それは昔の記憶。
黒騎士は思い出す。
それはまだ、『カムイ』様が透魔王国を継がれる前のこと。
まだ竜達も、この地にいた頃の話だ。
当時の透魔王リュウレイ様の命で、透魔王国を守護する竜の護衛をする事となった。
兄ではなく、自分に降った命。
不思議ではあった。
何故なら、元々竜の側には未来を見通す巫女が居た。
そして、竜もまた未来を見通すのだから。
そうでなくとも、双方強い。
巫女は虹の賢者と呼ばれる竜の創りし神器を持ち、その使い手だったのだから。
時は流れ、巫女は『カムイ』という名の男の子を産んだ。
彼は産まれながらに、婚約者がいた。
彼より、数年前に産まれた透魔王の娘。
彼女と結婚するということ。
つまり次期国王となるのだ。
自分は、その男の子の面倒も見る事となった。
その子の師として剣や作法を教え、過ごす日々。
竜達も、彼の事は好きでよく話し相手になっていた。
彼らと過ごす日々は、嫌いではなかった。
彼は成長し、透魔王国の王女と結婚した。
それと同時に即位した。
彼らの間には、第一王子が誕生した。
母方の血を濃く受け継いだ王子。
彼の誕生で、国は盛大に盛り上がった。
しばらく経ち、竜達は人の生活と言うくくりをやめた。
一頭の竜は
また一頭、竜は
そして、戦争は起きた。
十二の竜達は、降り立った地で覇権争いを始めた。
ある竜は新たに神器を創り、ある竜は己の血を人間に与えた。
竜と竜、人と人、時に竜と人の争い。
それを聞きつけたのは『カムイ』。
その地と透魔王国とは、時間の流れが違う。
それを知り、駆けつけた頃には犠牲は大きくなりつつあった。
彼は虹の賢者と呼ばれる竜の元に向い、共に争いを止める為に動き出す。
それは次第に、竜の血を受けた人間達とも協力するようになった。
彼は、虹の賢者から生誕の祝いで貰っていた『夜刀神』を用いて、戦争を終わらせた。
その後、竜の血を受けた人間達はそれぞれの国、部族を創り上げていった。
透魔王カムイは、彼らとの交流を続けた。
特に交流のあった白夜王国と暗夜王国には、記念の品を送るくらいに。
白夜には玉座を、暗夜には透魔の象徴を。
そうしている内に、白夜と暗夜は王の世代が随分と変わった。
そして透魔王国にも、第一王女が産まれていた。
彼女は父方の血を濃く受け継いでいた。
彼女は父のようになりたいと、剣を取る。
その剣を教えるのは自分と王。
彼女は父と同じく、竜の姿になれる守り神。
平和だった透魔王国。
その平和だった国を、滅ぼし始めたのは他ならぬ透魔王カムイ。
彼は竜の血が暴走し、暴れ出した。
自分は、それを見て心躍る。
光を塗り潰すほどの暗。
暗よりもなお、黒く染まっていく闇の姿。
神々しかった。
それはまさに、世界や人を滅ぼす真の
そう思った……
目が覚めると、周りは元の平和な透魔王国。
自分の仕える王は、相変わらずの心優しき青年。
あの闇ではなく、いつもの彼。
何度でも言おう。
自分は彼も、彼らとも過ごすこの日々は嫌いではなかった。
未だに師としてみてくれる
自分を家族のように慕ってくれる
共に競い合う強き兄。
けれど、再び滅びはやって来た。
全てを滅ぼす、あの瞬間が。
自分は理解した。
この滅びは必然なのだと。
なら、受け入れるべき事なのだと。
繰り返し、繰り返し、平和と滅びはやって来た。
だが、ある時を境に『カムイ』が変わった。
彼が消え、彼の代わりに娘が『カムイ』になった。
けれど、自分との関係は変わらず、師と弟子。
その変化があっても、滅びはやって来た。
そしてこの平和と滅びの物語は、透魔の外にまで及ぶようになった。
繰り返される透魔と白夜と暗夜の悲劇。
平和と滅びは広がっていく。
カムイの竜の暴走は、いつしか透魔王国を守護する竜へと変わる。
消えていく、自分と彼らとの繋がり。
それはいつしか、自分の心を変えた。
迎える必然。
自分は、それをうまく流れるように動こう。
例え、兄や彼らが相手でも。
何故なら、自分しかその事を覚えていないのだから。
けれど、自分以外に覚えている者がいた。
他でもない、あの子。
彼女の見る目は昔と違う。
怒りと悲しみに満ちた目。
その奥に見える殺意の瞳。
当時のあの子からは、考えられない事だった。
必然を起こせば、あの子は変わる。
それはとても面白かった。
自分は今、とても面白かった。
自分の起こす破滅と、あの子の抱く希望。
どちらの力が強いのか……
ーーそれは遠い遠い記憶。
自然に溢れた透魔王国。
城の庭には、色鮮やかな花畑が広がっていた。
そこを歩く銀色の髪を少し跳ねらせた青年。
彼の赤い瞳が、辺りを見渡す。
「カンナ、どこにいるんだー?」
「ここだよ、お父さん!」
花畑から出てきたのは、彼と同じ銀色の髪と赤い瞳を持つまた幼女。
彼女は髪をお団子のように結い上げていた。
青年は娘を抱き上げる。
と、彼の頭の上に何が乗る。
「お父さんにプレゼント!この前、お兄ちゃんに教えて貰ったの!」
「お花の冠か……ありがとう、カンナ。」
彼は彼女を抱えたまま、城に向かう。
扉を開けると、黒騎士が頭を下げる。
「おかえりなさいませ、カムイ様、カンナ様。」
「アベル、ただいま。」「ただいま、アベル!」
二人は笑顔を向ける。
黒騎士アベルは頭を上げ、
「さて、カムイ様。もうじき、白夜王リョウマ様と暗夜王マークス様がお見えになります。お支度を。」
「うん、わかった。」
カムイは娘のカンナを下す。
彼女の頭を撫でた後、アベルと共に話ながら歩いていく。
その背を見ていると、
「おかえり、カンナ。」
「お兄ちゃん、ただいま!」
そこには水色の髪で、右目を隠した前髪の少年。
彼は彼女の手を引き、歩く。
「ところで、お兄ちゃん……お母さんは?」
「母さんは、お爺様たちのところ。父さんは、今から会議だったね。アベルさんも、そっちに付きっきりなると思うから、今日の剣の稽古はなしかな。」
落ち込むカンナを見たシグレは、
「そうだ、カンナ!今日は、シノノメとジークベルトも来るらしいんだ。」
「お兄ちゃんのお友達?」
「うん。白夜王リョウマの息子のシノノメと暗夜王マークスの息子のジークベルト。きっと、カンナとも仲良くしてくれるよ。」
彼女は、嬉しそうに頷いた。
しばらくして、馬に乗って来た者たちが来た。
赤い鎧に身を包んだ白夜王と黒い鎧に身を包んだ暗夜王。
その後ろには、彼らに似た少年がいる。
カムイは一歩前に出て、
「いらっしゃい、リョウマさん、マークスさん。」
と、微笑みかける。
横からアベルが、
「ゴホン、カムイ様。一国の王が、そんなでは駄目ですよ。」
「えー。だって、型苦しいのは苦手なんだ。」
「ですが、礼儀は大切なんですよ。」
頰を膨らませて、笑う彼に叱る。
それを見た白夜王リョウマは腕を組んで笑い出す。
「はは、カムイ殿は相変わらずだな。」
「ああ。だが、そこがカムイ王のいいところだ。」
隣で、暗夜王マークスも笑う。
そこに、カムイの息子のシグレと娘のカンナがやって来る。
それを見た白夜王子シノノメは手を上げて振る。
「おーい、シグレー!遊びに来たぞー。」
「おい、シノノメ。お前は砕け過ぎた。もっと、礼儀正しくしないか。」
「えー。俺も、カムイ王と同じで型苦しいのは苦手なんだ。」
彼は両手を頭で組んで、口を尖らせる。
それを、横で暗夜王子ジークベルトは苦笑しながら、困っていた。
だが、カムイが頷きながら、
「だよね。やっぱ、仲のいい者同士はこうだよね!」
「カムイ王、わかってる!」
彼はニッと笑う。
シグレは笑いながら、
「はは。シノノメは、父さんと相変わらず仲が良いみたいですね。」
カムイは、彼の足元に隠れている娘を見つける。
彼は笑顔で、
「そうそう、リョウマさんとマークスさん達は初めてでしたね。紹介します。娘のカンナです。」
「は、初めまして!」
カンナは、シグレの後ろから出て頭を下げる。
白夜王リョウマは頷き、
「初めまして、カンナ王女。今日は息子のシノノメを連れて来ている。仲良くしてやってくれ。」
「カンナ王女、初めまして。私も、息子のジークベルトを連れて来ている。ジークベルト、後は頼むぞ。」
「は、はい!父上!」
暗夜王マークスが暗夜王子ジークベルトを見る。
彼は気をつけをして頷く。
カムイもシグレを見て、
「シグレ、アクアがオヤツを作ってくれてあるから、庭でみんなと食べるといい。カインが今に来ると思うから、何かあったら彼に言ってね。」
「わかりました。」
カムイ達は中へと入っていく。
シグレ達も、オヤツを持って庭で父達の会議を終わるのを待つ。
庭のテラスに着くと、カンナは暗夜王子ジークベルトを見て、
「ジークは、マークス王のこと苦手?」
「え?ジーク?えっと……」
「はは!ジークか、良いなそれ。ナイスだ、カンナ。だが、こいつは父さんが苦手じゃなくて、王様だから話し辛いだけだ。親子なんだから、そんなん気にしなくても良いのにな。」
「シ、シノノメ!そんな事言っても、父上は王なんだ。いくら息子とはいえ、礼節は大事だとーー」
「あーあー、俺型苦しいの嫌いー!」
「シノノメー‼︎」
耳を塞ぐ白夜王子シノノメ。
その彼の肩を、暗夜王子ジークベルトは揺らす。
シグレはクスクス笑う。
そんな事もあり、彼らの友好関係はとても良かった。
ある日、シグレがカンナを連れて城の外に出た。
兄と共にやって来たのは森に隠された屋敷だった。
屋敷の少し離れた場所に、ベンチ型のブランコがあった。
二人でそれに座り、遊ぶ。
「カンナは、知らないかもしれないけどね。俺が小さい頃、沢山の竜がこの国に居たんですよ。人間のように生活をするに竜も居ました。ここも、もしかしたら、その跡地かもしれません。けど、ここを離れて行った。今の白夜王国や暗夜王国がある世界、あそこで大きな戦争があったんだ。それを、父さんが夜刀神を用いて止めたんです。」
「みんな、喧嘩をしてたのかな……」
「そうですね……みんな、仲良くできたら良かったよですがね。」
シグレは悲しそうに、カンナの頭を撫でる。
その日から、カンナは何かあるとすぐここに来ていた。
そのカンナを迎えに来るのは兄シグレ。
彼と共に城に帰る途中で、アベルに見つかるのだ。
城に帰ると、父が心配そうに駆け寄り、抱きしめる。
その後、母とアベルの説教が始まるのだ。
それを、父と兄がフォローしてくれた。
ある日、カンナは兄と共にブランコに乗って、兄の歌を聴いていた。
母から教わった歌を。
カンナは、母と兄が歌う姿が好きだった。
兄を見上げ、
「お兄ちゃんはいいな〜。」
「何がだい?」
「私も、お兄ちゃんみたいにお歌を歌えたらって。私はお歌ヘタだし、お母さんみたいにお父さんのお手伝いもできない。」
シグレはブランコを止め、カンナの頭を撫でる。
「そんな事はないですよ。カンナだって、父さんみたいに竜になれるじゃないですか。俺にはできない。だからカンナは、父さんを支えることができる。」
「お父さんを?」
「ええ。母さんが言ってました。竜の力は強いと。だから時に、暴走してしまうと。だから母さんは、父さんの為の歌を歌う。カンナは、父さんの竜の仕事を一緒にできるんですよ。俺には、その仕事はできない……」
「じゃあ、私も暴走しちゃうかもしれないんだよね。……だったら、お兄ちゃんはカンナの為にお歌を歌ってくれる?もしも暴走しちゃっても、カンナのこと嫌いにならない?」
「はい。カンナが暴走してしまった時は、俺が歌を歌います。それに、俺はずっとカンナのことが大好きですよ。何があっても、カンナの味方にずっとなります。」
「じゃあ、約束ね!」
「はい、約束です。」
二人は笑顔で指切りをした。
しばらく経ち、白夜王子シノノメと暗夜王子ジークベルトがやって来た。
彼らと共に遊び、彼らが帰るときに言う。
また今度、と。
けれど、彼らと会ったのはこの日が最後だった……
私は母に手を引かれ、走っていた。
「カンナ!もう少しだけ、頑張って!」
だが、カンナは木の根に躓き転ぶ。
母と繋いだ手が離れ、自分は泣き出した。
「うぁぁぁああ!」
「カンナ‼︎」
母はすぐに自分を起こして、抱きしめる。
そこに弓を持った巫女と、フードを纏った男性が駆けて来る。
「アクア!」
「ハイドラ様!ミコト様!」
「アクア、カムイは……あの子は……」
「もう、私たちの事もわかりません。完全に暴走しています。私の歌も、届かなくて……」
それを聞いたミコトは顔を覆って悲しむ。
ハイドラが彼女を抱きしめ、
「アクア、シグレはどうしたんだ。」
「途中ではぐれてしまいました。けど、あの子なら大丈夫です。」
アクアは立ち上がる。
彼らは話し合っていた。
カンナは溢れ出す涙を拭いながら、気づく。
父と母から貰った竜石がないことを。
失くさないように、首にかけていたのに。
カンナは立ち上がり、来た道を駆ける。
アクアはハッとする。
先程まで、側にいた娘がいない。
「カンナ⁉︎カンナ‼︎」
アクアは辺りを見渡す。
茂みからアベルが現れた。
「ここにおられましたか、アクア様。それにハイドラ様とミコト様も、ご無事で何よりです。急いで、リュウレイ様とシュンメイ様がお待ちです!急いで向かってください。兄とシグレ様もいます。」
「わかった。行こう!」
ハイドラがミコトの手を引く。
アベルがアクアの手を引き、
「アクア様も急いで!」
「待って!カンナが!カンナが居ないの‼︎」
「それは私が!アクア様は急いで、シュンメイ様とシグレ様と合流を!歌い手としてのお役目を!」
「……わかったわ。アベル、カンナをお願い!」
アクアはハイドラ達と共に走って行く。
アベルは子供の足跡を見つけ、走る。
カンナは泣きながら、地面を漁っていた。
けれど、竜石は見つからない。
カンナは座り込み、
「うっ!うぅ!お父さん!お母さん!お兄ちゃん!アベルー!」
「はい、何ですか?カンナ様。」
アベルが後ろから駆けて来た。
カンナを抱き上げ、
「さ、行きますよ。」
「うっ、失くしちゃったの。お父さんとお母さんから貰った竜石。失くしたちゃダメって……とても大切な物だからって!」
カンナはアベルに抱きつき、泣き出す。
アベルは辺りを見渡し、光る石を見つける。
それを拾い上げ、
「ありましたよ、カンナ様。」
カンナはアベルの持つ竜石を受け取ると、泣き出した。
アベルはカンナを抱きしめ、背をさする。
と、地面が揺らぐ。
彼はカンナを抱えたまま、走り出す。
カンナを連れて、アベルはアクア達の元に辿り着く。
カンナを下ろすと、
「おかーさん‼︎」
「カンナ‼︎」
アクアは駆け寄るカンナを力一杯抱きしめる。
「アベル、ありがとう。」
「いえ。ところでカムイ様はやっぱり……」
アクアは頷く。
カンナを離し、立ち上がる。
「竜石も完全に壊れてしまったわ……完全に獣と化してしまった。もう誰の事もわからず、見えるモノ全てを破壊してる。」
「そうですか……兄さん、どうしますか。」
「それを、リュウレイ様とハイドラ様が検討していた。」
アベルはこちらにやって来た兄の白騎士カインを見る。
その表情は厳しい。
彼は普段から笑顔が絶えない穏やかな人。
だからこそ、不安になったカンナはカインを見上げ、
「カイン!」
彼の足にしがみ付く。
カインは膝を着き、彼女の頭を撫で、
「カンナ様、大丈夫ですよ。だから、カンナ様はお退がりを。」
「カイン!お父さんね、さっきまでね……カンナと遊んでくれていたんだよ。お花畑で……お花の冠を作ってたの。元に戻るよね、お父さん……優しいお父さんに戻るよね……また、カンナの名前を呼んでくれるよね……また笑ってカンナのこと思い出してくれるよね……」
カンナは涙を流す。
その溢れ出る涙を拭う。
けれど、涙は止まらない。
そこにシグレがやって来て、涙するカンナを抱き上げる。
彼女の背を摩り、
「カンナの目の前で暴走してしまったんです。異変に気付いた母さんの歌で、その時は収まりました。けれど、すぐに理性を失い、側に居たカンナを襲ったんです。俺が間に合わなかったら、カンナは……父の手で死んでいました。」
「そうでしたか……カンナ様はカムイ様が大好きでしたからね。カンナ様をお願い致しますね、シグレ様。」
「はい。カンナは大事な妹ですから。」
カンナは疲れ、シグレの肩に眠っていた。
シグレはカンナを優しく抱きしめる。
すぐそこでは、暴竜となった父の姿。
もう、生まれ故郷である透魔王国は崩壊を始めていた。
大地は崩れ、人々の嘆きと恐怖が漂う。
父は血の涙を流し、悲しみが響き渡る。
――カンナが目を覚ますと、色とりどりの美しい透魔王国。
昔、家族でやって来た透魔王国の象徴である竜神ハイドラの石像の前。
そう、自分が意識を失う時に居た場所。
兄に抱かれ、最後に見た景色は暴竜とかした父が起こす崩壊する透魔王国。
あの時、父の悲しみが聞こえた気がする。
泣いていた父の声が……
「カンナ?どうしたんだい。」
振り返るとそこには父の笑顔。
暴竜と化す前の優しい父の姿。
カンナは顔をくしゃくしゃにして泣き出す。
「おとーさん!」
彼に抱き付く。
カムイは苦笑して、抱き上げる。
「本当にどうしたんだい、カンナ?」
「ううん、何でもないの!お父さん、一緒に帰ろう。みんなが居る、あの場所に。」
「……うん?ああ、帰ろうか。アクアやシグレが待ってる。」
カムイは優しく微笑みながら、カンナを連れて帰る。
家族が暮らすあの城へ。
城に帰ると、アクアとシグレが門の前に立っていた。
二人も、カムイの姿を見ると涙を流す。
「って、アクアとシグレもかい?」
「カムイ……」「父さん……」
二人もカムイに駆けて行き、抱き付いて泣いた。
シグレはアクアの前に居た。
「では、母さん……」
「ええ、私たちは過去に戻って来ただけ。あと数週間で、カムイの暴走は起こるわ。彼の竜石を見せて貰ったわ。……ヒビが入っていた。新しいのに変えたけれど、すぐにヒビが……ハイドラ様によれば、どうしようもないと。」
「……そんな。ここに来て、カンナは父が元に戻ったと思っているんですよ!それでも、幼いながらに感じている。父がまたああなってしまうのではないか、と。だから、父の側を離れない。いえ、離れようとしない。」
「分かっているわ。……シグレ、あの事を覚えているのは私たちだけなの。あの時、父たちが命を対価にして禁忌を行ってくれたから、私たちはここに居る。それは、カムイを救うため。」
「だからです!なのに父を救えないなんて……‼」
シグレは後ろを振り返る。
そこにはカンナが居た。
カンナは瞳を揺らしながら、
「お父さんは……またカンナのこと忘れちゃうの?お父さん……またあんなに泣いちゃうの?」
「……カンナ……」
アクアは、カンナを抱きしめる。
カンナはアクアを見上げ、
「お母さん、お父さんを助けるのに、シノノメやジークのお父さんの力は借りれないの?」
「……白夜王に暗夜王の……けど、これは自国の問題よ。他国の王に迷惑をかける訳には……」
「母さん、信じて貰えるかは分かりませんが、俺が両国に行ってきます。だから、母さんはお爺様たちをお願いします。カンナは父さんの側に居てあげてください。」
シグレはジッとアクアを見つめた。
アクアはため息をつき、
「シグレ……わかったわ。やれる事はやっていきましょう。」
カンナは二人を見上げていた。
二人の姿を誇らしく、かっこいいと思った。
父やアベル、カインの戦う姿は見た事がある。
よく、模擬戦や一対一の戦いをしていた。
父に聞けば、母も兄も凪刀を武器に戦う事もできると聞いた。
祖母も、魔術に弓を使うと。
自分はまだ、剣を素振りするのがやっとだが、いつかみんなと共に隣に立ちたいと。
そして、その日は来てしまった。
カンナは母方の祖父母に預けられていた。
カインも居るから安心だと。
だが、カンナは父の元に走っていた。
心配だったのだ。
地震が起きる。
カンナは頭を抑えてしゃがむ。
それが収まると、また走り出す。
怖くて、足がすくむ。
けれど、父と約束した。
――お父さんは、カンナが助けるね。カンナが絶対、お父さんを助けるの!
――そっか……ありがとう、カンナ。カンナとシグレが僕の子供になってくれて嬉しいんだ。カンナの笑顔は大好きだ。カンナも、シグレも、大好きだ。僕の愛しき我が子たち。カンナ、忘れないで。父さんも、母さんも、カンナを愛してる。カンナとシグレは僕らの宝だ。とても大切なんだ。
父の優しい笑顔を思い出す。
カンナは涙を拭って、立ち上がる。
再び立ち上がる。
それを繰り返していた。
しばらくして、走るカンナの上から岩が落ちてきた。
「「危ない!」」
「きゃっ!」
カンナを抱き上げ、横に避ける男性と岩を砕く男性。
彼女を抱き上げたのは、弓と剣を携えた白い鎧を着た青年。
岩を砕いたのは、剣と魔導書を携えた黒い鎧を着た青年。
彼女を降ろし、
「……もしかして、君はカンナ王女?」
「うん。助けてくれてありがとう。」
カンナは頭を下がる。
黒き鎧を着た男性がやって来て、
「タクミ王弟。その子にケガは?」
「大丈夫。さっきは、ありがとう、レオン王弟。」
「これぐらいは簡単さ。だが……カンナ王女、今は危険です。すぐに非難を。」
王弟レオンはカンナの前に膝を着く。
だが、カンナは首を振り、
「いや!私は、お父さんの所に行くの!」
「けど、カンナ王女……」
「行くったら、行くの!」
カンナは涙目で訴える。
王弟レオンと王弟タクミは互いに見合ってため息をつく。
王弟タクミがカンナを抱き上げ、
「仕方ない。僕らで守りながら、王妃の元に連れて行こう。」
「そうだね。」
彼らはアクアの元に急ぐ。
カンナをアクアの元に連れて行くと、アクアが彼女の頬を叩いた。
「うわあぁぁあん‼」
「ア、アクア王妃!」「な、なにを⁈」
二人は驚いた。
アクアは彼女の肩を掴む。
「カンナ!あれほど、来てはダメと言ったはずよ!」
「だって、お父さんが心配なんだもん!私だって、お父さんを止めるお手伝いする‼」
「……いい、カンナ。あなたのした事は、自分の身を危険にしただけではないわ。タクミ王弟やレオン王弟も、危険にさらしたのよ。」
アクアは眉を寄せて、声を上げる。
カンナはアクアの手を払い、泣きながら王弟タクミの足にしがみ付いた。
「お母さんのバカ!」
「カンナ!」
アクアが立ち上がる。
カンナはアッカンベーをして、走り出していった。
「カンナ‼」
カンナは泣きながら走っていた。
母の元を去った後、白夜兵と暗夜兵が言っていた。
――透魔王カムイを殺す
そんな事はさせない。
地面が揺らぐ。
「お父さん!おとーさん!」
カンナは叫んでだ。
すると、竜の姿のカムイが現れる。
「……カンナ……?」
「お父さん!」
カンナが嬉しそうに駆け寄った。
彼に抱き付き、
「お父さん!お父さん!」
「……カン……ナ……逃げ……ろ。」
「え……?」
カンナは父を見上げる。
父の手が、自分の首を絞め始めた。
「あっ……うっ!」
父の手は緩まない。
竜の姿となった父の表情はよく解らない。
けれど、泣いている。
悲しんでいる。
母が自分を祖父母の元に置いて行った時の言葉がよみがえる。
ーーカンナ、絶対ここを離れてはダメ。お爺様たちの側を離れてはダメよ。あなたはまだ幼い……だから、これから起きる事を理解できないかもしれない。けれど、大きくなったときにわかるわ。だから、カンナ……あなただけはお父さんを信じて、嫌いにならないで。
カンナは父の顔に手を伸ばす。
けれど、届かない。
「カンナ‼」
そこに、兄の声が響く。
父に凪刀を振るう。
それが、肩に突き刺さる。
父が悲鳴を上げて離れる。
「ごほっ!げほっ!」
「カンナ、大丈夫ですか!」
「お兄ちゃん……」
意識がまだ朦朧とする。
視界がぼやける。
シグレはカンナの肩を揺する。
意識はある。
息もある。
ひとまず安心する。
けれど、自分の握る凪刀を見る。
父に刃を向け、傷つけた。
覚悟していたとは言え、とても辛い。
シグレはハッとする。
竜の父が爪を突き上げている。
シグレは凪刀で防ごうとする。
だが、それを尾で払われてしまった。
シグレはカンナに覆いかぶさる。
父の爪が背を抉る。
「ぐっ‼」
「お兄……ちゃん?」
カンナは自分に覆いかぶさる兄を見る。
兄の額に汗が吹き溢れる。
兄の背の後ろから竜の父が見える。
父の振り上げる手、爪には血がついている。
カンナは瞳を見開く。
兄の背を少し触り、掌を見る。
自分の手は真っ赤に染まっていた。
地面には血が溢れている。
「お兄ちゃん……お父さん……」
カンナは涙目になる。
再び父の爪が兄を抉った。
それは兄の背を貫き、自分の顔の近くまで兄の血に染まった爪がきた。
顔には兄の血がかかる。
カンナは声にならない悲鳴を上げる。
父がその爪を抜くと、
「がはっ!」
兄は倒れ込む。
カンナは兄を抱きしめ、
「お兄ちゃん!お兄ちゃん‼」
「カン……ナ……これを……お守り……です。カンナを……守って……くれます。」
シグレは優しく微笑む。
カンナの手には、母のペンダントが握られていた。
兄の息が上がっていく。
体温が冷たくなっていく。
「あ……あぁ……‼」
竜の父は首を振り始める。
「シグ……レ……‼シ……グレ‼」
「カムイ‼」
そこに、アクアが駆けて来た。
彼女は場の状況を見て、息を飲んだ。
娘のカンナを庇うように、血を流してうつ伏せの息子のシグレ。
そして夫のカムイは竜の姿で、木々に体をぶつけていた。
その彼の手には、爪には血が染みついていた。
「ア……クア……もうダメ……だ。お願……いだ……僕を……」
「カムイ……」
アクアは涙を溜め、凪刀に力を籠める。
彼女は、それを彼の心臓めがけて突き出す。
それは彼の心臓を貫く。
「あり……がと……う、アク……ア……ごめ……ん。」
「カムイ……ごめんなさい‼」
アクアはそれを引き抜く。
カムイは倒れ込む。
けれど遅かった。
この透魔王国は崩壊し始めていた。
「お父……さん……」
カンナの瞳には、母が父を討った姿が映る。
彼女の瞳は大きく揺れ動く。
もう息が小さくなった兄、倒れている父。
母が涙を流し、父を抱きしめる。
人の姿にすら、戻れない父。
カンナは声にならない声を上げていた。
カンナは、強い光で目を細める。
もう一度、瞳を開ける。
そこは青い空、流れる雲は緩やかだった。
起き上がると、手に何かが当たる。
そこを見ると、兄があの時渡した母のペンダントがあった。
それを掴み、握りしめる。
「カムイ、ここに居たのですね。」
聞き覚えのある声。
祖母のミコトの声だ。
自分は思う。
父が側に居るのか……
けれど違った。
振り返ると、
「カムイ。」
祖母のミコトは自分を抱きしめて、そう言った。
「え……?」
祖母の瞳に映る自分は、変わらぬ自分。
少し違うのは、少しくせ毛があるくらい。
「アクアが捜してましたよ。」
自分は訳が解らず、黙り込んでいた。
そこに、一人の少女がやって来る。
自分よりも少し上の水色の長い髪の小さな母が……
「カムイ、ここに居たのね。捜したわ。さ、行きましょう。」
その彼女に手を引かれる。
自分が『カムイ』と呼ばれ、一言も喋らなくなった。
自分の子と呼ぶ祖母。
自分の友であり、妹と呼ぶ母。
「……カムイ、どうしたの?」
「…………」
「私……あなたに、何か怒らせるようなことをしたかしら?」
アクアは心配そうに、カムイの顔を覗き込む。
カムイはそっぽ向いて、首を振る。
「……カムイ、私ね……あなたに『アクア姉様』と呼ばれなくなって寂しいの。あなたの、あの明るい笑顔が見れなくて哀しいの。」
アクアの悲しそうな声。
その声に、母だった頃の母を思い出す。
カムイは立ち上がり、駆け出した。
無心に走り続けた。
と、誰かにぶつかった。
「おっと、すまん。大丈夫か?」
それは赤い鎧を着た見た事のある男性。
そう、白夜王リョウマに似ている。
その隣に居る男性も見た事がある。
黒い鎧を着た男性、暗夜王マークスに似ている。
赤い鎧を着た男性はしゃがみ、カムイを起こす。
土汚れを叩き、
「怪我はないようだな。」
「リョウマ王子、ここでは危ない。」
「そうだな。移動しよう、マークス王子。」
リョウマ王子と呼ばれた彼は、カムイを抱き上げて歩く。
ここは深い森林。
子供だけでは危ない。
そう判断したのだ。
自分は知っているリョウマと言う名は、白夜王のはず。
そして、マークスと言う名も、暗夜王のはずだった。
だが、彼らは白夜王子シノノメや暗夜王子ジークベルトと同じくらい。
そう考えるのなら、彼らは彼らの父となる前の彼らと言うことだ。
彼らに連れられ、森を抜ける。
透魔王国の城の前に来ると、兄の声が聞こえる。
自分はジタバタし始める。
白夜王子リョウマが慌てて、カムイを降ろす。
カムイは兄の声がする方へ走って行き、足にしがみ付いた。
「おや?カムイではないか。どうしたのだ?」
「ん?リュウレイ殿のお子様ですかな?」
「可愛らしいですな。」
白き鎧の王と黒き鎧の王が居た。
カムイが顔を上げると、それは兄と同じ顔の祖父だった。
そうだった、兄は祖父似だと言っていた。
声や容姿は若い頃の兄そっくりだったと……
透魔王リュウレイは、カムイの頭を撫でながら、
「いえ、この子は先ほどの巫女、ミコトの子ですよ。白夜王スメラギ、暗夜王ガロン。」
「ミコト殿のですか。」
白夜王スメラギは膝を着き、
「どうやら、息子が何かしてしまいましたかな?」
「スメラギ殿の顔に驚いたのでは?」
「それは貴殿だろう。」
と、二人は笑い合う。
白夜王子リョウマと暗夜王子マークスがやって来る。
「父上、申し訳ありません。」
「話をしながらここに来たので、もしかしたら私たちが何か言ってしまったのかもしれません。」
「カムイ‼」
アクアが走って来た。
そして彼女を抱きしめた。
カムイは白夜王子リョウマと暗夜王子マークスに首を振る。
「ごめんなさい、この子は今喋れないの。」
「そうだったのか。」
そこに黒い鎧を着た騎士がやって来る。
カムイは透魔王リュウレイから離れ、彼に抱き付きついた。
黒い鎧を着た騎士は彼女を抱き上げ、
「どうしたんですか、カムイ様。」
カムイは無言で、彼を強く抱きしめる。
彼は彼女の背を撫で、
「リュウレイ様、私はカムイ様をミコト様の元に連れて行きますね。」
「ああ。頼むよ、アベル。」
「はい。」
「私も行くわ。」
アクアも彼と共に付いて行った。
そして再び、悲劇は起きた。
父であったカムイの代わりに、神竜ハイドラが暴走し出したのだ。
大地は父カムイの時のように崩壊を始めた。
自分は母ミコトとアクアに庇われた。
意識を失い、目が覚める。
自分は再び、あの崩壊する前の透魔王国にいたのだ。
カムイ、いや、カンナは理解し始めていた。
あの時の自分がとった行動によって、流れが変わってしまったのではないか。
自分の身勝手な行動で、父カムイの存在が消えた。
それは兄の存在も消えてしまったと言うこと。
それだけではない。
父の変わりに、ハイドラが暴竜となってしまった。
カンナは泣き続けた。
父は透魔王国を愛していた。
父は家族を愛していた。
その全てを破壊する存在となってしまった自分を嘆き、苦しんでいた。
なら、自分は責任を取らねばならない。
母アクアがあの時やったように、今度は自分がその代りをしなくてはならない。
自分はカムイとして、父の変わりをしなくてはならない。
父がこの国を守るように、白夜と暗夜の交流を守らなくては。
カンナは『カムイ』として変わった。
アベルに剣を教わり、母ミコトに弓を教わり、アクアの母シュンメイから魔導を教わった。
父からも教わっていたとは言え、あの時は真面に剣を振るうこともできなかった。
けど、今は違う。
自分もそれなりに成長した。
透魔王国の崩壊も、竜の暴走も怒ってしまう必然ならば、自分はそれを壊す。
白夜王スメラギと暗夜王ガロンの力を借り、暴竜ハイドラを討つ。
けれど、崩壊は免れない。
姉としてアクアは力を貸してくれる。
もっと、もっと策を投じなければならない。
それを繰り返しているうちに気付いた。
必然と言う呪いが強くなっている。
戻れば戻るほど、呪いが強くなっている。
透魔王国の事を口にする事は出来なくなった。
透魔王国は、幻の国へとなったのだ。
けれど、まだ白夜王国と暗夜王国の交流はあった。
姉アクアと共に、両国に説得する。
そして、白夜も暗夜も巻き込む程、呪いが強くなった。
それを気付いた時、自分の異変にも気付いた。
自分は過去に行くとき、誰かの命を対価にここに来ていること。
それがない時は、無意識に自分の余命を対価にしていた。
体が弱くなっている。
けれど、立ち止まる訳にはいかない。
そして、自分がとうとう姉アクアとの交流も、もてない程幼い頃がやって来た。
赤子の自分が、母ミコトと共に白夜王国に来るという状況が続いた。
カムイは縁側に座って、桜を見ていた。
「カムイ、ここに居たのか。」
「……リョウマ王子。」
カムイは床に正座し、白夜王子リョウマに頭を下げる。
リョウマ腕を組み、
「……カムイ、お前がそこまでする必要はない。お前は奉公人ではなく、俺の妹だ。」
「リョウマ王子、私を妹と呼んでくださるのは嬉しいです。ですが、私には、ここの王族としている事はできません。私に王位はないのですから。」
リョウマは頭を下げたままのカムイの頭に手を乗せる。
「誰かに何かを言われたか?お前が例え妾の子だとしても、俺にとっては妹に変わりはないのだ。」
「……そうであったとしても、私は甘える事は許されませんので。」
リョウマはため息を一つ付き、立ち上がる。
カムイはリョウマが去るまで頭を下げていた。
顔を上げると、再び桜を見る。
「……だって私は、白夜の血は引いていないのだから……」
しばらく経ち、カムイは廊下を歩いていた。
今日は鍛錬の日だ。
と、後ろから何かが当たる。
後ろを見ると、自分よりも幼い幼児が二人。
「……タクミ王子、サクラ王女、どうなさいましたか?」
「姉たん、あそぼ。」「姉たま、あちょぼ。」
カムイはしゃがみ、彼らの頭撫で、
「申し訳ありません。私は今から、リョウマ王子と共に鍛錬の時間なのです。先程、ヒノカ王女が帰って来られました。今日は、姉君に遊んで貰ってはどうですか?」
「だったら、姉たんがいい。姉たんも、僕たちの姉たんでしょ。」
タクミはサクラの手をキュッと握りしめて言う。
と、廊下を歩いて来た女人達がコソコソ言い始めた。
「なんと図々しい。」
「仕方ありませんわ、母親譲りなのですもの。」
「あれでは、イコナ様がお可哀想。」
「弟妹様を手懐けて、王位を奪う気かしら。」
カムイはタクミとサクラを抱き寄せ、コソコソ言っている女人達を睨みつける。
彼らは、脅えて早歩きしていく。
「ああ、コワイコワイ。」
「なんと恐ろしい。」
カムイは彼らをギュッと抱きしめ、
「私の側に居ると、タクミ王子やサクラ王女が悪く言われてしまいます。さ、ヒノカ王女の元に行きましょう。」
彼らの手を引き、ヒノカの元に連れて行く。
ヒノカがカムイを見ると、
「……カムイ。それにタクミとサクラも、どうしたんですか?」
「ヒノカ王女、タクミ王子とサクラ王女が遊んでほしいそうなのです。私はこれから、リョウマ王子と共に鍛錬の時間なので、申し訳ありませんがお願いできませんでしょうか。」
「……カムイは共に遊ばないのですか?カワイイお人形を買って来たのですが……」
「お気持ちだけで十分です。」
カムイは二人の手を放して、来た道を戻っていった。
稽古場に来ると、カムイが正座して頭を下げる。
「スメラギ王、お願いいたします。」
「……相変わらず、カムイは固いな。もう少し、柔らかくなっても良いのだぞ。私の娘なのだから。」
「申し訳ありません。」
「なに、責めている訳ではないのだ。」
スメラギは頭を掻く。
そこにリョウマが駆けて来る。
「父上、遅くなり申し訳ありません。」
「来たか、リョウマ。」
リョウマは息を整え、頭を下げる。
そして、二人はスメラギの指導の元、剣の鍛錬をする。
カムイは湖に来ていた。
イコナ王妃が亡くなり、母のミコトが正式に後妻となった。
カムイは手を握りしめる。
イコナ王妃は優しい方だった。
素っ気ない自分にも、明るく声を掛けてくれた。
と、ポチャンという水の音が聞こえた。
何かが落ちたのか、そう思う。
顔を上げると、水が竜の形を取ってこちらを見ていた。
「……‼」
カムイは身構える。
透魔王国の事は口にはできない。
カムイは背を向けて逃げる選択を取る。
だが、足を掴まれ、水竜の体の水の中に引きずり込まれる。
息ができない。
意識を失いかけた時、
「姉たん!」「姉たま!」
タクミとサクラの声が聞こえた。
カムイはハッとして、竜の力を使う。
水が弾け飛び、思いっきり水を吐き出す。
「げほっ!」
カムイは水竜を見る。
再び形を取ろうとしていた。
カムイは二人の手を引っ張って場を離れる。
水の見えないところまで走る。
もう少しの所で、サクラがこけてしまう。
カムイは泣き出す彼女を抱え、辺りを見る。
気配は消えた。
カムイは解った気がした。
あの時、母が自分を叱った理由が。
あの時、自分に言っていた言葉が。
彼らは戦う術を持たない。
けれど、私を助けるためにその身をさらした。
それはまるで、あの時の自分。
自分は何も知らない子供だった。
もしもあの時、自分が意識を失っていれば、この子たちは死んでいたかもしれない。
あの子達が、自分の後を付けている事を知っていた。
知っていて無視していた。
そう、命を預かると言うのは簡単ではない。
だからあの時、母は泣きながら自分を本気で叱ったのだ。
カムイはサクラを座らせる所まで運び、座らせる。
タクミも横に座らせて、
「ありがとうございました、タクミ王子、サクラ王女。おかげで、助かりました。けれど、あのような事はもうしないでください。あなた方に何かあれば、国の問題になります。」
「ごめんなさい、姉たん。」「ごめんなさい、姉たま。」
カムイは二人の頭を撫で、
「私は、お二人が優しい事を知っています。タクミ王子が、私の手を引いてくださったから、私は白夜での居場所を取る事ができました。サクラ王女が、タクミ王子と共に、私の味方になってくださるから、とても嬉しかったんです。だから、お二人に何かあったら、私が哀しいんです。」
二人は、目に涙を溜める。
そこに、スメラギとリョウマが来た。
「タクミ!サクラ!二人だけでどこかに行くなと言ったはずだ!」
「何かあってからでは、遅いんだ!」
タクミとサクラは泣き出した。
カムイは二人の前に正座し、頭を下げる。
「申し訳ありません。私のせいなのです。タクミ王子は、私を追ってここに。私の不手際で、サクラ王女にケガをさせてしまいました。全ては私のせいなのです。お叱りは、私だけにしてください。」
「ね、姉たんは悪くないの!お化けに捕まってたの!」
タクミが頭を下げるカムイにしがみ付いて言う。
リョウマが眉を寄せ、
「お化け?何だそれは。」
「……もう済んだことですので。お気になさらないでください。」
「ふう、もうよい。それより、カムイ。」
「はい……」
カムイは頭を下げたまま、スメラギの説教を待つ。
だが、カムイの頭に手拭いが当たる。
顔を上げると、スメラギが膝を着いて頭を拭きだした。
「まさか、湖に落ちたのか?ずぶ濡れではないか。」
「……申し訳ありません。」
「もうよい、風邪を引かぬうちに帰るぞ。」
「はい……」
カムイは彼に抱き起され、共に歩く。
ある日、とある伝令が王の間で響く。
「何だと⁉間違いないのか‼」
「はい!暗夜王ガロンが、この白夜王国に向けて進軍を開始しました!」
それには、カムイも驚いた。
白夜と暗夜は友好関係にあったはず。
透魔王国で見た事のある暗夜王ガロン。
あの優しい笑顔を向けてくれた暗夜王ガロンが、攻めて来ようとしている。
これも、自分が招き入れてしまった災いか。
だが、今の自分は彼女との接点がない。
会ったのは、赤子の頃の自分のはずだ。
だが、彼女に会えるかもしれない。
そうなれば、透魔王国を救う手段が増える。
カムイは、スメラギとリョウマと共に、戦場に向かう。
暗夜王ガロンは、人とはお前ないほど青い顔をしていた。
あれではまるで、死人だ。
そしてカムイの瞳は見た。
他の兵士達の眼には映らない透魔兵達を。
彼らもまるで、死人のような目をしていた。
透魔王国は暴竜ハイドラによって滅ぼされたはず。
そして、その道を母ミコト達が壊したはずだった。
だが、暴竜ハイドラを討たねばならない。
でないと、崩壊した余波が、こちらにまで来てしまうからだ。
スメラギは、話を持って暗夜王ガロンを止めるつもりであった。
「ガロン王、一体どうしたと言うのだ。なぜ、進軍など――」
スメラギが話している途中に、暗夜王ガロンは彼の心臓を斧で貫いた。
カムイ達は目を疑った。
スメラギは倒れ込み、大量の血が流れ出る。
リョウマは剣を抜き、
「おのれ、ガロン王!許さぬ‼」
それが、開戦の始まりとなった。
カムイは、ここに居るかもしれないアクアを捜す。
けれど、見当たらない。
そして、彼女を捜していて気付いた。
透魔兵が、白夜と暗夜の兵を殺している事を。
「何をしている!あの国は滅んだはずだ!」
――かの地は滅んだ。けれど、王は破壊を望む。
「な⁈バカな、そんなこと……」
――王は望む、破壊を。歌い手は殺した。黒き王も死んだ。白き王も死んだ。巫女も死んだ。残るは竜の子。
カムイは敵から距離を置き、
「殺した……?歌い手を……アクア姉様たちを殺したのか‼それに巫女だと……まさか、ミコトお母様を……」
カムイの耳に伝令が届く。
「白夜王国が、崩壊しました!」
「何だと⁉」
「生存者は……誰一人としておりません!跡形もなく、吹き飛んでしまいました‼」
「バカな‼」
カムイは瞳を揺らす。
透魔兵は呟き続ける。
――王は破壊を望む。白夜王国も暗夜王国にも、破壊を……
カムイは透魔兵を斬る。
青い炎に包まれ、消えゆく兵。
いつだったか本人が言っていた。
自分は祈る心の声を聴くと。
我が加護は心にあると。
それは、死した者も含まれる。
今の彼は暴竜。
その狂った意志と
死人も、王も……
カムイは母アクアのペンダントを取り出す。
赤子の自分だった時には持っていなかった。
けれど、ある日起きたら自分の手の中にこれはあった。
それを握りしめ、
「この戦争を終わらせるには、狂った王を討たねばならない。この災厄を起こしてしまったのが、私なら……」
カムイは走る。
笑いながら、兵を殺している暗夜王ガロンに剣を振り上がる。
彼の斧が剣を防ぐ。
冷たい笑みを浮かべる暗夜王ガロン。
それはもう、自分の知る彼の笑顔ではない。
カムイは竜の力を使う。
竜石を持たない今の自分では、暴走する可能性がある。
けれど、やらねばならない。
カムイは白銀の竜へと変わる。
尾で斧を弾き、爪を彼の心臓に突き立てる。
彼の血が顔につき、倒れ伏す。
カムイは人の姿に戻り、膝を着く。
手には、彼の血がついている。
思い出すのは、あの時の父と兄の姿。
そして、母の姿。
カムイは涙が込み上げてくる。
だが、ここは戦場だった。
「き、貴様!父上を‼」
顔を上げると、暗夜王子マークスが剣を振り上げるところだった。
そこに、もう一人彼に剣を振るうのがリョウマだった。
「させん!」
リョウマの剣は彼の腹を貫き、暗夜王子マークスの剣はリョウマの首筋を斬った。
二人は倒れ込む。
「申し訳ありません、父上……」
暗夜王子マークスは倒れ伏す父を見ていた。
カムイはリョウマに駆け寄る。
「リョウマ王子!」
「カムイ、すまぬ。兄として何も、お前に寄り添ってやる事ができなかった。」
「……違うんです、リョウマ王子。私には、あなたの妹と名乗る資格はないのです。私は白夜の血を引いていない。私のせいで、この悲劇を引き起こしてしまった……謝るのは私の方なのです。」
「知っていたさ。俺は父上と母上から聞いていた。それでも、お前は俺たちの
リョウマはカムイの頭を撫でる。
カムイは泣き出した。
「私は……私がしてしまった罪がある。私が消してしまった者たちを、忘れるわけにはいかない。私が犠牲にした者たちの事を忘れる訳にはいかない。私が幸せになる事はいけないんです。」
「……そうか、お前はずっと苦しんでいたのだな。自分を責め続け、許すこともできず……。カムイ、幸せになるのを恐れるな。俺はお前が何をしたのかは知らぬ。けれど、お前の悲しむ姿や心を閉ざす姿は見たくない。できることなら、お前の兄として共に居たかった……」
リョウマの手が落ちる。
カムイは辺りを見る。
多くの兵が死んでいる。
カムイは涙を拭い立ち上がる。
「約束します、リョウマ王子。次会う時は、逃げない。私は逃げずに、あなた方の想いに寄り添います。何よりも、自分の気持ちに気付かせてくれたあなた方の為に。」
カムイの足元に魔法陣が浮かび上がる。
瞳を閉じる。
カムイは瞳を開ける。
そこは見覚えのある白夜王城の廊下。
「カムイ、こんなところでどうしたんだ?」
カムイは振り返る。
そこには幼い頃に見たリョウマがいた。
「……リョウマ王子……」
彼はカムイは膝を着き、カムイと視線を合わせる。
「ふう、またそう呼ぶのか。前にも言ったが、俺はお前の兄だ。もうじき、お前の弟も生まれるのだ。そういつまでも、他人行儀はやめないか。周りに何を言われようと、お前は俺の妹なのだから。」
「…………」
カムイは視線を落として黙り込む。
リョウマはため息をつき、カムイの頭を撫でてから立ち上がる。
その横を通ろうとした時、リョウマの服の裾が引っ張られる。
彼は立ち止まり、下を見る。
カムイが裾を引っ張っていた。
「カムイ?」
「……リョウマ王子。これは、私のわがままです。私は白夜王家の血を引いていません。なので、あなたを兄と呼ぶのはおかしなことなのです。けれど、私はあなた達と過ごす時間はとても楽しかったのです。もし、そんな私があなた達の事を
カムイは顔を上げる。
泣きそうな顔で、リョウマを見る。
「あなたの事を兄と呼んでもいいですか。」
「……ああ、もちろんだ。カムイ。」
リョウマはカムイを抱きしめる。
カムイは声を上げて泣き出した。
しばらくして、カムイはスメラギの元へ行った。
「して、何の用だ、カムイ。」
スメラギの横には、お腹を抱えた女性が居る。
カムイは二人の前に正座をして頭を下げる。
「……ずっと言いたかった事があります。血も繋がらぬよそ者である私を含め、他人である母を救っていただいたこと、本当に感謝しています。」
「カムイ……」
「その他人であるその私が、あんた方の事を父や母と呼んでいいのか……ずっと悩んでいました。いえ、怖かった。けれど、私はこの白夜で過ごす時間が楽しかったのです。もし、私があなた方の事を父や母と呼んでも良いのなら、どうかお許しください。」
カムイは抱きしめられた。
それはイコナ王妃だった。
彼女は泣きながらカムイを抱きしめる。
「カムイ、良かった。本当に良かった。私はあなたに嫌われているのではないか、あなたに肩身の狭い生活をさせているのではないかと……ずっと、ずっと心配しました。ミコト様も、あなたの事をずっと心配していたのですよ。カムイ、私はあなたを本当の娘のように思っています。たとえ、血の繋がりがあろうとなかろうと、大切なもう一人の我が子なのです。」
「イコナ王妃……」
「いいえ、カムイ。あなたが、私たちの事をもう一人の父と母と呼んで。」
「……イコナ母上様……スメラギ父上様……」
カムイは涙を流す。
スメラギはホッとしたように、襖を見る。
そこには、涙を流すミコトの姿。
カムイは、いや、カンナは想う。
自分は、自分のしたことを忘れてはいけない。
災厄の原因を起こしてしまった自分のしたことを。
自分が消してしまった者、犠牲にして来た者達を。
けれど、大切な彼らを悲しませることはしたくない。
「姉さん!」
「どうした、タクミ。」
タクミがカムイの元に駆けて来た。
カムイは彼を見て、
「イコナ母上様の側に居るのではなかったのか?」
「いるよ、もうじき僕は兄になるんだ。じゃなくて、姉さん。今度、シュヴァリエ公国に行くってホントなの?」
「ああ。父上様とリョウマ兄さんと共に居って来る。」
タクミは頬を膨らませて、
「今度、遊んでくれるって約束したのに。」
「……そうだったな。なら、お土産を買ってこよう。」
「ホント?」
「ああ。約束だ。」
カムイは小指を立てる。
タクミは同じように小指を立て、指切りをする。
カムイはシュヴァリエ公国にやって来た。
辺りのお店を見て回り、
「ん?」
カムイは色々な飾りを売っている店に行く。
そして、赤い布に白い竜を綴られていたモノを見つけた。
「おじさん、これ下さい!」
「はいよ。」
カムイはお金を渡して、嬉しそうに歩いて行く。
リョウマがカムイを見て、
「嬉しそうだな、カムイ。」
「リョウマ兄さん!見て下さい、コレ!」
リョウマはカムイの持つ布を見る。
赤い髪止めのようだった。
「約束したんだ。タクミに、お土産を買って帰るって。コレ、タクミ合うと思うんだ。それにね、コレには白い竜の刺繍もあるんですよ!タクミは、白夜の神祖竜の血が濃いみたいだったから、ピッタリだなって!でね――」
カムイは無邪気な子供のように語る。
リョウマは嬉しそうにそれを聞く。
自分の知るカムイは、その容姿に似合わず、どこか子供とは思えない時がある。
けれど、この子は誰よりも子供だったのだと思った。
ずっと自分に蓋をして、頑張って大人ぶるようにしていたかのように。
「そうか、タクミも喜ぶだろう。」
「うん、早く父上様の仕事が終わるといいな……‼」
カムイはリョウマの後ろに、彼らには視えない透魔兵が数名いるのを。
そして、その奥には居るはずのない暗夜軍。
その暗夜王ガロンは、あの時と同じ死人のような瞳だった。
「リョウマ兄さん、逃げて!暗夜軍が‼」
「何だと⁉」
「兄さんは、父上様にこの事を‼」
「だが、カムイ!」
「兄さん‼」
カムイはリョウマを押す。
暗夜軍が矢を放ってきたのだ。
カムイは肩に突き刺さった矢を抜く。
「ここは私が防ぐ!だから、兄さんは父上様に!」
「カムイ!」
リョウマを突き放し、カムイは暗夜王ガロンを見る。
「竜石がないのが、心細いが仕方ない。」
カムイは、母アクアのペンダントを取り出し、握りしめる。
「お母さん、お兄ちゃん……お父さん。カンナを護ってね……」
カムイはペンダントを首にかけ、服の下に入れる。
そしてその身を竜へと変える。
リョウマは驚いた。
そして、彼女の覚悟を受けて父スメラギを呼びに行く。
カムイは暗夜王ガロンだけを目がげて、走り出す。
彼の首を締める。
他の兵達がカムイに剣を振るう。
それを尾で払い、力を込み続ける。
だが、暗夜王ガロンは冷たい笑みを浮かべ、
「我らが神は破滅を望む。歌い手は死に、黒き王はすでに堕ちる。」
カムイは彼の瞳を見る。
彼の瞳は冷たい。
「仕方ないのだ、破滅は必然。そうだろ、カムイ。」
「……‼」
カムイは彼から手を放し、後ろに退がる。
彼の瞳の中に、透魔王ハイドラを見た。
暗夜王ガロンは斧を振るう。
カムイはそれを避けるが、透魔兵が魔術を放つ。
それが命中し、体勢が崩れる。
そこに、暗夜兵達の剣が掠る。
さらに、暗夜王ガロンの斧が思いっきりカムイを壁に叩き付ける。
カムイは人型になり、倒れ込む。
気がついた時、自分は暗夜王ガロンの前に縛られていた。
見上げる空は暗闇が見える。
そして周りが観客席。
「……ここは暗夜王国か……」
「ふふふ、ふははは!ああ、ここは暗夜王国だ。私は、お前を殺す。そして、白夜王国へと戻してやろう。この意味、お前にはわかるだろう。」
「……アクア姉様たちを殺しただけでなく、ミコトお母様たちまで殺すつもりか!ふざけるな‼」
「ふははは!存分に嘆くが良い。」
暗夜王ガロンは斧を振り上げる。
カムイは暴走覚悟で、再び竜となる。
縄が破れ、カムイは威嚇する。
カムイは相討ち覚悟で暗夜王ガロンを攻撃する。
そしてあの時と同じになった。
彼の心臓を貫く。
「ぐっ!」
カムイは人型になって、息を整える。
と、暗夜王ガロンはカムイを見て、
「礼を言うぞ、幼き竜の子よ……」
「暗夜王ガロン!あなたはまだ、意識があったのですか⁉」
だが、カムイが彼を揺すった時、彼はすでに死んでいた。
カムイは涙を堪える。
そこに爆発音が聞こえてくる。
「カムイ!どこだ!」
スメラギの声が響く。
カムイは父の声が響く方へと向かう。
「父上様!」
「カムイ!」
スメラギはカムイを抱きしめる。
カムイはスメラギを見て、
「暗夜王ガロンは死にました。だから――」
カムイは目を見張る。
スメラギは腹を貫かれ倒れ込む。
彼の腹からは血が流れ出る。
カムイの顔には、自分の頬を触れる。
そこには、父の血がついていた。
「……父上様……」
カムイは瞳を揺らして彼を見た。
そして、父を殺した黒い鎧を着た騎士を見る。
彼は冷たい笑みを浮かべていた。
「歌い手は死に、黒き騎士は死んだ。白き王も死んだ。」
「カムイ!」
その場に、神器『風神弓』を携えてやって来た。
黒き鎧を着た騎士を見た母は、眉寄せた。
そして、彼の眼を見て弓を構えた。
だが、彼の方が早い。
母は斬られた。
「巫女も死んだ。我が王は望む。世界の破滅を……」
この時、自分は思っていた。
彼もまた、暴竜ハイドラに操られていると思ったのだ。
「君は、どうしますか。」
「……アベル。」
カムイは眉を寄せて涙を流す。
立ち上がり、
「絶対に、破滅を止める!」
魔法陣が大きく包み込む。
カムイはハッとする。
そこは暗夜王ガロンの前。
縛られている自分。
「…………」
カムイは暗夜王ガロンを睨みつける。
今ここで、彼を殺しても意味がない。
「安心しろ、お前は殺さぬ。生きて、白夜王国へ戻してやろう。」
「なんだと?」
「今更、お前を殺して戻しても、白夜王スメラギはおらぬ。」
「どういう意味だ。」
「そのままの意味だ。ヤツは息子を庇って死んだ。」
カムイは目を見開く。
瞳を揺らし、涙を堪える。
カムイは彼に頭を押さえつけられる。
「だが、すぐには返さん。」
カムイは意識を落とした。
気がつくと、自分は牢に居た。
片手を鎖に繋がれていた。
そこに老騎士が入って来た。
「……申し訳ありませんな。これも命令ですので。」
彼の手には鞭があった。
すぐに察しがついた。
カムイは彼を見て、
「構わない。それが、お前の役目ならな。」
「…………」
彼はカムイの前までくると、座り込む。
「なぜ、やらない?」
「……どうやら、あなたは聡いようだ。なら、素直になってはどうですか。」
「どうしろと?」
「じきに、暗夜王国一の術師がやってきます。あなたに、術を掛けるようです。」
「それに、素直にかかれとと言うのか。」
「ええ。」
「………わかった。ただし、その術師の術が私に効いたらな。」
カムイは彼を睨みつけた。
老騎士はため息を一つ付き、
「ふう、いいですか。仮に、あなたが術にかからなくとも、あなたはかかったフリをなさるべきです。国に帰りたいのであれば。」
「………なら、約束してくれ。私が術にかからなかったら、お前が私の側にいると。」
「はい。わかりました。」
彼は立ち上がり、部屋を出ようとした時、
「ありがとう、優しい人。」
「私の名はギュンター。また、お会いできることを楽しみにしております。」
彼は扉を閉めて出て行った。