き竜は爪を彼に振り下ろす。

カムイが前に出て、夜刀神を抜いて受け止める。

 

「ぐっ!目を……覚まして下さい!あなたは、そんなに弱くない……はずです‼︎」

 

カムイが叫ぶと、夜刀神が光り出す。

 

「グルルルゥー‼︎」

 

暴走した黒き竜は爪を離し、後退する。

首を振りながら、悲鳴にも似た声を上げる。

ハイドラがアクアを見て、

 

「アクア、歌を!」

「は、はい!」

 

アクアが歌いだそうとした時だった。

 

「ユラリ〜♪ユルレリ〜♪」

 

それはアクアが歌う歌と同じ。

けれど、男性の歌声だった。

暴走した黒き竜から何かが落ちる。

それが光りると、薄く透けた水色の髪の男性が現れる。

その彼が歌っていた。

その歌を聴いた暴走し黒きた竜の動きが止まる。

男性は歌を止め、竜の頰に手を当てる。

 

「大丈夫です、カンナ……俺が、側にいますよ。世界の全てがあなたの敵になっても、お兄ちゃんだけは味方です。何度でも、俺が護ってあげます。それが、俺が君と約束した最初で最後の約束……」

 

そう言って、微笑みかける。

アクアは涙を流し、

 

「シグレ……‼︎」

 

そして彼は再び歌い出す。

 

「ユラリ〜♪ユルレリ〜♪」

 

黒き竜は水に包まれ、人の姿へと戻った。

彼が彼女を受け止め、地に寝かす。

彼はアクアを見て、悲しそうに小さく微笑んだ。

そして水のように消えた。

 

リョウマが駆け寄り、彼女をお姫様抱っこする。

彼女の側に落ちていたペンダントを見つけ、拾う。

それは、アクアがつけていたペンダントと同じ物だった。

 

「とにかく、拠点に戻ろう。ここではまずい!」

 

ハイドラの指示の元、彼らは急いで拠点に戻る。

 

ーー黒騎士アベルは城に戻り、透魔軍師ルフレに報告をしようと思っていた。

だが、ノックしても返事がなく、扉には鍵がかかっていた。

そこに、白騎士カインがやって来て、

 

「ルフレ殿なら、気分が悪いとお休み中だ。後にするんだ、アベル。」

「……そうですか。そう言う事なら、致し方ありませんね。」

 

黒騎士アベルはドアノブから手を離し、離れた。

 

『……まさか、な……』

 

彼は、女魔導士の元へと向かう。

 

 

拠点に戻って来たカムイ達。

彼女の顔を見た拠点組の方は驚いたが、すぐに状況を把握した。

彼女をベッドに寝かせる。

サクラとエリーゼが急いで治癒をかける。

だが、効果が現れない。

 

「どうして⁉︎」「そんな⁉︎」

 

カムイも眉を寄せ、

 

「一体、どうして……」

「この子はもう、人ではないのよ。完全に、その身を竜と化しているわ。だから人の治癒など、意味はないのよ……」

 

アクアが瞳を揺らしながら言う。

カムイはアクアを見て、

 

「そ、そんな⁉︎なにか、方法はないんですか!」

「……あるわ。けど、これは賭けよ。」

 

アクアはカムイを見る。

そしてカムイ、リョウマ、タクミ、マークス、レオンをジッと見て、

 

「この子には、呪いが描けられているわ。その呪いが大きく、そして何層にも積み重ねられてきた。カムイ、夜刀神を持って、彼女の手を握って。」

「は、はい。」

 

カムイは夜刀神を抜き、彼女の手を握りる。

アクアは、服の裾を強く握り締める。

 

「リョウマ、タクミ、マークス、レオン。お願い、この子を救って……あなた達のこの子を救いたいと言う想いが、力となって治癒が効くようになるかもしれないの……お願い、カムイを……いえ、カンナを助けて。」

 

アクアは頭を下げる。

リョウマ達は互いに見合い、そしてアクアを見る。

 

「当然だ。俺達は彼女に幾度となく、助けられた。今度は、俺達の番だ。」

 

リョウマは腕を組む。

マークス達も頷く。

すると、神器が光り出す。

それが小さな光の塊となって宙に浮く。

それは吸い込まれるようにカムイの持つ夜刀神に入る。

今度は、それがカムイを包み、彼女へと渡る。

傷口からの血が止まる。

サクラとエリーゼはハッとして、治癒をかける。

傷はひとまず、塞がった。

熱がまだあったが、呼吸は落ち着いた。

アクアはホッとしたように、胸を下す。

リョウマがアクアを見て、

 

「それで、アクア……彼女がカムイではなく、カンナと言うのはどういう事だ?少なくとも、俺の知るカムイの子供『カンナ』は男の子のバズだ。」

 

アクアは椅子に座り、祈るように手を握り合わせる。

 

「正確には、カムイで間違いないわ。けど、この子の魂はカンナなの。」

 

リョウマ達も、椅子に座ってアクアの話を聞く。

アクアは視線を落とし、

 

「……この子は、私と『カムイ』の娘のカンナよ。」

「なに?」

「イザナ公王が言った予言に出てきた、『闇に堕ちし竜の子』。あれは、カムイの事よ。」

「ア、アクアさん……それは……」

「最初の『カムイ』は男よ。ミコト様も、この透魔の出身なの。そして、ミコト様の子であったカムイは……私の夫。私の父から王位を譲り受けた王だったの。けど、彼の中に流れる竜の血は強い。『カムイ』は、ミコト様と竜の間に出来た子なの。少し、長い話をするわね……」

 

アクアは顔を上げる。

彼らを見つめ、

 

「ことの始まりは、突然訪れたわ。カムイが、竜の血を暴走させてしまった。彼は竜の破壊行動(獣の衝動)に襲われ、国を滅ぼそうとしてしまったの。竜の暴走はカムイだけの事ではないわ。だからハイドラ様は、竜の暴走を止まる歌を創り出した。この歌は、竜の暴走だけでなく、争う心をも鎮める。私の母がそれを受け継いで来たの……このペンダントと共に。そして今は、私が受け継いだ。」

 

アクアはペンダントを握り締める。

そして思い出すかのように、

 

「カムイは、私や子供たちの事も、両親の事も分からなくなった。私たちを含め、国も、民も、破壊し尽くした。私の歌も届かないくらい。私と彼女……いえ、カンナともう一人の子供であるシグレと共に、母達が命をかけて、過去に飛ばしてくれたわ。当時、交流関係のあった白夜と暗夜の力を借りて、カムイを止めようとした。けれど、カムイの暴走は止められず、再び国を滅ぼそうとしてしまったわ。そのせいで白夜と暗夜をも、巻き込んでしまった。このままではダメだと思った。もっと、過去に戻って対処をしなければいけない、そう思って対価を支払って過去に飛んだわ。けれど、あのカムイはもう、完全に闇に飲まれてしまったの。時空の狭間に取り残され、ずっと苦しんでる。そのカムイの抜けた空席に、私とカムイの娘だったカンナの魂が、『カムイ』となったの。私は、あの子の姉として、共に力を尽くしたわ。けれど国は、少しずつ闇に飲まれ、崩壊を始めた。何度も繰り返したわ。時に、白夜と暗夜に赴き、再び力を借りて。けど、刻を重ねるごとに呪いは強くなり、とうとう透魔王国以外で口にする事を禁じられたわ。それはこの地に残ったハイドラ様をも、闇に堕として……。それからは、辛く、苦しい闘いだった。何度も兄弟姉妹(きょうだい)を、仲間を、家族を失った。白夜と暗夜で、世界を救うために動き出した。白夜と暗夜に平和が来ても、闇が襲う。透魔王ハイドラを倒さない限り、災厄は終わらなかった。なんとか、透明魔王国に味方たるあなた達を招き入れ、透魔王ハイドラを討ち倒した事もできた時があったわ。けれど、闇が残っていた。それがカムイ。その時に、私たちは初めて知った。彼の状態を。だから、あの子は父を救う為に動き続けた。そんな中、微かな平和な時間であの子は『カンナ』を産んだ。それは空席だった自分。けれど、違う存在。それは覚悟していたみたいなの。自分がそうであったから。父の代わりに、『カムイ』として世界を救う。何度、繰り返しても。そうしている内に、私もあの子も大切なモノが増えていった。救う為に、多くの犠牲を出してしまったの。それはあの子に、呪いとして降りかかってしまったの。怨み、憎しみ、悲しみ……くり返し、くり返し積み重ねられたそれは、とても強い。だからこの子は、人という括りをやめた。そして今回、カムイ()と言う存在を捨ててまで、ここに居る。」

 

アクアは眠っている彼女を見る。

それは母の顔であり、姉の顔。

アクアはカムイに向き直り、

 

「……そして、今回の『カムイ』と言う空席の中に、新たなカムイが生まれた。それが今のカムイ。カムイ、あなたのその魂は、あの子が生んだカンナの魂。巡り巡って、ここにやって来た。あなたは希望なの。この選択()を創り出した、唯一の希望。」

「私が……あの人の……」

 

カムイは胸を押さえる。

時折感じる懐かしさ。

あれは、それを意味していたのか、と。

アクアは頭を下げた。

 

「ごめんさない。本来なら、あなた達を巻き込むべきではなかった。けれど、私たちに力を貸して欲しいの。私は、あの子の母として、姉として、見届ける。力を貸すと決めていた。ここは故郷であり、私はこの国の王妃であり、王女。果たさなければならない義務がある。けれど、あなた達は違うわ。巻き込まれただけ。だから、向こうに戻って暗夜王ガロンを討った後は、ここに戻らなくてもいいわ。だって、これはーー」

「それ以上は言うな、アクア。お前達の気持ちは痛いほど分かる。」

 

マークスがジッと彼女を見つめて言った。

彼は続ける。

 

「私も、あの子に会ってから、夢を見たのだ。とても長い、長い夢を。あの子の敵になる自分、元に闘う自分。無論、この透魔の地のこともあった。だが、ここの記憶は曖昧だった。それはおそらく時差があったのだろう。実際、リョウマ王子も夢を見ている。けれど、同じ夢に辿るまで、時間がかかっていた。そんな私たちだからこそ、わかるのだ。知っているのに助けられない。何度も、何度も、失う辛さと怖さの繰り返し。あれほど悔しく、自分の弱さを実感したものはない。むしろ謝るのはこちらだ。お前たちは、ずっと苦しんで闘ってきたのに、気付いてやらなかった。だが、今回は違う。共に、闘っていこう。」

「そうです、アクアさん。私はたとえ、自分が誰だったろうと関係ありません。今の私は、私なんです。私は、世界を平和にしたい。白夜と暗夜が共に手を取り合える世界。この透魔王国もまた、そうなれることを信じます。だからこそ、闘うのです。」

 

カムイはぎゅっと、拳を胸のところで押さえる。

アクアは両手で顔を覆い、泣く。

 

「ありがとう、みんな……」

 

カムイはアクアを抱きしめる。

彼らは改めて、平和な世界を掴み取る為に闘う事を誓う。

永きに渡るこの悲しみの連鎖を断ち切る為に……

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