ファイアーエムブレムifでやってみた   作:609

19 / 26
第十九話 暗夜王国

黒き王は想う。

愛しき妻と子らの幸せ。

無論、国や民への幸せも願っている。

だが、それは王としてだ。

夫として、父親として、日々を過ごしたかった。

それこそ、我が友であり、同じ王としていた白き王のように。

だが、自分は彼の国とは違い、貧国だった。

暗闇に立つ我が国はあまりにも、生き物が育つには厳しい大地。

けれど、国民達は負けずに暮らしていた。

それは自分にとっては励みだった。

 

少年時代、自分がまだ王子だった頃のことだ。

今はもう、幻の国とされたあの国。

あそこで自分は、同じく王子だった頃の白き王と語り合った。

『ともに良き王国を作ろう。民のために、守りたいモノのために』。

だが、それはもはや無理な話となってしまった。

 

自分の妻が死に、悲しみに暮れていた頃だ。

子供達が王位争いを始めてしまった。

他の妾達も次の王妃の座を奪い合う争いを始めてしまった。

自分は哀しい。

とても哀しい。

だから自分は、次期王は第一王子であるマークスと決めた。

妻はもう取らないそう決めた。

けれど、自分は出会ってしまった。

湖で悲しみを癒していた時に。

あの美しい声を持つ女性に……

涙を流しながら、子供と抱き合って泣いていた。

その姿に自分は心を打たれた。

聞けば、国を追われたと。

自分は彼女を妻として、彼女の子を自分の子として城に向かい入れた。

それは、後ろ盾のない彼女を守るためだった。

子供が居れば、彼女は非難されることはない。

そう思ったのだ。

けれど、このせいで彼らには辛い思いをさせてしまった。

 

ある日、何かを決意した彼女は自分と出会った湖へとやって来た。

彼女は子供を抱き寄せ、涙を流す。

そして自分を見ると、自国の事を話し始めた。

それは少年時代に数回言ったことのある幻の国の話。

彼女は全てを話し終えると、姿が透明へと変わっていく。

そして深く頭を下げて、感謝と詫びを自分に言ったのだ。

彼女の子は泣いていた。

深く深く泣いてた。

自分も哀しい。

けれど、彼女の強い意志は尊敬した。

彼女は泡となって消えていった。

 

この日からだ。

不幸が立て続けに起きたのは。

王位争いが終わった子らが、再び王位を奪い合う。

多くの子らが死んだ。

妾たちも、病気や自殺、暗殺と次々に死んで逝った。

国にも、災厄が降り注ぐ。

民の苦しみが耳に届く。

哀しい、とても悲しい。

救いの手立てが見つからぬ自分がとても悔しい。

残り少ない、この病にかかった体の自分が苛立たしい。

何かできないか、何とかできないか。

ずっと想い病んでいた。

そんな時だった。

白き王からの手紙を見たのは。

彼はある巫女に会ったと言う。

そして語り合った国の話を持ち出してきた。

その国の名だけを伏せて。

きっとこの巫女も、あの国の住人なのだろうと思う。

自分は白き王に会って、話をしようと思った。

会談場所として、シュヴァリエ公国をしていた。

白き王はそれに応じてくれた。

 

ある日の夜の事だ。

自分は、玉座の天井に飾ってある幻の国の神を祀る石板を見た。

その瞳が光り、自分を見下ろす。

酷く恐ろしかった。

この日からの自分はおかしくなった。

大切な子らの、妾達の死を悲しまなくなってきた。

否、心が冷めていた。

自分は民が、国が、堕ちていくのを冷めた目で見る。

そんな自分が酷く嫌だった。

夜は悪夢にうなされた。

心が疲れ果てていく。

これが死期と言うものだろうか、と自分は想った。

けれど違った。

これは闇だ。

己の心にある闇だと気付いた時には遅かった。

自分は闇に負けていた。

自分の体はもう、己の意志では動きはしない。

この心も時期に闇の中に消えていくだろう。

 

白き王は王子と王女を連れてシュヴァリエ公国に来た。

そう、我が神が今日白き王と共に来る王女を捕らえるように言った。

白き王を裏切り、彼の命を奪って手に入れた白き王の娘。

自分は闇の中から彼の娘を見た。

強い、とても強い瞳をした子供だった。

自分を悲しそうに、恨むように見ている。

赤い瞳が、ジッと見る。

この闇の中にも届く、希望を灯した瞳。

ああ、もっと早くにこの瞳を見たかった。

そうすれば自分は……

 

 

――カムイは目を覚ます。

そこは暗夜王国に居た頃の自分の部屋の天井。

カムイは左に気配を感じた。

そこに視線を向けると、暗夜王子マークスが自分の手を握って眠っていた。

カムイは瞳を揺らす。

その彼の後ろにある鏡には、北の城砦に押し込められた頃の少し幼い自分の顔。

カムイは想う。

何故、ここなのか。

何故、よりにもよってここなのか、と自問自答していた。

と、暗夜王子マークスは目を覚ます。

 

「ん?起きたか、カムイ。」

「…………」

 

カムイは彼の握っている手を見つめた。

暗夜王子マークスはその手を強く握りしめ、

 

「調子はどうだ?さっきまで、熱でうなされていたんだ。」

「……大丈夫です。」

「そうか。それならいいのだ。っと、すまないな。痛かったか?」

 

暗夜王子マークスは強く握っていた手を離す。

カムイは首を振る。

そして彼の離した手を握り、

 

「ずっと傍に居てくれたんですね……マークス兄さん。」

「カムイ……お前、今……」

 

カムイはそのまま、眠ってしまった。

意識を失う前、マークスが泣いているのが解った。

 

それから、カムイは彼らを兄弟姉妹(きょうだい)と呼ぶようになった。

それは、自分が逃げていた道を受け入れる為、血の繋がりはなくとも兄弟姉妹(きょうだい)だと言ってくれた彼らに応える為のケジメだと。

いや、そう思う事で自分がしてしまった事をやり直せるのではないかと。

白夜の兄弟姉妹(きょうだい)と同じことなのだ。

自分の居場所を、彼らと共にあの時とは違う選択で、あの平和な世界を……

 

それから数年が経ち、カムイは暗夜王ガロンの前に立った。

カムイは彼を見て、驚いた。

酷くなっている。

前の時には、少しだけ感じたガロン王の気配もない。

自分がこうして戻るたびに、なにかはズレていく。

まるで歯車がズレるように、少しずつ、少しずつその溝は大きくなる。

カムイはあの魔剣を手にする。

そして、白夜進軍を言われた。

あの時と同じように、自分はあのメンバーを連れて行く。

カムイは無限渓谷で、

 

「すみません、みなさん。少しここで待っていてください。」

「カムイ様?」

「すぐに戻ります。」

 

カムイは彼らの側を離れ、魔剣ガングレリを腰から抜く。

そして、それを谷底へと捨てる。

馬に付けていた予備の剣を腰に付けて、彼らの元に戻る。

白夜王国に向かって、再び進軍する。

だが、今回は少し違った。

途中、白夜兵と鉢合わせになり、戦闘となった。

投降を考えたが、後ろから暗夜兵ガンズ率いる兵が突っ込んできた。

彼らは、自分達を密偵と称し、討ちに来たのだ。

カムイは剣を抜き、双方を相手にする。

仲間とはぐれ、カムイはリリスと共に谷を越えようとしていた。

だが、暗夜兵ガンズ率いる兵達に囲まれていた。

そこにギュンターが馬に乗って駆けて来た。

暗夜兵達を薙ぎ払い、カムイを助けた。

だが、暗夜兵ガンズの攻撃からカムイを庇って谷底に落ちていった。

またしても、伸ばす手は届かない。

そして、カムイとリリスも谷底に落とされる。

リリスが小竜の姿となって、カムイを引き上げた。

だが、カムイとリリスを雷が襲う。

カムイはリリスを抱えて、宙を飛ぶ。

いや、吹き飛ぶ。

二人は森へと落ちていった。

 

カムイが目を覚ますと、傍には白夜の兄弟姉妹(きょうだい)と母ミコトがいた。

起き上がると、抱き付かれた。

そして、あの湖で再びアクアと出会ったのだ。

涙を堪えて、彼女と話をする。

 

カムイは城の窓から、遠くを見ていた。

そして、この白夜王国が前と違うのは、カムイを庇って白夜王スメラギが死んだ。

それも、リョウマは目の前で父を失い、カムイ()を奪われた。

 

『前の時は、スメラギ王はリョウマ兄さんを庇って亡くなった。けれど、今回は私を庇って死んだと。暗夜王ガロンがあそこに来る事を知っていて、なぜ過去の私はしなかった?いや、もしかしたらこの世界の過去の私は、知らなかった。つまり、あの時の私の状態だったとしたら……私がこうやって過去に来るたびに、自分すらも殺しているのか。そして、ここにもズレが生じた。それが、スメラギ王の死に方だ。リョウマ兄さんの話によれば、噴水の水が襲い掛かって来たと言っていた。その時に、リョウマ兄さんは自分を庇って怪我をした。そこに暗夜王ガロンが兵を連れて襲って来た。『カムイ』の誘拐が目的だと、リョウマ兄さんに言っていたそうだが……』

 

カムイは眉を寄せる。

 

『……スメラギ父上様、私は護ってみせます。白夜を……あなたの息子が築いてくれたあの平和な世界を。だが、どうやって暗夜王国に行こうか。密偵と評して、討伐に来たんだんだ。今戻ったところで、警戒されているのは事実。だが、暗夜王を討たねば、平和は来ない。それに……また白夜と暗夜が争いを始めるのは嫌だな……』

 

と、カムイの元に、母ミコトがやって来た。

彼女は嬉しそうにカムイを見ると、

 

「カムイ、どうかしたんですか?怖い顔をしてましたが?」

「……そんな風でしたか?すみません。」

「謝る必要はありませよ。それより、カムイ。外に出ませんか?」

「外……ですか?」

「ええ。」

 

母ミコトは微笑んで、手を差し伸べる。

カムイはその手を取り、リリスを抱えて外に出た。

桜並木を歩きながら、進んで行く。

だが、人が多い。

そして、その近くにはリョウマ達も居る。

そして母ミコトを見る。

 

「ミコトお母様、これは一体……」

「ふふ、あなたを驚かせようと思って。帰って来たあなたの歓迎会です。」

「……‼待って下さい、ミコトお母様‼私は――」

 

カムイは見た。

広場の群衆の中に、フードを被ったアイツが居た。

その手に持っているのは、魔剣ガングレリ。

そのフードの者は、カムイに向かって剣を振り下ろす。

カムイが反応するよりも早く、ミコトがカムイを覆いかぶさるように守る。

そして魔剣ガングレリは爆発する。

さらにカムイの感情に反応した竜の力の波動が、白夜の民を国を破壊した。

カムイは辺りを見て、顔を覆って涙を流した。

そして、またこの期に乗じて暗夜軍は攻めて来た。

自分の手には、再び『夜刀神』が握られている。

それを握りしめる。

もっと早くに、この剣を手にしていればと……

 

マークスはカムイを見て言う。

 

「カムイ、無事のようだな。良かった。さぁ、戻ってこい。」

「……私には密偵の疑いがあったはずです。だから、暗夜軍は私の部隊を襲った。」

「それは間違いだったのだ。父上も、お前を待っている。」

 

そう言って、馬の上から手を伸ばす。

カムイは手を伸ばすマークスを見て、

 

「その間違いで、私はお母様を失ったのですか!故郷を破壊したのですか‼︎マークス兄さん!」

「カムイ……」

 

マークスは差し出していた手を下ろした。

瞬時に剣を抜き、襲い掛かってきたリョウマの剣を防ぐ。

 

「俺は白夜王国第一王子、リョウマ‼俺の妹から離れろ‼」

「私は暗夜王国第一王子、マークス!カムイは我々の兄弟姉妹(きょうだい)だ‼」

「なにを!我が妹を攫っておいて、兄弟姉妹(きょうだい)と名乗るのか!」

 

二人は刃を交え続ける。

カムイは奥の方で、泣きそうな顔でこちらを見ているエリーゼを見た。

このままでは、また白夜と暗夜は戦争になる。

そしてカムイは思いいたる。

白夜王国の玉座は、透魔王国からの贈り物。

あれには、透魔王国の加護がある。

それを使えば、暗夜王ガロンが偽物である事を教えられるかもしれないと。

 

カムイは剣を交えているリョウマとマークスの間に割って入る。

マークスを背に、カムイは両手を広げる。

 

「カムイ!そこを退くんだ!」

「いいえ、リョウマ兄さん。退きません。お願いです、兄さん……兵を互いに退いてください。白夜と暗夜が互いに争う必要はないんです。」

 

カムイは手を降ろし、

 

「それに、私には暗夜王国でやり残した事があります。だから私は、このまま暗夜王国へと……帰ります。」

 

カムイはジッとリョウマを見つめる。

きっと彼らは自分を恨むかもしれない。

憎まれる覚悟を持って、カムイは彼らに立ちはだかるのだ。

案の定、リョウマは眉を寄せ、

 

「カムイ⁉まさか……カムイ、お前だって見たはずだ!暗夜王国のやり方を、卑劣さを!何より、お前の母親を殺した憎き仇だぞ‼」

「……確かに、ミコトお母様の仇です。けれど、それは暗夜王国の……暗夜王ガロンを名乗っている者です。私は、暗夜の兄弟姉妹(きょうだい)の為に、暗夜王国に戻るんです。それに、私もまた……彼らにとっても仇のような存在なんですよ、兄さん……もう、みんな覚えていないかもしれないけれど……」

 

カムイは泣きそうな瞳で言った。

けれど力強い瞳で、

 

「それでも、彼らは同じなんです。私を受け入れてくれた、血の繋がりなど関係なしに兄弟姉妹(きょうだい)と呼んでくれた……だからこそ、私は救いたい……今の暗夜を……」

「なんてことを言うんだ……‼お前は白夜王国の王女なんだぞ!」

「……はい、けれど……違う。それは、リョウマ兄さんが一番わかっているはずです!」

「カムイ!お前は、暗夜王国に騙されているんだ‼」

「私はその嘘を背負って、暗夜王国を変える‼この『夜刀神』にかけて!」

 

カムイは叫ぶ。

リョウマは剣を強く握りしめる。

そして、その剣をカムイに振り下ろす。

マークスがカムイをすくい上げ、

 

「よくぞ、言ってくれた……カムイ。確かに、私たちはお前にとっては恨まれる事をしただろ。だが、お前が暗夜王国に来たその日から、私にとってはもう一人の妹だった。だから、我らの手を取ってくれたこと、嬉しく思う。」

 

マークスはカムイを馬に乗せて言う。

それを聞いたリョウマは、

 

「……カムイ、やはりお前は騙されている。暗夜王ガロンは、お前を殺そうとした。そして、お前を誑かそうとしているのだ。俺の妹を、返せ‼」

「何を言う!カムイは自らの意志を持って、我らの手を取ったのだ!」

「くそっ、お前たちのやり方は知っているんだ!いつもいつも、卑怯な手を使い白夜の民を苦しめる。そんな所に、カムイを渡せるか!カムイは、白夜の人間‼カムイがつくべきはこちらなのだ!それを再び暗夜王国に奪われるなど、あってはならないのだ‼俺は何と言って、母上に詫びればいい‼」

 

リョウマの瞳は、もはや容赦のない本気の眼だった。

そして、マークスに剣を振るう。

マークスはカムイを抱きしめ、その剣を防ぐ。

 

「……下がれ、白夜の王子。これ以上は許さぬぞ。」

「諦めぬものか!俺が、カムイの目を覚まさせる‼」

 

そう言って、剣を交じり合わせる。

このままでは、全面戦争になりかねない。

自分達が退けば、暗夜軍は逃げたと評される。

例え、自分が暗夜王ガロンの手違いで、敵に回されたと思われても、ここで自分が暗夜王国(こちら)側だと思わせるには何かをしなければならない。

だが、それでは犠牲が出る。

そんな事はさせないし、させたくない。

両国は手と手を取り合えるのだから。

カムイは辺りを視線で見渡す。

川沿いに、龍脈を見つける。

カムイは、そこに集中する。

川が溢れだし、両国の兵を隔てるように流れ込む。

 

「くっ‼全軍撤退‼」「何⁉全軍撤退せよ‼」

 

リョウマとマークスが叫ぶ。

そして、両軍の兵は完全に隔てられた。

マークスはそのままカムイを乗せたまま、暗夜王国へと戻った。

道中、離れ離れになっていたジョーカーとフェリシアと合流した。

 

カムイはマークスの馬の上で、ずっと塞ぎ込んでいた。

あの時の白夜兄弟姉妹(きょうだい)達の想い。

自分と違い、何も知らない彼らからすれば、自分は相当な裏切りをしている。

アクアが目で語っていた。

本当に行くのか、と……

けれど、自分はやり遂げねばならない。

それに、アクアはきっとあちら側に居た方がいいのだ。

今度こそ、彼女を消させない為にも。

だからきっと、リョウマ達は分かってくれる。

自分のしたい気持ちに気付いてくれると信じて……

 

 

カムイ達は暗夜城へと帰って来た。

カムイは暗夜王ガロンを見る。

暗夜王国を出た時よりも、酷い状態だ。

彼の瞳にはもう、ガロン王は存在しない。

あれはもう、傀儡だ。

カムイは拳を握りしめる。

 

「父上、ただいま戻りました。」

 

マークスが頭を下げる。

カムイ達も一度頭を下げる。

そして顔を上げると、

 

「……マークスか。白夜王国との事は聞いている。随分と、手をおったようだな。」

「はい。ですが、兵に負傷者はいますが、死者は出ておりません。そして、行方不明であったカムイが戻ってきました。」

「カムイか……」

 

暗夜王ガロンは冷たい目でカムイを見る。

カムイは無言で暗夜王ガロンを見る。

 

「よくぞ、戻った。密偵の件、手違いだったのだ。これからは、暗夜の王族として精進せよ。」

「……ええ、暗夜王ガロン(お父様)。……それより、一つお聞きしたい事があります。」

「なんだ。」

「……あなたに、子を想う気持ちは残っていますか。」

「なんだと?」

 

その質問に、マークス達は眉を寄せて冷や汗を掻き始める。

カムイはジッと暗夜王ガロンを見る。

暗夜王ガロンは目を細め、

 

「白夜でなにやら仕込まれたか?異形神ハイドラは言うていた。そのような戯言、次口にすればお前とて殺すことになるぞ。今度こそ、確実に。」

「……そうですか、解りました。今の戯言はお忘れください、暗夜王ガロン(お父様)。」

 

カムイはマークス達に向ける笑顔とは別の笑顔を向けた。

それが何を意味するのか、マークスとレオンだけが解った気がしたのだった。

 

カムイはマークス達と共に、その場を後にしようとした時、

 

「カムイ。」

「何ですか。」

「お前に一つ命を与える。お前一人で、氷の部族の反乱を平定せよ。それが、神の望みだ。」

 

それを聞いたマークスが眉を寄せ、

 

「お待ち下さい、父上!いくら何でも、一人など……」

「黙れ、マークス。反論は認めん!これは神のご意向なのだ。」

 

暗夜王ガロンは冷たく見下ろしていた。

カムイは頭を下げ、

 

「……わかりました。その任には、一人で行きましょう。」

 

カムイは平静を寄り添った後、部屋を出るときには拳を握りしめていた。

 

カムイ達が居なくなった後、ガロン王は天井に祀られている石版を見る。

そこには、ある国の神を祀ったもの。

 

「くくく!カムイは行く。神の望み通りに!くははは!お前は生かされる。その心が壊れ、死なせてくれと泣き叫んだとしても、殺しはせぬ。生かし続けてやるわ……。人に絶望しろ!そして苦しむがよい!それを何度も繰り返し、堕ちるが良い!我が神はそれを望むのだ!くはははは‼」

 

両手を広げて、暗夜王ガロンの笑い声が部屋に響き渡る。

それを、屋への外で聞いていたのはマークスだった。

拳を握りしめ、

 

「父上……」

 

そして、歩いて行った。

それをまた見ていたのは、カムイだった。

視線を落として、彼とは別方向の方へと歩いて行く。

 

 

カムイは一人、いや、一人と一匹と共に深い森を歩いていた。

 

『……天蓋の森か。氷の部族……あそこにまた行くとは……』

 

カムイは腕に抱えているリリスを抱きしめる。

リリスもまた、喋れない自分の想いを伝えるかのように、頬をする。

カムイはその想いに少し微笑み、暗い森を歩いて行く。

 

どれくらい歩いたか、カムイは立ち止まる。

リリスを離し、剣を抜く。

森の茂みから、ノスフェラトゥが現れる。

ノスフェラトゥは唸りを上げて、カムイに突っ込んでくる。

カムイは剣でそれを防ぎ、距離を置く。

 

「くっ!ここに、ノスフェラトゥがいるとは!」

 

カムイは剣を構えなおし、ノスフェラトゥと攻防戦を繰り返す。

だが、力で言えばノスフェラトゥの方がある。

援護がない以上、一撃でもくらえば体勢を立て直す間に殺られる。

カムイは竜石を掴む。

 

「仕方ない、ここは竜になって――」

「ぐぎゃああ―‼」

 

後ろにも、ノスフェラトゥが湧き出てきた。

カムイは後ろも見て、

 

「くそっ!後ろからもか‼これでは、変身が間に合わん!」

 

前のノスフェラトゥが襲い掛かる。

カムイは竜石をしまい、カムイが眉を寄せて歯を食いしばる。

と、短剣が飛んできた。

 

「せやあっ‼」「えーい‼」

「ギャアアアアッ‼」

「……⁉」

 

カムイは対峙していたノスフェラトゥと、後ろのノスフェラトゥが倒れるのを見る。

そして、短剣が飛んできた方を見ると、

 

「良かったです、ご無事で。間に合ったようで、一安心ですね。」

「ホントですよ、カムイ様!私、心配で心配で‼」

 

と、ジョーカーとフェリシアが居た。

そしてフェリシアは泣きながら、抱き付いた。

 

「ジョーカー、フェリシア……何でここに?」

 

ジョーカーもカムイの元に来ると、短剣を構える。

それは新たなノスフェラトゥが現れたからだ。

 

「申し訳ございません。心配で追いかけてきてしまいました。この森は、死霊が棲むと言われているのですよ?そんな所に、カムイ様をお一人で行かせる訳には参りません。」

「そうですよ、カムイ様!ホントにホントに、心配したんですからね!」

 

と、さらにぎゅーと抱きしめるフェリシア。

ジョーカーはノスフェラトゥを裁きながら、

 

「フェリシア!いつまでもくっついていないで、お前もやりやがれ!」

「は、はい!」

 

フェリシアはビクッとして、短剣を構えて闘い始める。

カムイも剣を構えなおし、共に戦う。

 

「ですが、どうやってここに?城には監視がいた筈です。」

「はい。ガロン王様の目を盗むのが、なかなか大変でした。」

「そうなんですよ、カムイ様!私頑張っちゃいました‼」

 

と、フェリシアは嬉しそうに言う。

ジョーカーは眉を寄せ、

 

「ですが、お話によればカムイ様お一人でやらねばならないこと……申し訳ございません。カムイ様にご迷惑を。」

「気にしなくていい。あの命令はどっちにしろ何とかするつもりだった。暗夜王ガロンの信じる神を、私は信じていない。ただそれだけだ。」

 

二人は少し驚いたようにカムイを見た。

カムイはフェリシアを見て、

 

「だが、フェリシア。私は、お前の村に乗り込むんだぞ……」

「はい、存じておりますとも。だから来たんです。私が皆を止めます。カムイ様が動かなくても良いように。」

「……感謝するよ、二人とも。私も、ここを一人では裁き切れない。それに……フェリシアとフローラの大切な故郷の者たちとは争いたくないからな……もしかしたら、行方不明のフローラもいるかもしれない。」

「カムイ様……そうですね、私頑張ります!」

「もちろん、カムイ様を死なせるようなことはしません!」

 

三人は襲い掛かるノスフェラトゥを倒していく。

だが、倒しても倒しても、ノスフェラトゥはどこからかやって来る。

こちらが不利なのは変わらない。

と、奥の方から何かが聞こえてくる。

これは、馬の走る音と人の叫び声だ。

 

「おーい……おーい‼」

「な、なんでしょうか?何か聞こえてきますね、カムイ様。」

「新手か?」

 

フェリシアとジョーカーは眉を寄せる。

カムイも警戒する中、

 

「おーい、カムイーっ!」

 

と、岩を飛び越えてやって来たのは、一人の騎士だった。

着地すると、槍を取り出してノスフェラトゥを一体倒す。

 

「ふうっ!やっと追いついた!久しぶりだな、カムイ!」

 

その騎士はカムイを見て汗を拭う。

カムイは無言で彼を見る。

ジョーカーは彼を睨み、

 

「てめぇ、何者んだ!」

「ん?俺はサイラス。カムイの親友だ。こうして、カムイに再び会えてうれしく思うぞ。」

 

と言う彼に、ジョーカーはさらに眉を寄せ、

 

「カムイ様の親友だぁ?俺は貴様なんぞ、知らんぞ!」

「俺もお前を知らん。誰だ?」

「俺はカムイ様の臣下、ジョーカーだ!」

 

と、互いに睨み合う。

そこにフェリシアは手を上げて、

 

「私はフェリシアって言います!同じく、カムイ様の臣下です!」

「キュウ、キュウ!」

「あ、こっちはリリスさんです。」

 

と言うのだ。

 

カムイはサイラス()を知っている。

彼は自分が北の城砦に居た頃に、遊び相手として連れられてきた少年だった。

自分は彼を利用したのだ。

彼を使って城を抜け出そうとした。

その結果、彼を一族もろとも死刑にさせてしまいそうになった。

それを防ぐために、マークスには力を借りた。

彼は自分を恨んでいるはずだ。

そう思うと、剣を強く握っていた。

 

「話は後だ。先に、ノスフェラトゥを殲滅させる。」

「おお!」

 

彼らはノスフェラトゥを殲滅にかかる。

一人加わってくれただけでも、かなり闘いは楽になった。

何よりも、腕の実力もあってこそだ。

ノスフェラトゥを倒し切ると、サイラスは馬から降り、

 

「しっかし、久しぶりだな、カムイ。俺とお前が幼い頃以来だな。最後に会ったのは、お前を城から連れ出して、危うく死刑にされそうになったあの日以来だな。あれ以来、俺は城には出入りを禁止されてしまったが……お前にもう一度会いたくてな。こうして、騎士にまで上り詰めたんだ。」

「……どうしてそこまで?」

「もちろん、礼を言う為だ。あの時はありがとな。俺を庇ってくれたって聞いたぞ。だから今度は、俺がお前を守るよ。」

「……ありがとう、サイラス。私も、お前にまた会えて嬉しいよ。」

 

カムイは苦笑する。

と、フェリシアがクスクス笑い出した。

カムイは首を傾げて彼女を見る。

フェリシアは口に手を当てたまま、

 

「だって、カムイ様の喋り方……それに、雰囲気がいつもと違うんですもの。」

「あ……」

 

そう言われて、カムイは気がついた。

確かに、素が出ていた。

 

サイラスは腕を組み、

 

「確かに、幼いお前は見かけによらず、大人しくて何というか、誰も寄せ尽かせない静かなオーラも纏っていたな。」

「……気が動転していたようだ。まさか、素がもろに出ているとは思わなかった。」

 

カムイは頬を掻く。

ジョーカーは小さく笑い、

 

「ですが、そんなカムイ様もいいのではないでしょうか。白夜ではそのような感じだったのでしょう?」

「そうですよ!私は、そんなカムイ様も大好きですよ!いつものカムイ様も大、大、大好きですけど!」

 

フェリシアはとても幸せそうな顔で言う。

カムイは苦笑いして、

 

「いや、白夜でもそうは変わらないさ。本当の自分など、とうの昔に忘れてしまったからな。これは、自分が自分である為の心意気のようなものだ。」

「……じゃあ、やっぱりお前は白夜の人間だったんだな。けど、俺はお前の親友には変わりはないぞ!」

「それは俺たちも、だ。俺たちの主はカムイ様だからな!」

 

腰に手を当てて、自慢げに言うサイラスに、ジョーカーは即答だった。

と、そこにまたしても、馬の駆ける音が響いて来た。

 

「ちょ、ちょっとー!置いてかないでよ―‼」

 

やって来たのは臣下二人を連れたエリーゼだった。

頬を膨らませて、馬から降りて来ると、サイラスに怒りだした。

 

「ヒドイ、置いてちゃうんだもの!」

「申し訳ございません、エリーゼ様。つい。」

「ついじゃないー!私も、お姉ちゃんの所に早く行きたかったもん!」

 

と、腕を組んで、そっぽ向いた。

だが、カムイを見て、

 

「お姉ちゃん、私の臣下のハロルドとエルフィだよ。ハロルドはね、ちょーと運が悪いけど、凄いからね。エルフィはね、とてもすごい怪力の持ち主なの‼」

 

と、嬉しそうに臣下の話をする。

エリーゼの臣下の男性と女性はカムイに頭を下げ、

 

「正義の味方、ハロルドと言います。何でも、おしゃってください、カムイ様。例え、ここに来るまでに5回も沼に落ちなければ、もっと早く来られたのだが……」

「私は、エリーゼ様の臣下、エルフィです。私は沼には落ちませんでしたが、鎧が重くて……訓練用の重石、鎧の中にぎっしり入れすぎたでしょうか……」

 

と、二人は互いに腕を組んで悩んでいた。

カムイはエリーゼを見て、

 

「エリーゼ、お前も来たのか?」

「うん!あったり前だよ、お姉ちゃん!だって、新人騎士が良くて、私がダメなんておかしいじゃない?その為にマークスお兄ちゃんが、お父様の目を盗んで私たちを送り込んでくれたんだよ!私だって、お姉ちゃんの役に立ってみせるんだから‼」

 

と、とびっきりの笑顔で言う。

カムイは瞳を揺らし、涙を流し始めた。

 

「えぇ⁉お姉ちゃん⁈も、もしかして、私邪魔だった?」

 

カムイは涙を拭いながら、

 

「いえ、違うんです。私は本当に、恵まれていると……臣下に、友に、兄弟姉妹(きょうだい)に。こんな気持ちになるのは本当に久しぶりで、嬉しくなってしまったんです。忘れてください。」

「忘れないよ、お姉ちゃん!だって、それって……私たちの事を大切だと思ってくれているからでしょ。それが嬉しいんだ!」

 

笑顔の彼女を見て、カムイは自分の頬を叩き、

 

「さ、気持ちを切り替えて行きますよ。なんとかして、氷の部族を止めるんです。」

「はい!」

 

フェリシアが先導を始め、進む。

カムイはそう言いながらも、心の中で睨んでいた。

 

『あのノスフェラトゥ……野生にしては多すぎる。だとすれば、誰かが仕掛けたに決まっている。暗夜王ガロン、……いや、透魔王ハイドラ!お前の企みは絶対に止める!』

 

カムイはそれを表情には出さずに進んで行く。

 

森を抜け、しばらくすると雪がちらつき始める。

そして、それをさらに進んで行くと雪が積もっていた。

ジョーカーが持ってきていた分厚いマントをカムイに着せ、さらに進んで行く。

無論、エリーゼ達はさらに分厚い格好をして進んでいる。

 

「こんなに着こんでいるのに、寒いな。」

「カムイ様!私のマントも!」

「いや、いらん。お前に、何かあったらまずいからな。」

「カムイ様‼」

 

ジョーカーは涙を流して、祈りを捧げるように手を握り合わせてカムイの後ろを歩く。

フェリシアは楽しそうに歩いて、

 

「ふふ。でも、寒くなればなるほど、近付いている証拠ですよ!」

「ああ、そうだな……」

 

カムイは喜ぶ彼女とは逆で、気持ちが重くなる。

フェリシアの故郷であったフローラの死……

自分のせいであんな結果になってしまった。

今度はそれがないようにする為にも、ここは気を引き締めて進む。

 

だが、途中でフェリシアが立ち止まる。

辺りを警戒し始め、

 

「……どうしたんだ、フェリシア?」

「これは……マズいです!雪崩が来ます!」

 

フェリシアがそう叫んだと同時に、地響きが聞こえてくる。

そして雪崩が、すぐ側まで来ていた。

 

雪崩が収まり、カムイはガバッと起き上がる。

辺りを見渡し、

 

「みんな、居るか!」

「「はい、カムイ様‼」」

 

ジョーカーとフェリシアが雪の中からガバッと這い出てきた。

そしてそれに続き、

 

「ぶっは―‼死んじゃうかと思った!」

「エリーゼ様、大丈夫ですか?」

「うん!エルフィが護ってくれたおかげだよ!」

 

エリーゼとエルフィがカムイ達の後ろから現れる。

後は二人だ。

カムイとエリーゼは叫ぶ。

 

「サイラス!どこにいる!」「ハロルドー、どこー?」

 

と、手と足がそれぞれズバッと出てきた。

エルフィがそれをそれぞれ引き抜くと、サイラスとハロルドが出てきた。

 

「無事か⁉」

「ああ、何とか生きてる。」

「私も大丈夫です!」

 

二人はそれぞれ咳込みながら言う。

そして、再び歩き出しのはいいが、今度は吹雪に巻き込まれた。

カムイは立ち止まって、沈黙していた。

頭を抑え、

 

「……何という事だ……迷子になった!」

 

猛吹雪の中の叫びはかき消される。

カムイはまるで、カンナに戻った気分だった。

感覚的には普段の自分と変わらない。

だが、どこかで自分はカンナだった頃を思い出していた。

眉を寄せ、

 

「前も後ろも解らん!こんな事なら、フェリシアに遭難した時の対策法を聞いとくべきだった‼」

 

と、早大に後悔していた。

だが、下手に動くのも危険だ。

かと言って、ここにずっと居るのも危険だ。

さてどうするか……

 

「寒くなればなるほど、氷の部族の棲む村は近くなる……だが……」

 

そう思うのも、だいぶ意識が朦朧としてきた。

それに加え、手足の感覚も鈍くなっている。

 

「進むか!」

 

カムイは歩き出す。

だが、途中でこける。

肩で息をしながら、

 

「マズイ、これはマズい……魔術を今使えれば……」

 

魔術のやり方は覚えている。

その気になれば使えるだろうが……

こんな状態でやっても失敗するのがオチだ。

しかも倒れ込んだせいで、一気に眠気が自分を襲う。

 

「寝たらマズいって聞いたんだが……」

 

カムイはボーっとしてきた瞳で辺りを見る。

全くもって、何も見えない。

カムイはこん身の想いで叫んだ。

 

「サムイ――――‼」

 

そう言って、意識が途絶えた。

しばらくして、パキッという木が燃える音を聞いて目を覚ます。

それに、暖かいと感じる。

辺りを見ると、レンガで来た家の中のようだ。

そして自分は、毛布を何重にも乗せられ、ベットに寝かされていた。

斜め前には、暖炉が燃えている。

その暖炉の前には、水色の鎧を着た男性が立っていた。

ふと、カムイはこの男性に見覚えがある。

彼はカムイが目を覚ましたのに気付き、

 

「目が覚めたようだな。安心していい、ここは氷の部族の村だ。私たちの村にようこそ、旅のお方。私は氷の部族長、クーリアと申します。」

 

それを聞いて、カムイはたくさんの毛布をどかしてベッドから出る。

 

『……そうか、フローラとフェリシアの父親だ。あの時も、戦ったな……』

 

だが、向こうは自分を知らない。

カムイは頭を下げる。

 

「助けていただき、ありがとうございました。私はカムイ。……おそらく、あなたにとっては良くない客人となってしまうかもしれませんね。」

 

男性は少し驚いた顔になり、そして笑い出した。

 

「ふははは!これは何とも、変わった自己紹介ですな!自分から、よくない客となるかもとは……あなたは面白いですな。確かに、本当なら正体不明のあなたを助ける事はしなかったでしょう。ですが、あなたの持つ、その剣……その黄金の剣は、我が氷の部族の伝承に記述のある……世界を救うといわれる、伝説の勇者の剣とよく似ているのです。」

 

カムイに温かいお茶を渡しながら、氷の部族長クーリアは言う。

カムイは差し出されたお茶を一口飲み、

 

「え?世界を救う……伝説の剣。『夜刀神』の事をご存知で?」

「はい。ですから、あなたのことを見捨てる事はできませんでした。もしかしたら、カムイ殿はこの世界を救うお方なのかもしれません。もしそうであれば、いつかきっと私たちを、この暗夜王国の支配から解放して下さるかもと……」

 

カムイは視線を落とし、

 

「私は世界を救う力はありませよ。私の最初の父であった本当の『カムイ』ならともかく。私はあくまで、『カムイ』であったから、この夜刀神を持っているにすぎません。」

「……ああ、すみません。そんなに、思い詰めないでください。事情は分かりませぬが……私には今の貴方が、その剣の使い手だと心から思います。」

「重ね重ねありがとうございます、クーリア殿。良くない敵になるやも知れぬ私に、優しくしてくださって。」

 

カムイは顔を上げて、苦笑する。

彼は小さく微笑み、

 

「なに、私にもあなたに近い年の娘がおるのですよ。じきに挨拶に来るでしょう。」

「……!娘さんが?」

 

カムイはハッとする。

フェリシアか、それとも行方不明になっているフローラか。

もし、フローラならまたああなってしまうのではないかと、カムイは凄く不安になる。

そして、そう思っている最中に、部屋にノックがかかり入って来た。

それは水色の髪をしたメイド。

フローラだった。

彼女は驚いたように、

 

「……カムイ様⁉」

「フローラ……無事のようで良かった。」

「カムイ様、なぜここにいらっしゃるのですか……」

 

フローラは悲しそうにカムイを見る。

カムイは心の底から、まずはそれを喜ぶ。

だが、氷の部族長は娘のフローラを見てから、カムイを見る。

 

「カムイ『様』……?」

 

カムイはフローラを見て、

 

「……フローラ。フェリシアも、じきにここに来るはずだ。だから……帰る場所のあるお前たちは、このまま村に残れ。他の者には、行方不明の状態で置いておく。」

「カムイ様、一体何のお話ですか?」

「……私は、暗夜王ガロンから命じられた。氷の部族の反乱を止めろ、と。」

「何ですって⁉」

 

フローラは眉を寄せて、カムイを見る。

それは氷の部族長クーリアも同じだ。

カムイはそのまま続ける。

 

「だが、私にはお前たち二人の故郷と争う気はない。このまま大人しくしていてくれれば、反乱はなかったこととして何とか処理する。」

「どうして……ですか、カムイ様。」

「……私には、お前たちが大切だと言うことだ。また、失うのは嫌だからな……」

 

カムイは視線を外して、眉を寄せる。

フローラは何かを言おうとした時、氷の部族長クーリアは剣を抜く。

その刃先をカムイに向ける。

 

「なるほど、あなたの敵になるかもしれないとは、そう言うことでしたか……」

「ああ。」

「何故、ここで言ったのです。黙っていれば、こうはならなかったでしょうに。」

「フローラがここに居るのなら、私が言うつもりであった。もし、ここには居なくてフェリシアが来たのなら、フェリシアのしたいようにしてからにしようと決めていた。」

「……そうですか。今のあなたの状況を理解していない訳ではなさそうだ。あなたには二つの選択肢があります。ここで死ぬか、人質となるか。」

 

氷の部族長クーリアは目を細めてる。

フローラは眉を寄せて父親を見る。

 

「お父さん!」

「お前は黙っていなさい。」

「うっ!」

 

フローラは押し黙る。

カムイは一つため息をつき、

 

「私を殺したのであれば殺してくれて構わないさ。だが、この命をくれてやるのは当分先だ。私にはやらねばならない事があるからな。」

「やらねばならないことですと?」

「ああ、暗夜王ガロンを殺すことだ。」

「な⁉」

 

氷の部族長クーリアは眉を寄せて、一歩下がる。

これにはフローラも驚いた。

カムイは続ける。

 

「フローラにはまだ伝わっていないだろうが、私は本来なら白夜で育つはずだった。ある日、暗夜王ガロンに父王を殺され、私は暗夜に誘拐された。そして、あの北の城砦に閉じ込められた。いずれ、白夜に戻して母である白夜女王ミコトを殺すために。白夜王国を滅ぼすために。だから、私を人質にとっても何の利にもならない。」

 

カムイはジッと氷の部族長クーリアを見据え、

 

「暗夜王ガロンは、私を殺したいのだろうな。だが、私が白夜から戻って死んでいないと言うことは、私にはまだ利用したい事があるとみる。だが、その気になれば生死など関係ない。そういう『ヤツ』だからな。」

「……なるほど、ですが遅かったようだ。」

 

そう言うと、外の方から騒ぎ声が聞こえてくる。

暗夜兵が攻めてきた。

フェリシアを人質に。

そういう声が聞こえてくる。

おそらく、フェリシア達が村に到着したのだろうが……

 

「フェリシアは失敗か……」

 

カムイは窓に向かって走る。

竜石を掴み、その身を竜と化して窓を打ち破る。

人の姿に戻って、フェリシア達の前に剣を抜いて立つ。

ジョーカーは安心したように言う。

 

「カムイ様!ご無事で!」

「ああ、フェリシア。」

「……申し訳ございません、カムイ様!私止められませんでした……」

 

フェリシアは座り込んで顔を覆って泣く。

カムイは視線だけを彼女に向け、

 

「そうか……なら、フェリシア……選ぶんだ。このまま村に戻り、私達から離れるか。それとも、故郷と戦うか。」

「カムイ様……」

 

フェリシアは涙を拭って立ち上がる。

武器を構え、

 

「私も、カムイ様と共に戦います。私は、私の意志で村を止めます!」

「そう……それが、あなたの答えなのね、フェリシア。」

 

そこに、フローラが短剣を持って現れる。

フェリシアはパッと明るくなった顔をすぐにやめた。

それは、父と共に怖い顔をしている姉。

 

「姉さん……無事でよかった。でも、もしかして姉さんはカムイ様と戦うの?」

「当然よ。私は氷の部族長の娘として、なさねばならない事がある。私は、あなたとは違うのよ。」

 

そう言って、武器を構えた。

フェリシアは瞳を揺らしながらも、再び武器を構えなおす。

カムイはその姿に、剣を強く握る。

こうなるのが嫌だったのに、と……

 

それでもカムイは剣を取る。

まずは彼らの戦意を失わせるために。

だが、多勢に無勢……このままではマズイ。

そう思った時、崖の上から声が響く。

 

「闇にが囁いている……守るべき者たちの身が危ないと。仕方ない……迸る闇の奔流を行使し、勝利と言う名の輝きを俺たちが見せてやろう。」

「はぁ……勝手にひとくくりにするな。俺は一人でも、奴らを天国にイかせてやれる……」

 

そこには、魔術師と弓兵が現れた。

カムイは彼らに見覚えがある。

 

「確か、レオンの臣下……だったか?」

「そうだよ、お姉ちゃん。あの二人はレオンお兄ちゃんの臣下のオーディンとゼロだよ。」

 

エリーゼが手を振りながら言う。

二人は飛び降りて、着地する。

と、レオンの臣下オーディンは決めポーズを取り、

 

「俺は漆黒のオーディン!暗夜王国王子レオンの直属の選ばれし闇の近衛騎士だ!」

「同じく、暗夜王国王子レオンの直属の近衛騎士ゼロ。主君よりの命令で、カムイ様を悦ばせに来たんだぜ。」

 

同じくレオンの臣下ゼロはカムイに近付いて、目を細めて言う。

カムイは眉を寄せて首を傾げる。

 

「よろこばせる?」

「あわわ……き、気にしないでください!こいつ、いつもこんな感じで!」

 

と、ゼロをカムイから離す。

ちなみに、ジョーカーは物凄い目でゼロを睨んでいた。

そして再び決めポーズをして、オーディンは言う。

 

「と、とにかく安心しろ、カムイよ。ここからは俺の秘められし力で、貴様に仇名すものを排除してやろう。くっ……血が騒ぐ……!早く奴らを倒さないとこの呪いは――」

「ああ、援護に来てくれたことには感謝します。ですが、氷の部族は殺さない方向で頼みますね。」

 

カムイはサッと武器を構えなおして彼に言った。

オーディンは目をパチクリし、

 

「え?」

「私に、氷の部族の者たちを殺す意志はない。できれば、彼らの戦闘を治めて戦意を失くしたいだけだ。」

 

と、横目で彼らを見る。

それを見たゼロはニッと口の端を上げ、

 

「ほう、それは暗夜王ガロン陛下の命に背くと?」

「いや、暗夜王ガロンは平定こそ言ったが、氷の部族を滅ぼせとは言っていない。そして、やり方は私の自由だ。なら、私は私のやりたいようにやるだけだ。」

「ふ……ふふ、ふははは!良いねぇ、良い!とても良いぜ。その命令に従ってやろうではないか!」

「えぇ⁉お、俺もやりますからね!カムイ様‼あなたにもしもの事があったら、レオン様に殺されちゃいます!」

「なら、レオンには私が勝手にやったことだから、罰は与えるなと遺言に残しておいてくれ。」

「な⁉縁起でもない事を言わないでくださいよ!それこそ、レオン様に殺されちゃいます‼」

 

と、彼は悲鳴を上がる。

ちなみに、ジョーカーはさっきよりも物凄い目と顔で睨んでいる。

 

カムイは氷の部族長クーリアに向かっていく。

そして、互いに剣を交える。

 

「あなたの心意気は解りました。ですが、私はここの長として退くわけにはいかないのだ!」

「……私も、ここではまだ退けない。あなたに、勝ちます。」

 

カムイは、彼の剣を受け流しながら闘う。

フェリシアとフローラも互いに思いをぶつけながら戦う。

他の者達も、上手く戦っていく。

そしてカムイは、彼の剣を弾く。

氷の部族長クーリアの剣は回転しながら、雪の山に突き刺さる。

 

「これで……終わりだ。」

「そうだな……」

 

彼の敗北で、村人達も戦いをやめる。

カムイは彼らを見て、

 

「どうやら、怪我人はいるが死人はいないな。エリーゼ、ジョーカー。すまないが、怪我人の治療を頼む。」

「はーい、お姉ちゃん!任せておいて!」「カムイ様のご命令とあれば。」

 

二人は怪我をしている村人の元へ行く。

カムイは氷の部族長クーリアを見て、

 

「これで、助けて貰った恩は返したからな。で、私はあなた達とは争う気はない。大体、今の暗夜王ガロンの言うことを、はいそうですかと聞くつもりは元からないからな。だが、危なくなったら私の事を言っていい。私が謀反を起こそうとしているとでも、暗夜王ガロンを暗殺しようとしているだの、好きなように言ってくれて構わない。」

「どうしてそこまで?」

「……もとより、今の暗夜王ガロンは討つつもりでいた。そして、暗夜王国の暴走を止める。白夜との戦争も、暗夜王ガロンの暴君を打ち壊し、真の王を立てる。平和な世界をもう一度、実現させるために。それに……私に残された時間は少ない。ただそれだけだ。」

 

カムイはペンダントを取り出して握りしめる。

実際、戻れば戻るほど体が重くなってる。

透魔王国の呪いとは別の何かが自分に重くのしかかる。

それもまた、『呪い』なのだろう。

思い当たる事は沢山ある。

きっと、自分はここに居るのに多くの人たちの恨みや悲しみ、怒りを買っている事だろう。

今回もそうだ。

自分は沢山の業を受けている。

あってはならないが、もしまた過去に戻るような事があれば、自分はあと何回戻れるのだろうか……

 

カムイのその言葉を聞いたフローラとフェリシアは眉を寄せて、カムイを見る。

 

「カムイ様⁉それはどういう事です!」

「そうですよ、カムイ様……そんな、そんな良い方じゃまるで……」

 

カムイはペンダントをしまい、

 

「なに、心意気の問題だ。気にしないでくれ。」

「……ふう、解りました。私たちは、しばらくの間は大人しくしていましょう。あなたが言う平和な世界とやらを実現させるその時まで。」

「ああ、必ず。」

 

カムイは彼に背を向け、怪我人の手当てを手伝っているサイラス達の元へ行く。

氷の部族長クーリアは娘達を見て、

 

「あのカムイ殿は、不思議な方だ。何とも変わった魅力を持っておる。」

「はい。お父さん。私とフェリシアが、人質となったあの城で穏やかに過ごせたのは、カムイ様のおかげです。」

「そうなんですよ、お父さん!カムイ様は凄いんです。使用人としている私たちにも、対等で見てくれる。私がドジをしても、カムイ様だけは怒らないんですよ!」

「……そうか。お前たちには苦労を掛けたな。」

 

氷の部族長クーリアは二人の頭を撫でる。

そして、呟くのだ。

 

「世界を救う伝説の勇者……なのかもしれませんな。」

 

その彼の瞳には、怪我をした村人に包帯を巻く少女の姿があった。

彼は娘達に視線を戻し、

 

「お前たちは、お前たちの道を進むが良い。」

「「お父さん……」」

 

 

カムイは伸びをする。

と、そこにフローラがやって来た。

フローラは頭を下げ、

 

「カムイ様、申し訳ございませんでした。私はあなたを裏切り、ずっとここに居ました。本当に申し訳ありませんでした。」

「……顔を上げてくれ、フローラ。私はお前が裏切ったとは思っていない。お前たちが、あの城に居た理由を知っていた。知っていて、何もできなかったんだ。お前を非難することはできないさ。それに同じ立場なら、私も同じことをする。お前は、己にできる事をした。それを、私に今詫びを入れると言うことは、己の選択を間違いだったと認めることになる。お前は部族の為に、父親の為に闘った。フローラ、お前は誇っていいと思うぞ。」

「カムイ様……」

 

フローラは涙を流す。

カムイは苦笑して、

 

「これが終わったら、また私に説教してくれ。私が踏み外しそうになったら、私を止めてくれ。あの時のように、思い出させてくれ。」

「……?よくは分かりませんが、私はこれからもあなたの側にお仕えします。」

 

そして微笑むのであった。

カムイ達は挨拶を済ませ、氷の部族の村を後にする。

その帰り道、

 

「お姉ちゃん、これからどうするの?お父様の命令には背いちゃった訳だし。」

「そうだな……なんとかしてみせるさ。」

 

そして、カムイ達は暗夜城に帰って来た。

暗夜王ガロンのに会う為に、謁見の間に行ったカムイと暗夜の兄弟姉妹(きょうだい)

カムイは頭を一度下げた後、顔を上げる。

 

「ただ今戻りました。」

「よく帰った、カムイ。報告は聞いている。見事、氷の部族を黙らせたようだな。」

「……ええ、運が良かったのでしょうね。」

 

カムイがそう言うと、暗夜軍師マクベスは一歩前に出て、

 

「ですが、ガロン王様。どうやら、カムイ様はお一人では行かれていないようですよ。」

「なんだと?」

 

ガロン王は眉を寄せて、カムイを睨む。

マークスは小声で、

 

「チッ、マクベスめ。余計なことを。」

 

そして暗夜軍師マクベスを睨んでいた。

暗夜王ガロンはダン!と椅子を柄を叩き、

 

「一人で部族の村に向かったのではない?それは本当か、カムイ?」

「はい、そうですよ。確かに、命令では私一人でやれとのことでしたが……たまたま偶然、森で会ってしまった。そして、たまたま偶然、氷の部族の村に居た、彼らと共に共闘となった。ただそれだけです。それに、この程度の事、あなたの信じる神はお見通しだったのでは?」

「……我がハイドラ神をお前が問うか。」

「ええ。仮にも、暗夜王ガロン(お父様)の程の方が心髄する神です。暗夜の神祖竜である黒竜王よりも崇めているようですので。なら、その神はよほど強く、凄いのでしょうね。」

 

カムイの表情はほとんど変わらない。

けれど、その瞳に移すモノは違った。

暗夜王ガロンは眉を物凄く寄せて、立ち上がる。

 

「お前‼」

 

だが、暗夜王ガロンは椅子に座り、

 

「もうよい。この件はこれで終わりにする。確かにお告げ通りではないが、任を果たしたのも事実。カムイの言うう通り、ハイドラ神も許して下さるだろう。」

「ガロン王様?」

 

暗夜軍師マクベスは困惑していた。

カムイはひとまず一安心し、

 

「お父様なら、そう言ってくださると思いました。ありがとうございます。」

「うむ……さて、カムイ。お前のその運と実力を持って、次の任を命ずる。」

「……次ですか?」

「ああ。次はお前たちを、ノートルディア公国に向かわせる。」

『……ノートルディア公国か。』

 

カムイは眉を少しだけ寄せる。

暗夜王ガロンは頬杖を着き、

 

「お前たちにはあの地を制圧し、暗夜王国の支配下に置いてきてもらいたい。」

「どうして、ノートルディア公国を?」

「良いか……戦端が開いた後、あの地には白夜王国の軍隊が蔓延っていると聞く。そこで白夜の者達が、暗夜王国に仇為す策を講じているらしいが、悪い芽を摘むのは早い方が良い。一刻も早く公国に向かい、公国にいる白夜王国軍を根絶やしにするのだ。」

「……白夜王国軍と戦うのですか。」

 

これには、カムイはもろに表情に出していた。

それを見逃すことはなかった暗夜王ガロンはカムイを見据え、

 

「ほう……やはり、不本意か?生まれた国に刃を向けるのは。」

「……まさか。私は、暗夜王国の兄弟姉妹(きょうだい)と共に居る事を望んだのですよ。その任、ちゃんと果たしてみせますよ。」

「そうか。期待しているぞ、我が子よ。その言葉通り、良い成果を挙げてくるが良い。」

「はい……お父様。」

 

カムイは背を向けて王の間を出て行く。

扉を閉め、

 

『ああ、嫌さ。白夜と暗夜で戦うのが嫌だから、私はここで動いているんだ。お前の創る暗夜王国の為でも、お前の神の為でもない。私は、私の大切な兄弟姉妹(きょうだい)達の為に闘っているんだ。』

 

カムイはノートルディア公国に向かう準備を行いに、部屋に行く。

そして準備を終えたカムイは、マークス達に挨拶をして城を出る。

無論、マークス達はカムイを手伝いたいと言う。

だが、暗夜王ガロンから命じられた任務がある為に共にいけないのだ。

と言っても、エリーゼはついて来るのだが。

あの時のやり取りは、エリーゼとレオンが最後に会ったあの時を思い出す。

それをカムイは思い出しながら、エリーゼの頭を撫でて供に行くのであった。

 

カムイは馬を走らせながら、思い出す。

マークスが、ノートルディア公国には戦士に力を与えると言われる『虹の賢者』がいる。

うまくいけば、賢者から力を授かる事ができるかもしれないと。

彼と暗夜王ガロンは、すでにその力を得ている。

その力を得るには、厳しい試練を越えねばならないと。

また、あの試練を受けると思うと気が重くなる。

が、この世界の夜刀神はまだ力を解放されていない。

もしも、また虹の賢者様にお会いできるのなら、聞きたい事がある。

その為にも、試練を乗り越える。

 

カムイは馬を止める。

来たのは『黒竜砦』。

カムイは瞳を揺らして、その砦を見る。

そして中をゆっくりと進んで行く。

けれど、警戒して進んで行く。

サイラスの情報によれば、白夜軍がここを占拠していると聞く。

なら、出会ってしまえば戦闘は避けられない。

なんとか、出会わずに行きたいものだと思う。

と、カムイは物陰に気配を感じる。

馬を止め、そこに目を向ける。

と、そこには黒服に身を包んだ少女が居た。

カムイは馬から降り、少女を見る。

 

「えっと……ここでなにを?」

「何って、迷い込んでしまったのよ。白夜軍には、子供を捕まえろだの……年端もいかない若造が、私を子ども扱いするだなんて百年早いのよ。これだから、他人と会うのも、関わるのも嫌だったのよ。」

「……なるほど。なら、私達と来るか?」

「は?」

「見たところ、見た目は私の方が上だが……あなたの身に纏うその空気は、それとは違う。」

「……お嬢ちゃんも、見た目とは違って中々どうして……変わった空気を纏っているわね。」

「私はカムイ。そこで、あなたに一つ提案です。」

「提案?」

「ええ。白夜軍が居るこの場を乗り切るのに、あなた一人ではきついでしょう。ここは共闘しませんか?」

「……なるほど。考えてみてもいいかもしれないわね。私自身、他人に興味を持ったのは随分と久しぶりよ。だから、あなたに付いて行ってあげる。私はニュクス。この力、好きに使うといいわ。」

「ああ、お願いする。」

 

カムイは、少女ニュクスを新しく仲間に加えて進む。

すると今度は白夜軍の兵の声が聞こえてくる。

カムイは岩陰に隠れて、耳を傾ける。

 

「さっさと歩け!」

「きゃっ。」

 

それは白夜兵に連れられているアクアの姿だった。

もう一人の兵が、

 

「だが、いいのか?リョウマ様に黙ってこんなこと……」

「なら、お前はいいってのか!カムイ様が白夜を裏切ってからと言うのも……リョウマ様も、タクミ様も行方不明となっているのだぞ!」

「それはそうだが……」

「何より!こいつも暗夜の人間!信頼したからこうなったのだ!」

「……それはそうだが。だが、アクア様は……」

「こいつは暗夜の人間なんだ‼」

 

カムイは眉を寄せて、拳を握りしめた。

意志と覚悟を決め、剣を抜く。

そして背後から近付き、兵を気絶させる。

カムイはアクアの縄を解き、

 

「大丈夫ですか、アクアさん。」

「カムイ……久しぶりね。」

「大体の事情は分かります。兵達の会話も聞いていました。すみません、あなたをこんな目に合わせて。」

「気にしないで。暗夜との戦争が始まれば、こうなる事は覚悟していたわ。もちろん、リョウマ達は私を庇ってくれた。けど、さっきの兵がいっていたのようにリョウマとタクミが行方不明になってしまった。それにね、私はこうなっても白夜を嫌いにはなれないわ。……ごめんなさい、カムイ。あなたの兄弟(きょうだい)を守れなかったわ。」

「いえ、アクアさんは護ってくれていました。本当に感謝しています。ですが、こうなった以上……アクアさんは白夜に居るべきではないでしょうね。一緒に来て下さい、アクアさん。私が何としてでも守りますから。」

「……ふふ。私はいつだってあなたを信頼しているわ。あなたと私は、どこか似ているんですもの。だからカムイ、この戦争を一緒に終わらせましょう。平和な世界を取り戻すの。」

「…………はい、アクアさん。終わらせましょう、一緒に。」

 

カムイは涙をこらえて、アクアと共に仲間の元に急ぐ。

カムイが戻ると、エリーゼが抱き付く。

 

「もう、お姉ちゃん!勝手に居なくなっちゃダメだよ。心配したんだからね。」

「すまないな、エリーゼ。」

 

カムイは彼女の頭を撫でる。

そして、カムイの側に居るアクアに気付いた。

 

「ん?お姉ちゃん、その綺麗な人は?」

「ああ、この人はアクアさん。共に戦ってくれる強い味方だ。……それと、アクアさんは元は暗夜王国に居たんだ。」

「暗夜王国に?」

「……暗夜王国の王女として。」

「え⁉そ、それじゃあ、この人ってもしかして、あたしのお姉ちゃんなの⁈」

 

エリーゼは、アクアを二度見した。

カムイはチラッとアクアを見ると、アクアは黙り込んでいた。

エリーゼはパッと笑顔になり、アクアに抱き付く。

 

「わあ!あたし全然知らなかった!早く言ってくれれば良かったのに!会えてうれしいよ、アクアお姉ちゃん‼」

「ええ……私も会えてうれしいわ。これからよろしくね、エリーゼ。」

「もちろんだよ!えへへ、新しいお姉ちゃんって、なんか照れくさいね。そうだ!みんなに紹介しないと!アクアお姉ちゃん、こっちこっち!」

 

と、アクアの手を引っ張って行くエリーゼ。

カムイは苦笑した後、その後ろに付いて行く。

 

 

カムイ達は砦を抜け、港町ディアにやって来た。

ジョーカーとフェリシア、フローラが船の手配へと向かった。

その間、カムイ達は休息を取る事にした。

特に、慣れない土地でのアクアの旅の疲れに加え、エリーゼの相手もしているアクア。

その彼女の疲れを癒すためにも、カムイは休息を取る事にしたのだ。

カムイはサイラスと話していた。

と、ジョーカー達が息を切らして走って来た。

ジョーカーが息を整え、

 

「カムイ様!大変です‼この港に、白夜王国の軍勢が追っているそうです‼」

「白夜王国が⁉それは本当なのか⁈」

「はい。常駐している兵から聞いたので、確かな情報です。白夜兵を何とかしないと、海に出る事はできません。如何いたしましょう……カムイ様。」

 

ジョーカーは重苦しい雰囲気になる。

カムイは視線を落としあと、顔を上げる。

 

「闘うしかないだろうな。でないと、目的を果たすことはできない。だが……」

「だが?」

「ああ……リョウマ兄さんとタクミが行方不明の今、誰がここの指揮を取っているのか。いや、もしかしたら彼らは見つかって、ここに来たのやもしれん。白夜を裏切った私を討ちに来たのかもしれないな……」

「カムイ様……」

「気にしなくていい。覚悟はしていたからな。今度こそ……」

「カムイ様?」

「いや、なんでもない。すぐに戦闘準備を。」

「承知しました。戦闘準備をエリーゼ様たちにも、お伝えしてきます。」

「ああ、頼む。」

 

ジョーカー達は走って行く。

カムイは右手を握りしめて、その手を見る。

 

『今度こそ……誰も失わない選択を。あの平和をもう一度……』

 

カムイは手を開き、白夜兵が居る方へと歩いて行く。

 

カムイは一人先に白夜兵達の居る前へと行った。

白夜兵達はカムイに気が付き、剣を抜いて構える。

その間から、一人の少年が弓を携えて出て来る。

彼は兵の前に立つと、弓を構えてカムイに矢じりを向ける。

 

「許さない。白夜を裏切ったあんただけは……僕がこの手で討つ!」

 

彼は怒りをその瞳に宿してカムイを睨む。

カムイはその目を見つめ、

 

「タクミ……そうか、ここの指揮はお前か。見つかったようで良かったよ。」

「今更、僕の心配か?違うだろ、敵が増えたのが悔しいんだろ。」

「私の目の前には、敵はいない。」

「何を‼母上の、白夜の仇だ!覚悟しろ、裏切り者め‼」

 

タクミは矢を放つ。

それをカムイは避けない。

その矢は頬を掠っていく。

カムイは頬の血を擦り取り、

 

「そんなに私が憎いか……」

 

カムイは瞳を揺らした後、剣を抜く。

 

「だが、ここではまだ死ねないんだ。来い、タクミ!」

「上等だ!あの裏切り者の相手は僕がする。お前たちは他の連中を!」

 

カムイはタクミの第二派の矢を叩き斬る。

二人の攻防戦が始まる。

なにより、カムイがタクミの相手をする事で、二つの意味が発生する。

 

しばらくして、ジョーカー達も加わり、戦闘は拡大していく。

そこに、竜の羽ばたき音が響き、空から赤い髪の女性が降りてきた。

 

「いたいた、カムイ様‼白夜王国軍相手に苦戦してるみたいね?仕方ないから、助けに来てあげたわよ。」

「……ルーナ、だったか?あの飛竜使いはベルカ。カミラ姉さんの臣下の。」

「ええ、そうよ。よく知ってるじゃない。」

「少しな……」

 

カムイは視線だけを彼らに向ける。

そして視線をタクミに戻し、

 

「なら、他の者たちの援護を頼みます。私は、彼の相手をすると決めているので。」

「……あっそ。わかったわ。」

 

二人は他の援護に向かう。

と、そのすぐ後にまたしても飛竜の羽ばたき音が響く。

空を見上げると、

 

「カムイ、無事かしら?」

「……カミラ姉さん。」

「嫌な想いはしていない?」

「してません。お気遣い、ありがとうございます。なので、すみませんが……他の方達の援護をお願いします。」

「もう、カムイったら。でもいいわ。お姉ちゃんが、そのお願いを聞いてあげる。」

 

カミラは素直に飛んで行った。

カムイは想う。

彼らにも、暗夜王ガロンから命令を受けていたはずだ。

なのにここに居るのは何故か。

あるとすれば、命令を終えてここに来たか……

いや、それはないだろう。

だとすると、どういう事なのだろうか。

 

しばらくして、白夜軍は後退を始めていた。

それは、白夜軍の方が不利に変わったからだ。

 

「くそっ!こんなに被害が出ては、これ以上の進攻は不可能か……」

 

タクミも、カムイが何故タクミを一人で相手にしていたのかに気付いた。

そう、タクミを一人で相手にする事によって、この闘いの指揮を取るのは彼の臣下。

そして、その臣下もまた暗夜兵(カムイの仲間)を相手にしているのだ。

簡単ではない。

そして、もう一つの意味はカムイ自身が今のタクミの状態を知りたかったからだ。

前の時は、タクミは透魔王国の王ハイドラによって操られていた。

今も、その状態なのかを知りたかったのだ。

 

「……タクミ、この闘いはもう終わりだ。兵を退いて、白夜に戻るんだ。私には、お前たちを殺す道理を持ち合わせていない。だから――」

「ふざけるな‼あんたの言葉なんか信じられないね!お前は暗夜の人間になったんだ!卑怯で、野蛮で、残酷な奴らだ!平気で民を、国を潰し、殺す……そんな、最低の国だ‼」

「タクミ、全てが全てそうではない。白夜にだって、そう言う者はいる。暗夜の者、全てがそういう人間ではない。」

「けど、あんたは何の罪もない白夜の民を傷つけた!死に追いやった!それだけじゃない……僕たちの大切な母上の命までも奪った‼それのどこが、卑怯で野蛮人と一体何が違うっていうんだよ‼」

 

カムイは視線を落とす。

それは彼らから信頼する、愛する母親(ミコト)を奪ったのは事実。

そして、白夜の民を傷付けたのも事実。

全ては、運命を変える事の出来なかった自分の責。

 

と、カミラが飛竜から降りてきて、

 

「あらあら……黙って聞いていたけれど、さっきから失礼な子ね。今の言葉、撤回して頂戴。さもないと――」

「違いますよ、カミラ姉さん。タクミの……彼の言う事は事実です。全ては私が悪いんです。」

 

カムイは視線を上げて、タクミを見つめて言う。

タクミは顔をムッとして、

 

「そ、そうだよ!お前さえ、帰って来なければ……白夜王国は平和だったんだ。母上も、民たちも、みんな死なずにすんだ……みんな……」

「タクミ――」

「うっ!くっ⁉」

 

カムイは彼に近づこうとした時だった。

タクミは頭を抑えて、苦しみ出す。

 

「‼どうした、タクミ!」

「あ……頭が……」

「頭が痛いのか?タクミ、大丈――」

「触るな‼」

 

カムイが駆け寄り、彼に触れようとした。

けれど、その手を叩き、距離を開けるタクミ。

そしてカムイを睨みつけて、

 

「汚らわしい暗夜王国の者が、この僕に軽々しく触れるな‼」

「…………」

 

カムイは黙って胸を抑える。

解っていたとは言え、これはきつい。

タクミはその怒りに満ちた瞳でカムイを見続ける。

そして、背を向ける。

 

「……これで勝ったと思うなよ、カムイ。リョウマ兄さんは既に、『虹の賢者』によって力を手に入れた。あんたたちが束になってかかっても、絶対に敵いはしない。」

「……リョウマ兄さんなら、試練を越えられると思った。」

「は?」

「何でもない。」

「訳のわからない奴め!それに僕だって、もっともっと強くなる!僕をここで殺さなかったこと、必ず後悔させてやるからな!」

 

そう言って、走って行った。

カムイはその背に手を伸ばした後、それを握りしめる。

その姿にカミラが頭を撫で、

 

「可哀想に、カムイ。でも気にしてはダメよ。あれは敗者の負け惜しみよ。それに、マークスお兄様だって、虹の賢者様より力を得ていらっしゃるわ。白夜王国軍こそ、私たちには敵いはしない。そうでしょう?」

「……そうかもしれないし、そうではないのかもしれない。」

「カムイ?」

「いえ、忘れてください。ところで、カミラ姉さん。姉さんにも命が下されていたはずですが……何故、ここに?」

 

カムイはカミラを見上げる。

カミラはカムイの頭から手を放し、

 

「実はね、マークスお兄様とレオンが私たちを送ってくれたの。私に下された命を肩代わりしてくれて。だからここからは、私も共にゆくわ。あなたを傷つける者はみぃんな……私が殺してあげる。」

「……できれば、それがない事を祈りますよ。」

「あら、優しいのねカムイ。」

「優しくなんてありませんよ。私は……最低のカムイ(自分)だ。」

 

カムイはそう言って歩いて行った。

そして船の用意ができ、カムイ達一行はノートルディア公国に向かう。

道中、カミラにアクアを紹介すると、カミラは泣いて彼女を抱きしめて謝罪と嬉しさを語った。

そして、大切な妹が帰って来たのを心から喜んでいた。

その姿に、アクアは戸惑いながらも嬉しそうに語り合う。

カムイはそれを嬉しそうに、けれど複雑な思いで見ていた。

素直に、アクアが二人と仲良くしているのは嬉しい。

けれど、自分もアクアと姉妹(きょうだい)として仲良くしたい気持ちがあったからだ。

だがそれはもうできない話。

なら、その想いは暗夜の兄弟姉妹(きょうだい)に任せるべきだ。

カムイはそっと傍を離れて、近くに居たリリスを抱きしめて海を眺めていた。

 

 

カムイはノートルディア公国に無事に到着した。

カムイは辺りを見渡し、虹の賢者が居ないかを確かめる。

だが、虹の賢者は見当たらなかった。

そしてもう一つ。

このノートルディア公国には、白夜軍が占拠していると聞いたがその姿はない。

あれば、自分達の進軍を撃墜にくるはずだ。

罠か、入れ違い……どちらにせよ、虹の賢者に会いに行かなければならない。

まずは白夜軍と虹の賢者の情報を集める。

カムイは近くを通りかかった女性に話を聞く。

話によれば、白夜軍は護衛と称して虹の賢者を連れて山に向かったと言う。

その山の名はノートルディア山。

そしてその山の頂上にある七重の塔にいるらしい。

カムイ達は、ノートルディア山にある七重の塔を目指して歩き出す。

 

ノートルディア山は、相変わらずの高峰だった。

皆、息を切らして山を登っていく。

そうこうしている内に、遠く小さいが、七重の塔の屋根が見えてきた。

カムイ達は士気を上げて、進む。

 

そして、七重の塔の少し手前で、白夜軍との戦闘を考えて準備を整えてから扉の前に立つ。

中から殺気が伝わってくる。

カムイは扉を開き、中へと進む。

白夜兵達を薙ぎ払い、奥へと突き進む。

と、矢が足元に飛んでくる。

カムイは立ち止まり、そこを見る。

そこには、弓を携えた少女と祓い杖を持った男性。

カムイは、この二人を知っている。

この二人はヒノカの臣下だ。

その二人はカムイを見ると、

 

「あ……カムイ様だ。初めまして、私はセツナ。ヒノカ様にはお世話になっています……。これからどうか、お見知りおきを……」

「……セツナ。相手は敵ですよ。」

「え?カムイ様は敵?だってアサマ、カムイ様はヒノカ様の妹君なのに……?」

「わかっていなかったのですか?」

「……いえ、わかっていましたよ。もちろん、わかっていました……では、今からすぐに死んでください。」

「そうですね、死んでもらいましょう。野蛮な国の方は……」

 

二人は残りの白夜兵と共に、武器を構える。

と、サイラスやジョーカー、ゼロ、オーディン、ニュクス、アクア、エリーゼ隊が前に出る。

 

「ここは、俺たちに任せろ!」

「はい、カムイ様。このジョーカーにお任せください。」

「もちろん、私も戦うわ。だから先に行って。」

「そうだよ、お姉ちゃん!任せておいて!」

 

カムイは頷き、

 

「分かりました。お願いします!」

 

ヒノカの家臣セツナとアサマは、サイラス達に任せて、カムイは階段を駆け上る。

と、カムイは白夜の忍と火の部族の娘とに出会った。

倒れていた自分を、白夜王国へと連れて行ってくれた人達だ。

 

「まさかアンタが白夜王国を裏切るとはね。」

「残念です、カムイ様。まさかあなたと闘う事になるとは思いませんでした。いえ……全ては私のせいですね。」

「……何故、お前のせいになる?スズカゼ。」

 

カムイが問いかけると、スズカゼは黙り込んでしまった。

隣に居たリンカが、その質問に答えた。

 

「お前とリョウマ、そして白夜王スメラギがシュヴァリエ公国に向かったあの日。あの日は、ススカゼを含めた白夜の忍びも何人か共に行っていた。」

「はい……そして私は見ていたのです。暗夜王ガロンが、軍を率いて向かっているのを。けれど幼い私は、その意味を解らなかった。その事を父たちに言っていれば、あんな事にはならなかった。」

 

スズカゼは拳を握りしめていた。

カムイはため息をついた後、

 

「それは、お前のせいではない。例え、解っていても変えられない運命はある。アレは必然だったんだ。お前のせいではない。」

「カムイ様……」

「そして、スズカゼ……今の私は、お前にとっては敵だ。」

「はい、そうでしたね。こうなってしまった以上、手加減は致しません。あなたを倒すつもりで……本気で相手をさせていただきます。」

 

二人は武器を構えなおす。

カムイも剣を抜き、構える。

外に控えていた白夜兵が襲い掛かる。

カムイはリンカとスズカゼの攻撃を受け止め、弾き返す。

そしてカムイは一歩踏み出し、リンカの斧を弾く。

そのまま、思いっきり蹴り込む。

 

「何故……殺さない。これが今の暗夜の……いや、カムイのやり方か……」

 

そして、気絶した。

スズカゼは眉を寄せ、

 

「リンカさん!くっ‼」

「さあ、来い。スズカゼ!」

 

カムイはスズカゼを見て、剣を向ける。

スズカゼも暗器を構えて、向かってくる。

その速さは、自分よりも速い。

けれど、ここで負ける訳にはいかないのだ。

カムイは感覚を研ぎ澄ませる。

昔教わった事を思い出す。

目だけを頼りにしてはダメだ。

カムイは耳と空気を読み取って、剣を振るう。

スズカゼの暗器を受け止め、竜の力を籠めて彼を薙ぎ払う。

スズカゼはそのまま壁に叩き付けられた。

 

「くっ‼……強い……ですね。信念を持った、迷いのない闘い方です……私はあなたを誤解していたのかもしれませんね。いえ、私はもしかしたら……」

 

そして崩れ落ちる。

カムイは剣をしまって、この階の兵達をカミラ達に任せて上の階へと進む。

扉を上げると、日の光が入ってい来る。

頂上は屋上だった。

そして天馬の羽ばたき音と共に、赤い髪の女性が空から降りてきた。

それは天馬に乗ったヒノカの姿。

ヒノカもカムイに気付き、

 

「カムイ⁉」

「……ヒノカ姉さん。ヒノカ姉さんの臣下の方々が居たので、もしかしたらと思ってはいましたが……やはり、ここで賢者様を守っていたのヒノカ姉さんだったのですね。」

「……ああ、そうか……本当にお前は暗夜を選んでしまったのだな。あんなに、お前に会いたくて仕方がなかったのに、また遠くへ行ってしまったのだな。」

「すみません、姉さん。言い訳はしません。姉さんが、私の事を想ってくれていたか、どれだけ帰りを待ってくれていたのかを知っています。知っていて、私は姉さん達を裏切った。私にはやりたい事が、やらねばならない事があるから。」

「……引き下がれぬと言うのだろう?私だって、よく分かっているんだ。過ごした時間は少なくとも、お前は……私の妹、なのだからな。」

「ヒノカ姉さん……」

「さぁ、カムイ。お前も強い意志と想いがあるのなら、来い。お前はお前の信念の元、この私を倒してみせろ!私は、お前たちに賢者様の力も、この国も、お前たちには渡さない‼」

 

ヒノカは凪刀を回転させる。

カムイも剣を構えて、彼女をしっかりと見つめる。

 

カムイはヒノカの剣を受け止める。

そこに、下の階で敵を倒してきたカミラ達が合流する。

カムイの竜の力に吹き飛ばされたヒノカは馬から落ちる。

ヒノカは馬から弾かれ、起き上げる。

 

「すみません、賢者様……私の力が及ばないばかりに……」

「うふふ……私たちの勝ちね。さあ、早く兵を退きなさい。じゃないと、せっかく助かった兵士たちもみんな殺しちゃうわよ?」

「くっ……‼やむを得ん……皆、この場は退くぞ!申し訳ないが、戦死者はここに残していくことにする……!」

「いや、その必要はない。」

「なに?」

 

さらに別の隠し階段から、傷を抑えて掛けて来たスズカゼとリンカがやって来た。

リンカは拳を握りしめていたヒノカを見て、

 

「どうやら皆、傷を負ってはいるが動けるようだ。今、お前の臣下たちが手当と脱出の指揮を取っている。」

「それは……本当か?」

 

ヒノカはリンカを見る。

そのリンカは力強く頷く。

ヒノカは瞳を揺らして、カムイを見る。

 

「まさか、カムイ……」

「私は、白夜を裏切ってしまったのだと思う。けれど、白夜王国とは戦争をしようとは思わない。私はただ、私のやるべき事をやらねばならない。その為に、私はこの選択を取る。」

「カムイ……ああ、今のうちに撤退させてもらおう。でないと、後ろで睨んでいる、今のお前の『姉』に殺されてしまう……その前にな。」

 

ヒノカは小さく苦笑した後、天馬に乗って空を飛んでいく。

リンカとスズカゼも来た道を戻っていく。

その姿をジッと見つめていた。

そんなカムイを抱き付き、

 

「まったくもう……カムイは優しいんだから。塔に入る直前に、白夜兵は殺すな……なんて指示を出すんだもの。お姉ちゃん、おかげでずいぶん苦労したわ。でも、カムイ……あなた、白夜王国とは戦争をしようとは思わない。そう言ったわね。」

「……暗夜王ガロンに報告しますか?ですが、命令では制圧。それが第一優先です。その過程で、白夜王国の兵を根絶やしにするであって、ここを制圧できれば彼らの暗夜進軍は遠くなる。」

 

カミラはジッと見上げるカムイの目を見て、微笑む。

そして、カムイを離して、

 

「……ふふ。いいえ、しないわ。だって、私たちの手を取ってくれたとしても、白夜王国はあなたの大切な故郷。大切な兄弟姉妹(きょうだい)が居る国ですもの。」

「……ありがとうございます、カミラ姉さん。姉さんの気持ちは素直に受け取りますよ。」

「ふふ、そうしてちょうだい。」

「はい。私は私のやり方で、この戦争を終わらしてみせる……」

 

カムイはカミラに振り返って言う。

と、何かの気配を感じた。

 

「……その言葉、本当ですか。」

 

振り返ると、リンカと共に撤退したと思ったスズカゼだった。

カムイは少し驚き、

 

「スズカゼ?すでに撤退したのだと思ったが……忘れ物か?忘れごとか?」

「……違います。あるとすれば、忘れごとの方です。それに、先に質問してるのは私の方です。」

「そうだったな。で、質問とは?」

「カムイ様……あなたはあなたのやり方で、この戦争を終わらせると仰いましたね。その言葉は本当ですか?あなたはその為に、暗夜王国にいるのですか?」

「ああ、そうだ。私は暗夜でやり残した事がある。白夜王国に居ては出来ぬ事が……その中に、暗夜の兄弟姉妹(きょうだい)達を今度は裏切る事は出来ないと思った。けれど、それだけではない。私は、私の目的の為に、こうしてここに居るんだ。こちら側でしかできない事を含めて、これ以上誰かの命が失われないように。」

 

その目には嘘はない。

そして拳を握りしめて、小さく呟く。

 

「あの時のようなことは絶対に……」

 

スズカゼはそのカムイの姿をジッと見つめていた。

そして、スズカゼはカムイの方へと歩いて行く。

剣を向ける彼らを止め、カムイは彼を見る。

スズカゼは膝を着くと、

 

「……そうですか。あなたの決意、確かに聞き届けました。カムイ様、あなたのその決意を聞いたからこそ、私は今これよりあなた様の仲間にしてくださいませんか?」

「……え?」

「お許しください、カムイ様。私は、あなたを誤解していました。あなたが白夜王国を去ったあの日……私たちを裏切り、白夜を滅ぼすことがあなたの目的なのだと思っていたのです。でも、それは間違いでした。あなたが暗夜王国側についたことには確かに意味があったのです。今後は私も、あなた様のお考えに付き従いたいと思っています。」

「……礼を言うよ、スズカゼ。お前の気持ちはとても嬉しい事だ。ありがとう……だが、今の私に付くと言うことは、この先白夜王国と戦うこととなる。お前に、白夜の裏切りの名がついてしまうのだぞ。それでも――」

「構いません。自分の選んだ道に、後悔などしませんよ。」

 

カムイをジッと見上げるその目はまっすぐ揺るがない瞳。

カムイは知っている。

この目の強さを。

それは自分が抱く瞳と同じなのだから。

カムイは小さく微笑み、

 

「わかった。これからよろしく頼むよ、スズカゼ。」

「はい、カムイ様。」

 

差し出すカムイの手を掴んで立ち上がるスズカゼ。

そして、カムイを見下ろすと、小さく笑った。

カムイは首を傾げると、

 

「いえ、申し訳ございません。カムイ様のしゃべり方や雰囲気が砕けていましたので……おそらくは、それが本当のあなたなのかもしれませんね。」

「……ああ、そうか。だろうね……」

 

カムイは自分の右掌を見て、握りしめた。

そして辺りを見て、

 

「そういえば……賢者様はどこに?この塔に居ると聞いたのだが……」

「そうですね……それなら、こちらです。」

 

と、スズカゼはある扉の前に立つ。

そしてカムイを見て、

 

「塔の頂上の扉を抜ければ、虹の賢者様の居場所まで辿り着けます。私が案内いたしましょう。」

 

スズカゼは扉を開けて、奥へと進む。

カムイ達はその後ろに付いて行く。

彼の案内された場所には、虹の賢者が座っていた。

カムイ達を見ると、虹の賢者は立ち上がる。

 

「……虹の賢者様ですね。」

「いかにも。わしが虹の賢者。よくここまで辿り着いたのう。」

「……賢者様、あなたに会えば力を得られるとお聞きしました。私たちに力を授けていただけませんか。」

 

そしてカムイはジッと虹の賢者を見る。

一呼吸置き、

 

「それに、私たちはこのノートルディア公国を制圧する為に来ました。」

「ふぉふぉふぉ、面白いことを言うのう。それに、制圧の事をわざわざ言うとは変わっておるのう。」

 

虹の賢者は髭を摩って、カムイを見つめる。

そして一呼吸おくと、

 

「力ならすでに、試練を乗り越えたお前さんたちのものになっておるよ。あの塔を破る前と比べて、体が軽くなっておるはずじゃ。」

「はい……」

「うむ。お前さんは気付いているようじゃな。では、他の者たちの為にも言うておこう。わしに会って得られる力と言うのはな、わしに会うまでの試練の中で自ら身につける力のことなのじゃ。よく頑張った。力を授かりし勇者たちよ。」

「ありがとうございます、賢者様。」

 

虹の賢者は微笑んだ後、カムイの腰に付いている夜刀神を見る。

 

「さて、カムイ。お前さんは神刀『夜刀神』を継ぐ者じゃな。」

「……はい、賢者様。ですが――」

「ふぉふぉ、わしには何でも分かるのじゃよ。」

 

それはあの時と同じ反応だった。

カムイは虹の賢者は優しく笑いながら言う。

 

「お前さんたちが今まで何をしてきたか、そして、どこに向かうのかもな。」

 

虹の賢者は真剣な表情になり、

 

「……わしは伝えねばならぬ。神刀を継ぐ者……カムイは、真の平和のために『炎の紋章』の謎を解き明かす運命にあると。」

「……『炎の紋章』……」

 

カムイは視線を落とす。

 

『だが、今回はリョウマ兄さん達はいない。夜刀神があの力を出すことはできないかもしれない。』

 

カムイが視線を上げると、虹の賢者は小さく微笑んだ後、

 

「この夜刀神は、『炎の紋章』を『繋ぐ』鍵となる。炎の紋章に至る第一の道標をわしが示そう。残念ながら……この場にはまだ、『夜刀神』を導く暗夜の勇者はおらぬ。」

「え……?」

「じゃが、遠からぬ未来……機は訪れる。その時、今から施す儀が役に立つはずじゃ。カムイよ。『夜刀神』を掲げるが良い。」

 

虹の賢者はそう言うと、瞳を閉じる。

カムイは剣を抜き、掲げる。

虹の賢者は開く。

 

「――我は神刀を鍛えし者、禁忌を犯せし者、伍色を紡ぎし者……我が名に応えよ、『炎の紋章』よ――」

 

夜刀神は光を帯びる。

カムイはあの時と同じ光景を見た。

虹の賢者はカムイを見ると、

 

「今はまだ、変わりはなかろう。暗夜の勇者と道を同じくする時……その時、『夜刀神』は新たな姿へと生まれ変わる。」

「それが……炎の紋章ですか?」

「いや、じゃがいずれ……そこに至るだろう。いずれ、な。わしが、お前さんの質問に答えられるのは、ここまでじゃ。さあ、先を急いでおるのじゃろう?早く帰って、任を終えた事を報告するとよい。」

 

カムイは剣をしまって、頷く。

 

「はい。ノートルディア公国の制圧も終わった。賢者様からの力を授かった。城に戻って報告を――」

「カムイ様。」

 

カムイはハッとした。

それは下の階から上がって来た暗夜軍師マクベスだった。

カムイは彼を見据え、

 

「マクベス……いつの間に、ここに来ていた。」

「おやおや、カムイ様。ずいぶんと苛立っていますね。なにか、知られてはマズい事でもしていたのですか?」

「……そんな事はない。」

「まあ、いいでしょう。これは幻影魔法……私自身は王城におりますよ。」

 

暗夜軍師マクベスは笑いながら言う。

カムイは眉を寄せる。

 

『あの黒竜砦の時と同じか……』

 

彼は続ける。

 

「私はカムイ様に、ガロン王様より下された追加の命をお伝えに参りました。」

「追加の命だと?」

 

彼はニヤッと笑みを深くして、

 

「はい……「今後、力を授かる者が出ぬよう、『虹の賢者』を殺せ」と。」

「な⁈賢者様を⁉そんな事を許すと思うのか!それに、白夜王国のリョウマ王子は既に力を得た後だ。今さら賢者様を殺して何になる‼」

「許すもなにも、これは王命ですぞ。それに申したはずです。これ以上、力を授かる者が出ないように、と。なにより、逆らえば反逆となり、王は再びあなたの処刑を考えられるでしょう。命が惜しければ聞き入れてくださいませ、カムイ様。」

「貴様‼」

 

カムイは暗夜軍師マクベスを睨みつける。

だが、そのカムイの前に虹の賢者が歩み出る。

ジッと、暗夜軍師マクベスを見て、

 

「……悩むには及ばん。そろそろ、潮時だろう。」

「賢者様?」

「安心せい、カムイ。わしには何でもお見通しじゃ。カムイ、ありがとう。わしを想ってくれて。じゃがな、もういいのじゃ……もう、いいのじゃよ。」

「もういいって……どういうことですか、賢者様?」

 

虹の賢者はカムイに振り返り、優しく微笑む。

 

「わしは、あまりにも長く行きすぎた……これ以上生きれば、やがて狂い、人々に災いをもたらす存在へと成り果ててしまうであろう。だから、元より死ぬつもりでおったのだ……お前さんたちに与える力を最後に……な。」

「そんな……あなたはそこまで……そこまで来ていたのですか⁉けれど、そんなのダメです!なにか……何か方法があるはずです!だからこれからも――」

「ありがとう。お前さんは本当に心優しい心の持ち主じゃな。その心がいつか、この世界に光をもたらすじゃろう。」

 

そう言って、虹の賢者は倒れ込む。

カムイは彼を支えて、横にさせる。

 

「例えそれがどんな色をしていても、お前さんに幸せがあるよう祈っておる……未来を生きるのだぞ、カムイ……」

「賢者様……?」

 

だが、彼はすでに息をしていなかった。

カムイは彼を床に降ろし、拳を握りしめた。

 

「なんで……賢者様‼こんなの嫌だ……こんなこと……目を開けてください、賢者様ーー‼」

 

カムイは涙を流す。

それを見た暗夜軍師マクベスはカムイと虹の賢者を見下ろし、

 

「ふん……確かに死んだようだな。虹の賢者よ。またしても王命を果たしたか……運の良い奴め……」

 

そう言って、暗夜軍師マクベスは姿を消した。

カムイは暗夜軍師マクベスの居た所を一睨みした後、横たわる虹の賢者に頭を下げる。

 

「お許しください、賢者様……あなたを救えなかった。ごめんなさい、私はあなたの願いには応えられない……私は自分の幸せを願えない……ごめんなさい、私の選んだ道で世界を平和にしたいと思っていたのに……少しでも大切だと想う人を……不必要な殺戮を防ぐ為に、多くの人を救う為に、この道を選んだのに……こんな事になってしまった。ごめんなさい、偉大なる(賢者)よ。」

 

カムイは涙を拭う。

立ち上がると、頬を両頬を叩く。

 

「私はあなたの犠牲を無駄にはしない。あなたからいただいた力を元に、私は……いえ、私たちは進みます。」

 

カムイは最後にもう一度、深く頭を下げてそう言った。

 

 

カムイ達はノートルディア公国を後にした。

向かうは暗夜城。

結果はどうあれ、報告をする為に戻っていた。

そしてカムイ達は古い城跡に来ていた。

 

「やっとここまで戻って来たか。王城まではまだ随分あるが、もう少しだけ頑張って進むか……」

「そうだね。さすがに疲れちゃったね。早くお城で休みたいな……」

 

カムイの隣に居たエリーゼが汗を拭いながら言う。

 

カムイとしてはここで一休みしたい所だった。

だが、暗夜王ガロンの命令を考えると、この先に待っているのは自分にとって不利な命令ばかりだろう。

自分がいかに彼の命令に従っているとしても、限界はある。

虹の賢者のような犠牲をもう出さない為にも。

そして、これから先に起こるであろう白夜の兄弟姉妹(きょうだい)達との戦い。

なら、暗夜王ガロンの命令を早めに聞き、対処を考えたい。

 

カムイは彼女を見て、

 

「……そうだな。すまないな、エリーゼ。かなり無理をさせているだろう。だが、あと数日もすれば王城に着くはずだ。それまで辛抱できるか?」

「うん!あたし頑張るね。」

 

彼女は笑顔でそう答えた。

そしてアクアと共に、今後の作戦を考えながら進む。

馬を走らせて、しばらくが経った。

カムイは後ろを走っていたエリーゼの様子がおかしい事に気付いた。

あの時は疲れているだけだと思ったが、そうではなさそうだ。

彼女は大量の汗を掻き、肩で息をしている。

その姿はあの時のタクミに似ている気がする。

 

「エリーゼ?」

 

カムイは皆に小休憩を入れる。

そして馬から降りて、エリーゼの側まで行く。

馬を止め、エリーゼが馬から降りると、

 

「あ、あれ……?おかしいな……なんだか、目の前が、回って……」

 

そう言って、エリーゼは膝を着いた。

カムイは駆け寄り、彼女を支える。

 

「エリーゼ!」

 

彼女に触れて、熱があるのが解る。

自分はあまりこういった事には詳しくはない。

だからカムイは叫ぶ。

 

「アクアさん!アクアさん、来て下さい!」

「どうしたの、カムイ?」

 

そして、駆けてきたアクアは状況を見て、エリーゼに駆け寄って彼女を見る。

カムイからも状況を聞いたアクアは眉を寄せて、エリーゼの腕の服を上げる。

そこには赤い発疹が出ていた。

 

「眩暈と熱、腕には発疹……まさか、この症状は……」

「アクアさん、もしかしてエリーゼさんは……」

「ええ、そのまさかよ。おそらくエリーゼは、島国特有の風土病にかかっているわ。ノートルディア公国で感染したものだと思うけれど……この病気は進行が早くて、放っておくと死に至る危険もある恐ろしいもの。白夜王国の薬草を用いた魔法薬があれば、すぐに治るけれど……でも、暗夜王国にその薬が存在するかどうか……」

「そんな……」

 

カムイは歯を食いしばる。

もっと早くに自分が気付いていれば何とかなったはずだ。

自分は事を急ぎ過ぎてしまったのか。

そう思っていると、

 

「おーい、カムイ!マクベスから伝令があったぞ!」

「なんだと?こんな時に!」

 

カムイは立ち上がり、伝令を持ってきたサイラスの元に駆けよる。

 

「まさか、また暗夜王ガロンからの命令か?」

「ああ、ノートルディア公国で手柄を挙げた褒美に、王の別邸のあるマカラスにて休息を取るようにとお達しだ。」

「……マカラス宮殿で休息だと?」

 

カムイは眉を寄せる。

そして、腕を組んで顎に指を当てる。

思い出していたのだ。

 

『……確か、マカラスには薬があったはずだ。だが、あの時とは状況が違う。もしかしたらないかもしれない。』

 

カムイは横目でエリーゼを一目見た後、

 

「この状況で、暗夜王ガロンがまた誰かを殺せと言う無茶な任務ならば、放棄しようかと思ったが……休息ならありがたく使わせて貰おう。エリーゼを休ませる。ついでに薬も何とかする。」

「ん?エリーゼ様がどうかなさったのか?」

「ああ。サイラス、すぐに皆に伝達してくれ。エリーゼが、ノートルディアで風土病にかかった。これより、マカラスに向かて急いで向かう。それと、エリーゼの臣下とフローラを呼んでくれ。」

「それは大変だ!わかった、すぐに伝えてくる!」

 

そう言って、サイラスは走って行く。

そしてすぐに、エリーゼの臣下二人とフローラがやって来る。

エルフィとハロルドはエリーゼを抱えて、荷台を作る。

そこにエリーゼを乗せて、馬を走らせる。

フローラの話によれば、幸いな事にマカラスに薬があると言うことだった。

また、マカラスには王国一の医師が常駐して、この世界の全ての薬剤が貯蔵されていると。

フローラとアクアは、その薬がどれかは解る。

なので、急いでマカラス宮殿へと向かう。

 

 

マカラス宮殿に着くと、様子がおかしい。

微かに感じる何か。

これは殺気だ。

仲間に待機を命じて、指揮はアクアに頼んだ。

カムイは数名を連れて、門を越えて中に入る。

と、その奥から人影が見えてくる。

 

「……宮殿の奥から、誰か来るな……」

 

カムイは夜刀神に手をかける。

奥から来たのは白夜王国の兵。

そしてもう一人、白夜王国の第一王子リョウマだ。

 

「…………」

 

カムイは剣は抜かずに、彼を見る。

リョウマはカムイを見て、

 

「……待っていたぞ、カムイ。」

「……リョウマ……兄さん……」

 

カムイは眉を寄せて、瞳を揺らす。

タクミの口から、虹の賢者様から力を得たと言うリョウマ。

そのリョウマが白夜ではなく、ここに居るのか。

だが、今となってはなんとなくだが解る気がする。

彼はきっと反乱軍と接触を取る為に姿を消したのかもしれないと。

 

リョウマはジッとカムイを見つめて、

 

「会うのはあの国境で別れて以来か?随分、久しいな。今ではすっかり、暗夜王国の戦士が板についているように見受けるぞ。」

「……兄さん、どうしてここに白夜軍がいるのですか?なぜ、私たちがここに居る……いや、来ると解ったのですか?」

 

カムイの頬に一筋の汗が伝う。

聞かなくても解る。

おそらくは、暗夜王ガロンか暗夜軍師マクベス辺りが何かをしたのだろう。

 

リョウマは腕を組み、

 

「それに答える必要は無いだろう。経緯はどうあれ、こうして出会ってしまった以上は剣を交えるほかない。」

「……それはできないんです、兄さん。今回は見逃してください。妹が……エリーゼが病気にかかって、一刻も早く薬が必要なんです。」

「ほう……?暗夜の王女が、病気なのか。」

 

リョウマは目を細める。

彼は腕を解き、

 

「……では、交換条件だ。」

「交換条件?」

「ああ。お前が白夜王国に戻るというのなら、俺は今ここで、兵を退こう。」

「……私が白夜王国に?」

 

カムイは驚く。

そして俯いた。

自分が戻れば、エリーゼは助かる。

また、あの時と同じ悲しみを味わう事はない。

 

カムイは首を一度振り、

 

「リョウマ兄さん……それは……できない。」

 

カムイは顔を上げる。

リョウマを、いや、リョウマの目をじっと見て、

 

「私はまだ、暗夜王国でやり残した事がある。それを終えぬまま、私は暗夜の兄弟姉妹(きょうだい)を裏切る事はできない!」

「それは、本当の兄弟姉妹(きょうだい)である俺たちを裏切ってまでの決意なのか。」

 

カムイは泣きそうな顔で頷く。

リョウマは一呼吸起き、

 

「……そうか。ならばやはり、闘うしかないようだな。さあ、刀を抜け、カムイ。その神刀で力を示してみせろ。」

 

リョウマは剣を抜く。

カムイは涙目になり始める。

 

「兄さん、やめてくれ!確かに、私は暗夜王国側についた。でも、私は白夜王国との戦争を望んでいない!誰も気付けたくないんだ!」

「ふん、綺麗事を!お前はそうでも、ガロン王は違うだろう⁉暗夜王国のやり方を知らぬお前に何がわかる‼」

「けど、兄さん!白夜王国と暗夜王国は、こうやって争う事はない!手と手を取り合って、共に歩んで行ける‼」

「カムイ、お前は知らぬだけだ!」

 

だが、リョウマの目はもう話を聞きそうにない。

カムイは剣を抜き、

 

「……フローラ!フェリシア!今すぐ門の側に皆に伝えろ!カミラ姉さんたちとエリーゼの臣下はエリーゼを守りながら、後退!お前たちは、アクアさんとレオンの臣下と共に薬を入手しろ!入手次第、カミラ姉さんたちと合流しろ!」

「「はい!」」

 

フローラとフェリシアが駆けて行く。

カムイは剣を構え、

 

「その間、私たちはこの人数で時間を稼ぐぞ!」

「はい!」

 

その声と共に、他の者達も武器を構える。

 

リョウマは気付いていた。

カムイが自分に向ける面差しや話し方は昔の幼い彼女だと。

彼女が自分に向ける瞳には、何か強い意志を感じる。

けれど、リョウマは一国の王子として引くことはできないのだ。

 

リョウマは剣先をカムイに向け、

 

「全員、戦闘準備!かかれ!」

「はっ!」

 

そして戦い始める。

横から、カムイを狙う暗器をスズカゼが弾く。

その暗器を投げたのはリョウマの臣下のサイゾウとカゲロウ。

サイゾウはスズカゼの双子の兄だ。

そのサイゾウとスズカゼは睨み合う。

 

「スズカゼ……まさか、お前まで裏切るとはな。白夜王族に仕える忍として、双子の兄として、残念に思うぞ。」

「兄さん……私たちは、生まれた時からずっと一緒でしたね。私は兄さんを落胆させるようなことは決してしたくないと思っていました。でも、私は誰に何と言われようと、あなたに罵られようと、カムイ様と共に居ることを選んだのです。例えもう兄弟に戻れなくても、兄さん……私は、あなたと闘います!」

「馬鹿な弟だ……お前は、本当に……」

 

そう言って、二人は武器を交える。

カムイはそれを横目で見て、

 

『すまない、スズカゼ。兄弟で戦わせて……本当の兄弟なのだ。きっと私以上に辛いだろうに……』

 

その中でも、カムイだけは兵を殺せずにいた。

リョウマはその姿を見て、

 

「やはり、お前は暗夜のやり方を知らぬ!ならば、力ずくでも、お前を白夜王国に連れ帰る……今日こそは一歩も引かぬ‼白夜王国第一王子の刀、受けてみよ!はあああっ‼‼」

「くっ……‼」

 

カムイはリョウマの雷撃を避けれず、身構える。

だが、その攻撃が当たる直前だった。

 

「……させないよ!」

「殺しちゃうのっ!」

 

カムイの前を青年と馬に乗った少女が通り過ぎて行く。

二人はリョウマの攻撃を反らし、交わし、反撃する。

カムイは二人を見て、驚いた。

その二人は、マークスの臣下であるラズワルドとピエリだった。

カムイは瞳を揺らす。

自分が白夜の兵として、暗夜城で戦ったマークスは死んだ。

二人は主君であるマークスを救えなかった事を悔やんでいたと聞く。

だが、ラズワルドの方はピエリを庇って死んだと。

その時にそう言っていたと、ピエリが自分を見て睨んでいたのを思い出す。

それを言えば、エリーゼの臣下たちもそうだ。

結果的には自分のせいで死なせてしまった。

彼らの瞳の奥にあった後悔と悲しみの目は忘れる事は出来ないだろう。

 

カムイは頭を振って、三人の方を見る。

と、リョウマの剣を避けて、カムイの前に立つ二人。

 

「ぐっ⁉な、何だ……⁉」

「ふうっ、良かった!間に合ったみたいだね。無事で何よりだよ、カムイ様!」

「危なかったの‼でもちゃんと助けたのよ!」

 

二人はカムイを見て、ホッとして笑う。

カムイは二人を見て、

 

「……マークス兄さんの臣下だったな。」

「はい。僕はラズワルド。主君であるマークス様から命を受けて、カムイ様に加勢しに来たんだ。」

「ピエリは、ピエリっていうの!マークス様、カムイ様の事とっても心配してたのよ。でも任務が忙しくて来れないから、臣下のピエリ達が代わりに来たの!」

 

カムイは立ち上がり、

 

「そうですか……それはありがとうございます。」

「なるほどな……道理で、俺の刀を止められるわけだ。あの男の臣下なら、相当の手練れの者たちだと見受ける。だが、俺の臣下たちも相当強いぞ。暗夜の者を簡単に勝たはせん。全員、気を引き締めてかかれ!」

「はっ‼」

 

リョウマの声に白夜兵達の士気が上がる。

カムイは眉を寄せて、

 

「リョウマ兄さん!もうやめてくれ!」

「カムイ様、諦めた方がいいの。向こうは結構やる気満々なのよ。」

「そんな顔しないで、カムイ様。こういう時は、嘘でも笑ってた方が元気になれるんだよ?ほらほら、こうほっぺたを上げて。」

 

と、ラズワルドがカムイに自分の方を上げてニッと笑う。

カムイは視線を外して、

 

「すまないが、今は笑えない。……笑えないんだ……この戦闘を早く終わらせたい。エリーゼの薬が早く見つかって欲しい。そしてあの子の笑顔をもう一度……」

「……!カムイ様、それってエリーゼ様に、何かあったってこと?」

「ああ、事態は一刻を争う。」

「えへへ……じゃあ早くあいつらを殺して、エリーゼ様を助けるの!敵はみーんな見事な肉塊にしてやるのよ!」

 

ピエリは笑顔で、白夜兵に槍を構える。

カムイは眉を寄せたまま、

 

「あ……」

 

だが、その先は言えなかった。

白夜兵を殺さないでくれと……

今は自分でも言った。

一刻の猶予もないと。

けれど、やっぱりそうだ。

それでも、自分は言わねばならない。

 

「やる気を出してくれるのは有り難い。だが、無駄な犠牲は出したくないんだ。だから……」

 

二人はキョトンとした後、ラズワルドは笑顔でカムイに言う。

 

「はい。ご命令なら、その通りに。犠牲を出さずに済むのなら、それが一番ですよね。」

「むー。殺さないなんてつまんないの!でも、ピエリもなるべく頑張ってあげるのよ。」

 

ピエリは頬を膨らませて言った。

カムイは武器を構え直し、

 

「ありがとうございます……よろしくお願いします。リョウマ兄さん、あなたとは戦いたくはなかった。そして白夜に戻る事もできない。だから今は暗夜の妹(エリーゼ)を守る為に、私はあなたに剣を向けます。」

「ほう、妹……か。お前にとっての妹は、暗夜王国にいるというわけだな。」

「…………」

「できれば俺も、お前とそんな風に兄妹(きょうだい)として過ごしたかった。」

 

そう言うリョウマの姿は、あの時のリョウマを想い出す。

兄妹(きょうだい)として過ごしたいと言ってくれたリョウマ。

血が繋がらないと解っていて、妹として、家族として向かい入れてくれたもう一人の兄。

けれど、自分はこの道を選んだのだ。

なら、迷いは捨てなければならない。

今から自分が相手をするのは白夜の最強の戦士(リョウマ)なのだから。

 

カムイは剣を向けたまま、リョウマを見据える。

リョウマも、剣を構えてカムイを見据える。

 

「……だが、今からでも遅くはない。この勝負に勝ち、お前を白夜に連れ帰る!いざ、尋常に……勝負!」

 

カムイは改めて、リョウマと剣を交じる。

しばらくして、カムイは肩で息をしながらリョウマの剣を受け止める。

と、カミラ達が駆け込んでくる。

それはつまり、薬を入手したと言うことだ。

なおかつ、カミラがここに来ると言うことはあちらの安全は確保できた。

カムイ達の士気は高まった。

カミラ達が合流してくれれば、形成は逆転できる。

それをいち早く理解したリョウマは、

 

「包囲を突破したのか……止むを得ぬ。皆、退け!暗夜の増援が来るまでに、この地を離れる!」

 

リョウマは馬を引き寄せ、乗る。

そしてカムイと無言で見つめ合った後、兵を率いて撤退していった。

 

リョウマ達が去った後、エリーゼを休ませる。

それでも、しばらくは警戒を怠る訳にはいかなかった。

 

「……白夜兵は去ってくれたようだな。」

「はい。これなら、安心してエリーゼ様を休ませることはできるでしょう。」

 

同じく、自分と見回りに来ていたジョーカー。

二人は少し安心してマカラス宮殿に戻る。

カムイはエリーゼの元へと行く。

 

「アクアさん、エリーゼさんの様子はどうですか?」

「大丈夫よ。今は眠っているわ。後は、もう少し安静に寝ているれば良くなるわ。」

「ありがとうございます、アクアさん。」

「構わないわ。……それとカムイ、気を付けなさい。あなたをよく思っていない暗夜王国の人間が居る。だから用心はちゃんとしていなさい。」

「はい……アクアさん。」

 

アクアのその表情は母であり、姉だった頃のようだった。

カムイは少し嬉しい気持ちになっていた。

懐かしい、あの時間を思い出し。

 

と、エリーゼが目を開ける。

 

「う……ん……カムイお姉ちゃん、アクアお姉ちゃん……」

「エリーゼ、良かった。気がついたみたいですね。」

 

カムイは膝を着いて、エリーゼの顔を見る。

エリーゼは眉を寄せて、悲しそうに言う。

 

「お姉ちゃん……あたし、夢を見たの……ギュンターが、あたしに話し掛けてくる夢……」

「ギュンターが?」

 

カムイは首を傾げる。

アクアはそれをじっと聞いていた。

エリーゼは続ける。

 

「うん……ギュンター、カムイお姉ちゃんのことをずっと気にしてたの。とても、寂しそうだった……ギュンター……大丈夫……きっと、もうすぐ……すぅ、すぅ、すぅ……」

 

そう言って、エリーゼは再び眠りについた。

カムイは立ち上がり、

 

「ギュンターの夢、か……。だが、おそらくあの日にギュンターは無限渓谷に落ちて死んでしまったはずだ。仮に生きていたとしても、こちらには帰って来れないだろう……会えることはできないだろうな。」

 

カムイは眉を寄せる。

そう、仮に彼が生きていても、こちらから透魔王国へと行く必要がある。

そして、自分が透魔王国へと向かうのはこれが終わってからだ。

だとすれば、彼に会うのは当分先へとなる。

おそらく、その頃には彼は死んでいるだろう。

生き延びたとしても、透魔王ハイドラが見逃すはずがない。

 

そんなカムイを、アクアは黙って見守っていた。

 

 

カムイ一行はエリーゼの体調が良くなったのを確認してから、王城へと帰った。

カムイはアクアを連れて王の間へと行く。

それは、今のアクアに暗夜王ガロンの状態を知ってもらうため。

そしてもう一つ。

暗夜王ガロンに、透魔王ハイドラに、アクアが今は味方であることを示唆させる。

その事で、アクアを守れると思ったからだ。

カムイとアクアが廊下を歩いていると、兵達が入れ替わり立ち代わりに、世話しなく動き回っていた。

すると、扉の前に暗夜軍師マクベスが笑みを浮かべて、

 

「おお、カムイ様。よくお戻りになられました。」

「……ああ、途中で休息を取れたからな。離したいことは山々あるが、今は暗夜王に報告が先だろう。」

「ええ、承知しておりますとも。」

「ところで、マクベス。王城が騒がしいが、何かあったのか?」

「シュヴァリエ公国で反乱があったのですよ。まだ活動は小規模ですが、今のうちに制圧しておくために兵を準備しているのです。」

「反乱……」

「ええ、詳しい事はガロン王様からお聞きになることでしょう。では、私はガロン王様にお伝えしてきますので、カムイ様は謁見の間へ。」

「わかった。」

 

カムイは思い出す。

やはりリョウマがあの場に居たのは、反乱軍にいるクリムゾンに会いに来ていたのかもしれないと。

 

しばらくして、暗夜王ガロンが姿を現して玉座に座る。

カムイを見下ろし、

 

「よく戻った、我が子よ。此度もまた、見事に任を果たしたそうだな。お前の成長には目を見張るものがある。父として、喜ばしく思うぞ。」

「……ありがとうございます。」

 

カムイは拳を握りしめて、顔には出さないように気を付ける。

暗夜王ガロンは続けて言う。

 

「さて、先程マクベスから聞いたかと思うが、数日前よりシュヴァリエ公国にて反乱が起こっておる。規模はまだ小さいが、あの国は優秀な騎士を輩出する国。その軍事力は侮れん。そこで、その反乱を平定するための正規兵を……カムイ。お前に率いてもらうこととする。」

「……私が、正規兵を、ですか?」

「ああ、そのお通りだ。」

 

カムイは眉を寄せる。

 

『……罠だな。何かを仕掛ける気だろうが……さて、どうするか。』

 

カムイは表情を戻し、

 

「何かの間違いでは?私には、それほどの力も、経験もありません。ここは他の者に任せた方が宜しいのでは。」

「何だと……?不服と申すのか。これはお前を信じての任務だ。わしを失望してくれるな、我が子よ。」

 

カムイは視線を外し、

 

「……わかりました。お父様の期待を裏切る訳にはいきません。その任を、お受けします。」

「期待しているぞ、カムイ。では、話は終わりだ。」

 

暗夜王ガロンは立ち上がる。

カムイは視線を彼に戻し、

 

「待って下さい。私からもう一つ報告が。」

「……何だ。」

「はい。白夜王国に連れ去られた王女……アクアさんが戻ってきました。」

「なに……?」

 

暗夜王ガロンはカムイの後ろに控えていたアクアを見る。

アクアも一歩前に出て、暗夜王ガロンを見上げる。

二人は黙って見つめ合う。

暗夜王ガロンは眉を寄せて、

 

「お前が……アクアか。」

「ええ。」

「ほう……久しいな。再びお前に会えるとは、思っていなかったぞ。お前もカムイと共に、反乱軍を平定してくるがよい。故郷を見て回るには、良い機会であろう。」

「…………」

「さて……今度こそ話は終わりだ。朗報を期待しておるぞ。我が子たちよ……」

 

そう言って、暗夜王ガロンは颯爽と謁見の間から出て行った。

カムイはアクアを見て、

 

「すいません、アクアさん。久しぶりの親子の再開を期待していたんですが、お父様は忙しいみたいです。」

「構わないわ、カムイ。私には、あれで十分だわ。私自身、こんな形で再開するとは思っていなかったから。声を掛けてもらえただけ、ましと言うものよ。」

「……そうですか、では戻りましょうか、アクアさん。」

 

二人は暗夜城に用意された部屋へと向かう。

カムイはアクアを部屋に残して、部屋を出る。

それは、暗夜王ガロンの用意した正規兵達を見る為だ。

兵達の居る広間へと向かう。

扉を開ける直前、

 

「おお……!カムイ王女!」

「ガンズ……」

 

そこにはあの日、自分達を襲った兵士ガンズがいた。

カムイは彼を睨みつける。

 

「そんなに睨まないでくださいよ。あれは手違いだったですから。しかし、正規兵を率いるというお話は本当だったのですね。さすがはカムイ様。王族らしく、実力がおありだ。」

「……私に、何の用だ。」

「ええ、私は貴女をお待ちしていたのですよ。私も王女と共にシュヴァリエへ向かう、正規兵の一人なのです。これからは私もお力添えしますゆえ、どうか大船に乗った気持ちでいて下さい。」

「……ほぅ、力添いか……私はまだ、無限渓谷での事を許していないのだが。」

「ですから、あれは手違いだったと申したでしょう。あの時の無礼、どうかお許しください。ですが、その結果的にはあなたのお力が認められ、ここまで上がりつめたのですから。私自身、驚いているのですよ。白夜王国の血族である貴女が、本当の故郷である白夜王国を、兄弟姉妹(きょうだい)を裏切って、こうして育ての親たる暗夜王国を、親を兄弟姉妹(きょうだい)を選んだ。ガロン王は、それを大変お喜びになっておられます。いやはや、本当に心強い。今後もどうか、よろしくお願い致しますね。」

 

そう言って、彼は歩いて行った。

カムイは気持ちを切り替えて、広間に入る。

正規兵達と挨拶を交わした後、旅の支度を始める。

次の日、カムイ達はシュヴァリエ公国に向かって進軍した。

 

カムイ達は無事、シュヴァリエ公国へとたどり着いた。

カムイは馬をおり、辺りを歩いて見て回る。

 

「……無事、シュヴァリエ公国にたどり着いたが……見たところ、今は反乱らしき活動は起きていないようだな。」

「そうねえ……今はアジトにでも戻っているのではないかしら。私たちもそろそろ休んで、明日に備えた方が良いかもしれないわ。公国内に古城があるようだから、今日はそこで休息を取りましょう。」

 

後ろから、カミラが歩いて来てカムイに近付く。

その隣にはエリーゼも居た。

カムイは彼女に振り返り、

 

「わかりました。」

 

カムイ達が歩き出すと、

 

「……来たね、カムイ。」

「……え?」

 

カムイは立ち止まり、振り返る。

その瞬間、カムイの頬を矢がかすめていく。

カムイの見つめるその先には、弓を構えていたタクミの姿。

 

「カムイ⁉」

 

カミラは口に手を当てて、声を上げた。

タクミは相変わらず怒りに満ちた瞳で、

 

「ふん……惜しかったな。本当は、頭を狙ったんだけど。」

「タクミ!やっぱり、お前だったか……」

 

カムイが進みそうになるのを、カミラが腕を掴んで止める。

 

「ダメよ、カムイ!危険だわ、下がっていなさい。」

 

そういって、カミラがカムイの前に立つ。

タクミは眉を寄せて、

 

「ふーん。そいつを後ろにやっていいの?そっちにも僕の兵たちがいっぱいいるんだけど。」

「やめるんだ、タクミ!私には白夜と戦うつもりはない!ただ、シュヴァリエ公国の反乱を止めに来ただけだ。これ以上、無駄な争いは――」

「無駄だって?裏切り者のクセに、正義ぶるな‼」

「――‼」

 

タクミは弓を下ろして、拳を握りしめる。

そこに、飛竜の羽ばたき音がして、一人の騎士が降りてきた。

 

「ちっ、やっぱり、お前たちは反乱を抑え込むつもりだな。ならば尚更、退くわけにはいかない。」

『……クリムゾン……』

 

カムイは拳を握りしめる。

彼女はそれほど仲が良かった訳ではなかった。

けれど、彼女は自分を引っ張ってくれたのだ。

それはまるで、自分にとっては初めての経験だった。

 

彼女は斧を構えて、

 

「私はクリムゾン!シュヴァリエの反乱兵をやってる。悪いけど、お前たちが暗夜王国を出た時から、ずっと後をつけさせてもらってた。同胞である白夜王国の兵に密告するためにね。」

「……そういうこと。とんだ裏切り者ね。」

 

カミラが目を細めて、彼女を見据える。

タクミはカムイを見ながら、

 

「はぁ?裏切り……?面白いことを言うね。クリムゾンはカムイと同じ事をしただけだよ。他国の者と手を組み、自国の民を罠に陥れた。」

「ちょっと待ってよ!カムイお姉ちゃんは、そんな事してないわ!」

 

エリーゼが腕を上げて怒りだした。

タクミは忌々しそうに、

 

「鬱陶しいなぁ……」

 

タクミは弓を引き、矢を放つ。

それは一直線にエリーゼに向かっていき、肩に突き刺さる。

 

「きゃっ‼」

「「エリーゼ‼」」

 

カミラがエリーゼに駆け寄り、矢を抜いて布を当てる。

カムイは剣を抜いて、二人の前に立つ。

タクミは再び弓を引き、

 

「目障りなんだけど……さっさと死んでくれないかな?僕やクリムゾンが望んでいるのは、この国を暗夜王国から解放すること……そして、暗夜兵の排除だ。僕たちと闘いなよ、カムイ。ガロン王もそれ望んでいるんだろう?僕たちが死ねばいいって思ってるんだろう?」

「違う!違うんだ、タクミ!こんな殺し合いをしなくても、解り合えるんだ!暗夜も白夜も!だから――」

「うるさい‼あんたのその戯言はもううんざりだ!今度こそあんたたちを倒して、白夜王国に平和を取り戻す!全軍、戦闘準備‼暗夜王国の兵を殲滅せよ!」

「タクミ!」

「殺してやる……そうだよ……お前たちさえ殺せば……そうすればきっと……この頭の痛みは、消えるはずなんだ……」

 

そう言って、矢を放つタクミ。

その矢をカムイは薙ぎ払う。

 

「カムイ様!」「カムイ!」

 

そして、カムイの仲間達がやって来る。

カムイは一呼吸して、

 

「全員、戦闘準備!フローラとフェリシアはエリーゼの手当てを!まずは目の前の白夜兵ならびに、反乱兵を止める!」

 

カムイは声を上げた。

 

「私は暗夜王国の支配には屈しないよ!この手で自由を勝ち取ってみせる!いくよ、みんな‼」

 

クリムゾンもまた、飛竜に乗って号令をかける。

戦闘はすぐに始まった。

それは広く、大きくなっていく。

途中、国境を護っていたシャーロッテとブノアという兵二人を仲間に入れた。

カムイは正規兵を使わない。

それは、暗夜王ガロンが集めた兵達だからだ。

彼らは信用できない。

だからこそ、信用できる仲間と戦う。

案の定、この闘いの最中に武器を持たない市民たちが襲われた。

カムイは仲間に民家の人々に忠告しに行ってもらう。

そして自分は、タクミとクリムゾンの相手をする。

 

「僕は今度こそ、お前たちに勝つ……暗夜王国の手の者は皆、消してやるさ。」

 

タクミは怒りを露わにしてカムイに矢を放ち続ける。

だが、カムイもそれを避けてタクミに近付いて行く。

それでも、すぐに飛竜に乗っているクリムゾンの攻撃によって後退させられる。

カムイは一呼吸して、

 

「やってみるか……」

 

カムイは手を前に出して、魔術を放つ。

 

「な⁉」

「タクミ!あいつは魔術も使えるのかい⁈」

「知る訳ないだろ!でも、だからなんだって言うんだ!」

 

タクミたちの前に、風が吹き荒れる。

飛竜に乗っていたクリムゾンは吹き飛ばされ、民家に叩き付けられる。

そのまま崩れ落ちる。

タクミもまた、顔を腕で守って踏みとどまっていた。

カムイはそこに踏み込み、タクミを蹴り飛ばす。

そして、尻餅ついたタクミの首に剣先を突きつける。

 

「くっ……また、僕の負けか……」

「ああ、もうお前は闘えない。兵を退いて、白夜王国に帰るんだ。」

「くそっ……なぜだ⁉なぜ僕はあんたに勝てない……!白夜王国を……母上やみんなを捨てて、暗夜王国についた裏切り者のあんたに!」

「タクミ……」

 

カムイの剣が下がる。

その瞬間、クリムゾンがカムイを押さえつける。

クリムゾンの後ろからカムイの仲間達が駆け込んでくるのが見える。

 

「タクミ!あんたは今のうちに兵を連れて一旦下がりな!」

「クリムゾン!」

 

クリムゾンはタクミを見つめ、

 

「リョウマに伝えおくれ!絶対に暗夜王ガロンに負けるなと!」

「くそっ!すまない、クリムゾン!カムイ‼絶対に、お前だけは許さない……殺してやる……ぶっ潰してやる……!必ず……‼例えどんな手を使ってもでも‼‼」

 

タクミは走って行く。

カムイは竜化して、クリムゾンを薙ぎ払う。

人型に戻ると、クリムゾンはカムイを睨みつける。

 

「私が負けても……シュヴァリエの誇りは負けないよ……」

「……ああ、そうだと思う。」

「は?」

「あなたの強い意志、自由を取ろうとする……あなたのその姿は私は知っているから。」

「……あんた……」

 

クリムゾンはカムイを疑問に思っていたようだった。

と、そこに、

 

「うあわぁあああ‼」

「悲鳴だと⁉まさか!」

「街の方からだ!」

 

カムイ達は、その悲鳴の上がった街の方に駆けて行く。

そこには、待機ならびに後退させていたはずの正規兵達が街の者達を、シュヴァリエの反乱兵(騎士)達を襲っていた。

そして、その指揮を取っていたのはあのガンズ。

彼らは楽しそうに、もてあそぶように剣を振るう。

 

「はははははは‼暗夜に逆らう者は皆殺しだああっ!」

「ぐ、は……っ‼」

 

カムイは拳を握りしめ、

 

「何をしている!私は待機を命じたはずだ!」

「おお、カムイ様。いやなに、なにやら白夜兵達と戦闘になったと聞いて駆け付けたのですよ。反乱を起こしたシュヴァリエ公国の者たちを処分しているんですよ。」

「……だが、私の命なしに動いたことには変わりない。将の命令なしに事を動かすことが、どういう事か解っているはずだ、ガンズ!」

 

カムイは剣先を向ける。

彼は一歩下がり、

 

「ですが、そもそもこの命令を下したのはガロン王様ですぞ。私はガロン王から、反乱者は殺せ、と命じられております。それを行ったに過ぎない。」

「だが、お前は殺した者達の多くは一般市民だ!」

「ですが、いつ武器を取って立ち上がるかわかったものではありません。この者達に何かされてからでは遅いのですよ?」

「それは違う!そんなものは、無抵抗の相手を嬲り殺すためのただの言い訳だ!それを理由に、命を奪っていいはずがないのだ!今すぐ、攻撃をやめろ、ガンズ!これは、命令だ!」

「くくく。」

「何がおかしい!」

「そもそも、あなたの口からそれを言うとは思いませんでした。あなたのその手は、一体何人の犠牲の血が流れているのですか?」

「――‼」

 

カムイは一歩下がり、剣を下ろす。

ガンズは続ける。

 

「それに、申したはずです。これはガロン王様の命令なのです。逆らうことはできませぬ。どうか、聞き入れてくださいますよう。では、私は任務に戻りますので。カムイ様は、先程の戦闘の疲れを癒していてください。」

 

そう言って、また一人、また一人、一般人が目の前で死んでいく。

クリムゾンは、押さえつけていたサイラスを薙ぎ払って、ガンズに斧を振るう。

 

「待て、クリムゾン!」

「うるさい!よくも、無抵抗の民を!」

「がはは!お前も反乱兵だな‼」

 

クリムゾンは簡単に倒された。

彼女の血が自分の足元を伝う。

本来なら、クリムゾンはガンズには負けなかっただろう。

だが、今の彼女は殺された(負けた)

当然だ。

先程まで、自分達と戦っていたのだ。

それに、さっきの魔法と竜の攻撃で彼女は立っているのもやっとだったはずだ。

カムイは膝を着く。

クリムゾンの流す血を見つめて、地面についた手を、彼女の血に染まった血を、無抵抗の一般人の流す血を、自由の為に闘っていた騎士達の血を、それらを握りしめてカムイは涙を堪える。

ここで泣く事は許されない。

ここで泣くのは彼らに対しての侮辱だ。

彼らの想いを、悔しさを、自分は受け入れなければならない。

 

そして、駆け付けたカミラはカムイの姿を見て、

 

「ああ、カムイ……可哀想に。こんな酷い光景、あなたには見せたくなかったわ。」

「カミラ姉さん……」

「可哀想に……逃げ遅れた白夜兵も、何人か犠牲になっていたわ。」

 

それを聞いて、カムイは顔を上げる。

辺りをもう一度よく見渡す。

彼女の言う通りだった。

中には白夜の兵達も交じっている。

 

「カミラ姉さん……これは誰の望みだと思いますか……暗夜王国の全てですか?それとも、暗夜王ガロンですか?」

「……カムイ……」

「こんな事を世界は望んでいるのですか?何の意味のないこんな殺戮を……。私は何をすれば良かったのですか?ここに、何の正義があるんですか?教えて下さい……姉さん。」

「……伝令を呼びましょう、カムイ。お父様にご報告しないと。そしてごめんなさい、カムイ。私はあなたの欲しい答えを出してあげられないし、教えてあげることはできない……けど、一つ言えることは、実の娘である私であっても、お父様に逆らっては殺されてしまうという事実。命が惜しければ、全てを受け入れることね。例え、目の前の光景にどんな思いを抱いても。」

 

そう言って、カミラは歩いて行った。

カムイは唇を噛みしめる。

 

『ああ……私は一体、どれだけの犠牲を払えば世界を平和にできるのだろうか……あの時間に帰るのだろうか……どれだけの人を殺せば……世界は平和をのぞんでくれるのだろうか……』

 

カムイは自分の手についた血を見る。

それを握りしめて、

 

「違う……これはだれも望んでいない願いだ……そんな願いの為に、多くの犠牲をだしてしまったんだ……私は……。私に力がないから……」

 

カムイは立ち上がる。

この殺戮を楽しむ兵達を睨み、そして自分の力のなさを呪った。

 

その後、全てが終わった。

一人、夜空を見上げていたカムイの後ろから、

 

「……大丈夫、カムイ?」

「なにがですか、アクアさん?」

「タクミやあのクリムゾンたちの事よ。あなたはタクミの事を一番気にしているように思えるから……だからこそ、彼は変わってしまったのがわかるの。私自身は、彼に姉兄(きょうだい)として認められていないけど……それでもタクミは、私に優しくしてくれたことがあったわ。それに……あんな風に声を荒げて、殺すなんて言う子じゃなかった。今の彼はまるで……」

「……ええ、タクミは昔から優しくて怖がりで……それでいて、寂しがり屋なんだ。それに比べて、自分は本当に情けない。私は昔、血の違う兄弟姉妹(きょうだい)と仲良くする事ができず、距離を置いていました。けれど、その距離を埋めてくれたのはタクミなんです。後ろをついて来て、恐がりなのに懸命に自分について来て……だからきっと、アクアさんの言う通りでしょうね。その原因を作ってしまったのは自分です。私は、この選択を選んだことを後悔したくない……けれど、心のどこかで後悔しているのかもしれない。私が白夜を裏切ったからタクミは……」

「……そうね。血が違うと言うのは時に辛いわね。私もそうだった。だから、暗夜の兄弟姉妹(きょうだい)とも、白夜の兄弟姉妹(きょうだい)とも距離を作ってしまっていた。今なら、その一歩をもっと早くに出していればと後悔している事もあるわ。けど、カムイが白夜を裏切ったからあの子がああなったと言うのは原因の一つかもしれない。でも、あの狂気じみた感情。あれは……今の彼は、本当のタクミなのかしら?」

「……多分、半分だけは別人……だろうな……」

 

カムイはアクアを見て、

 

「それに、クリムゾン達の事に関しては、私に力がなかったから救えなかった。」

「カムイ――」

「私は、私の力のなさを思い知らされた。こちら側でやらねばならい事があった。けど、それはこんな殺戮を防ぎたかった。暗夜王国も、白夜王国も救いたい……救わねばならない。それが私にできる彼らにできる償いだ。」

 

カムイは立ち上がり、

 

「夢に見た、あの平和の為に……」

 

カムイはそう言って、アクアの横を通り過ぎた。

アクアは胸に手を当てて、

 

「カムイ……」

 

 

その後、カムイ達は暗夜王ガロンの伝令の元、ミューズ公国・アミュージアに来ていた。

この国は中立国。

そして、ここには暗夜王ガロンは定期的に来ている。

前の時は、ここでの暗殺は失敗した。

今回はどうやるべきか……

と、考え込んでいた所に、

 

「カムイ、大丈夫よ。ここは中立国。何か起これば、国の信用問題に関わるわ。」

「……そうですね。」

 

それでも、カムイは視線を落として気に病んでいた。

そんな前から、

 

「随分と酷い顔をしているね、カムイ姉さん。」

「ん?」

「それと、気をつけなよ?安全だからと言っても、警戒は怠らない方がいい。中立であるって事は、いつ白夜の者が現れてもおかしくないんだから。」

「レオン。」

 

前から来たのは、レオンだった。

 

「久しぶり、カムイ姉さん。」

「……レオンも来たのだな。任務はもういいのか?」

「ああ。おおかた、終わったよ。今回の父上の警護が滞りなく終われば、後は好きにしていいってさ。だからこれからは、僕も一緒に闘うよ。」

「そうか。ありがとう、レオン。お前がいてくれるのは、心強い。」

「……ところで姉さん――」

「レオン様ー‼やっと来てくださったんですね!俺もうお傍を離れている間、心配で心配で煩慮の念が永き虚無に廃されるのではと……!」

「ご無事で良かったです。ガロン王様からの任務と言えど、一体どんなコトをやらされてるのか気が気じゃなかったんですよ……?」

 

レオンが何かを言いかけた時、彼の臣下二人がやって来た。

そして二人は彼に詰め寄った。

 

「う、うわっ⁉近い近い顔が近い‼心配してくれたのは解ったから、さっさと僕から離れろ‼」

「はーい、すみません。」

「ご命令とあらば従います。」

 

と、二人は離れた。

レオンはため息をついて、

 

「それより、そろそろ父上がここに到着される頃だ。僕は先にショー会場に向かうことにするよ。」

「ショー会場……」

 

カムイは視線を外して目を細める。

レオンは思い出すように、

 

「ああ、姉さんは知らないよね。初めてここに来るからね。ここミューズ公国のアミュージアは歌と踊りのショーが盛んなんだ。父上が来るといつも、盛大なショーを聞いて歓迎してくれるんだよ。」

「ああ、そうだな……」

「……ふう、姉さんもせっかくだから楽しむといいよ。戦士にも休息は必要だからね。ただし、あんまり羽目を外しすぎないように。それじゃ、また後で!いくよ、オーディン、ゼロ。」

 

レオンは二人を連れて、歩いて行った。

 

――レオンは臣下と共に歩きながら、ショー会場に向かっていた。

オーディンがレオンの横で、

 

「レオン様、なにかいい事でもあったんですか?」

「ん?いや、カムイ姉さんが変わったな、って思ってね。昔はどこか他人染みた雰囲気を創り出すことが多かったからね。でも……今はとても近くに感じる。」

「それは、良かったじゃないですか、レオン様。血の繋がりはなくとも、カムイ様はレオン様の姉君。カムイ様自身、歩み寄ろうとしているんじゃないですか。」

「だと、いいけどね。」

 

レオンは少し嬉しそうに微笑む。

だが、同じくレオンの横にゼロが、

 

「……ですが、時折カムイ様が見せる雰囲気や目は……アレはやばいですよ。とても、ずっと城の中にいた姫とは思えない瞳です。殺意、怒り、覚悟……何よりも、戦い慣れをしていらっしゃる。いくら、マークス様に剣術やレオン様から戦術を習っていたとは言え、すぐにあそこまで指示を出せるのは普通じゃない。」

「……お前の目から見てそうなら、そうなんだろうな。」

「はい。カムイ様は何かを隠している。そして、何かを覚悟している。けれど、カムイ様自身はとても脆い。俺の直感がそう言ってます。」

「……そう。」

 

レオンは真剣な表情で言うゼロを見て、眉を寄せた。

 

 

カムイは他の者達にも、好きに動くように伝えて、カムイは街を歩く。

気持ちを整理し、暗夜王ガロンの前に立つために。

 

「……さて、行くか。」

 

カムイはショー会場へと向かう。

会場に入ると、

 

「カムイ姉さん、こっち。」

「レオン……」

「人が多いからね。姉さんが無事に来れるか心配したよ。」

「流石に、迷子にはなりたくないな。」

「でも、いいタイミングだよ、姉さん。ちょうど、父上が到着されたところなんだ。」

 

そう言って、カムイを連れて上段へと上がっていく。

レオンがそこに座っている暗夜王ガロンの横へと行く。

 

「父上、カムイ姉さんが参りました。」

 

暗夜王ガロンは視線だけをカムイに向ける。

カムイは黙って彼を見る。

 

「……カムイか。シュヴァリエでの件は耳に入っておる。反乱兵のみならず、武器を持たぬ街の者たちまで根絶やしにしたそうだな。」

「ええ、その件に関してはあなたの用意した正規兵たちが頑張ってくれましたよ。」

 

カムイは表情を変えず、けれどその瞳の奥に敵意と殺意を向ける。

暗夜王ガロンは冷たい笑みを浮かべ、

 

「ああ、兵達からも聞いたぞ。その光景を涙を流ずに見続けていたと。その指揮も、止めはしなかったとな。よくやった、カムイ。父として、誇らしく思うぞ。反乱の目は早めに摘んでおくに限る。お前も、わしのやり方に賛同できるようになったのだろうな。……だが、お前はよっぽど見込みがあるな。その手には幾度となく、多くの命を奪ってきた。お前のその手は、一体何人の犠牲の血が流れているのだろうな。」

「……私の多くの犠牲の元にここに立っています。私はそれから逃げるつもりもありません。私は私のしてきたこの選択を、行いを決して否定しない。そうでなければ、ならないんですよ。」

 

そう言って、カムイは暗夜王ガロンと睨み合う。

その重い雰囲気に耐えられなくなったエリーゼが、

 

「もう、お姉ちゃんも、お父様も、もうその話はやめようよ。ほら、ショーも始まるよ!ね、ショーを見て気持ちを切り替えよう。」

「……そうだな。カムイも、そこに座るとよい。」

「…………」

 

カムイはレオン達と共に、暗夜王ガロンの下の席へと移動する。

カムイは無言で、レオンの横に座る。

前にはカミラとエリーゼが嬉しそうに、ショーの幕が上がるのを待っていた。

カムイは隣を見る。

そこは空席。

座るはずのアクアはここに来るまでに見かけていない。

暗夜王ガロンの側に居たくないのか、それとも何かあったのか……

カムイが立ち上がろうとした時、レオンがカムイの手を掴み、

 

「姉さん。もう幕が上がる。」

「……ああ。」

 

カムイは仕方なくそのまま留まる事にした。

カムイは舞台の方を見る。

幕が上がると、黒い服に身を包み顔を隠した女性が立っていた。

その女性は瞳を閉じたまま歌い出す。

 

「闇へと~進みゆく~♪」

 

そして目を開くと、手を左右に顔の横にあげて広げて歌い出す。

その彼女の周りには水が覆い始める。

カムイはハッとして、身を固めた。

その瞳を揺らしながら、歌う彼女を見つめた。

あれは……

 

そして、その動きに気付いていたのがレオンだった。

女性は踊りながら歌い続ける。

カムイは視線だけを暗夜王ガロンに向ける。

彼はあの時以上に苦しみ始めていた。

そう、人としての形を保つのにやっとであるかのように……

 

上ではざわつき始めた。

暗夜王ガロンの異変に気付いた暗夜軍師マクベス。

彼は脅えながら兵達に命令する。

舞台で歌う歌姫を捕らえろ、と聞こえてくる。

 

『……呪い。確かに、暗夜王ガロン(お前)にとっては呪いだろうな……』

「姉さん、これはまずいよ!とにかくあの歌姫を捕らえないと!」

 

レオンが立ち上がり、舞台の方を見る。

 

「あれ?舞台に、誰もいない……?」

 

カムイも、舞台の方を見る。

舞台の方には、彼女を含めて誰もいなかった。

カムイは立ち上がり、

 

「……逃げたのではないか?」

「けれど、まだ遠くには行っていないはずだ。追いかけよう、姉さん!」

 

そこに、白夜兵達が押し寄せてきた。

狙いは暗夜王ガロンの抹殺。

暗夜兵と白夜兵の衝突は会場を激しく揺らす。

そこにアクアが駆け付ける。

 

「カムイ……何があったの?」

「……アクアさんは大丈夫ですか?」

「ええ。少し気分がすぐれなくて席を外していたのだけれど……どうしてここに、白夜兵が?」

「……暗夜王ガロンの抹殺をしに来たのですよ。」

「そう……」

 

と、カムイは戦闘の間に背中に誰かと当たる。

それは狼の耳と尻尾を生やした青年。

 

「おっと、わりぃ!」

「……えっと、なぜこんな所に?」

「あー、道に迷っちまったんだ。そしたら、ヒトが沢山いるし、戦闘してるしでよ。」

「……そうですか。そうですね……この戦闘が終わったら外に出れると思うが、今は大人しく物陰に隠れていた方がいい。」

「なめるな!俺は誇り高き人狼、ガルー!名前はフランネル!俺も、この獣石を使えば戦える!だから俺も闘うぜ!」

「……闘う理由もないのにか?」

「あるぜ!こいつらを倒せば、俺は故郷に帰れるんだ!」

「……故郷……か。」

 

カムイは瞳を輝かして言う彼を、少し羨ましい気持ちで見る。

一呼吸置き、

 

「わかった。力を貸してくれ、フランネル。」

「おうよ!」

 

ガルーが仲間に加わり、カムイも戦闘に加わる。

カムイは辺りを見渡し、

 

『……自分としては、ここで暗夜王(あいつ)を殺せるのなら殺したいが……この状況化ではいささか問題があるか……ことと次第によっては、レオン達とも戦わなくてはならなくなる。』

 

カムイは気持ちを切り替えて、白夜兵達を撃退する。

なるべく、多くの者を白夜王国(故郷)に帰せるように……

そして分が悪くなる一方であった白夜兵達は撤退を始めた。

白夜兵達がいなくなると、

 

「……終わったか。」

「姉さん、調べてきたけど……あの歌姫は逃げたみたいだ。けど、父上をあそこまで苦しめるなんて……一体何者なんだ?」

 

カムイは無言でそれを聞く。

と、カムイの横に居たアクアに気付いたレオンは、

 

「……姉さん、その人は?」

「ああ……えっと、この人はアクアさん。お前のもう一人の姉……と言うことになる。」

「姉?……この人も暗夜王家の人なの?」

「ああ。私と対になって白夜王国に行った人だ。」

「ふーん。ま、そういう事なら……これからよろしく、アクア姉さん。」

 

レオンはアクアに手を差し出す。

アクアは少しだけ戸惑った後、手を握る。

 

「ええ。よろしく、レオン。」

 

しばらくして、暗夜王ガロンが歩いて来た。

 

「カムイよ。」

「……なんですか?」

「カムイ。これより、お前に命を下す。……このミューズ公国の歌姫を、全員始末せよ。」

「⁉それに、何の意味があるのです。あの歌姫が誰だか解らないと言って、全員を殺すなど……得策とは思えません!それに、攻めてきたのは白夜兵。ここの歌姫たちには関係のない事です!」

「愚かな……先程の女を捕らえることができなかった以上、仕方あるまい。疑わしき者は排除しておくのが得策……反乱の芽は、早いうちに摘んでおくに限る。お前も、そう思っているだろう?」

 

暗夜王ガロンは冷たい瞳でカムイを見下ろす。

カムイは剣の柄に手を握り、

 

「そんなこと……そんな無意味なこと……」

「姉さん。」

 

レオンは柄を握ったカムイの手に手を置く。

暗夜軍師マクベスとガンズが暗夜王ガロンの後ろ横で、

 

「承知しました、ガロン王様。」

「その命、我々にもお任せを。」

「期待しているぞ。マクベス、ガンズ。」

 

そう言って、二人は歩いて行った。

カムイは怒りをむき出しにしたまま、

 

「待て、二人とも!」

 

だが、二人はすでに遠くなっていた。

カムイは暗夜王ガロンを睨み見上げ、

 

「……よほど、殺戮を好むようだな……透魔王(暗夜王)。あなたの下す命は、いつも命を奪うことしかない。そんなに世界が、人が憎いか。他者と関わることすら、今のあなたの中にはないのか。戦争が終わった時、あなたの中には何が残ると言うのだ。」

 

暗夜王ガロンは眉を寄せ、

 

「……血迷ったか、カムイ。それはお前も同じ。お前も、今のわしと何も変わらぬ。そのお前が、それを問うつもりか。」

「確かに、私はあなたの下す命に、下された殺戮を止める力はなかった。けれど……今のあなたのやり方は理に反している。あなたが受けた想いも、願いも、何もかもが。確かに、人にも罪はあるだろう。けれど、だからと言って、殺すことが全てではない。そう言ったのは他でもない……あなただ。」

「……わしの望みは、白夜王国を支配すること。そして我が神の願いを叶える事だ。その為ならば、手段は選ばぬ。些細な問題など、捨てておけばいい。どうせ、取るに足らぬもの。逆らう者は皆、殺せばよいのだからな。」

 

カムイは暗夜王ガロンに背を向ける。

レオンがカムイを見て、

 

「姉さん、行こう。」

「ああ。」

 

そして三人は歩いて行く。

アクアに、他の人たちへの個人的な言付けを頼み、レオンと共に歌姫達の元へ急ぐ。

レオンが隣で、

 

「姉さん、どういうつもりなの?父上に、あんなこと……死にたいの?」

「私はまだ死ねないさ。やらねばならない事があるからな。」

 

カムイは立ち止まる。

そしてレオンを見て、

 

「レオン。お前は、暗夜王ガロンと同じ考えか?目的の為なら、罪もない人々を殺しても構わないと思っているか?」

「……思ってないよ、そんなこと。だからあの時だって……僕は父上の目を盗んで捕虜を助けたんだ。けど、表だって父上に逆らうわけにはいかない。そんなことをしたら、僕らもいつ始末されるかわかったもんじゃないよ。命が惜しければ、大人しく従った方がいい。」

「……お前も、カミラ姉さんと同じことを言うな。だが、それが良いのかもしれないな。お前たちにとっては。」

「姉さん?」

「……私は目を背けてはいけない。逃げ出すことも許されない。いや、許してはいけない。背けてしまっても、逃げ出しても、私のした罪は重い。その罪を受けいれ、私の為すべきことをする為なら、私はこの身さえも投げ出そう。」

「姉さん!」

「だが、それは今為すべきことをなした後だ。今は、この戦争を終わらせて、平和な世界を取り戻す。」

「……姉さん、今の姉さんは少し前の姉さんとはどこか変わった。それが、姉さんが僕に会うまでに受けた経験なら、僕は何も言えない。けど、父上のやり方なら姉さん以上に、僕たちの方が一番知っている。例え、エリーゼやマークス兄さんであっても、同じことを思うはずだ。」

 

カムイはレオンの服の襟を掴んで引っ張り、頭を撫でる。

そして離すと、

 

「それは分かっているさ。暗夜王のことも、お前たちのことも。だからこそ、私はあの暗夜王の命令には従えない。」

 

そう言って、レオンの横を通り過ぎる。

だが、レオンはそのカムイの腕を掴み、

 

「待って、カムイ姉さん。確かに僕らの考えは変わらない。けど、それは表向きの話だよ。」

「…………」

「だって、表向きは逆らうことはできない。でも、裏で動く事は出来る。姉さんみたいにね。さっきのアクア姉さんへの言付け。あれは、マクベスたちへの時間稼ぎでしょ。時間を稼ぎ、歌姫たちを逃がす。なら、僕も同じことを考えた。けど、姉さんは捕らえられた歌姫たちを救う手段がない。違うかい。」

「ああ、そうだ。」

「なら、そこは僕の出番だ。捕らえられた歌姫たちは僕がなんとかする。処刑される前に、僕が始末した事にする。でも、期待はしないでね。僕にできるのはこれくらいだから。」

 

カムイは小さく微笑み、レオンを抱きしめた。

 

「ああ。レオン、ありがとう……」

「別に姉さんの為じゃないからね。姉さんが悲しむと、カミラ姉さんたちまで悲しむから。だから……僕は僕のやり方で動く。それだけだよ。」

「ああ、それで構わないさ。」

 

そう言って、カムイが離れる。

と、レオンの持っていたブリュンヒルデ(魔導書)が光り出す。

 

「え……?ブリュンヒルデが、光ってる?それに、姉さんの夜刀神も……一体、どういうことだ?」

 

そう言って、レオンはカムイの腰の剣を見る。

カムイはそれを取り、

 

「……賢者様の与えてくれた力だ。」

 

レオンの持っていたブリュンヒルデの光が、夜刀神の中へと移る。

すると、夜刀神の力が上がり、剣も変化する。

 

「……これは……姉さんは、何か知っているの?」

「虹の賢者様より、道を同じくする暗夜の勇者にあった時、『夜刀神』は新たな力を得ると。」

「なるほどね。つまり僕が、その暗夜の勇者だってこと?」

「だろうな。お前の持つその魔導書も、『神器』だからな……賢者様の言っていた、夜刀神はいつか『炎の紋章』に至ると言った。それがもしかしたら、あれを殺せる力になるかもしれない……」

「あれ?もしかして――」

「暗夜王ガロンではないよ。けど、『炎の紋章』については詳しい事は解らない。」

「ふーん。でも、『炎の紋章』か……興味深い話だけど、今そのことを考えている時間はないね。こうしている間にも、マクベスやガンズが他の歌姫たちも捉え、殺しているかもしれない。僕はもう行くよ。」

 

そう言って、レオンは背を向けて歩き出そうとして、

 

「そうだ、姉さん。くれぐれも、父上には逆らわないようにね。次、逆らったら……本当に死ぬ事になるよ。」

「…………」

 

レオンの歩くその姿を少しだけ見て、カムイも歩き出す。

歌姫達を救い出し、逃がすことに成功した。

その夜、カムイ達はそのままミューズ公国で休むこととなった。

カムイは一人、夜道を歩いていた。

そして湖のある場所へと出た。

 

『……今回の件。あれはアクア姉様の仕組んだことだ。あの歌を歌ったんだ。アクア姉様が苦しんでいないといいのだが……』

 

カムイはアクアの姿を捜す。

彼女なら、こう言った人気のない場所を選ぶはずだ。

そのアクアを捜しながら、

 

『……暗夜王ガロンも、透魔王ハイドラも、もう狂いに狂っている。殺すことでしか、その想いを落ち着かせることができない。この選択を取れば、変われると思ったが……間違いだったのだろうか。災厄の場合は、マークス兄さんやレオン達を裏切ってでも……いや、その考えは前と同じ結果を生んでしまうのだろうか。やはり、白夜王座に座らせて……その正体を見せればきっと……』

 

そして、カムイは探し人を見つけた。

アクアは一人、どこかに向かって歩いていた。

そっと、その後ろを付いて行く。

 

しばらくして、アクアの歌が流れ始める。

 

「ユラリ~♪ユルレリ~♪」

 

歌いながら、湖の中へと入っていく。

カムイは疑問に思う。

今までも、湖の淵で水に浸ってはいた。

けれど、少しだけだ。

今の彼女は随分と深く浸っている。

そして、その姿は光と共に湖の中へと消えた。

 

「アクア姉様⁉」

 

カムイも、湖の中へと進んで行く。

 

『まさか……透魔王ハイドラに捕まったのか⁉』

 

そして、自分は何かに引っ張られた感覚と共に光と共に湖の中へと落ちた。

その強い光に、カムイは瞳を閉じる。

そして、地面にドサリと落ちた。

仰向けに会って瞳を開ける。

そこには青い空と白い雲が広がっていた。

それに加えて、欠けた大地が浮いていた。

顔を横に向けると、緑の草木の大地とコケに覆われた岩。

木々がほんの少し覆い茂っており、小さな池もある。

カムイはガバって起き上がる。

さらに崩壊した家屋や遺跡、井戸など様々なモノがある。

カムイは瞳を揺らす。

声を発する前に、

 

「どうして……」

 

カムイはハッとして振り返る。

そこにはアクアが立っていた。

その表情は不安そうに、眉を寄せていた。

 

「あなたがここに?」

「……アクアさんはここがどこなのか、わかるんですか。」

 

カムイは立ち上がる。

アクアは胸に手を当て、

 

「はぁ……来てはいけなかったわ、カムイ。あなたはここに来るべきじゃなかった。すぐに戻らないと。」

「……アクアさん……」

 

だが、そこに駆け足が聞こえてきた。

二人はハッとして、

 

「カムイ、危ない‼」

 

カムイはとっさに竜化した。

それは龍脈がつよいこの地なら、そっちの方がいいと思ったからだ。

カムイは自分に剣を振るってきた相手を見る。

黒い靄のようなオーラが纏っている兵。

その瞳に、光はない。

 

「……厄介ね。逃げるわよ、カムイ!こいつは人の姿をしているけれど、既に人ではない化け物。何の感情も持たず、何も話さず、生きている者を見境もなく襲う存在よ。近くに居ると危険だわ。」

「ですが、アクアさん。このままでは……逃げれない。すでに、囲まれている。」

「なんですって⁉」

 

カムイの言葉に、アクアは辺りを見渡す。

辺りには同じような者達が複数いた。

アクアは凪刀を構え、

 

「くっ……!仕方ないわね。ここで闘うしかないわ。安心して、カムイ。あなたは私が護るわ。絶対に死なせない。あなたに、あの真実を、伝えるまでは。」

 

そう言って、竜化したカムイの前に立つ。

カムイは襲い掛かる兵の剣を竜の腕でアクアを守り、

 

「それは私もです、アクアさん。私も、あなたを守りますよ。あなたを絶対に死なせない。」

「カムイ……」

 

そこに馬の駆ける音が鳴り響く。

そして岩を飛び越えて、槍で兵を斬り裂く。

その兵は泡となって消える。

 

「ご無事ですか。」

「……ギュンター⁈」

「むむ?その声はカムイ様⁉」

 

馬に乗った老兵は竜を見つめる。

カムイは人型に戻り、

 

「ギュンター!本当に、お前なのか⁉」

「おお、カムイ様!まさか、カムイ様が竜になられたとは……ですが、正真正銘、私はギュンターでございます。幽霊ではございませぬぞ?アクア様が竜と共に戦っている姿が見えましたので、加勢しに参りました!」

「……本当に生きていたのか……だが、アクアさんをギュンターが知っているとは……」

「いえ、カムイ様。お話したいことは山ほどありますでしょうが、まずはこの者共のを蹴散らさねば!」

「そう、だったな。すまない。」

 

カムイは再び竜化する。

そしてギュンターを見て、

 

「また、お前と共に戦得ること、嬉しく思う。ギュンター。」

「はい、カムイ様。」

 

三人は陣形を組んで敵を蹴散らしていく。

一通り蹴散らして、戦場を離脱する。

しばらく走り続け、岩陰に隠れて落ち着く。

 

「さて、ギュンター。改めて、お前に会えたことを嬉しく思う。だが、今まで何をしていたんだ?」

「はい。私はあの日……無限渓谷の谷底に落ちました。ですが、谷底に叩き付けられることなく、気が付いたらこの国にいたのです。そして何が起きたのかわからずに化け物に襲われ、命を落としそうになっていたところを、こちらのアクア様に……」

「アクアさんに……」

「ええ。私は白夜王国で居場所を追われるようになってから……平和への手がかりを求めて、何度かここに訪れていたの。そして、化け物に襲われているギュンターと出会った。」

「アクア様は、この世界で身を隠せる場所を教えて下さいました。アクア様と出会えなかったら、自分は今頃死んでいたでしょう。本当に、感謝しています。」

「いいえ……私に感謝される資格はないわ。私はあの後すぐに白夜兵に捕らわれてしまったから、なかなかこの国に来る事ができなかったもの。一人で残すようなことをしてしまって、ごめんなさい。ギュンター……」

「いえ。あなた様がご無事でなによりです。」

 

カムイはホッとしていた。

 

『なるほど……アクア姉様に保護される方が早かったから透魔王の目から逃れたのだろう。本当良かった。』

 

カムイは深呼吸し、

 

「ですが、お二人はこの国に付いてどれくらい知っているんです?」

「……そうね。ここは白夜王国でも暗夜王国でもない、すぐ傍にありながらも決して『見えない』国。ここは私たちがいた世界とは時空がずれて存在してる。そして、この国の存在を知っていても口に出してはいけない。この国以外で口にしてしまえば、呪いにかかり泡となって消えてしまう、そんな国よ。」

「…………」

「だからカムイ。決して、元の世界に戻っても口にしてはダメよ。この国の事は絶対に秘密にしておくのよ。」

「分かりました。」

「……じゃあ、元の世界に戻るわね。二人ともついて来て。」

 

アクアは歩き出した。

二人もその後ろに付いて行く。

そしてアクアは崩れた大地の一角の端で立ち止まる。

 

「いい?ここが元いた世界の、無限渓谷に相当する場所よ。ここから飛び降りれば、元の世界に戻れるわ。」

「へぇ……アクアさんは、いつもこんなことをして戻っていたんですか……凄いな……」

「凄くないわ。私はいつも、湖の中から行き来しているから。」

「……なら、その方法ではダメなんです?」

「ええ。湖の中を行き来できるのは、私とカムイだけだもの。ギュンターを連れて行くには、この方法を使うしかない。」

「……どうしてです?」

「それは…………それは今話すことじゃないわ。とにかく今は、一刻も早く元の世界に戻りましょう。またあいつらが襲ってきたら厄介よ。」

 

そう言って、アクアは飛び降りた。

カムイはそれに驚きながらも、

 

『……なるほど。加護の話かもしれないな……』

 

そして小さく笑い、

 

「ギュンター、お前はどうする?私たちも、アクアさんみたいに何の躊躇いもなく飛び降りてみるか?」

「はい。我々も飛び降りましょうか。なに、私がカムイ様の御身をお守りするため、しんがりを務めます。」

「……ふう、私が先か。よし、では行くか……遅れるなよ、ギュンター。」

「はい。」

 

カムイはそこに向かって飛び降りた。

暗闇の中、カムイは落ちていく。

そして瞳をあけると、

 

「おかえりなさい、カムイ。」

 

アクアがホッとしたように、自分の顔を覗き込んでいた。

カムイは小さく微笑み、

 

「戻って来たんですね。」

「ええ。」

 

カムイは起き上がり、周りを見る。

 

「……アクアさん、ギュンターは?まさか失敗したんじゃ……」

「心配しないで。ちゃんと飛び降りたのなら、必ずここに戻って来られる。ただ、さっきも言ったように……あの世界とこの世界は時空がずれているから、到着する時間が少しだけ違いが生じることがあるの。……でも、丁度良かったわ。彼を待っている間、あなたに話ておきたいことがあるの。」

「話?」

「ねえ、あなたはこの戦争を自分のやり方で止めたいと言っていたわね。それなら、あなたがやるべき事は一つだけ。それは――」

「暗夜王ガロンを殺すこと、ですか。」

「カムイ、あなた……」

「暗夜王ガロンの様子が異常なのは見ていて分かっていましたから。何かに呪われているかのように。そして、実の子ですらも殺すことを躊躇しない心。自国の民ですらも平気で殺すことのできる非情さ……」

「ええ……あのガロン王は、もはや暗夜王ガロンではないわ。悪魔に魅入られた、この世のものではない何かなの。あなたになら、真実を見せる事ができるかもしれない。これを使って。」

 

カムイは一つの水晶をカムイに手渡す。

カムイはこれを知っている。

前の時に、レオンに渡していた水晶だ。

カムイが受け取ると、

 

「これは『あの国』で作られた道具……真実を映し出す水晶球よ。」

 

カムイは心の中で、

 

『そういえば、シグレお兄ちゃんが言っていたなぁ……。透魔王国には、色々と不思議な道具が揃っていると……』

 

アクアは水晶球の説明を続ける。

 

「これを使えるのは、レオンのようによほど強い魔導を持つ者か……あなたのように、竜の血を強く受け継ぐ者だけなの。」

「……へえ、そんなものがあるんですか……」

 

カムイはジッと水晶を見る。

そこに映るのは暗夜王ガロン。

その顔が徐々に崩れ落ち、その顔は泥のような人とは思えない姿へと変わる。

もう、人としての役割を終えた体はその機能を果たしていない証拠であった。

そして、持っていた水晶球は粉々に砕けた。

 

「さあ、これで真実を見せる事ができたわ、カムイ。ガロン王の真実が。」

「……はい。」

 

カムイはアクアを見る。

 

「アクアさん。一つ聞いても良いですか?もはや、人でなくなってしまった暗夜王ガロンを救う手立てはないのですか。」

「残念だけど……もう手遅れよ。ここまで怪物に取り込まれてしまったら、もはや倒すしか道はないわ。私も、できるだけのことはしてみたの。アミュージアの……あのショー会場で。」

 

アクアは首を振って、瞳に影を落として言う。

カムイも同じように瞳に影を落とし、

 

「そう、ですか……。でも、あのショーの歌姫は、やっぱりアクアさんだったんですね。」

「ええ。私の歌にも、少しだけ不思議な力があるの。だから、もしかしたらガロン王を元に戻せるかと思ったのだけれど……ダメだったわ。その上、私が歌ってしまったせいで、あの国の歌姫たちは酷い怪我を負わされる羽目になってしまった。私は自分の目的のために、他人を傷つけた……決して許される事ではないわ。」

 

アクアは持っていた凪刀を握りしめる。

カムイは眉を寄せて、

 

「そんな……私も同じです。犠牲を出したくなかったのに、私は結局多くの犠牲を出してしまった。罪もない人々を、己の正義を信じて闘う騎士(戦士)たちを。」

「カムイ……」

「……もう二度と、あんな悲劇を繰り返さない為にも……私はやっぱり暗夜王ガロンを討つ。例え、その前にマークス兄さんたちがいようと……」

「待って、カムイ。マークスたちの……兄弟姉妹(きょうだい)たちの理解を得る方法を使えばいいわ。」

「ですが、その理解を得る手段がありません。説明しても、きっとわかってはくれない。説明したくとも、口に出すことができない『あの国』の事も含めて。それに、今のように水晶球で見せようにも、水晶球は砕けてしまった。白夜の玉座に暗夜王ガロンを座らせようにも、もうその手段を得るには白夜を攻めるしかない!」

「カムイも、それに気付ていたのね。」

 

アクアは悲しそうな瞳でカムイを見る。

アクアは涙を堪え、震えているカムイの方に手を乗せ、

 

「けど、その方法でしか……彼らに伝える手段はないわ。戦争を早く終わらせて、兄弟姉妹(きょうだい)たちに真実を教えるの。その為にも、暗夜王ガロンの命令に従い、白夜を攻め落とさなければならない。白夜の兄弟姉妹(きょうだい)たちと戦わねばならない。暗夜王ガロンを、玉座に座らせるまで……あなたにとっては、とても辛い闘いになるけれど……」

「……大丈夫です、アクアさん。元より、私は暗夜王ガロンを討つ(止める)為に暗夜王国に戻った。たとえそれが、白夜の兄弟姉妹(きょうだい)たちと戦おうとも。確かに苦しくて辛い……けれど、私は止まる訳にはいかないんです。だから戦います。だから暗夜王ガロンの命令にも従います。全ては白夜と暗夜の戦争を終わらせて、平和な世界を取り戻すために……それが、誰にも理解されずとも、どれだけ恨まれ、蔑まされようと。」

 

カムイはジッとアクアをまっすぐ見る。

そして、強く手を握りしめる。

 

『そして、透魔王国(あの国)を救うために……、アクア姉様(あなた)を救うために。』

 

アクアはカムイの方から手を放し、

 

「そう……あなたがそう決めたのなら、私も付いて行くわ。暗夜王国が勝利する、その時まで。」

 

アクアの瞳に、強い決意が生まれたのが解る。

そこに、馬の足音と、人の歩く足音が聞こえてきた。

 

「おお‼カムイ様、アクア様!お待たせしてしまったようですな。今戻りましたぞ。」

「お帰り、ギュンター。」

「無事に戻ったようで、良かったわ。それじゃ、みんなの居るところへ戻りましょう。あまり遅くなって、ガロン王に余計な詮索をさせるわけにはいかないもの……」

 

カムイは頷き、皆がいる場所へと戻る。

 

カムイはギュンターを連れて、暗夜王ガロンの前に立つ。

ギュンターの説明をあらかじめ用意していた理由で、説明する。

暗夜王ガロンはギュンターを見下ろし、

 

「そうか……よく戻ってくれた、ギュンターよ。歓迎しよう。」

「はい、ありがとうございます、ガロン王様。」

「だが、まさかあの無限渓谷に落ちて生還するとはな。こうして生きて帰ったことを、嬉しく思うぞ。」

「よくぞご無事で、ギュンター殿。」

 

暗夜王ガロンの側に控えていたガンズが、ギュンターを見て笑う。

ギュンターは少し眉を寄せて、彼を見る。

だが、何かを言うことはなかった。

暗夜王ガロンは肘を着き、

 

「さて、ギュンターも戻ったところで今後の戦について話をしたい。我が暗夜王国と白夜王国は、いよいよ本格的に全面戦争に突入するだろう。そこで、この港街アミュージアに陣地を置き、先発部隊を白夜領内に送る。カムイ。お前がその先発部隊の指揮をせよ。」

「……わかりました。ですが、どうやってです?」

「そうんだな……進軍には陸路ではなく、海路を使え。陸路で待ち受けていると思われる白夜王国軍の裏をかくためだ。……その間に、わしは一旦城に戻る。頃合いを見計らい、陸路より兵を送るためにな。マクベス、ガンズ。お前たちはわしと共に来るがよい。」

 

暗夜王ガロンは横に控えている暗夜軍師マクベスとガンズを見る。

二人は頭を下げ、

 

「ええ、仰せのままに。」

「承知しました、ガロン王様。」

 

そして暗夜王ガロンはカムイをもう一度見下ろし、

 

「期待しているぞ、我が子よ。」

「ええ、あなたにとって良い報告をできるように、頑張りましょう。」

 

カムイは一度頭を下げて、言う。

と、暗夜軍師マクベスはカムイを見て、

 

「……そういえばカムイ様。ギュンターが戻って来たのは宜しいですが、昨晩はアクア様と、どちらに行っていらしゃったのですかな?」

「……そうれはどういう意味だ。」

 

暗夜軍師マクベスは目を細めて、

 

「いいですか?私は昨日……夜道を歩くあなたを見ました。そして、アクア様を追ってどこかに行かれるのを拝見したのですよ。まさかとは思いますが……白夜の者と内通しているなどということはありますまいな?」

「そんなことはない。私はただ、散歩していただけだ。」

「散歩?」

「……当然だろう。アミュージアでの事を想い出し、はやる気持ちを抑える為に散歩をしていたのですよ。ですが、一人では落ち着きそうになかったのでアクアさんに同行をお願いしたんですよ。そうしたら、怪しい兵たちと鉢合わせになり、私たちを襲ってきたので返り討ちにしただけですよ。」

「なっ⁉」

 

暗夜軍師マクベスは驚いたように、顔を引きつった。

アクアも驚き、

 

「カムイ……?」

「ほら、その証拠に私やアクアさんの服には返り血があるでしょう?どこの兵かは知りませんが、王族である私たちを襲って来たんです。殲滅しても、文句は言えませんよ。それこそ、お父様の言う通り……反乱の芽は、早いうちに摘んでおくに限ります。さて、私は何かおかしなことを言いましたか?」

 

カムイは笑顔でそう言った。

そして、睨むように暗夜軍師マクベスを見据える。

暗夜軍師マクベスは一歩下がり、

 

「い、いえ……立派なことでございます……」

「そうか、それは安心した。では、行って参ります、お父様。」

「ああ。」

 

カムイは暗夜王ガロンを笑顔で見て、背を向けて歩いて行く。

 

しばらく歩き、カムイは壁を「ドン!」と叩く。

 

「くそっ。マクベスめ……余計なことを言わせる。」

 

そして、途中で別れたアクアが歩いて来て、

 

「ねぇ、カムイ。さっきはどうしてあんな嘘を?」

「嘘ではないですよ、アクアさん。どこぞの化け物だったとはいえ、あの国の兵と戦ったのは事実。闘った場所は言えませんが。」

「それは……ガロン王に自分を信用させるため?」

「そうですね……元々、私は信用されていませんから、本格的にやると決めた以上はやるべき事、打てる手はすべて打っておきたい。その為にも、ガロン王の信用は得ておいた方がいい。でなければ、戦争が終わってもあいつを玉座に座らせることはできない。」

「……そうね。でも少し驚いたわ。あなたが本当に、暗夜王国に染まってしまったのではないかと。」

「アクアさんに、そう思われるのなら……成功ですね。戦争を終わらせてるまでは、これを演じ続けなければならない。例え、その先に何があろうと、どんな辛い事があろうと……」

「ええ……」

 

そう言って、歩き出したカムイの背を見ながらアクアは頷く。

そして、悲しそうにその背を見つめるのだった。

優しく、泣き虫なあの子(カムイ)が必死に自分を殺して進むこの選択を。

あの無邪気で輝いた瞳に宿す影と闇。

けれど、それと同じだけ希望を抱く瞳。

昔のあの子(カムイ)は、もうどこにもいないのかもしれないと……

 

翌朝、カムイは船場に向かう。

船の手配を進めていたレオンの元へ歩いて行き、

 

「レオン。そろそろ手配した船が来る頃か?」

「ああ。しばらくここで待っていよう。あ、そうだ、さっきマクベスから軍資金を預かって来たんだ。少しだけどお役立てください、だって。」

 

カムイはレオンの手からどっさりと入った袋を受け取る。

カムイはあきらさまに、嫌な顔をして、

 

「……こんなに……本当に出発できるなろうか。」

「姉さん、それはさすがにマクベスが可哀想だよ。確かに、どういう風の吹き回しだか知らないけど、貰っておけるものは貰っておこうよ。今後何かの役に立つかもしれないし。」

「……そうだな。有効的に使わせて貰おう。」

 

と、カムイは軍資金を縦に振る。

お金がチャリチャリ言う。

レオンは苦笑して、

 

「そうだね。」

 

と、カムイの背後から馬の駆ける音が鳴り響く。

 

「⁉カムイ姉さん‼」

「――‼」

 

カムイはとっさに剣を抜き、振り返る。

そのカムイの瞳に映ったのは馬に乗ったマークスの姿。

彼の手には剣が握られており、自分に向かって振り下ろす。

カムイはそれを受け流し、横に避ける。

マークスは馬の手綱を引き、

 

「見事だ、カムイ。良い反応だったぞ。」

「マークス兄さん……」

「久しぶりだな、カムイ。」

「ええ、お久しぶりです。ですが、いきなり斬りかかって来るなんて、ヒドイですね。」

「すまんな。『虹の賢者』から無事に力を得たと言う話を聞いて、どうしても試してみたくてな。だが、うむ。どうやら、実力もついているようだな。」

「……では、そういう事にしておきましょう。ですが、マークス兄さん。どうしてここに?」

 

カムイは剣をしまう。

マークスも剣をしまい、馬から降る。

 

「ああ……やっと父上からの任が全て片付いたんだ。それで、お前たちを追ってここに来た。……白夜王国に行くのなら、私も共に闘おう。」

「……ありがとうございます。兄さんがいれば、千の兵を得たも同然。これでまた一つ、心強い味方が増えました。」

「そうか。それは光栄だな。」

 

その後、マークスは臣下達に会いに歩いて行った。

しばらくして、マークスが戻ってくる。

そこには、カミラとエリーゼも一緒だった。

と、レオンが小さく笑い、

 

「マークス兄さんが来てくれて、これで兄弟姉妹(きょうだい)全員が揃ったね。」

「そうね。こうしてみんな揃って闘えるなんて……とても幸せだわ。」

 

カミラも微笑みながら言う。

カムイは視線を落とし、

 

『……兄弟姉妹(きょうだい)全員、か……』

 

エリーゼがとびっきりの笑顔で、

 

「えへへ!それに、新しい兄弟姉妹(きょうだい)のアクアお姉ちゃんもいるもんね!」

 

と、カムイの後ろに居たアクアを引っ張り出して言う。

アクアは小さく微笑み、

 

「……ええ。」

 

だが、マークスはアクアと聞いて、眉を寄せる。

アクアをじっと見て、

 

「アクア……?ではお前が、あの日連れ去られた妹か?」

「覚えているの?この国にいた頃の私を……」

「覚えているに決まっている。何度も顔を合わせた事もあったからな。けれどあの頃、お前の周りの王侯貴族たちから酷く虐げられていて……」

「……アクアさんが……」

 

カムイは眉を寄せて、アクアを見る。

マークスが言うほどだ。

相当ひどい仕打ちを受けたのだろうと思う。

アクアは視線を外して、俯いていた。

カムイはマークスを見ると、彼は眉を深く寄せて、

 

「アクアは父上の後妻で、今は亡きシュンメイ王妃との間の子なんだ。再婚当時は、私の母親で前妻のエカテリーナの派閥が力が強くてな。シュンメイ王妃とその娘の存在が貴族たちにとって気に食わなかったらしく、私もカミラも、しばらくして生まれたレオンも、アクアには関わるなと言われ続けてきたんだ。だが、私たちはずっと、アクアと兄妹(きょうだい)として過ごしたかった。」

 

マークスは俯いているアクアの前に立つと、

 

「……よく戻って来てくれたな、アクア。心から歓迎しよう。」

「マークス……ありがとう。」

 

アクアは顔を上げて、笑顔になって言う。

カムイは少し視線を外した後、アクアを見て微笑む。

 

「良かったですね……アクアさん。」

「うーん!よーし!あたしたち6人兄弟姉妹(きょうだい)で、白夜王国にしゅっぱーつ!だね。」

 

エリーゼが両手を上げて叫んだ。

カミラは頬をに手を当てて、

 

「あらあら、遊びに行くんじゃないのよ?ちゃんと気を引き締めなきゃ。」

「そうだね。敵の本拠地に乗り込むんだから、相応の覚悟をしないと。」

 

レオンも腕を組んで言う。

マークスもフッと笑い、

 

「大丈夫だ、私たち兄弟姉妹(きょうだい)ならやれる。そうだろ?カムイ。」

「……ああ、きっと大丈夫だ。きっと……平和を取り戻すその日まで……私が何としてでも……」

 

カムイはジッと海の向こうを見て言う。

そして拳を握りしめ、

 

『護って見せる。暗夜も、白夜の兄弟姉妹(きょうだい)を。大切な仲間を……今度こそ。』

 

しばらく経ち、手配していた船が到着した。

カムイ達は船に乗り、出発した。

マークスは船の進行を聞き、

 

「風は順調、白夜の船影もない。これまでのところは、順調な航海だな。」

「ええ。このまま順調に行ってくれればいいのですが……」

 

カムイは後ろに視線を向ける。

そこには、こちらに駆けて来るジョーカーの姿。

 

「報告です、カムイ様!マークス様!船内が賊の襲撃を受け、我が軍の軍資金が略奪されています!」

「なにっ⁉賊など、一体どこから……」

「どうやら賊は、船内に忍び潜んでいたようです!」

「なるほど。我々に気付かれず潜むとは、ただの賊の仕業ではないな。」

「おそらくは……白夜の忍。カムイ、急ぐぞ。」

 

ジョーカーからの報告を聞いたマークスは、カムイを見る。

カムイは顎に手を当てて、考え込んでいた。

マークスは眉を寄せ、

 

「カムイ?」

「あっ……いえ、すいません。賊退治ですね。分かりました、行きましょう。」

 

と、カムイは歩き出す。

そして、襲撃場所に着くと、マークスは辺りを見渡し、

 

「ほう、随分と手際のいい襲撃だな。動きも連携が取れている。おそらく、賊を率いる将がいるはずだ。その者を倒せば戦は決する。」

「そうだね……でも、敵軍にそれらしい奴は見当たらないけど。」

 

賊の攻撃を防ぐために指揮をしていたレオンが、マークスを見て言う。

マークスは眉を寄せ、

 

「なるほど……もしかしたら、敵軍の中にはいないということかもしれんな。」

「ん?……そうか。白夜の忍びなら、変装していてもおかしくない。暗夜兵のフリをしながら、影で指揮してるってことか。……なら、兵士に直接話をすれば確かめられるね。」

「ああ。早くせねば被害が大きくなる……急いで向かうぞ。」

 

マークスとレオンは互いに頷き合う。

この船には、何人かの暗夜兵士が乗っている。

それはマークス、カミラ、レオン、エリーゼの臣下以外の兵達も来ている。

その者の中に紛れ込んでいると、マークス達は読んだのだ。

カムイはそれに関しては同意していた。

けれど、賊の中に見た事のある者達が要るのに気づく。

カムイは動き出す二人に、

 

「……あの、マークス兄さん、レオンさん。」

「何だ、カムイ?」「何だい、姉さん。」

「あー……いえ、その、敵の将を見つける役目……私が行っても良いですか?」

「……心辺りがあるのか?」

 

マークスは眉を深くして、カムイをじっと見る。

カムイは頷き、

 

「勘ですけど。」

「……わかった。そっちは、カムイ。お前に任せよう。」

「はい。」

 

カムイはクルッと回って走って行く。

辺りを見渡し、

 

『……あ……』

 

カムイは周囲とは少し違う雰囲気を纏っている人物を見つけた。

闘いながら、周りを見渡している。

普通の兵ならそれくらいは当然だろう。

だが、よく見ていないと解らないが、彼は何かの小さな仕草をしていた。

その兵に近付き、

 

「あの。」

「何ですか、カムイ様?何でも、賊探しをしているそうですが……もちろん、私は違いますよ。」

「……それなら、あなたの顔を触らせてください。」

「カムイ様、その……」

 

抵抗する兵に、カムイは寄っていく。

顔に触る瞬間、

 

「止めろって言ってんだろう!ちっ!仕方ない、ここまでか……!」

 

彼は後ろにサッと下がり、変装を脱ぎ捨てる。

そして、隠し持っていた弓を取り出し、構える。

 

「ちっ!こんなに早く見つかるとは、俺の腕も落ちたもんだぜ!」

 

放たれる矢を、カムイは叩き斬る。

そのカムイの戦闘に気付いたマークスとレオンが駆け寄ってくる。

 

「カムイ!賊を見つけたか!だがあれは……暗夜の盗賊⁉白夜の忍ではなかったのか……?ならばどうして、私たちの船を……⁉とにかく、一刻も早く仕留めるぞ!」

「はっ!させるか!こうなったら、船を乗っ取ってやる!」

 

彼は矢を放つ。

それを、カムイも、マークスも、レオンも撃ち落としていく。

 

「マークス兄さん、レオン。彼を殺さないでくれ。」

「なぜだ、カムイ。」

「彼は……必要んだからだ。」

「……わかった。良いだろう。」

 

マークスは彼に向かって走って行く。

そして、一気に距離を詰めたマークスは剣を彼に振るう。

弓を真っ二つに叩き折り、彼の腹を蹴り込んだ。

彼は壁に叩き付けられ、首筋にはマークスが剣先を突きつける。

 

「……戦は決した。大人しく、我々に降伏しろ。」

 

彼は両手を上げ、

 

「やられたぜ……あんたら、ただものじゃないな……俺の負けだ。で?俺の処遇は?できれば、命だけは助けて欲しいんだがな。」

「動くな。処遇については今から決める。……カムイ。」

 

マークスは剣は彼に向けたまま、カムイを見る。

カムイは頷き、彼に歩み寄る。

 

「今は殺しません。処遇は……もう少しだけ待って下さい。」

 

と、カムイはマークスを見上げる。

マークスは賊の将に視線を戻し、

 

「ならば、しばらくの間は船室内で大人しくしていて貰おう。」

「へいへい。まるで死刑囚みたいな扱いだ。さすが暗夜の王族サマ。おっかねえなあ……」

「それだけのことをしたのだから、警戒するのは当然でしょう?」

 

他の族を倒したアクア達が歩いて来る。

そして、カムイの横に立つと、

 

「……見たところあなたは暗夜王国の盗賊みたいだけれど……白夜王国行きの船に乗って、一体どうするつもりだったの?戦争が始まったのに、わざわざ敵地に行くだなんて……何か特別な事情でもあるのかしら。」

 

ジッと彼を見つめる。

彼は黙ったまま、アクアを見つめていた。

レオンがため息をつき、

 

「はぁ……まったく、そんな泥棒に事情なんてあるわけないよ。」

「そうとも限らないと思うが、レオン。私は、アクアさんの言葉に同意するな。」

 

カムイは苦笑する。

レオンはさらにため息をつき、

 

「はぁ……カムイ姉さんまで……。いい、きっと後先考えずに乗り込んだに決まってるさ。だから理由を聞いたって無駄だよ、アクア姉さん。」

 

そうレオンが言った瞬間。

カムイは賊の将を見る。

彼はその名に反応し、

 

「!アクア……⁉じゃああんた、もしかして、あの時の……!」

「……あなた、私を知っているの?」

「さあな。」

「……いいから答えて。でないと、殺されちゃうかもしれないわよ。もう一度聞くわ。あなた、私の事を知っているのね?」

 

アクアは真剣な眼差しで彼を見る。

そして、カムイも同じように、彼を見ていた。

賊の将はため息をつき、

 

「はぁ…………ああ。よく知っているさ。何せ、あんたは……俺が手引きをしたせいで、暗夜王国から連れ去られちまったんだからな。」

「そう……やっぱり、そうなのね……」

 

アクアは目を細める。

 

カムイもそう思った。

彼は自分が白夜の人間として暗夜王国に進攻した時、自分達に暗夜王都の地下都市へと案内をしてくれた者だ。

彼は確か、白夜王国に仕えていたコウガ公国の忍。

けれど、同じく白夜王国と同じように仕えていた隣国のフウガ王国の裏切りを受けて滅んだ。

土地を奪われ、白夜に住めなくなった彼らは暗夜王国へと流れた。

そこで生き抜くには、盗賊として生きていくしかなかったのだ。

 

そして彼は視線を落とし、

 

「俺はあの日、白夜王国のユキムラという軍師の手を貸して、暗夜の王城に続く、秘密の通路を案内したんだ。俺は元々、白夜王国の王家に仕えた一族の者……今は亡きコウガ公国の忍だったんだ。だから、白夜王国の頼みには手を貸そうと思ったんだよ。ま、向こうは俺がコウガの忍だなんてまったく気付いちゃいなかったけどな。」

 

アクアは彼の前に膝を着き、

 

「ねえ……確かコウガ公国は、隣国のフウガ公国に滅ぼされたのよね。民たちは皆殺しにされたと聞いていたけれど……生き残りの者がいてくれたのね。でも、どうしてその生き残りがなぜ、泥棒なんてしているの?」

「仕方なかったんだ……そうしないと、生きていけなかった。国を追われた俺は生き残った僅かな仲間たちともはぐれ、暗夜王国に流れて盗賊に身をやつす他なかったんだよ。いつか戦争でも始まって、フウマを討つ機会ができるその時までな。だから……暗夜の王女の誘拐は、戦端を開くいい機会だと思ったんだ。」

「……そう。それでまんまと戦争が始まって、機を窺うため白夜王国に?」

「そうさ。」

 

彼は顔を上げてそう言った。

カムイは同じようにアクアの隣で膝を着き、

 

「それはとても済まない事をした。私は白夜王国の王族……と言われていたからな。彼らに代わって、詫びよう。と言っても、これでお前の気が済むとも思っていない。だから、取引をしよう。」

「……へぇ、あんた話が分かりそうだな。で、その取引とは?」

「お前の命を奪わない代わりに、アクアさんの従者になってくれ。」

「その見返りは?」

「フウマ公国を討つのに協力する。」

 

それを聞いたレオンが驚いたように、

 

「待ってくれ、姉さん。やっぱり、こいつは始末しておくべきだよ!こいつは白夜王国の王族に仕えていた忍だ。だから本当は、白夜王国の斥候として、国に戻ろうとしていたのかもしれないよ。ここで殺しておかないと、後々面倒なことになるに決まってる。」

「そうね……レオンの言う通りだわ。いくら事情があったとはいえ、私たちに攻撃してきたのだもの。この先、またいつ裏切るかわからないわ。あなたやアクアの事が心配なの。」

 

カミラも頬を当てて、レオンに同意した。

マークスはカムイを見つめ、

 

「どうする、カムイ?この軍のリーダーはお前だ。私たちは、お前の判断に従おう。やはりこの賊を殺すか、殺さないか。お前が今ここで、決めてくれ。」

「……あなたはどうします?」

 

カムイはまっすぐ彼を見る。

彼は変わらず、ジッとカムイを見て、

 

「確かに。良い取引だ。だが、何故だ?そいつらが言うように、俺が裏切らないとも、守らないとも限らないだろうに。」

「……いや、お前は根は良いヤツ……だからな。」

「は?」

「何となくだけど……それに、アクアさんに対して思い入れがあるんだろう。だったら、尚更丁度いいじゃないか。」

「……ああ。確かに俺は、あの時の事をすまないと思っているし、俺も白夜王国には思うところがあるからな。」

「なら、この取引受けてくれるか?確かに、みんなが言う通り危険かもしれない。けれど、お前は強いからな。だったら、仲間にしといた方が得だ。」

「くはっ!いいぜ、カムイ様。俺はアシュラってんだ。これからよろしくな。」

「ああ。では、改めて……私の名はカムイ。よろしく頼む、アシュラ。」

 

カムイはアシュラと握手する。

 

「ありがとうな、カムイ様。アンタは命の恩人だ……絶対に、アクア様は護ってみせるさ。」

「ああ。頼むよ。」

 

そして立ち上がると、レオンが頭を抑えて、

 

「はぁ……全く、カムイ姉さんは優しいんだから。」

「それがあなたのいいところだと思っているけれど……いつかその優しさが、あなたを苦しめることになるわよ?」

 

カミラは、目を細めて言う。

カムイは空を見上げ、

 

「私は優しくない。私は私の利に適う事を行っているだけです。彼が少しでも不審な動きをすれば、私は躊躇わずに殺します。ガロン王に報告したいのなら、どうぞ。これで構いませんね。」

 

そう言って、レオン達を見る。

マークスは苦笑した後、

 

「そうか……それがお前の判断なら、従おう。だが、この件は父上の耳には入れない事にする。アクアの誘拐を手引きした者を、仲間に迎え入れたなど知れたら、父上からの信頼を失ってしまうことになりかねんからな。」

「……そうですね。それはわかっていますよ、マークス兄さん。」

 

そして船内を片付け、カムイは部屋で休んでいた。

ベッドで横になり、お腹にリリスを乗せて天井を見ていた。

 

『どちらにせよ、フウマ公国の連中のやり方は前回の件で知っている。何かあるとは思っているからな……たとえ、暗夜側に付いたとしても……』

 

カムイはこれからの事を考えると、

 

「はぁ……」

「キュ?」

「ん?ああ……いや、なんか色々あったなぁー……と思って。でも、これで従者の居なかったアクアさんを守る事ができる。」

 

カムイはお腹に乗っているリリスを掲げ、顔に近付ける。

 

「アクアさんには、そう言う人がいなかったから少しは気持ちが楽になるといいが……私は、お前たちに囲まれて過ごしてきたからな。とても心強い。これからも、頼むよ……リリス。」

 

そして、ギュッと抱きしめる。

リリスは嬉しそうに「キュウ!」と鳴いた。

カムイはそのまま眠りにつく。

 

――マークスはレオンと共に甲板で話していた。

そしてマークスはレオンを見て、

 

「レオン、気付いていたか。」

「何を?」

「カムイの事だ。」

「ああ。姉さんの口調とか?」

「そうだ。元々、カムイは私たちに向き合ってくれたとは言え……故郷であり、本当の兄弟姉妹(きょうだい)がいる国と戦争しようとしているのだ。それに、カムイは昔からよそよそしい所があった。けれど、あの子は歩み寄ってくれた。」

「最近の姉さんはそうだね。何と言うか、前より近くに感じる。けれど……」

「父上に対しては違う。」

「うん。兄さんは気付いているんでしょ。カムイ姉さんが、父上の事を『お父様』じゃなく、『暗夜王ガロン』とか『ガロン王』とか言って、嫌ってる。」

「ああ……私は単に、自分を誘拐し、本当の父である白夜王スメラギと白夜女王ミコトを死に追いやった原因だからだと思っていた。けれど、そうではないのではないかと思っている。あの子が父上に向ける目には殺意がある。」

「うん……姉さんはもしかしたら、父上を討つつもりかもしれない。けれど、ならどうして姉さんは父上の側に居て、命令を聞いているのか……だって、機会を伺って討つつもりにしてはおかしいんだ。わざわざ故郷を攻めてまで行うその理由がわからない。」

「ああ……だが、きっと何かがあるはずだ。カムイが過ちを起こす前に、私たちで止めるのだ。」

「……わかったよ、兄さん。」

 

二人は互いに海を眺めて、そう言った。

 

翌朝、カムイ達は無事港に付いた。

船から降りると、鮮やかなピンクの花びらが舞い踊っている。

そう、サクラが辺り一面に咲き乱れ、カムイ達を向かい入れる。

 

「なんとか、無事に海を渡れたようですね。」

 

と、カムイは伸びをする。

すると馬が駆け寄って来た。

そしてカムイの前に降り、

 

「お待ちしておりました!カムイ様!」

「ん?……もしかして、フウマ公国の方ですか。」

「はい。私はフウマ公国の公王、コタロウと申します。あなた方を歓迎するため、お迎えに上がりました。」

 

カムイは目を細めて、

 

「……フウマの公国……意外と早かったな。」

 

カムイがボソッと言う。

それを聞きとれなかったフウマ公王は、

 

「ん?我が国が何か?」

 

眉を寄せる彼に、カムイは笑顔になり、

 

「いえ、少しだけ聞いたことがあったものですから。」

「そうでしたか。」

「はい。ですが、フウマ公国は白夜王国の領内にあるのでしょう。私たち暗夜王国軍に味方して、大丈夫なのですか?」

「ご心配には及びません。我が国は昔から暗夜王国と友好関係にございます。もともと、有事の際にはあなた方暗夜王国にお味方するつもりでおりました。」

「そうですか……ありがとうございます。」

「では早速、白夜王国王都に攻め入る為の道を案内しましょう。さ、こちらです。」

 

フウマ公王コタロウは案内を始める。

カムイは視線を後ろに向けて、

 

『さて……どうやって、ヤツを討とうか……』

 

カムイは視線を前に戻し、彼に付いて行く。

だが、アクアとマークス、カミラの部隊を別動隊として別れる。

そしてある一角に来ると、

 

「さあ、こちらです、カムイ様。この街道が、白夜王国を攻め入る為に最も適した道でございます。」

「……ありがとう、フウマの公王。」

「いえ、本来ならば城にお招きしてゆっくり休んでいただきたいのですが、先を急ぐ旅とのことですので道案内のみとなり、恐縮です。」

「……いや、こちらもお陰で助かったよ。」

 

カムイがそう言うと、一人の忍が木から駆け下りてきた。

 

「ほ、報告です‼コタロウ様‼」

「何だ、取り乱して!カムイ様の御前だぞ。」

「す、すみません。ですが、至急の伝令がございまして。先程、白夜王国の忍がフウマ公国内に侵入し、森の洞窟内で戦闘が起こっているとのことです!」

「なに⁉白夜王国の忍だと……?」

「奴ら、なかなか手強く、今いる兵だけでは戦闘が長引くかと。至急、増援の手配を願います!」

「くっ……わかった。もう下がっていい。」

 

カムイはそれを聞き、少し考えた後、

 

「フウマの公王、今のは?」

「はい……戦争が始まってからというもの、こうして頻繁に白夜王国の者が我が国に攻め入って来ているのです。我々は、白夜王国に攻撃をしたことなど無いと言うのに……」

「それは、ここが暗夜王国と友好関係を結んでいるからか?」

「おそらく、そうでしょうね。ですが連日の襲撃により、今の我々には手配できる兵が少ないのです。……カムイ様。とても心苦しいのですが……あなた様方がお力を貸してくだされば、心強いのですが。」

「……いいだろう。手を貸そう。私も、考えるところがあるからな。」

「ありがとうございます。」

 

彼は頭を下げて、兵に命じていた。

カムイは後ろに控えていたジョーカーに、

 

「ジョーカー。」

「はい、カムイ様。」

「……マークス兄さん達にこのことを伝えてくれ。だが、白夜の忍や兵たちは殺さずに戦闘不能にして欲しいと言ってくれ。そして、気付かれぬようにどこかに放置しておいてくれ。そうすれば、他の者たちに救出されるだろうさ。けれど、フウマの者たちには死んだように見せるように言ってくれ。」

「解りました、カムイ様。」

 

ジョーカーはマークス達がいる方へと駆け出していく。

カムイは白夜王国の忍達がいる洞窟へとやって来た。

そこに、馬出かけてきたマークス部隊がやって来る。

 

「来たか、カムイ。こちらの白夜兵は全て戦闘不能にしたぞ。」

「私の方も、何とか片付いたわ。」

 

アクアの部隊もがやって来て、頷く。

さらに、エリーゼとレオン、カミラ達がやって来る。

 

「お姉ちゃん、こっちも終わったよーっ。カミラお姉ちゃんとレオンお兄ちゃんが大活躍だったんだから!」

 

エリーゼは馬から降り、カムイに抱き付く。

カムイはエリーゼの頭を撫で、

 

「ありがとう、エリーゼ。それにみんなも。」

 

そして、真剣な顔つきになり、

 

「だが、フウマ公国の者たちはほとんど何もしてこなかったな……白夜王国の忍がここに攻める。いくら、暗夜王国と友好関係であるとはいえ、やり方が大掛かりだ。何か裏があるはずだが……」

 

エリーゼはカムイから離れ、「うーん」と考え込んでいる。

カムイはその姿に苦笑しながら、

 

「だが、わからない事を引きづっていても意味はない。今は頭の片隅に出も置いておこう。こちらとしては、アシュラとの取引であるフウマ公国を討つのに力を入れる。それに、あのフウマ公王はどこか怪しい感じがするからな。さて、ここから本番だ……フウマ公国を討つぞ。」

 

他の者達は頷き合う。

しばらくして、カムイ達は休息を取っていた。

敵を誘うには絶好のチャンスだ。

だが、来たのは違う人物だった。

 

「!カムイ様、危ない‼」

「――」

 

スズカゼがカムイに投げられた暗器を弾き落とす。

そしてカムイの前に立ち、暗器を構える。

 

「カムイ様を狙うとは卑怯な……兄さん?」

 

が、スズカゼはその投げた人物を見て眉を寄せた。

そしてその人物もまたスズカゼを見て眉を寄せた。

 

「スズカゼ……なるほど、これも宿命か。双子同士というのは、厄介なものだな……」

「はい……本当に。」

 

そう、目の前に現れた忍はスズカゼの双子の兄であり、リョウマの臣下サイゾウだった。

彼は暗器を構えなおし、

 

「退け、スズカゼ。俺はフウマ公王に用がある。」

「いいえ、そういう訳にはいきません。今の私は、暗夜王国の兵として、何よりカムイ様の臣下としてなすべき事、カムイ様の命に従う義務があります。」

「本気なのだな……。ならば、お前が敵側につこうと、俺のことを殺しにかかろうと構わん。だが、あいつに……コタロウに手を貸すことだけは、このサイゾウが絶対に許さんぞ‼」

 

彼はスズカゼを睨みつけた。

スズカゼは眉を深くし、

 

「どうしたんですか、兄さん。」

「お前は何もわかっていない!あの男……コタロウが父上にした仕打ちを!あいつの卑怯なやり方を!今だって、あいつはカゲロウを人質に白夜兵に降伏を求めているんだ!お前はそんな奴に味方をするのか‼」

「なんですって……⁉」

 

そう言って、スズカゼはカムイを見る。

カムイは複数の足音を聞き、スズカゼに待つように目で促す。

案の定、奥から出てきたのは兵を連れたフウマ公王コタロウ。

 

「おやおや、ついに敵の親玉を誘き出されたのですか。さすがカムイ様の部隊。素晴らしい実力をお持ちのようだ。私の事は気にせず、続けてください。そ奴を殺せば、この戦は決します。」

「いや、その前に……フウマ公王、少し聞きたい事がある。」

「はい、何でしょう。」

「お前は、カゲロウという白夜の忍を人質にとっているそうだな。なら、攻め込んできた白夜兵達に対し、お前は優位に動けるはずだ。なのに、お前は兵が足りていないと私に言った。そしてもう一つ、お前は私に言ったな。自分たちは白夜王国に攻撃はしていないと。本当は、逆だったのではないか。」

「……それは嘘にございますよ。そこの忍がでたらめを申しているだけでございます。」

 

彼はカムイの睨みに、冷や汗を掻きながら言う。

サイゾウは彼を睨み上げ、

 

「くそっ!とぼけるな、卑怯者!お前だけは、この俺が殺してやる‼」

「兄さん、落ち着いてください!」

 

今にも飛び掛かろうとするサイゾウを、スズカゼが止める。

無論、アシュラも飛び掛かろうとするが、それをアクアが腕を掴んで止めている。

カムイは目を細めて、

 

「では、お前の言うことが真実で、あの忍が言うことが嘘だと、お前は言うのだな。」

「ええ。」

「なら、牢屋を見せて貰らおう。無論、全ての牢屋を、だ。お前の方が真実なら、平気だろう。」

「で、ですが――」

「白夜王国の兵は今片付けなくとも、一掃できる。時間の余裕くらいあるさ。さ、案内して貰おうか、フウマ公王。」

 

カムイが一歩前に出る。

と、フウマ公王は肩を震わせ、怒りを露わにする。

 

「拾われた子供の……王女無勢が、偉そうに……私に命令し追って!」

「…………」

「ああ、そうだ!私は人質を使って白夜兵を脅した。だが、それが何だと言うのだ?アンタも、本当に暗夜王国側の人間なら、むしろ俺を褒め讃えるべきだ。自分の野望の為に嘘をつき、人を貶めて何が悪い‼」

「別に悪くはないさ。誰もが、自分の為に嘘をつく。だが、私はお前のような奴が気に食わない。ただ、それだけだ。」

「小娘が‼私は約束したのだ、ガロン王と。暗夜王国がこの戦に勝利すれば、私は広大な領地を賜り、大国の王として君臨すると!それを邪魔するのであれば、たとえ暗夜王国の王族とて容赦はしない!」

 

カムイは剣を抜く。

そして構えるフウマ公王に剣先を向ける。

マークスも横に立ち、剣を抜く。

 

「……なるほど。カムイの勘は当たっていたと言うことか……。だが、フウマ公王。お前の野望はここで終わりだ。私も、お前のようなやり方は認めん……今ここで、力ずくでもお前の態度を改めさせてやる。」

「なんだと?そうはさせんぞ!」

 

フウマ公王は兵達に合図を送る。

カムイ達はフウマ公国の兵達に囲まれる。

 

「……やっぱり、兵を隠し持っていたようだな。」

「ええ。ですが、意外と多いですね。」

「そうだな。」

 

二人は兵達を見渡す。

フウマ公王コタロウは、ニヤニヤと笑い出し、

 

「ふ、お前たちは口封じのために、ここで全員死んでもらう!ガロン王には、王女たちは白夜軍との戦闘で死んだと伝えておこう。余計な詮索をしなければ、長生きをできたものを。お前たちも、このコタロウの野望の為に散れ!」

「全員、戦闘態勢!敵を殲滅させる!」

 

カムイが大声で叫ぶ。

カムイ達は乱闘へと持ち込む。

多勢に無勢の中、カムイ達は優勢だった。

そしてスズカゼは双子の兄サイゾウと背中を合わせて闘っていた。

カムイはアクアの側に居るアシュラに近付き、

 

「アシュラ、取引通りにフウマ公王コタロウを討つって来るといい。雑魚はこちらで引き受ける。」

「おうよ。サンキュウな、カムイ様。」

 

アシュラは駆けて行った。

そしてカムイは剣を振るい、

 

「さて、私たちも暴れまくるぞ!」

「おお!」

 

と、カムイはドンドン進んで行く。

アクアはため息をつき、

 

「カムイ……何かが違う気がするわ。」

「アクア姉さんの言う通りだ。カムイ姉さん、絶対にアレは悪乗りしてる。」

「まぁ、今に始まったことじゃないのだけれど……」

「え?」

「何でもないわ。」

 

アクアは首を傾げるレオンにそう言うと、凪刀を振るう。

そうこうやっている間に、敵の半数近くまで減っていた。

スズカゼは肩で息をしながら、暗器や手裏剣を投げる。

そんなスズカゼの元に、フウマ公王コタロウの短剣が襲い掛かる。

 

「スズカゼ!」

「死ねぇッ――‼」

 

サイゾウがその短剣を防ぎ、フウマ公王コタロウの首を斬り裂いた。

 

「爆ぜ散れ、コタロウ‼」

「ぐっうぅ‼」

 

フウマ公王コタロウは倒れ込み、サイゾウは背を向ける。

 

「兄さん、まだです‼」

「何だと⁉」

 

サイゾウが振り返ると、フウマ公王コタロウは再び立っていた。

 

「まだだ……俺はフウマ王国の国王となる男だ……俺の野望はまだ終わってはいない!」

 

そしてサイゾウに短剣を振り下ろそうとした時、彼の心臓に矢が突き刺さる。

 

「ぐはっ!」

 

彼は仰向けに倒れ込み、今度こそ息を引き取った。

サイゾウが矢が放たれた方を見ると、

 

「ふぅ、危うく全部アンタに取られるところだった。これで俺の復讐も終わった。」

「アシュラさん。」

「スズカゼ、アンタの兄さんは強いな。流石は、白夜王国の忍だ。」

 

アシュラは口の端を上げて、サイゾウを見た。

サイゾウは眉を深くして、

 

「……お前も、なかなかの腕だった。」

「そうかい。んじゃ、俺は主の護衛に戻るわ。」

 

そう言って、アシュラはアクアの元へと駆けて聞く。

フウマ兵達を一掃し終え、

 

「終わったか……これで、父上たちの仇を取る事ができた。」

 

スズカゼはサイゾウに先程の礼を言う。

 

「兄さん、先程はありがとうございました。」

「ふん。お前もまだまだだと言うことだ。」

「はい。ところで兄さん、私は何も知りませんでした。父上は、ただフウマ公国で戦死されたのだと、ずっとそう思っていました。でも、違ったんですね……」

「ああ。父上はあいつに殺され、その死の真相を隠された。俺は長い時間をかけて、そのことを突き止めたんだ。この戦に負ければ、俺たちも同じように真実を隠されただろう。」

「はい……もしかしたら今までにも、そのような方が沢山いたのかもしれませんね……」

「そうだな。」

 

サイゾウは視線を上げ、スズカゼは視線を落としていた。

そこに、カムイがカゲロウを連れてやって来る。

 

「スズカゼ、サイゾウ。地下牢に、カゲロウが居たぞ。」

「本当か⁉」

 

サイゾウがカムイの方を見ると、カゲロウが居た。

カゲロウは小さく笑い、

 

「サイゾウ。」

「無事だったか、カゲロウ。さあ、急いでリョウマ様の元に戻るぞ。」

「かたじけない……カムイ様たちと手を組んで、助けに来てくれたのだな。」

「いや……あいつらとは、ここで会っただけだ。奴らはコタロウに加担し、白夜兵たちと戦闘をした。それによって、仲間も大勢奴らに殺された。いや、殺されたように仕組んでいた。何故、白夜兵たちの命を奪わなかった。まさか暗夜軍が、兵の助命をするとはな……」

 

サイゾウはカムイを見据える。

何かを言おうとするスズカゼに、カムイ首を振る。

そしてサイゾウを見て、

 

「……それは勘違いだ。」

「何?」

「私たちはただ、取引をした。」

「取引だと?」

「ああ。アシュラと言うコウガ公国の忍と。フウマ公国を討つ協力をする代わりに、アクアさんを守れとな。私はそれをしたに過ぎない。白夜兵たちを救った覚えもない。きっと、運が良かったのだろうさ。」

「……そうか。だが、お前たちのお陰でカゲロウや白夜兵は助かり、父上の仇も討てた。その事に関しては、礼を言おう。だが、次会う時は……正真正銘、敵同士だ。その時は、遠慮なくその首を取らせてもらう。」

「ああ、解っているさ。私も、次会った時はどうなるかはわからんからな。」

「ふん……」

 

そう言って、二人はジッと見合った。

そして、サイゾウはカゲロウと共に走って行った。

スズカゼはカムイを見て、

 

「あの、カムイ様……」

「すまないな、スズカゼ。」

「え?」

「私の所に来たせいで、兄弟で戦わせることになる。さっきのお前とサイゾウの戦いを見ていた。とても息があっていて、流石だと思ったよ。だが、今度は本当の敵同士となる……本当にすまない。」

「い、いえ、そんなことは……!自分は、この選択を後悔はしていません。……カムイ様、何故兄さんに言わなかったのですか。」

「何を、だ?」

「白夜王国とは争う気はないと言うことを、です。」

「それは言っても仕方ないからだ。例え、こちらになくても、あちらにはある。それに、私のすることは白夜王国側からすれば、国に攻め入る裏切り者の王女……だからな。それに、ミコトお母様を殺したんだ。許されようとは思わないさ。むしろ、ずっと恨んでもらった方が気が楽なのかもしれないな……」

「カムイ様……ですが、必ずしもその想いが正しいとは限りません。白夜王国としても、暗夜王国としても、それぞれの正義の為に闘っている。それはカムイ様も同じ。少なくとも、私はあなたの想いを知っています。私は白夜王国の人間として、カムイ様を恨むことはありません。そして、カムイ様の見方として、カムイ様を信じるのです。あなたの中の正義を。」

「……ありがとう、スズカゼ。」

 

カムイは小さく微笑んだ。

 

翌日、白夜王国へと向かうために旅発つ。

その道中、カムイ達はイズモ公国に来ていた。

カムイはイズモ公国を見渡す。

相変わらず、ここの空気は懐かしさを覚える。

カムイは今回は神の信託は受けないと思っていた。

前回のあれは、白夜王国だったからこその意味だと思っているからだ。

 

カムイのその様子を見ていたアクアが、

 

「カムイ、ここはイズモ公国。古くから神々のいる国として知られているわ。それに、他の国々が対立をしている時も常に中立を守り続けているの。」

「……そうですか。中立国なら、少しは安心して休むことは出来そうだ。そろそろ皆、疲れが出るころだからな。」

「そうね……それに、情報を得るのも必要だわ。白夜王都周辺はきっと警備が厳しいけれど……今の私たちに、それを窺い知る術はないもの。その点、中立国の人々なら、何か有益なことを知っているかもしれないわ。」

「そうだな。ジョーカー。」

 

カムイは少し離れていたジョーカーを呼ぶ。

彼はすぐに走って来て、

 

「はい、カムイ様!何でしょう!」

「……イズモ公国で休息を取る。皆に、そう伝えてくれ。私とアクアさんはイズモ公国の公王に謁見してい来る。」

「わかりました。ですが、お二人だけで大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ、ジョーカー!私とマークスお兄ちゃんとカミラお姉ちゃんとレオンお兄ちゃんが、一緒に行くから!」

 

と、それを聞いていたエリーゼが手を上げて言う。

ジョーカーは少し考えて、

 

「そうですね。マークス様やカミラ様、それにレオン様がいらっしゃれば大丈夫でしょう。」

「なんかヒドイ!」

「いえいえ、そんな事は。では、私は知らせに行って参ります。」

 

ジョーカーは、頬を膨らませて怒っているエリーゼを笑顔で返して歩いて行った。

しばらくして、イザナ公王への謁見が叶った。

彼の前に立つと、彼は前の時と同じように軽い口調だった。

 

「はじめまして~!ボクは公王イザナ!よぉ~く来てくれちゃったねぇ~!暗夜王国の使者さんたち、歓迎するよ~!」

「……あ、ありがとうございます。」

「さぁさぁ、狭苦しいお城だけどゆーっくりしていっちゃってよ~!」

「…………」

 

カムイは無言で彼を見ていた。

後ろからレオンがため息をついて、

 

「はぁ……軽い。とんでもなく軽い……」

「よく国民の支持が得られたわね……」

 

カミラも息をのんだ。

そしてそれは、マークスもだった。

 

「うむ、恐ろしい国だ……」

 

エリーゼは笑顔で手を合わせ、

 

「すっごーい!なんだか仲良くなれそう!イザナさん、よろしくお願いしまーす!」

「あはは、こちらこそよろしく、エリーゼ様~!」

「ん?あたし、名前言ったっけ?」

「あっ……」

 

イザナ公王は「ヤバ」と言う顔付なる。

だが、それは一瞬だ。

カムイはそれを見逃さなかった。

顎に手を当てて、考え込む。

イザナ公王は笑顔で、

 

「いやいや、だって君たちが王族じゃない?だったら、名前くらい分かるよ~!」

「へー、そうなんだ!」

 

と、二人手を合わせて笑い合う。

そして、アクアも何かを感じ取ったのか黙って彼を見ていた。

無論、それはマークス達もだった。

イザナ公王に、疑念の目を向けて見ていた。

しばらくエリーゼと話していたイザナ公王は表情を少しだけ変え、

 

「いやー、それより君たち、タイミングがいいよ~。今日は大きな宴を開くつもりだったんだ~!実は今、キミたちの他にも凄い大物ゲストが来ちゃっているからさぁ~!」

 

イザナ公王の言葉に、カムイは眉を寄せる。

 

「大物ゲスト、だと……?」

「うん!」

 

イザナ公王は笑顔になる。

そして、手を叩く。

 

「……はいはーいっ!なんと白夜王国王族の皆さんでーすっ‼」

「⁉白夜王国の王族⁈」

 

カムイはこちらにやって来た者たちを見る。

彼らは一歩手前で立ち止まり、

 

「カムイ姉様⁉」

「なに⁉カムイ……何故、ここに⁉」

「…………」

「カムイ……」

 

確かに、白夜王国の王族だった。

サクラとヒノカは戸惑い、タクミに関しては無言で睨んでいた。

そしてリョウマはカムイを見た後、暗夜王国の王族を見ていた。

カムイは息を飲み、

 

「リョウマ兄さん……みんな……」

「下がれ、カムイ。こいつらは危険だ!」

 

マークスがカムイの前に立ち、剣の柄に手をかける。

リョウマは眉を寄せ、同じように剣の柄に手をかける。

 

「何だと……?卑怯な暗夜王国の手の者が戯言を。」

「ほう……聞き捨てならんな、その言葉。国の侮辱は、私が許さんぞ。」

「侮辱などしていない。真実を述べただけだ。」

「……貴様、相当私に斬られたいと見えるな。」

「いいだろう、かかってこい!」

 

二人は剣を抜き放とうとする。

彼らが剣を抜く前に、イザナ公王は二人の間に立ち、

 

「わわっ!ダメダメダメダメ‼‼スト~~~~~ップ‼‼君たち、こんなところで剣なんか抜いたら契約違反になっちゃうよ~!」

「契約違反?」

「そう!我がイズモ公国内では、条約により戦闘行為が禁止されています!これ、破っちゃうと王族サマでも厳罰に処されちゃうから気を付けてよね~!」

 

それを聞いたカムイは眉を寄せた。

アクアも黙って、それをじっと聞いていた。

そして、イザナ公王はクルリと回ると、

 

「……というわけで、キミたちは全員、武器を下ろしてください!」これは公王イザナの命令だよ~!」

「……仕方ないな。」

「しかし、気を許したわけではない……例え得物はなくても……隙あれば、討つ。」

「……!」

 

二人は武器を外し、イズモ公国兵達に預ける。

そして睨み合う。

無論、カムイ達も武器をイズモ公国兵に渡す。

イザナ公王は笑いながら、

 

「まあまあ、喧嘩しないの~!いくら戦争中でも、この国にいる限りは戦っちゃダメ。この武器はキミたちが国を出るまで、大切に預かっておくからね~。じゃ、宴の準備ができるまで城内でごゆるりとお寛きあれ~!」

「…………」

「……ふん。」

 

マークスは無言で、なおもリョウマと睨み合う。

そして互いに、背を向けて彼らと別れた。

マークスはカムイを呼び、

 

「まさか白夜の者達と、ここで出会ってしまうとはな。」

「……すみません、兄さん。私が休息を取る事を選んだばかりに……」

「いや、謝る必要はない。……仲間想いのお前だ。我々を気遣ってくれたのは知っている。長旅で疲れていたのも事実。そのお前の想いを、誰も責めることなどできん。」

「……マークス兄さん。」

 

カムイはそう言って頭を撫でるマークスを見上げる。

そこに、

 

「カムイ。」

「リョウマ兄さん‼」

「なに?……一体、何用だ。」

 

マークスはリョウマに向き直り、睨む。

リョウマは二人に近付き、腕を組む。

 

「そう構えるな。別に、何かをするつもりで来たんじゃない。少し、妹の顔を見たくてな。」

 

そう言って、カムイを見て小さく笑う。

カムイは瞳を揺らして、リョウマを見る。

マークスはさらに眉を寄せ、

 

「なるほど……そう言って、隙あれば白夜王城に連れ帰るつもりか?」

「そう噛みつくな。先程はつい頭に血が上がってしまったが、この国の条約を侵すつもりはない。白夜王国を継ぐ者として、そのような失態をするほど馬鹿ではないさ。」

 

リョウマはマークスに向き直って冷静に言う。

マークスは一息つくと、

 

「ああ……私とて同じだ。暗夜王国第一王子として、国の信用に関わる真似はできんからな。そちらが仕掛けて来ないのであれば、私も無礼な真似は慎もう。」

 

その二人の姿をカムイはジッと見つめる。

それはかつて、透魔王国で見た二人の姿。

王となった二人、王子としてやって来た二人。

その二人の姿がちらついた。

自然に涙が流れた。

その視線に気付き、涙を流したカムイを見たマークスとリョウマは、

 

「カムイ⁉どうしたのだ⁈」「急にどうしたのだ、カムイ⁉」

 

カムイは涙を拭い、

 

「いえ、なんだか嬉しくて哀してくて……それ以上に、やっぱり二人は似た者同士だと思って。」

「な⁉戯言を言うな、カムイ。このような者に、私が似ている訳がない。」

「ああ、そうだぞ。顔だって、俺の方がいくらか整っている。」

「貴様!」

 

と、二人は睨み合って、今にも殴り合いそうになる。

カムイは二人の間に入り、

 

「喧嘩はやめてください!私が言っているのは見た目ではなく、中身の話!第一王子としての立場を重んじる所や国を想う責務、国を継ぐ者としての意識や覚悟、礼節。そう言った事です。そういう中身の部分で、二人の持っているものが似ていると言っているんです!」

「中身だと……?そんなはずは……」

「…………」

 

マークスは渋るが、リョウマは何か思うところがあったのか、黙っていた。

そこに、複数の駆け足が聞こえてくる。

武器を持った暗夜兵達が乗り込んできた。

 

「いたぞ、白夜王国第一王子だ!捕まえろ‼」

「暗夜兵⁉」「なぜここに、暗夜兵が……?」

 

カムイとマークスは眉を寄せる。

そして、カムイ達の後ろにイズモ公国兵を連れたイザナ公王が現れる。

 

「さあさあ兵士たち、リョウマ王子を捕らえちゃってくださーいっ‼」

「なにっ⁉貴様ら、何をする⁉やめろ、離せ‼」

 

リョウマを暗夜兵とイズモ公国兵が囲い、押さえつける。

リョウマを縛り付け、イズモ公国兵が彼を連れて行った。

マークスが残った暗夜兵を睨み、

 

「お前たち、何をしているだ⁉この国での戦闘は、禁じられているのではなかったのか⁉」

 

そして、マークスはイザナ公王を見る。

 

「これは、どう言うつもりだ、イザナ公王!」

「私はイザナ公王ではありませんよ、マークス様。」

「なに?」

 

彼の姿にノイズがかかり、その姿はある魔同士の姿へと変わる。

 

「ひょーっほほほほ!お久しぶりでございますね!」

「お前はゾーラ!」

 

マークスは眉を寄せる。

彼は笑いながら、

 

「ふぅ……やっと正体を現せましたよ~……。白夜の王族たちの手前、イザナのフリを続けるしかなくて苦労しました。」

「おい。本当のイザナ公王はどうした。」

 

マークスが眉をさらに深く寄せて、聞いた。

彼はなおも笑いながら、

 

「ふふ……イザナ公王は、とっくの昔に、牢獄の中にぶち込んでまーす。今頃、さっき捕まえたリョウマ王子や他の白夜王族の皆さんと、仲良くやっているんじゃないですか?ま、処刑までの短い間ですけどねぇ?」

「処刑だと?」

「ガロン王様にも内緒で、我が軍内で策を立てていたのですよ。白夜の王族が国賓としてイズモ公国に招かれたという情報が入ったので、幻影魔法で公王になりすまし、騙し討ちをして一網打尽にしようと。」

「まさか、そんな計画を……」

「いやー、良かった良かった。これで戦争は一気にカタがつきますね!そして私はマクベスやガンズを出し抜き、一気に出世の道を歩むのです!では私は、処刑を執り行ってきますゆえ、これにて失礼。」

「待て、ゾーラ!」

 

そう言って、姿を消した。

マークスの制止も届かなかった。

カムイは拳を握りしめる。

 

『油断した!イザナ公王自身、ああいう性格だったから忘れていた。まさか、前と似た感じで来るとは……!何とかして、リョウマ兄さん達を救う手段を考えなくては‼』

 

カムイはマークスを横目で見て、

 

「マークス兄さん。」

「はぁ……白夜王国の者は敵だ。」

 

彼は瞳を閉じて、そう言う。

カムイはさらに拳を握りしめ、歩き出そうとした。

だが、マークスが瞼を開け、

 

「だが、このようなやり方は気に食わん。正々堂々と戦って勝ってこそ、暗夜王国の真の勝利となるのだ。こんな形で戦を決しても、私にとっては意味がない。」

 

そして、マークスはカムイを見て、

 

「カムイ、王族たちを開放しに行くぞ。」

「……ふふ。」

「どうした、カムイ。」

「いや……やっぱり、マークス兄さんはリョウマ兄さんに似ていますよ。だからこそ、私は今のこの状況が辛い。本当だったら、あなた達は……」

 

カムイは視線を落とす。

 

『……手と手を取り合っていたのに。それこそ、お父さんと共に居たあの頃のように……』

 

カムイは眉を寄せて、疑念に思っているマークスに視線を戻し、

 

「いえ。今は、急ぎましょう。行きますよ、兄さん!」

「待て、カムイ!せめて、武器を持ってから行け……行ってしまった。」

 

マークスは一目散に走って行くカムイの姿に、頭を抱えた。

 

カムイは兵達が集まっている壁の隅に隠れていた。

そして、後悔していた。

 

『……武器も持たずに来てしまった……』

 

カムイは物陰に隠れて様子を伺う。

そこに、聞きなれた声が聞こえて来る。

 

「きゃっ!」

「貴様‼私の妹に手を出すな!」

 

それは、サクラとヒノカの声だった。

カムイは覚悟を決めて、兵達の前に出る。

 

「そこで何をしている!」

「あぁ⁉」

 

サクラを掴み上げている兵はカムイを見ると、

 

「カ、カムイ様⁉」

「私は何をしている、と聞いている。」

「こ、これは……その、白夜王国の姫たちは後で処刑すると言うことになったので、連行している所です。」

「……離せ。」

「は?」

「離せ、と言っている。」

「で、ですが、カムイ様。これは――」

「今すぐ、私の妹を離せと言っている!」

 

カムイはサクラを掴み上げている兵の腕を掴み、睨む。

そして近くに居た兵達は笑い出した。

 

「カムイ様、ご冗談を。」

「そうですよ、今のカムイ様は暗夜王国の姫君でしょう。」

「白夜王国とは敵なのですよ。」

 

カムイはギリッと歯を食いしばると、

 

「言って分からないのなら、仕方ない……」

 

カムイは竜石を手にする。

その身を竜と変え、サクラを掴み上げていた兵を薙ぎ払い、ヒノカを捕らえていた兵を尾で払う。

人型に戻ると、

 

「わかったか。白夜王国の連中など、竜の姿になれる私には何の障害にもならない。それに、王子ならともかく……姫ならば、処刑する必要はないだろう。捕虜にでもして白夜王国に持って行った方が有効だ。まぁ、元白夜王国の姫としての情けでできるのはこの程度だろうがな。」

 

カムイは兵達を物凄い殺気で睨みつける。

だが、兵達は武器を構え、

 

「カムイ様、これは裏切り行為ですよ。こんな事をしたと、ガロン王様に知られれば、あなたとて処刑される。」

「報告したいのなら、すればいい。だが……中立国でこんな事を引き起こし、イザナ公王を投獄したお前たちにも、何かしらの罰は与えられるだろうな。それこそ、捕らえた筈の白夜王国の王族を取り逃がしたとあれば。」

「な、なんですと?」

「お前たちは、白夜王国の姫たちを取り逃がした。それも、見知らぬ竜の手によって。」

「カムイ様、なにを言っているのです⁉」

「さて、処罰されるのは誰だろうか。」

「ぐっ……ならば、もう一度捕らえるまでです!」

 

武器を構えて動き出そうとする兵を塞ぐように、カムイはサクラとヒノカの前に立つ。

 

「今私の後ろに居るのは、イズモ公国のイザナ公王に呼ばれた白夜王国の国賓。さて、私はこのイズモ公国のイザナ公王に恩を売っておきたい。……さあ、私の言っている事がわからない者はいるか?」

 

カムイは手を前に出す。

そこに魔法陣が浮かび、

 

「それでもわからない奴は、前に出ろ。暗夜王国の姫である私自ら処罰を下そう。安心しろ、証言人は……私の臣下のリリスだけだ。」

 

と、カムイは視線を奥にする。

そこには宙に浮かぶリリスが心配そうにこちらを見ていた。

兵達は一歩、また一歩と下がり、逃げ出した。

 

「あ、あのカムイ姉様……」

「……なんだ、サクラ。」

 

カムイは後ろに振り返る。

サクラはヒノカに寄り添い、カムイを見る。

カムイは視線を一度外し、再び見つめる。

 

「あ、あの姉様……なんで私たちを助けてくれたのですか?」

「……カムイ、それは私も知りたい。あの時の七重の塔でも、お前は『白夜王国とは戦争をしようとは思わない。私はただ、私のやるべき事をやらねばならない。その為に、私はこの選択を取る』。そう言っていたな。お前の選択とは何なのだ?アクアも、お前に付いて行ったと兄様から聞いた。カムイ、お前は何をしようとしているんだ?」

 

ヒノカもサクラを抱きしめて言う。

カムイはリリスを見上げ、

 

「リリス、二人の事を頼んだよ。私はリョウマ兄さん達の方に行く。」

「キュウ。」

 

リリスが二人の元へと飛んでいく。

カムイは黙って二人の横を通り過ぎ、立ち止まる。

彼らを見ないように、

 

「私は、白夜王国とは戦争をする気はありません。ですが、私の目的を、選択をしたモノを達成するには、白夜王国に行く必要がある。ただそれだけです。」

「カムイ……」

「それに、私はこんなところであなた達を殺したくはないし、殺されたくもない。スメラギ父上様……いえ、白夜王スメラギ、イザナ王妃、ミコトお母様の忘れ形見であり、愛した子供たちですから。何より、兄弟姉妹(きょうだい)を救うのに、理由はいりません。でも、私の本当の目的は決して言えない。それだけは、素直に謝ります。けど、約束します。リョウマ兄さんとタクミは必ず助け出します。」

 

カムイは駆けだした。

 

カムイは兵達の声を聞いた。

リョウマとタクミは地下牢に連れて行かれる途中だと。

カムイは前着た時に、この城の中は知っている。

ここからだと、リョウマとタクミが連れて行かれる予定の地下牢には廊下を通って行くと遠回りとなる。

だが、ある方法を使えばその時間は短縮される。

カムイは思いっきりジャンプして、天井にぶら下がる。

そして、上に乗ると、天井裏を駆け出した。

 

「貴様ら!なんと卑怯な‼」

 

カムイはリョウマの叫ぶ声が聞こえてきた。

その上に聞き耳を立てる。

どうやら、イザナ公王はいないようだ。

カムイは思いっきり天井の屋根を真下に叩き落とした。

 

「な、なんだ⁉」

「何事だ⁉」

 

そして、そこにはゾーラも居た。

 

「な、な、何事です⁉」

 

カムイは天井から飛び降りる。

リョウマとタクミの前に立ち、ゾーラを睨みつける。

 

「カ、カムイ様⁉な、何をなさるのです⁉」

「……私は、このやり方は好かん。ただ、それだけだ。それに……殺させないさ。」

 

カムイは最期は小さく呟いた。

そこに、マークスが剣を持ってやって来た。

 

「カムイ!」

 

カムイは投げられた夜刀神()を受け取り、ゾーラに向ける。

すると、近くに居た兵達はカムイに刃を振るう。

 

「リョウマ兄さんとタクミは少し下がっていてください!」

「カムイ?」

「ヒノカ姉さんとサクラに約束したんですよ。二人を助ける、とね。だから安心してください。二人は無事に保護しました。」

 

カムイはリョウマに小さく笑いかける。

視線を敵に戻して、カムイは戦闘を開始する。

マークスも剣を抜いて、応戦を始める。

形成は一気に優位になっていく。

そして、最後に残ったゾーラの首元に刃を向けて、

 

「これで、終わりだ。お前の負けだ、ゾーラ。さあ、白夜王国の王族とイザナ公王を解放しろ。」

「な、何故ですか⁉私は、あなた方の敵を捕らえたと言うのに!感謝されてもいいほどなのに、どうしてこのようなことを……」

「卑怯な愚かな者め。そのやり方が気に入らないと言っているんだよ。」

「レオン様?」

 

そこに、レオンが歩いて来た。

ゾーラは身をすくめて、怯える。

レオンは彼を見据え、

 

「恥さらしだ、お前は。お前のような奴が、我が暗夜王国軍だと思うと吐き気がする。マークス兄さん達から聞いたよ。イザナ公王になりすまして、敵国に騙し討ちを仕掛けたんだって?よくもそんな卑怯な策を練ったものだな?このまま生き恥をさらすより……死んだ方がましなんじゃない?」

「ひっ⁉」

 

そう言いながら、カムイの横に、ゾーラの前に立つ。

ゾーラは脅えながら、レオンを見上げる。

 

「レ、レオン様……ま、まさか……おやめください、レオン様!わ、わわわ私が間違っておりました!ですから、命だけは、どうか……どうか‼」

「諦めなよ。僕はお前のような奴に、慈悲なんてかけない。塵になるがいい‼」

「ぎゃあああああああ‼」

 

レオンは魔導書(ブリュンヒルデ)を開き、魔術を放つ。

ゾーラは木の根に押し潰され、消滅した。

レオンは魔導書(ブリュンヒルデ)を閉じ、

 

「ふぅ……」

「……レオン、なにも殺さなくても良かったのだが?」

「そう言う割には、姉さんの目は本気に見えたけど?」

「さてな。」

「はぁ……それに、あいつを生かして置いたら、僕たちが……いや、姉さんが白夜王国の王族を助けた事を父上にばれるかもしれないんだよ。」

「まぁ……そうだな。」

「全く……前々から思っていたけど、カムイ姉さんは時々暴走しすぎ。敵は敵、その場で倒しておくに限る。なのに、姉さんはまだ白夜王国に未練があるの?」

「……未練、か。」

「そうだよ。それに、仲間だって裏切る可能性はあるんだ。疑わしきは罰しろ……父上じゃないけど、討てる手は早めに打っていた方がいい。それこそ、死人に口なし、だよ。」

「……そうだな。だが、私は私の認めた仲間になら、裏切られても良いと思っている。それが例え、兄弟姉妹(きょうだい)だったとしても。それは、自分が選んだ選択ゆえに起きた運命ならば……私は進むしかないんだ。」

「姉さん?」

「いや、何でもない。」

 

カムイは刀をしまい、リョウマ達に近付く。

タクミは相変わらず、カムイを睨んでいた。

 

「礼は言わないからな。」

「ああ。構わないさ。」

 

タクミの縄を外しながら、カムイは苦笑する。

カムイはイザナ公王を捜しながら、

 

『……レオンはああいっていたが、私は何人か逃したが……まぁ、小心者のあいつらなら暗夜王に告げ口などしないだろう。』

 

しばらく経ち、他の地下牢に閉じ込められていたイザナ公王を開放する。

白夜の兄弟姉妹(きょうだい)は再開し、互いに安堵した。

イザナ公王はすぐに宴会の準備を始めた。

すぐに、暗夜も白夜も関係なしに宴の席が作られた。

カムイ達の臣下たちも呼び、宴会の席へと着く。

イザナ公王は中央の台の上で、

 

「いやいや~!助けてくれちゃってありがとねーっ!ほんっっっと、命拾いしたよ!さ、お礼にどんどんご馳走食べちゃいなよ!」

 

その姿を始めて見たレオン達は、

 

「えっと……軽いね。偽物と同じくらい。」

「今度こそはと思った私が間違っていたわ……」

「なるほど……やはり恐ろしい国だ。」

「わーい!こっちのイザナさんとも仲良くなれそうー!」

 

と、一人を除いて頭を抱えていた。

ちなみに、カムイとアクアはそれを軽く流して、紅茶を飲んでいた。

その向かいにはリョウマ達、白夜王国の王族が座っている。

カムイはリョウマと視線が合い、

 

「……本当に無事でよかったですよ、リョウマ兄さん。」

「…………」

「?リョウマ兄さん?」

 

カムイは首を傾げる。

そんな中、タクミが立ち上がり、

 

「おい!裏切り者が気安くリョウマ兄さんに話し掛けるなよ。」

「ふぅん、話し掛けるのに許可が必要なんだ?せっかく助けてやったのに、随分な態度だね。」

「はあ?何か勘違いしてるみたいだけど、僕らはお前たちに感謝の気持ちなんて持ってないよ。あんなの、助けてもらって当然だ。」

 

それに対して、レオンが立ち上がってタクミと睨み合う。

カミラはクスッと少し笑い、

 

「あら、白夜王国の方はなかなか恩知らずなのね。」

「なに?」

 

それに、ヒノカが反応した。

ヒノカも立ち上がり、

 

「大体、元はといえば、そちらの兵士の不手際なのだろう?むしろ謝罪の言葉が欲しいぐらいだ。」

「まぁ、怖い顔。」

「貴様……」

 

微笑むカミラに、ヒノカは眉を寄せて拳を握りしめる。

その手をリョウマが握り、

 

「言わせておけ、ヒノカ。命が助かったことは確かに有難い。だが、俺たちがもし逆の立場でも、きっと同じことをしただろう。だから、礼は言わん。」

「ああ。こちらも感謝されたくてしたわけではない。ただ、暗夜王国の王族として、当然のことをしたまで。お前たちの事は、ここを出たらまたお互いに闘って倒す相手だとしか思っていない。」

 

リョウマとマークスは互いに見合う。

そして宴は続いた。

カムイはマークスに近寄り、

 

「マークス兄さん。」

「なんだ、カムイ。」

「その……ほんの少し、ほんの少しだけ白夜の皆の所に行っても良いですか?」

「……ああ。だが、すぐに戻るんだぞ。長くいれば、辛くなるのはお前なのだから。」

「それは分かっています……」

 

カムイは立ち上がり、リリスを連れて白夜王国の方へと駆けて行った。

マークスはアクアを見て、

 

「アクアは、いいのか?」

「私はいいわ。だって……本来なら、あの子が過ごすはずだった。あの子が得るはずだった愛情や絆を、私が長いこと奪ってしまった。でも、私は白夜王国に行けたから生きながらえたのは事実だわ。」

「……お前は我々を恨んでいるか?」

「いいえ、恨んではいないわ。あなた達には、非はないですもの。それに、私があのまま暗夜王国に居たとしても、私は死んでいた。それに、カムイが暗夜王国に来たのなら、私が白夜王国に行く運命なの。それは変わらない。そして私は、あの子の選択を見守り、共に戦うと決めているの。それが、私があの子にできることなの。」

「アクア……」

 

アクアは、白夜王国の兄弟姉妹(きょうだい)達と仲良く、楽しそうに会話しているカムイの姿を嬉しそうに、それでいて悲しそうに見つめていた。

マークスも、またそのアクアの気持ちが分かる気はしていた。

だが、敵であることは変わりない。

だからこそ、自分はカムイに恨まれても白夜王国に勝たなくてはいけないのだ。

その時、どんな戦いが、どんな運命が待ち受けていても……

 

カムイが白夜王国の方に行くと、タクミはカムイを睨んで自身の臣下の方へと歩いて行った。

けれど、視線だけはこちらに向けていた。

カムイはリョウマの隣に座り、

 

「リョウマ兄さん。今だけは、ただのカムイとして、ここに居させてください。」

「ああ……」

「そうだ、兄さん。私は、例え敵同士であっても、こうして皆で食事ができるのを嬉しく思います。兄さん達からしてみれば、最初で最後かもしれませんが、そうじゃないと私は思います。いえ、本来ならこうして敵である事がおかしいんですよ。白夜王国も、暗夜王国も、手を取り合って共に過ごしていける。」

「カムイ……」

「私は知っているから……でも、ここを出てしまえばまたわつぃたちは敵同士になってしまう。けれど、私はやらねければならない。」

「今のお前は誰の為に闘う。」

「私はいつだって、約束の為に闘っているんですよ。」

「約束?」

「ええ、約束です。」

 

カムイは立ち上がる。

サクラの頭を撫で、

 

「タクミには逃げられてしまったが、こうして白夜の兄弟姉妹(きょうだい)でまた食事や話ができて楽しかった。」

「はい!私も、楽しかったです。姉様の元気そうな姿も見れましたし……」

「私も、妹の元気な姿を見れて嬉しかったよ。」

「カムイ姉様!」

 

サクラはギュッとカムイに抱き付いた。

カムイも、ギュッと抱きしめる。

それを遠目から見ていたエリーゼはムッと頬を膨らませていた。

そして駆けてきて、

 

「ちょっと、あなた!私のお姉ちゃんを、お姉ちゃん呼ばわりしないで!」

「ひゃっ!ご、ごめんなさい!」

 

サクラはバッとカムイから離れた。

カムイは苦笑して、

 

「エリーゼ……」

「だってぇ~。」

 

と、まだム~と膨らんでいた。

それを見たアクアは微笑みながらやって来た。

 

「ふふっ……」

「アクアさん?」

「ごめんなさい。なんだか微笑ましくて。こうしていると、大家族が揃ったみたいで。」

「少し、仲が悪い気もするがな。」

「そうね。でも、私はとても嬉しいわ。やっぱり、こうして両国の『きょうだい』たちと、こうやって食事ができて。」

「そうですよね。アクアさんも……」

「ええ。けど、私はあなた程じゃないわ。私も、両国の兄弟姉妹(きょうだい)は大切よ。けど、あなたはきっとそれ以上の者を抱いている。だからこそ、私はあなた程じゃないの。」

 

カムイはアクアを見つめる。

リョウマはアクアを見て、

 

「アクア。」

「リョウマ、私はカムイと共に居るわ。カムイと共に、カムイの目的を果たすわ。」

「そうか……」

 

アクアはリョウマと力強い瞳を向け合う。

カムイは瞳を揺らし、

 

「例え、ほんのひと時であっても、こうしていられたことは私にとって大切なこと。だからこそ、こうしてみんなが揃った事を感謝しよう。できることなら、この時間が続いて欲しいが、それは叶わないだろう。でも、私は本当に嬉しいんだ。」

 

その後、白夜王国と暗夜王国が混じった宴は続いた。

だが、今朝早くに白夜王国の者たちは国へと帰って行った。

それは当然と言えば当然。

カムイ達も、旅路を済ませて白夜王都へと出発した。

 

 

カムイ達は先を進んでいた。

だが、白夜王国の兵が居ると、レオンから知らせを受けた。

マークスもそれを確認した。

数は数千も居ると。

このまま衝突すれば、被害は大きい。

災厄、こちらは全滅すると。

カムイ達はアクアの先導をとして、道を変える事にした。

妖狐が住まいし山に足を踏み入れる。

だが、ここからは注意が必要だった。

妖狐達と出会えば、こちらもただでは済まない。

それでも、彼らは進み続ける。

山をかなり登ったカムイ達は妖狐の長であるニシキと出会った。

彼は外で出会う人間は優しくて好きだと言うが、山に入ってくる外から来る人間は危険だと。

カムイ達は囲まれ、話し合いどころではなくなった。

仕方なく、彼らとの戦闘を始める。

戦闘は悪化していく。

手加減は出来ない相手だった。

結局、襲い掛かる妖狐達を殲滅するしか、方法がなかったのだ。

カムイは眉を寄せて、彼らに心の中で詫びていた。

落ち込んでいたカムイに、アクアは言った。

――この世界に皆が助かるような、都合のいい道なんて存在しない。

どれを選んでも、何を守ろうとしても、どこかで犠牲は出てしまう。

もし、間違いがあるとしたら、その犠牲が私たちの目の前の人か、そうじゃないかと言う違いだけ。

だから割り切るしかないと。

だからこそ、犠牲にしてしまった者たちの気持ちを酌むことこそが、彼らにできる償いだと。

アクアのその言葉は、良い方こそ違えど、何度も聞いていた。

アクアじゃない、リョウマやマークスだってそうだ。

そして、自信でもそう思っていた。

けれど、自分は関係のない者を巻き込まず、犠牲にしない道を。

大切な者たちが傷つかず、犠牲にならない道を選びたかった。

 

カムイは顔を上げ、先に進む事を選ぶ。

山を下りれば、今度は風の部族がある。

あそこを通らなければ、白夜王都までは行けない。

できれば、そこでは争いたくはないものだった。

だが、中立である風の部族に掛け合ったところ、村を通過することは無理そうだった。

原因はおそらく、昔暗夜王国が差し向けたノスフェラトゥによって村に大きな被害を与えた事だと言う。

カムイはそれを聞き、自分が風の部族の者たちと話を付けに行く事にした。

しかし、その前に風の部族長フウガがこちらにやって来たのだ。

カムイは少し驚いたが、彼によれば自分の持つ『夜刀神』の事を気にしていたようだった。

そして、刀の持ち主として相応しいかどうかを、見定める為に勝負をする事となった。

勝てば村を通る資格在り。

負ければ夜刀神を奪われ、村を通る事もできない。

カムイはその勝負を受け、風の部族長率いる兵達と戦う。

カムイは仲間の指揮を取りながら、部族長フウガと戦っていた。

風の部族の恩恵(土地)ならではの風に苦戦しながら戦い続ける。

だが、カムイに力を貸してくれる仲間たちの支えは強い。

なにより、神器を持っているマークスとレオンの力も試されていた。

カムイは竜の姿にはならなかった。

あくまでこれは、『夜刀神』の使い手としての戦いだったからだ。

カムイは苦戦しながらも、部族長フウガの武器を弾くことに成功した。

剣先を彼に向けて、この場の勝利は決まった。

カムイは剣をしまい、彼から資格を得た。

『夜刀神』の使い手としての資格も、神器の使い手としての二人もだ。

風の部族長フウガが、村の出口まで案内してくれると言う。

カムイはひとまず安心した。

だが、ここから先は白夜王都が近くなる。

そうなれば、白夜王国の元達との激しい戦闘は避けられない。

そして、白夜王族との闘いも……

カムイは気を引き締めて、先を急いだ。

 

 

カムイ達は『黄泉の階段』までやって来た。

ここは一本道。

ここでの戦闘は避けては通れない。

警戒心は強い。

偵察に行っていたフェリシア、フローラ、ジョーカーが戻ってくる。

ジョーカーからの報告によれば、白夜軍が待ち構えていた。

けれど、それは屍の山となっていたらしい。

カムイは驚き、暗夜王国の別動隊の仕業かと思った。

しかし、先遣隊である自分達より先に、ここに来るには自分達に会って追い抜かなければならない。

だが、それはなかったと言うことは別の理由だ。

その理由だろう(モノ)が唸り声を上げてやって来た。

それは大群の野生と化したノスフェラトゥだ。

相手にしても相手にしても、どんどん沸いて来る。

カムイ達は一度、撤退を考えた。

が、カムイ達の後ろにも大群のノスフェラトゥが現れる。

そう、誰かに仕組まれたノスフェラトゥが。

カムイ達は無理矢理、押し進むことを決める。

そんな中、カムイは横から来たノスフェラトゥの攻撃を受けた。

とっさに避けたが、右腕に怪我を負う。

そして、次々とカムイに向かってノスフェラトゥの攻撃は続く。

カムイはそれを交わし、時に受け流す。

そしてアクアが気付いた。

攻撃が、カムイに集中している事を。

マークスは眉を寄せて、何か心当たりがあるかのようにカムイに言ったのだ。

――先に行け。

カムイはこの軍の大将。

失う訳にはいかない、と。

カムイは闘う事を主張するが、マークスは自分達を信じて先に行って待っていてくれと言う。

カムイは歯を食いしばって、先に行くことを決めた。

マークス達が切り開いた道を駆けて行く。

この時、カムイは気付いていなかった別のノスフェラトゥの存在に気付いたリリスが、急いでカムイの後を追ったのだった。

 

カムイは階段を抜け、息を整える。

そして、拳を握りしめる。

 

『クソっ!みんなは大丈夫なのか⁉』

 

カムイは遠目から、白夜王都を目視した。

そこに、唸り声が響く。

 

「グルルルッッ‼」

「――‼」

 

カムイはとっさに剣を抜いて防ごうとするが、間に合わない。

竜化しようにも、それも間に合わない。

カムイは目を見開く。

その攻撃が当たる瞬間、

 

「キュウ――‼」

 

リリスが突っ込んできて、カムイに当たるはずだった攻撃をその身で受けた。

リリスは吹っ飛び、地面に叩き付けられる。

 

「リリス‼」

 

カムイは剣を振るい、ノスフェラトゥを叩き斬る。

そして剣をしまい、リリスに駆け寄る。

 

「リリス‼」

 

リリスを抱きかかえ、

 

「何で、私を庇ったんだ‼しっかりしてくれ、リリス‼」

 

カムイの涙がリリスに当たり、彼女は光り出す。

その身をあの時のように人型へと変わり、肩で息をしながら涙を流すカムイの頬に手を当てる。

 

「…………泣かないでください、カムイ様。」

「リリス……」

 

リリスは目を細めて、

 

「ああ……星竜モローの……情けかしら。けれど、最後にこの姿になれた。カムイ様と過ごしたこの姿に……」

「止めてくれ、リリス。最後だなんて……言わないでくれ。死なないでくれ、リリス!」

「ごめんなさい……私は初めて、あなたの命に背きます……けれど、カムイ様。どうか、悲しまないでください。私は、あなたを守れて幸せです。あなたが私を助けてくれたこと……お傍に置いてくださったこと、楽しかった日々の思い出は……ずっと、ずっと覚えています。」

「い、逝くな、リリス!また私を置いて、逝くな!これではあの時と同じではないか!あともう少しで戦争が終わるのに!なのに、また私はお前を失うのか……そんなの許さん!私よりも先に逝くな!」

 

リリスはさらに泣き出すカムイに微笑みかける。

 

「カムイ様、そんなに悲しまないでください……カムイ様の言うそれを、私は存じません。けれど……私はあなたを守れたことは誇りです。だから、最期くらい、あなたの笑顔を見せて……」

 

リリスはあの時と同じ事を言う。

カムイは涙を拭い、必死に笑顔を作る。

リリスは微笑み、

 

「私はあなたを……ずっとお慕いしておりました……あなたの胸の中で、こうして眠りにつけるなら……私はなんの悲しみもございません……カムイーー様……」

 

リリスの手が落ちる。

一筋の涙を流して……

あの時と同じ感情が甦る。

彼女の懐かしさ。

懐かしき、優しい神竜ハイドラの姿と被る。

父、カムイと被る。

また、自分は何もわからずに失った。

大切な、大切な……彼女を。

 

 

カムイは彼女を抱きしめる。

 

「リリス……リリス!……リリス‼うわあああぁぁっ‼なぜ、私はまたお前を失わなければならない!どうして、お前が死ななければならないんだ‼」

 

そんなカムイの後ろから、またしてもノスフェラトゥが唸りを上げてやって来た。

 

「グルルルっ‼」

「…………まだ、残っていたのか。」

 

カムイはリリスを地面に置き、ノスフェラトゥを睨みながら立ち上がる。

手には竜石を握り、竜の姿へと変わる。

ノスフェラトゥを爪で裂く。

そしてまた、奥からノスフェラトゥが続々と現れる。

 

「グルルルっ!」

 

カムイは竜の姿で戦い続けた。

だが、カムイの背後から狙われた。

しかし、そのノスフェラトゥは剣に斬り裂かれて倒れ伏す。

 

「間に合ったか、カムイ!」

「カムイ!」

 

マークスとアクアが駆け付けた。

そしてアクアは眉を寄せた。

カムイのその姿に。

怒りに任せて竜の姿で、ノスフェラトゥ()を倒していたその姿に。

そして、我を失っていたカムイはマークスにその爪を振り下ろす。

マークスはそれを剣で受け止め、弾く。

 

「カムイ⁉」

「いけないわ……カムイ!我に戻って!このままでは、完全に暴走してしまうわ!」

 

カムイは再び爪を振り下ろす。

だが、そのカムイの前にアクアが手を広げて立つ。

カムイの動きが止まり、人の姿へと戻る。

 

「……………」

「カムイ……」

 

アクアが地面に座り込んでいたカムイを抱きしめる。

アクアは地面に横になっているリリスを見る。

そして解る。

彼女が死んでいる事を。

 

「……アクアさん、兄さん、すみません。でも、無事でよかったです……」

「カムイ、大丈夫?」

「私を……私を守ってくれたんです。失いたくはなかったのに……なのに……私のせいで死なせてしまった……」

 

カムイはアクアの方に顔を埋めて泣く。

アクアはギュッとカムイを抱きしめる。

マークスも、カムイの気持ちは分かるだろう。

だからこそ、言うのだ。

 

「泣いている場合か?カムイ。泣いていれば、リリスは生き返るのか?私は厳しい事を言う。そうやって泣いていても、自分の事を責めても、事態は好転しない。ここが戦場でも、そうやって泣いているのか?人が死ぬ度に、いちいち動けなくなっていては、まだ生きている者たちまで、危険にさらす事になるぞ!私たちは今から白夜王国領内に入る。ここから先は、誰が死んでもおかしくはないんだ。例え、エリーゼを、レオンを、カミラを、そして私を目の前で失っても、お前は立ち上がって最後まで闘い続けなければならないんだ。お前が迷ったら、皆が迷ってしまう。だから、立ち止まるな。何があっても。それがお前の……夜刀神に選ばれた者の責任ではないのか?」

「…………ええ、そうですね。それが、カムイとして、夜刀神に選ばれた責任ですよね。」

 

カムイはアクアから離れ、立ち上がる。

そしてリリスを抱きしめる。

 

「大丈夫だ。お前はこの軍のリーダーなのだからな。だから、できるはずだ。迷いのない瞳で、皆を導き、闘う事が。」

「……迷いのない瞳。」

「ああ。私はずっと、それをお前に教えたかった。皆をここまで導いたお前が、こんなところで折れてはいかん。最後まで迷わずに闘い抜け。何があっても。リリスだって、そう望んでいるはずだ。そうだろう?」

 

カムイは彼女を岩陰に隠し、

 

「すまない、リリス。また、こういう所に置いて行って……。でも、必ず迎えに行くよ。」

 

カムイはマークス達に振り返り、

 

「行きましょう、兄さん、アクアさん。私は立ち止まってはいけない。私が、成すべき事を成す為に。やってやるさ、必ず……」

「そうか……それでこそ、私の妹だ。」

 

カムイ達は他の仲間と合流する。

抜けると、白夜王国のテンジン砦が目の前に見えた。

アクアはそこをじっと見つめ、

 

「着いたわ……ここが、テンジン砦。白夜王国の前線基地にして、難攻不落よ言われている砦よ。ここを落とせば、白夜王国は陥落したも同然だわ。」

「……難攻不落か。」

「気を付けて、カムイ。きっと中には、見知った相手も多いわ。あなたも、私も、覚悟して臨んだ方がいい。」

「分かっています、アクアさん。私は成すべき事の為に進む。その為に、この先に誰がいようと……誰を失っても立ち止まりません。それが、私にできることだから……」

「そうね……なら、私もともに、歩むわ。兄弟姉妹(きょうだい)のように育った彼らと戦う事になっても、私も進み、後悔はしない。あなたにとって、大切な者たちを守るためにも、私はあなたと共に成すわ。」

「はい……ありがとうございます、アクアさん。」

 

カムイは差し出されたアクアの手を握る。

強く、強くその手を互いに握り合わせる。

お互いの想いを込めて。

 

カムイは味方に振り返ると、

 

「砦の中から気配を感じる。向こうには、既にこちらの動きはばれているだろう。気を引き締めて行くぞ!敵が動く前に、攻め込む!難攻不落のテンジン砦を、我々が落とすぞ!」

「おお~‼」

 

カムイは味方を四部隊に分けて、テンジン砦に向かって進攻する。

カムイは部隊を自分、マークス、カミラ、レオンの部隊に分ける。

自分とマークスが正面から乗り込み、カミラとレオンの部隊が左右から攻め込む。

カムイは剣を抜いて、闘う。

アクアと背中合わせにして。

城内の前に武器を構えていた者たちに、カムイは眉を寄せる。

そこに居たのは、白夜兵たち。

その彼らが護るのは、サクラと白夜軍師ユキムラ。

 

「カムイ姉様!」

「サクラ……まさか、最初に剣を向けなくてはいけないのが、お前になるとはな……。」

 

カムイは剣を降ろし、

 

「サクラ、今退くと言うのであれば、私は何もしない。」

「いいえ、姉様。確かに私は、姉様には勝てないでしょう。けれど私も、白夜王国の姫として、ここで退く訳にはいかないのです!白夜王国を守るために!」

「……そうか。なら、私も遠慮はしない。お前が敵として立ちはだかるのなら、私はお前にとっての敵なのだから!」

 

カムイは剣を構えなおす。

白夜軍師ユキムラはサクラを背に守り、

 

「ここまで、来たのですね。カムイ様。ですが、護ってみせます。この砦も、白夜王国も。例え、ミコト様の忘れ形見である、カムイ様が相手でも!」

「ああ……かかってこい、ユキムラ。私も、例えミコトお母様の臣下が相手でも、引けぬ理由がある。私を殺す気で来い!」

 

カムイは彼らの攻撃を受け流し、一撃を与えていく。

あくまで、カムイの部隊は時間稼ぎ。

城内を攻め込んでいるレオンとカミラの部隊が制圧するまで、ここで少しでも時間を稼ぐこと。

マークスの部隊も、他の所で時間を稼いでいる。

そして、目の前の敵もサクラと白夜軍師ユキムラとサクラの臣下二名。

そこに、馬が駆けて来る。

マークスが、カムイの横で止まると、

 

「聞くがいい、 白夜王国軍よ!砦の中は我々が制圧した!このまま闘っても勝ち目がない。武器を捨てて投降せよ!そうすれば、生き残っている兵の命までは取らん!」

 

彼の叫び声に、

 

「くっ!やむを得ませんね。私も、サクラ様も、兵たちも、もはや闘えません。ここは投降して、命を守るのが得策でしょう……」

 

白夜軍師ユキムラは眉を寄せる。

サクラは泣き出し、

 

「ごめんなさい……私、わたし……」

「いいえ、サクラ様は立派でしたよ。それから、ツバキさんも、カザハナさんも、よく戦ってくれましたね。」

「ユキムラさん……」

「うっ、うっ、あたしたち、負けちゃったんですね……」

「そうです。でも、生きています。生きていれば、これからいくらでもやり直せます。武器を捨てて、投降しましょう。ここで、無駄に命を散らす必要はありません。」

「はい……」

 

サクラは涙を拭って、臣下二人を見る。

彼らも、決意したみたいだ。

 

「白夜王国軍よ、もう一度言う。この砦は暗夜王国軍が制圧した。もし投降するなら――」

「聞こえておりますよ。暗夜王国第一王子、マークス殿。」

 

白夜軍師ユキムラは武器を下ろして、近くまで歩いて来る。

マークスはため息をつき、

 

「はぁ、なら早く答えろ。まだ戦うつもりか?」

 

白夜軍師ユキムラは彼の前に武器を捨てて、

 

「いいえ。そのつもりはありません。白夜王国軍は、あなた方に投降します。砦の中の兵達にはすでに全員、武装解除を通告しました。ですから、サクラ様の命だけはどうかお助けいただけますよう。」

 

そして、サクラ、サクラの臣下も武器を捨てる。

マークスは馬から降り、

 

「ほう。賢明な判断だな。さすがは泣き女王の軍師だ。その判断に免じ、生き残った兵と王女の命は助けると約束しよう。暗夜兵よ、この者たちを捕虜として捕らえよ!ただし、殺しはするな!手荒な真似はせずに拘束するんだ!」

「はっ!」

 

兵達が彼らを拘束し、連れて行く。

カムイの横を通り過ぎようとする。

それを見送り、

 

「すまないな、サクラ、ユキムラ。だが、これも早く戦争を終わらせるため……少しだけ待っていてくれ。」

 

カムイがこの場を離れようとした。

だが、奥の方から悲鳴が聞こえてきた。

 

「ぎゃああああ!」

「なに⁉」

 

カムイはすぐにそこに向かう。

そこに行くと、カムイは目を見張った。

ガロン王が選抜した兵達が、武器を持たぬ兵達を斬り倒していた。

 

「ふん。白夜王国軍の実力も、この程度か。」

「何をしている、ガンズ!なぜ、貴様がここに居る!」

「これはこれは、カムイ様。我々は、カムイ様たちの援軍としてきたのですよ。」

「では、何故武器を持たない兵を殺した!」

「それは、彼らが敵国だからですよ。」

「貴様!」

 

カムイは剣を握りしめる。

そして、剣を彼に向けようとする。

が、その前に白夜軍師ユキムラがカムイを見る。

 

「どういう事ですか⁉投降すれば、兵の命は取らないはずです!」

「そんな……そんな!早く、早くあの兵たちの回復を!お願いです、この縄をほどいてください!私は逃げたりしません!だから、お願いします‼」

 

サクラが涙を流しながら懇願する。

そこに、また一人やって来る。

 

「なりません。」

「マクベス!」

「ごきげんよう、カムイ様。ですが、剣を向ける相手をお間違えですよ。」

 

カムイは暗夜軍師マクベスに剣を向けていた。

カムイは舌打ちをして、ひとまずは剣を下ろす。

 

「いやはや、さすがですな。こうも、難攻不落と呼ばれた砦を、簡単に制圧をしてしまうとは。ガロン王様も、この功績は高く評価されることでしょう。」

「それは、どうでもいい!私は何故、こんな事をしたかを聞いているんだ!」

「ガンズ将軍から聞いたのではないのですか?援軍ですよ、援軍。そろそろ厳しい頃だろうと、ガロン王様が配慮してくださったのです。さ、お疲れでしょう。後は我々にお任せを。すぐに、ガンズ将軍が、白夜兵など皆殺しにしてくれます。」

「ふざけるな!彼らはすでに武器を捨て、投降した者達だ!闘う意志のない者たちだぞ!命を奪う事など、私が許さん!すぐに、やめさせろ!」

「ううむ……そう言われましても。」

 

と、視線を横に向ける。

そこには、未だ武器を持たない兵達を殺している。

 

「おらおらおら、死ねえええっ‼」

「うわああああっ‼……がはっ‼」

「いやああああっ‼やめて、もう殺さないで!お願いです!」

 

サクラの泣き叫ぶ声も響き渡る。

カムイは暗夜軍師マクベスに再び剣を向け、

 

「すぐにやめさせろ、マクベス‼」

 

そこに、マークスも駆けてきた。

 

「マクベス!これはなんだ!すぐに、こんな卑怯なことはやめろ!これ以上やるのなら、私がお前を斬るぞ!」

 

マークスは剣を抜く。

彼の本気に、暗夜軍師マクベスは一歩下がる。

 

「なっ⁉正気ですか、マークス様⁉」

「無論だ。貴様のような者、誇り高き暗夜の軍師とは認めん!暗夜王国第一王子として、力ずくでもお前たちを止めてみせる!」

 

そして剣を振り下ろそうとした時、

 

「ならん。下がれ、マークス。」

「⁉この声は……」

 

マークスの剣が止まり、声のした方を見る。

そこには、暗夜王ガロンが歩いて来た。

 

「父上……⁉」

「よいか、これはわしが命じた事だ。逆らうことは、我が子とて許さん。」

「しかし、マークス兄さんの方が正しい。彼らの命は、我々が保証しているんですよ!」

 

カムイは暗夜王ガロンを睨む。

だが、暗夜王ガロンは冷たくカムイを見下ろし、

 

「聞こえなかったのか?逆らえば、許さぬ。」

「わかり……ました。」

 

マークスが剣をしまう。

カムイは剣を握りしめる。

 

「それでよい。」

 

白夜軍師ユキムラは死にゆく兵達を見て、

 

「くっ!卑怯者!私たちを騙したのですね!許しません、絶対に‼貴方たちは悪魔です‼人の形をした、化け物です‼」

「うっ!うう‼こんな、こんなことって……みんな、助かるはずだったのに……こんなの酷すぎます‼」

 

サクラも泣き続ける。

カムイは剣をしまい、拳を握りしめる。

 

「よくやった、我が子たちよ。これで、白夜王国は落ちたも同然。わしはお前たちを、誇りに思うぞ。」

 

暗夜王ガロンは笑いながら、歩いて行く。

カムイは唇を噛みしめる。

 

『くそっ!くそっ‼』

 

 

しばらくして、カムイは何とかサクラと白夜軍師ユキムラ、サクラの臣下二人の命だけは守った。

彼らの恨みは多いだろう。

だからこそ、アクアとエリーゼにサクラの事を頼んだ。

カムイはアクア達が戻ってくるのを待っていた。

そして、アクアだけが帰って来た。

 

「アクアさん……サクラの様子は……」

「そうね。ずっと塞ぎ込んでいるわ。食事も喉を通らないみたい。」

 

カムイは岩に座り、頭に祈るように手を握り合わせて抱える。

 

「無理もないな……あんなに大切にしていた仲間が、目の前で殺されてしまったのですから。あの後、何とかしてサクラとユキムラ、ツバキにカザハナの命だけは捕虜として助けられたが……サクラには合わせて貰えていない。サクラの心では、これはあまりにも辛すぎる。」

「そうね。独りぼっちで閉じ込められて、余計に辛いでしょうね。けどね、エリーゼがよく声をかけているわよ。寒くないとか、お腹空いてないとか。」

「そう、ですか。やっぱり、エリーゼを行かせてよかったです。似た者同士ですからね、あの二人は……国のため、兄弟姉(きょうだい)のため、仲間のため……そのために、立ち向かう光をもつ。それぞれの国にとってのかけがえない光なのだから。」

「そうね。あの二人は何か通じ合っているのかもしれないわね。お互い末っ子して、妹姫同士として。けれど、ガロン王直属の兵たちはサクラたち捕虜のことを良くは思っていないから、目を離さないようにした方がいいわ。知らない間に殺されないとも限らないもの。」

「では、そちらの方はアクアさんとエリーゼに任せたいと思います。私は少し手が離せなくなる。そちらに手がかかってしまうからな。」

「……わかったわ。けど、カムイ。無茶はダメよ。」

「はい、解ってますよ。」

 

カムイは顔を上げて立ち上がる。

アクアは視線を流し、

 

「けど、暗夜王国は今、真っ二つの状態ね。」

「……暗夜王ガロンを信じられるか、信じられないかとか?」

「それもあるけど、あなたが率いているマークスやレオンたちの軍勢と、ガロン王が率いるマクベスやガンズたちの軍勢のことよ。目的は白夜王国の制圧だけれど、やり方が違いすぎる。このままじゃ、内部争いが起きてもおかしくはないわ。ガロン王が早くこちら側に来たのは好都合だけれど、仲間割れでもして信用が失えば、私たちの身も危ないわ。あの玉座に辿り着くまで……決して気は抜けないわね。」

「ああ。できれば、兄さん達を仲間にしたい。けれど、彼はきっとガロン王を取る。今はまだ、そう言うモノだろうな……あいつを玉座に座らせて、真実を教えられても、受け入れられなかった時は……私は彼らの敵になる。」

 

カムイは視線を横に向ける。

そこには、こちらにやって来る暗夜軍師マクベスがやって来た。

 

「カムイ様、アクア様。」

「なんだ、マクベス。」

「おや?何かお話だったのですかな?」

「私たちは話し合いもしてはいけないと?」

「いえいえ、そんな事は。」

「で、要件は?」

「はい。ガロン王様より、戦闘準備を整えよとのお達しです。我々はもうすぐ、スサノオ長城へと差し掛かりますので。」

「スサノオ長城……」

「ええ。スサノオ長城は、白夜王城への最後の関門でございます。ここを落とせばいよいよ王都へと、足を踏み入れることができるのですよ。我々が先発部隊として道を開きますので、カムイ様たちにはその間に敵の本丸へと攻め込み、将であるタクミ王子を討っていただきたい。」

「……なるほど。将はタクミか……」

「ええ。斥候からの情報では、そのように聞いております。捕虜はもうサクラ王女がおります故、殺してしまっても良いと思いますがね。いや、もちろん命を奪わないという選択も懸命だとは思いますが、王が何と思われるか……」

「王が何と言おうと、それは私の意志で決める。戦って、功績を出せばいいだけの話。なら、タクミの処遇をどうするかは、暗夜王にはないはずだ。」

「まるで、この戦にも早かったかのような言いようですな。」

「マクベス、お前はまるで私に負けて欲しいかのような言いようだな。」

 

カムイは彼をキッと睨みつける。

暗夜軍師マクベスは一歩下がった。

 

「……さて、私は進軍の準備を進めてくるかな。お前も暗夜王の所に戻ったらどうだ。」

「承知しました。」

 

彼はサッと歩いて行った。

カムイはムッとしながら、アクアと共に仲間の居るところへと戻る。

 

そしてカムイは目の前のスサノオ長城を見上げる。

ここに居るであろうタクミを想って。

カムイは数名の兵を連れて、城の中を駆け上がる。

無論、アクアも共に居る。

下の方はマークス達に任せてあるから大丈夫だと信じて。

カムイが扉を開けると同時に、矢が放たれた。

一つは頬をかすめたが、残りは叩き斬る。

 

「来たね、カムイ。ぶっ潰してやる!」

「タクミ。」

「やっとお前を殺せる。僕はずっと待っていたんだ。お前を殺せるこの時を。シュヴァリエでの言葉……覚えているだろう?」

「ああ。『どんな手を使ってでも、私を殺す』だったな。」

「そうだよ。僕にはもう、後がないんだ。きっとここが、僕とお前の最後になる。だから絶対に倒す!お前だけは僕が倒すって、ずっと、ずっとそう決めていたんだ!民や、母や、皆の仇……討たせてもらう!」

「タクミ……ああ、来い。相手になる!」

 

カムイは剣を構えて、彼と戦う。

彼の臣下や兵をアクア達に任せて闘う。

カムイは見る。

彼の瞳にある悲しみや怒りを。

それを受け止め、闘うのが自分。

彼にとって自分は復讐相手なのだと。

それこそ、自分が彼らに対してできる事なのかもしれない。

自分の目的の為に、何も言わず事を成している自分にとっては……

 

カムイはタクミとの攻防戦を続けていた。

互いに肩で息をしている。

油断すれば、攻め入られる。

それはよく解っていた。

そこに、駆け足が聞こえてくる。

 

「カムイ、他の連中は倒した!」

「後は、そこに居る王子を抑えればここの占拠は終わりだ。」

 

マークスとレオンがやって来た。

それを聞いたタクミの瞳に、さらに怒りが燃え上がる。

カムイはタクミに矢を斬りながら詰め寄り、魔術を放つ。

それに目を取られたタクミに、カムイは剣を振るう。

風神弓を弾き、彼を蹴りを入れる。

タクミは倒れ込みそうになりながら立ち上がり、腰に会った剣を抜く。

 

「負けない……絶対にお前を殺すんだ!」

「くっ!」

 

カムイは彼の剣を受け止める。

かなり重い。

それを必死に耐え、竜の力を籠める。

思いっきり力を振るい、吹き飛ばす。

タクミの剣は折れ、再び彼の横にあった風神弓を握る。

だが、その前にカムイは剣先を彼の首に当てて風神弓を持っている手を抑え込む。

タクミはうつ伏せになった。

 

「勝負あったな、タクミ。これで、スサノオ長城は暗夜王国軍が制圧した。生きている兵たちは全て、捕虜として捕らえさせてもらう。勿論、お前を含めてだ。」

「くっ!卑怯者!呪われるがいい!」

 

タクミは押さえつけられていない手をダンと地面を叩く。

そこにレオンが歩いて来る。

 

「まったく、失礼なことを言うヤツだな。命があるだけでも有難いと思ってほしいね。捕虜っていっても、別に酷い事をしようってわけじゃない。大人しくしていれば、サクラ王女にも会わせてやるさ。」

「なに?サクラまで捕らわれているのか……お前たちのような者に!」

 

タクミはギリッと歯を食いしばる。

カムイはタクミを見て、

 

「ああ。気持ちは察するが、今は堪えてくれ。私はお前を暗夜王が来る前に、拘束しないといけない。お前を救うために。」

「救う……だと?」

 

タクミがぐっと力を籠める。

カムイは後ろに投げ飛ばされる。

タクミは起き上げり、

 

「ふざけるな!何が救うだ!この裏切り者!」

 

そして矢を放つ。

カムイはそれを避け、止める。

 

「待ってくれ、兄さん!」

 

タクミに剣を振るうマークスの姿を見たからだ。

だが、カムイの制止がかかる前にマークスの方が早い。

マークスの剣からタクミを守ったのは、彼の臣下二人だった。

 

「タクミ様……お怪我がなくて良かった。」

「全くだぜ。ホント、よかった……」

「オボロ!ヒナタ!」

 

タクミは肩を震わせる。

風神弓を強く握りしめ、

 

「許さない……絶対に許さな!」

「タクミ!」

「来るな!」

 

タクミの放つ矢がカムイの横を掠っていく。

それでもカムイはタクミの元へと駆けて行く。

 

「来るな!来るな!来るなぁー!お前なんかが近寄るな!お前さえ、お前さえいなければ、白夜王国はこんなことにはならなかった!誰も死なずにすんだ!」

「――‼」

 

カムイの足が止まる。

タクミは風神弓を下げる。

 

「どうして……どうしてお前は暗夜王国についた⁉どうして……僕たちの味方をしてくれなかったんだよ‼」

「タクミ……」

「うっ……うぅっ……!」

 

タクミは強く、強く風神弓を握りしめる。

そしてカムイをジッと見ると、

 

「――もう、いい。」

「タクミ⁉」

 

タクミから紫のオーラのような者が浮かび上がる。

カムイは必死に手を伸ばしながら駆け出す。

タクミは後ろへ一歩一歩下がりながら、

 

「僕がやる……救いの刀など無くても……僕がこの白夜王国を救ってみせる。お前達に、僕を捕らえることなんてできないさ……ほら、逃げる道なら、ここに……」

 

そう言って、城の柱の上に立つ。

そしてタクミは真後ろへと落下した。

 

「タクミ‼」

 

カムイはバッと下を見る。

だが、彼の姿は目視できない。

ここは城の最上階。

落ちれば、待っているのは死だ。

カムイは拳を握りしめる。

 

「タクミ……」

 

アクアもカムイの後ろまで駆けてきて、胸に手を当てて口を押える。

カムイはガンと柱を叩き、

 

「タクミ!」

 

カムイはクルリと回る。

走り出そうとするカムイの腕を、アクアが引っ張り、

 

「カムイ⁉どこに行く気⁉」

「長城の下に!まだ息をしている可能性だってある!」

「ちょっと!まだこの場は収まっていないのよ⁉」

「この場の指揮はマークス兄さんに任せます!」

「カムイ!」

 

カムイはアクアの手を払って走り出す。

アクアはそれを追いかける。

真下まで来たカムイは辺りを見渡し、

 

「タクミ!どこだ、タクミ‼」

 

だが、あっちこっち捜したが、彼の姿はない。

カムイは肩で息をしながら、

 

「姿がない……だと?ここに落ちた筈なのに……」

「待って、カムイ!単独行動をしないで!まだ辺りに白夜兵がいるかもしれないのよ⁉」

「そんな事はどうででもいい!問題はタクミだ!タクミの姿がないんだ!」

 

追って来たアクアに、カムイは怒鳴る。

アクアは困惑しながら、

 

「え?姿がない……?」

 

それを見たカムイはハッとして、深呼吸をして落ち着きを取り戻す。

そしてアクアを見て、

 

「はい。確かにタクミがあそこから飛び降りたのを見た。」

 

カムイは上を見上げる。

そして、再びアクアを見て、

 

「なのに、ここにはその姿がない。どこにも……です。」

「そんな……そんなはずは、ないわ。だって、仮に生きていたとしても、あの高さから落ちて、動けるはずがないもの。いいえ、そもそも生きていると言うこと自体無理なのよ。」

「じゃあ、どうして……」

 

カムイは眉を寄せる。

思い出す。

あの時のタクミの様子を。

 

『まさか……透魔王に……?あいつなら死体でもいい。いや、死体の方が扱いやすい。けど、どうやって?すぐには動けないはずだ。誰かが手引きした?……アベル、か?でも、その気配もしない。いや、それ以前にどうやって、アベルがここに来る?彼には移動手段は限られる。自由に行き来はできないはずだ。』

 

アクアが首を振り、自分とある意味同じ事を考える。

 

「わからないわ……誰かが体を持ち去ったのか、何か別の理由があるのか……けれど、そのことを考えている時間はないわ。今は早く長城に戻る事が先決よ。いくらマークスでも、ガロン王率いる部隊が来てしまえば、救える命さえも救えなくなる。また、多くの犠牲が出てしまうわ。」

「そうですね……わかりました。すぐに戻りましょう。」

 

カムイとアクアは走る。

生き残った白夜兵を守るために。

 

カムイ達の部隊は白夜王都にやって来た。

カムイはジッと王都を見つめて、

 

「ついに、戻って来たな……白夜王都に。」

「ええ。あと少しで全てが終わる。白夜王城を落とし、玉座を制圧すれば……いよいよ、私たち暗夜王国の勝利となるわ。」

 

カムイと二人きりになっていたアクアは冷静に、同じように王都を見つめて言う。

カムイはアクアに視線を向けて、

 

「アクアさんは……平気ですか?」

「え?」

「……今から攻め込むのは、あなたの育った場所だ。もし辛いなら、戦闘は私達に任せてくれてもいい。終わるまで、どこか安全な場所で待っていてくれても――」

「いいえ。それはできないわ。怖気づいて逃げる為に、私は暗夜王国についたわけじゃない。それに、それを言うなら、今から攻め込む場所はあなたにとっても大切なところ。そのあなたも闘うんだもの。私もともに最後まで、一緒に闘うわ。それに、この戦争を終わらせることこそが、私を育ててくれた白夜王国のために、共に育った兄弟姉妹(きょうだい)達の為にやるべき使命だって……私はそう、信じているから。」

「……アクアさん。」

「ねえ、そういえば……結局見つからなかったわね。」

「……ええ。本当に、どこに行ったんでしょうね、タクミは……」

「本当に、そうね。あの後、マクベスやガンズの部隊がしらみつぶし探したそうだけれど……タクミ本人はおろか、身に着けていた物の一つも見付けることはできなかった。にわかに信じがたい話だけれど……タクミは消えてしまった。そう思うのが一番しっくりくるわ。」

「……消える、か。」

「このことは、サクラには黙っておいた方がいいでしょうね。」

「ええ、その方がいい……ですね。」

 

二人は視線を落とす。

そこに、

 

「カムイ。アクア。」

「マークス兄さん。」

「父上よりのお達しだ。これより、白夜王都に進攻する。皆に準備するよう、伝えてほしい。」

「……わかりました。」

 

カムイは準備を整え、暗夜王ガロンを先頭に進軍を始めた。

門を破壊し、暗夜王ガロンは馬に乗って、兵と共に進む。

白夜王国の民達は身を寄せ合い、恐怖の声を叫ぶ。

 

「あいつらだ……!暗夜軍が……暗夜軍が来たぞーっ!」

「ああ、恐ろしい……まるで死神の行進だわ……」

 

カムイはその行進の白夜の民達に見える場所だった。

カムイは無言で歩いて行く。

民の一人が、カムイの存在に気付いた。

 

「おい、裏切り者のカムイ王女もいるぞ!」

「ミコト様や王都をあんな風にして、よくその顔を魅せられたのう!」

「主人を返しておくれ!この、人でなし‼」

「お父さんとお母さんを返せー‼」

 

大人から老人、主婦に子供。

多くの民達がカムイに向けて、敵意や殺意、悲しみ、怒り、多くの感情が渦巻く。

カムイはそれを黙って聞き続けていた。

そうしていたら、暗夜軍師マクベスは忌々しそうに、

 

「はぁ……民草どもが五月蠅いですね。道を開けなさい‼」

「きゃああああ‼」

 

暗夜軍師マクベスは近くに居た民を斬り付ける。

カムイは彼の前に出て、

 

「マクベス!」

「ふん。他愛もないですね。ご安心ください、カムイ様。あなた様に心無い言葉を吐く者は、全て私たちが始末いたしますので。」

「ふはははは!俺たちに逆らったらどうなるか思い知らせてやる!」

 

さらに、ガンズが民たちを斬り付けて行く。

 

「うわあああぁぁ‼」

 

民たちは逃げまどう。

悲鳴を上げて、恐怖に身を固める民たち。

カムイは拳を握りしめる。

剣を抜こうとするカムイの手をアクアが握る。

 

「こらえて、カムイ。ガロン王が見ているわ。今彼らを止めたりすれば、何をされるかわからないのよ。」

「くっ!」

 

カムイは感情を抑え込んで進む。

白夜王城の前に来ると、暗夜軍師マクベスはマークスを見る。

 

「さて、白夜王城に着いたようですね。ふむ……外に兵は見当たりません。おおかた、全戦力を城内に集中させ防御戦でもするつもりなのでしょう。」

「そうだな……だが、我々暗夜王国軍は、既に白夜王城を取り囲めるほどの数だ。投降するよう呼びかければ、闘わずとも勝負がつく。」

「なりません、マークス様。」

「なに?」

「良いですか?これは白夜王国の邪魔者たちを、一斉に始末するチャンスですぞ。投降の呼びかけなど生ぬるい。この戦乱に乗じ、白夜の要人を全て殺害してしまえば、晴れて戦争が終わった後……我が暗夜王国がこの国を乗っ取ることも容易くなるでしょう。」

 

と、暗夜軍師マクベスはニヤリと笑っていた。

マークスは眉を深く寄せて、

 

「貴様、そんな卑劣な手を――」

「ガロン王様、如何でしょう。このマクベスの策、実行に移しても宜しいでしょうか。」

 

暗夜軍師マクベスはマークスが言う前に、暗夜王ガロンを見る。

暗夜王ガロンは視線だけ向けて、

 

「好きにしろ。」

「ありがとうございます。」

「父上……」

 

マークスは拳を握りしめて、俯いた。

カムイも少しムッとしながらそれを見ていた。

と、暗夜軍師マクベスはカムイを見て、

 

「ふむ……では、お許しも出た事ですので、我々は城内に攻め入りましょう。私たちは裏から、カムイ様たちは表から、それぞれ進行するということで如何でしょう。」

 

マークスは視線を上げ、カムイを見る。

 

「どうする、カムイ。それで異論はないか。」

「ああ。それが、命令なら。」

 

カムイはマークスから視線を外す。

暗夜軍師マクベスは手を叩き、

 

「おお、そうですか。それは何よりでございます。では、私たちは裏手に回りますゆえ。後ほど、城内の『王の間』でお会いしましょう。くれぐれも、うっかり戦死なさらぬようお気をつけください。」

 

そう言って、彼らは裏手に向かって進軍していく。

カムイは歯をギリッと歯を食いしばった後、

 

「死なないさ……私はまだやる事がある。」

「カムイ……」

「マークス兄さん、私は――」

「ああ。このやり方がお前の本意でないことは、解っている。カムイ。お前は以前、カミラに正義はどこにあるんのかと聞いたそうだな。」

「ええ……」

「……正義など、ありはしない。」

 

そう言うマークスの姿はあの時の最期のマークスを思い出す。

カムイはマークスをジッと見つめる。

マークスはカムイから目を離さず、瞳をじっと見て、

 

「それが戦争だ。この世界に、正しい道も間違った道も存在しない。あるのはただ……それぞれの野望と、欲望。そして、それに付き従う者たちの思惑だ。よく、覚えておけ。」

「…………」

 

カムイは瞳を揺らし、サッとマークスから離れて、指揮を取り始める。

 

「まずは城門を突破する。」

 

城門を破壊し、奥へと進んで行く。

そこに、馬の泣き声と羽ばたき音が響く。

カムイは空を見上げる。

そこには天馬に乗ったヒノカの姿。

 

「白夜王国第一王女、ヒノカ!参る‼」

 

カムイの前に降り立ち、凪刀を上で回転して構える。

そして、ヒノカの部隊が陣形を作って立ちはだかる。

カムイは剣を抜き、

 

「白夜王国の敵、カムイ。受けて立つ。」

 

カムイはヒノカと刃を交える。

彼女の凪刀を受け止め、

 

「とうとう来てしまったのだな、カムイ。お前の本当の家である……この王城に。」

「はい……本当にすまないと思っている。ここは私にとっても本当に大切な、大切な場所。けれど、私は玉座に用がある。その為に、ここを通らせて貰う!」

「カムイ……そこまで思っていて、何故だ!私は、この城に帰ってきたお前を、おかえりと言って迎えたかった。ここで眠り、ここで起き、ここで生きるお前が見たかった。ここがお前の……帰る場所になって欲しかった。それが私の、夢だった。でも、その夢も……もう叶わない。」

「ヒノカ姉さん……」

「いや、すまない。私としたことが、らしくないな。潰えた夢に思いを馳せるなど。今目の前に居るのは、敵国の将。ならば私は、ただ闘うのみだ。お前がもう二度と、この城に来ることのないように。」

 

ヒノカはカムイの剣を弾く。

カムイは後ろに下がりながら、手を構える。

そこに魔法陣が浮かび、光を弾けさせる。

ヒノカは腕で顔を守り、一瞬動けなくなる。

その隙に、カムイは宙に飛ばされた夜刀神()を取り、ヒノカに突っ込んで行く。

ヒノカは反応し、凪刀を振るう。

カムイは一端距離を取り、

 

「……流石、ヒノカ姉さんです。」

「ああ。そうだろう……お前を取り戻すために磨いた力だ。」

「知っています。だって、私がリョウマ兄さんと一緒にスメラギ父上様に剣の稽古をしていた時だって、怪我をする度に心配そうに駆けて来た。傷の手当てをして、泣きながらもうやめてくれと言う姉さん。」

「え……?」

「それに、あんなに優しくて、お淑やかで、誰かが傷つくのを恐れていた姉さんが、自ら武器を取り闘う。その努力を、私は否定しない。私が壊してしまった本来のあなた。なら、私が向き合わなくて、どうしますか。私は、私のすべてを持って、姉さんの前に立ちます。」

「……カムイ、お前は一体誰だ?」

 

ヒノカは眉を寄せて、凪刀を構える。

突き出される凪刀を避けながら、カムイは剣を構えなおし、突っ込む。

そして剣を振るうと見せかけて、竜石を手に取る。

竜の姿となって、馬の足を払い、体勢の崩れたヒノカを竜の手で抑え込む。

カムイは人型に戻って、ヒノカに剣を向ける。

 

「……くっ、負けたのだな、私は……この城を守ることは、叶わなかったか……」

 

ヒノカは深呼吸をすると、馬乗りしているカムイを見つめる。

 

「さあ、殺すなら殺せ。第一王女として、命乞いはしない。その代わり、残った兵たちはどうか助命を――」

「何を言っているのですか、ヒノカ様⁉あなたは、ここで死んではいけません!」

「だめ……そんなの絶対だめです……ヒノカ様が死ぬのなら、私も一緒に死にます……」

 

ヒノカの臣下アサマとセツナがボロボロになって、ヒノカの方に駆け寄ってくる。

ヒノカは二人を見て、

 

「アサマ、セツナ……」

「いえ、ダメです。ガロン王は敵将の命を救うことなど、決して許さない。ですから、ヒノカ姉さんには死んでもらいます。」

「……そうか。ならば、一思いに殺せ。」

「はい……」

 

カムイは剣を振り上げ、下敷きになっているヒノカに振り下ろす。

臣下二人が手を伸ばしながら、

 

「ヒノカ様‼」「やめて……‼」

 

ザクッと言う音がなる。

ヒノカが目を開けると、自分の頬を掠めた剣が地面に突き刺されていた。

臣下の二人はその場に座り込み、

 

「外れた?いえ、外したのですか?」

「どうして……」

 

カムイは剣を抜き取り、ヒノカから降りる。

ヒノカに手を差し出し、立たせる。

そしてカムイはヒノカの腰に付いていた手ぬぐいを取り、ヒノカの頬を拭う。

血の付いた手ぬぐいで、さらに剣に付いていたヒノカの血を拭く。

 

「カムイ……」

「……いいですか、ヒノカ姉さん。良く聞いてくれ。今からヒノカ姉さんは死んだ。そう城中に言いふらします。なので姉さんは、この戦が終わるまでどこか安全な場所に臣下の方たちと共に身を隠していてください。姉さんの死んだ証は作りました。これを、ガロン王にヒノカ姉さんを討った証として、献上する。」

 

と、カムイはヒノカの血の付いた手ぬぐいを見せる。

ヒノカは困惑しながら、

 

「どういうことだ、カムイ。私を、殺さないのか?」

「ええ。私は、無駄な殺戮はしない。暗夜王ガロンの思惑には……乗りたくないんです。ヒノカ姉さんも、ここに生き残っている姉さんの兵達も殺しません。」

 

カムイはヒノカの耳元で小さく言う。

 

「私が、ガロン王を殺すまで……待っていてください。」

「そんな!ならば、私もお前と共に行こう。私がリョウマ兄様を説得すれば、この戦も早く決するかもしれぬ!」

 

その言葉に、カムイは前の時のエリーゼを思い出す。

あの時のエリーゼはマークスを止めると言ってついて来た。

けれど、止める事は叶わず……死んでしまった。

あの時の二の舞いにはしたくない。

カムイは首を振り、

 

「それはダメだ。姉さんが生きている事を知れば、ガロン王が何をするか解らない。辛いかもしれないが、待っていてください、ヒノカ姉さん。戦争が終わるまで、どうか生き残っていてください。私は、大切な姉妹(きょうだい)を失いたくないんです。」

「しかし、カムイ!私は――」

「もう、聞き分けのない子ね。」

 

カミラが痺れを切らして、斧を持って歩いて来た。

そしてヒノカの首の近くに刃を向ける。

 

「なっ⁉」

「あらあら……うっかり喉元に刃が。ちょっとでも動くと、喉を裂いちゃうかもしれないわ。」

 

と、微笑みかえるカミラ。

ヒノカは冷や汗が頬を伝い、

 

「貴様、何を……」

「そうねえ……『私の』妹が決めた事だもの、あなたの助命に異論はないわ。でも、あんまりカムイのことを困らせないで頂戴ね。これ以上逆らうようなら私……手が滑るかもしれないわよ?」

 

と、目を細めてヒノカを見据える。

ヒノカはそんなカミラを睨みつける。

 

「うふふ。相変わらず、怖い顔。そんなことじゃ、サクラ王女と再会した時……きっと怯えられちゃうわ。」

「なに⁉サクラは……生きているのか⁉」

「さぁ、どうでしょうね。全てが終われば、わかるかもしれないけど。その為には、カムイの言う通り、隠れてもらう必要があるの。あなたが死んだらサクラ王女、どう思うかしら?」

 

カミラは斧をヒノカから話して、再び笑顔に戻る。

ヒノカは瞳を閉じ、開くと、

 

「わかった。お前たちの言う通りにしよう。」

「そう。分かってくれて、嬉しいわ。従順にしていたら、優しくしてあげる。」

 

カミラはグイッとヒノカに顔を近付けて、

 

「よく見たらあなた……私の好みの顔立ちだわ。可愛くて、とっても綺麗。」

「っ⁉」

 

ヒノカはバッとカミラから離れる。

カミラは頬に手を当てて、嬉しそうに言う。

 

「素敵だわ。照れている顔も、なかなかね。」

 

その言葉に、ヒノカは顔を真っ赤にして睨みつけていた。

カムイは咳払いをして、

 

「ゴホン。カミラ姉さん。」

「ごめんなさい。それじゃあ、私たちはもう行くわね。さよなら、白夜の王女様。」

 

カミラは歩いて行く。

カムイも続こうとした時、

 

「カムイ。上階にはリョウマ兄様がいる。もしお前たちが本当に、無駄な殺戮を避けたいうのなら……どうか、殺しはしないでほしい。母様に続き、リョウマ兄様までいなくなったら、この国はお終いだ。」

「……ああ、死なせない。約束します。リョウマ兄さんは殺さない。殺させない。この救いの刀に誓って、必ず護ってみせる。白夜王国も……暗夜王国も……あの国も……」

「ありがとう……カムイ。」

「……最後に一つ。私たちのしたことは、白夜王国の者たちにとって、ヒノカ姉さんたちにとってはやっぱり……決して許せないこと、ですよね。でも、この戦争が終わって、平和な日々が来たら……また、ここで本当の兄弟姉妹(きょうだい)としてみんなで笑い合いたい。本当の昔、白夜王国で過ごしていた頃にイコナ母上様も、スメラギ父上様も、ミコトお母様、白夜王国の兄弟姉妹(きょうだい)で共にやった花見を、また私はやりたい。あの光景をもう一度……」

「カムイ……?」

「すみません、ヒノカ姉さん。解らないですよね。そんな事できるか、って怒ってくれてもいいです。けれど、私は少なくてもそう思っている。その事だけは忘れないでください。でもこれは、本当なんですよ。後、あの時の問いは、私はカムイ。今のカムイであって、本当の(カムイ)じゃないんです。けれど、カムイ()なんです。」

 

そう言って、カムイは歩いて行く。

 

カムイ達は王城内へと進行した。

カムイはアクアと共に、リョウマを捜していた。

暗夜王ガロンが居ない今がチャンスなのだ。

真実は伝えられなくとも、玉座の意味をいるリョウマなら理解していくれるかもしれない。

今はそれに駆けるしかないのだ。

こうなってしまった以上は、何としてでもリョウマをここから離れさせるか、先に保護しなければならない。

 

「はぁ、はぁ……リョウマ兄さんは一体にどこに居るんだ?早く見付けなければならないのに!」

「……まさか、リョウマはあそこに?」

「心当たりがあるんですか、アクアさん。」

「ええ。この城には王の間の前に、大広間があるの。その大広間を抜けないと、玉座のある王の間には辿り着けない。おそらくリョウマは、そこを護っているはずよ。それ以外に、考えられる場所がないもの。」

「それはまずいな……そこはガロン王たちとの合流場所だ。アッチより先に、そこに向かいましょう。リョウマ兄さんをなんとかしなくては!」

「無理ね……今からでは確率が低いわ。それに、今からではあっちとの合流の方が早いわ。」

「くそっ!」

 

カムイは拳を握りしめる。

そこに歩く音が聞こえてくる。

二人は警戒する。

 

「おお、カムイ様、アクア様。よくぞ、ご無事で。」

「マクベス。」

「こちらの兵は全て片付けましたぞ。暗夜兵の犠牲も少なく済みました。これも全て、ガロン王様のお力のおかげでございますな。」

「王の?」

「ええ。ガロン王様のお力の前には白夜兵など赤子同然。あの方の通った後には、生存者は残らぬという素晴らしい戦績でした。して、そちらの方はいかがでしたかな?」

「……ああ。こちらも似たようなものだ。白夜兵たちが私達に敵うはずがない。途中で、白夜王国の第一王女、ヒノカとも会いましたが、彼女は私が討ちました。これがその証拠です。」

 

カムイは血の付いた手ぬぐいを見せる。

暗夜軍師マクベスはそれを手に取り、調べる。

彼は目を細め、

 

「うーん、ヒノカ王女の血ですか?」

「ああ。」

「そうですか。ですが、これでは王女が死んだと言う証にはなりませぬ。なぜ、首を取って来なかったのですか?もしや、逃がしたのではありますまいな?」

「持ってきても良かったのだが……流石に、死体なんかは持ち運ぶのが大変だからな。首だけと言っても、重いし、邪魔だし、面倒だ。」

「ですが――」

「マクベス。」

 

さらに追及しようとした暗夜軍師マクベスの後ろに暗夜王ガロンが現れる。

 

「ガロン王様?」

「もうよい。お前はいつまでその話をする心算だ。それは白夜の制圧よりも、重きを置くべき話なのか?」

「ですが、白夜を制圧するにあたり、王女を生かしておくわけには――」

「ふん。あんな小娘一人に、何ができる。例え生きていたとしても、白夜を制圧した後すぐに潰せばよいだけの話。それだけのことで、いつまでわしを待たせる気だ。」

「も、申し訳ありませんでした。では、先を急ぎましょう。」

「ふむ。遅れるな、カムイ。」

 

暗夜王ガロンはカムイを見下ろす。

そして歩いて行く。

 

「はい……」

 

カムイも、アクアと共にそれに続く。

 

カムイは大広間へとやって来た。

 

「ここが、大広間か……」

「ええ。この先が王座のある……王の間よ。」

「……!リョウマ兄さん‼」

 

カムイは大広間の奥に正座しているリョウマを見つけた。

リョウマは瞳を開け、カムイ達を見る。

 

「よく、ここまでたどり着いたな。」

 

そして少しだけ立ち、腰にある雷神刀()を抜く。

それが雷と共に剣圧となって近くに灯されていた炎を揺らす。

完全に立ち上がると、刀を構える。

 

「だが……ここは、通さん!」

 

カムイを見据える。

そこにマークス達も駆け込んできた。

それを見たリョウマは眉を寄せ、

 

「なるほどな……暗夜軍がここにいるということは、我が白夜軍は敗れたということか。」

「ほほう、さすがはリョウマ王子。察しがいいですね。」

 

暗夜軍師マクベスも、こちらに近付いてきた。

彼は笑みを浮かべて、

 

「あなたの仰る通り、白夜兵はほぼ壊滅状態。サクラ王女は既に捕虜として、暗夜王国の手中にあります。タクミ王子は、スサノオ長城から自らの身を投げて行方不明……生きているかさえ、わかりませんな。」

 

リョウマは覚悟していたのだろう。

黙ってそれを聞く。

暗夜軍師マクベスは一歩前に出て、

 

「さて……それから、もうひとつ。」

 

暗夜軍師マクベスは先程カムイから取ったヒノカの血の付いた手拭いをリョウマの前の床に落とす。

それを見たリョウマは眉をピクッと動かし、拾い上げる。

 

「これはヒノカの手拭い……?……まさか、貴様‼」

「いえ。私ではありませんよ。殺したのは、カムイ様です。さっきご自分で、そう仰いましたよね?カムイ様。」

 

暗夜軍師マクベスはスッと横目でカムイを見る。

リョウマは眉を寄せて、カムイを見る。

 

「何⁉カムイが、ヒノカを?お前が、ヒノカを殺したのか⁉」

 

カムイは眉を少しだけ動かし、暗夜軍師マクベスを睨む。

 

「…………」

「なんてことを‼ヒノカは、死んでしまったのだな⁉この手拭いに付いている血は、アイツのものなんだな⁉答えろ……答えろ、カムイ‼‼」

 

ヒノカの血の付いた手拭いを握りしめるリョウマ。

カムイは視線を外し、

 

「……ああ。ヒノカ姉さんは、私が殺した。」

「――‼‼」

 

カムイがそう言うと、リョウマは刀を握りしめ、

 

「――貴様あああああっ‼」

 

刀をカムイに向けて振り下ろす。

カムイはとっさに剣を抜いてそれを防ぐ。

 

「ぐっ!」

「カムイ!」

 

マークスが剣を構えてやってこようとしたが、

 

「手を出すな‼」

「⁉」

 

マークスをリョウマが睨みつける。

リョウマのその本気の目を見たマークスは止まる。

カムイはジッとリョウマを見て、

 

「リョウマ兄さん、何を……」

「おのれ、妹の仇!」

「――‼」

 

カムイは目を見開く。

リョウマはカムイを睨みつけて、

 

「貴様に、一騎打ちを申し込む!貴様は俺が、この手で倒す‼‼俺か、貴様か……どちらかがその命を落とすまで、他の何人たりとも、手出しをすることは許さん‼‼」

「リョウマ……兄さん……」

 

カムイはギュッと剣を握りしめる。

マークスは眉を深くし、

 

「そうは……させん!妹が殺されるのをみすみす見逃せるか!暗夜兵達よ!すぐにカムイの加勢に――」

「いえ、その必要はありませんよ。」

「マクベス⁉」

「いいですか?カムイ様ほどの実力であれば、手出しは無用でありましょう。それとも、マークス様はカムイ様が負けてしまうのではと……そう思いなのですかな?」

「いや、そんなことは思っていない。実力なら、負けはしないだろう。」

「ならば良いではありませんか。」

「だが、あいつが戦っているのは、あいつの、本当の兄なのだぞ‼その刀に迷いがでないという保証はない!父上‼こんなこと、今すぐやめさせて下さい!」

 

マークスは暗夜王ガロンを見る。

暗夜王ガロンは黙っていた。

 

「父上!」

「無駄ですよ、マークス様。ガロン王には先程進言をし、許可をいただきました。私としても、成長されたカムイ様のお力をぜひこの目で拝見したい。間違っても、両者共倒れを狙おうなどとは、露ほども思っておりませぬゆえ。」

「貴様!」

 

マークスは暗夜軍師マクベスを睨みつける。

だが、マークス達の前に白夜の兵達がやって来る。

その先頭に居るのはリョウマの臣下であるサイゾウとカゲロウ。

 

「お前たちの好きにはさせんぞ、暗夜軍。こうして会うのは……フウマ公国以来か、スズカゼ。」

「兄さん……」

「できればその姿、この王城で見ることだけは避けたいと思っていたのだが。」

 

サイゾウとスズカゼは互いに見合う。

カゲロウは武器を構え、

 

「お前たちの相手は、リョウマ様の臣下であるこのカゲロウとサイゾウが努めよう。リョウマ様の邪魔をすることは、この私たちが許さぬ。ヒノカ様の……そして今まで倒された白夜の兵達の仇、ここで討つ‼」

「面白い……私たちも戦闘準備だ。こいつらを片付けて、カムイを助けるぞ!」

 

マークスは兵達に命じた。

 

「ああ、望むところだよ。」

「邪魔者は殺しちゃいましょ。」

「頑張るね。カムイお姉ちゃんの為に!」

「カムイ……リョウマ……」

 

それぞれが想いに駆ける。

 

リョウマはカムイと向かい合う。

 

「さあ、来い。身も心も暗夜に染まった貴様がどんな刀を振るうのか……この俺に見せてみろ!」

 

リョウマは本気だった。

カムイは戦闘音を聞いて、後ろを見る。

自分の後ろではマークス達が白夜兵、リョウマの臣下と戦っている。

カムイは覚悟を決める。

首を振って、

 

「リョウマ兄さん!戦うのをやめてください。私はこんな事を望まない!こんな事をしても意味がない!ヒノカ姉さんの事には事情があります!だから話を聞いてください!」

「ほう、そうやって俺を油断させる気か?妹の顔をして、ヒノカを殺したのか?」

「――‼」

「暗夜王国らしい、卑劣なやり方だ。だが、残念だったな。貴様に何を言われても、俺の心は揺るぎはせんぞ!俺はもう、貴様を妹とは思わん!わが刀の露となって消えろ‼カムイっっ‼‼」

 

カムイは泣きそうになる。

かつて、どんなに突き放しても妹だと言ってくれた兄が自分を否定する。

自分との血の繋がりがない事を知っていたリョウマ()は、自分を本当の意味で妹として接してくれた。

兄として、自分を支えてくれた。

カムイは恨まれる事は覚悟していた。

けれど、信頼していたリョウマ()にここまで殺意を向けられるのはやっぱり辛い。

マークスの時もそうだった。

けれど、あの時は違う苦しさがここにある。

これが、自分の選んだ選択の末の結末(運命)ならば、今の自分はリョウマの剣を受け止めるしかないのだ。

 

カムイはリョウマの剣を必死に耐えていた。

肩で息をしながら、カムイはリョウマに語りかける。

 

「リョウマ兄さん、話を……話を聞いてください!」

「黙れ!」

「兄さんは言ってくれました!血の繋がらない私を、『俺の妹』だと!」

「――⁉」

「スメラギ父上様も、イコナ母上様も!私にとって、この白夜王国は大切な故郷。」

「…………」

「本来生まれ育つはずだった故郷にはもう、誰もいない。あそこにはもう……世界の破壊しかない。それを壊したのも、平和なこの白夜王国を壊したもの自分です。だからこそ、自分はやらなければならないんです!」

「……とんだ戯言だ。」

「お願いです、兄さん。お願いだから、玉座を空け渡してください!」

「カムイ‼やはり、お前は戯言を言っている。そこまでして、白夜王国の滅びを望むか!」

「望んでません!私は、玉座にガロン王を座らせないといけないんです!この戦争を終わらせて、平和を取り戻す為に!兄さんなら、この意味が解るはずです!」

「何だと?」

 

リョウマは眉を寄せる。

カムイの言葉を信じた訳じゃない。

だが、彼女の瞳には力強い嘘のない瞳。

何よりも、カムイは知るはずのない真実を知っていた。

そして、ミコト母上がカムイを連れて来たのは赤子の時。

そのカムイが何故、生まれた故郷の事も知っているのか。

だとすれば、これは嘘だと言うこと。

けれど、それが嘘だと思えないのは、まだ自分に未練があるからだろうか。

 

そんな中、足止めをしていたリョウマの臣下を含めた白夜兵が全滅した。

カムイは瞳を揺らす。

そしてリョウマは歯を食いしばり、

 

「……もはや後戻りはできぬ。お前の言うことが例え真実だとしても、今の俺には関係のない事だ。俺は白夜王国の第一王子としての役割を果たす!」

 

リョウマは渾身の一撃を放つ。

カムイは竜の力を力いっぱい込めて、それを受け止める。

ふらつきそうになる足を必死に踏みとどまる。

 

「……リョウマ兄さんも、あの時のマークス兄さんと同じ事を言うんですね。やっぱり、兄さん達は似た者同士ですよ。それこそ、あの時の王であったリョウマ王やマークス王の頃と同じ……あの時のリョウマ王子とマークス王子の頃と同じ。兄さん、白夜と暗夜は手と手を取り合って、共に歩める。互いを、本当の意味で解り合えば、それは可能なんです。」

「……この期に及んで、まだ戯言をほざくか!」

「いいえ、兄さん。私にとっては、真実です。兄さん達は知らない。知るはずのない、真実。そして、未来なんです。本当は来るはずだった、本当の……」

 

カムイは今にも泣きそうな瞳で、リョウマの瞳を見る。

 

「けど、今の兄さんは知っているはずです。白夜の玉座には意味がある事を。」

「……まさか、カムイ……お前は……」

 

リョウマはカムイの意図が解った。

だが、確信が持てなかった。

それが、自分達の手ではなく、暗夜王国の手を取った理由か。

自分達兄弟姉妹(きょうだい)に刃を向け、故郷である白夜王国の敵に回った理由なのか。

 

カムイはこちらに来るマークス達を横目で見た。

白夜兵やリョウマの臣下であるあの二人を倒したのだ。

こちらに来るのは当然。

となれば、自分とリョウマとの会話を聞かれてもおかしくはない。

これ以上話せば、暗夜王ガロンを玉座に座らせることはできない。

何より、マークスとは違う。

マークスは最期は『兄』としての心が、カムイに負けた敗因。

だが、リョウマにはそれはないだろう。

例え、その中に『兄』としての心があったとしても、彼はそれを切り捨てる。

だからこそ、カムイはリョウマを尊敬していたのだ。

勿論、マークスも尊敬していた。

どちらも、尊敬できる素晴らしく、強い兄。

 

カムイはリョウマを見上げる。

 

「兄さん………すみません!」

 

カムイは竜の力を上げる。

暴走するかもしれないくらい程の力を。

リョウマは小さく笑みを浮かべた。

自分の妹は、ここまで強くなっていたのだと……

そして、リョウマを吹き飛ばす。

 

「ぐっ!」

 

リョウマは膝を着く。

刀を支えに倒れずに立つ。

カムイも何とか踏みとどまり、

 

「私の……勝ちです……リョウマ兄さん……」

「ああ……俺の……白夜王国の負けだ……カムイ。俺を殺せば、この戦は決する。さあ、俺をヒノカの元に送れ。」

 

カムイはフラフラになりながら、リョウマの前に行く。

まだ、彼らが遠い事を確認して、

 

「それは、できません。」

「なに?」

「リョウマ兄さんを、ヒノカ姉さんの元には送れません。姉さんは生きています。」

「どういうことだ、カムイ。」

「確かに私は、ヒノカ姉さんと刃を交えました。けれど、殺してません。この戦が終わるまで、安全な場所に隠れて貰っています。」

「なぜだ。」

「……決まっているでしょ。大切な、姉妹(きょうだい)だからですよ。けれど、姉さんが生きている事をしれば、ガロン王やマクベスはきっと姉さんを殺すでしょう。だから、こうするしか方法がなかった。信じられないかもしれない。けど、本当です。」

「…………」

「それと、サクラとユキムラ、サクラの臣下二人も捕虜となっているが、ちゃんと生きてる。タクミは身を投げて行方不明だが……きっと生きていると、私は心から願う。だから、兄さんも死なせない。これ以上、誰かが死ぬのなんてダメなんです。」

 

リョウマは確信を得る。

カムイは本気なのだと。

何故なら、これだけ闘っても……カムイからは殺気がないのだから。

きっと、ヒノカも同じ想いを抱いただろう。

だからこそ、妹の為に力を取ったあいつは、カムイの言う言葉を信じ、身を隠した。

もしかしたら、それすらも嘘かもしれない。

けれど、もうそれでも構わないのかもしれないと思う。

生前、父上は言った。

『カムイ』を頼む、と。

自分だけが知る、彼女との血の繋がらないと言う真実。

まさか、本当にカムイがそれに気付いていたとは思わなかった。

いや、すでにあの時に言っていた。

けれど、自分は否定したのだ。

あれは、そういう意味じゃないと。

そしてカムイは、あの時に決めていたのだろう。

暗夜王ガロンを白夜の玉座に座らせることを。

思い返せば、カムイは何度も語っていた。

自分は認められなかったのだ。

カムイはずっと、自分を……いや、自分達兄弟姉妹(きょうだい)を信じていたのだ。

結局、自分達はそれに気付くことはできなかった。

こういう結果を生んでしまった。

 

「……カムイ。」

「話はここまでだ。暗夜王が来る。兄さん、大人しくしていてくださいね。私は、ヒノカ姉さんと約束したんだ。兄さんを助けると。そして私は大切なこの白夜王国を救います。兄さんが、もう私の事を妹だと思っていなくても、私はあの日からリョウマ兄さんの事をもう一人の兄だと思っています。それだけは、信じてください。」

 

カムイはしっかりと立ち、剣をしまって暗夜王ガロンの元へと歩いて行く。

リョウマは見た。

カムイの持つ『夜刀神』が少し輝きを放ったことを。

 

カムイは暗夜王ガロンの前に立ち、

 

「白夜の第一王子に勝ちました。王子はもう、虫の生きです。」

「よくやった。」

「……ありがとうございます。では、早速玉座に向かいましょう。お父様が玉座に座り、制圧すればこの国は暗夜王国のものです。」

「そうだな。だが、その前に――」

 

暗夜王ガロンは目を細めて、奥に居るリョウマを見る。

そしてカムイを見据えて、

 

「――リョウマ王子を殺せ。」

「――‼」

「聞こえなかったのか。リョウマ王子を殺せ。他の者の手を借りることは許さぬ。今ここで、お前が止めを刺せ。」

「……ですが、今でなくてもいいのでは?お父様がこの白夜王国を制してからでもいいではありませんか。」

「何だと?そ奴を生かしておいて、なんの得がある?反乱の芽は、早いうちに摘んでおくに限る。そうだろう?」

「っ‼」

 

カムイはなるべく表情を変えずに、耐える。

だが、空気を察した暗夜軍師マクベスは小さく笑みを浮かべ、

 

「おや?どうされたのですか。まさか……ガロン王様の命が聞けないと?ヒノカ王女にでも誑かされて、暗夜王国を裏切ったのですかな?」

「違う。私は、そんなこと――」

「では、今ここでそれを証明してくださいませ。あなた様ほどの実力であれば、一瞬で仕留められるでしょう?」

 

暗夜軍師マクベスは笑みを深くした。

カムイは拳を握りしめる。

暗夜王ガロンはカムイをさらに見据え、

 

「やれ。さもなくば裏切り者として、お前の部隊も処刑する。」

 

カムイは眉を寄せ、

 

『……ここでやるか。今なら、私一人の裏切りとして判断される。他の者たちだけは助ける事ができる。』

 

カムイは剣の柄に手をかけ、握りしめる。

それを後ろで見ていたリョウマは何かを察した。

 

暗夜軍師マクベスは腕を組み、

 

「ああ、じれったいですなぁ!やはりカムイ様は裏切り――」

 

カムイは鞘から刀を抜こうとした時、

 

「――待て。」

 

カムイは止まり、声のしたリョウマの方を見る。

リョウマはまっすぐこちらを見て、

 

「いいか、貴様らの手など不要だ。己の事は……己で決着をつける。」

「はぁ?決着?何を言っているのです?」

 

暗夜軍師マクベスは眉を寄せる。

カムイは不安に駆られる。

そう、このリョウマの目は、この先の言葉は駄目だと、止めろ、と本能が言っている。

 

「リョウマ……兄さん……?」

 

リョウマはカムイを見て微笑む。

それは忘れもしない、兄の顔。

 

「ありがとう、カムイ。今のお前を見て、全てがわかった。だが、もういい。もういいんだ。カムイ……俺の大切な妹よ。俺は……」

「兄さん!」

「お前を――信じよう。」

 

リョウマは真剣な表情になり、支えにしていた雷神刀()を抜く。

そして一振りし、大声で叫ぶ。

 

「敵の手にかかれば、侍の名折れ‼」

 

それを己の腹に突き刺した。

 

「ぐっ!うぅ‼」

「――‼」

 

カムイは手にしていた柄から離す。

リョウマの元に駆けて行き、その手をリョウマに伸ばそうとして、握りしめる。

リョウマはそのカムイの戸惑いを感じ取る。

雷神刀から流れる雷を身に纏いまながら、

 

「我が最後の剣……見届けろぉ‼ぐぅ、おぉ‼」

 

自分に突き刺す雷神刀の刃を握り、捻る。

彼は身を前に丸め、

 

「……後は……頼む……」

 

一度、カムイを見てそう言って倒れ込んだ。

そう、カムイにしか聞こえない声で……

カムイの足元に、彼の名がした血が流れる。

 

「リョウマ……兄さん……」

 

カムイの横にアクアが駆けよる。

アクアはジッと彼を見て、

 

「リョウマ……」

 

握っていた凪刀を握りしめる。

泣き出しそうになる自分を必死に抑え込む。

カムイもまた、涙を堪える。

今ここで泣けば、(リョウマ)が己の命を使ってまで自分達を助けた意味がなくなる。

 

暗夜軍師マクベスは暗夜王ガロンを見て、

 

「ガロン王様、良いのですか?またしてもカムイ様は、自ら手を下されませんでしたが……」

「ああ。第一王子リョウマを失い、白夜王国はもはや終わり。この戦は、我が暗夜王国の勝利。我こそ世界の王となるのだ!ク、ククククク……ふぁっはっはっはっはっはっ‼‼」

 

暗夜王ガロンは両手を広げて笑う。

その笑いは部屋全体に響き渡る。

 

カムイはそれを背に聞き、怒りを抑え込む。

そのまま歩き出す。

アクアはカムイに付いて行く。

 

「カムイ……どこに行くの?」

「…………」

 

カムイは無言で歩いて行く。

そして誰もいない暗い廊下へと出る。

 

「泣くな……泣いてはダメだ。兄さんが……リョウマ兄さんが命をかけて護ってくれたんだ……だから泣くな。今、台無しにするわけにはいかないんだ。兄さんに託された約束を……守らないと……最期まで演じろ……今のカムイを……裏切り者を貫き通せ……」

 

そう言うカムイの目からは涙が流れ出る。

カムイはそれを強く、強く擦る。

 

「ごめんなさい、ヒノカ姉さん……」

 

カムイは膝を着く。

涙が溢れて止まらない。

自分を受け入れてくれたリョウマ()はもういない。

マークスの時もそうだった。

けれど、マークスよりも長い間共に過ごした家族。

長い、とても長い間、兄としていてくれたあのリョウマ()はいない。

血の繋がらない自分を妹として守り、導いたリョウマ()はいない。

それこそ、本当の(シグレ)よりも長くいただろう。

苦しい。

哀しい。

けれど、自分は止まれない。

今更、自分が泣いて、苦しいだけで止まれない。

透魔王国も、白夜王国も、暗夜王国も救うと決めた。

いつか見た、あの頃の三国の関係を。

形は違っても、平和になれることを知っている。

その平和を取り戻す為にも……

 

「泣いては……ダメなんだ……うぅ……うぅ、リョウマ兄さん……」

「カムイ……」

「アクアさん……私は……私は守れなかった……リョウマ兄さんを死なせてしまった……ヒノカ姉さんとも約束をしたのに……大切な兄を死なせてしまった……」

 

カムイは顔を覆って泣いていた。

アクアは膝を着き、カムイを抱きしめる。

 

「そうね……確かに、約束は果たせなかった。でも、あなたはリョウマと、また新しい約束をしたでしょ。」

「はい………『後は頼む』と。」

「そう。リョウマの最後の言葉……あの時、あなただけに聞こえ、した約束。なら、あなたはその約束を今度は果たしましょう。白夜王国を、この国の未来を託されたって事でしょ。敵国の王女に言う言葉ではないわ。リョウマはあなたを妹として認め、信頼したからこその言葉。それにリョウマは、あなたを見て笑っていた。カムイ、あなたはあの笑顔に誇れる自分になりなさい。リョウマの死を無駄にしないように。だから、その約束は必ず果たしましょう。私も、あなたと共にそれを手伝う。あなたが約束を果たせるように。」

「はい……はい、アクアさん……きっと……いえ、絶対に……」

 

カムイはアクアを抱きしめる。

アクアもカムイを抱きしめ、

 

「もう少し……あと少しだから……すぐに王の間の扉は開かれる。玉座にガロン王が座れば、みんなに真実を告げられる。だからそれまで、もう少しだけ……私もここで……泣いても、いいかしら。」

 

そう言って、二人は静かに少しの間泣いていた。

 

カムイとアクアは気持ちを落ち着かせ、部隊へと戻る。

そしてすぐに、白夜王国の玉座の間の扉の前へとやって来る。

暗夜王ガロンは扉を見て、

 

「この先が、王の間か。」

「はい、ガロン王様。もう道を阻む者はおりません。白夜王国はもはや、我が暗夜王国のものでございます。」

 

暗夜軍師マクベスは頭を下げて言う。

暗夜王ガロンは両手を広げ、

 

「ククク。ついに、この時が来た。わしはこの時を待っていたのだ。何十年もの間、ずっとな。」

「……でしたら、早く玉座に行かれてはどうですか。あなたの悲願の為に。」

 

カムイはジッと暗夜王ガロンの背を見つめた。

暗夜王ガロンはカムイを横目で見る。

カムイは笑顔を向け、

 

「早く、白夜王国に君臨する姿を拝見したいのです。」

「……いや、待て。お前たちはまだは入るな。」

「……何故ですか。」

「良いか、わしはこれより、ハイドラ神に報告をする。わしがいいと言うまで誰一人、王の間には足を踏み入れるでない。」

「…………わかりました。」

「ふはははははは‼これで我こそが、白夜、暗夜の二大王国……いや、世界に君臨する王となるのだ!」

 

暗夜王ガロンは、笑いながら扉を開けて入って行く。

その扉が閉められると、カムイは瞼を閉じる。

アクアがカムイに寄り添い、

 

「カムイ……」

「待とう。ガロン王の言うハイドラ神への報告が終われば、いずれ王の間に入ることになります。そうすれば、玉座に座るガロン王の姿を見ることができるはずだ。今まで耐えてきた時間に比べれば、少しの間待つぐらい、なんてことない。」

「そうね。」

 

カムイは瞼を開ける。

ジッと扉を見つめ、

 

「なら、ガロン王の許しが出るまで、しばらくここで待とう。もう戦いは終わった。皆に、武装解除を――」

「カムイ、後ろ!」

 

カムイが別行動中の部隊の仲間へ伝達をしようと思った時だった。

アクアが何を感じ、武器を握りしめて振り返る。

カムイもすぐに反応し、振り返る。

だが、その前に相手()の放つ魔術の方が早い。

カムイは腕でそれを庇って、後退する。

そして、その相手を睨みつける。

 

「ああ、外れてしまいましたか。」

「何のつもりなの、マクベス⁉カムイに、攻撃するなんて!」

 

アクアも睨むように暗夜軍師マクベスを見る。

彼らの前には、暗夜軍師マクベスとガンズが部隊を引き連れてやって来ていた。

暗夜軍師マクベスは目を細めて、

 

「その言葉、そっくりお返しいたしましょう。どういうつもりなのですか。カムイ様。」

「……どう言う意味だ。」

「あなたはやはり、ヒノカ王女を生かしていたのですね。」

「………」

「いいですか?あなたがリョウマ王子と戦っておられる間……兵に王城内を捜索させたのですよ。そうしたら……微かな兵を引き連れて、城の裏からこっそり逃げて行くヒノカ王女の姿を確認したそうです。」

「…………それで。」

「脅かられないのですね。それとも、づ太いのか。ですが、これでやはり、わざと逃がしたということですか。これは許し難い裏切り行為ですよ。王命に背くなど、死罪に値します。あなたには、ここで死んでもらいましょう。」

 

そう言って、暗夜軍師マクベスは魔術を展開した。

魔法陣が展開されていく。

 

「そうはさせん。」

 

マークスが、カムイの前に出る。

 

「マークス兄さん?」

「おお、そこをどいてください、マークス王子。でないと、あなたも裏切り者として死罪となってしまいますよ?」

「ああ、構わん。カムイを殺したいなら、私は倒してからにしろ。ただ大人しく倒されてやるつもりは毛頭ないがな。」

「ど、どういうことですか……?」

 

暗夜軍師マクベスは眉を寄せる。

マークスは剣を抜いて、暗夜軍師マクベスに剣先を向ける。

 

「闘うと言っているのだ。お前と。私は、お前たち直属軍のやり方には、もう我慢ならん。例え国の方針に背こうとも、私はお前に賛同する気はない。もしその考えを改めむと言うのなら、今度こそ、私の剣でお前を討つ!誇り高き、暗夜の王子としてな!」

「僕も闘うよ。マクベスの卑劣なやり方は、前から気に食わなかったんだ。そいつらを倒すって言うんなら……僕も喜んで加勢するよ。」

 

レオンも、魔導書を取り出してマークスの横に立つ。

暗夜軍師マクベスは一歩さがり、

 

「なっ⁉ななな、殺すと言うのですか?何の罪もない自国の軍を?王の軍師である私を?王族がやっていいことだとは思えませんね⁉」

「ふん。何とでも言え。幸いここには、父上の目は届かない。お前たちは白夜の残党に殺されたことにでもさせてもらう。」

「な、なんですって⁉何て卑怯な!」

 

と、暗夜軍師マクベスは指を指す。

エリーゼとカミラが同じようにマークスとレオンの横に立ち、

 

「もぉーっ!卑怯なのはどっちよ!マクベスとガンズはいっつもみんなに酷いことするし、カムイお姉ちゃんの嫌なこと言うから嫌い!いつかボッコボコにしてやるーって、ずーっと思ってたんだから‼」

「そうねえ……私は別にあなた達が何をしようと、まったく興味ないのだけれど……カムイを苦しめる者は、殺す。それだけよ。だから……うふふ。覚悟してちょうだいね?」

「うっ!エリーゼ様、カミラ様まで……」

「なんだなんだ?俺たちに刃向かおうってか?面白い……王子王女だか知らねえが、俺たちもお前たちの甘っちょろいやり方は気に食わなかったんだよ‼‼」

 

ガンズが武器を構える。

そこに、待機していた仲間達も駆けつけた。

互いの雰囲気を察した仲間たちは武器に手をかける。

アクアも彼らの横に立ち、

 

「そう……なら、戦って決着をつけるしかないわね。やると言うのなら、私も容赦はしない。暗夜王国側についたこと、後悔はしていないけれど……育った国を必要以上に蹂躙されて、黙っていられるほど寛容じゃないわ!」

「そうですね。私も、もう一つの故郷をこんなにされて、いい気分ではありません。ですので、皆さん。私に力を貸してください。私は殺戮を好まない。けれど、彼らは殺したいと思うほど、恨みはある!」

「ああ、カムイ。皆、お前と同じ気持ちだ。さあ、この軍のリーダーとして、私達に指示を出せ!お前にはもう、迷いなど無いはずだ!」

「ああ!全員、戦闘態勢!無抵抗な民を蹂躙し、卑劣な手ばかり使う者たちを討つ‼今ここで、暗夜王直軍を殲滅する‼‼」

 

カムイは仲間たちと戦闘を始める。

ガンズと暗夜軍師マクベスの前へと出る。

暗夜軍師マクベスは笑みを浮かべ、

 

「そうそう、カムイ様。驚きましたよ。」

「何がだ。」

「まさか、あの獣がリリスだったとは。いやはや、面白いものを飼っておりましたな。」

「………なるほど、リリスの死はまたお前たち関連だったのか。」

「は?」

「いや、あの異常なノスフェラトゥ。何か裏があると思っていたが、お前の仕業だったのだな。だよすれば、あのマラカスの件も……お前の仕業か。」

「ええ、そうですとも。あなたがマラカスに居る事を、白夜王国にリークしたのは私ですとも。そうそう、それだけではありまんよ。リョウマ王子を殺すよう進言したのは、私ですよ。いかがでしたか?私が与える、嘆きの味は。」

「……ああ、怒りが頂点に来ている。お前たちは、私が殺す。」

 

カムイは目を細める。

剣を強く握りしめる。

ガンズは笑い出す。

 

「がははは!いいねえ、これが幽閉されていた姫とはな!殺したくなって来たぜ!」

「そうですねえ、ガロン王様には殺さず、苦しめろと言われておりましたが……ここで死んでもらいましょう。この私の策に、潔く死になさい‼」

 

カムイは暗夜軍師マクベスの魔術を交わし、続けてくるガンズの斧を受け止める。

カムイはそれを受け流しながら、ガンズの背後に回る。

だが、そこに暗夜軍師マクベスの魔術が繰り出される。

カムイはそれを避け、距離を置く。

 

「どうです、私の魔術は!」

「……確かに、お前の魔術は凄いのだろうな。だが………」

 

カムイの足元に魔法陣が浮かび上がる。

剣を構える。

 

「私に魔導を教えてくれた者の方が凄い!」

 

その夜刀神()に雷が纏い出す。

 

「リョウマ兄さん……リョウマ王子は雷神刀の持ち主。だったら、同じような立ち振る舞いでお前たちを打倒してやろう!」

「な⁉なに⁉」「なんですって⁉」

 

カムイは雷撃を纏った剣で二人を相手にする。

彼らの懐に踏み込み、雷撃を討つ放つ。

がら空きになったガンズの背中を斬り付ける。

そのまま、息の根を止める。

 

「ぐおぉ‼この俺が……負けるなんてな……」

 

その後ろで怯んだ暗夜軍師マクベスの腹を斬り付ける。

 

「ぐはっ‼ば、バカな……うそだ!私が負けるなど!ガロン王様、お助けを……」

「無駄だ、助けは来ない。丁度、お前以外の部隊は殲滅できたようだ。」

 

暗夜軍師マクベスは辺りを見渡す。

他の兵達は既に皆倒れ伏している。

そしてカムイの仲間達が自分の周りに集まってくる。

暗夜軍師マクベスは斬られた腹を抑え、

 

「ひぃ!し、し、死にたくない!」

「終わりだ、マクベス。今、死なせてやろう。」

「助けて、ください……カムイ様‼私たち直属軍は、ガロン王の指示通りに動いていただけなのですよ?私たちのやり方が気に入らないのなら、ガロン王様を倒せばいいじゃないですか!カムイ様、あなたはガロン王様を暗殺しようとしているのでしょう‼‼そうです、私は悪くない……何も悪くないのです!なのに私が殺されなくて、おかしいではありませんか‼」

 

と、命乞いをしてくる。

レオンは呆れて、

 

「お前は、どこまで……」

「レオン様!聡明なあなた様なら、解ってくださいますよね?どうかお助けを……どうかご慈悲を……」

 

暗夜軍師マクベスはレオンの方に縋るように動く。

だが、レオンは彼を冷たく見下ろし、

 

「……目障りだね。お前のような者に、かけてやる慈悲などない。卑怯者は、我が暗夜王国の恥さらしだ。せめて最期くらい、潔く死ね。」

「レオン様?まさか……」

「卑劣な愚か者め……塵になるがいい‼」

「ぎゃああああ‼‼」

 

レオンは魔術書を開き、レオンを魔術を放つ。

暗夜軍師マクベスは木の根に覆い尽くされていった。

レオンは魔術書を閉じ、

 

「ふう。」

「すまない、レオン。手を煩わせた。」

 

カムイは剣をしまう。

レオンは手を横に振るい、

 

「どうってことないね、これぐらい。厄介払いができて清々するよ。」

「さっすがー!レオンお兄ちゃん、ナイス!」

「うふふ。これでカムイを苦しめる者は、居なくなったわね。」

 

エリーゼとカミラは嬉しそうに喜び合う。

マークスも剣をしまい、

 

「ああ。……だが、カムイ。」

「何です?」

「さっきのマクベスが言っていたことは本当か。お前は父上を暗殺するつもりなのか。」

 

マークスは眉を寄せてカムイを見る。

カミラが頬をに手を当てて、

 

「もしかして、お兄様はカムイを疑っているのかしら?マクベスのでまかせかもしれなくてよ。」

「そうかもしれん。だが……」

 

ジッとマークスは見続ける。

アクアがカムイに近付き、

 

「ねえ……カムイ。」

「ああ……」

 

カムイは瞳を閉じ、開く。

マークス達をじっと見て、

 

「マークス兄さん、確かに私は暗夜王ガロンを殺そうと思っている。」

「カムイ‼」

「だが、それは偽物の暗夜王ガロンだ。」

「何だと……?」

「本物の暗夜王ガロンはとうの昔に死んでいる。今、暗夜王国に君臨しているあの王は、暗夜王ガロンの姿をした偽物だ。あの偽物を倒さない限り、白夜王国と暗夜王国の戦争は終わらない。マークス兄さん、……あなたなら、薄々気付いているはずだ。あれが、あなたの知るかつての暗夜王ガロンではないことを。」

 

マークスは目を見張る。

カミラは口元に手を当てて、

 

「そんな、カムイ……あのお父様が偽物?そんなことが……そうじゃなくとも、私たちにお父様を殺せ、と言うの。」

「そんな嘘を信じろっていうのかい、カムイ姉さん。」

 

レオンも困惑する。

エリーゼは杖を握りしめ、

 

「酷いよ、お姉ちゃん。いくら、お父様がひどい事をたくさんしちゃったとしても、偽物だなんて。」

「カムイ、お前はまさか……今更になって白夜王国に寝返ったなどと言うのではないだろうな⁉」

 

マークスは剣の柄に手をかける。

アクアがカムイを守るように前に出るが、カムイは首を振る。

カムイはアクアの横に立ち、

 

「私のしたことは白夜王国にとっては裏切り行為だと思う。けれど、私は白夜王国を裏切ってはいない。そして、暗夜王国側に付いた理由は、二つ。一つは暗夜王ガロンを討つため。」

「……もう一つは、何だ。我々を討つのか?」

「いや、もう一つは……暗夜王国の兄弟姉妹(きょうだい)を救いたい。そういう想いだ。」

「なんだと?」

「私は、白夜王国の兄弟姉妹(きょうだい)のように、私の事を兄弟姉妹(きょうだい)だと言ってくれたあなた達の想いに報いる為。私が果たせなかった約束を……今度こそ、果たすために暗夜王国についた。そしてそれは今も、そうだ。白夜王国側につく事はしない。それをすれば、犠牲にしてしまった多くの人たちを裏切る事になる。けれど、私はリョウマ兄さんとの約束も果たしたい。私を庇ったリリスの想いに応えなくてはいけない。全ては、私が成すべき事の為に進み続けた結果だ。だから、ここまで闘ってきた。今更、私は誰が相手でも逃げる訳にはいかない。」

 

カムイは彼らに背を向け、王の間の扉に手をかける。

 

「全てを信じろ、とは言わない。元より、信じて貰えるとは思ってはいない。闘う覚悟だってある。ここに居る全ての者たちを敵に回す覚悟だってある。けれど……私は兄さん達を信じている。」

 

そしてカムイは思いっきり扉を開け開く。

 

「さぁ、見ろ!これが、今の暗夜王ガロンの真の姿だ‼」

 

マークス達は見た。

開かれた扉の先に居るのは玉座に座った暗夜王ガロン。

だが、その彼の姿はもはや人ではなかった。

人の形が崩れ、ドロドロに変わっていく。

マークスは眉を寄せ、

 

「父上……⁉」

「これは……」

 

レオンも息をのむ。

暗夜王ガロンは呟く。

 

「よくも……私を憚ったな。」

 

暗夜王ガロンの溶けるからだから、一つの瞳が光る。

カムイとアクアは身を固くする。

あれは、直感で解る。

見えざる国の、暴竜にして透魔王国の国王、暗夜王ガロンが崇めていた神『ハイドラ』だと。

そしてその瞳と暗夜王ガロンのギラリと光る瞳が、カムイを、アクアを、マークス達を捕らえる。

 

「見たな……私の姿を……‼」

 

エリーゼがカミラに抱き付き、

 

「いやあああああっ‼お父様が⁉」

「そんな!これが……本当に⁉」

 

カミラはエリーゼを抱きしめる。

アクアは恐怖で震える身を引き締め、

 

「ええ!あの玉座に座る者は、真実を明かさずにはいられない。あの姿こそ、ガロン王の本当の姿なのよ!」

「おのれえええっ、お前たち!このわしを、罠にはめおったな‼かくなる上はこの姿を見たお前たち全員を葬り去る以外にない‼」

 

暗夜王ガロンは持っていた斧を振る回す。

その手が伸び、カミラ、エリーゼ、レオンを襲う。

受け身を取る彼らだが、

 

「ぐっ!そんな、父上……どうして……」

 

カムイとアクアが彼らの前に立ち、武器をかめる。

 

「真実を知れたのなら、もういい!下がっていろ、レオン!でないと、死ぬぞ!」

 

カムイは暗夜王ガロンに斬り付ける。

だが、それは彼の体には傷一つつかない。

カムイは空中で立て直し、着地する。

 

「ふん。」

「……夜刀神が効かないだと?」

「そのような玩具……このわしには、通用せんわ‼」

 

暗夜王ガロンの斧がカムイに向かって振り下ろされる。

カムイは刀でそれを受け止める。

 

「ぐっ‼」

「カムイ‼」

 

アクアが凪刀を振るって、カムイを助けようとするが効かない。

エリーゼが座り込んで泣き出した。

 

「やだよぉ……ひっく、ぐす!こんなこと、もうやめて、お父様!」

「エリーゼ、泣いていてはダメよ。闘う意志のないのなら、ここから逃げなさい。」

 

アクアが、凪刀を振るいながら言う。

カミラは口元に手を当て、

 

「闘う意志……できないわ。例え、偽物のお父様だったとしても……こんなの、簡単に割り切れるはずがないもの。」

「そうだ……あんな姿になっても、父上は父上だ。倒すことなんて、ましてやここで逃げる事も!」

 

レオンは拳を握りしめる。

カムイは必死に耐え、受け止め続けた。

 

「これは、もうお前たちの本当の父ではない!あの優しかったガロン王はもう居ない!目の前に居るこいつは、敵なんだ!心を奪われ、身を滅ぼされ、死ぬ事さえできずに囚われ続ける化け物となってしまった傀儡だ‼」

 

そんなカムイの姿を見た暗夜王ガロンは笑い出す。

 

「ふはははは‼所詮は拾い子の貴様の声など、わしの子には届かぬ!貴様の想いと共に死ぬが良い、カムイ‼」

 

暗夜王ガロンは押さえつけていた斧を振り上げる。

カムイは再び受け止めようとした時、マークスが剣を抜いてその斧を弾く。

 

「マークス兄さん!」

「なんだと?マークス。わしに刃向かう気か。」

「黙れ。気安く私の名を呼ぶな……異形の者よ。」

 

マークスは剣を構える。

暗夜王ガロンはマークスを見下ろし、

 

「なに?」

「今のお前の振る舞いを見て、決心がついた。お前は、私の尊敬した父上ではないと。昔の父上の事は、私が一番よく知っている。かつての父上は、強かった。だが、実の子に手を上げるような真似は決してなかった。敵国を支配し、略奪の限りを尽くすような真似はしなかった!」

「お前に、わしの何が解ると言うのだ。」

「貴様こそ、父上のなにがわかる!私はずっと、見ないフリをしていた。どのような命にも、背きはしなかった。いつかは元に戻ってくれるはずだと……そう信じて闘ってきた。だが、あの頃の父上は、もう……」

 

マークスは剣を強く握る。

カムイは剣を構えなおし、

 

「ああ。そうだ。もう居ないんだ。もう一度言う。あのガロン王は……優しかった暗夜王ガロンはもうここには存在しない!闘う意志のない者は去れ!でなければ、死ぬぞ‼本物のガロン王はお前たちの死を望んではいないはずだ!」

「カムイ……私はお前と共に戦う。誇り高く、強き王であったあの頃の父上と、同じように。私は――貴様を倒し、真の平和を取り戻す‼」

 

そう、マークスが叫ぶと、ジークフリート()が光り出す。

 

「⁉ジークフリートが……光って?」

「この光は!」

 

カムイは夜刀神を見る。

夜刀神も、それに反応する。

レオンはマークスの剣を見て、

 

「同じだ。僕のブリュンヒルデの力が、カムイ姉さんの夜刀神に繋がった時の光と!」

 

そして、マークスの持つジークフリートの光はカムイの持つ夜刀神の方へと飛んでいく。

それが剣と交じる。

 

「ああ、兄さんのジークフリートの力を感じる。そうか……ここでも、こういった事が起きたか。」

「カムイ?」

「何でもない。覚悟しろ‼」

 

カムイは剣を構える。

暗夜王ガロンは目を細めて、

 

「愚かな……少しばかり力を得た玩具などで、このわしに敵いはせん!お前たちは皆、ここで死ぬ運命だ‼」

「いや、ここで死ぬのはお前だ!」

 

カムイは剣を振るう。

カムイの剣が、暗夜王ガロンの体に傷を作る。

 

「……なに⁉こンな、馬鹿ナ!グ、グ……コノヨウナ、玩具ニ、王デアル、ワシガ‼」

『もはや、人の言葉すらもまともに言えなくなってきたか。』

 

カムイは剣を振るい続ける。

アクアがそれに続き、他の心を共にする仲間が闘う。

マークスは後ろで未だに悩んでいた弟妹(きょうだい)を見る。

 

「さあ、行くぞ。カミラ、レオン、エリーゼ。私たちで父上を救うのだ。カムイが必死になって闘っているのだ。私たちも、こんなところで立ち止まる訳にはゆかぬ。暗夜の王族なら、国のために、世界の為に、そして父上の為に、立ち上がってみせろ‼」

 

そう言って、マークスも戦闘に加わる。

レオンはブリュンヒルデを取り出し、

 

「マークス兄さん……そうだね。僕も闘うよ。暗夜の王族として、最後まで、強い心で。」

「そうね。辛い事だけれど……この闘いに勝つことで、お父様は救われる……そう思って、闘うしかないわ。」

「ごめんなさい、お父様。でも、あたし……あたし……あたしにも、守りたいものがあるの!みんなを死なせたくない!だから……さようなら!」

 

カミラとエリーゼも武器を持って構える。

カムイは闘い続ける。

 

「諦めない。諦められないさ。例え、あの時とは違う運命だったとしても、私は闘い続ける!決して屈しはしない‼白夜と暗夜の平和の為に、その元凶を打ち壊すために、この世界を、あなたを救うために!」

「ヤハリ、オ前ハ……殺シテおくべキダッタ……アノ時、ハイドラ神ノ御告ゲニ、背イテデモ……」

「……そうできなかったのは、きっとあなたの中にまだ本物のガロン王の欠片が残っているからなのではないか。どんなに自我を失っても、どんなにその身を穢されても、あなたの中に残る本当のあなたが。けれど、それでもあなたは自分の選択をする行為すらやめてしまった。あったとしても、無くなったとしても……もう、あなたには自らの意志で動く事はできない。その心も、身も、全てを食い潰された傀儡となってしまったのだから。だからこそ、私はあなたとは違う運命を選び取る。自分の選択を、仲間との絆を信じる。あの時と同じ想いで。きっと、再び平和を取り戻してみせる!お前を倒して‼」

 

カムイは仲間と共に戦う。

暗夜王ガロンの身は既にボロボロになりつつあった。

 

「ワシ、ハ……暗夜ト白夜ニ君臨、スル……唯一、ニシテ、偉大ナル、王……ガロン……ダ……」

 

レオンとカミラ、アクアが援護して、エリーゼのサポートの元、カムイとマークスは暗夜王ガロンの懐へと踏み込む。

振り下ろされる斧をマークスが受け止め、カムイが竜の力を込めて暗夜王ガロンを斬り付ける。

暗夜王ガロンは膝を着き、崩れ落ちる。

 

「コンナ……馬鹿ナ……馬鹿ナァァァアア‼‼」

 

暗夜王ガロンは青い炎に包まれて消えた。

消えゆく暗夜王ガロンを見ながら、マークスは右手を胸に手を当てる。

 

「父上……」

 

カムイはそれを横目で見た後、消えゆく暗夜王ガロンを見る。

 

『……約束は果たした。これで平和がやって来る。戦争は終わる。』

 

カムイは天井を見上げる。

瞳を揺らし、

 

「……もう、本当のガロン王の言葉は聞けないのか。もう一度だけ、彼の言葉を聞きたかった。」

「カムイ?」

 

アクアが首を傾げながらカムイを見る。

カムイはマークス達に振り返り、

 

「この戦争はこれで終わりだ。残った白夜兵たちを助命し、捕虜たちを開放する――」

 

カムイは瞳を大きく揺らす。

マークス達の間を抜けて、自分に放たれる黒いオーラを纏った矢。

その矢はカムイの肩に深く突き刺さる。

カムイは膝を着き、矢を放った相手をカムイは泣きそうな顔で見る。

そこには、完全に暴竜ハイドラに操られたタクミの姿。

その瞳は赤く光り、黒いオーラに包まれている。

彼の持つ神器は黒みがかっていた。

 

「はぁ……はぁ……僕は……殺る‼僕が、みんなを――」

 

タクミは再び矢をつがえて、放つ。

その瞳にはもう、怒りと絶望と悲しみ、恨みしかない。

マークスがカムイに向けられた矢を叩き折り、エリーゼがすぐに治療をした。

 

「タクミ……そんな……お前は……‼」

「殺してやる……殺してやる‼カムイっっ‼‼」

 

再び矢をつがえるタクミ。

今度放たれた矢は複数だった。

カムイ達はそれを避ける。

 

「お前なんか、殺してやる……殺してやる、殺してやる、殺してやる‼」

「タクミ、もうやめるんだ!戦争はもう終わった!もう、無益な戦いは必要ない!だからこれ以上、心をあいつに乗っ取られるな‼タクミ‼‼」

 

カムイは叫ぶ。

アクアが眉を寄せて、

 

「カムイ、あなた……」

「殺す……お前だけは僕が殺す……そう決めていたんだ。」

 

だが、タクミは聞く耳を持たない。

いや、タクミ自身がもう居ない。

あれはもう、暗夜王ガロンと同じ……加護を受けた者(死人)だ。

カムイは拳を強く握りしめる。

 

「タクミ……なんでだ、タクミ……」

「カムイ、気を付けて。今のタクミは、もう私たちの敵よ。ガロン王と同じになってしまった。あなたも気付いているでしょう。あの姿になってしまってはもう手遅れよ。きっと、スサノオ長城で身を投げた時から、もうタクミは……だから彼を救いましょう。」

「……今のタクミを殺すしか、方法はない。」

「ええ。あの子の恨みは、もう戻れない所まで来ているわ。これ以上、犠牲が増える前に止めるしかない。」

 

カムイはジッとタクミを見つめる。

タクミはカムイを睨みつけ、

 

「お前のせいだ……お前のせいで、白夜王国は……僕たちの国は……滅茶苦茶になってしまった!お前さえ居なくなれば、楽になれる……こんな思いもしなくて済むのに‼お前さえ……居なくなれば‼」

「ああ……そうだ……そうだな……」

 

カムイは前へと進み出て行く。

レオンとマークスが眉を寄せ、

 

「カムイ姉さん‼」「カムイ‼」

 

だが、カムイは目で彼らを止める。

カムイは一番前に立つと、止まる。

タクミを見つめ、

 

「すまない、タクミ。優しいお前が、そんなに悲しむまで辛い思いをさせた。そうだ、お前の大切なモノを……私が打ち壊した。大切な母も、兄も、臣下も、国も、民も……」

 

カムイは両手を広げる。

 

「タクミ……私が再びお前の前に戻った時、姉らしい事を何もできなかった。お前が、こうなるかもしれないと解っていたのかもしれない。けれど……何もしてやれなかった。あのスサノオ長城で、お前をちゃんと救えていれば……いや、お前ともっと話をしておけば、こうならなかったかもしれない。私は甘えすぎた。白夜の兄弟姉妹(きょうだい)に……信じてくれると。お前もきっと、信じてくれていたからこそ……こんなになってしまっても辛いんだろ?お前を……救ってやれなくてすまなかったな、タクミ。けど、今はまだ死ねないんだ。私にはやる事がある。けれど、お前のその怒りを、悲しみを、恨みを、受け止めてやることはできる。私が全て引き受けよう。」

「殺してやる……殺してやる‼‼カムイっ‼‼‼」

 

タクミはカムイに矢を定める。

カムイは剣先をタクミに向け、

 

「そうだ、タクミ。狙うなら、私だけを狙え。お前の恨みの相手は私だ。来い、タクミ‼」

「消えてしまえぇぇぇえええ‼‼‼」

 

その矢は放たれた。

カムイは瞳を揺らす。

剣でそれを受け止める。

だが、ヒビが入る。

夜刀神は砕け、カムイに矢が直撃する。

 

『……ああ、そうか……私は、相変わらずダメだな……』

 

カムイはそのまま仰向けになって倒れ込む。

アクアが目を見開き、

 

「カムイ‼」

「いやあぁあ!お姉ちゃん‼」

 

エリーゼが駆け寄り、さっきよりも強く治癒術をかける。

勿論、他に治癒術を使える者達も必死にかける。

マークスは眉を寄せ、

 

「馬鹿な……なんだ、あの力は‼」

「……私は……死なないさ……大丈夫……まだ、やれる……タクミを……救わないと……リョウマ兄さんとの約束を……大切な弟を……見捨てられない……」

 

だが、カムイの呼吸が荒くなっていく。

次第に体温は下がり、タクミに伸ばしていた手が落ちる。

 

「カムイ!カムイーー‼」

 

マークスの叫び声が響き渡った。

カムイは想う。

まるで、あの時のようだと。

あの時はリョウマ兄さんの声が聞こえたと……

 

カムイは暗闇の中で目を覚ます。

辺りは上も下も、横もわかならない暗闇。

自分が立っているのか、浮いているのかすらわからない。

そして、あの時同じく凄い眠気が自分を襲う。

深く眠りそうになった自分の元に、懐かしい声が聞こえてきた。

 

「朝ですよ、カムイ。」

「……ミコト……お母様……?」

 

カムイはうっすらとした意識の中、横を見る。

そこには母ミコトが笑顔で座っていた。

瞬きを一度すると、辺りは暗闇から白夜王城の自分の自室へと変わる。

カムイは起き上がり、

 

「ここは……私の部屋……」

「はい。よく眠っていましたね。あなたはいつもお寝坊さんなんですから。幼い頃から、ずっとそう。私が起こすと決まって、機嫌が悪そうに顔をしかめるんですよ。」

「……そうでしたね。私は父親にだと、お母さんが言ってました。父も、昔からそうだった、と……お母さんは面白そうに、お祖母様も嬉しそうに私を起こす時は言っていたものです。私はどちらの母に起こされても、そうだったんですよ。」

「カムイ?」

「きっと、今のミコトお母様には解らない話かもしれませんが……」

 

カムイは視線を落とす。

ミコトは首を少しだけ傾ける。

カムイは確信していた。

これはあの時と同じ。

生と死の狭間。

強く願えば戻れる。

けれど……

 

カムイはギュッと拳を握りしめる。

ミコトはジッとそれを見ると、

 

「さあ、カムイ。今日はリョウマと訓練する予定があるのでしょう?このままでは、遅れてしまいますよ。」

「リョウマ兄さんと訓練……とても、懐かしくて……今はもう叶わない事ですね。」

「カムイ……本当なら、私はあなたをこのまま自由にしてあげたい。けれど……きっとそれは、あなたの望まぬこと。」

「……ミコトお母様。」

 

カムイは視線を上げる。

カムイは瞳を揺らす。

そこに一人、懐かしい人物が現れる。

 

「まったく、まだ寝ていたのか?カムイ。」

「リョウマ兄さん……」

 

カムイは今にも泣き出しそうな顔で彼を見上げる。

リョウマは腕を組み、カムイを見つめていた。

ミコトは優しく微笑み、

 

「まぁ、リョウマったらあなたを待ちくたびれて来てしまったようね。」

「早く、起きるのだ。カムイ。お前はこんなところで、止まる奴ではなかろう。こんなところでぐずぐずしていたら、俺は怒るぞ。怒った俺は怖いからな。」

「ええ、知っています。リョウマ兄さんは、優しくて厳しくて、それでいて頼りになるお兄さんですから。」

 

カムイは立ち上がる。

ミコトも立ち上がる。

辺りは自室から草原へと変わる。

流れる星々が綺麗だ。

カムイはリョウマを見つめ、

 

「私はまだ、兄さんとの約束を果たしていない。タクミも救っていない。それだけじゃない……やらなくてはならない事もある。」

「ああ。そうだ。」

 

リョウマは兄の顔でカムイに微笑みかける。

リョウマは真剣な顔に戻り、

 

「カムイ。お前が望めば、今なら戻れる。まだ闘い続けている大切な仲間の元へ。」

 

リョウマは空を見上げる。

カムイも見上げる。

 

「カムイ、起きて!起きて、カムイ‼あなたはこんなところで、倒れてはいけないのよ!」

 

アクアの必死な声が聞こえてくる。

そこにタクミの声も聞こえてくる。

 

「カムイは……死んだ。もう……目を覚ますことはない……」

 

辛く、悲しそうな声。

だが、マークスの力強い声が響く。

 

「なんてことを言うんだ!カムイは、死んでなどいない!お前の攻撃で死ぬはずがないだろう!」

「殺してやる……次はお前たちの番だ‼」

 

苦しそうなタクミの声。

闘う、仲間の声。

傷つく仲間の声。

 

「……私が死んでもやっぱりタクミの恨みは晴れないみたいだ……」

「ええ。タクミが囚われた恨みは、そんな生易しいものではありません。全ての暗夜兵を殺さぬ限り、あの者は止まらないでしょう。ですが、あなたの仲間は、諦めていません。あなたが戻ってくる事を、再び立ち上がる事を信じて闘っています。」

 

それからまた聞こえてくる。

これはカミラの声だ。

 

「ああ、カムイ……嫌よ。戻って来て!私の命と、引き換えにしてもいいから!」

「戻ってこい、カムイ!私はお前を信じ、闘い続けよう。例え最後の一人となろうとも!」

 

マークスは未だ闘い続ける。

きっと彼と共に戦っているのだろう、レオンの声も聞こえてくる。

 

「あんな攻撃で、死ぬわけないだろう?だって……僕の知っているあんたは、もっと……」

 

次々と仲間たちの声が聞こえてくる。

カムイは拳を握りしめる。

 

「そうか……ここでも、私を信じて闘ってくれている仲間がいる。待ってくれている者たちが居る。」

 

カムイはリョウマとミコトをじっと見る。

 

「行くのか、カムイ。」

「ああ。私は戻る。やり残したことを成し遂げるために。今も自分を信じてくれる仲間の為に。」

 

カムイは瞳を揺らし、

 

「リョウマ兄さんとミコトお母様にまた会えてよかった。私は……ずっと側に居たかった。また一緒に笑い合いたかった。この気持ちは本当です。それでも、私はあなた達の犠牲を、貰った想いを糧に進みます。」

「そうか。それでこそ、俺の妹だ。だが、その前に……お前に会いたいと言う者がいる。」

「私に、会いたい人?」

 

カムイは振り返り、リョウマの見つめる先を見る。

そこに立っていたのは、風神弓を持ったタクミ。

そう、本物のタクミだ。

カムイはタクミを抱きしめる。

 

「タクミ‼すまない、すまない、タクミ‼お前を、あんなにしてしまった!お前を苦しめた。」

「カムイ……姉さん……」

 

タクミもギュッと、カムイを抱きしめる。

 

「カムイ姉さん、お願いだ。戻るのなら、僕の体を殺してくれ。あなたの刀、夜刀神なら……きっとそれができる。」

「……だが、夜刀神は壊れてしまった。あの時は、元に戻すことはできたが、今回もできるかは解らない。」

 

カムイはタクミの肩に顔を埋める。

タクミは強くカムイを抱きしめ、

 

「大丈夫。僕の風神弓をあげる。この力があれば、夜刀神はきっと元に戻る。僕の想いも一緒に持って行って。」

「ああ……それが、お前の願いなら。約束しよう。お前の大切な風神弓と共に、お前を救ってみせる。」

「お願いだよ、カムイ姉さん。ここに居る僕らでは、もう何もできないから……」

 

カムイはタクミを離し、風神弓を受け取る。

タクミは微笑み、

 

「ありがとう。姉さん、もし……もし姉さんが、僕らと共に戦ってくれていたら、どんなに心強かったか。僕は、本当はずっと……あなたと姉弟(きょうだい)として仲良くしたかった。ここではなく、向こうであなたを姉と呼びたかった。ちゃんと、僕のままでそれを言えたら、良かったんだけど……僕は意地っ張りだから、どうしても、素直になれなくて……ごめんね。」

「知っているさ。お前は私の大切な弟だ。だからこそ、お前をあんな風にはさせたくなかった。辛い思いをたくさんさせてしまった。私は、お前にまた姉と呼んで貰えただけで、とても嬉しいんだ。戦争を早く終わらせて、またみんなで楽しく過ごしたかった。兄弟姉妹(きょうだい)として、みんなで手を取り合っていきたかった。すまない、タクミ。私のわがままのせいで、こんな結果になってしまって……本当にすまない。」

「いや、もういいんだ。カムイ姉さんは、あの僕の恨みを受け止めて、ここまで来てくれた。それに、姉さんはきっと、今とは違う僕を知っている気がする。だから、それで十分だ。ありがとう、カムイ姉さん……」

「タクミ……」

 

カムイは涙を拭う。

リョウマがカムイの肩に手を置く。

 

「大丈夫だ、カムイ。俺がどうして、お前に後を託したと思う。お前なら、幾多の悲しみや苦しみに耐えられる、強い心を持っていると思ったからだ。だから、もう振り返るのは最後にしろ。目を覚ましたら、前を向け。前を向いたら、歩き出せ。そして……闘う事で、闘いを終わらせてこい。夜刀神に選ばれたお前なら、きっとできる。俺はそう……信じている。」

「ああ、闘う。リョウマ兄さんの分まで。約束を果たす、その時まで……だから、白夜王国を見守っていてください。必ず私が、平和を取り戻します。」

 

カムイはリョウマに抱き付いた。

リョウマはギュッと抱きしめる。

カムイは彼を離し、ミコトを見る。

 

「カムイ。さっきの寝顔……幼い頃のあなたと本当に、同じでした。私がもう一度過ごしたくて、どうしても届かなかった時間を……最後に贈ってくれて、ありがとう。私は、あなたがどこにいても、誰と居ても……ずっと、ずっと愛しています。今度戻ってくるときは……もっと強くなったあなたの姿を、私に見せて下さいね。」

 

カムイはミコトを抱きしめる。

ミコトも抱きしめる。

 

「ミコトお母様、ありがとう。あなたの本当の息子(カムイ)にはなれなかったかもしれない。けれど――」

 

カムイは顔を上げて、微笑みかける。

 

「――次にただいまを言う時は必ず、貴女に誇れる自分になっていると……そう、約束します。貴女の本当の(カムイ)と同じような立派な人に。」

「……ありがとう。その時を、楽しみにしていますね。」

 

カムイはミコトを離す。

ミコト達はカムイを見つめ、

 

「いってらっしゃい、カムイ。」

「行ってこい、カムイ。」

「いってらっしゃい、カムイ姉さん!」

 

カムイは風神弓を握りしめ、

 

「行ってきます‼」

 

消えかかっていくリョウマ達をカムイは涙を堪えてみる。

空に光が差し、人の姿のリリスが現れる。

 

「カムイ様。」

「リリス……」

「さあ、行くのなら私がお連れします。私の手を取ってください。」

 

差し出されるリリスの手を、カムイは強く握りしめる。

 

「ありがとう、リリス。私はお前に、助けられてばかりだな。」

「ふふ、いいえ。私をずっと助けてくださっていたのはカムイ様です。あの時と同じ、暖かい手。私はこの温もりがとても、大好きでした。私を撫でてくれた優しい手、万の敵を屠る勇ましさが……あなたの全てが、大好きでした。」

「ああ、私も大好きだった。リリスはとても懐かしい思い出を思い出させてくれた。もう一人の大切な父を……ありがとう、リリス。私の大好きで、大切なリリス。これからも、ずっと……」

「ありがとうございます、カムイ様。これがあなたとの、本当の最期ですね。少しだけ寂しいですが……いってらっしゃいませ、カムイ様!」

 

リリスはとびっきりの笑顔を向ける。

カムイも、笑顔を向けて、

 

「ああ、行ってくるよ、リリス。」

 

カムイは瞳を閉じる。

 

「……私は、戻るんだ。私を信じて闘っているみんなの元へ‼」

 

カムイは左手に握る風神弓を握りしめる。

 

「私はまだ止まれない!前を見て、進み続けなくてはいけないんだ‼だから頼む、風神弓!私に、夜刀神に、お前の力を貸してくれ‼‼お前の主を……タクミを救うために、タクミの想いを届けるために‼‼」

 

カムイは目を開く。

辺りは光り輝き、カムイを包み込む。

 

闇に囚われたタクミは見た。

砕けたはずの夜刀神が光り輝いているのを。

 

「なんだ……この光は……」

「応えてくれたんだな……風神弓……」

 

カムイは瞳を開ける。

右手には砕けた筈の夜刀神が元に戻ってカムイの手の中になる。

泣き出しそうなエリーゼの頭を撫で、起き上がる。

マークスが起き上がったカムイを見て、

 

「カムイ⁉みんな、カムイが‼」

「すまなかった、みんな!だが、私は大丈夫だ‼リョウマ兄さんが、タクミが、ミコトお母様が、リリスが、私をここに送ってくれた。私はまだ、みんなと共に闘う‼」

「ああ……よかったわ、カムイ!」

「戻ってくるって、信じてたよ。それでこそ、姉さんだ。」

「ほんと、目を覚まさなかったらどうしよかと、思ったんだから!」

 

それぞれが、嬉しそうにカムイを見る。

タクミはカムイを睨み、

 

「許さない……カムイ‼何度生き返っても、この僕が殺してやる‼‼」

 

タクミは矢をカムイに向けて討ち放つ。

カムイはそれを夜刀神で弾く。

今度は剣はヒビ一つはいらない。

 

「なに……?」

「今度は折れたりしないさ。この刀は想いを継いでいる。」

「それがなんだ?」

「……この夜刀神には、風神弓と共に闘い歩んだタクミの想いが込められている。大切な仲間の想いを繋いだ刀だ。その想いが、私を、この夜刀神を、再び奮い立たせてくれた。だからこそ、もう二度と折れたりはしない!」

「風神弓が……僕を……裏切った?」

「違う。今、お前が手にしている風神弓は、お前のモノではない。風神弓の本当の持ち主は、私のせいで死んだ。私はやり遂げなくてはいけない。ここに来るまでに犠牲にした者たちの為にも、両国の未来を、平和を切り開く。お前を倒し、大切な者たちとの約束を果たすために。」

「殺してやる……卑劣な暗夜の者……僕が、本物の、白夜王子タクミだ………僕がこの国を守る……白夜王国の為に闘う……暗夜の者は皆殺しだ……死ね……みんな死ねえええぇぇっ‼‼」

「行くぞ、タクミ。お前を、救うために‼平和を再び取り戻す為に‼これが、最後の戦いだ‼」

 

カムイは夜刀神を構える。

 

『そう、これで終わらせるんだ!みんなに平和を……取り戻させる‼」

 

アクアがカムイの隣に立ち、再び凪刀を構える。

 

「ごめんなさい、タクミ。もし私が近くに居られたら、もっと早くにあなたを救えたのに。何かを選べば、別の何かが犠牲になる。解っていたことだけれど、でも……せめて私もカムイのように、この道を選んだ償いをしなければならないわ。」

 

アクアは凪刀を強く握る。

そして小さな声で呟いた。

 

「本当はもう二度と、使うつもりはなかったのだけれど……私の、禁断の歌の力であなたの呪いを弱めてあげる。でも、この力を使えば、私は……タクミ、リョウマ……もし私がそっちに行ったら、あなた達は怒るかしら。それとも…………」

 

アクアは瞳を閉じる。

小さく微笑み、

 

「ユラリ~♪ユルレリ~♪」

 

カムイは驚いて、アクアを見る。

タクミは頭を抑え、

 

「ぐっ⁉……この歌は、いったい……⁉力が奪われる……どうして……‼どうしてみんな、僕の邪魔をするんだぁあああ!」

 

タクミは頭を一度振って、矢をつがえる。

 

「殺す!殺してやる、カムイ‼今度こそ‼」

「私はお前との約束を果たす……お前を必ず救ってやる。それが、お前の姉として今のお前にしてやれるきっと唯一の……償いだ。」

 

カムイはアクアを見る。

彼女は歌い続ける。

カムイは覚悟を決めた。

何故なら、彼女の歌には意志がある。

その意志を受け、カムイは剣を振るう。

仲間達も武器をかまる。

タクミの放つ矢を、仲間達が叩き落とす。

カムイは彼らにそれを任せて、走る。

タクミの元へ、一直線に走る。

タクミの懐まで回り込み、カムイは姿勢を低くする。

タクミが反応するよりも早く、カムイは剣を振り上げる。

彼は腹から胸にかけて斬られ、後ろに下がりながら、

 

「僕は……僕……は……」

 

そして、後ろに倒れ込んだ。

カムイは息をしなくなったタクミを抱きしめる。

 

「約束は果たしぞ、タクミ……リョウマ兄さん……」

 

カムイは涙を流す。

タクミの体は青い炎に焼かれ始める。

カムイには、その熱さは伝わらない。

その炎の中、タクミの握る風神弓が光る。

そこから本当のタクミの声が薄っすらと聞こえてきた。

 

「あり‥‥がと……姉……さ……」

 

カムイは最後の塵となって燃えていったタクミの風神弓を握りしめる。

 

「タクミ……ああ、ゆっくり休んでくれ……ありがとう、タクミ……私の弟になってくれて……」

 

カムイは涙を流す。

しばらくそうした後、涙を拭いアクアを見る。

まだ、彼女はいる。

あの時のようにはさせたくない。

 

「カムイ。」

「兄さん……」

 

カムイは近付いて来たマークスを見る。

他の兄弟姉妹(きょうだい)も、カムイに寄ってくる。

 

「ガロン王やタクミの体を動かしていたのは……もう、理性を失った哀しき神。誰も信じる事ができなくなった憐れな神。愛する者も、大切なモノも、破壊しなければ止まらない壊れた神。」

「カムイ、それは……」

「さあ、兄さん。みんな……戦争は終わりました。今の私達にできるのは、この戦争が終わったことを皆に報せ、救える命を一つでも多く増やす事です。これで、白夜も暗夜にも、平和がやって来る。その平和を紡ぎ、繋げる事ができるのは、白夜王国の王と暗夜王国の王です。兄さん、お願いしますね。今までの犠牲を、無駄にしない為にも……」

「ああ。私たちのしたことが、正しかったのかは私にはわからない。けれど、散っていった者たちの分まで、これからの平和を、未来を創っていくのは私たちの役目だ。」

 

マークスは胸の所まで上げた右手を強く握りしめる。

カムイは微笑む。

と、エリーゼが辺りを見渡し、

 

「……あれ?アクアお姉ちゃんは?」

「え?」

 

カムイも辺りを見渡す。

アクアの姿はどこにもない。

カムイは瞳を揺らす。

 

「だれか……アクアさんがどこに行ったか知りませんか?」

「うーん、アクアお姉ちゃーん、どこー?」

 

エリーゼも、カムイと共に辺りを捜すが見当たらない。

カミラが頬をに手を当て、

 

「おかしいわね。急に居なくなるなんて。」

「白夜王城のどこかにいるんじゃない?ここはアクアの家だったんだし、何かしておきたい事があるのかもね。」

 

レオンがため息交じりに言う。

カムイは拳を強く握りしめ、

 

「そう……だな。」

「大丈夫だ。何にせよ今から、城内の残兵を残らず探さねばならん。その時に、アクアも見つかるだろう。」

 

マークスは伏せっていたカムイの肩に手を置く。

カムイは顔を上げる。

 

「ええ、そうですね。きっと……」

 

カムイを残し、マークス達は先に部屋を出て行く。

 

カムイは瞳を揺らしてある一角を見る。

それは、最後の最後にアクアが居た場所。

 

「……アクア姉様……」

 

カムイは瞳を大きく揺らす。

そして背を向けて、歩いて行く。

 

 

あれから、暗夜王国では大きく動いた。

暗夜王ガロンの死、白夜王国との戦争の勝利。

色々なごたごたを片付け、少し落ち着いた。

そして今日、暗夜王国は王位継承が行われた。

 

「では、これより――前暗夜王ガロンの後を継ぎ、暗夜王国第一王子マークス様が新たなる暗夜王として、この国を治められることとなります。即位の証として……この冠をお受け取りください。」

「ああ。確かに受け取った。新しき王として、この国を正しく導いていくことを誓おう。」

 

冠を受け取り、頭に乗せて弟妹(きょうだい)、仲間、臣下、部下、来賓たちを見る。

カムイは涙を堪える。

それは以前の時は見ることのできなかった王となった兄の姿。

白夜王国では逆となった。

リョウマの王となった姿を見ることはできないが、生きたマークスの姿を見れた。

 

「マークス兄さん……良かった。」

「ああ。これから、暗夜王国の新たな歴史が始まるんだ。この国はきっと、素晴らしい国になる。そんな予感がするよ。」

「そうね。マークスお兄様ならきっと、成し遂げて下さるわ。」

 

レオンとカミラは嬉しそうに誇らしそうに言う。

だが、エリーゼは暗い表情だった。

 

「……アクアお姉ちゃんにも、見せたかったね。マークスお兄ちゃんの戴冠式。」

「そう、だな……ああ……あの時も見せたかった……」

 

カムイは小さく呟いた。

カミラも表情を暗くし、

 

「そうね……せっかく戦争が終わったのに……あの子はなぜ、いなくなってしまったのかしら。どこかで、元気でいてくれるといいのだけれど。」

「全く。姿を消すなら、兄弟姉妹(きょうだい)の僕たちに一言くらいあってもいいだろうに。一人で勝手に、風みたいに消えてしまうなんてさ。」

 

レオンはムスッとしながら言う。

カムイは小さく笑う。

 

『風、か……。本当に、あの人はいつも私より先に消えてしまう。誰よりも、平和な世界を視たがっていたあの人が……』

 

カムイがそう思っていると、エリーゼがマークスの方を見上げる。

 

「あ、マークスお兄ちゃんがお話するみたいだよ。」

「ええ。即位のお言葉よ。静かにしましょうね、エリーゼ。」

「はぁい。」

 

エリーゼ達は気持ちを切り替えてマークスを見る。

カムイもまた、マークスの方を見る。

 

マークスは剣を地面の前に鞘ごと立てて、皆を見渡して言う。

 

「皆、今日は私の戴冠式に足を運んでくれて、感謝する。戦争は終わり、敵国であった白夜王国とは和解した。今後は両国と手を取り合い、真の平和に向けて歩んでいくこととなる。先の戦争では……いや、戦争が始まる以前からずっと、暗夜、白夜の民たちには辛い思いをさせてきた。王の支配に、圧制、略奪。各地での反乱も、後を絶たなかった。だが私は……両国の民たちを二度と同じ目には遭わせたくない。暗夜領の公国や部族たちには自治を認め、白夜領とは支配ではなく信頼で繋がり、両国が互いに尊敬しあえる関係を結べるよう、尽力する。時間はかかるかもしれないが、必ず成し遂げる。私はここにいる皆に、そう約束する。闇に閉ざされた夜の空にも、星の光は輝いている。私は王として、その光となろう。最も大きな星となり、皆を導こう。皆が笑顔で……幸せに過ごせる未来を創っていくために。」

 

マークスは剣を抜き、掲げる。

その言葉と姿に、皆は拍手を送る。

カムイは瞳を揺らす。

 

ああ、ここにリョウマ兄さんがいれば、この二人は父と共にいた(あの頃の時の)ような関係だっただろう。

何故、こんな風になってしまったのか。

分かっている。

全て自分が悪い。

あの日、あの選択を選んでしまったあの時から、運命は乱れている。

けれど、今度こそ……今度こそ、成し遂げる。

いや、成し遂げてみせる。

 

カムイは強く、強く拳を握りしめる。

すぐ近くでは、暗夜の姉弟妹(きょうだい)達が嬉しそうに、誇らしそうに笑い合う。

拍手を送る。

 

式は無事に終了し、マークスがカムイ達の側にやって来た。

 

「お疲れ様です、マークス兄さん。」

「どうだった、私の姿は。王として、上手く振舞えていただろうか?」

「ええ。それはもう。まるで、あの頃のあなたのようでした。」

「ん?」

「いえ……とても立派だった、と言う話です。」

 

カムイは眉を寄せて悩むマークス苦笑する。

そこに、式典の途中で大騒ぎをした為に、ギュンターによって説教されていたエリーゼが戻って来た。

友に来たのは、ヒノカとサクラだった。

 

「ヒノカ姉さん、サクラ。今日は来てくれてありがとう。」

「いや、礼を言う必要はない。両国には恒久的な平和条約が締結されたんだ。何かあれば、こうやって駆けつけるのは当然のことだろう?」

「……それでも、礼を言わせてくれ。ありがとう……」

 

ヒノカはカムイの頭を撫でる。

カムイはヒノカをまっすぐ見つめ、

 

「こうして、姉さんたちの顔を見られたことは嬉しく思う……けれど、約束を守れなかった。その事は、本当にすまないと思っている。」

「カムイ……もしかして、私の戴冠式の事を言っているのか?確かに、本来はリョウマ兄様が継ぐはずだった。例え、兄様でなくとも、王位を継ぐとしたらタクミだ。けれど、兄様は自らの意志で、お前を、国を守った。タクミも、きっとそういう思いだったのだろう。そして、人として戻れなくなったタクミを、お前が救ってくれた。なら、後を継いで未来を創るのは私たちの役目だ。まぁ、作法やら、言葉遣いやら問題は山積みだが……そこはなんとかしてみせるさ。」

「ヒノカ姉さん……姉さんたちの気持ちを考えれば、私は恨まれても仕方ないと思っています。けれど、暗夜王国の事は――」

「カムイ。確かに、暗夜王国が憎いさ。卑劣な手で兵や民を蹂躙したことは、一生許せないだろう。だが、お前たちは、そんなやり方に必死に抗おうとしてくれた。救える命を、一つでも多く残してくれた。その事には感謝している。きっと、時間はかかるだろうが、民たちも理解をしてくれるはずだ。いや、私が少しずつでも対話していくさ。」

 

ヒノカは笑みを見せる。

だが、表情を真剣に戻し、

 

「だから、と言うワケではないが……白夜王国の民たちは今は何をするか解らない。私も注意はするが、こっちに来たときは注意をしてくれ。」

 

マークスがヒノカを見て、

 

「ああ。それだけの事を、私たちがしてしまったと言うことは理解している。私たちのせいで散った命のことは、生涯背負っていこう。流れた血や涙の重さも、全て。先の戦争で働いた行為、本当に……すまなかった。」

 

マークスは頭を下げる。

ヒノカは首を振り、

 

「そんな……頭を上げてくれ、マークス王子……いや、マークス王。私も王となる身だ。先も言ったように、民たちとの対話を続けるさ。今の暗夜王国の、あなた達の誤解は解く。それこそ、互いに時間を掛けて少しずつ前に、な。」

「ああ。そうだな。」

 

ヒノカとマークスは握手をする。

その手は強く、決意に満ちたかのように強い。

ヒノカとサクラは暗夜城を出る。

ヒノカは天馬に乗り、サクラが後ろに乗る。

そしてカムイを見て、

 

「カムイ。誤解が解けたら、いつでも……またあの城に帰ってこい。リョウマ兄様とタクミはもう居ないが、それでもお前に、お帰りを言って迎える事はできる。あの時言った、本当の姉妹(きょうだい)として笑い合うことは、今からでもできるさ。」

「……はい、ありがとうございます。」

 

カムイは微笑む二人に、笑顔を向ける。

そして二人は天馬で駆けて行った。

その姿を、カムイは見続けた。

見えなくなるその時まで。

 

カムイはその夜、晩餐会に参加した。

国の要人だけでなく、マークスの計らいにより、暗夜王国の全ての民が主席した晩餐会。

だが、その人の多さに馴染めず、息苦しくなって外の空気を吸いに出た。

月夜の光を頼りに、夜道を散歩する。

そしてとある小さな湖に出た。

湖に移る輝く月を見つめ、

 

『……今度こそ、平和が来る。多くの犠牲を出して掴み取った。あの時にはない、暗夜王国の別の平和……笑顔、希望がある。それはきっと、白夜王国も同じ。後は、私が透魔王国に戻って、ハイドラを討てば……世界の崩壊は免れるはずだ。この世界を、約束を、私は必ず――』

「ユラリ~♪ユルレリ~♪」

 

カムイは思っていたことを隅に投げる。

だってそこに聞こえてきたのは、アクアの歌声。

辺りを見渡し、アクアを捜す。

そしてカムイは湖の中の片隅にいたアクアを見つけた。

そこに駆けより、

 

「アクアさん‼よかった……戻ってきてくれたんですね!」

 

だが、アクアの側に寄ろうとしたが動けない。

カムイは瞳を揺らす。

そのアクアもまた、カムイには話し掛けない。

ただジッとカムイを見つめた。

しばらくして、アクアは口を開いた。

 

「ねぇ、カムイ。私のこの歌……どう思う?」

「……大好きですよ。とても綺麗で、とても懐かしい……そんな歌です。」

「そう、なのね……。なら、あなたは気付いているはずよ。この歌の意味と力を。」

「……アクアさん……私は、私はあなたを救えなかった。」

「それは違うわ。私は、私の意志で闘い、この選択を取った。その事に、後悔はないわ。」

「でも――」

「カムイ。目を閉じて、私の声に耳を傾けて。」

 

アクアのその哀しくも強い瞳に、カムイは目を閉じる。

 

「ありがとう、カムイ。いつかまた、どこかで……」

 

カムイはハッとなって目を開ける。

だが、そこにはもう、アクアの姿はどこにもなかった。

あったのは微かに光る水の反射。

カムイは瞳を大きく揺らす。

 

「アクアさん……アクア姉様……」

 

カムイはペンダントを取り出して、強く握りしめて泣く。

だが、涙を拭い立ち上がる。

 

後日、白夜王国でヒノカの王位継承式が行われた。

カムイは彼女を見つめる。

白い着物に身を包み、王としての威厳をもって民たちに語りかけるヒノカの姿は美しかった。

時間はかかるだろうが、白夜王国と暗夜王国の平和、手と手を取り合って行ける世界を創っていってくれるだろう。

前の時は違う方法で、今度こそ……

 

 

それは唐突に起きた。

いや、あの時と同じ。

両国の内情が安定し、会談の日だった。

この日、世界は崩壊した。

カムイを護って、ヒノカが重傷を負う。

突如現れた黒い騎士によって、マークスは殺された。

両国の民は崩壊に巻き込まれ、死んでゆく。

妹のサクラは涙を流し、ヒノカにしがみ付く。

エリーゼとカミラは涙を流し、マークスにしがみ付く。

そんな彼らをレオンとカムイが護る。

仲間達が護る。

だが、次々に皆倒れ逝く。

カムイは叫ぶ。

 

「アベル‼なんで……なんでなんだ‼」

 

彼は笑みを浮かべる。

あの時と同じ冷たい笑みを。

同じ言葉を。

 

「我が王は望む。世界の崩壊を……」

 

彼はレオンを斬り、カムイを見る。

 

「これは運命。絶対に免れない絶対的な運命なのですよ。」

「なに?」

「白き王、黒き王、白き巫女、歌姫……誰もが皆、死んで逝く。あなたが大切だと思う兄弟姉妹(きょうだい)でさえも。全ては覆す事の出来ない運命なのです。」

 

カムイはあの時と同じように斬られた。

奥の方でサクラ、エリーゼ、カミラの悲鳴が聞こえる。

カムイは拳を握りしめ、夜刀神で己を支える。

 

「それでも、私はその運命を打ち壊す!何度繰り返そうとも!何度失っても!必ず‼」

 

カムイの足元に魔法陣が浮かび上がる。

彼を涙の流す瞳で睨みつける。

 

「私は約束を果たす!必ず……この呪いを打ち壊す‼託された想いを、交わした約束を、犠牲にした人たちの想いの全てを背負い、私はこの運命を打ち壊してみせる!」

 

強い光がカムイを襲う。

瞳を強く瞑り、目を開く。

そこは母が死ぬその瞬間。

そして自分はまた選ぶのだ。

白夜王国か、暗夜王国か……

何度、繰り返しただろう。

何度、失っただろう。

何度、同じ光景を、同じ約束をしただろう。

何度、あの人の歌を聞いただろう。

何度、同じ言葉を聞いただろう。

何度、自分は同じことを言っただろう。

何度、自分は殺しただろう。

何度、自分は約束を果たせなかっただろう。

何度、自分は彼と戦っただろう。

何度、自分を恨んだだろう。

何度、自分を憎んでくれと望んだだろう。

何度、自分を――

 

数えきれないくらいの何度を繰り返した。

それこそ、誰も信じられないくらい。

けれど、いつだって兄弟姉妹(きょうだい)が、あの人が、仲間が自分を支えてくれただろう。

信じてくれただろう。

なのに自分は守る事ができなかった。

彼らの想いに沿う事ができなかった。

いつだって、犠牲を元に平和を勝ち取り、世界が崩壊していく。

ああ、それでも自分は止まる訳にはいかない。

自分は逃げ出すわけにはいかない。

例え、支払う対価が記憶、感情、命だったとしても。

いつしか、本当の自分すらも解らなくなって来た。

けれど、自分の中にはいつだって約束だけが残った。

大切な約束だけが……

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。