ファイアーエムブレムifでやってみた   作:609

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第十八話 白夜王国

白き王は望む。

子や国に幸せが来ることを。

自分は王だ。

民や国の平和を強く思う。

けれど、父親でもある。

この成長を望まない親はいない。

けれど、想いとは、願いとは人を歪ませる。

強ければ、強いほどに……

 

幼き頃、扉をくぐった先に国があった。

今はもう、口にしてもいけない幻の国。

国内で何かがあったと言うことだけが伝わった。

まさかのちに、竜によって滅ぼされるとは思ってもいなかった。

暗夜王国とも、友好関係にあった。

けれど、いつしかその交流も途絶えた。

 

若い頃、自分は王城を抜けて城下町にいた。

ある女性に目を奪われた。

聞けば、故郷を抜け出して遊びに来たと。

その日、一日は心が躍った。

最後の別れ際、彼女の名を聞いた。

『ミコト』と。

自分も名乗る。

王族である事を。

彼女は少し驚いた後、首を傾げて微笑む。

良き友人ができて幸せだと。

そして言ったのだ。

ある国の巫女である事を。

忘れていた国の民である事を。

 

自分は王位を継ぎ、王となった。

妻をめとり、忙しくも幸せだった。

愛していた。

妻も、国も、民も。

そして生まれてきた子らも。

 

一人目の子が生まれ、二人目の子も生まれた。

三人目の子を身ごもった時、懐かしい友人が訪ねてきた。

ボロボロになって、生まれて間もない子を抱いていた。

自分を頼り、自分ではなく子を助けて欲しいと。

そして自分は気付いたのだ。

この友人に恋心を抱いていたことを。

けれど、妻も愛していた。

愛とは何か。

自分には理解しがたい。

だが、自分にできる事はある。

王の妾として、二人を受け入れた。

詳しくは言えない彼女だったが、言える範囲内の事を語ってくれた。

妻は受け入れてくれた。

自分は息子には彼らの事を話した。

息子は立派な子だ。

きっと良き王になるだろうと思う。

 

成長した彼女の子は、見るからに竜の血が濃かった。

幼い子供の瞳が語る。

自分がどういう立ち位置なのか。

だからだろうか、幼き子供は距離を取る。

父と子ではなく、王と子供として。

自分は、この幼き子供を我が子のように思っていた。

本当の父親になれずとも、彼女の父としてありたかった。

 

ある日、あの子は語る。

他人なのだと。

けれど、我らと共に居るのは楽しかったと。

許し貰えるのなら、父と我妻を母と呼びたいと。

自分は想う。

この子はもしかしたら、我々の知らない何かを知っているのではないかと。

自分はできるだろうか。

この子を背負える父親に。

いや、なってみせよう。

我が愛する子の為に……

 

 

――カムイは外を見ていた。

窓の外は黒い空。

そして高い壁。

まるで鳥籠だ。

だが、城の中だけなら自由がある。

そう思えば、まだいい方なのだろう。

今の自分は、暗夜王国の王女としてここに居る。

喋ることはほとんどない。

まずは国に帰り、二人の母を守るために。

 

カムイの所に、暗夜王国の王子マークス、レオン、王女のカミラ、エリーゼがよく来る。

特に、ここに足を運ぶのはマークス王子だった。

彼はいつも、土産を持ってこの城に来る。

だが、彼の瞳を見れば解る。

自分も知るものだ。

罪悪感。

それが、彼の瞳からは見て解る。

それでも、自分は彼らを受け入れるわけにはいかなかった。

自分はただ、国に帰りたいだけなのだ。

 

カムイはしばらくして、城から出された。

暗夜王ガロンの前に、カムイは居た。

王の玉座に座った暗夜王ガロン。

ここは王の謁見の間。

 

「よく来たな、カムイ。」

「……はい、お父様。御目通りが叶い、嬉しく思います。」

 

カムイは己の感情を押し殺して、頭を下げる。

ガロン王は続ける。

 

「いや……これも、お前の日々の精進ゆえだ。聞けば、マークスに引けをとらぬ強さになったと聞く。ようやく、暗夜の王族にふさわしくなったのだ。故に、お前を此度の白夜進軍へと加える。」

「……そうですか。わかりました。暗夜の王族として、お父様のお役に立てるよう心がけましょう。暗夜の神祖竜の名の元、暗夜の加護の為に。」

「うむ。よくぞ、言った。では、カムイ。お前を先陣として向かわせる。これは、そんなお前に贈り物だ。」

 

カムイは控えていた兵から、剣を受け取る。

自分は察した。

これは危険だと。

 

「従士は好きなのを連れて行け。」

「ありがとうございます、お父様。」

 

カムイは顔を上げ、謁見の間を後にする。

信頼できる従士ギュンターとジョーカー、フェリシア、フローラ、そしてリリスを一番側に連れて出陣した。

白夜との国境である無限渓谷で、暗夜軍の奇襲を受けた。

 

『やはり、見抜いていたか!』

 

カムイ達は戦闘を行った。

仲間とはぐれ、側に居るのはリリスのみ。

そして、足を踏み外して崖から落ちた自分を、リリスが助けてくれた。

己を竜の姿に変えて。

喋れなくなると解っていて……

だが、助けられた自分は途中で意識を失ってしまった。

目を覚ますと、木造の天井が映る。

視線を横に向けると、自分を護って、本来の姿とも言える小竜となったリリスが泣きながら自分を見ていた。

彼女には悪い事をした。

透魔王国(あの国)ならともかく、加護を主が居ない土地で人ならざる力を使い過ぎれば何かしらのリスクを負う。

彼女の場合は、人の姿、人の言葉をもう紡ぐことはできない。

そしてもう一人、

 

「カムイ!良かった、目が覚めて。俺が、誰だかわかるか?」

「……リョウマ兄さん。」

「本当に良かった。」

 

カムイは起き上がる。

兄リョウマは涙を流して、カムイを抱きしめた。

そして離し、

 

「すまなかった。お前を助けてやれなくて。」

「構いません。自分で進んでやったことです。それよりも、スメラギ様が亡くなったとお聞きしました。本当ですか?」

「……ああ。」

「そうですか。申し訳ありません、リョウマ兄さん。」

「お前が謝る事ではない!父上は、俺を庇って死んだのだ。責があるとすれば、俺だ。」

「……いいえ、私のせいです。兄さん、ミコトお母様は?」

「お前の寝顔を見て安心したのか、今は眠っている。一週間以上も寝ていたのだ。それをずっと看病していたのは、母上だったからな。」

「そうですか……」

 

カムイは立ち上がり、

 

「様子を見てきます。」

 

カムイは歩いて行く。

小竜のリリスが、その後を追う。

リョウマは拳を握りしめる。

彼は思い出していた。

幼い頃の距離を取っていた頃のカムイを。

兄と呼んでくれるが、言葉遣いやその距離感は昔に戻ったようだと。

 

カムイは眠っている母の姿にホッとした。

そして離れる。

側について来ていたリリスを抱え、外に出る。

それは、懐かしい声と歌が聞こえてきたからだ。

カムイは立ち止まり、見入っていた。

懐かしい姉として側に居たアクアの姿。

けれど、今の自分は彼女との接点はない。

でも聞いていた。

彼女が白夜王国に誘拐されていると。

自分の事は知らなくとも、母のミコトなら彼女を知っている。

まず、殺される事はないと解っていた。

それでも、悲しみをこらえる為に、カムイは唇を噛みしめていた。

 

「だれ?」

「すみません。とてもきれいな歌声でしたので、聞き入ってしまいました。」

「……もしかして、あなたがカムイ王女?」

「はい。……あなたは?」

「私はアクア。」

「アクア……では、あなたが暗夜王国から誘拐された王女ですね。前に、噂を聞きました。」

「ええ。私は、あなたの対になって誘拐された。けど、向こうよりは幸せよ。ミコト様が、私を白夜王国の一員として迎え入れてくれたの。あなたの居場所を取ってしまって、ごめんなさい。」

「いえ、気にしてません。私の選んだ道なので。」

「そう……」

 

カムイはアクアと仲良くなるのに、時間はいらなかった。

他の白夜王子王女は成長していた。

ヒノカ王女は、前の時とは違いお淑やかだった彼女は、失った家族を救う為に真逆の活発で武器を振るう女性に。

タクミ王子は、母ミコトから風神弓を譲り受けていた。

サクラ王女も、成長していて暗夜王女エリーゼと同じくらいになっていた。

自分は別に、暗夜の王子と王女が嫌いだったわけではない。

彼らは、本当に自分を心配してくれた。

暗夜の王女エリーゼに関しては、本当の姉のように慕ってくれた。

だからこそ、彼らとの戦闘は避けたいと思っていた。

そして、別れていたジョーカーとフェリシアと合流で来た。

 

次の日、国はカムイの帰国を祝って祭りが開かれた。

だが、突如カムイの持っていた剣がフードを被った薄透明の敵の手によって、暴れ出す。

剣が爆発し、自分を庇って母ミコトの命が奪われた。

街を破壊した。

白夜の民を多く犠牲にした。

そのすぐ、暗夜王国は攻め入って来た、という伝令が流れる。

カムイは、この犠牲を受け入れる。

と、白夜の石碑から一振りの剣が姿を現した。

それは『夜刀神』。

父の使っていた神器。

自分が生まれた時には、すでに十二の竜たちの覇権争いは終わっていた。

それも、随分昔の事として。

だから不思議だった。

あの神刀が、どこにあるのか。

だが、その刀は今自分の元になる。

父カムイは言った。

『夜刀神』は、使い手を選ぶ。

その使い手の想いに応えると。

 

カムイは暗夜軍を見つめた。

そこには、自分が囚われていた時に優しくしてくれていた暗夜の王子と王女が居た。

 

「カムイ!良かった、無事で。さぁ、戻ってこい。」

「何をぬかすか!カムイは、俺たちの兄弟姉妹(きょうだい)だ!」

 

二人は武器を構えて睨み合う。

カムイは暗夜王子マークスを見て、首を振る。

 

「兵を退いてください。私は戻りません。私はただ、帰りたかっただけなんです。大切なモノがある、この国に。」

「……カムイ。そうか……なら、次に会う時は敵だ。」

 

彼は兵を退き、馬を駆けて行った。

カムイ達は暗夜王ガロンを討つために、暗夜王国に攻め入る準備をする。

けれど、その途中で兄リョウマと弟タクミが行方不明となってしまった。

彼らが消える前、『イズモ公国』に行ったという情報を得た。

その為には、『黄泉の階段』を使わねばならない。

だが、黄泉の階段で暗夜軍師マクベスによる罠にかけられた。

風の部族を『ノスフェラトゥ』に変えて、自分達に風の部族殺しをきせてきた。

目的は風の部族との衝突。

違和感に気付いていたのに、敵の策略にはまってしまった自分が悔しかった。

風の部族に行き、部族長フウガに会わねばならない状況となった。

彼と和解し、父カムイの使っていた『夜刀神』の事について聞いた。

『夜刀神』の伝説を。

『炎の紋章』を『繋ぐ』鍵だと。

彼の友であった白夜王スメラギから。

自分も、この『夜刀神』については詳しくは聞いていなかった。

だからこそ、知る必要はある。

自分は透魔王国に少しいただろうアクアに聞くが、彼女は詳しく知らないと言う。

当然だと思った。

母だったアクアなら、知っていたかもしれない。

けれど、ここにいるアクアは違うのだから……

 

カムイは、姉ヒノカと妹サクラと共に、イズモ公国へと急ぐ。

イズモ公国と言えば、神々の居る国だと昔聞いたことがある。

確か、兄シグレが言っていた。

神の信託を聞くことのできる一族が居ると。

カムイはそのイズモ公国へと足を踏み入れた。

漂う感覚は、どこか透魔王国を思い出す。

だが、思い出に慕っている訳にはいかない。

イザナ公王と謁見が叶ったが、直感であれは魔術を感じた。

あの『ノスフェラトゥ』の一件で、見る者は全てを疑っていた。

だからこそ、気付けた。

が、敵の狙いが解らない以上は、従ってみる必要がある。

案の定、暗夜軍の魔術師だった。

だが、サクラを一人で守るのはきつい。

けれど、敵の中に潜りこんでいたヒノカ達に助けられた。

その時に、暗夜王子レオンに会った。

彼は自分を恨んでいた。

当然だと思った。

それから目を反らす気はない。

けれど、あの時に気付いていれば良かったのだ。

彼にもまた、透魔王ハイドラの闇が降りかかっていた事を。

自分の知る彼は、『どちらも優しかった』のだから。

 

本物のイザナ公王を助け出し、リョウマ達の情報を得る。

話によれば、無限渓谷で戦闘があった。

そして落ちたのではないか、と。

あの時は気づかなかったが、確かあの場所は昔、こちらと透魔王国を結ぶ門があったはずだ。

運が良ければ、透魔王国に落ちているかもしれない。

けれど、運よく助かっても、透魔軍に捕まっている可能性がある。

その表情を汲み取ったイザナ公王が、占いをしてくれると言う。

神託とも呼べる彼の力。

軽い感じの彼からは、到底思えない真剣な彼が占った。

 

――『光へ手を伸ばす、穢れなき銀の剣。微睡み、想いを断ち切りて……』

 

その言葉の意味を、カムイは夜まで考えていた。

そこにアクアがやって来た。

彼女も、その事を考えていたみたいだった。

 

「アクアさん……」

「カムイ、イザナ公王の占いだけれど……私のお母様から教わった歌に、占いと同じ歌詞があるの。」

 

カムイはハッとする。

確かに、母アクアと兄シグレが歌っていた。

なぜ忘れていたのか……

だが、アクアにも歌詞の意味は分からないと言う。

この歌は神竜ハイドラが、創り出した。

透魔王国に行けば、なにか解ったかもしれないが、それはできない。

 

「……カムイ。もしかしたら、これは運命なのかもしれない。この意味を解き明かし、世界を救う事ができれば……だって、この歌はまるでカムイ(あなた)を映しているようだもの。」

「そうですね、アクアさん。私も意味は解りませんが、頑張ってみます。」

 

カムイがアクアを見ると、アクアは泣いていた。

 

「アクアさん、大丈夫ですか?涙を流して……」

「気にしないで。さぁ、行きましょう。」

「はい。」

 

何故、気付かなかったのだろう。

この時はただ、アクアは自分の母シュンメイを思い出しているのだと思ったからだ。

けれど、違った。

彼女は知っていたのだ。

透魔王国を真実を、本当の『カムイ』を。

 

カムイ達は進む。

リョウマとタクミを捜すために、無限渓谷に向かっていた。

そして、フウマ公国に足を踏み入れた。

フウマ公国の公王は暗夜王国についた。

多くのフウマ公国の忍び達を相手にしていると、タクミが現れた。

けれど、様子がおかしい。

カムイは気付く。

あの感覚は、操られた者の眼だ。

どうやって彼を元に戻すか考えていると、

 

「カムイ、彼の事は私に任せて。私の歌には、少し不思議な力があるの。彼を元に戻せるかもしれないわ。いえ、今ならまだ間に合うはずだわ。」

「分かりました。お願いします、アクアさん。」

 

カムイはタクミを彼女に任せる。

懐かしいあの歌を背に、カムイは戦う。

そして、正気に戻ったタクミが味方に入ってくれたおかげで、戦いは優位に進んだ。

フウマ公国の公王を討ち、タクミから話を聞く。

 

タクミの話によれば、最初はイズモ公国の国境で戦いをしていた。

だが、戦火が無限渓谷まで広がった。

その途中で、リョウマと逸れてしまったようだ。

その後、崖崩れが起きたそうだ。

その崖崩れに巻き込まれ、彼は谷底に落ちたらしい。

そしてあの状態になった。

とすれば、やはり透魔王国に落ち、透魔王ハイドラに操られたのだ。

 

その後、フウマ公国の牢に捕らえられていたリョウマの臣下カゲロウから兄の行方を聞いた。

暗夜王国で内乱が起きているらしく、その反乱軍がいるシュヴァリエ公国に向かったと。

一向は急いで、彼の元に行く。

船に乗り込み、カムイは考え込む。

敵に、こちらの動きが読まれていること。

考えられるのは、密偵が居るということだが、それらしい動きをする者はいない。

透魔王ハイドラに操られている暗夜王ガロン。

この全てが、透魔王ハイドラに寄る行動なら、心に隠れているのだ。

なら、タクミが怪しいが、彼は先程アクアにそれを直してもらったはずだ。

考えても仕方ないのなら、あえて進むしかないのだ。

立ち止まる訳にはいかない。

透魔王ハイドラを暴竜と化したもう一人の父を討つまでは。

 

カムイはその考えを整理する為、甲板で海を眺めていた。

そこにサクラがやって来て話していた。

だが、空が異様におかしくなる。

嵐にしてはおかしい。

波も高くなり、ゾッと何かを感じる。

水の中から、フードを被った薄透明の戦士が現れる。

 

「お前は、あの時の‼」

 

カムイは剣を構える。

サクラを庇いながら交戦していると、アクア達がやって来る。

カムイの戦闘相手を見て、身構える。

その者としばらく戦闘を行うと、その者は炎に包まれて消えた。

カムイは眉を寄せる。

サクラはアクア達に先程の事を説明していた。

 

シュヴァリエ公国に辿り着く。

そこは賑やかな場所だった。

と、獣人族のニシキに会う。

彼の話によれば、恩返しの相手である歌い手が困っていると言う。

母の元に行きたいが、暗夜王ガロンの前で歌を歌わねばならない。

 

「暗夜王がここに……」

 

カムイは考え込む。

ここで暗夜王ガロンを討つことが出来れば、暗夜の王子と王女達と戦わなくてもいい。

だが、どうするか。

 

「私がやるわ。」

「アクアさん?」

「これは敵の懐に近付ける。」

「ですが、怪しまれますよ。」

「大丈夫よ、魔術を使えばね。」

 

アクアの提案により、イズモ公国で仲間となった魔術師の力を使う。

彼女の姿は変わり、その歌い手と同じ姿で舞台で立つ。

カムイは暗夜王ガロンを見る。

その横に、暗夜王女エリーゼが居た。

彼女の表情は暗い。

あの明るい笑顔を持った彼女は、既に違った。

カムイは視線を落とす。

戦争さえ終われば、彼らを巻き込むことはなくなる。

そう信じて……

 

だが、アクアが歌い出したのは、彼女の歌ではない。

あの歌だった。

 

「ユラリ~♪ユルレリ~♪」

 

アクアの周りに水が漂う。

カムイは彼女を見た。

 

『アクア姉様⁉』

 

だが、思うのである。

これは好機だ。

暗夜王ガロンは苦しみ出す。

カムイは剣を抜き、暗夜王ガロンの前に飛び出す。

彼に剣先を向ける。

 

「お前の顔を見るのも久しぶりだな――カムイ。」

「……この戦争を終わらせる為に……死んでもらおうぞ、暗夜王ガロン!」

 

カムイは剣を振るう。

暗夜王ガロンは斧を手に取り、受け止める。

 

「やめて、カムイお姉ちゃん!」

 

カムイは叫ぶ暗夜王女エリーゼを横目で見た後、剣を強める。

横からカムイに剣を振るう暗夜兵。

カムイはそれを避け、体勢を整える。

暗夜王ガロンは前に立った兵を斬る。

 

「邪魔だ!」

「キャー!お父様、どうして⁈」

 

暗夜王女エリーゼの悲鳴が上がる。

そして目を疑う。

暗夜王ガロンは、自分の兵を切り捨てたのだ。

カムイは歯を食いしばる。

あの優しきガロン王は、もういないと。

 

カムイは暗夜王ガロンと剣を交える。

そこに、暗夜王子マークスが現れる。

 

「カムイ!この、裏切り者め‼父上に剣を向けるとは!」

 

カムイは眉を寄せて、視線を落とす。

剣をしまい、竜石を掴む。

その身を竜と変え、暗夜王を襲う。

ぶつかり合いは強く、建物にも被害が出る。

天井の岩が、暗夜王女エリーゼに降りかかる。

カムイは彼女を庇う。

岩は割れたが、カムイは人の姿に戻る。

 

「お、お姉ちゃん‼」

「…………」

 

カムイは彼女から離れ、血の流れる腕を抑える。

その間に、暗夜王ガロンは姿を消していた。

カムイはアクア達と合流しようと歩き出す。

 

「待って!お姉ちゃん!」

 

暗夜王女エリーゼがカムイの傷口に治癒をかける。

カムイは彼女の頭を撫で、

 

「ありがとう。ごめん。」

 

走って行く。

彼らは撤退を覚悟する。

だが、暗夜王子マークスが立ちはだかる。

 

「逃がしはせぬ!ここで、お前の命を貰う!」

 

彼は剣を抜く。

カムイも、彼に剣を向ける。

そこに、暗夜王女エリーゼが駆けて来る。

 

「もうやめて!お兄ちゃん!」

「退がるんだ、エリーゼ。」

「いや!やるなら、私を斬ってからやって!」

 

暗夜王女エリーゼは暗夜王子マークスをじっと見つめていた。

アクアがカムイの手を引き、

 

「逃げるわよ、カムイ。これ以上は彼女にも、シュヴァリエ公国にも、公国の民たちにも被害が出るわ。」

「はい……」

 

カムイは剣をしまって、走る。

撤退に成功し、彼らは休息を取る。

カムイは木の陰に居るアクアを見つける。

 

「アクアさん?」

「うっ!うぅ……」

 

アクアが倒れ込む。

カムイは駆けて行き、

 

「アクアさん⁉アクアさん!」

「はぁ……はぁ、カムイ?」

「どうしたんですか⁈」

「大丈夫よ……何でもないから、放っておいて……」

 

アクアは力弱い声で言う。

カムイは眉を寄せ、

 

「そんな訳にはいきません。」

「本当に、もう大丈夫よ。」

 

彼女は立ち上がる。

そしてカムイを力強い目で見て、

 

「行きましょう、休憩の終わる時間よ。策が失敗した以上、一刻も早くリョウマと合流しないと。」

 

彼女は歩いて行った。

カムイは視線を落とし、

 

「アクアさん……アクア姉様……」

 

カムイは視線を上げ、後に続く。

 

本格的に、シュヴァリエ公国に入ると、暗夜王女カミラが待っていた。

彼女は武器も持たずに歩いて来て、カムイを抱きしめた。

 

「……⁉」

「ああ、カムイ。会いたかったわ。」

 

横に居たヒノカが凪刀を構え、

 

「妹から離れろ!」

「ヒノカ姉さん、待って下さい。」

 

カムイが止める。

暗夜王女カミラは横目でヒノカを見て、

 

「……あれが、あなたのお姉さんなのね。」

「はい……」

「そう。良かったわね、カムイ。私ね、願っていたの。あなたの自由を。あの城で一度も、私たちの名を呼んでくれないあなた……本当は記憶を持ったまま、あの城に居たのね……可哀想に。私たちを恨んでいるでしょ?」

「……いいえ。私が恨んでいるのは、暗夜王ガロンだけです。あなた達に恨みを持ったことはありません。むしろ感謝してました。あの城で、私が普通でいられたのは、あなた達のおかげです。」

「そう、良かったわ。あなたの瞳に、私たちが映っていて……」

 

暗夜王女カミラはカムイを離す。

彼女は瞳を揺らし、

 

「けれど、本当はあなたとは兄弟姉妹(きょうだい)でいたかったわ。たとえ、偽りの姉妹(きょうだい)だったとしても……」

 

彼女は至近距離で魔術を放つ。

 

「くっ!」

 

カムイは腕でそれを守り、彼女を見る。

 

「ごめんなさい、カムイ。けれど、これは仕方のない事なの……お父様からのご命令だから。だから、あなたは私の手で殺してあげるわ。」

「姉様!」「カムイ姉さん!」「カムイ!」

 

サクラが駆けて行き、治癒をかける。

タクミとアクアが前に立ち、武器を構える。

ヒノカも、武器を構えながら、

 

「貴様、なにをする!」

「ああ……妬ましいわ、あなた達が……カムイを姉と呼べる、カムイを妹と呼べるあなた達が!だってそうでしょ、もう私たちは叶わない願いなのだから……ずっと、ずっと、側に居たのに……あなた達よりも、カムイの事を知っているのに‼だから殺してあげるわね。みんな、みんな、私の手で……」

 

暗夜王女カミラが指笛を鳴らすと、飛竜が飛んできた。

彼女はそれに乗り、斧を構える。

すると、控えていた暗夜軍が押し寄せてくる。

カムイは瞳を揺らして剣を構える。

彼女の斧を裁きながら、暗夜兵を倒していく。

カムイは意を決して、彼女の斧を弾く。

そして飛竜から叩き落とす。

剣先を彼女に向ける。

 

「私を殺すの、カムイ?」

 

カムイは首を振って剣をしまう。

襲ってきた暗夜軍はすでにほとんどが倒され、後退している。

 

「……倒した敵を殺さないなんて、本当に優しいのね。」

「本当に優しいのなら、こんな事はしない。……私は優しくはない。」

「……それが本当のあなた?」

「ああ。けど、あの言葉は本当だ。本当に感謝している。」

「そう……ねぇ、カムイ。教えてくれるかしら、あなたは何がしたいの?どうして、そこまでして白夜王国の為に闘えるの?」

「……白夜王国には恩義がある。私と母を救ってくれた。あの人も、受け入れてくれた。白夜王スメラギは、全てを受け入れてくれた。その王を殺した暗夜王ガロンは許せない。けど、暗夜王国を恨んだことも、ガロン王自信を恨んだことはない。」

「え?」

「私は、あの優しかった王を変えてしまった闇が憎い。大切なモノを壊していく闇が……」

「カムイ……」

 

暗夜王女カミラは涙を流す。

それは、カムイの言っている事を信じてくれているからだ。

カムイは殺気を感じて後ろに退がる。

そこに、魔術が放たれる。

放ってきた相手は、暗夜王子レオン。

彼は殺意を自分に向ける。

カムイは、彼の瞳に宿る闇を見た。

それに気付けなかった自分が悔しかった。

カムイは拳を握りしめる。

彼の放つ魔術を、避けようとしないカムイ。

だが、自分を抱えて退る鎧を着た兵がいた。

彼は持っていた斧を投げ、さらに彼らと距離を取る。

 

「……リョウマ兄さん?」

「ああ、遅くなってすまなかったな。今だ!」

 

リョウマはカムイを降ろし、甲冑を脱ぎ捨てる。

すると、飛竜に乗った暗夜兵達がやって来る。

 

「任せな!こんな奴ら、私にかかればちょろいもんよ!」

 

反乱軍が加わった。

戦況が変わり、暗夜軍は完全に撤退した。

反乱軍が仲間なり、リョウマとも合流できた。

カムイは反乱軍のリーダー、クリムゾンとほんの少しだが仲良くなった。

 

その夜、暗夜軍の奇襲を受ける。

カムイ達は地下通路を使って、暗夜王国へ進軍する。

国境門を打ち破り、暗夜国内へと足を踏み入れる。

一時的な休息を取るために、森へと向かう。

無事、森までくると各々休息を取る。

カムイは森の中を少し歩く。

空には、綺麗な星空が輝いている。

 

『ここまで来た……あの時とは違うやり方で、この暗夜に再びやって来た。なんとしてでも、白夜と暗夜の戦争を終わらせる。』

 

と、奥の方に湖があった。

その湖には、アクアが居た。

 

『アクア姉様?』

 

カムイは近付いて行く。

アクアは湖に座り、あの懐かしい歌を歌う。

彼女はカムイに気付く、

 

「カムイ。あとを付けて来たのね。」

「すいません、その歌がとてもきれいで……」

「ふぅ、カムイ。今日はもう、休みなさい。ここはもう敵の懐なのよ。」

「……それはわかっています。でも……この前、アクアさんは体調が悪そうでしたので、心配で。」

 

カムイは自分に叱る彼女の表情に、母だった頃のアクアを見る。

やっと、また会えたアクア。

今度はこそは、彼女の言いつけくらいは守りたい。

けれど、反抗的な態度を取ってしまうのは、今のアクアが母に思えてしまうからなのか。

 

「くっ……ぁ……!」

 

突然、アクアが苦しみ出す。

カムイは同じように湖の中に入り、

 

「アクアさん⁉」

「うっ、ぐっ……うぅ……‼」

 

彼女は自分の身を包むように抱きかかえる。

そしてカムイは見る。

アクアの体を黒く紫色の何かが締め付ける。

 

『透魔の呪い‼』

 

そして、この時に初めて気付いた。

彼女の歌う歌は透魔王国の守護竜の創り出した歌。

透魔王ハイドラの呪いの対象となっていたのだ。

それは、自分が竜となって体が重くなるのと同じように、アクアにも呪いが降りかかっていたのだ。

彼女の体からそれは消え、息を整える。

 

「ごめんなさい、変な所を見せて……これはね、呪いなの。私には、特殊な血が流れてるの。普通の歌は問題ないのだけど、このペンダントを媒介にして歌うあの歌は別なの。この呪いからは逃がれられない。どこに隠れていても……けど、もう心配はいらないわ。」

「本当に、大丈夫なんですか?」

「ええ、もう大丈夫よ。だから、そんな泣きそうな顔をしないで。あなたの望む平和の為に、私も頑張るから……」

 

アクアはカムイの頬に触り、優しく微笑んだ。

 

「その平和がきた時に、アクアさんが居ないとダメですからね……」

「ええ、あなたは本当に優しい子ね。」

 

涙を流すカムイを抱きしめながら、アクアは呟く。

 

翌日、カムイたちは暗夜城に向かって突き進む。

獣人族ガルーが治める峰で、不本意な戦いを行い、彼らの犠牲の元そこを越える。

マカラスと言う街を訪れる。

そこでタクミが『風土病』にかかってしまった。

それも、命にかかわると言う。

一向は、タクミの治療にあたる為、薬草が置いてあるかもしれないマカラス宮殿に向かう。

暗夜兵が居る可能性は大きいが、タクミの命を救うためには行くしかない。

必ず助けるために……

 

だが、マカラス宮殿に居たのは、あの時別れたフローラだった。

彼女によれば、あの戦闘の後、捕まっていたらしい。

だが、暗夜王ガロンが命の代わり、この城に仕えることとなったらしい。

彼女に連れられ、暗夜軍の居ない離れへと移動する。

だが、暗夜軍師マクベスの手が襲い掛かる。

彼を撃退するも、逃げられる。

その後、タクミを休ませ、フローラのおかげで薬草も手に入った。

カムイ達は彼が回復したら、双子の故郷である氷の部族の村へと行く事となった。

カムイはタクミの看病をしていた。

 

「姉さ……ん……カムイ……姉さん。気を付……けて……見えるものだけ……が全てじゃないんだ。あれを倒さなければ、闘いは……終わらない。本当の平和は……決して……」

「……タクミ……」

 

彼は少しうなされた後、落ち着いたように眠る。

カムイは額の布を変え、

 

「……寝言、か。そうだな、見えるものだけが全てではない。あれを倒さないと……」

 

この時、自分は思っていた。

タクミの寝言の『あれ』とは、透魔王ハイドラではないか、と思った。

彼はおそらく、透魔王国に落ちたのだろうから。

けれど、彼の言う『あれ』は違った……

 

タクミも回復し、氷の部族に向かった。

だが、氷の部族に着くと待っていたのは戦闘だった。

氷の部族は、暗夜王国を裏切ったカムイの抹殺を命じられていた。

それは、カムイの臣下であったフローラ。

氷の部族は元々、暗夜王ガロンに不満を持っていた。

その事に気付いていた暗夜王ガロンは、反乱を起こさなにように部族長の娘である双子を人質としてあの城に送り込んだ。

そして、カムイの裏切りを利用して氷の部族を殲滅しようとしたのだ。

だが、カムイを抹殺すれば、部族の殲滅は免れる。

そう、マカラス宮殿の時から始まっていたのだ。

暗夜軍師マクベスの襲撃も演技だったのだ。

 

カムイは拳を握りしめる。

ここで殺られる訳にはいかない。

例え、彼らの故郷でも。

だが、カムイは知っている。

故郷を失う怖さを。

何とかしたいが、今の自分にできる事は限られている。

なら、自分が今できる最善の方法を取るしかない。

彼らの恨みや怒りを受ける覚悟はしている。

自分は今から、それだけの事をするのだから。

カムイは剣を抜く。

フェリシアは故郷ではなく、自分を取ってくれた。

それはとても嬉しかった。

フローラのあの目を知っている。

彼女もまた、本当は闘いたくないということを。

けれど、自分がやらねば部族の未来がない事も理解している。

だからこそ、武器を取るのだ。

当然だ。

一人の命と故郷の命。

自分の想いと現実。

本来なら、秤に賭けるまでもない。

秤に賭ける事もしたくないだろう。

だからこそ、自分は彼女が自分を憎めるように立ち振る舞うだけだ。

 

カムイは、それでも彼女の命を取る事は出来なかった。

リョウマ達にも、解っていたのだろう。

部族たちの命は取らなかった。

カムイは武器をしまう。

フローラに手を差し出す。

だが彼女は、その手を取ることはなかった。

カムイから離れ、自らの身に火を放ったのだ。

自分が居なくなれば、暗夜王ガロンは氷の部族を襲うことはない。

カムイは火を消そうとした。

けれど、その火は消えなかった。

フェリシアの吹雪でも火は消えない。

そして、フローラは炎に包まれながら別れを告げて倒れ逝く。

 

カムイは拳を握りしめ、

 

「どれだけ奪えば気が済むんだ……どれだけ、失わせるんだ。彼女は、こんな選択を取らなくてもいいはずなのに!」

 

カムイは歯を食いしばる。

違う。

一番悪いのは自分だ。

自分がなきれなかったからだ。

覚悟を決められなかったからだ。

救う手段があったはずなのに。

この選択を取らせないやり方があったはずなのに……

 

カムイ達は暗夜王ガロンがいる暗夜城を目指して進み始める。

その為に暗夜の中で最も暗く深い森を進んでいた。

カムイ達は途中で、ノスフェラトゥが現れる。

だが、いつものノスフェラトゥとは違った。

意志がある。

操っている者が存在する。

そしてカムイは瞳を揺らす。

彼らを操っていたのは暗夜王子レオン。

彼の身に纏う黒く紫のオーラ。

あれは囚われている。

自分を憎み、怒る。

自分を殺すために居る存在として。

あの優しかった彼の瞳は冷たい。

彼は語る。

『カムイ』が憎いと、『裏切り者』と怒りめいた声で言う。

自分のせいで、血の繋がる兄弟姉妹(きょうだい)は見てくれないと。

カムイは理解した。

彼は誰かに似ていると。

それはタクミだ。

だから憎めなかったのか。

ほっとけなかったのか、と。

 

カムイは近くに居るノスフェラトゥを倒していく。

彼を殺さない方法を見つける。

彼の中の闇を消す。

その為にはアクアに歌ってもらわないといけない。

けど、それをすれば彼女に呪いが降りかかる。

アクアはそんな自分の想いに気付いていたのだろう。

既に歌い出していた。

カムイは、いや、カンナ(自分)はつくづく思う。

自分に歌の力があれば、と……

 

カムイは剣をしまう。

 

「白夜と争う必要はないんだ。どちらかが、居なくなるまで戦い続ける……それは間違いだ。恐怖で人を縛っても、それは新たな憎しみを生む。今の彼のやり方では、世界は滅ぶだけだ。お前は聡く、優しい子だ。本当は、誰も気付つけたくはないのだろう。」

「……ああ、そうか。それが、本当のカムイ姉さんの姿か。姉さんの眼には、ちゃんと僕らも映ってたんだね。」

「私はただ、受け入れられなかっただけだ。白夜に居た頃と同じように。自分の居場所が分からず、決める事もできなかった。そのせいで、多くの犠牲を出してしまった。」

「……はは、僕の知ってる姉さんも嫌いじゃないけど、そっちの姉さんも嫌いじゃないな。ごめん、姉さん。姉さんを憎んでいたのは事実だ。嫌いだって……でも、本当は大好きなんだ。大好きな姉だったんだ。」

「ああ……」

 

アクアはジッとカムイを見つめた後、レオンにある水晶を渡す。

 

「あなたに、これを。きっと、真実を見せてくれるわ。あなたの進むべき道を導いてくれるはずよ。あなた自身の眼で、真実を確かめて。」

「……ふーん、わかった。その真実とやらが分かるまでは、僕は何もしない。けど、もしもその真実とやらが、姉さん達の嘘なら、今度こそ何があっても姉さんを殺すからね。」

「ああ、そう思ったのなら来るといい。私はそれを受け入れる。」

 

カムイは彼から離れるが、

 

「待って、姉さん。今行っても、姉さんたちは勝てない。だから、ノートルディア公国に行くといい。」

「ノートルディア公国……知恵の国か。」

 

リョウマは眉を寄せる。

暗夜王子レオンは頷く。

 

「そう。『虹の賢者』に会いに行くんだ。」

『……虹の賢者……では、十二の竜の生き残り。神器を創りし竜か。』

「父上やマークス兄さんは虹の賢者に会い、『何か』を得た。それが、最強と言われるようになったんだ。けど、今から戻ったら時間がかかり過ぎる。だから、これをあげる。」

 

暗夜王子レオンはカムイに古い書物を渡す。

カムイはそこに魔力を感じる。

一種の魔法術が埋め込まれた物だ。

 

「水晶のお礼って事で。借りは作りたくないんだ。それを使えば、ノートルディア公国に行って戻ってくるだけの力がある。ま、一種のワープだね。古いものだから、一回きりの代物だけど。」

「……それでも助かる。ありがとう。では、行って来る。」

 

カムイが、それを展開する。

レオンはそれを見守る。

そして、カムイが消える瞬間に小さく、

 

「それでも、まだ名前は呼んでくれないんだね……」

 

カムイは、それに応える事はなかった。

 

 

レオンの言った通り、ノートルディア公国に来ることが出来た。

カムイは急いで、手分けして虹の賢者を捜す。

一人で虹の賢者について、話を聞こうと目についた老人を見る。

どこか不思議な気配のする老人だった。

そんな老人に、虹の賢者について聞いた。

その老人によれば、虹の賢者に会うには命の危険があると。

彼に会って戻ってこれたのは四人。

一人目は白夜王スメラギ、二人目は暗夜王ガロン、三人目は名もなき騎士、四人目は暗夜王子マークス。

例え命の危険があっても、進まねばならない。

そして虹の賢者はノートルディア山のという険しい山。

その頂上に『七重の塔』があり、試練を乗り越えたその最上階に、虹の賢者が居ると言う情報を得た。

カムイはリョウマ達と合流し、山を登る。

険しい坂道を歩き続け、七重の塔にたどり着いた。

その門を開け、試練に挑む。

守護者を倒し、最上階へと向かっていく。

そして、最後の番人を倒し、虹の賢者へと続く扉を開けた。

光に包まれ、目を開ける。

すると、カムイが話していた老人の前に移動していた。

しかも、塔の中ではなく、港の街。

カムイは瞬時にこれが、術である事を理解した。

そしておそらく、この目の前に居るのが虹の賢者だと。

カムイの勘は当たり、目の前の老人が虹の賢者だった。

その虹の賢者いわく、暗夜王子マークス達が得た『何か』とは、賢者自身が与える力ではなく、塔に行き試練を乗り越えることこそが、『力』だと。

つまり、あの試練で身についた実力こそが、虹の賢者から与えられたモノ。

さらに虹の賢者は、カムイの夜刀神を見る。

そして、カムイの名も知っていた。

 

流石は古の竜の生き残り。

そして、父カムイが凄いと言っていた人物()だ。

と、思っていた。

 

虹の賢者は言った。

夜刀神を受け継いだ自分に、伝える事があると。

真の平和の為に『炎の紋章』の謎を解き明かさねばならぬ運命のことを。

そして、虹の賢者はタクミの風神弓を見て繋げてくれた。

互いに思う事こそが、『炎の紋章』を動かすと。

実際に、タクミの持つ風神弓が光り出す。

 

――我は神刀を鍛えし者、禁忌を犯せし者、伍色を紡ぎし者。我が名に応えよ、『炎の紋章』よ!

 

それがカムイの持つ夜刀神に吸い込まれた。

虹の賢者は、これはまだ途中だと言う。

これを真の姿にできた時、炎の紋章が現れると。

カムイ達は、旅路を済ませる。

虹の賢者にお礼と別れを告げ、暗夜王国へと戻った。

 

暗夜王国に戻り、暗夜城を目指して歩き始める。

途中、黒竜砦と呼ばれる砦を通る。

リョウマ曰く、この砦を抜けた方が近道だと。

そこはまるで竜のような砦だった。

と言うより、どこか竜の気配がする。

それは正解だったようで、この砦は竜そのものを使ってできていると。

大昔に死んだ『黒竜』の亡骸を使って作られた砦だと。

中に入ると、暗夜兵の姿はどこにもなかった。

そして、カムイはハッとする。

竜の気配が強くなったのだ。

地震が起こる。

ひとまず砦から脱出しようとしたが、出口がなくなった。

そして、カムイの前に暗夜軍師マクベスが現れる。

 

「ごきげんよう、カムイ王女。また、お会いしましたね。この前の事で、ガロン王様からお叱りを受けてしまいましたよ。まぁ、日頃の行いが良い為にお許しくださった。あなた達はここで、今度こそ死ぬのですよ。この、いにしえの地竜……黒竜王の体内で!」

「……‼まさか、呼び覚ましたのか!」

 

カムイは周りを見渡す。

それはもう壁ではなく、ドクドクと動く体内だった。

彼は優越に笑いながら、

 

「これは餞別です。」

 

この場に、ノスフェラトゥを放つ。

 

「その力、暗夜王ガロンから受けたのね。でなければ人間に、亡き竜を呼び起こす力があるはずがない。第一、あなたの魔力では無理でしょうから。」

「くっ、生意気な娘ですね!」

 

アクアが冷たく言い放つ。

カムイは暗夜軍師マクベスを睨みつけ、

 

「……古の竜を呼び覚ますなど、恥を知れ!誇り高き地竜を、汝らの崇める神祖竜を侮辱するとは愚かな!加護を受けている身で、静かに眠っている竜を起こすとは……だから人は竜の怒りを買うのだ!」

「カムイ?」

 

リョウマはカムイを見る。

そこには、完全に怒っているカムイの姿があった。

 

カンナ(カムイ)は知っている。

古の竜は覇権争いをした。

けれど、人と共に歩むことを決めた竜も居ると。

加護を与え、共に生きる竜を。

そして、神竜ハイドラのように民を想う優しき竜が居る事を。

けれど人は、その恩恵を忘れた。

竜を恐れ、蔑ろにした。

人を信じる竜の心を踏みにじってしまった。

己の中にも竜の血はある。

その血が訴える。

哀しいと……

 

カムイは上を見上げる。

竜の悲しむ、苦しむ声が聞こえる。

それはいつかの父カムイを、神竜ハイドラを思い出す。

 

「待っていろ、何があっても解放してみせる。あの闇には、渡しはしない!」

「カムイ、待って‼」

 

アクアが叫ぶが、カムイは暗夜軍師マクベスの幻影を斬り裂く。

そして、ノスフェラトゥを叩き斬る。

どんどん斬り裂いて行く。

アクアがリョウマを見て、

 

「リョウマ、カムイを止めて。このまま暴れて竜になれば、暴走してしまうわ。」

「わかった。タクミたちはノスフェラトゥを頼む。」

「任せて。」

 

タクミ達はノスフェラトゥを倒しに向かう。

リョウマはカムイの剣を受け止め、

 

「落ち着くんだ、カムイ!」

「…………」

 

リョウマはカムイの瞳が赤く光っているのを見る。

本気で怒っている。

あのカムイが、我を忘れるくらい本気で。

 

「カムイ、もう一度言う。落ち着くんだ。今は状況を整理し、ここを脱する必要ある。このままでは、全滅だ。わかるだろう。」

「………すみません。頭に血が上り過ぎました。」

 

カムイは剣を退く。

辺りを見渡し、

 

「黒竜王……暗夜の加護を受け持つ、神祖竜。こんなに嘆き悲しんで、恨んでいる。」

「カムイ、お前には感じるのだな。竜の気持ちが。」

「……ああ、だから何とかして止めないと。」

 

カムイは拳を握りしめる。

アクアがカムイの強く握りしめる手を包み込む。

 

「それは私がやるわ。私の歌なら、きっと大丈夫。」

「そんな事をすれば、呪いが!あんなに苦しんでいたのに!」

「けど、その方法しかないの。信じて、私なら大丈夫。」

「……わかりました。アクアさんを、アクアさんの歌を信じます。」

「ありがとう。」

 

アクアは優しくカムイに微笑み、カムイのおでこに自分のおでこを当てる。

ノスフェラトゥを全て倒し、アクアは歌を歌い始める。

 

「ユラリ~♪ユルレリ~♪」

 

再び揺れ出し、竜の鳴き声が響き渡る。

周りは、壁へと変化していく。

カムイは覚悟を決めて、壁と竜の肉となっている境目に剣を突き立てる。

できた突破口から、脱出する。

カムイ達が外に出ると、砦は竜ではなく、前の砦に戻っていた。

カムイは砦の壁に手を当て、

 

「ごめんなさい。そして、安らかに眠ってくれ……」

 

カムイは彼らの元に戻り、移動する。

しばらくして、森で休息を取った。

カムイはアクアの元に行く。

 

「アクアさん。」

「カムイ……⁉うっ、うぅ!あぁ!」

 

アクアの体を呪いが襲う。

そしてそれは、アクアの体を蝕む。

彼女の体が透け始めていた。

 

「呪いが……呪いが強くなっているじゃないですか!何で言ってくれないんです!」

「カムイ……大丈夫、大丈夫よ。あなたがまだ、ここに居る。あなたの望む平和を見てないもの。だから大丈夫よ……」

 

アクアは重く苦しい体を動かして、カムイを抱きしめる。

すでに泣いているカムイをギュッと強く、それでいて優しく包みこむ。

 

「前にも言ったじゃないですか……平和がきた時に、アクアさんが居なくてはダメだと……」

「カムイ、大丈夫……私はいなくならないわ、約束する。だって、私には夢があるのよ。この戦いが終わったら、カムイやみんなと平和な世界で暮らすという夢が。だから消えないわ、みんなと一緒よ。」

「……私も、アクアさんを守ります。歌を使わなくても、いいように……」

「本当に優しい子ね。暗夜王を倒して、戦争を止めましょ。」

「はい……」

 

カムイは彼女を抱きしめて泣き続けた。

失うのが怖くて……

 

しばらくして、彼らは再び動き出す。

船に乗り、暗夜城を目指す。

リョウマが教える。

白夜城から伝令が届いたと。

かなり状況はよくないらしい。

なんとしてでも、早くこの戦争を終わらせないといけない。

カムイ達は虹の賢者がくれた地図によると、近道がある事をしる。

けれど、その道は怪物や危険な場所だと言う。

それでも、早くこの戦争を終わらせるためには行くしかない。

火の滝でもある『デーモンフォール』。

ずっと、炎が消える事のない場所。

そして、そこ居る怪物とは透魔兵や巨人だった。

それらを撃退しながら突き進む。

番人だと思われる巨人を倒すと洞窟が現れた。

ジョーカーとフェリシアによれば、どうやら王都へと繋がっているらしい。

カムイは進む。

この戦争を終わらせる為に。

 

王都に入ると、人がなかった。

白夜とは大違いだ。

王都を知る者に聞けば、夜の王都に出れば野盗やノスフェラトゥに襲われると。

暗夜王国とは、こう言うところだと。

白夜と違い、暗く日の当たらない土地では作物は育ちにくい。

そのせいで、民は貴重な食料を奪い合う。

だから、日が当たり豊かな土地を奪うしかないと。

生き延びる為には、他国を襲うしかないと。

それを聞いたリョウマは、国の方針を決めたようだった。

与える事を持って、この暗夜王国を変えると。

持つ者が、持たざる者に与えてこそ、憎み合う気持ちのない世界は作られると。

 

カムイ(カンナ)はリョウマに父カムイを重ねた。

父もいつだったか言っていた。

人は皆、困った時は助け合わなければ生きていけないと。

それは竜も同じだと。

もしも自分ができる事があるのなら、迷わずやるといい。

それが自分にとって良い結果にならずとも、後悔せずに突き進むべきだと。

決して忘れてはいけない。

世界には自分と同じ境遇の者、そうでない者、与えられる者と、持たない者。

沢山の相対があるのだと。

 

軍の士気はは高まった。

賊の襲撃はあったものの、撃退に成功する。

そしてアクアの記憶が正しければ、襲ってきた賊の男性はアクアを白夜王国へと誘拐した人物だった。

その彼は、暗夜王国の『秘密の通路』を知っているのだと。

だが、彼はそう簡単には教えないと言う。

教えるには大金を寄こせと。

リョウマがそれに応じた。

次期王となる自分が保証すると。

それを聞いた賊は態度を変えた。

話によれば、彼は白夜王国に仕えていた今は亡きコウガ公国の忍だと。

コウガ公国は、フウガ公国の隣国で優秀な忍びを輩出していたと。

両国は仲が悪く、コウガ公国はフウマ公国に滅ぼされたと。

そして領土を奪われた。

おそらく、その頃からフウマ公国は暗夜王国と手を組んで、白夜を裏切っていたのだろうと。

コウガ公国の民は土地を奪われ、白夜に住めなくなった。

この暗夜王国に流れ、盗賊として生きるほかなかったと。

リョウマは王家に力がなかったことを詫びる。

そして、彼の協力の元進む。

向かうは通路のある王都の地下都市。

 

彼の案内の元、地下都市を進む。

そこは上とは違い、人が溢れていた。

貧しくも活気に満ちた場所だった。

王城や兵も知らない市民の都市。

カムイが辺りを見渡していると、声を掛けられた。

それは花売りの少女。

金髪の綺麗な紫い瞳。

そして、どこか聞き覚えのある声……

カムイは驚いた。

そこに居たのは暗夜王女エリーゼ。

事情を聞こうにも、ここでは話せないと。

彼女に連れられ、向かった先は彼女の乳母の家。

その昔、彼女が生まれたばかりの頃は王位争いがあったと。

自分は乳母に連れられ、王城から離れていたために無事だったと。

そして、今の彼女は王城に居場所がないと言う。

戦争がはじまり、大好きだった姉が居なくなってしまった。

前のように兄弟姉妹(きょうだい)揃って話すこともなくなった。

遊んでくれた城の兵も、家臣も、今では戦争の事しか口にしないと。

だから居場所が欲しいと、姉から教えてもらった秘密の通路を使って、ここに来たと。

カムイは自分と話す彼女が笑顔になるのを見てホッとした。

彼女の頭を撫でながら、

 

「良かった。やっと笑顔に戻った。」

「お姉ちゃん!」

 

暗夜王女エリーゼはカムイに抱き付く。

カムイはその背を摩る。

そして顔を埋め、

 

「最近のお父様はおかしいの。気に入らない者は、すぐに殺してしまう。兵も、民も、簡単に殺してしまうの。最近のお父様は、どこか虚ろな瞳で独り言も言うの。マークスお兄ちゃんは、まるで別人だって。昔のお父様は、優しくて今ほど怖くなくて、残酷なことはしないって。威厳があって、尊敬できて、王様としてとても立派だったって。今みたいにおかしくなったのは、シュンメイっていう王妃がいなくなってからだって。私はその頃生まれてなかったから知らないけど、お父様の所にある変な石像は、その人がいなくなってから置いたものだって。」

「シュンメイ……王妃。」

 

カムイはこの名を知っている。

この名は、アクアの母親の名。

そして、自分のかつての祖母だ。

 

暗夜王女エリーゼは続ける。

 

「うん。マークスお兄ちゃんのお母様、エカテリーナ王妃の後の後妻の人。」

「あらあら、懐かしい名前だこと。エカテリーナ王妃も、シュンメイ王妃もそれは美しい方だったわ。」

「……知っているのですか?」

 

カムイは暗夜王女エリーゼの乳母を見る。

彼女は微笑み、

 

「ええ、噂になりましたからね。エカテリーナ王妃が亡くなった後、王妃は取らないと言っていたガロン王が、急に王妃を取ったんですの。なんでも、出会ったばかりのシュンメイ王妃に一目惚れとか。シュンメイ王妃の美しい歌声を、大層気に入ったとかで。けれど、シュンメイ王妃はすぐに亡くなったと。ガロン王は部屋に閉じこもり、大層荒れたそうですわ。その時に、王位争いも起こってしまって……沢山いた家族を失いました。きっとそれが、ガロン王の悲しみを生んでしまったのでしょうね。その事もあって、誰もシュンメイ王妃の事を口に出すことはしなかったわ。私は少しだけだけれど、シュンメイ王妃にお会いした事があるの。丁度、そこにいるお嬢さんのような顔立ちで、綺麗な方だったわ。」

「それは、そうだろう。アクアは、元は暗夜王国の王女だったからな。アクアはおそらく、後妻のシュンメイ王妃の子だろう。」

 

リョウマが腕を組む。

と、カムイに抱き付いていた暗夜王女エリーゼは顔を上げる。

 

「えぇ⁉あなた、私のお姉ちゃんだったの⁈」

「私は…………」

 

けれど、アクアは黙り込む。

カムイは視線を外し、眉を寄せた。

暗夜王女エリーゼはアクアに抱き付き、

 

「会えてうれしいよ、アクアお姉ちゃん!」

「ええ……私もよ。けど、ごめんなさい。私たちは道を急ぐから。」

「……お父様を殺しに行くの?」

「それは……」

 

アクアは視線を落とす。

カムイは暗夜王女エリーゼの前に膝を着き、

 

「ああ、私たちは暗夜王ガロンを討ちに行く。だから、ここに居てくれ。巻き込みたくない。」

「……私ね、お姉ちゃん達のこと大好きだよ。お父様は怖い。……けどね、どこか悲しそうなの。」

「本当のガロン王は国や民を慈しみ、我が子を愛する立派な方だった。それは白夜のスメラギ王と同じくらい。」

「お姉ちゃん?」

「だからこそ、私は今の暗夜王ガロンを討ちに行く。私の事は恨んでくれていい。けど、父親であるガロン王を嫌いにならないでほしい。今の王が、どんなに怖くとも。本当のガロン王だけは……」

 

カムイの中で、幼き頃に聞いた母アクアの言葉がよみがえる。

自分だけは父を嫌いにならないでくれと。

 

暗夜王女エリーゼはカムイを見上げる。

 

「……ねぇ、お姉ちゃん。この戦争が終わったら、またお喋りをして。また遊んでくれる?」

「ああ。」

「……じゃ、約束ね。」

「ああ、約束だ。」

 

二人は指切りをする。

カムイは立ち上がる。

と、暗夜王女エリーゼはカムイの手を取り、

 

「私も、一緒に行く。私もね、今のお父様を止めて欲しいの。本当はいけない事なのかもしれない。けど、私はお姉ちゃんを信じる。」

「……だが、城に戻ったら離れるんだ。本当に危険だから。」

「うん、わかった。けど、それまでは、一緒に居させて。」

 

カムイは彼女の手を握りしめる。

 

カムイ達は秘密の通路へとやって来た。

水路を使った道だ。

奥へと進み続ける。

迷路のような薄暗く、死体や罠がはびこる。

怖いと言うサクラと暗夜王女エリーゼの手を引き、歩き続ける。

と、後ろの方から足音が響く。

それは暗夜王女カミラが兵を連れてやって来た。

彼女は暗夜王女エリーゼを白夜兵が誘拐したと思っていた。

だが、カムイが暗夜王女エリーゼと共に居ると嬉しそうに言ったのだ。

帰って来てくれた、と。

けれど、自分はそうではない。

暗夜王女カミラは武器を構える。

自分と暗夜王女エリーゼ以外の者を殺すために。

カムイは聞いていた。

暗夜王女カミラは、あれ以来部屋でふさぎ込んでいたと。

ずっと、思い悩んでいたと。

それでも、ここでやられる訳にも、引き返すことも、暗夜王国につくこともできない。

そして、暗夜王女エリーゼの臣下の姿もあった。

カムイは剣を抜く。

暗夜王女エリーゼの臣下に声をかけ、彼らを退かせる。

彼女の臣下と話す姿は、互いに信頼関係があった。

とても楽しそうだった。

 

カムイはカミラと刃を交える。

彼女の力は少し軽い。

けれど、重い。

カムイは彼女を傷付けることはできない。

いや、それは彼女だけではない。

暗夜の王子と王女を敵にはしたくなかった。

彼らの臣下も、白夜の臣下たちと同じで主想いの、仲間想いの良い人達なのだから。

カムイは剣に力を籠め、暗夜王女カミラの斧を弾く。

他の所でも、暗夜兵達が倒されていた。

カミラは膝を着き、涙を流す。

カムイは剣をしまう。

彼女は顔を覆い、

 

「ああ、私はただ……昔のように過ごしたかっただけなのに……」

「この戦争が終われば、またみんなで話すことはできる。その時は、白夜王国の王女として前に現れよう。」

「本当に?」

「ああ。」

「そう……待っているわ、白夜王国のカムイ王女。平和になって、またみんなでお話しましょう。」

 

そう言って、彼女は倒れ込む。

カムイは彼女を見る。

どうやら気絶したみたいだった。

ホッとして、彼女を彼女の臣下に預けて奥へと進む。

 

通路を抜けると、そこは何の因果か鍛錬場だった。

多くの暗夜兵達が訓練をしている。

そして、その指揮を執っている隊長は白夜に進軍をした時に襲ってきた者だった。

カムイの瞳に殺気がこもる。

彼らのせいで、約束をしていたあの老騎士を失った。

彼が何故、自分に味方したのかさえも解らずに……

何より、ここまで来て退くわけにはいかない。

カムイ達は武器を構えて、奇襲をかける。

だが、人数が多い。

カムイは背後から、敵将に狙われる。

防御が間に合わない。

そう思った時、小竜の姿となっていたリリスが自分を庇った。

カムイは目を見開いて、

 

「リリス‼しっかりしろ!」

 

カムイはリリスを抱きかかえる。

血が大量に流れ出ている。

 

「がはは!獣が主人を守ったか!なんとも健気な!」

「……竜には人間の治療は効かない……ここには竜を癒せる者は存在しない……くっ!リリス、すまない。少しだけ待っていてくれ。」

 

カムイは、リリスを優しく抱きしめてから地面に置く。

竜石を持ち、

 

「覚悟しろ、あの時といい……今回の事、絶対に許しはしない!」

 

カムイは竜の姿となって、敵将に向かっていく。

それ以外の敵は、尾で薙ぎ払う。

カムイは敵将の斧を薙ぎ払い、叩き潰す。

頭を失った暗夜兵は武器を捨てて撤退する。

人の姿に戻り、リリスの元に駆けよる。

 

「リリス、お願いだ。もう一度、もう一度、目を覚ましてくれ。」

「カムイ……様……」

 

カムイの涙がリリスに当たる。

リリスは光に包まれ、人の姿に戻る。

 

「リリス……」

「ああ、感謝いたしております……星竜モロー。あなたの情けで、私は伝えられます。カムイ様と過ごしたこの姿で……。カムイ様、泣かないで……ください。」

「リリス、死なないでくれ……私はもう、失いたくない。大切なモノを……」

「カムイ様……ありがとうございます。そう言って頂けただけで、私は幸せです。けれど、申し訳ありません。私はあなたの命に背きます。」

「リリス……」

「私は、本当に幸せでした。道具として生まれてきた私が、あなたと言う主人を得て、人として共に過ごした日々は宝物です。あなたに救われた命を、私はあなたの為に使える。」

 

リリスは涙を流すカムイの頬に触れる。

そして、幸せそうに微笑む。

 

「泣かないでください、カムイ様。私は、あなたの笑顔が好きでした。心を閉ざし、けれど時折見せてくださった。私は、あなたの優しさを知っています。だから、笑ってください。」

「……ああ、リリス。」

 

カムイは涙を流し続ける。

だが、その顔は笑顔でを必死で作っていた。

リリスは微笑んだまま、

 

「ありがとうございます、カムイ様……私は、私はカムイ様の事が大好きでした。本当にありがとうございます、カムイーー様……」

 

そしてリリスの手が地に落ちる。

カムイは彼女を抱きしめて、泣き続けた。

カムイは彼女に懐かしさを覚えていた。

彼女の髪やしぐさ、微笑みは懐かしき優しい神竜ハイドラを思い出す。

どこか父カムイを思い出す。

今となっては真実はわからない。

けれど、これだけは解る。

彼女は、とても大切な『何か』だったと……

 

「カムイ、顔を上げて進むんだ。どんなに悲しく辛くとも、お前は進まねばならぬ。それが、お前を守り、お前を主と認めたリリスの為だ。お前は立ち向かえる強い心がある。それを見抜いていたからこそ、リリスはお前にずっとついて来たのだ。お前を庇ったのだ。お前が大事だから。」

「リョウマ兄さん……はい、解っています。ここで立ち止まる訳にはいかない。私は、私が犠牲にしてしまった人たちの為にも、進まなければならない。それが、私にできる唯一つの道なのだから……」

 

リョウマの支えを受けて、カムイは涙を拭い、進むことを選ぶ。

もう、暗夜王ガロンの居る王城は目の前だ。

 

「リリス、待っていてくれ。戦いが終わったら、迎えに来る。きっと、平和の道しるべを持って、ここに戻ってくる。」

 

カムイは王城に向かって歩き出す。

リリスに小さく微笑み、

 

「助けてくれてありがとう、リリス。私も、リリスの事が大好きだった。リリスは、懐かしい想いを起こしてくれた。本当にありがとう。」

 

 

カムイ達は王城内へと乗り込んだ。

が、武器を構えて立ち止まる。

目の前には、暗夜軍師マクベスが姿を立っていた。

そして、剣を向かる。

が、タクミがアクアを押さえつけて、立ちはだかる。

その瞳は闇に飲まれかかっている。

暗夜軍師マクベスは、タクミを裏切り者として白夜同士の殺し合いを引き起こそうとしていた。

笑う彼を睨みつける。

カムイは剣を床に刺し、タクミにゆっくり近付いて行く。

彼を信じて、彼なら戻ってくると心から信じてるから。

 

「タクミ、大丈夫だ。お前なら戻って来られる。私は、お前を信じる。お前が、私を信じてくれたように……」

「姉……さん……」

 

タクミは頭を抑え、アクアから離れる。

アクアは立ち上がり、

 

「タクミ、今助けるわ。今度こそ、あなたの中の魔を全て取り除いてみせる‼」

 

アクアはペンダントを握りしめる。

 

「ユラリ~♪ユルレリ~♪」

 

アクアの歌が響き渡れる。

暗夜軍師マクベスがそれを止めようと、動き出す。

だが、それをいち早く止めてたのはサクラだった。

そして、そのサクラを助けたのはタクミだった。

カムイも剣を抜き、彼に襲い掛かる。

暗夜兵達を、リョウマ達が蹴散らしていく。

カムイは、暗夜軍師マクベスと戦う。

彼は言った。

私はまるで死神のようだと。

それは確かかもしれない。

けれど、それならそれで構わない。

この戦争を終わらせ、透魔王国を救って、平和を取り戻す。

その為に、ここに居るのだから……

 

 

カムイは、容赦なく暗夜軍師マクベスを追い詰めていく。

そして、暗夜兵達もリョウマ達に倒されていった。

カムイは暗夜軍師マクベスの首に刃を向ける。

彼は悲鳴を上げ、命乞いをしてきた。

全て悪いのは『暗夜王ガロン』だと。

自分は操られていた、可哀想な駒だからだと。

カムイは眉を寄せる。

と、暗夜軍師マクベスは悲鳴を上げて逃げ出した。

それを止め、息の根を止めたのは暗夜王子レオンだった。

 

彼は真実を見極め、戻って来た。

そして彼は言うのだ。

もうカムイの事は、姉さんとは呼ばない。

カムイのしている事には意味があると。

姉とはもう呼べなくても、カムイは大切な人だと。

だから、一人の者として自分を見ると。

彼に姉と呼ばれなくなるのは、何となく不思議な感覚がある。

けれど、これが本来の姿でもある。

それでも、彼は自分にとっては優しく、おっちょこちょいの……弟なのだろと。

 

「お姉ちゃん!やっぱり、私はお父様とマークスお兄ちゃんを説得してみる。」

 

暗夜王女エリーゼがカムイと暗夜王子レオンの間に入る。

二人は危険だと言うが、離れようとしない。

これはまるで、幼い頃の自分だ。

自分ならできる、きっと想いは通じるって……

 

暗夜王子レオンは彼女の強い意志を感じ、彼女を行かせた。

カムイは拳を握りしめる。

そして決める。

守ろうと……彼女の信じる力を。

 

暗夜王子レオンに別れを告げ、奥へと進む。

この先に居るのは、暗夜王子マークス。

そしてその奥に、暗夜王ガロンが居る。

カムイは気を引き締めて向かう。

 

階段を登った先に、マークスが一人立っていた。

彼はカムイを見ると、鞘から剣を抜く。

その鞘を捨て、剣を構える。

彼の眼は本気だ。

それでも、これだけは言わねばならない。

 

「そこを退いてください。私は、あなたとは戦いたくない。」

「……甘いな、カムイ。私を倒さずに、父上を倒せると思っているのか。戦争を止めたいのなら、剣を取れ。私は暗夜王国第一王子として、王国に仇なす存在を許すことはできん。一体一の決闘だ、カムイ!」

「お兄ちゃんやめて!どうして、どうして戦わなきゃいけないの!カムイお姉ちゃんとは血の繋がりはないわ。けど、そんなのなくたってお姉ちゃんとは兄弟姉妹(きょうだい)だよ!兄弟姉妹(きょうだい)で戦うなんて――」

「エリーゼ、お前はそこから動くな。これは、暗夜王国の王族としての役目なのだ。戦う気がないのなら、お前はそこにいるんだ。」

「お兄ちゃん……うぅ、うう……お姉ちゃん、ごめんなさい。マークスお兄ちゃんを説得できなかった……私、私……」

 

暗夜王女エリーゼは泣き出した。

その姿は本当に、昔のカンナ(自分)を思い出す。

カムイは彼女の頭を撫で、

 

「……私こそ、すまない。私も止める事はできそうにない。だから私は、戦ってくるよ。」

 

カムイは彼女の傍を離れる。

そして暗夜王子マークスの前に立つ。

 

「この先を目指すのなら……私を倒し、道を開け。気を抜けば、死に繋がるぞ。」

 

剣を抜き、彼に構える。

 

「ああ、私も引くことはできない。本気で行かせてもらう。」

「面白い、ゆくぞ!」

 

暗夜王子マークスとカムイは剣を交える。

それを、リョウマ達は見守る。

 

カムイは必死に交戦をする。

彼は強い。

リョウマも強い。

この二人の強さはきっと父カムイやアベルと同じくらいだろう。

油断はできない。

だが、自分は受け止めるのがやっとだ。

 

「くっ!やはり強いな……だが、ここで止まる訳にはいかないんだ。」

「ああ、前の時より強くなっている……しかし、まだだ!」

 

二人は刃を交わし続ける。

カムイはすでに肩で息をしている。

だが、その瞳はまだあきらめていない。

何度も、何度も向かっていく。

何度も、何度も受け止める。

 

「……何のために、戦う。あなたの信じる正義はどこにある……」

「正義など……ありはしない。戦争や国同士の闘いに、正義など……どこにもない!」

 

カムイは剣を弾かれる。

そして尻餅をつく。

 

「……そうか。では、何故……今のあなたは、そんなに苦しそうなんだ。それは……あなたの中に、正義があるからではないのか。」

「ほう、そう思うか。……では、お前が抱くその正義を信じて死ぬがいい!」

 

暗夜王子マークスは剣を振り上げる。

カムイは目を見張った。

それは自分の命が危ないと思ったからではない。

カムイを庇って、暗夜王女エリーゼが乗り出してきたからだ。

彼女は彼の剣をまともに受けた。

地面に倒れ込む。

その彼女からは血が流れ出る。

暗夜王子マークスは剣を捨て、彼女に駆け込む。

 

「エリーゼ‼」

 

カムイは大きく瞳を揺らして見る。

彼女を抱き上げ、

 

「エリーゼ!しっかりしろ‼エリーゼ‼‼」

「うぅ……あぁ……マークス……お兄ちゃん。」

 

暗夜王女エリーゼは目を開け、苦しそうに呼吸が荒い。

汗も大量に額から流れる。

床にはすでに、彼女の血が大量に流れている。

カムイは立ち上がり、フラフラになりながら近付いて行く。

暗夜王女エリーゼは暗夜王子マークスを見上げ、

 

「それが……正義?」

「……‼」

「愛する……モノを守るために……必要なの?本当は……剣じゃなくて……暖かい手と涙なの。」

 

暗夜王女エリーゼは彼の手を取り、自分の頬に当てて包む。

暗夜王子マークスは右目から涙が流れ出る。

彼女は彼に手を伸ばし、

 

「お願い……闘いをやめて……」

 

自分も涙を流しながら、彼の流す涙を拭った。

そして悲しそうに微笑んだ後、その手は床に落ちた。

 

「あ……ぁあ!」

 

彼は眉を深くして、彼女を床に寝かせる。

そして、涙を必死に堪えて剣の元に歩いて行く。

カムイは彼女の前に膝を着く。

涙を流しながら、彼女の頬を振れる。

 

「すまない……すまない……‼私はまた……私は‼」

 

カムイは泣き続けた。

暗夜王子マークスは剣を拾い、カムイに向ける。

 

「……来い、カムイ。終わりにしよう。この暗黒剣『ジークフリート』の露となるがいい。」

「……ああ。それが……それが、あなたの正義なら……私も答えよう!」

 

カムイは立ち上がり、涙を拭う。

そして剣を拾い、構える。

二人は再び剣を交える。

悲しみに満ちた剣、その悲しみを堪える剣、悲しみを背負い振るう剣。

色々な悲しみを持って、二人は剣を振るう。

二人は剣を互いに弾き、いったん距離を開ける。

そこに、暗夜王子マークスの臣下が兵を連れてやって来た。

暗夜王子マークスは眉を寄せて、それを止めるがこの戦火は止まらなかった。

リョウマ達が、暗夜兵達と交戦を始める。

カムイと暗夜王子マークスは、互いに見つめ合う。

この戦いはもう、どちらかが戦いをやめるしかない。

もしくは、どちらかが死ぬしかない。

彼の瞳には、もう戦いをやめるという意志はない。

なら、カムイもまたそれに応えるしかないのだ。

 

「……さぁ、カムイ。かかってこい。お前の目の前に居るのは、暗夜王国第一王子……憎き敵国の戦士、マークスだ!」

「ああ。私もまた、白夜王国の王女として、あなたに立ちはだかる敵だ。私は、あなたにとって憎き敵国の戦士。そして、あなたの妹を奪ってしまった戦士……カムイだ!」

 

二人は同時に地を蹴る。

ギーンという、今までで一番大きな金属音のぶつかり合う音が響く。

カムイは力を籠める。

竜の血を、力を剣に込める。

それは、本気で戦う証拠。

彼に対し、『カムイ』という一人の人として、竜として彼に剣を振り下ろすのだ。

彼もまた、それに負けないくらいの強い意志と想いで剣を振り下ろす。

カムイの瞳が赤く光り出す。

思いっきりカムイは剣を突き出した。

それは暗夜王子マークスの剣を弾き、彼を貫いた。

彼は地面に仰向けになって倒れ込む。

 

「……ああ、迷いのない良い目だ。流石だ……カムイ。本当に……強くなった。」

「それも全て、あなたのおかげだ。私の迷いを打ち切ったのは、他でもないあなたなのだ。」

 

カムイは剣をしまい、彼の横に膝を着いて涙を流す。

暗夜王子マークスは小さく微笑み、

 

「お前が、そんな風に……感情を出すのは初め……て見たのだ。あの城に……居た頃のお……前は心を閉ざし、私たちとも距離……を取っていた。けれど、決して無……下にはしなかった。いつだ……ったか、お前が私たちに笑ってくれた……事があった。あの頃……が懐かしい。お前に……とっては辛い……日々だったかも……しれぬ。敵国……に攫われ、閉じ込……められた生活。きっと、お前をそ……んな状況においた……我らを恨んでいただろう。私は……お前の負った心の傷を……少しでも癒したいと……ずっと兄としていた。……いや、そうする事で……自分の後……ろめたさ……を誤魔化していた……かったのだろう。けれど、私は楽しかった……幸せだったと思ってしまっ……たのだ。お前……と話せるあの時間が……兄弟姉妹(きょうだい)、皆で……過ごせたあの日々が……」

「私はあの城に居たのは、暗夜王ガロンを討つ為。そして、白夜王国に戻りたかった。その為なら、どんな辛い事にも耐えようと……。けれど、あなたは何度も私に会いに来てくれた。たくさんの話をしてくれた。あなたの妹と弟を紹介してくれた。そして、血の繋がりのない私を兄弟姉妹(きょうだい)だと言ってくれた。あなたのおかげで、冷たく寂しかったあの城が、暖かく楽しい城に変わった。それは私にとって、とても愛しく離れがたい時間と日々だった。もう一つの居場所のように……けれど、自分はあなた達の父、ガロン王を討つ存在。そんな自分が、あなた達の兄弟姉妹(きょうだい)になれるはずがない。恨まれる覚悟はあった。」

「……ああ……そうだったのか……お前は、私たちを嫌って……いた訳ではないのだ……な。本当は、共に笑い合いたかった……のだな……。それを……聞けただ……けで良かった。」

「私は白夜王国に戻って……もう一度、彼らの顔を見たかった。母の顔を……白夜王国に居ると言う彼女に。それが済んだら、私はやらねばならない事をしようと……」

「……やらねば……ならない事だ……と?」

「私は……私は罪人なんですよ。生まれ故郷を破壊した……大切な人たちを踏みにじった……私は、私の選んでしまった選択を、もしもの世界にずっと願っていた。」

「……この世界に、もしも……の世界はな……い。あるのは、自分の選……んだ道を信じて突……き進むしかないのだ。今、お前が……居るこの世……界こそが、お前の……選択そのも……の。だか……らお前は、信じて進め……ばよいのだ。だが、もしも……違う選択、違う……未来があったの……なら、お前と共に……兄弟姉妹(きょうだい)として過……ごしたかった。この……戦争を終わらせ、兄弟姉妹(きょうだい)……一緒に……仲良く過ごしたか……った。」

 

暗夜王子マークスは涙を流す。

そして、血を吐く。

 

「げほっ……ごほっ……だが、私は暗……夜王国第……一王子だ。エリー……ゼや他の妹弟(きょうだい)たちのよ……うに、お前と歩み寄……る道を選ぶこ……とは許されな……い。この国の……父上の意に反す……る道を、選ぶことはで……きなかったんだ……だから私は、本……当にお前を殺そ……うとした。お前た……ちを殺して、暗夜王……国を勝利させ……るつもりだった……なのに……最後の一片だ……け残っていた『兄』とし……ての気持ちが……それを許……してはく……れなかった。」

「私も、できる事なら……あなたの『妹』になりたかった……リョウマ兄さんがそうしてくれたように……あなたは……やはり、私の知る『暗夜王国のマークス』だったと……」

「……カムイ……私は結局……この世界を……暗夜……王国を……平和には導けな……った。だが、お前な……らできるだろ……う。私にでき……なかったことが……きっと……だから頼……む、カムイ。父を……ガロンを……」

「ああ……きっと、ガロン王を『救って』みせる。必ず……」

「ありが……とう……カムイ……」

 

そう言って、彼は息を引き取った。

 

カムイは手をついて泣き続ける。

巻き込みたくなかった彼ら。

その彼らを巻き込み、失った。

こんな事を望んではいなかった。

恨まれる覚悟はあった。

殺される覚悟もしていた。

けれど、彼らを失う覚悟はしていなかった。

どうして、こうなってしまったのか……

 

そこにリョウマ達がやって来る。

状況を見れば、察しが付く。

アクアがカムイに寄り添い、抱きしめる。

 

カムイは涙を拭って、立ち上がる。

ジッと前を見て、

 

「行こう、皆。私は、今やれる事を全力でやる。私は、私の取る選択が正しいと信じて。」

 

カムイ達は奥へと向かう。

王の間は、もうすぐだ。

 

そして、王の間の扉の前に立つ。

カムイはその扉を開く。

その先には、玉座に座る暗夜王国の国王ガロン。

カムイは剣を抜き、前に出る。

 

「来たぞ、暗夜王ガロン!」

「ふははは!あははは!」

 

彼は冷たい笑みを浮かべて、笑い出す。

斧を取りだし、立ち上がる。

彼は一振りすると、床にはヒビが走る。

 

「歓迎してやろう、我が子よ!」

 

彼はカムイ達の前に立つと、

 

「ククク……久しいな、カムイ。やっと城から解放され、白夜に帰れたというのに……よもや、このような形でここに帰ってこようとはな。」

「……ああ、帰って来た。もう、無駄な血を流さぬように、また彼らが笑える日が来るように……私はお前の前に来た!暗夜王ガロン、お前を倒し、ガロン王を救うために!」

 

カムイは剣先を彼に向ける。

そして剣を振り下ろす。

だが、カムイの方が不利なのは事実。

暗夜王ガロンは強い。

それも、リョウマや暗夜王子マークスよりも。

暗夜王ガロンは冷たい笑みを浮かべ続ける。

アクアが歌を歌おうとした時、暗夜王ガロンはアクアを捕らえ、首筋に刃を向ける。

 

「動けば、この娘が死ぬぞ。」

 

カムイは動きを止める。

アクアはカムイを見て、

 

「構わないわ、カムイ!私ごとやって!」

「嫌だ!私はこれ以上、失いたくない!」

「カムイの言う通りだ。ガロン王、貴殿の要求を呑もう。だから、アクアを解放してくれ。」

 

リョウマが剣を捨てる。

暗夜王ガロンはリョウマを見て、

 

「ほう、懸命な判断だ。……わしの望みは、白夜王国の投降。暗夜王国による白夜の支配だ。それ以上は、認めぬ。」

 

そう言って、暗夜王ガロンの魔術がリョウマに直撃する。

 

「リョウマ兄さん!」

 

カムイはリョウマの前に立つ。

リョウマは身を起こし、

 

「危ないぞ、カムイ!お前まで殺される!」

「……ここで退けば、リョウマ兄さんは殺される。アクアさんも殺される。私はもう、失いたくない。もう、あんな想いは嫌だ。もう死なせたくないんだ……もう、大切な人たちが死ぬところを見たくないんだ!」

「ククク、はははは!ならどうすると言うのだ?おとなしく刀を捨て、投降するか?それとも、わしに刃向かって、仲間を見殺すか?」

「私は……私は力を望む。もう誰も、誰も死なせない力が!私が皆を守る力が!だから、応えてくれ……夜刀神‼」

 

カムイは暗夜王ガロンに向ける剣に叫ぶ。

後ろでリョウマは拳を握りしめる。

 

「ああ、カムイ……俺も同じだ。俺にも力があれば、お前たちを助けてやれるのに!」

 

すると、リョウマが捨てた雷神刀が光り出す。

その光は虹の賢者が風神弓にした時と同じ光。

その光が、夜刀神に吸い込まれる。

夜刀神は光を帯びて、カムイに力を与える。

カムイは暗夜王ガロンを見る。

 

「ふん、いまさら力を得た所で、もう遅い。お前は、わしに勝てぬ。」

「いいや、勝ってみせる。救ってみせる。私の力をすべて使ってでも!」

 

カムイの瞳が赤く光る。

竜の血が、彼女を覆う。

 

「はぁああ!」

 

カムイは剣を振るう。

その衝撃波は、彼をアクアから離れさせる。

 

「なにっ⁉小癪な!いいだろう、お前たち全員、この暗夜の闇に散らせてくれるわ‼」

 

カムイと暗夜王ガロンは刃を抑え合う。

どちらも一歩も引かぬ、動かぬ力。

 

「ふははは!後悔するがいい、この暗夜王ガロンに刃向かったことを!身の程をしれぇ!」

「後悔するのは、お前だ。闇に落ちた哀しき王よ!」

 

カムイは、さらに力を籠める。

竜石にヒビが入ろうと構わない。

ここで、暗夜王ガロンを打倒すために、力のすべてを注ぐ。

 

カムイの力が、暗夜王ガロンの力を押し始める。

カムイはさらに力を籠めていき、斧を薙ぎ払う。

そして、剣を彼に突き刺した。

それを引き抜き、彼を見る。

暗夜王ガロンは後ろに倒れ込む。

 

「これで終わりだ……お前の負けだ、暗夜王ガロン。この闘いは、白夜王国の勝利だ。」

 

だが、暗夜王ガロンは天井を見つめていた。

カムイも見上げると、そこには透魔王国の守護竜を祀った石板。

カムイは瞳を揺らし、ハッとして暗夜王ガロンを見る。

彼は闇に飲まれ、その姿は黒き竜と化す。

 

「……まさか、竜の姿になれたのか……」

「ククク、残念だったな、カムイよ。我は竜の血を濃く受け継ぎし者。我が血は、我が姿は竜と化す!さぁ、恐怖に巻かれて、死ぬがよい!」

 

暗夜王ガロンは竜の姿で爪を振り上げる。

カムイは剣で受け止める。

だが、剣にヒビが入り始める。

そしてそれは砕け、カムイは吹き飛ばされた。

 

「カムイ‼」

「くっ……」

 

リョウマが剣を構えて、カムイの前に立つ。

カムイは立ち上がり、

 

「夜刀神が……砕けた……⁉」

「ふははは!何と脆い刀よ!それが、お前の想いの強さか、証か⁉これが、夜刀神の使い手とは笑わせる!」

「くっ‼」

 

カムイは歯を食いしばる。

だが、リョウマの隣にタクミも立ち、矢を向ける。

 

「大丈夫だ、カムイ!夜刀神がなくとも、俺の雷神刀がある!」

「僕の風神弓もある!」

「ふん!そんな玩具で、わしを倒せれると思うな‼」

 

暗夜王ガロンは再び爪を振り上げる。

二人はそれに吹き飛ばされる。

 

「リョウマ兄さん!タクミ!」

「終わりだ、カムイ。お前の相手も、もう終わりだ。ここで全員、息の根を止めてやろう!」

 

彼はリョウマとタクミだけでなく、この場の全員に攻撃を繰り広げる。

カムイは彼らの前に走り、

 

「やめろっ!ガロン王‼」

 

カムイは竜の姿となって、彼らの攻撃から守った。

すぐに人の姿となって、傷を抑える。

右腕や左足から血が流れ出る。

それでも、暗夜王ガロンを見据えて立つ。

 

「いやぁああ!カムイ姉様!」

「カムイ!」

 

サクラやリョウマ達の悲鳴が響く。

カムイは手を広げる。

 

「怪我がなくて良かった……」

「バカが!俺たちを庇って何という無茶を!そんな事をしたら、お前は‼」

「私は……大丈夫、絶対に護って……見せる。私はまだ……闘える……」

 

カムイは膝を着く。

 

「カムイ‼」

 

リョウマの声が大きく響いた。

そして倒れ込んだ。

カムイは目を開く。

辺りは真っ暗だった。

 

『自分は死んだのか……彼らを守れず、約束も守れずに……透魔王国も救えずに……』

 

涙がこみ上げる。

それと同時に、眠気が自分を襲う。

瞳を閉じようとした時、

 

「朝ですよ、カムイ様。」

 

それはもう聞くことのできないフローラの声。

カムイは目を開き、横を見る。

周りは暗闇から、暗夜王国で過ごしたあの城の部屋。

そこにはフローラとリリスが居た。

カムイは瞳を揺らす。

 

「……フローラ……リリス……私は……」

「ふふ、カムイ様。本日は、朝の訓練の日ですね。乗馬の為の馬の準備もできておりますよ?」

 

リリスが微笑みながら言う。

 

カムイは戻ってしまったのか。

そう思うった。

けど、何かが違う。

違和感を感じる。

眠気が自分を襲う。

 

フローラが優しくも厳しい表情で言う。

 

「いいのですか、カムイ様。ここで眠っても……いえ、それがあなたの選択なら、私は止めません。邪魔をするつもりもありません。」

「……フローラ……?」

 

ああ、そうだ。

いつも朝を起こしに来るのはフローラとフェリシア。

自分は朝が苦手だった。

だから二人は、そんな私に冷気を当てて起こす。

その後、支度をしているとジョーカーがやって来る。

時には、ギュンターもやって来る。

そして、庭に出るとリリスが笑顔で挨拶をしてくれるんだ……

なのに、今は違う。

いつもの朝とは違う。

 

「……ここは……私は……」

「お姉ちゃん!まだ寝てたの?」

 

反対側から、聞こえるもう一つの懐かしい声。

反対側を見ると、暗夜王女エリーゼと暗夜王子マークスが立っていた。

 

「全く、相変わらずだな。あまり、家臣に迷惑をかけすぎるなよ。」

「あなた程じゃない……」

「ふ、確かにそうだな。それで、お前はどうするのだ?」

「……私は……戻らなければならない。私は約束したのだから……」

「そうか……なら、強く念じるんだ。そうすれば、お前は戻れる。兄弟姉妹(きょうだい)の、仲間の居る元へ。」

 

彼がそう言うと、空から声が響く。

 

「ぐははは!カムイは死んだ!もう諦めろ、お前たちの負けだ‼」

「諦めはしない!カムイは必ず戻ってくる!」

「そうよ、あの子はあなたなんかに負けはしない。あの子は立ち向かう勇気があるもの!」

 

暗夜王ガロンの笑う声、そして自分を信じて闘うリョウマやアクアの声。

他の皆もまだ闘っていた。

自分を待つ声、自分を信じて闘う声。

 

「……まさか……まだ私を信じて闘っているのか……」

「そうだ。みんな、闘っている。お前が帰って来るのを、立ち上がるのを信じて闘っているのだ。」

 

暗夜王子マークスは力強い瞳でカムイを見つめる。

まだ聞こえる。

自分を信じる声が、信じて闘う声が……

 

カムイは起き上がる。

涙を拭い、声の聞こえる天井を見上げる。

 

「声を聴かせて、カムイ。もう一度、あなたの声を。」

「アクア……姉様……」

 

カムイは母アクアのペンダントを握りしめる。

 

「行くのですね、カムイ様。」

 

フローラがカムイの背を見つめる。

カムイは瞳を閉じ、

 

「ああ、行かなくてはいけない。ここで立ち止まる訳にはいかない。私にはまだ、やらねばならない事がある。あなた達を死なせてしまったのは、私の責任だ。だから、私を恨んでくれて構わない。」

「いいえ、私たちは恨んでなどいません。私たちは信じているのですよ、カムイ様。あなたには、立ち向かう勇気がある。起き上がれる強さがある。どんなに冷たく辛い現実でも、突き進む心と意志が。私は信じています。あなたが平和な世界を作ってくださることを。だからここで、見守っています。」

「カムイ様、私はいつでもカムイ様を想っています。忘れません、あなたと過ごした日々を。温かさを、優しさも。だから寂しい時は、私を思い出してください。私は、いつでもあなたの心の中にいます。」

「いってらっしゃい、カムイお姉ちゃん。本当の兄弟姉妹(きょうだい)じゃなかったけど、私はお姉ちゃんの事が大好きで、本当のお姉ちゃんだと思ってる。だから、お姉ちゃんの無事を祈ってる。お姉ちゃんが平和な世界を……みんなで生きてくれるのを。レオンお兄ちゃんとカミラお姉ちゃんをよろしくね。喧嘩しちゃダメだからね。」

「カムイ、前を信じて進め。未来を信じて進むんだ。お前ならきっとできる。さぁ、行ってこい。愛する私の妹、カムイよ……」

 

カムイは涙が込み上がる。

それを飲み込み、振り返る。

 

「私も大好きだった。だから、行ってきます!あなた達の想いを忘れません。絶対に、世界を平和にしてみせます!あなた達が、彼らが信じてくれる自分を、あなた達や彼らに貰った自分を、私は皆を信じて進み続ける!」

 

カムイは叫ぶ。

 

「だからお願いだ、夜刀神!もう一度、もう一度、私に力を貸してくれ!彼らを救う力を、彼らの信じる気持ちに応えられる力を!」

 

そして、カムイの手に光がこもる。

それは刀の形となりて、夜刀神の姿へと変わる。

カムイはそれを掲げる。

強く念じる。

自分を信じて闘う彼らの元へ。

 

暗夜王ガロンは足元にある夜刀神が光るのを見る。

 

「なんだ、この光は……!」

「それが……信じる力だ、暗夜王ガロン!」

 

カムイは立ち上がる。

自分の傷は、サクラが癒してくれた。

彼らに微笑み、

 

「ありがとう、信じてくれて。ありがとう、待っていてくれて。」

「カムイ!」

 

リョウマ達から笑顔がこぼれる。

カムイは手を伸ばす。

暗夜王ガロンに砕かれた刀は形を取り戻し、再びカムイの手に戻る。

それを構え、

 

「私は、信じてくれた者の為に闘う。ここに、もう一度戻してくれた大切なモノたちの為に闘う。暗夜王ガロン、今のお前にはないこの力で、私はお前を討つ!みんなの想いと共に‼」

「ふん!死に損ないが!いまさら結果は結果は変わらぬ。再び粉々にして、殺してくれるは!」

 

暗夜王ガロンは爪を突き立てる。

カムイはそれを受け止め、弾く。

 

「なに⁉」

「折れたりはしないさ。この刀はもう、私一人の想いの力じゃない!みんなの想いが一緒だ!」

「小癪な‼」

「私は選んだ道を信じして進む。それが、彼らの想いに応える私の意志だ!その為なら、何度だって立ち向かう!」

 

二人は互いに弾き、構えて向き直る。

 

「おのれぇぇ‼ならば、絶望するまで何度も、何度もやるのみだ!刀が折れるのが先か、お前の心が折れるのが先か、見ものだ!カムイ‼」

「さぁ、行くぞ!ガロン王‼私は、何度だってやり遂げる……その為に、私は進むんだ!約束の為に!想いの為に!」

 

カムイは剣を振るう。

だが、暗夜王ガロンの防御は強い。

そして、攻撃も強い。

リョウマ達のサポートがあるとはいえ、竜の力は強い。

そこに、歌声が響く。

 

「ユラリ~♪ユルレリ~♪」

「アクアさん⁉」

 

カムイはアクアを見る。

彼女は胸に手を当て、

 

「大丈夫よ、カムイ。だから歌わせて……いいえ、ダメと言われても私は歌うわ。だって、これは私の役目だもの。それに私も、想いに、約束の為に闘わせて。」

「……わかりました。アクアさん、居なくならないでくださいね……」

「ええ。約束を違える気はないわ。あなたが信じてくれるのなら……私だって何度だって戦う。そして誓うわ。私は絶対に消えないと。」

「はい、アクアさん……だから、お願いします。力を貸してください。」

 

カムイはジッとアクアを見つめた。

その瞳は力強く、迷いはない。

アクアは小さく微笑み、

 

「……初めてね。」

「え?」

「あなたが私に、歌ってって言うの……初めてね。少しだけ嬉しいわ。」

「……本当は歌って欲しくない。呪いで苦しむあなたを見たくないから。けれど、あなたは本気だ。なら、私もそれに応えたい……そう思ったからです。」

「そう……カムイ、共に戦い抜きましょう。」

「はい!」

 

カムイは暗夜王ガロンに向き直る。

リョウマ達が足止めしてくれていた。

自分も再びその中に加わる。

 

「ユラリ~♪ユルレリ~♪」

 

アクアの歌声も、再び響き渡る。

暗夜王ガロンは苦しみ出しながら、

 

「ぐっ……!あの小娘、歌の力を……⁉これでは、思うように動けぬ。だが、このような悪あがきをしたところで、お前たちがわしに敵うはずがない……ハイドラ神よ……もっとわしに力を与えるのだ‼」

 

それを聞いたカムイは眉を寄せる。

そして歯を食いしばり、剣を振るう。

歌と剣、竜の咆哮……色々な想いと戦闘音が鳴り響く。

それぞれの想いを抱き、振るう闘い。

どれくらい闘っただろうか。

リョウマ達の切り開いた。

その場を突っ走り、カムイの剣が暗夜王ガロンの固い竜の鱗を打ち砕いた。

そして、夜刀神の光が貫いた。

暗夜王ガロンは倒れ込む。

 

「バ、バカな……‼わしの、体が!わしの……野望……が!認めん、認めんぞ……!う、ぐうっ……ぎゃああああ‼」

 

暗夜王ガロンは紫色の炎を上げ、その身は人へと変わる。

彼は身を起こし、

 

「……カムイ……やはりもっと早く、殺しておくべきだったな……あの日、お前を暗夜へと連れ去った、あの時に……」

「……なぜ、そうしなかったのだ。暗夜王ガロン。」

「知れたこと……策のためだ。お前を利用し、女王ミコトを殺す策……だが、今は安らいだ心地だ。こんな気持ちになるのはいつ以来か……もしかしたら……わしは望んでいたのかもしれんな。この結末を……ずっと。身が滅び、意志を無くした……あの時より……」

 

カムイは暗夜王ガロンの前に膝を着き、

 

「暗夜王ガロン……いや、ガロン王。あなたは昔と変わらぬ良き王であった。その意志は、想いはあんたの子に受け続けられていた。」

「わしの……子ら……」

「ああ。マークス王子は迷わず立ち向かう覚悟と優しさ。カミラ王女は慈しむ深い愛情。レオン王子は強い正義感。エリーゼ王女は諦めない気持ちと暗闇を照らす光り。どれも、若い頃のあなたそのものだと私は思う。」

 

そしてカムイは彼に頭を下げ、彼だけに聞こえる声で、

 

「もう言えぬ我が最初の故郷。そして我が父の過ち、我が父の闇に巻き込んでしまったこと……その娘として深くお詫びいたします、ガロン王。」

「……ふ。そうか……そうだったのだな……いや、礼を言うぞ……竜の子よ。」

 

そして暗夜王ガロンは泡となって消えた。

カムイは拳を握りしめ、それを解いて立ち上がる。

 

リョウマ達はすでに、暗夜王ガロンの死を国に、暗夜王子レオンと共に言う。

暗夜王女カミラは妹と兄の亡骸を見て、悲しみに暮れる。

それは彼らの帰りを待っていた家臣たちも……

 

カムイが振り返ると、アクアが立っていた。

彼女はカムイから距離を取っていた。

 

「……終わったのね。これで。これで……私たち……平和な時代を……」

 

だが、アクアの表情はとても苦しそうだ。

額に大量の汗も出ている。

何より、杖を支えにして立っているのがやっとのようだ。

 

「……アクアさん?」

 

カムイがそう言うと、アクアは倒れ込んだ。

ハッとして、カムイは駆け寄る。

 

「アクアさん!アクアさん、しっかり‼」

 

そして気付く。

彼女の体が透け初めているのを。

カムイは彼女を抱き上げ、

 

「ア、アクアさん……体が……消えかかって……まさか……」

「ごめんなさい、カムイ……」

 

アクアは悲しそうな瞳でカムイを見る。

そしてカムイの頬に手を当て、

 

「消えたりしないって……言ったのに。あの約束……守れそうにないわ……」

「そんな!嫌です‼死なないで、消えないでください!私も、あなたに約束したんです!あなたの夢を一緒に叶えると!あなたを絶対に、消えさせないと!守ると‼なのに……ああ、そうだ!私が!私のせいで‼」

「いいえ、カムイ……あなたは何も悪くないわ。あの時あなたが……私を信じてくれたこと……とっても嬉しかったんだもの。ねぇ、カムイ。最後に一つだけ……お願いを聞いてくれる?」

「……え?」

「これからは……どうか幸せでいて。」

 

彼女はとびっきりの笑顔でそう言った。

カムイは瞳を揺らす。

アクアは続ける。

 

「戦争は終わったわ。これから、みんなが幸せに暮らせる……平和な世界が訪れる……それこそ、“私たち”が望んでいた世界……この命をかけて……成し遂げた世界よ。だから……だから、ね。カムイ。」

 

その体はすでに泡となりつつあった。

アクアはジッとカムイを見る。

瞳を揺らし、涙を溜める。

 

「あなたはどうか……笑顔でいて……私の分まで……幸せになって……私の大切な――」

 

そして体は泡となって、空に弾けていった。

カムイは涙を溜め、それに手を伸ばす。

 

「アクアさん……アクア姉様――‼」

 

カムイは涙を流す。

そして叫んだ。

 

「なんでだ!なんで……せっかく会えたのに!なのに‼」

 

カムイは床で俯き、拳を握りしめる。

 

「お母さん……」

 

小さく呟き、ペンダントを握りしめた。

だが、顔を上げる。

 

「……わかったよ、アクアさん。あなたの願いは……私が……いいえ、みんなで叶えてみせる。あなたが……あなたが見るはずだった世界を……あなたが幸せだと思える世界を……。あなたや私が犠牲にしてしまった彼らに誇れるように……必ずこの世界を……いつかまた、あなたの……歌が聞くために……」

 

カムイは立ち上がり、涙を拭う。

カムイはリョウマ達の元に行く。

これからの事を話しあうために。

誰もが願う平和の為に。

 

 

――白夜王国。

サクラが舞い散る普及の進んだ城下町。

白夜城からもそれが見える。

カムイは視線を前に戻す。

白夜王国、白夜城(シラサギ)内。

王の間、王の玉座の前でリョウマが膝を着いていた。

白夜軍師ユキムラが彼の前で、

 

「では、これより――前白夜王国女王ミコト様の後を継ぎ、白夜王国第一王子リョウマ様が、新たなる白夜王としてこの国を治められることとなります。即位の証として……この冠をお受け取りください。」

「……ああ、確かに。新しき王として立派に任を果たし、この国を豊かにすることを……ここに誓おう。」

 

冠を受け、立ち上がったリョウマは振り返って言う。

それを見守っていた者達は盛大な拍手を送る。

カムイはそこに、かつてのスメラギ王を、初めて会った白夜王リョウマを見る。

そして、彼の周りにはタクミ達がいた。

彼らは互いに讃え合っていた。

喜びあっていた。

そこには、暗夜王女カミラと暗夜王子レオンもいた。

そして王となったリョウマが城下に集まっていた民の元へ行く。

彼は叫ぶ。

 

「皆、今日は俺のために集まってくれて、ありがとう。先の戦争では前王女ミコトを失い、民たちにも犠牲を出し、本当に辛い思いをさせてしまった……。しかし、あの痛ましい悲劇は去った。ここにいる英雄たちが力を合わせて、平和な世界を取り戻したんだ。暗夜王国とも和解し、手を取り合って生きることを約束した。ここにいる者の中にはまだ……そのことが受け入れられない者もいるかもしれない。しかし、光あれば闇があるように、俺たち両国は一つなんだ。俺たちには、お互いに無いものがある。そして、それを分け合うことができる。陽の光を分け合い、実りを分け合い、その喜びも苦しみも……全てを分かち合えるような関係を、暗夜王国との間に築いていきたい。ここにいる皆となら、それができると思っている。……生きていこう。皆で。前を見て。俺たちの選んだ道を信じて……平和な未来へと歩んでいこう。新しい時代を、ここにいる皆で創っていこう!」

 

その言葉を聞き、民たちは拍手を送る。

彼らは掴んだ。

平和な世界を築く第一歩を。

白夜王国と暗夜王国が手を取り合える世界を。

 

カムイはペンダントを取り出す。

白夜王国は、これで大丈夫だろう。

暗夜王国も見届けた後、自分は透魔王国に向かおう。

そう思っていた。

カムイは涙を溜める。

 

リョウマの戴冠式は終わった。

カムイは席を外そうとした時、

 

「カムイ。」

 

リョウマに呼び止められ、立ち止まる。

カムイは振り返る。

 

「……リョウマ兄さん。」

「カムイ、見ていてくれたか?」

「はい。とても凛々しかったです。まるで、スメラギ父上様のようでした。」

「……そうか。それは光栄だ。」

 

リョウマはカムイの頭を撫で、嬉しそうな安心したような顔で、

 

「これでやっと……母上の後を継げる。亡き父の想いにも、応えられる。カムイ、まだまだ頼りない王だが、よろしく頼む。」

「ええ、リョウマ王。ですが、あなたは頼りなくなんかないですよ。とても立派な、王様です。」

「……さて、カムイ。そろそろ教えてくれないか。お前はなにがしたいんだ。なにをしようとしているんだ?」

「……すまない、リョウマ兄さん。それは王の命でも、兄の命でも応えらない(答えられない)。」

 

カムイは苦笑する。

カムイはジッとリョウマを見て、

 

「これが終わったら、今度は暗夜王国の戴冠式があります。私は、彼らと話してきますね。」

「……ああ。」

 

カムイは自分の頭を撫でるリョウマの手を取り、

 

「リョウマ兄さん、ありがとうございました。私や母を受け入れたこと……アクアさんを受け入れてくれたこと……本当にありがとうございました。」

 

カムイは涙を流し、抱き付いた。

リョウマはカムイを抱きしめ、

 

「お前やアクアが、俺の妹になってくれて嬉しかった。ミコト母上が、俺のもう一人の母になってくれたことは感謝している。父の代役を引き受け、女王になってくれた。たくさんの愛情を、俺も、民も受けた。感謝しているのはこっちの方だ。さ、カムイ。レオン王子達の所に行くのだろう。」

「はい。」

 

カムイは涙を拭って歩いて行った。

カムイは二人と話す。

白夜王国の王女と、暗夜王国の王女王子として。

彼らの兄妹(きょうだい)を奪ってしまった自分。

けれど、彼らはそれでも変わらず接してくれた。

それでも、彼らの心の中には未だに残っている。

カムイが、白夜王国が悪くないと解っていても、恨んでしまう心。

自分はそれを受け止める。

それは当然の事なのだから。

 

 

その数日後、暗夜王国で戴冠式が行われた。

王位をついだのは暗夜王子レオン。

闇の空に輝く美しい月を前に、彼の王としての姿を見る。

これでやっと本当に白夜王国も、暗夜王国も平和になる。

カムイは両国の祭りを見て、そう思う。

そう思ったのだ。

 

白夜王国も、暗夜王国も安定してきた頃に、事件は起きた。

この日は、両国の会談の日。

そして、カムイが透魔王国に向かおうとしていた日だった。

この日、世界は崩壊を始めた。

白夜王リョウマと暗夜王レオンの前で、きょうだいを殺されたのだ。

黒い騎士の手によって。

カムイは剣を振るう。

リョウマも、暗夜王レオンも重傷だ。

カムイは眉を寄せて、怒りを露わにする。

そして、彼は言うのだ。

あの時と同じ、冷たい笑みを浮かべて、

 

「我が王は望む。世界の破滅を……」

「アベル‼」

「あなたは、何を望みますか……カムイ様。」

 

カムイは剣を弾かれ、斬られた。

そして、リョウマと暗夜王レオンの前に蹴られた。

二人は傷を抑えて、カムイを見る。

カムイは黒騎士アベルを睨み、

 

「私は……私は破滅を防ぐ!何があっても!」

 

カムイは傷を抑えて立ち上がる。

涙を流し、

 

「託された願いを……交わした約束を……」

 

足元に魔法陣が浮かびあがる。

 

「……果たし、守るために‼私が犠牲した人の想いを贄にして‼」

 

カムイは激しい光に目を瞑る。

手に入れた平和が崩壊する。

あともう少し、あともう少し自分が早くあの国に行っていれば……

いや、自分が白夜ではなく暗夜を選んでいたら……結果は変わっていたのだろうか。

それとも、変わらなかったのだろうか……

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