ファイアーエムブレムifでやってみた   作:609

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第二十三話 VS女魔導士

自分達がこの世界に来てから随分と経つ。

 

自分の元いた故郷の亡き母。

母は踊り子だった。

母の踊りは今でも覚えている。

もう会えることのできない母。

けれど、こうして残っているモノはある。

なにより、母は自分の目標だ。

だから今はそれでいい。

 

自分の元いた故郷の亡き母。

私は、母が苦手だ。

母親(あの人)は天才だった。

自分は、いつも母親と自分を見比べていた。

母親に感じる劣等感。

今となっては、もう記憶に残る母親と競うことしかできない。

いや、死しても自分は、母親と自分を見比べているのだ。

でも、母親(あの人)の事は嫌いではないのだろう。

 

自分の元いた故郷の亡き母。

自分は、英雄クロムの妹リズの息子。

母の事は大切に思っていた。

尊敬していた。

だからこそ、自分は選んだ道を後悔はしていない。

だって自分は、リズ()の息子なのだから。

 

そして自分達は、この透魔王国の加護竜だったハイドラ様に呼ばれてやって来た。

と言っても、彼は欠片だと言った。

最初会った時は、とても怪しい人だった。

けれど、彼の纏っている雰囲気は誰かに似ていた。

でも、あの人(・・・)とは違う気がした。

だからと言う訳ではない。

でも、今は彼を信じてこの世界に来てよかった。

見れるかどうかは解らない。

けれど、土地の再生。

そして、大切なあの人たちの墓。

この選択に悔いはない。

 

自分達はハイドラ様の力によって、新たな姿、名を手にした。

自分達は、彼の娘がいる暗夜王国へ送り込まれる。

彼の娘と世界を守るために。

そこで、自分達は出会ったのだ。

大切な主に。

だから自分達は、あの人の臣下となった。

同僚と共にあの人()を守る。

とても大切な主と仲間。

失いたくないもう一つの居場所。

そう、失いたくないもう一つの居場所。

けれど、自分達は選ばなければならない。

運命が決まるその時までに……

 

そして自分達は、また透魔王国へとやって来た。

自分達は進む。

依頼を成すために。

けれど、今はあの時の想いとは違う。

この大切な仲間達を守るため。

皆で笑い合うために。

この先にあるであろう未来の為に。

自分達があの場所に戻るかは今はわからない。

けれど、今はこの仲間達と共に進む。

ただそれだけだ。

そう、それだけでいいのだ……

 

 

――リョウマ達は、イムカを捜しながら戦闘を行っていた。

城の中を知っているリリスが付いて来ているとはいえ、続々と現れる透魔兵達に手こずる。

なおかつ、未だにイムカがどこに囚われているのかも解らない。

と、指揮を取っていたリョウマ。

そして、その傍にはリリスが居る。

そのリリスに、敵の魔術が襲い掛かる。

咄嗟にリョウマがリリスを抱えて避けるが、第二派は間に合わない。

 

「リョウマ様!」

 

サイゾウが駆けだすが、その前に魔術が当たるのが早い。

だが、サイゾウの横をそれとは違う魔術が飛ぶ。

それは敵の魔術とぶつかり合い、相殺された。

そして聞きなれた声が響く。

 

「伏せろ!」

 

リョウマがリリスを庇い、伏せる。

そこに暗器がいくつも降り注がれる。

敵が消滅するのを確認し、リョウマは投げた本人を見る。

 

「イムカ、無事だったか!」

「ああ。まさか、救出作戦を行っているとは思わなかった。」

「するのは当然だ。だが、助けに来たのだが逆に助けられたな。」

「……気にするな。元より、私と貴殿たちは利用し、利用し合う仲だ。」

「……そうか。では、今はそうしておこう。」

 

イムカはリョウマ達に近付くと、辺りを見る。

 

「……メンバーがこれだけと言うことは、二手に分かれたのか?」

「ああ。実はカムイもある意味、お前と似たような状況になってな。」

「それに関しては、私も覚えがある(・・・・・・・)。大体察している。」

 

そう言いながら、剣を抜いて敵を斬る。

リョウマもまた、同じように敵を斬り、

 

「そうか。イムカ、そっちに二人行ったぞ。」

「分かっている。だが……もしかしなくても、正門から来たのか?」

「当然だ!正々堂々と、突破してきた‼」

「…………」

 

イムカは無言で、剣を振り続けた。

臣下に護られているエリーゼが手を上げて、

 

「そうだよ!みんなすっごかったんだから!」

「ええ、そうですね。私も、ドキドキしてしまいました。」

 

隣に移動したリリスも微笑みながら、二人は笑い合っていた。

イムカの隣に来て魔術を放つニュクスは呆れたように、

 

「私は止めたのよ。でも……嫌いじゃないわね。久々に、私も胸が高鳴ったわ。あなたも、嫌いではないでしょう。」

「肯定も、否定もしないぞ。」

「つまりは、まんざらでもないと言うことね。」

「…………」

 

イムカはそれを無視して、敵を次々と倒していく。

現れた敵を全て倒し、

 

「で、これからどうするんだ?」

 

リョウマはイムカを見る。

イムカもまた、リョウマを見る。

 

「何故、私なんだ?」

「……お前が適任だと思ったからだ。お前の戦略を信じているからな。」

「……はぁ。」

 

イムカは腕を組み、顎に指を当てる。

瞬きを一つすると、

 

「なら、カムイ達と一刻も早く合流する。城の中でできれば、最高にいいが……おそらく、こちらから合流を急いだ方がいいだろう。本当なら、最上階近くで会いたいものだが……無理だろうな。」

「なぜだ?」

「おそらく、カムイもこちらとの合流は最上階近く、だと考えるだろう。だが、ここは既に敵の懐。そして、敵がどう出るかは解らない以上は、早めにカムイ達と合流する。」

「それまで、どこかに隠れているのか?」

「いや……簡単な話だ。私も『カムイ』として動いて、敵を錯乱させる。なおかつ、敵を倒していく。」

 

そう言って、イムカにノイズがかかる。

そして、その姿はカムイと同じ姿、服装へと変わる。

エリーゼが嬉しそうに駆けてきて、

 

「つまり、イムカお姉ちゃんのことを、カムイお姉ちゃんって呼んでいいんだよね!だって、元は同じカムイお姉ちゃんなんだし!」

「……今だけはな。」

「なら、カムイお姉ちゃん!怪我をした腕を見せて。」

 

エリーゼはイムカの右手に巻かれている布を見る。

そこには少しだが、血が付いていた。

イムカはため息を一つ着き、

 

「……私に人の治癒術は効きはしない。忘れたわけではないだろう。」

「そう、だけど……」

「気持ちだけでいい。」

 

イムカは肩を落とすエリーゼの頭を無意識に撫でていた。

気付いた時には、背を向けて歩いていた。

フローラとフェリシアが笑いながら、

 

「照れていらしゃるようですわね。」

「はい。イムカ様は照れ屋さんです。」

 

と、その後ろに付いて行く。

城内を進みながら、

 

「ところでイムカ。お前はどうやって脱出したんだ?」

「ああ、それは……ある人達に助けられた、と言うことにしておいてくれ。」

「ん?」

「今こうしているのだから、気にするなと言う話だ。」

「そうか。」

 

リョウマはすんなり受け入れ、彼らは進み続ける。

 

 

ーーイムカは彼らと合流する前の事を想い出す。

イムカはこの暗闇にだいぶ慣れてきた。

辺りに何があるのか、見える。

自分の斜め上に花瓶が見える。

 

『……あれをうまく使えば、この縄を解けるが……』

 

イムカは薄っすら見える扉を見る。

外の様子は未だに解らないが、見張りが居るだろうと推測する。

 

『敵が入ってくるのであれば、それはそれで利用はできる。だが、入ってこない場合は……』

 

イムカは覚悟を決めると、ドンッと花瓶が乗る台に当たる。

花瓶はグラグラ揺れ出し、イムカの横に落ちて割れる。

その破片がイムカの腕に突き刺さる。

すると、外の方から声が聞こえる。

 

「何の音だ?」

「どうせ、中で暴れてるんだろう。」

「じゃあ、放っておいていいな。」

「ああ。」

 

そしてまた静かになる。

 

『……やはり見張り入るか。だが、入って来ないとなると……好都合だ。』

 

イムカは刺さっている花瓶の破片は気にせず、床に落ちている破片を取る。

それを使い、縄を地道に切っていく。

本来なら、魔術など駆使するかもしれないが、現状が解らない以上は目立たない事をするのが得策だ。

縄を斬り終わり、腕に付いていた破片を抜く。

それと同時だった。

扉が開く。

イムカは入ってきた光に目を細めて、そこを見る。

入って来たのはミコトだった。

イムカは握っていた破片を隠し、動きを窺う。

ミコトは小さく微笑み、近付いて来る。

そしてイムカの前に座ると、

 

「助けに来たのですが……まさか自分で縄を解いていたとは。でも、無茶な方法を。腕を穢しているではありませんか。見せてください。」

 

そう言って、手をさせ述べて来る。

イムカは握っていた破片をミコトの首に着き付ける。

 

「何のつもりか知らないが、私はここで――」

「ふふ。いいですよ。でも、手当が先です。」

 

ミコトはイムカの怪我をした腕を触る。

イムカは手を払い、

 

「私に人の治癒は効かない。いくら巫女と言え度、人。その治癒は効かない!」

「……そう。やはりあなたは竜となっていたのですね。なら――」

 

ミコトは再び怪我をした腕を掴むと、そこに布を巻く。

そして微笑み、

 

「ごめんなさいね。これくらいしかできなくて。」

 

イムカは立ち上がり、扉に駆ける。

そして驚いた。

見張りの兵は倒されていた。

身構える。

それはその相手が目の前に居るからだ。

 

「……そう身構えるな。」

「武器はなくとも、魔術は使える。いかな貴殿といえど、ひけは取らないと思うが?」

「全く。そう言うわけではない。」

 

イムカは背を向けて走り出そうとする。

だが、その相手が止める。

 

「待て。」

 

イムカが振り返ると、何かを投げられた。

それをキャッチすると、それは自分のマントに包まれた武器。

イムカは走り出す。

その背に声が聞こえてくる。

 

「待っておるぞ。お前たちがワシらの前の来るのを。」

「それまでどうか……どうか無事で……」

 

イムカは走り続ける。

と、言うわけだ。

だが、イムカには違和感がある。

いくら彼らが何かしらの記憶を持っていようと、既に眷属。

そして彼らは、彼らの意志(・・・・・)で眷属になる事を選んだ。

その理由はまだよく解らない。

それでも、私はやらなくてはいけない。

そう決めたのだから。

 

イムカはカムイのフリをして、進み続ける。

敵を倒し、彼らが入ってくるであろう裏口通路を目指して。

 

「通路は私が知っている。ここを抜ければ、裏口へと行けるはずだ。」

 

と、気配を感じ取ったイムカはすぐに表情を変える。

 

「皆さん、敵です!気をつけてください!」

 

イムカは、敵と鉢合わせると、カムイの振りを続けていた。

その姿はまるで、カムイそのものだった。

それこそ、今ここにいるのがイムカが、本当は今のカムイなのではないかと思うぐらいに。

そして、裏口まで来ると……

 

「……どうやら、まだここまで来れていないようだな。」

「どうする?」

「あちらには、ハイドラ様もいる。ここは、こちらから出向くぞ。」

 

イムカ達は森に向かって歩き出す。

 

 

カムイ達は城内園庭に出ていた。

その中の深い森の中を進み、城内への道を探していた。

カムイは辺りを見渡しながら、

 

「……この森はどこまで続いているのでしょう。」

「大丈夫よ、カムイ。確かに、この森は深いわ。でも、迷わずに行けば近道なの。」

「あ、いえ。アクアさんを疑っているわけではないんです。」

「ふふ。解っているわ。」

「……この森は、アクアさんにとって、何か思い入れが?」

「ええ。この森は、幼い頃にお母様と手をつないで――」

「ようこそ、透魔王国へ。」

 

アクアが懐かしむように、語るように言っていた時だ。

彼女の言葉を遮り、どこかから声が響き渡る。

カムイ達は立ち止まり、武器に手を当てて辺りを警戒する。

と、カムイ達の前に炎が燃え盛り、そこから一人の女性が姿を現す。

その女性の影がはっきりしてくると、それは魔道の服を纏った透き通る青い髪の女性。

その顔はどこかアクアに似ていた。

アクアは悲しそうに瞳を揺らし、

 

「……やっぱり、現れるのね……お母様。」

「お母様って……アクアさん⁈」

 

カムイは目を見開いて、アクアを見る。

無論、それはマークス達もだ。

何故なら、マークスは知っているのだ。

この目の前の女性を。

女魔導士は目を細めて、

 

「……何を言っているのか、解りませんね。我らが軍師の名を受け、あなた方の命を貰い受けます。まずは、自己紹介を致しましょう。私はシュンメイ。透魔王ハイドラ様の忠実な僕。透魔の眷属の一人です。」

「……知っていたわ。ここで、こうしてお母様と会う事も。これもまた、必然と言うのでしょうね……」

「……浮遊島では敗れてしまいましたが、今度はそうはいきません。」

「ええ……あなたを解放するためにも、私は逃げないわ。」

 

アクアは薙刀を構える。

カムイはそのアクアの手を握り、

 

「待って下さい、アクアさん!だって、あの方は!」

「なんと、なんと惨いことを!まさか、シュンメイ王妃を眷属にしていたとは!」

 

マークスは眉を寄せる。

ハイドラが前に出て、

 

「シュンメイ。」

「久方ぶりですね。あの時は取り逃しましたが、今度こそ欠片をハイドラ様の元へ突き出します。」

「……すまない、シュンメイ。君を、そんな風にしてしまって……本当に……」

 

ハイドラは俯く。

アクアはカムイを見て、

 

「……カムイ。あそこにいる人は確かに私のお母様よ。けど、お母様ではないの。私のお母様は記憶の中。そして、あの人もまた同じ。今のあの人に、お母様の記憶(・・・・・・)があるかはもう賭けよ。目の前のあの人は死してもなお、囚われてしまった哀れな人。だからこそ、娘である私が解放する必要があるの。」

 

アクアはカムイの手を振り払い、一人向かっていく。

女魔導士シュンメイは両手を広げ、

 

「さぁ、死になさい!やっとお前を殺せる。そう、全てはハイドラ様のご意志のままに‼」

 

そう言うと、炎と共に透魔兵も姿を現す。

カムイ達は囲まれる。

カムイ達は武器を手に取り、

 

「……皆さん、戦闘準備を!」

 

それぞれ、戦い始める。

カムイはアクアが、女魔導士シュンメイと闘う姿を見る。

アクアはその視線に気付いた。

 

「カムイ。お母様はね、私に歌を教えてくれたの。それだけじゃないわ。暗夜王国で、己が消える(死ぬ)事を知っていながら、透魔王国の歴史を伝えてくれた。そう、命尽きるその瞬間まで……お母様は、いつだって私に生きる道標を与えてくれた大切な人。だからこそ、私が解放してあげたいの。」

 

彼女の想いは本気だ。

ここで、手を抜けばこちらが全滅する。

そして何より、自分もまた、アクアと同じように決めなくてはならない。

母ミコトと闘うことを。

カムイはギュッと目を瞑り、カッと目を開く。

アクアにあたりそうになる魔術の攻撃を斬り裂き、

 

「アクアさん。あなたの決意は解りました。私も、アクアさんと共に戦います。アクアさんだけに、背負わせません。」

「カムイ……ありがとう。」

 

アクアは構える武器を強く握りしめる。

激しい攻防戦が続く。

アクアの振り下ろす薙刀を、魔結界で防ぐ女魔導士シュンメイ。

 

「くっ!前よりも腕は上げているようですね。」

 

と、二人の元に魔術が飛ぶ。

それは、アクアに直撃する。

 

「きゃっ!」

「アクアさん!」

 

カムイが、アクアを支える。

カムイが撃ち放たれた場所を見る。

そこには、透魔軍師ルフレの姿があった。

 

 

「どうやら、そのようです。あなたの役目は、ここで終わりです。魔導士殿。なので、ここは撤退してください。この後の予定(・・・・・・)もありますし。」

「……解りましたわ。ここは、退かせて貰います。」

「待って、お母様!」

 

女魔導士シュンメイは炎に包まれ、透魔兵と共に消える。

アクアは拳を握りしめる。

マークスがカムイとアクアの前に立ち、

 

「油断するな。まだ、軍師がいる。」

「ふふ。今はまだ何もしまんよ。ですが……」

 

透魔軍師ルフレは目を細めて、

 

「どうやら、あなた(・・・)の方が本物のようですね。」

「何のことです?」

「いえ。では、待っていますよ。あなた方が、城内に来るのを。」

 

透魔軍師ルフレはサッと身をひるがえして消える。

彼女が消えた後、マークスは剣をしまいながら、

 

「どうやら、あちらは上手くいっているようだな。」

「?」

「解らないか、カムイ。あの軍師は、お前を見て本物と言った。つまり、リョウマ王子達がイムカを救い出したということだ。そして、イムカがカムイの振りをして時間を稼いでくれているのだろう。」

「なるほど。では、私達も急がないとダメですね。」

「ああ。」

 

カムイ達は急いで城内に入るための裏口へと急ぐ。

 

 

――カムイ達から離れた透魔軍師ルフレは女魔導士シュンメイを見る。

 

「おや?魔導士殿、顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」

「問題ありませんわ。」

「そうですか。それはよかった。あなたには、これから歌姫を(・・・)殺して貰わねばなりませんからね。」

「……解っているわよ。全てはハイドラ様のため……」

「ええ。そうですとも。では、あなたには配置に着いて頂きましょう。」

「……ええ。」

 

そう言って、女魔導士シュンメイは歩き出す。

長い廊下を歩きながら、

 

「そうよ……あの娘を殺さなければ。そうしないと私は……私の中にあるこの靄は晴れることはないわ。」

 

その女魔導士シュンメイが歩く姿を片隅で見ていた騎士がいた。

その騎士は悲しそうに瞳を揺らし、

 

「シュンメイ様……アクア様、どうか……どうか、シュンメイ様をお助け下さい。」

 

騎士は祈るように自身の剣を触る。

それは、自分にはそれを成すことができないからだ。

だからこそ、祈ることしかできない。

透魔軍師ルフレは隣にいた白騎士カインを見る。

 

「……さて、カイン殿。あなたも、配置に着いてください。仮に、魔導士殿が敗れた場合、次はあなたが彼らを殺さなければならないのですから。」

「解っております。では。」

 

白騎士カインは頭を一度下げて、歩いていく。

透魔軍師ルフレは彼らがいなくなると、小さく笑みを浮かべる。

 

「そう。全ては必然。だからこそ、これは成さなければならない。」

 

彼女も身をひるがえし、彼らとは別の長い廊下を歩いていく。

 

 

カムイ達は急いでいた。

アクアは森の出口を見て、

 

「あの先を超えた所に、裏口への道があるわ!」

「皆さん、もう少しです!頑張りましょう!」

 

カムイも、後ろを見てから駆け出す。

だが、あと一歩の所で炎が燃え盛る。

カムイ達は急ブレーキをかける。

武器を構えて目の前を見る。

目の前には、透魔兵と女魔導士シュンメイが姿を現す。

 

「……去りなさい。これ以上、王城に近づかせるわけにはいかない。」

「っ‼シュンメイさん!」

「………そう。ここで、なのね。私たちは進むわ、お母様。」

「そう。戦ってくれるのね。これでやっと、やっと私の靄は晴れるわ!」

 

そう言って、女魔導士シュンメイは手を振り上げる。

 

「さぁ、やってしまいなさい!」

「行きますよ、皆さん‼」

 

カムイ達も戦闘を開始する。

 

「アクア!カムイ!お前たちはシュンメイ王妃と決着をつけるんだ!」

「はい!アクアさん!」

「ええ。行きましょう、カムイ。」

 

カムイとアクアは女魔導士シュンメイの前に迎え出る。

 

「あなたを見ていると、イラつくのよ。私の中の何かが、私をイラ出せる。あなたを消さなければ、私の中のこの靄は消えない!だから、死んで頂戴!」

「……お母様。そう……欠片でも、残ってくれているのなら私は嬉しいわ。他でもない。私に進む道を、道標を与えてくれたのはお母様だから……愛する家族の為に……」

 

アクアは、女魔導士シュンメイの繰り出す魔術を避けながら進む。

カムイはそのサポートに回る。

だが、透魔兵の援軍が到着した。

 

「くっ!敵の援軍か!」

「マークスお兄様。」

「カミラ、お前はハイドラ様をしっかりお守りするのだ!」

「ええ。お兄様も、お気をつけて。」

「ああ!」

 

マークスは援軍の相手を始める。

だが、多勢に無勢だ。

 

「ぐっ!もう一手、もう一手あれば!」

 

そこに、雷撃が透魔兵を襲う。

 

「マークス王子!」

「っ!リョウマ王子か!」

「マークスお兄ちゃん!間に合って、よかった!」

 

そこには、エリーゼの乗る馬に立ち、雷撃を放ったリョウマの姿。

エリーゼの乗る馬から降りると、リョウマはマークスと背中合わせになる。

 

「助太刀するぞ、マークス王子!」

「ああ、すまない。リョウマ王子。だが、貴殿がここにいるという事は、やはり成功したのだな。」

「無論だ。」

 

リョウマの言う通り……いや、あれ?とマークスはなる。

 

「カムイ?」

「……悪いが、貴殿の妹の方ではない。」

 

と、カムイにノイズが走る。

その姿はイムカへと変わる。

 

「世話をかけたな。ここからは、こちらも加勢しよう。」

「意外と早い合流となったな。」

「私としては、最上階近くで合流したかったがな。」

「では、カムイの感もあながち間違いではないな。」

「……さてな。だが、あの方がやはり動いて来たか。」

「知っているのだな。シュンメイ王妃を。」

「ああ……」

 

イムカは武器を構え、

 

「だが、あの方の相手はあの二人に任せる。あれは、『カムイとアクア』が乗り越えるもの……いや、『アクア』が乗り越えなければならないことだ。」

「そうだな。」

 

カムイ達の戦う姿をイムカは一目見た後、透魔兵を相手に戦う。

カムイとアクアは肩で息をしていた。

 

「はぁ、はぁ。流石、アクアさんのお母様ですね。とてもお強い。」

「ええ。それはそうよ。イムカに魔術を教えていたのは、私のお母様だもの。」

「……そういえば、そう言ってましたね。それに、イムカさん達も合流したみたいです。私の予想よりも早い合流ですね。」

「彼女の事だから、私達の事を心配して合流を速めたのでしょうね。ここは、すでに敵陣。そして、私も彼女も知る必然は違うものがあるから……」

「………必然、ですか。」

 

カムイが視線を落とした時だ。

女魔導士シュンメイの魔術が二人を襲う。

 

「きゃっ!」「うっ!」

「さぁ、これで終わらせてあげるわ。」

「アクアさん!」

 

再び襲い掛かる魔術を、カムイがアクアに覆いかぶさって守ろうとする。

だが、二人を魔方陣が守る。

 

「イムカさん!」

「……お前たちを守るのは今ので最後だ。」

 

イムカは女魔導士シュンメイを見る。

女魔導士シュンメイは苛立っていた。

 

「あと、もう少しだったのに!」

「………私は、あなたを誇りに思っていました。シュンメイおばあ様(先生)。」

 

身を翻すと、イムカは敵に向かって走っていく。

アクアは起きあげると、

 

「………誇り。そう、そうね。私も、そう思っているわ。カンナ……」

 

アクアはペンダントを握りしめる。

そして胸に手を当てて、歌いだす。

 

「ユラリ~♪ユルレリ~♪」

「うっ!うぅ‼」

 

女魔導士シュンメイは頭を抱えて苦しみだす。

 

「私は、お母様から教わったこの歌を誇りに思っているわ。お母様との絆、思いで。そして、それを息子に伝えることができた喜び。私は『歌姫』!その役目を果たす‼」

 

アクアは歌いながら凪刀を振るう。

カムイは瞳を揺らし、

 

「……私には、あの方の記憶はありません。でも、仲間であるアクアさんとイムカさんの大切な人なのは解ります。だからこそ、私もまた決めるために……戦うのです!」

 

カムイもそこに加わる。

透魔兵を倒しきり、カムイとアクアを見るイムカ。

彼らも女魔導士シュンメイを、アクアの薙刀が斬り裂いた所だった。

女魔導士シュンメイは倒れこむ。

その彼女を青い炎が包む。

女魔導士シュンメイは仰向けになり、

 

「………ああ……そう、そうなのね……私は……」

 

そして、涙を流す。

傍にいるアクアを見て、

 

「アクア……私の愛しい子。」

「お母様……」

 

アクアは女魔導士シュンメイの前で座り、抱える。

女魔導士シュンメイはアクアの頬を触り、

 

「アクア……ごめんなさいね。また(・・)、あなたにこのような役目を……」

「いいえ、お母様。私はそれでも、このような形でもお母様に会えたことがとても嬉しいの。」

「……アクア……。そうね。私も、あなたの成長した姿を見れてとても嬉しいわ。アクア、私の身も、魂も、もうじき消滅します。だから……」

「お母様?」

 

アクアは眉を寄せる。

女魔導士シュンメイは優しく微笑む。

そしてハイドラを見て、

 

「ハイドラ様。この子たちを、お願いします。」

「ああ。君たちの大切な形見。必ず。」

 

ハイドラは頷き、彼女を見る。

 

「ありがとう、アクア。本当にありがとう。私を解放してくれて。私の……私達の子供になってくれて。愛しているわ、アクア。だから、待っている(・・・・・)わ。あの場所(・・・・)で、あなた達を(・・・・・)……」

 

そう言って、炎が包みその身は消えていった。

アクアはその炎の欠片を握りしめ、

 

「お母様……うぅ……」

 

アクアはそれを胸に握りしめて泣く。

その姿を仲間達は見守る。

女魔導士シュンメイへ黙とうを捧げる。

それはイムカもだった。

リョウマはイムカを見る。

表情は仮面で解らないが、悲しんでいるのは解る。

カムイは拳を握りしめ、

 

「……許しません。私はあなたを許しません、透魔王!」

「すまない、カムイ。」

 

それは後ろにいたハイドラだった。

カムイは慌てて振り返り、

 

「ち、違います!これはお父様に言ったのではなく、透魔王で……でも、あれもお父様なのですが……えっと、その……」

「解っているよ。大丈夫だ。」

 

ハイドラは神居の頭を撫でる。

そしてアクアの前に膝をつき、

 

「すまない、アクア。」

「ハイドラ様……」

「だが、この世界に平和をもたらすためにも、ともに進んでほしい。」

「ええ。ともに……」

 

アクアはハイドラの手を取って立ち上がる。

アクアはカムイを見て、

 

「カムイ。」

「はい。行きましょう。」

 

彼らは裏口へと向かう。

透魔王ハイドラとの因縁を断つために。

世界に平和をもたらすために。

仲間のために。

彼らは進む。


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