ファイアーエムブレムifでやってみた   作:609

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第二十話 vs黒の傀儡

自分達は多くの人に手をかけた。

それに対しては後悔はない。

 

自分は名門貴族と呼ばれるお嬢様。

母から手料理を教わり、家族仲も良かった。

自分の周りは平和だった。

きっと自分が殺すことに対して、こんなに想い入れができたのはあの時からだ。

従者の手によって、母を殺されたあの時から。

母を殺した従者は処罰された。

けれど、屋敷に母を殺した従者が居るように思えた。

だから他の従者に殺意を抱いた。

やがて自分は平然と人に危害を加えるようになった。

屋敷に従者が居なくなると、自分は外に出た。

戦場で敵を殺した時に褒められたことが嬉しくて、自分は人殺しを好むようになった。

 

自分は殺し屋だった。

だから感情は持ち合わせていない。

何故、自分が殺し屋になかったか。

それは自分が貧民街で育ち、幼い頃に親に捨てられたからだ。

孤児となってからは、パンを盗んで生きながらえていた。

その後、自分は当時の殺し屋の世界を牛耳っていた殺し屋に拾われた。

その者から、殺し屋の技術だけを教わって生きてきた。

だから依頼で、殺し屋として育てた師を殺してもなんとも思わなかった。

なにより、殺し屋業界ではよくあることだった。

 

自分は元盗賊だった。

何故なら、自分は最下層の貧民街の出身だったからだ。

親に捨てられた子供が、生き抜くためには窃盗、殺人何でもやった。

その為なら、自分の身すらも売ろう。

体の一部が壊されても、己の心が踏みにじられても、自分は耐える。

全ては、自分が生き抜くために。

 

自分は暗夜の第一王子マークス様の臣下になった。

マークス様は言った。

自分のままでいいと。

言葉遣いも、自分の過去の事も気にしない。

自分の相方は経歴は不明。

けれど、彼からは血の匂いがした。

だから落ち着く、嫌いではない。

好きだと。

誰だったか忘れたが、誰かが言った。

自分はまるで子供のようだと。

それは自分でも自覚がある。

自分はその日から止まっている。

あの時の子供のまま。

でも、二人はありのままの自分を受けれ入れてくれた。

だから自分は闘う。

大切な者が殺されないように、敵を殺す。

殺して、殺して、殺しまくる。

でないと、失ってしまうから……

 

自分は殺し屋家業を続けていた。

そんな時、暗夜王国の第一王女の暗殺を依頼された。

けれど、自分は失敗してしまった。

このままでは、自分は帰れない。

そうずっと呟いていた。

それを聞いた彼女は微笑んで私に言った。

ーーなら、あなたが私を暗殺依頼を受けた報酬の倍の金額を支払うわ。だから、私の臣下になりなさいな。

あの言葉から自分は変わった。

カミラ様の臣下として過ごす日々。

仲間と共に共闘して闘う日々。

どれも、殺し屋の時には味わった事のない経験だった。

それでも自分は殺し屋だ。

カミラ様が支払っている金額より上回る依頼が来たら、私はあの人を殺すだろう。

けれど、それはない。

あの人以上の信頼できる依頼主はいない。

自分は変わってきている。

殺し屋としての自分ではなく、カミラ様の臣下としての自分として。

 

自分は仲間達と共に城に忍び込んだ。

だが、自分は裏切られ、囮にされた。

死にたくなかった。

だから自暴自棄になった。

けれど、兵に捕まり、そろそろ年貢の納め時かと思った。

その時、自分はレオン様に会った。

王室育ちの坊ちゃんだと思った。

けど、違った。

あの方は自分を、己の臣下にした。

盗賊であった自分に手を差し伸べた。

あの時の事は忘れない。

あの方の瞳を忘れない。

自分はあの人に忠誠を誓った。

あの方を守るために、あの方の邪魔となる者は消す。

同僚である相方は、素性が解らない。

これはありえない話だった。

だから自分は警戒した。

けれど、あの方があいつを認めたのなら、自分はあの方を信じるまでだった。

 

ある時、マークス様の妹君に会った。

マークス様と違って血の匂いがしない人。

けれど、透魔王国でマークス様の隣に来たカムイ様は血の匂いがした。

それも、かなりの血の匂い。

どこかで嗅いだことのある血の匂い。

……そう、会った時から思った。

あのフードの彼女と同じくらいの血の匂い。

あの人が、カムイ様と同一人物。

けれど、違う。

とても真逆な二人なのに、どこか似ていると思ったのを覚えている。

 

自分はカミラ様の妹君を時折見守っていた。

カミラ様から深い愛情を受ける彼女。

自分にはない純粋な笑顔。

汚れていない彼女。

けれど、彼女はカミラ様に似ていた。

一度は命を奪おうとした自分を仲間として受け入れた。

カミラ様とは違う意味で、信頼できると思った。

だが、フードの彼女は同じ匂いがした。

人を殺すのを躊躇わない、そんな匂い。

けれど、彼女の瞳を見て違うと思った。

彼女の瞳には悲しみがあった。

自分にはない、相手への心があった。

それは、彼女がカムイだったからだろうか。

それとも、彼女は感情があったからだろうか。

それでも時折、彼女のみせる殺気は自分の知るカムイ様とは違う。

あれは自分でも恐ろしいと思う。

それだけの何かが、彼女にはあるのだろうと感じた。

 

自分はレオン様の姉君に会った。

いかにも温室育ちの世間知らずのお嬢様だった。

誰でも簡単に信じて、綺麗すぎるほど純粋な瞳を持っていた。

それは、この闇夜の住人ではないからだろうか。

日の当たる白き国の人間だからだろうか。

それでも自分は、この甘ちゃん姫が気に入らなかった。

苦しめてみたいと思った。

だが、あの方があの甘ちゃん姫と話している時の笑顔は壊したくないと思っていた。

そんな時、あのカムイ様がフードの彼女と共に現れた。

戦場で会った時から解る彼女の身に纏う何かが、自分を警戒させる。

それと同時に、重い何かを感じた。

仮面が壊れ、彼女の瞳を見た時にそれは確信へと変わる。

あれはあまりにも辛い経験をした者の瞳だ。

けれど、あの甘ちゃん姫と同じその瞳には光があった。

強い固い意志の瞳。

同じカムイなのに、違うカムイ。

けれど同じな二人。

自分はこの二人が面白いと思えた。

 

 

ーー仮面の少女は目を覚ます。

 

「良かったわ、目を覚ましたのね。気分はどう?」

「…………だいぶ楽になっている。」

「そう、なら良かったわ。」

 

隣には椅子に座ってホッとした姿のアクアがいた。

彼女は目元を腕で覆い、

 

「兄の歌が聞こえた気がした……」

「……ええ、シグレがあなたの事を止めて、護ってくれたわ。」

「そう……か……」

 

彼女は身を起こし、あの時タクミに刺された所を見る。

傷は塞がっていた。

 

「夜刀神の力を媒体に、傷を直したのか。」

「ええ、それなら可能ではないかと思ったの。前の時に、あなたはカムイの夜刀神を意識してたみたいだから。」

「なるほど。」

「ねえ、イズモ公国でサクラがあなたの傷を直したでしょ。あの時は……」

「幻術を使った。傷が癒えぬ限り、引き下がらないだろう。あんな所で時間を無駄にする訳にはいかないからな。」

「……もっと、私たちを頼っていいのよ。全てを信じて、とはもう今の私には言う資格はないわ。けれど……私やリョウマ、マークスはある程度の事は解っているつもりよ。だからーー」

「何か、勘違いしているようだが……私はあなた達の仲間、ではなく協力者に過ぎない。馴れ合うつもりも、信じることもない。いつでも私を裏切ってくれて構わない。」

「カムイ……」

「違う‼︎」

 

彼女はアクアに睨み付ける。

アクアはビクッと身を固め、悲しそうに瞳を揺らす。

 

「私はもう、カムイでも、カンナでもない。そこを、間違えないでもらおう、歌姫。」

 

彼女はベッドから降り、歩いて行く。

アクアは彼女に手を伸ばすが、その手は途中で止まってしまった。

武器を身に纏い、屋敷から出た。

そして彼女は気づく。

大切なお守りがないことに。

 

『……あの時か。仕方ない、後で取りに行くか。いや、今の状態で単独行動はやめておいた方がいいだろう。私はともかく、他の者たちがどう動くかわからん。』

 

彼女は視線を斜め上に上げる。

そこには、少し盛り上がった声が響いて来る。

と、斜め後ろで気配を感じる。

 

「カムイ。」

「……悪いが、貴殿の妹の方ではない。」

「いや、お前もカムイで間違いはないだろう。」

「違う。私は、もうカムイではない。」

「……なら、これだけは渡しておこう。お前の物だろう。」

 

リョウマから、彼女はお守りのペンダントを受け取った。

彼を見て、

 

「礼は言っておく。」

「……アクアのモノと同じものだろう。」

「ああ。母だった頃のあの人が、兄に渡し、私が受け取った。」

「そうか。確か、シグレ……と、アクアが言っていたな。」

「……何をどこまで聞いたかは知らないが、私にとってはもう昔の事。そしてもう、私とは関わりのないモノだ。」

 

リョウマにそれだけ言うと、彼女は歩いて行った。

 

カムイ達は、彼女の言う通りに動いていた。

再び四編制で動いていた。

それは彼女曰く、自分が正気に戻っている事。

そして、まだこの透魔王国に滞在している事を示す為。

彼女はいつものように、ハイドラを守りながら前線に出ていた。

ある意味彼女が違ったのは、フードはかぶっているものの、仮面を付けていない事だ。

フードを被っているのは、単にカムイと間違えられたくないからだった。

今回も、透魔兵とある程度の戦闘を行う。

彼女は真っ先に剣を抜いて、戦闘を開始した。

彼女は倒れ逝き、炎に包まれていく透魔兵達を見る。

だが、すぐに次へと向かっていく。

その姿を見た彼らは、

 

「本当に、あれがカムイだとは思えないな。」

「ああ。だが……彼女がああいう選択を取らせてしまったのは自分達だ。」

 

リョウマとマークスも、互いに背中合わせにしながら闘う。

レオンとタクミもその姿を見て、

 

「……あれが、もうひとつの姉さんの姿とはね。」

「そうだね。けど、僕はなんでだろう……あの姉さんを知っている気がするんだ。」

「それは……兄さん達みたいに、あの姉さんがカムイだった頃の記憶らしいものがあるからかい?」

「いや。それとは違うかな。僕は……なんというか、夢?だったのかな。」

「ふーん。けどさ、あっちの姉さんの言っていた『約束』って、結局何だと思う。」

「それは……多分、レオン王子も気付いているじゃないの?」

「……だからこそ、聞いたんだよ。」

 

二人は互いに見合って、苦笑し合う。

カムイとアクアも同じように、彼女を見ていた。

 

「…………」

「カムイ?」

「あ……すいません。今は戦闘中でしたね。」

「大丈夫?」

「大丈夫ですよ、アクアさん。彼女に比べれば、自分の思っている事は本当に小さい事です。でも、なんでしょうか……この心のどこかで、今の彼女の姿がとても辛そうに見えるんです。そう意味が少しだけ分かった気がするのに、モヤモヤ勘が消えないんです。」

「カムイにとっては、複雑よね。けどね……私は思うの。彼女は間違いなく、あなたに希望()を見ているわ。おそらくだけど、彼女は自分では……いいえ、自分だけでは果たせない目的があるのよ。今の私には、あの子が本当にしたい事などわからないけれど……どちらのカムイも、あのカムイも大切なの。」

「アクアさん……」

「だからカムイ。私たちは、私たちにできる事をしましょう。」

「はい、そうですね!私たちには、私たちのできることを!」

 

カムイは武器を構えなおして、突っ込んで行く。

だが、今回はそれだけではなく、いつもと状況が違った。

 

「お前たちを殺せば‼」

「俺たちはやるぞ!やってやるんだ‼」

 

どこかに幽閉されていたのか、どこかに隠れていたのか、透魔王国の民達が武器を持って現れた。

だが、数はそんなに多くはなかった。

フードの彼女は長剣を構え、無表情で、さらに問答無用で斬りかかる。

 

「俺は……俺は妻と子を救うんだ‼」

「僕は母さんと父さんを助けないと……」

「俺は死にたくない!死にたくないんだ‼」

 

彼らは炎に包まれながら、フードの彼女に恨みの言葉を放って死んで逝った。

一人残った最後の男性を斬る。

倒れた彼は、他の彼らとは違いフードの彼女に手を伸ばす。

 

「頼む……いや、お願いします。私の子供を……救ってください。」

 

フードの彼女は剣をしまい、フードを取る。

そして彼の前に膝を着いて、その手を取る。

彼は続ける。

 

「妻を早くに亡くした……私のたった一つの宝なんです。だからお願いです……私の大切な息子を……」

「ああ、救ってやる。だからお前はもう逝くんだ。解っていたんだろう。自分がどういう状況なのか。」

「……はい。だから、ありがとうございました。私を救ってくれて……」

「恨む相手が欲しいのなら、私を恨んで死んで逝ってくれて構わない。」

「いいえ、あなたは私を救ってくれた方。感謝こそすれど、恨みはしません。ありがとう……本当にありがとうございました。」

 

彼は炎に包まれて、笑顔で消えていった。

彼女が立ち上がると、カムイが彼女の前に立つ。

 

「なんで、こんな事を!」

「待って、カムイ。」

 

アクアが、カムイの横に立つ。

カムイはアクアを見て、

 

「けど、今彼女が相手にしていたのは……この国の人たちなんですよ。アクアさんにとっても、ハイドラ様にとっても、想い入れがあったはずです!」

「それは……そうだけど、そうじゃないの。彼らは……」

 

アクアは表情を暗くする。

フードをの彼女はフードを再び被り、

 

「あれが、彼らを救うたった一つの手段だからだ。」

「え?」

「この、透魔王国の民は自分が死んだことにさえ気付いていない。それは、兵たちもそうだが、彼らはもう彼ら自身の意志はない。透魔王ハイドラの為に動く駒であり、命令を聞くだけのただの死人だ。」

「でも、だからって!それなら、どうして彼らに教えなかったんですか。」

「お前は、自分がすでに死んでいると解っていたらどう思う。彼らは生きたい、誰かを救いたいと、武器を取り戦った。なのに、自分は既に死んでいて、救いたい者もすでに死んでいた。なら、自分たちは何のために武器を取ったのか、想いを壊され、ある者は狂う。そうなれば、透魔王ハイドラの思うツボだ。だったら、何も知らずに死んで逝った方が気持ち的には楽だろう。」

「だから、あなたは自分が恨まれても、憎まれてもいいと?」

「……それで、彼らの気持ちが収まるならな。今更、一つや二つ怨み辛みなど増えた所で何も変わらんし、何も感じないからな。」

 

そう言って、彼女は歩いて行った。

カムイ達はそれを慌てて追って行く。

アクアと、リョウマと、マークスは後ろの方で、

 

「はぁ……嘘が下手なんだから。」

「お前も、そう思うか。」

「私は、時々彼女の嘘と真が解らない時がある。」

 

アクアは、先頭をカムイ達と何やら話ながら歩く彼女を見る。

 

「……あの子は元々、ウソをつくのは苦手……いえ、下手なのよ。いつだって自分の感情や想いに素直で、はっきり言う子なの。けれど、相手を想う気持ちも人一倍強くて……何より、あの子はとっても泣き虫なの。」

「泣き虫、か……」

「確かに、そうだったな。」

 

リョウマとマークスは思い出したように、苦笑いする。

アクアは自分の掌を見て、

 

「泣き虫で、人一倍……想いに溢れた子なのよ。本当は、あんな風に演じること自体嫌だったはずよ。」

「アクア……」

「あまり、一人で抱え込むな。今回は、お前たちだけではない。私たちもいる。」

「ありがとう、リョウマ、マークス。」

 

彼らはアジトへと戻る。

その日の夜、アクアはある事を決意した。

 

翌朝、彼女はフードを深くかぶって現れた。

カムイは昨日の事を想い出す。

だが、彼女は自分達を避けている。

でも、それではいけないと想っているカムイ。

そして一番の悩みは……

 

カムイはフードの彼女を見て、

 

「えっと…………その、カムイさん。」

 

ギロリと彼女は睨みつける。

カムイは視線を外し、戸惑う。

 

「す、すみません……」

 

アクアがカムイの隣に立ち、

 

「ねぇ……あなたは自分の事は好きなように呼べ、と言っていたわよね。」

「ああ。」

「なら、あなたの名前を今決めましょう。私が決めたわ。」

 

アクアがぐっと拳を胸の辺りでやりきった顔になっていた。

リョウマとマークスは頷き、

 

「確かに、名前は必要だな。」

「ああ。呼ぶのに困るからな。」

 

カムイはパッと明るくなって、

 

「そうですよね‼それでアクアさん、どんな名前を?」

「イムカよ!」

「え?」

「だからイムカよ。反対から読んでカムイ。元はカムイでもあるし、でも彼女は嫌うし。けれど、彼女はある意味あなたとは真逆のようだし。」

「……なんか雑じゃありません?」

「そんなことはないわ。案外、こういうのは雑の方がいいのよ。」

 

アクアは視線を反らしてカムイに言う。

フードの彼女は長い沈黙の後、

 

「好きにしろ。」

 

そう言って、今日も前線へと向かっていく。

今日も無事に敵とある程度戦闘し、アジトに帰って来た。

フードの彼女……いや、イムカがカムイ達を見て、

 

「さて、白夜と暗夜の第一王子。」

「なんだ?」

「お前たち二人を明日向こうへ行ったん戻す。そして残った者たちは待機だ。」

 

リョウマとマークスはイムカを見て、

 

「何故、私とリョウマ王子なのだ。」

「もしや……」

「その、もしやだ。そろそろあちら側で動きがあってもいいはずだ。この透魔王国の方でも、敵の数が増えてきた。と言うことは、向こうは白夜王国へ進軍を始める準備が整いつつある。なら、こちらも動かなければならい。その為に、貴殿たちには向こう側に行ってもらう。」

「なぜ二人だけなのだ。」

 

リョウマの臣下であるサイゾウが、イムカを睨む。

その隣では、同じようにマークスの臣下であるラズワルドが、

 

「そうです。向こうで、何があるか解らない以上、護衛も必要なはずだ。」

「……生憎、私の加護で行き来可能なのは二名だけだ。」

 

イムカはそっけなく言う。

だが、ジョーカーは思い出すように、

 

「ですが、初めてこの透魔王国に来たときは、私を含めたカムイ様にアクア様、それにリリスも居た。そして、向こう側に戻る時も、そこにジジイ……ギュンターも加わったしな。」

「カムイ達は別だ。お前達で、二人だ。」

「?カムイ様たちは別……それはどういう――」

「こいつらは、元々ここの加護を受けし者だ。だが、お前たちはあくまで向こうの闇竜の加護の持ち主。そして、他の者たちもそうであり、白夜王国の者は光竜の加護の持ち主。」

 

イムカはサッと説明をする。

カムイは首を傾げ、

 

「そう言えば、イムカさんは禁忌の国の者って言ってましたよね。でも、あなたもカムイだったのなら、白夜王国の光竜、もしくは暗夜王国の闇竜の加護を受けているのであはありませんか?あ、でも……お母様はこの国の出身、そして『最初のカムイ』も、ここの王であった。それに、もう一人のあなたもここで暮らしていた。」

「……そうだ。だから私は、この国の加護を受けている。そして、もはやこの身は人の身ではない。竜となった以上、自身にも加護はある……といった感じか。」

 

カムイは、それでも少し考え込んでいた。

イムカはサッとカムイの横を通り過ぎ、

 

「明日の事は向こうに戻ってから教える。ではな。」

 

イムカは屋敷を出て行った。

そのまま森に入って行き、心臓を抑える。

肩が大きく上下し始め、

 

「ゴホッ!」

 

盛大に血を吐き出した。

木に寄りかかり、血を拭う。

 

「あと少し……あと少しだけ……あと少しだけでいいんだ。もってくれよ……」

 

イムカは息を整え、ペンダントを握りしめる。

それを木の上でサイゾウが、木々の奥でラズワルドが見ていた。

そしてそっと離れるのだった。

 

カムイはアクアとお茶をしていた。

 

「随分と元気がないわね、カムイ。」

「アクアさん……」

「イムカのことなら、あまり気にしてはダメよ。」

「ですが……私はその、あの人にとってはきっと許せないのではないかと。」

「どうして?」

「本来なら、あの人がいるべき居場所に自分がいる。そして、私には残っていませんが……彼女のその……子供の魂だったのでしょう。」

「それでも、あなたはあなた。例え、今のカムイとあの子がカムイだった頃とは違っても、それはそれ。あなたは、あなただけのカムイなの。だからあなたは、あなた自身で居て。それが、他でもない今ここにいる私たちが望んでいるの。だって、あなたも大切なカムイなのだから。」

「アクアさん……」

 

カムイは瞳を大きく揺らす。

自分は何ができるのか、自分は何をしたいのか。

それを考えて自分の考えをまとめたいが、思うように考えがまとまらないのだった。

 

次の日、イムカはリョウマとマークスを見る。

 

「いいか、向こうに戻ってもこの国の事は口にするなよ。言えば死ぬからな。」

「ああ、解っている。」

「無論、俺もだ。」

 

マークスとリョウマが頷く。

イムカは二人の間に立つ。

と、カムイはイムカの腕を掴んだ。

 

「あ、あの!私は、あなたの望むカムイになれないかもしれません。ですが、私はきっと強くなってみせます。あなたを守れるくらい強くなってみせます。だからーー」

 

カムイはぎゅっと彼女の腕を強く握り、

 

「絶対に帰って来てください。居なくならないでください。あなたは、私たちのことを仲間だと想ってなくても、私たちは仲間です。イムカさんと言う、私の大切な仲間なんです‼︎」

 

力強い瞳で、見つめていた。

 

ーー僕は、いつか絶対にお母さんみたいに強くなる。強くなって、お母さんを守って、お母さんの仲間になるんだ!だから、お母さん……僕の側にずっと居てね。

 

幼い子供の笑顔と力強い瞳を想い出す。

イムカは伸ばしそうになった手を握り締め、

 

「仲間だと思うかどうかは勝手にしろ。だが、私は仲間になるつもりはない。お前の強さには……期待せずに待ってはやろう。」

 

カムイの手をほどき、

 

「私が戻るまで、ハイドラ様のことは頼む。」

「はい!任せてください!」

 

カムイは笑顔で言う。

イムカの足元に魔法陣が浮かび、三人は水に包まれて消えた。

 

着いた場所は白夜王国の湖だった。

イムカはリョウマを見て、

 

「玉座の事と、兵たちの事は、貴殿に任せる。私は暗夜の第一王子を送り、指示が終わったら、共にこちらに戻る。」

「分かった。だが、なぜこちらに来てから指示を?」

「向こうには敵の目と耳がある。貴殿らが、あの国の事をどれくらい覚えているかは知らん。だが、打てる手は全て使う。」

「……とりあえずはそういう事にしておこう。」

 

リョウマはあまり意味は分かっていないが、苦笑しながら了承した。

 

「ああ、そうだ。白夜の第一王子、貴殿にも頼みたい事があった。」

「なんだ?」

「ああ、実は――」

 

イムカは二人にそっと伝える。

 

「ああ。任せておけ。」

「こちらも任せて貰おう。」

 

二人は頷く。

イムカはマークスの手を取って、

 

「では、また後でな。」

「リョウマ王子、また後で。」

「ああ。」

 

二人は湖に入って行く。

湖から出ると、今度は暗夜側の方へと出た。

マークスは出てすぐに、部下たちに様子を聞き、今後の指示をする。

そして、この事を他の見方の兵達にも伝令を言付けした。

湖に入る前に、二人は迷いの森と言われる『死霊の沼』に来ていた。

この辺りに居るノスフェラトゥをある程度削る為だ。

おそらく、白夜王国進軍の為にはノスフェラトゥも使うだろうというイムカの意見を聞いたからだった。

あらかたこの辺に居るノスフェラトゥを殲滅させると、イムカが頭を抑える。

 

「どうした、イムカ。」

「…………」

「イムカ?」

「……ああ、すまない。何でもない。」

「本当か?」

「ああ。」

 

イムカは森を出ようとした時だった。

瞳を揺らし、呼吸が荒くなる。

膝を着き、口元を抑える。

マークスが駆け寄り、彼女の方に置いた時、

 

「……なんだ、これは……⁈」

 

マークスの目には、凄まじいほどの量の霊達が群がっていた。

その霊達の瞳には怒り、悲しみ、憎悪が見てわかる。

霊達が口々にイムカを見て、

 

「裏切り者……」

「俺たちを殺した。」

「返して、私の大切な人を……」

「国を滅ぼした……」

「返して、愛しき人を……」

「裏切り者……国を裏切った裏切り者……」

 

彼らはイムカの方に手を伸ばす。

だが、それは何かに阻まれて触れる事ができない。

そしてマークスは気付いた。

彼らは透魔王国の人々。

それだけではなく、白夜王国の民、暗夜王国の民、シュヴァリエ公国の民、イズモ公国の民、獣人族と、様々な国、部族、公国の人間、獣人族たちの姿。

彼らはイムカが殺してきた、そのきっかけを作ってしまった者達。

その中には、自分も関わったことのある者たちも居た。

 

イムカはマークスの手を払い、

 

「変なものを見せたな。流石は死霊の沼だ。まさか、貴殿にも見えてしまうとはな。」

「イムカ……お前は……」

「貴殿が気にすることはない。彼らは私が連れて行く。」

 

イムカはドンドン歩いて行く。

マークスは眉を寄せて、彼女の歩く背を見る。

そして自分の掌を見ると、それを強く握りしめる。

何と、自分は弱いのか。

何もできない自分が歯がゆい。

彼女に彼らを背負わせたのは他でもない自分。

彼女を支えたい。

けれど、彼女はそれを望まない。

どうすることが正しいのか、自分にはわからない。

けれど、マークスだけが見た。

彼女を守るように立っていたアクアと同じ髪の少年を。

そう、前に一度イムカの暴走を止めたシグレと言うアクアの息子にしてイムカの兄の姿を。

ずっと、そうして守って来たのだろう。

おそらく彼女は彼を知らない。

気付いていないだろう。

そう思いながら、二人はリョウマと合流し、透魔王国へと戻った。

 

イムカは戻ってそうそう席を外した。

マークスは沼で起きたとこをリョウマとアクアに話していた。

二人も、同じ想いのようだった。

同じ想いを抱き、何もできない自分を悔しがっていた。

けれど、自分達は共有できる。

一人では見つからない事でも、三人いれば見つかるかもしれないとアクアが言う。

彼らは頷き合い、明日に備えた。

 

――とある城の中、銀髪の少女が魔導書を持って長い廊下を歩いていた。

 

『さて、もうじき黒き王が白夜を攻める。あちらも何かしら手は出してくるとは思いますが……さてさて、あちら側は同のような結果に堕ちるか。ですが、私の目的の為にも何とかして、この戦争を早く終わらせなくては……』

 

彼女は歩く。

その先にある扉を目指して。

 

『そう、すべては私の目的の為……その為に、私は……ここに居るのだから。』

 

 

イムカはあのブランコの所に居た。

瞳を揺らし、星空に手を伸ばす。

 

『私は交わした約束を果たす。その為に、私はここに居る。……やり遂げてみせる……今度こそ……必ず。』

 

拳を空で握りしめる。

それはカムイもまた、同じ。

見上げる夜空を窓から見ていた。

 

『いよいよ戦争が本格的に始まる。頑張らないと!私は私としての選択と答えを。皆と共に‼』

 

カムイは強い瞳で夜空を見て瞳を揺らす。

それぞれの想いが駆け巡る。

 

 

そして今日、カムイ達はあの魔法陣の所に来ていた。

イムカはカムイ達を見て、

 

「では行くぞ。もう一度言う、向こうではこちらの話は絶対に言うなよ。ハイドラ様の事も呼ぶときは、名を出すなよ。そして、ハイドラ様は絶対に私達から離れないで。」

「ああ。解っているよ。」

 

小さく笑うハイドラの横で、リリスもグッと拳を握り、

 

「大丈夫です。お父様は、私が守ります。勿論、カムイ様もちゃんと守ります。」

「ありがとうございます、リリスさん。それに、私も守ります。」

 

カムイが力強く頷く。

アクアがカムイの側により、

 

「カムイ、そこは……私たち、でしょ。」

「はい。そうでした……みんなで、頑張りましょう。真の平和を取り戻すために‼」

 

カムイは腕を振り上げる。

そして皆も振り上げ、

 

「おおぉ――‼」

 

イムカはその姿をじっと見て、魔法陣の上に乗る。

瞳を一度閉じ、開くと、

 

「では、行くぞ。ハイドラ様。」

「うん。」

 

魔法陣が光り出し、カムイ達は光に包まれる。

瞑っていた目を開くと、そこは無限渓谷だった。

 

「あ……戻ってきましたね。」

「ああ。では、策戦通りに頼むぞ。」

「任せてください!」

 

カムイ達は三手に分かれる。

リョウマ率いる白夜王族は一足先に白夜王国に。

マークス率いる暗夜王族はこちらにやって来ている味方の兵達との合流に。

そしてカムイ率いる方はハイドラを守りながら、白夜王国に向かっていた。

 

「ですが、ここに来て言うのは何ですが……ガロン王は素直に玉座に座ると思いますか?」

「それも、そうですね。いくら、白夜王国に進軍知るのはわかっているとはいえ、攻め入れたその日に玉座が広間にあるのは疑われますね。」

 

ジョーカーが顎に手を当てて、考え込む。

ギュンターも横で、

 

「そうですな……ですが、あなた様の事です。何か既に手を打っているのでは?」

 

と、イムカを見る。

イムカはハイドラの横で、

 

「ああ。白夜と暗夜の第一王子達に頼んで、ある噂を広めて貰っている。」

「噂ですか?どんな噂を?」

「白夜王国は第一王子リョウマを、暗夜王国進軍前に王位に付かせる。そして暗夜王国の第一王子マークス達王子と姫、反乱軍と共に暗夜王ガロンを討つつもりだと。つまりは、王位略奪。その白夜王国第一王子の王位継承は明日。そしてそれに合わせて、近くの公国、部族の長たちが来賓としてやって来る。」

「それて……」

「その情報は、嫌応でもヤツの耳に入る。それに、やつからしてみれば白夜王国を手に入れ、他の公国、部族の長たちにその力を示せる。晴れて奴は世界の王となれると言うワケだ。」

 

イムカは淡々と説明する。

アクアが心配そうに、

 

「けれど、そんな噂に流されるような軍師だとは思えないわ。」

「その辺は大丈夫だ。あちらの軍師の耳には届かない。前に、王子達を連れて戻った時、敵の動きはあまり動きはなかったからな。だとすれば、随分前に指示してある策戦に基づいて動いていると考えた方がいい。そして我々あは、軍師の耳に入る前に事を済ませる。そして、奴の指示のないあの傀儡は絶対にこの機に乗じて攻めてくる。そういうヤツだ。」

「そう……なら、あなたを信じるわ。」

「別に、信じろとは言っていない。私自身も、全ての策戦が成功するとは思っていない。『アベル』という厄介な奴も居るからな。奴はおそらく、白夜の玉座の力を知っている。だが、必然を知るあいつはそれを止める事はないだろうが、必ず乱入してくる。本来いるべきはずのない、私と言う存在を消す為に。そして必然を作る為に。」

「そう、ね……」

 

そして、先を進む彼らの前に、白夜王国の王城が見えてきた。

カムイは王城を見上げ、

 

「戻ってきました。」

「そうね。」

 

アクアがその横に寄り添う。

城の中から、リョウマがやって来る。

そして後ろからは、兵を連れたマークス達が合流する。

カムイは辺りを見て、

 

「揃いましたね。」

「ああ。今日は、明日の戦闘に備えて休んでくれ。城の中は自由にしてくれて構わない。」

「感謝する、リョウマ王子。」

 

マークスは馬から降り、リョウマを見る。

マークスは、レオンに部下たちの指揮を任せる。

白夜の兵達に馬小屋などの手配を頼み、指揮を取る。

マークスとリョウマが揃うと、今後の話を進めていく。

それらが終わり、メインメンバーが宴会場に揃う。

その間、イムカはハイドラに尽きそい、控えていた。

 

「イムカ、頼まれていたものだ。」

「礼を言う、白夜の第一王子。」

 

リョウマが、仮面を持ってイムカに近付く。

それを受け取ったイムカは着ける。

そしてマークスを見て、

 

「暗夜の第一王子、貴殿に言っておく。暗夜王ガロンが、この城に攻めて着た時のことだ。貴殿らはあくまで父王だと思って接しろ。」

「なぜだ?」

「暗夜王ガロンを、父王だと思う事で奴を王だと認識させる。玉座に座るその時まで。座った後は、奴の本性がその身を通して現れる。そこからは何のためらいもなく、あの傀儡を討てる。それに、その方がまだ敵になっている兵達にも解りがいいからな。」

「それもそうだな。」

「貴殿には辛いだろうがな。」

「いや、これからの事を想えば……私も打てる手は打っておきたい。」

 

と、そこにカムイがイムカを見て、

 

「そう言えば、何故今更イムカさんは仮面を?」

「……お前たちはともかく、こちら側の者たちは私の存在を知らないからな。それに、こちらの方が色々と楽なんだよ。何より……カムイと同じ顔の奴がいたら、混乱するだろう。」

「それは……確かにそうですね。」

 

カムイは「ムムム」と、考え込んでいた。

イムカはそのままカムイを見たまま、

 

「そうだ、お前にも言っておくことがある。」

「なんです?」

「お前と私は暗夜王ガロンが攻めて時、私と入れ替わってもらう。」

「え?」

「その方が指示を出しやすいからだ。それに、こちら側に戻って来たのだ。お前の体は貧弱に戻る。それとリリス。」

 

イムカはリリスの方に視線を向ける。

リリスはビシッと姿勢を正し、

 

「はい。」

「お前も、竜の姿に戻ってカムイとなっている私の側に居ろ。その方が、カムイだと思われやすい。向こうに戻ったら、また人型に戻ってくれても構わない。」

「わ、解りました。」

 

リリスは竜石を取り出し、竜の姿へと変わる。

彼女は再び小竜の姿となって宙に浮く。

その後、イムカはその後の指示をある程度話して、解散した。

イムカはそっとリリスに指で合図を送って呼び止める。

 

「何ですか、イムカ様。」

「いいか、今からいう事をカムイに伝えろ。」

 

イムカは小声で伝える。

リリスはイムカを見上げ、

 

「イムカ様……それって……」

「頼んだぞ。」

「わかりました。任せてください。」

 

リリスはカムイの元へと飛んでいく。

そのイムカはハイドラの部屋の前で待機をしていた。

そこにリョウマがやって来る。

 

「寒くはないか?」

「問題はない。」

「…………」

「言っておくが、あの方は中に入るといい、と言ったが……私が断った。」

「なぜだ?」

「私はあくまで、あの方の護衛としてこの城に居る。出なければ、この城には足を踏み入れることは許されない。」

 

リョウマは腰を下ろし、

 

「なぜだ。ここはお前のもうひとつの故郷なのだろう。」

「……それは遠い昔の話だ。私にはもう、故郷すらもない。あるのはただ、禁忌の国の者だと言うことだけ。」

「あまり、無理はするなよ。」

「……それは、貴殿たちの働きによるな。」

「かもしれんな。」

 

リョウマは立ち上がる。

そして歩いて行った。

と、襖が開かれる。

 

「何です。」

 

それはハイドラだった。

ハイドラは先程リョウマが座っていた場所に座る。

彼女を見て、

 

「いや、リョウマ王子は優しいな、と思ってね。」

「そうれはそうですね……血の繋がりのない他人を受けれ、兄妹(きょうだい)として接してくれた。居場所をくれた方ですから。それこそ、暗夜の第一王子とは違った意味で。」

「そうだったね。君にも、随分と辛い思いをさせてしまった。」

「……そうでもないですよ。私はそれでも……楽しかった事もありましたから。」

 

仮面に触れながら言うイムカ。

ハイドラは彼女の肩を掴み、抱きしめた。

 

「……どうしたんです?」

「いや……そうだな……今の君を娘だと思わせてくれ。でないと君は、嫌がってしまうだろう?」

「……全く。今日だけですよ。」

 

イムカも、彼を抱きしめた。

それをリリスと共に物陰で見ていたカムイ。

リリスは嬉しそうにそれを見ていた。

だが、カムイは眉を寄せて、

 

『……なんでしょうか……この複雑勘は……』

 

そこに、マークスが歩いて来た。

 

「ん?カムイか。どうかしたのか?」

「マークス兄さん⁈い、いえ、何でもないです。」

 

カムイは宙に浮いていたリリスを抱え、

 

「お、お休みなさい‼」

 

と、駆け出していった。

マークスは?マークが浮かぶ。

そこに、物陰からイムカが現れる。

 

「そこで何をしている、暗夜の第一王子。」

「ん、イムカ?」

「……カムイが何かをしていたのか?」

「い、いや……駆けて行っただけだ。」

「そうか……なら、貴殿ももう休め。明日は忙しくなる。」

「あ、ああ……」

 

よくわからないまま、マークスは部屋に戻る。

 

『さて、あれはいつ気づくか……』

 

イムカは舞い散る桜を眺め、

 

「……全く、緊張感がないな。いや……それは私も、か。」

 

イムカはハイドラの部屋の前に座って、舞い散る桜を眺める。

その場所はかつて白夜の兄弟姉妹(きょうだい)と共に遊んだ庭だった。

 

翌朝、カムイの部屋の前。

イムカとカムイが互いの服を変えて出て来た。

夜刀神に関しては、イムカの幻影魔法で誤魔化している。

 

「さて、イムカ。こちらの準備も整った。それでは行こうか。」

「……ああ、白夜の第一王子。」

「…………大丈夫か?」

「問題ない。」

 

リョウマはカムイ(イムカ)をじっと見て、少し考えた後歩き出した。

イムカの姿をしたカムイは彼女を見て、

 

「ちゃんと、私の口調で居て下さいね。」

「……分かっている。行くぞ、リリス。」

「はい、イムカ様。では、カムイ様、お父様、お気を付けて。」

 

カムイの姿をしたイムカは無表情でリリスを連れてリョウマと共に歩いて行く。

イムカの姿をしたカムイはハイドラを見上げ、

 

「では、私たちも行きましょうか。」

「ああ……」

「あ!彼女に比べれば、頼りないかもしれませんが……ちゃんとお守りしますから。」

「大丈夫、どちらも信用しているからね。」

 

そして二人も移動を始めた。

 

――広場には、多くの民達が居た。

イムカ(カムイ)達もすぐ近くの民家の物陰に隠れていた。

リョウマが設置した玉座の方へと上がっていく。

白夜軍師ユキムラが民衆を見て、

 

「では、これより……前白夜王国女王ミコト様の後を継ぎ、白夜王国第一王子リョウマ様が、新たなる白夜王としてこの国を治められることとなります。即位の証として、冠を――」

 

と、行った時だった。

街の入り口の方から爆発音が聞こえてきた。

そしてすぐに暗夜軍が攻めてきた。

リョウマは刀を抜き、

 

「ユキムラ!」

「はい!式は一時中断とします!」

 

白夜軍師ユキムラは、兵達に手で合図を送る。

リョウマは飛び降りる。

そして、マークスの隣に立つ。

 

「マークス王子。」

「リョウマ王子、すまない……どうやら、父上にこの式典の事が漏れていたようだ。」

 

マークスも剣を抜いて、構える。

そこには、暗夜王ガロンが馬に乗って現れる。

 

「マークスか……」

「父上!どうしてこのようなことを!いえ……あなたは間違っておられます‼」

「ぬかせ……この裏切り者が。暗夜王国を裏切った罪、その命を持って償うがよい。」

「父上!何故わからないのです‼」

「全軍、白夜の民と裏切り者を皆殺しにし、リョウマ王子の首と裏切り者マークスの首を取れ。」

 

暗夜王ガロンがそう命じると、兵達は動き出す。

そこにカムイ(イムカ)も合流する。

 

「兄さん!」

「ほう、カムイまでも居たか……」

「お父様……もう、話し合うことはできないのですね。」

「裏切り者のの言葉などに意味はない。マークス達は騙せても、わしは騙されんぞ。」

 

カムイは夜刀神を構える。

暗夜軍は闘う術のない民達を最初に狙った。

だが、彼らにノイズがかかり、白夜兵と暗夜兵へと変わる。

もちろん、風の部族や炎の部族、氷の部族達の姿もある。

暗夜王ガロンは眉を寄せ、

 

「なに?」

「わからないか……いや、忘れていないか、私の存在を。」

 

イムカ(カムイ)が現れ、暗夜王ガロンを背後から斬ろうとする。

だが、素早く馬を引き、それを交わされる。

 

「なるほど……お前も来ていたか。」

「来ていないとでも思ったか?お前を殺せるチャンスは逃さないさ。」

「ぬかせ……」

 

暗夜王ガロンは馬に乗ったまま、カムイ(イムカ)斧を振るう。

それを避け、受け流しながら暗夜王ガロンと対戦する。

 

「父上、こうなってしまった以上、私はあなたに剣を向けます。」

「我が、白夜王国はお前には渡さぬ‼」

「お父様……今のあなたは王ではありません!」

 

カムイ達もそれに加わった。

そして戦闘は、本格的に開始された。

基本的には、暗夜王ガロンの相手はリョウマ、マークス、カムイ(イムカ)イムカ(カムイ)が相手をしていた。

残りの部隊は見えない敵(透魔兵)を相手に闘っていた。

カムイ(イムカ)は、後ろの方でラズワルド、ルーナ、オーディンに護られているハイドラを見る。

そこに、黒騎士が剣を向けて振り下ろすのが見えた。

イムカ(カムイ)は駆けて行き、

 

「くっ!」

 

黒騎士の剣を受け止める。

が、弾き飛ばされた。

すぐに、ラズワルド達がハイドラを囲って守る。

 

「おやおや、随分と弱くなっていますね。この間の件で、力が衰えましたか?それとも……」

 

黒騎士アベルは目を細めて、

 

「私の知る、彼女ではないか……ですね。」

「それはどういう意味だ。」

「そのままの意味です。おや、あちらの方も押されていますね。」

 

黒騎士アベルは暗夜王ガロンと戦う彼らを見る。

イムカ(カムイ)も、そこを見る。

暗夜王ガロンがマークス、リョウマ、カムイ(イムカ)を蹴散らした姿。

そして馬から降り、カムイ(イムカ)を掴み上げ、玉座のある段を上がっていく。

 

「くっ!」

「ふはははは!丁度いい、お前を見世物に殺してやろう、カムイ‼」

 

イムカ(カムイ)の首元に斧の刃がつき付けられる。

リョウマとマークスが眉を寄せ、

 

「「カムイ‼」」

 

イムカ(カムイ)も、そこを見て叫ぶ。

 

「イムカさん‼」

 

黒騎士アベルは少しだけ笑みを浮かべた。

それはイムカ(カムイ)が、今暗夜王ガロンが掴み上げているのが、カムイではないと言ったからだ。

暗夜王ガロンも動きが止まり、

 

「イムカ、だと?」

「しまった‼」

 

イムカ(カムイ)は口元を抑える。

暗夜王ガロンは目を細めて、

 

「そうか……お前たち……わしを謀ったな。」

「馬鹿者が!」

 

カムイ(イムカ)は眉を寄せる。

暗夜王ガロンは目を細めて、

 

「まぁ、よい。このまま貴様の命を貰う。よいな、アベル。」

「ええ、構いませんよ。だって、それはカムイ(・・・)ですから。」

 

黒騎士アベルは深い笑みを浮かべる。

イムカ(カムイ)はハッとして、

 

「リリス‼」

「はい!」

 

リリスは暗夜王ガロンに思いっきり体当たりした。

彼からカムイ(イムカ)がこぼれ落ち、落下した彼女をリョウマが受け止める。

そして、暗夜王ガロンはよろけたまま玉座に近付くが、座るまでにはいかなかった。

だがそこに、魔術が放たれる。

彼はそれによって、玉座に座る事となる。

 

「申し訳ありません、父上……いや、父上の皮を被った偽物め。」

 

それはレオンだった。

マークスはそれを見て、

 

「よし!これで、何とかなるはずだ‼」

 

暗夜王ガロンは苦しみ出す。

その姿は人の形から異形の者へと変わっていく。

その姿を見た兵達は、武器を落とす。

それは真実を知らない暗夜の兵も、白夜の兵もすべてだ。

 

「おのれぇ……おのれぇええ‼‼」

 

暗夜王ガロンはマークス達の前に飛び降り、暴れ出す。

カムイ(イムカ)も立ち上がり、武器を取る。

 

イムカ(カムイ)は黒騎士アベルと戦闘を行っていた。

こちらが不利なのは、最初から解っていた。

なぜなら彼は……イムカの剣の師でもあるのだから。

イムカ(カムイ)は思いっきり、暗夜王ガロンと戦う彼らの前に吹き飛ばされた。

そして膝を着き、

 

「ぐっ‼」

 

イムカ(カムイ)に暗夜王ガロンの振り下ろされる腕を、マークスが弾く。

 

「大丈夫か、イムカ!」

「……ああ。」

 

立ち上がり、剣を構える。

だが、ふら付いていた。

それを見たハイドラが駆けだした。

 

「あ!ちょっと‼」「え⁉」「待って下さい‼」

 

それを追いかけようとしたラズワルド達だったが、透魔兵によって阻まれる。

イムカ(カムイ)は心臓を抑えて、血を吐き出した。

 

「ゴホッ‼」

「イムカ⁉」「イムカさん⁉」

 

マークスとカムイ(イムカ)が叫ぶ。

 

『……くそ、こんな時に!いや、それよりも……』

 

そう、カムイの姿をしたイムカであるはずの彼女が、イムカの姿をしたはずのカムイの事を『イムカ』と呼んだのだ。

マークスはカムイを見る。

 

「まさか……」

「あ……」

 

カムイはハッとして、口元を抑える。

リョウマは眉を寄せ、

 

「やはりそうだったか!」

 

そしてハイドラは、イムカに駆け寄った。

それで解る。

かれもまた、入れ替わっていなかったことに気付いていたと。

イムカは膝を着き、さらに血を吐き出した。

 

「ゴホっ‼」

「イムカ!」

 

ハイドラは彼女を包み、黒騎士アベルから守ろうとする。

リョウマ達は思い出す。

あの日、サイゾウとラズワルドから聞いた話を。

 

――イムカの血の吐いた光景を見た二人はその後、リョウマとマークス、アクア、ハイドラにこのことを伝えていた。

二人が退席した後、ハイドラが教えてくれた。

 

「彼女はおそらく、禁忌の術を使い過ぎたんだろう。本来、過去や未来を行き来することは禁忌とされている。特に、過去に関しては歴史そのものに関わりを持つことが多い。その為、通行料となる対価も大きい。」

「では、俺たちもそれに近いと言うことですか?」

 

リョウマがハイドラを見る。

だが、リョウマの問いに答えたのはアクアだった。

 

「いいえ、あなた達のとイムカのとは少し違うわ。私もそうなのだけれど、リョウマやマークスのは夢だったでしょう。私もそうなの。最初のアクアの想いが強すぎて、夢となって彼女の記憶を視た。だから、ここでのアクアとしての想いもあるの。多分、リョウマとマークスもそうでしょ。」

「ああ。」

「でも、イムカは違うわ。おそらく、己自身が今のカムイの存在を消すことで過去を渡っていた。」

「今のカムイを消す?」

「そう……最初のアクアは、ハイドラ様の力を借りて、私の父達を対価にして己自身を過去に飛ばした。いわゆる魂そのモノを。けど、それを行うと、それまで生きていたそのアクアの存在を消して、自分が入る事になるの。だから、ズレが生じる。でも、今の私と違って、想いや記憶そのものは自分だから目的意識を高く持てるのは確かね。私からしてみれば、あくまでそれは私じゃないと思えるの。けれど、自分自信がそのままいればそうではないわ。だからあの子はいつだって本気だった。勿論、私も手を抜いたつもりはないわ。けれど、自分の命が惜しいと思ってしまったことは多々ある。」

「それは当然だろう。誰もが思うはずだ。」

 

リョウマは視線を落とすアクアの肩に手を乗せる。

マークスは眉を寄せ、

 

「もしや、私の中あるあのカムイを知るマークスの記憶が正しければ、対価とは……」

「ああ、その通りだ。対価はその者自身の記憶、感情、時に寿命を吸い取る。己自身でなくとも、他者の命でもそれは行われる。だから、禁術なんだ。」

 

ハイドラの口調は重い。

アクアもまた重い口調で、

 

「今の彼女の状況を見れば、おそらくかなり寿命を削っているはずよ。それに、今回は体ごとの転移だから……人としての存在を捨てた。それだけではなく、竜としての寿命もかなり使っているはずよ。そう考えれば、イムカのあれほどの暴走も考えられる。いいえ、違うわね。たとえそれがあったとしても、あの子には多くの呪いが積み重なっている。もう、暴走ギリギリ状態を何とか踏みとどまっている。」

「つまり、イムカの命はまるでロウソクのようだ、と言うことだな。」

「ええ。そして、その影響が今のカムイにもリンクしている。だからカムイは病弱なのよ。でも、龍脈の強いこの地なら、消えかかっているイムカよりも、あの子の方が強い。だからこちらではその影響が出ないのだと思うわ。」

 

リョウマはアクアの肩から手を放し、己の掌を見る。

 

「アイツを何度か抱えたが、とても軽かったんだ……まるで、人とは思えない。それに、アイツは俺が子供だった頃と容姿が変わっていない。」

「……私が知る限り、イムカがここに転移したのが、透魔王国のあの日ならば……あの子自身はあの姿のはずがないの。けれど、あの子はあの姿でここに居る。考えられるとすれば、生きた時間すらも対価にした事。そして、夜刀神の力かもしれないわ。」

「夜刀神の?」

「ええ。ずっと疑問だったの。わざわざ己自身を転移してきたあの子が、賢者様の言っていた『炎の紋章』を完成させ、(想い)を繋げた『ファイアーエンブレム』を創り上げた夜刀神を持たずにここに来ている事が。……それにね、いくら己の存在すらも対価にしたとは言え、同じ存在が二つある。これは大きなずれを起こすわ。世界の崩壊すらも起こりうる。けれど、それは起きていない。だとすれば、夜刀神があの子の存在を保っているとしか思えないの。あの刀は『想いを継ぐ神刀』……もしも、あの子の想いを受けた夜刀神がイムカのもつあの長剣なら……いいえ、あの子の中にあるのなら、カムイの持つ夜刀神に共鳴してもおかしくないと思うの。」

「……つまり、イムカは夜刀神を持ってここに来ていると。なら、何故使わないと思う。」

「イムカの目的はおそらく、透魔王国、白夜王国、暗夜王国に平和をもたらし、世界崩壊を防ぐこと。その為には、透魔王ハイドラを倒さねばならない。けど、それだけは世界崩壊は防げないわ。その奥の闇に居る『カムイ』を討たない限り。もしも、イムカ自信に残された力が少ないのなら、透魔王ハイドラはカムイ達に討って貰った方がいいと考えるはず。でも……」

「アクアは、それだけではないと考えるのだな。」

「ええ。」

「なら、今は彼女を信じて待とう。きっと、真実を教えてくれるはずだ。」

「そうね……」

 

 

――そうして、リョウマ達はイムカの体の心配を優先したのだ。

黒騎士アベルの剣をリョウマが受け止め、

 

「ぐっ!重い‼」

「あの方はともかく、まさか白夜王……いえ、リョウマ王子も彼らが入れ替わっていない事に気付いていたとは。」

 

そこにイムカの剣が振るわれる。

黒騎士アベルは後ろに後退し、剣を構える。

 

「いつから気付いていた、アベル。」

「最初から。」

 

笑顔で言う彼を、イムカは殺気めいたオーラで睨んでいた。

黒騎士アベルはやれやれと言う顔で、

 

「仕草ですよ。いくらあなた達が互いのマネは出来ても、仕草まではマネできなかったようだ。」

「……お前が言うと、洒落にならんな。」

「ふふふ、そうですね。できれば、あなたのカムイ(希望)を壊したかったですね。」

 

二人は同時に地を蹴った。

金属音が鳴り響く。

 

「貴殿たちは暗夜王ガロンを討て!こっちは私が時間を稼ぐ!」

「わかった。」

 

リョウマは暗夜王ガロンと対峙しているカムイとマークスの方へと駆けて行く。

 

――マークスとカムイは肩で息をしていた。

そこにリョウマも加わり、だいぶ楽になった。

 

「おのれぇ……おのれぇええ!お前達を殺し、わしは世界の王となる……なるのだぁああ‼」

「させぬ!この白夜王国は俺が護る!」

「ああ、そうだな。私も同じだ。お前のような者に、暗夜王国の王にはさせん!ましてや、世界の王などと……ふざけるのも大概にするがいい‼」

「私たちが、あなたを止めます‼」

 

カムイとリョウマが、マークスが攻め込む道を作る。

暗夜王ガロンの伸ばす手を弾き、抑え込む。

がら空きになった懐に、マークスが一気に攻め込んで行く。

 

「覚悟しろ……これが、私たちの覚悟だ‼」

 

マークスが剣を振り上げた。

暗夜王ガロンの肩から斬り上げる。

 

「ぐぉおお……‼お……のれぇ……ええ!」

 

ふらつきながら、暗夜王ガロンは後退する。

青い炎に包まれる。

それを見た黒騎士アベルは、

 

「……残念だ。黒き王はここまでか……でも、黒き王は死ぬ運命。ま、これも必然と言うことで。」

 

彼はイムカから距離を開けると、剣をしまう。

 

「さて、これ以上兵を減らすと我らが軍師、ルフレ卿に怒られてしまいます。我らは、ここで撤退とさせて貰いましょう。では、皆さん……再びあちらでお会いできるのを、楽しみにお待ちしております。」

 

黒騎士アベルは頭を一度下げて、黒い炎に包まれて消える。

それと同時に、透魔兵達も黒い炎に包まれて消えた。

マークスとリョウマが戦いの終了を告げる。

兵達は武器を降ろして、歓喜の声が響き渡る。

イムカも剣をしまい、青い炎に包まれている暗夜王ガロンの元へと歩いて行く。

暗夜王ガロンは人の姿へと戻り、燃えていた。

 

「……ああ、長い悪夢が終わった……我が子たちの成長も見れた。これほど喜ばしいことはない。」

「……!まだ、意識が残っていたのか。」

 

イムカが膝を着いて、彼を見る。

マークス達も、それには驚いていた。

辺りに、彼ら以外の兵がいない事を確認し、イムカはフードと仮面を取る。

 

「竜の子よ、そなたは変わらぬな……そなたのあの瞳を見た時から、わしはお前の中の瞳に宿る希望を、わしは暗闇の中より見ていた。もっと早く……そなたのその瞳を見ることが出来れば、わしも変われただろうか。いや、変わらぬな、幾度となく闇に堕ち、子供らを、兵たちを、民たちを、国を貶めたわしにはもう……王たる資格はない。」

「父上……」

 

マークスが膝を着いて燃える彼の手を取る。

暗夜王ガロンはマークスに視線を向け、

 

「マークスよ、お前が暗夜王国を導け。兄弟姉妹(きょうだい)と共に、わしの成し遂げられなかった平和を掴むのだぞ。お前なら、白夜王国と手を取り合えるはずだ。若き頃のわしとスメラギのようにな……」

「はい、父上……‼」

 

マークスは涙を流して、強くその手を握りしめる。

エリーゼが泣きながら父に縋る。

そのエリーゼの頭を暗夜王ガロンは優しくなでる。

カミラもエリーゼの横に立ち、その手を優しく包む。

マークスの隣にレオンが膝を着き、ジッと見つめていた。

 

「……確かに、闇に堕ちたあなたには、王としての資格はなかっただろう。だが、あなたの王としての姿を覚えている者がいる。あなたに憧れ、剣を磨き、王族としての責務を全うする者がいた。あなたは残しているのですよ。迷わず立ち向かう覚悟と優しさを、慈しむ深い愛情を、強い正義の心を、諦めない強い想いと暗闇を照らす光を……あなたは、あなたの大切な子らに受け継がれている。」

「前にも、同じようなことを言っておったな。」

「ええ、あの時と変わらぬと……私は思っているからです。何より、あの玉座の事を知っていて(・・・・・・・・・・・・)策に乗ってくださった。感謝します、優しき王よ。」

 

イムカは立ち上がり、仮面とフードを付けて歩いて行く。

カムイとアクアが暗夜王ガロンを見ているのに気付いた暗夜王ガロンは、

 

「カムイに……アクアか。」

「はい。」「ええ。」

「カムイには辛い思いをさせたな。わしを恨んでおろう、すまぬ。」

「い、いえ……私はそれでも、楽しい事もたくさんありました。だから、私はあなたを恨んではいません。」

「そうか……」

 

暗夜王ガロンは優しい笑顔を作る。

アクアはそれを見て、

 

「母が、あなたを巻き込んでしまった。けれど、あの時あなたの差し伸べてくれた手がなければ、私たちはあの時死んでいた。その事に関しては感謝しているわ。でも……母の託した想いをあなたは受け止められなかった。その事だけは哀しい。でも、その想いは今……あなたの子供達が受け継いでいる。だから……ありがとう。」

「……ああ、すまぬな。わしは弱い。とても弱かった。けれど、大丈夫だ。あの人の想いをきっと、我が子達がそなたらと叶えてくれる。わしも感謝する。闇に飲まれたこの体と心だが……我が子らに見送られて逝く事ができる……」

 

暗夜王ガロンは完全に燃えて消えた。

マークスは握っていた父の手の温もりを思い出す。

 

「父上、私も感謝します。再び、あの頃の父上に会えたことを。どうか見守っていてください。必ず、私たちは成し遂げます。」

 

彼らは強く誓い合う。

マークス達は兵達を暗夜王国へと返した。

悪行三昧をしていた暗夜軍師マクベスやガンズ率いる暗夜王ガロン直属の兵は皆死んだ。

これで、国はある程度安泰するはずだ。

国の事を彼らに任せ、すぐになすべき事をしたら戻ると。

兵達は笑顔で「任せてください」と言って、国に帰っていった。

 

その日の夜。

イムカは桜の木の下でもたれていた。

舞い散る桜を見上げ、ペンダントを握りしめる。

 

『これで、こちらの事は済んだ……後は、向こうだけだ……』

 

そのまま、肩で息をして倒れ込む。

それをハイドラとリリスが見つけて、白夜王城へと急いで戻った。

 

――透魔王国のある部屋にて

 

『……黒き王が死んだ。いえ、元々死人でしたね。ですが、これでハイドラ様の残る駒は一つ減った。あのような見え透いた嘘も見抜けないとは、黒き王も落ちる所まで堕ちたものだ。けれど、彼らはそのおかげであの黒き王に勝てた、とも言えますね。』

 

銀髪の少女は魔導書を閉じ、立ち上がる。

後ろを振り向き、

 

「何の用ですか、白き巫女殿。」

「ルフレ卿、もうお休みになられてはどうですか。随分と長い事、ここにおられるようですし。」

「ご心配には及びません。やりたいことは済ませました。」

 

透魔軍師ルフレは白き巫女の横を通り過ぎる。

扉に手を掛けると、

 

「前々から思っていましたが……白き巫女殿。あなたは、私に誰かを重ねていませんか。ハッキリ言って迷惑ですので、私情を挟まないで頂きたい。」

「ごめんなさい。あなたを不快にさせたのなら、謝るわ。でも、根を詰めすぎるのは良くないと思って……」

「……子ども扱いも止めて頂きたい。」

「ごめんなさい……」

「まぁ、いいでしょう。」

 

透魔軍師ルフレは扉を開け、

 

「……いえ、あなたに一つやってもらいましょうか。あなたの愛しき人に会わせて差し上げます、白き巫女殿。」

 

扉を閉めて、彼女は白き巫女に近付く。

そして小言である事を伝えると、扉を開けて出て行った。

白き巫女は口元を抑え、

 

「ああ………ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

涙を流すのだった。

部屋から出た透魔軍師ルフレは部屋に戻った。

そして立ち眩みを起こす。

 

『……そろそろ限界が近いか……ことを早く進めなくては……』

 

ベッドの上に横になり、彼女はうつ伏せになって眠りについた。

 

 

リョウマとマークスはハイドラの部屋に飛び込んだ。

 

「イムカが倒れたと聞いたが、大丈夫なのか⁉」

 

アクアがクルッと回って、二人を見る。

二人とも息を切らしていた。

 

「……ええ、大分落ち着いたわ。だから安心して。それと、カムイの方も大丈夫よ。今はサクラとエリーゼと一緒にぐっすり眠っているわ。」

 

そう言うと、イムカが眠っている姿を見ると、二人は座る。

マークスが眉を寄せ、

 

「アクア、前々から考えていたのだが……イムカを前線から抜いてはどうだ?」

「……無理よ。きっと、この子は何があっても前線に出るわ。」

「そうなのだが……いや、すまない。アクアはきっと、ずっとそう思っていただろう。」

「分かっていても、どうしようもできない事の方が多いわ。」

 

彼らの気持ちは暗かった。

そこにフローラが入って来た。

 

「失礼します、氷水を用意しました。」

「ありがとう、フローラ。」

「いえ……」

 

そう言って、アクアの横にそれを置く。

そして、眠っているイムカの顔をじっと見ていた。

アクアはフローラを見て、

 

「どうかしたの?」

「いえ……本当に、カムイ様なのだと思っただけです。こうして改めて見ていると、寝ているカムイ様そっくりなので……」

「そうね……昔と変わらない寝顔。とても懐かしいわ。」

「アクア様は、こちらのカムイ様……いえ、イムカ様のことをご存知なのですよね。」

「ええ。」

「なら、ご存知ありませんか……その、以前私に、イムカ様が仰ったんです。踏み外しそうになった時は、カムイを叱ってくれ、そうすれば思い出せる、と……」

「……ごめんなさい。私にはよくわからないわ。」

「そう、ですか……」

「でも、以前彼女が言っていたわ。自分は兄弟姉妹(きょうだい)、臣下、仲間に恵まれていた、と。自分のせいで死なせてしまった大切な者たちも居た。けれど、迷って踏み外しそうになった自分を引き戻してくれた者たちがいる。自分の背中を押してくれた者たちが居る、と。」

「……きっと、イムカ様は数えきれないほどの経験をしていたのでしょうね。そして、きっと……ご自分も、カムイ様の仲間として闘いたかったのでしょうね。」

 

フローラがそう言うと、アクアは少し驚いた顔になり、

 

「どうして、そう思うの?」

「これは私の勘ですが、イムカ様はたちの事は仲間とは思っていない、と言っております。けれど、いつだってこの方は私たちを助けて下さる。私がカムイ様を裏切った時も、そうでしたから。」

「……そう。なら、きっとそうだと思うわ。私も、そう思っているから。」

 

二人は微笑み合う。

フローラは立ち上がり、

 

「では、私はこれで失礼します。何かありましたら、お呼び下さい。」

「ありがとう、フローラ。」

 

フローラは部屋を出て行った。

リョウマとマークスは互いに見合い、

 

「そう言えば、リョウマ王子はカムイ達が入れ替わっていない事に気付いていたのだったな。」

「ああ。こっちのイムカ(カムイ)を貴殿よりかは知っているつもりだ。あの騎士の言う仕草はよく解らなかったが、俺の知っているイムカのカムイとは少し違ったからな。」

「そうか……」

「だが、そのイムカがカムイだった頃の記憶がなければ気づかなかっただろう。最初の頃のアイツは他人行儀だった。俺の事も、『リョウマ王子』と呼んでいたからな。だから、アイツが俺たちの事を兄弟姉妹(きょうだい)だと言ってくれた時は嬉しかったものだ。いつも子供とは思えない静けさを纏い、どこか遠くを見るアイツの姿は今でも思い出せる。いや、残っている。俺たちの輪の中に加わり、本当に子供のようにはしゃぐアイツの姿を、今でも忘れられない。きっと、この記憶の所有者だったリョウマ()が抱いた最初で最後の大切な記憶だ。」

「ああ、きっとそうだろう。私の中にも近いモノがある。城に幽閉されていたあのカムイ(イムカ)の瞳は、今の私の中にある。私は幾度となく、あの子を兄妹(きょうだい)と呼び、接しても、どこか遠いあの子は我々の名すら呼んではくれなかった。けれど、あの子は私たちの名を呼び、本当の兄弟姉妹(きょうだい)のように接してくれるようになった時は本当に嬉しかった。」

 

二人は小さく微笑み合う。

アクアが二人を見て、

 

「そう、あなた達の時もそうだったのね。」

「と言うと、アクアもか。」

「ええ。私の時は、あの子は声を失ったわ。きっと、ショックだったのでしょうね。自分が、『カムイ』になっていたことが……けれど、あの子はそれを受け入れ、力を求めていたわ。私の母からは魔導を教わり、ミコト様からは弓を教わり……アベルからは剣を教わっていた。あの子は日々、自分を殺すように必死になって腕を磨いていたわ。私はそんな彼女の姿が辛かった。姉と呼んでくれる、それは嬉しかった。でも、あの子の瞳に私はもう母としては映らないと解ると、母として何もしてあげられない自分が悔しかった。共に横で戦う為に、私も武器の腕を、歌を磨いた。けれど、いつだってあの子は……一番選択を強いられた。何度あの子の涙を、あの子の苦しみを見たか……なのに、私はやめる選択肢をあげる事ができなかった。あの子の想いに寄り添うと言いながら、結局私は私の為の目的に、あの子を利用してしまった。」

 

アクアは顔を覆って泣く。

ハイドラがアクアの肩に手をやり、

 

「すまない、アクア。全て、私の至らないせいだ。本当にすまない。」

「いいえ、いいえ、違うの……私が最初のカムイを救ってあげられなかったから……だから……」

 

首を振ってアクアは泣き続けた。

 

「それを言うのなら、私もそうです……」

 

アクアの横から少し弱い声がする。

アクアがそこを見ると、イムカが目を覚ましていた。

いや、まるで独り言を話すように呟いている。

 

「……私は父を救いたかった。けれど、結果は兄を死なせ、母だったあなたがカムイ()を討った。白夜と暗夜に手を借りたから、両国にも被害が及んだ。私が巻き込んだ、災厄を持ちこんでしまった……多くの人を犠牲にした。変わる事のない未来……けれど、私は約束の為に絶対にその未来を変える。」

 

イムカは手を伸ばす。

その瞳が少し揺れ、

 

「私はただ――」

 

伸ばした手が落ちる。

アクアは慌てて、イムカを見る。

 

「イムカ⁉」

 

彼女は小さく寝息を立てて寝ていた。

アクアはホッとして、胸を下ろす。

 

「リョウマ、マークス。あなた達が今回、記憶を持っているのにはきっと理由があるはずなの。私も時もそう。アクア()は、この子を見守ると約束した。共に戦うと決めた。そのアクア()の想いを無駄にはしない。この子の苦しみを、悲しみを共に共有する事ができる。支えになってあげられる。そう思って、これからも二人の側に居たい。」

「アクア……ああ、俺もそう思う。俺とマークス王子が共に持つ記憶の中で、共感する事がある。そして、知っているのだ。共に未来を歩んでいけると。それを教えてくれたあの子の為にも、俺たちは供に闘うのだ。」

「その私達に欠けている記憶がある。それがあちらでの記憶だ。きっと私たちの記憶があるのは、あそこでの記憶が何か理由となっているはずだ。だが、それが今はわからない。それさえわかれば、きっと真実が見えてくる。そう私たちは思っている。だからこそ、共に戦うのだ。」

「共に頑張りましょう、みんなで。」

「「ああ。」」

 

リョウマとマークスは頷き合う。

ハイドラは彼らを見て微笑んだ。

 

『彼らの子供たちは立派に育っている。ああ、君がこの子たちを護った想いが解る。君が愛した子供たちはとても輝いている。きっと、この子たちは成し遂げてくれるだろう……きっと……』

 

リョウマとマークスは部屋に戻っていった。

ハイドラはアクアを見て、

 

「アクア、キミも休むといい。ここは私がみているから。」

「いいえ、手伝わせてください。」

 

二人はイムカの看病を続けた。

翌朝、イムカは体が何やら重い事に気付いていた。

顔を少し上げてみると、アクアとハイドラが自分の布団に顔を乗せて寝ていた。

額に乗っていた手拭いが落ちてきたのを見て、なんとなく状況を掴んだ。

姿勢を戻して、

 

「はぁ……」

 

と、しばらくこのままでいた。

 

イムカたちはカムイ達と合流した。

 

「さて、向こうに戻るぞ。」

「それは構わんが……もう大丈夫なのか?」

「こちら側に居るよりかは平気になる。」

「本当か?」

「……時間が惜しい、行くぞ。」

 

イムカはドンドン歩いて行った。

リョウマは城の事を軍師ユキムラ達に任せて、カムイ達も無限渓谷に向かって歩き出す。

魔法陣の所まで来ると、

 

「いいか、あっちに戻ったら事をなすまでこちらには帰れない。」

「もちろん、そのつもりです!」

 

カムイがぐっと腕を上げる。

イムカは魔法陣の上に乗り、

 

「では、戻るぞ。」

「はい‼」

 

カムイ達は光に包まれた。

この先に起きるさらなる戦いを知らずに。

いや、知らなくても彼らは乗り越える。

彼らを迎える真実と想い。

そう、彼らは一人ではない。

大切な仲間達がいる。

支え合える仲間がいる。

それさえ忘れなければ、進んで行ける。

そう信じて……

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