自分は想う。
かつて自分がしたことを。
いつから自分は
かつては彼らを愛し、共に共存した。
獣の衝動にかられ始め、自分は関わりを断った。
それがいけなかったのだろうか。
いや、そんなことはない。
あれは正しかったと思っている。
けれど、ついに自分は理性を一度失い。
近くの森を破壊してしまった。
理性を取り戻した時、自分は囲まれていた。
自分を恐れ、憎む人々。
自分は襲い掛かる彼らに手を掛ける事はしなかった。
自分は瀕死の状態で、深く森にたどり着く。
痛みより、想いの方が強かった。
哀しかった。
辛かった。
信じていた彼らに対し、裏切る行為をした自分に。
裏切られた行為をした
次第にそれは憎しみへと変わる。
どれくらいこの憎しみと共に、この森に身を置いていただろう。
自分の中の獣の衝動は加速を続ける。
時折、王族が許しと説得をしに来る。
けれど、自分は耳を傾けなかった。
どれくらいと気が流れただろう。
時代が変わり、自分はある王たちにあった。
透魔王だけでなく、白き国の王、黒き国の王。
彼らは耳を傾けない自分に、何度も語りかけた。
次第に、彼らの未来についての話も。
自分はそれに耳を傾けている事に気付いた。
それから、巫女と歌姫も来るようになった。
自分の周りが次第に暖かく、楽しくなる。
自分は透魔王リュウレイと話すようになった。
彼と離す時間はとても尊かった。
かつて自分が抱いていた信じた心。
彼らヒトを愛した想い。
いつしか彼は自分の友と言う存在になっていた。
なのに自分は獣の衝動にかられ、彼を………
彼を手にかけ、殺してしまった。
苦しい想いにかられる。
想いに潰されそうだった。
せっかく取り戻した想いを、できた友を失った。
いや、まだだ。
まだ自分にはできる事がある。
彼が、彼らが残してくれたこの想いを自分は………
自分が誰かもわからず、それからさ迷った。
さ迷って、さ迷って、彼女に出会った。
彼女はそんな自分を受け入れてくれた。
いつしか自分は、彼女と愛し合うようになった。
ーー自分は、この恨みを晴らそう。
ヒトを、世界を壊す。
自分を裏切ったヒトを、世界を。
自分は彼女との間に子を成した。
そして自分は思い出したのだ。
自分が何者で、何をしたのか。
自分はその事を彼女に告げた。
彼女は最初から自分の正体に気付いていたと言う。
知っていて、彼女は受け入れてくれたのだ。
そして、気付いた今も。
彼女はこれから、自分のしたことを償っていけばいいと。
彼女はそれを共に支え、歩むと言ってくれた。
ーー自分は破壊する。
全てを。
その為には、まずはこの透魔王国が必要だ。
全てを排除する必要がある。
自分は生まれた我が子を抱きしめる。
暖かい。
とても儚い。
けれど、とても強い何かを持っている。
自分が何者か思い出した自分は、予知能力が戻った。
そこで見た。
この透魔王国が崩壊する。
そこに君臨するのは、暴竜とかした自分の片割れ。
いや、自分はあれよりも劣る。
そう、自分は本体の欠片だ。
けれど、やる事は決まっている。
彼女と子供を助ける。
ーー欠片を見つけた。
今となってはどうでもいい欠片。
けれど、何かをされる前に手を打っておく必要がある。
だが、まずはこの国を手に入れる。
彼女と子を白夜王国へ。
そして、彼女から聞いた。
彼の妻と子が生きている事を。
彼らを救う。
彼の残した大切なヒト達を。
会った彼らは泣いていた。
自分は恨まれる覚悟はしていた。
けれど、二人は自分がこうして心を取り戻した事を。
こうして助けに来たことを喜んでくれた。
自分は彼らに説明し、彼女と同じ白夜王国へと送ろうとした。
けれど、彼はそれを断った。
彼女の実力は知っている。
だが、赤子を守りながらなら、違う方がいい。
その方が追手を撒けるはずだと。
彼らを暗夜王国へと送る。
その後、自分は崩壊した透魔王国を逃げ隠れしていた。
ーー透魔王国は手に入れた。
黒き王も闇に堕ちた。
後は、自分が動くために必要な一時的な器を手に入れるだけ。
黒き王を通して見つけた。
黒き老騎士。
彼の持つ、憎悪は最適だった。
自分はこのままでいけないと思っていた。
自分のできる限りの事をする。
そして自分は、あの自分を止めてくれる「希望」を、我が子を助けとなる者を捜した。
そして見つけたのが、
その三人をこの世界に呼んだ。
彼らに頼んだのだ。
この世界を……透魔王国、白夜王国、暗夜王国を救ってもらうために。
だがこれは、災厄の場合死に至る。
それでも彼らは怪しい自分を信じてくれた。
彼らに報酬を先払いすると言った。
彼らの答えには驚いた。
自分が見られるかどうかもわからない大地の再生、死んで逝った者たちの墓。
自分は彼らで良かったと思った。
だからこそ、彼らの願う報酬に、再生と祝福を授けた。
そして、彼らに水晶を渡す。
彼らが「本当の故郷」に帰る事を望んだ時、それが叶うように。
彼らを連れ、透魔王国に戻った。
彼らがこの世界で力を使えるように、新たな姿と名を授けた。
この透魔王国の事を、この先あの暴竜が何をなそうとしているのか伝える。
最初は我が子を護ってもらうつもりだった。
本体がもしも力を欲しているのなら、あの子の持つ力、器としての能力も強い。
だからこそ、この三人に護って貰おうと思ったのだ。
だが、まさか暗夜王国に連れ去られたいたとは……
そして自分を追って来たのは本体が生み出した子。
追手を振り払い、彼らを暗夜王国へと送る。
ーー自分の欠片が異世界の住人の力を借りる事を知った。
おそらく、自分を討たせるため。
我が子を守るために。
だが、その願いは叶わない。
自分もまた、自分の目的を果たすために子を創った。
我が道具を、欠片に向かわせる。
自分はここで終わるのだろうか。
いや、まだ終わらない。
逃げて逃げていた。
自分を追って来た本体の子。
彼女は泣いていた。
彼女は自分にとって、子と同じ。
いや、あの子と同じ我が子だ。
なら、この子も守らねばならない。
彼女を襲う敵の攻撃を、自分は庇う。
我が子を護って死ねるのなら、それは本望だろう。
「希望」となる彼らを送り出した。
きっと平和な世界を取り戻せるだろう。
だが、心の残りはもう一人の我が子。
あの子にももう一度、もう一度だけ会いたかった……
ーー欠片が死んだ。
確かに、あの時死んだはずだった。
なのに、気配が消えない。
欠片の力が手に入らない。
何かが起きている。
自分は死んだと思った。
だが、自分は生きていた。
自分を助けたのは少女だった。
フードを深くかぶり、仮面をつけた少女。
だが、彼女の仮面から覗く赤い瞳には見覚えがある。
そして、彼女が
だから自分は気付いてたのだ。
この
ーーある日、我が元に一人の少女がやって来た。
銀の髪に、金の瞳を持った少女。
少女は自分に言う。
『自分の目的の為に、あなたを利用させてほしい』と。
少女の力、戦略としての才能は申し分ない。
それは、自分の目的にも適している。
ならば、断る理由もない。
利用し、利用し合うだけだ。
何よりも、彼女の姿は……
自分は待つ。
「希望」が実るその時まで……
自分の願いが叶うその時まで……
ーーイムカは目を覚ます。
今の自分に解る事を詮索する。
辺りは薄暗い。
なおかつ、自分は両手両足を縛られている。
武器も取られている。
おそらく仮面は着けられたままだろうが、至る所に隠している武器は取られていた。
イムカは瞳を閉じる。
そして、自分の身に起きた事を思い起こして、整理する。
『……なら、このまま事を成そう。問題は、あいつがどう動くか。そして、軍師としてどこまでやれるか、だな。』
瞳を開くと、ジッと辺りを見る。
イムカはこの暗闇に目を慣らすために大人しくしていたのだった。
カムイ達は透魔王城を目指して進んでいた。
だが、行く先々に敵が待ち構えている。
全てを相手にするのは得策ではないと解っている。
しかし、最短距離を行くのであれば、今進んでいる道は外せないと言う。
だからこそ、カムイ達はこの道を突き進んでいた。
アクアが敵が引いたのを見て、
「カムイ、少し休憩しましょう。」
「でも、アクアさん!」
「いい、カムイ。気だけが焦ってもダメ。きっと、イムカもそう言うはずよ。それに、疲れ切った状態で敵の本陣に入るのは自殺行為よ。」
そこに、武器をしまったリョウマとマークスが歩いて来る。
「そうだ、カムイ。気ばかり焦っていては勝てる戦も勝てなくなる。」
「大丈夫だ、カムイ。我々が付いている。それにイムカも、戦えの心得がある。」
「リョウマ兄さん、マークス兄さん……分かりました。休憩にしましょう。」
カムイは武器をしまって、頷く。
しばらく休息を取る事となったが、カムイは以前と落ち着きがなかった。
無論、それぞれ思うところはあるだろう。
だが、カムイには胸のどこかに違和感を……いや、不安を抱えていた。
何か嫌なことが起きる。
そういう感じのモノだ。
だからかもしれない。
冷静にならなければならないのに、焦ってしまうのは……
と、子供の声が響いてきた。
「助けて下さい!誰か……誰か‼」
カムイ達は武器を取って、その声の方へと走って行く。
すると、一人の少年が透魔兵達に追われていた。
「子供が追われています!みんな、助けに行きますよ!」
「いいのね、カムイ。透魔王国の民は……」
「それでも、私は……いえ、私達はそれでも、助けないといけないと思うんです。例え、死んでいようが関係ありません。私は、助けを求めるその声を聞いたから助けるんです!」
「カムイ……」
アクアは瞳を揺らす。
と、少年がこちらに気付き、
「あ、あの!そこの方たち!お願いです、助けてください‼」
「分かっています!」
カムイが駆けて行き、少年の前に出る。
アクア達も武器を構えて横に立つ。
戦闘自体は大して時間はかからなかった。
カムイ達は数分で敵を殲滅させた。
カムイは武器をしまい、
「もう大丈夫ですよ。」
「ありがとうございます!おかげで助かりました。僕はロンタオ。透魔王のお世話をしていた小姓です。」
「何ですって⁉透魔王の⁈」
「あなた……透魔王ハイドラの……小姓だったの?」
カムイとアクアが互いに少年を見る。
少年は服の裾を握りしめ、
「はい。今、この国にわずかに残った人々は……外に出る事さえ許されず、奴隷のような暮らしをしています。僕は透魔王の傍に仕えていたのですが、あの王は普通ではありません。恐ろしい悪魔のような存在です。その理不尽で横暴なやり方に嫌気がさして……やっとの思いで、脱走してきたのです。」
「そう……それで追われていたのね。じゃあ、あなたは透魔王や軍師ルフレ、他の将たちがどこにいるかしっているのかしら?」
アクアは少年と同じ視線となって聞く。
「勿論です!透魔王の部屋は知っています。ずっとそこに居たんですから。でも、他の将たちがどこにいるかは知りません。」
「やったぁ!じゃあ、先に透魔王をとっちめちゃえば、イムカお姉ちゃんも助けやすいかも!」
エリーゼが手を合わせる。
だが、リョウマとマークスは互いに視線だけを合わせ、目で語り合っていた。
少年は顔を上げ、
「え?も、もしかして、あなた達は……透魔王のところに?」
「はい。私たちは、透魔王を倒すためにやって来たのです。お願いです、ロンタオさん。私たちを、透魔王の居る所に案内してくれませんか。」
「た、倒すだなんて……そんなことができるとは思えません。それに、せっかく逃げてきたのに……」
「すみません。ですが、私たちは本気なんです。彼を倒し、連れ去られた仲間を、世界を救わなくてはいけません。だからお願いです。私達に力を貸してくれませんか。」
カムイは真剣な眼差しで彼を見つめる。
彼は視線を外し、
「…………はい、分かりました。協力します。」
だが、彼はバッと顔を上げると、
「いえ、協力させて下さい。僕はもう、逃げ続けるのは嫌です。透魔王がいるのはロウラン……難攻不落の奇岩城、ロウランの最上階です。」
「ありがとうございます、ロンタオさん。皆さん、準備が整い次第、出発します。」
各自、準備にかかった。
ハイドラはリョウマとマークスを呼ぶ。
そこにはリリスも側に居た。
「どうしました、ハイドラ殿。」
「……彼には注意した方がいい。本体の私が、恨みを、そして滅ぼそうとしているヒトを近付けるはずがない。」
「私も、そう思います。実際、私も本体であるお父様に会ったのは数回。それ以外の時は、決まって私以外の者を呼んでいましたから。」
と、ハイドラとリリスは眉を寄せている。
マークスはリョウマと目を合わせ、
「やはりそうですか。実は、私は……いや、おそらくリョウマ王子もあの少年の事を知っている気がするのです。この透魔王国での我らの記憶がはっきり覚えていれば、この理由も解るのだが……」
「我らの記憶は未だに、靄がかかっいる。何故、そうなのかはまだ分からない。だが、きっと理由があるはずなのだ。」
「……そうか。なら、警戒は怠らないようにしよう。例え罠だとしても、敵城に攻め入れるチャンスだからね。」
「ええ。」
彼らは互いに頷き合い、準備を始める。
ーー同時刻。
「………ついに来るか、カムイ。そしてあ奴らが。」
「………。」
「大丈夫だ。我々は、この時の為にいるのだ。」
「ええ……」
その声の主達はその長い廊下を歩き続ける。
また別の部屋。
ある部屋にて、
「ふふ、やっとですね。さて、皆さん。カムイ達を招き入れる準備を。」
透魔軍師ルフレはそれだけ言うと、部屋から出て行った。
部屋に残っていた女魔導士は、白い騎士を見る。
「アクアと言う娘……あなたとお知り合いで?」
「……はい。かつての我が主の大切な宝です。」
「それで闘えるのかしら?」
「闘えます。私は、信じていますので。」
「何を信じているのかしら?」
「それは教えられません。少なくとも、今の貴女様には……」
そう言って、彼女にお辞儀をして部屋を出て行った。
女魔導士は窓に映る自分を見て、
「……あの娘を消さなければ……でないと……」
その顔は次第に同じ髪の少女に変わる。
それを払うように、窓から離れて部屋を出て行った。
また別の部屋。
それはかつて懐かしい時間を過ごした思い出の場。
そこに黒い騎士が立っていた。
「もうじき、もうじきだ……」
己の剣を触り、彼はその部屋を出て行った。
事前にアクアやイムカから聞いていた道と少年ロンタオの案内された道は一緒だった。
そこは断崖が続いている。
少年ロンタオはそこをジッと見て、
「ロウランに行くためには、この断崖を進まないとなりません。」
「ええぇ―⁉だって、ここいつも以上に岩が浮いているよ⁉」
「あら、本当ね。ここからは、岩にかかった橋を渡って行くのかしら。」
と、エリーゼとカミラが辺りを見渡す。
サクラが不安そうにタクミの服の裾を掴み、
「えっと……どの橋もかなり古そうに見えますけど……その、いきなり崩れたりする……なんてことは……」
「いえ、そんなことはないと思います……多分。」
少年ロンタオは眉を寄せて、肩を屈める。
ヒノカが苦い顔をして、
「今、多分と言ったな。しかも橋の向こう岸には、魔物どもが徘徊しているようだが……」
「でも、仕方ないよ。ここしか道がないなら進むだけだ。」
タクミが脅えるサクラの手を取って言う。
少年ロンタオは橋に向かっていき、
「あの……それでしたら僕が先導します!皆さんを危険な目には遭わせられません!」
「えっ⁉お、おい⁉そんなに走ったら危ないぞ!」
タクミが叫ぶが、少年ロンタオは橋を駆けて行く。
そして渡り切った彼は手を振って、
「みなさん、大丈夫です!渡って来てください!」
「へぇ、確かに見た目より大丈夫みたいだね。僕たちも行こう。」
レオンがそう言うと、皆橋を渡り始めた。
リョウマとマークスはヒノカとカミラに耳打ちする。
「ヒノカ。」「カミラ。」
二人は耳だけを傾ける。
そして小さく頷くと、天馬と飛竜に乗って飛ぶ。
そして最後のタクミとレオンが橋を渡る。
だが、その橋が突如崩れ始めた。
「うわっ⁉」「なっ⁉」
「タクミさん!レオンさん!」
カムイが目を見張る。
咄嗟に近くに居たクリムゾンがレオンの乗る馬の手綱を引く。
しかし、レオンは馬から放り出される。
二人の体が宙に浮く。
だが、その二人の体を抱きしめた者がいる。
「ヒノカ姉さん!」「カミラ姉さん!」
二人はヒノカとカミラの手によって助けられた。
地面に着地すると、二人は地面に座り込んだ。
少年ロンタオはオドオドして、
「よ、よかった。危ないところでしたね。」
「ロンタオ。お前に聞きたい事がある。」
マークスがジッと少年ロンタオを見据える。
だが、アクアが辺りを見て、
「待って、敵よ。魔物が攻めてきたわ。」
そう言って、一度マークスを見る。
その目には、何か考えがあるようだった。
アクアはカムイを見て、
「カムイ、戦闘準備を。」
「はい!皆さん、行きますよ!」
カムイは武器を取る。
魔物を掃討しながら、リョウマが叫ぶ。
「アクア!このまま、駆け抜けるのはどうだ!」
「ええ!その方が良さそうね。」
アクアは歌を歌い出す。
敵の動きが鈍った所を一気に駆け抜ける。
断崖を終え、森を抜ける。
そして森を抜けると、空に浮かぶ大地の上に城がそびえ立つ。
少年ロンタオはホッとしたように、
「一時はどうなることかと思いましたが、なんとか到着しましたね。これが透魔王国の王城にして、難攻不落の奇岩城、ロウランです。」
「あの、ロンタオさん。どうすれば城に侵入できるのですか?」
カムイが城を見上げながら言う。
少年ロンタオはカムイ達を見て、
「はい。勿論、城門には鍵がかかっています。ですから、正門からは入れません。」
「そんな!」
「でも、大丈夫!城には僕が逃げてきた裏口があります。そこに皆さんを案内します。」
「本当ですか!」
「はい!」
と、カムイは少年ロンタオと頷き合う。
アクアがそっとマークスに耳打ちする。
マークスは頷き、少年ロンタオに歩み寄る。
そして剣を抜き、
「そうはさせん。二度と同じような罠にはかからんぞ。」
「マークス兄さん!一体、何を⁉」
カムイがとっさに、少年ロンタオの前に出る。
マークスはカムイの後ろの少年ロンタオを見据え、
「おい、ロンタオ。橋を落としたのは貴様だな。」
「え⁈待って下さい!どうして僕がそんなことを⁉」
「大方、透魔王の内通者だろう。お前はここで……斬る!」
「ひっ!ひぃいい!」
と、カムイにしがみ付く。
カムイは彼をギュッと抱きしめ、
「止めてください、マークス兄さん!」
「カムイ、止めるな。」
「考えてください、兄さん。あの橋の事だけで、ロンタオさんを内通者と決めつけるのはあまりにも……それに、あの軍師のルフレさんがこんなわかりやすい罠を出してきますでしょうか。」
「でもね、カムイ。それを抜きにしても、その子は怪しいわ。」
カミラも、頬に手を当ててマークスの横に立つ。
けれどその瞳は、戦いを知る者の目だ。
「カムイ。誰でも信じようとするあなたの心は、とても良い事だわ。けどね、ここは敵地。そしてタイミングが良すぎるのよ。彼が私達の前に現れるのも、そして橋が崩れ、魔物が現れるのもね。」
「ですが、カミラ姉さん……」
「カムイ姉さん、悪いけど……カミラ姉さんの言う通りだよ。多分、この中で彼を信じているのはカムイ姉さんだけ。皆、彼を疑っている。」
「そんな……」
レオンも、カムイをじっと見る。
その目は本気だ。
だからこそ、カムイは肩を落とす。
マークスはため息をつき、剣をしまう。
そしてカムイの頭を撫で、
「相変わらず甘い。その甘さはいつか、お前の命取りになりかねん。だが、その人を信じる甘さが、お前をリーダーとし、こうやって仲間を集めたのも事実。」
「……え?リーダー?私が?」
「そうだ。この軍のリーダーは、私でも、リョウマ王子でもない。お前だ、カムイ。暗夜王国と白夜王国がこうして手を取り合って、共闘という奇跡を創り出したのはお前なのだから。」
「……私はてっきり、兄さん達やイムカさんだと思っていました。」
「イムカはおそらく、『自分はあくまで協力者だ』と言うだろうな。だが、イムカの立てる策戦が優れている事は認めよう。だが、イムカはいつだってお前に指示は任せていた。それは、お前がリーダーだからだ。」
「…………」
「カムイ。この際だから言っておく。もっと周りを見るんだ。それが、リーダーとしての務めだ。己の弱点を、敵に突かれないようにする為にも。そして仲間を束ねる為にも。だから、用心は怠るな。」
「はい……分かりました、マークス兄さん。」
その場の空気が張り詰める。
カムイ達は一時、休息を取ることとした。
各々、警戒はしつつも、今後のことについて話し合う。
カムイは少し席を外す。
近くの石壁に腰を下ろし、
「……私がリーダーだったなんて。でも、それとこれとは別です。けど、イムカさんが囚われている今、私も皆も焦っているのでしょうね。」
と、カムイは考え込む。
そこに、少年ロンタオが歩いて来る。
「あ、あの、カムイ様……少しいいですか?」
「ロンタオさん。どうしたんですか?」
カムイは立ち上がり、膝を着いて彼に視線を合わせる。
少年ロンタオは胸に手を当て、
「カムイ様。僕は橋の件で疑われています。城の裏口に案内すると言っても、誰も信じません。それに、誰もついて来てはくれないでしょう。だから、僕は一人で裏口から戻って、城門を開けに行って来ます。そうすれば、皆さんは正門から攻める事ができる。」
「そんな⁉城には、透魔兵たちも待ち構えているはずです!そんな所に、一人で行ったら……」
「危険なのは承知の上です。僕はみなさんの仲間になりたいんです。その為には信頼を自分の手で勝ち取らないと……でも、もし僕が透魔兵に殺られて戻らなかったら、その時は……」
「大丈夫ですよ、ロンタオさん。あなたを一人では行かせません!私も一緒に行きます。」
「え?」
「だから一緒に、城門を開けに行きましょう。」
「カムイ様……いいんですか?」
「もちろんです。武器の準備をしてきます。少し待っていてください。」
カムイは駆けて行き、準備を整える。
そして、少年ロンタオをと共に出発する。
こそこそと
長い塀外を駆け抜ける。
だが、一向に裏口が見えてこない。
なおかつ、透魔兵の姿も見えない。
カムイは立ち止まり、辺りを警戒しながら、
「ロンタオさん。もしかして、道を間違えていませんか?」
「大丈夫です。透魔兵に見つからずに裏口に行くには、ここを通るしかないんです。」
「そうですか。分かりました。では、急ぎましょう。」
「ありがとうございます、カムイ様……僕の事を信じてくれて。僕、とても嬉しいです。」
「ふふ。私は兄さん達と違って、人を信じる事くらいが、取り得ですから。」
「いえ、そんなことはありません。カムイ様は立派なリーダーです。だから、本当に……」
少年ロンタオは俯く。
カムイは彼を見て、
「ロンタオさん?」
「だから本当に残念です。」
少年ロンタオは顔を上げる。
カムイから離れ、
「こんなところで、死んでしまうなんて……」
「え?ロンタオさん?」
少年ロンタオは指笛を吹く。
すると、透魔兵たちが続々と姿を現す。
カムイは眉を寄せて、剣の柄を握る。
「っ‼」
「くくっ……はははっ!ははははははっ!」
少年ロンタオは腹を抱えて笑い出す。
そしてカムイを見ると、
「信じてくれてありがとう!おかげで、お前だけをここに連れて来られた。」
「……ロンタオさん。私を騙したんですか?」
「ああ、そうだ!僕の使命はお前を誘き出すことだからね!君がお人よしのリーダーで良かった!これで、僕は自由になれる!本当に、アンタのおかげだ!」
「…………ロンタオさん。それが、あなたの目的だったのですね。ですが、私には私のやるべきことがあります。そして、私も謝ります。私はあなたを信じていた。けれど、仲間の言うことも信じているんです。だから、置手紙を置いてきました。」
「何⁉手紙、だと⁈」
「ええ。私が戻らなかったら、私抜きでここに囚われている仲間を救うこと。そして、この難攻不落の奇岩城を攻略して欲しいと。彼女なら、私と合流する策戦も考えてくれるでしょう。これは、ある意味賭けです。ですが、彼女には、彼女の目的ある。それには、『カムイ』が必要だと言っていた。私はそれに賭けます。」
そう言って、武器を彼らに向ける。
「少しでも多く、敵を減らさせてもらいます。」
「……どんなに足掻いたって無駄だ!」
「いいえ!諦めなければなんとかなります!」
そう言って、敵に斬り込む。
どれくらいの敵を斬っただろうか。
肩で息をしながら、それでもなお諦めずに闘っていた。
「なんで……なんで、そんなに頑張れるんだ!」
「信じているからです、仲間を!」
少年ロンタオは眉を寄せる。
そこに、カムイの背後から斧が振り下ろされる。
反応に遅れたカムイ。
だが、そこに矢と魔術が飛んできた。
「‼」
「カムイ姉さん、無事⁉」
レオンが馬で駆けて来る。
その馬にもう一人乗っていた。
タクミだった。
「レオンさん!タクミさん!」
タクミが降りると、カムイの横に立ち、
「全く。置手紙を置くくらいなら、最初から言っておいてよ。兄さんたちが警戒していてくれなかったら、本当に手遅れになるところだった!」
「本当だよ。カムイ姉さんはいつも心配ばかりさせるんだから。だから言ったろ。アイツは怪しいって。」
レオンもカムイの横に並ぶ。
カムイは二人を交互に見て、
「どうしてこちらに?イムカさんを助けられたんですか?」
「いや、二手に分かれたんだ。姉さんを救う組と、イムカ姉さん、いや、やっぱイムカ。イムカを救う組と。」
タクミは矢を放つ。
そして彼らの後ろから続々と仲間がやって来る。
「レオン、焦りは禁物だと言ったはずだ。」
「マークス兄さん、ごめん。でも……」
「分かっている。」
マークスが馬を落ち着かせて言う。
そして剣を構えると、横に並ぶギュンターを見る。
「ギュンター、行けるな。」
「はっ!マークス様!」
二人は突っ込んで行く。
ヒノカの天馬から降りたサクラが駆け寄り、
「カムイ姉様、手当を。」
「はい。ありがとうございます、サクラさん。」
「僭越ながら、私もお手伝いいたします。」
ジョーカーも駆け寄り、サクラと共に治癒術をかける。
仲間達が、敵をどんどん倒していく。
治療が終わったカムイは、少年ロンタオを見る。
「ロンタオさん。これが、信じる……そして、信じあった仲間との絆です。私が思っていた以上に、私の仲間は凄いんです。」
「……なんで……なんでだよ!わからない!何で、何で――」
だが、少年ロンタオは心臓を抑え、
「え⁉ハイドラ様……どうして⁉……まだ僕は……僕は失敗したわけじゃ……いやだ!いやだ、いやだ、嫌だぁ――‼」
彼は苦しむと、その姿が変貌する。
その姿は、『ノスフェラトゥ』へと変わる。
「ガァァァアアア‼」
「なっ⁉ロンタオさん⁉」
振り下ろされる攻撃を、同じく後衛部隊として駆け付けたハイドラがカムイの手を引く。
そして、カミラが魔術で攻撃した。
「お父様!あれは一体⁉」
「……透魔王の力だろう。」
「まさかノスフェラトゥの正体が……透魔王国の民だったなんて……」
カムイは強く剣の柄を握る。
アクアがカムイの横に立ち、
「カムイ、気持ちは分かるわ。けど、感傷は後。今は闘いに集中して。あなたも知っているはずよ。ノスフェラトゥの暴走さを。」
「はい……」
カムイは剣を構える。
ヒノカが空に飛び、
「気を付けるんだ!敵の増援がきた!」
カムイ達も遠目だが、微かにノスフェラトゥがたくさん来るのが見える。
なおかつ、近くには新たに透魔兵たちが現れる。
カムイ達は戦闘を続行した。
カムイは少年ロンタオだったノスフェラトゥと戦っていた。
「ロンタオさん、すみません。せめて、あなたが安らかに……そして自由になれるように私はあなたを討ちます。だから、ロンタオさんも本気で来てください。」
カムイは彼の拳を受け流し、剣を振るい続ける。
どれくらい、攻防を繰り返したか。
それでもカムイはその手を休めなかった。
そして、カムイは最大の一撃を彼に振り下ろす。
避けようと思えば、彼には避けれただろう。
だが、彼はまるで意思があるかのように、黙ってそれを受けたのだ。
彼は仰向けに倒れ込み、青い炎に包まれて消えた。
仲間達も、敵を倒し終わった。
カムイは剣をしまいながら、
「でも、本当に驚きました。まさか二手に別れてやってくるなんて。」
「当然だ。カムイ、お前はこの軍のリーダーだ。そんなお前を失うわけにはいかない。そして、イムカも大佐な仲間。だからハイドラ殿の意見に皆が賛同した。」
マークスも剣をしまい、カムイを見る。
カムイはハイドラを見る。
「お父様の?」
「ああ。カムイ、君の仲間はとても強い。実力も、絆も。だから城の中がわかるリリスを先導に、イムカとも付き合いが長いリョウマ王子をリーダーとしてイムカの救出を頼んだ。そしてこちらは、マークス王子をリーダーに足の速い部隊にカムイを助けに行ってもらったんだ。そしてマークス王子の意向で、私を守るためにカミラ王女をリーダーとしてきたと言う訳だ。」
「ありがとうございます、皆さん。そしてすみません。私の独断先行で……でも、本当に嬉しいです。」
カムイは頭を二度下げる。
マークスはフッと笑うと、
「さて、カムイ。これからどう動く?リョウマ王子達と合流するか?」
「……いいえ、こちらはこちらで動きましょう。イムカさんや、リョウマ兄さん達と合流するのは最上階近くです。多分、リョウマ兄さんと合流したイムカさんも同じことを考える気がします。」
「そうだな。ではそうしよう。」
カムイはグッと手を握ぎりしめる。
そして城壁を見て、
「さぁ、行きますよ!
「案内するわ。付いてきて。」
アクアを先導に、彼らは城内へと急ぐ。