小さな子竜は夢を見る。
それは心優しき病弱な少女との出会い。
自分は怪我をしていた。
逃げてきた。
父に約束した大切な人を守るために、自分は全てを捨てた。
加護を受け、やっとあの人の元に行ける。
そう思った……
けど、現実はそう簡単だはなかった。
逃げるために、自分にある全ての力を使って逃げてきた。
もうあの姿にはなれないだろう。
父との約束も守れない。
「……怪我をしているのですか?」
それは突如現れた。
自分の目の前には、自分を覗き込む赤い瞳の少女がいた。
自分は混乱し、威嚇する。
「大丈夫ですよ。私はあなたの敵ではありません。」
そう言って、少女はスカートの裾を破る。
それを自分の怪我をしたところに縛る。
「私はカムイというのです。あなたはとても可愛いですね。」
少女は自分を抱き上げ、微笑みかける。
涙が溢れた。
少女は立ち上がり、自分を連れて歩き出す。
「カムイ様⁉︎何をしているのですか!寝てなくては熱も下がりませんよ!」
「ごめんなさい、ジョーカーさん。でも、この子が怪我をしているの。だから……」
「分かりました。私も治療を手伝います!」
少女の部屋に連れられ、少女の手当を受けた。
少女は病弱な体だった。
自分を助けたあの時、彼女は熱で倒れたのだ。
なのに、自分に気づき、やって来た。
少女は隣で眠る。
自分は少女に身を寄せ眠る。
暖かいぬくもり……
少女の優しい手が自分を包む。
子竜は決めた。
少女と共にいることを。
たとえ、自分が何者かを言えなくとも。
ずっと少女の元にいることを……
ーーカムイは
この魔剣の力を使いこなすため。
いつも守られた自分が、今度は大切な人達を守るため。
自分は一心不乱に剣を振るう。
「カムイ様……」
「リリスさん?」
カムイは振り返る。
そこには心配そうに近寄って来るリリスの姿。
「カムイ様、あまり無理をやされては……」
「大丈夫ですよ、リリスさん。私には暗夜の竜の加護がありますから。それに、今度は私がみんなを守りたいんです。お父様から頂いたこの剣で。」
「カムイ様……ですが、それでもカムイ様はお身体が弱いんです。ですから……」
リリスは肩を落として、手を握り締める。
カムイは肩で息していた。
そして一呼吸して、
「わかりました。今日の鍛錬はここでやめます。」
「カムイ様……‼︎」
リリスは何かの気配を感じて、カムイを庇うように前に出る。
木の陰からフードを深く被った者が現れた。
カムイは剣を構えて、リリスの前に立つ。
「……あなたは何者ですか?」
その者はジッと、カムイとリリスを見ていた。
しかし、仮面で顔が見えないため、カムイの感覚でしかない。
「……忠告だ。その魔剣は、この世にあってはならぬ力。それは禁忌の国のモノ。お前が、本当に大切な者達を守りたいのであれば、その魔剣は捨てろ。それは破滅しか呼ばない。」
リリスは目を見開き、身を固める。
カムイはそれには気付かず、剣を向けたまま、
「……それを信じろと?これはお父様から頂いたモノです。そんな事があるはずがありません。」
「その暗夜王こそが嘘なのだ。あれは死人であり傀儡。」
「……なにを言ってるですか?」
「お前の大切なモノを守りたいのであれば、暗夜王を疑え。全てを疑え。」
「それは、あなたを含めてですか?」
その瞬間、右手で短剣を持ってカムイの首につける。
さらに、左手で魔剣を持つ手を抑えた。
少しでも動けば、カムイの首は斬られる。
だからこそ、カムイもリリスも動けない。
「……そうだ、私も疑え。お前が弱いうちはな。」
そう言って、サッと離れる。
カムイは全てにおいて反応できなかった。
それでも、カムイはジッとその者を見つめ、
「……それでも私は全てを信じます。」
「……そうか。なら、それでもなお進むのであれば、お前は貫き通せ。なにがあっても立ち止まるな。お前の言う『信じる』は、お前の予想以上に辛く険しい。お前がお前を失わない限りな。だが、忘れるな。これは必然だ。」
そう言って、闇夜に消えた。
カムイは剣をしまい、
「……リリスさん、今回の事は内緒にしておいて下さい。」
「はい、カムイ様……ですが、大丈夫ですか?その……カムイ様自身は……」
「大丈夫ですよ。こう見えも、打たれ強いんです。あの人の言うことは、全ては解らないです。でも私は、あの人を心のどこがで信じたい。何故だか、あの人は懐かしい感じがするんです。」
「そう、ですか……」
二人は城の中に入っていった。
闇夜の森を歩くフードを深く被った者。
彼女は立ち止まり、闇夜にゆういつある
『……刃を向けて、私は迷った。確かに、カムイを使わなくては壊せない。だが、あのカムイでなくてもいいのだ。……なのに、やはり失いたくないのだ。いや、もう躊躇うな。私はもう戻れない。おそらく、今回が最後だ。だからこそ、私は必ずやり通す……』
彼女は歩き出す。
近くの湖の中へと入り、沈んでいく。
歌が聞こえる。
懐かしいあの歌が……
夕暮れの光灯る中、一人少女は湖で歌っていた。
それは誰かに届けるかのように。
それは誰かを想うかのように。
だが、すぐ側で水の動きが変わる。
そこには、湖の中からフードを深く被った者が現れた。
「……誰?」
身構えながらも、歌姫の少女は恐れることなく声をかける。
フードを深く被った者は湖の水の上に立ち、
「……禁忌の国の者。」
「……そう。私を殺しに来たの?」
「否。私はあなたと同じだ。呪いを恐れない。」
「……強いのね。」
「あなたには負ける。」
二人は見つめ合う。
だが、フードを深く被った者は仮面で顔が見えない。
本意は解らない。
それでも歌姫の少女は、恐れることなく近づこうとした。
だが、刀を構えて前に立つ者がいた。
「アクア!無事か‼︎」
「リョウマ……ええ。私はなにもされてないわ。」
少女は目の前の赤い鎧を着た男性を見る。
そして、歌姫の少女を包み込むように、
「アクア、無事でよかった……」
「ミコト様……」
歌姫の少女も、白き巫女を抱きつく。
赤き鎧の男性は、
「母上、アクアと共にお下がりください!」
「……白夜の第一王子。貴殿は、なにを持って信じる。」
「何をだ。いや、それよりも貴様は何者だ!何故、ここに入れた!」
彼の握る刀は雷を帯びる。
フードを深く被った者は両手を広げ、
「我が加護は水。水あるところには、全て私の加護の領域。今日は白夜の王妃に会いに来ただけだったが……貴殿にも会えたのならちょうどいい。……今に白夜へ災厄が訪れる。貴殿らの敵は、目に見える者とは限らない。国を、民を、家族を、仲間を思うのであれば、貴殿らは信じろ。そして疑え。」
「随分と矛盾した言葉だな。」
「仕方ないのさ。全ては必然だからな。」
「……お前が、スズカゼの言っていた者か?」
「……選択はすでに始まっている。」
フードを深く被った者は再び湖の中へと入っていった。
赤き鎧の男性は剣をしまい、
「……母上。今のを、俺は信じれません。誰とも解らぬ者の言葉を。」
「…………」
白き巫女の女性は黙り込んでいた。
歌姫の少女は赤き鎧の男性を見て、
「……信用は出来ないかもしれない。でも、彼女は私に言ったわ。禁忌の国の者と。」
「禁忌の国の者?」
「……口にしてはいけない国。言えば、呪いによって死ぬわ。それでも彼女はここに来た。」
「アクアは、その国を知っているのか。」
「ええ……だから私もその国のことは言えないわ。ごめんなさい。」
「……いや。少しだが、話がさてくれたこと嬉しく思う。兄としては、もっと頼ってくれた方が嬉しい。」
「……そう、考えておくわ。」
歌姫の少女は視線を落とす。
白き巫女の女性は、
「……ひとまず、城に戻りましょう。私も少し調べてみますから。」
「なら自分もーー」
「いいえ、私だけで大丈夫です。リョウマは他をお願いします。」
「わかりました。」
彼らは王城へと帰って行く。
ーーカムイはエリーゼと共に暗夜王ガロンの王室へとやって来ていた。
あのフードを深く被った者との後、彼女に言われた事を気にしていたからだ。
それを見たエリーゼが、
「カムイお姉ちゃん、私が一緒に行って謝ってあげるよ。そしたら、お父様もきっと許してくれるもん。ね、だからそんなに落ち込まないで。」
「え……は、はい。そうですね。ありがとうございます、エリーゼさん。」
カムイは顔を上げる。
『確かめておいた方がいいのかもしれない。それに、エリーゼさんの悲しそうな顔をは嫌です。』
カムイは立ち上がり、エリーゼと共に王室へとやって来たのだ。
王室の扉を開けようとした時、
「ふははははははっ!くははははははははははぁつ!」
と、暗夜王ガロンの笑い声が響きわたる。
カムイは困惑し、声に出していた。
「お父様……⁉︎」
「お、お姉ちゃーー」
「ぬ……⁉︎そこにいるのは誰だ!」
エリーゼが下がらせようとしたが、ダメだった。
暗夜王ガロンの怒り声が響く。
扉越しに、エリーゼとカムイは謝る。
「こ、ごめんなさい……お父様。」
「申し訳ありません……」
「お前達、何の用だ。」
暗夜王ガロンの声が少し落ち着いたのを感じ、
「えっと……カムイお姉ちゃんが、お父様に謝りたくて……その……」
「それでここに来たんです。お父様、エリーゼさんには怒らないであげて下さい。」
「……まぁ、よい。入れ。」
二人は暗夜王ガロンの王室へと入る。
その奥、王の玉座に移動した。
暗夜王ガロンは玉座に腰を下ろす。
カムイは周りを見た。
木の根が辺りを覆っていた。
カムイは視線を暗夜王ガロンへと向ける。
「カムイよ。此度、お前は王命に背いた。本来ならば、死で償わねばならぬ大罪だ。」
「……はい。」
「そんな……!で、でもお父様……」
「大丈夫ですよ、エリーゼさん。私は大丈夫です。」
カムイはエリーゼを下がらせようとしたが、
「……だが、今回は不問とする。お前は私の子だ。そのような事で死なせたくはない。」
「お父様!」
エリーゼが暗夜王ガロンの言葉にパッと明るくなる。
暗夜王ガロンは頬杖をつき、
「だが、王命に背いたのは事実。故に、お前にはその罰として、ある任務を与える。」
「はい、お父様。それで、その任務とは?」
「国境沿いの白夜領に、今は廃墟となった無人の城砦がある。そこへ、お前と従者のみで向かえ。戦いはせずとも良い。ただの偵察だからな。」
「はい、お父様。それでは。」
カムイとエリーゼは頭を下げてから、この場を去った。
『……あの人の言った意味は、やっぱり解らないままでしたけど……あのお父様が死人だなんて思えません。きっと、思い違いなのでしょう。』
カムイ達は城の入り口にいた。
カミラが頰に手を当て、
「ああ、心配だわ。いくら偵察とはいえ、従者だけで行くなんて……」
「ふふ。大丈夫ですよ、カミラ姉さん。無人の砦です。それに、ギュンターさんやジョーカーさんはお強いですし。リリスさんも、馬には長けてます。」
「のんきなもんだね、カムイ姉さん。父上直々の任務だというのに……。そんな様子じゃ、無事に帰れるとは到底思えないよ。」
「レオンさん……」
カムイは視線を落とす。
エリーゼがレオンの背をバシッと叩き、
「やだもーっ、レオンお兄ちゃんってば、心配しすぎっ!せっかくの旅立ちの時に、不吉なこと言わないで。」
「うっ!エ、エリーゼ、お前は能天気すぎた。」
それを聞いたカミラは青い顔をして、
「ああ……やっぱり、私も一緒にーー」
「なりません、それは。」
と、暗夜の軍師マクベスが歩いて来る。
彼はマクベス。
暗夜王国の軍師である。
カミラは彼を睨み、
「軍師マクベス、それはどうしてかしら?」
「いいですか?ガロン王は、この偵察行をカムイ様への試練だと仰っています。カムイ様に、いずれはこの国を治める王族としての資格があるのか否か、のね。それを試しているのに、それを手助けしては意味がないのですよ。」
「……わかりました。その試練を私は乗り越えます。」
カムイは外に出ようとする。
そこに、声が響く。
「待つがよい、カムイ。」
「……お父様?」
「この者を連れてゆけ。」
暗夜王ガロンの横から一人の大男が現れる。
その者は、カムイをジッと睨みつける。
「この男は、ガンズという。見ての通り、王国きっての怪力の持ち主よ。お前の任務の助けになるだろう。」
「ありがとうございます、お父様。よろしくお願いしますね、ガンズさん。」
「ええ、よろしくお願いしますよ……カムイ様。」
大男ガンズは冷たく笑う。
それをマークスは眉を寄せて見た。
ーーあの王は、『カムイ』を殺したいのだ。
マークスはフードを深く被った彼女の言葉がずっと離れない。
だからこそ、今は疑心暗鬼になりすぎている自分に気づく。
だが、カムイの側によるあの男は危険だ。
マークスはカムイに近づき、耳元で言う。
「カムイ。あの男、ガンズには気をつけろ。」
「え?それはどういう……」
「あの男は過去、数々の略奪や殺人を重ねてきた重罪人だ。」父上によって兵に取り立てられたが……決して油断するな。」
カムイは小さく頷き、離れる。
カムイはギュンター・ジョーカー・リリス、そして大男ガンズと共に馬を走らせる。
谷を少し越え、辺りを見る。
「ここが、そうですか?」
「ええ。ここは無限渓谷。暗夜と白夜を分かつ果てしない谷です。
ギュンターは辺りを警戒しながら言う。
カムイは馬を降り、谷底を見る。
「凄い高さですね。谷底が見えません。」
「はい。谷底は無限の闇に続き、落ちた者は決して戻らず……空は暗雲立ち込め、飛行する者を雷が襲う。本来ならぼ避けるべき危険な道です。しかしながら、吊り橋を渡らずに白夜王国に行くとすれば、大きく迂回せねばならず、ガロン王が命じた期限までに任務を果たすにはこの無限渓谷を渡る他ないのです。」
「大丈夫です。こんな谷、恐ろしくはありません。あの高い塀に囲まれた城塞の中だけで生きてきた日々に比べれば、どんなものも私にとっては胸躍る冒険なんです。」
カムイがグッとガッツポーズを取る。
ギュンターは頷き、
「おお!さすが、カムイ様。幼き頃より、危険とわかっていながら、進むところは変わらないですな。あれは……近づいては駄目と言っていた開かずの間に、カムイ様がいた時の事を思い出しますな。」
「あれはどうしても気になって……でも、実際は物置小屋だったんですよね。扉の建付が悪く、子どもの力では中から開けられない。ギュンターさんが見つけてくれなければ、ずっとあのままでした。でも、そんな昔のことを引っ張りだすなんてズルいです。」
「ははは。カムイ様は、昔から変わらぬという事ですよ。」
と、近くに雷鳴が轟いた。
ジョーカーは、未だ崖の側にいるカムイに、
「カムイ様、危険ですので……」
「はい、わかってますよ。」
ジョーカーとリリスも馬を降りる。
リリスが馬をギュンター以外の馬を連れて、近くの木に縛りに行く。
その間に、ギュンターが少し辺りを見に行く。
と、辺りを見に行っていたギュンターが急いで戻ってくる。
「ギュンターさん?どうかしたんですか?」
「カムイ様、すぐに引き返しましょう。」
「どうしてです?」
「近くに、白夜王国の軍隊がいます。」
「なんですって⁉︎」
だが、少し先の橋の方に、武器を構えた白夜王国の兵達が数人やって来た。
「暗夜軍か!やはり来たか!」
「この橋は、両国の間で交わされた不可侵の掟に守られている!速やかに引き返せ!さもなくば、武力を持って対抗せざるをえない!」
と、怒鳴る。
カムイの前に立ったジョーカーは、
「厄介ですね……。敵に待ち伏せされていたようです。いかが致しましょう、カムイ様。」
「ギュンターさんの言った通り、ここは引き返しましょう。無理な戦いは避けるべきです。」
「すぐに馬を用意します!」
カムイの言葉を聞いたリリスが、駆けようとした。
だが、それを馬に乗った大男ガンズが蹴り上げる。
「きゃっ‼︎」
「リリスさん!」
カムイが、リリスを支える。
そして、大男ガンズを見上げ、
「ガンズさん!何をするんですか!」
「いえ、カムイ様……それをされては困るんだよ。」
「なに?」
ギュンターが、大男ガンズを睨む。
大男ガンズは斧を持って、白夜王国の兵達へ馬で駆ける。
そして、その斧を振った。
「うおおおおおっ!」
「ぐわぁぁっ……!」
カムイは目を見開いた。
なおも、大男ガンズは斧を振り回す。
「がはははははっ!死ね死ね死ねぇっ!」
「くっ!よくも……‼︎」
白夜王国の兵達が攻撃してくる。
それを、ジョーカーとギュンターが防ぐ。
カムイは大声で、
「やめてください、ガンズさん‼︎どうしてです!どうして勝手に、白夜兵を殺したんですか⁉︎話し合えばわかるはずでした。いったん引いたってよかったんです!なのに!」
すると、大男ガンズは笑い出す。
「ふふふ……噂通りの甘っちょろい王女様だ!だが、その甘さのせいで、ここでくたばる訳だがな!」
「なん…ですって⁉︎」
カムイは拳を握りしめる。
奥の方から、
「全軍に告ぐ‼︎暗夜軍を生かして帰すな!」
「行くぞ!」
白夜兵達が武器を持って次々とやってくる。
「さて、俺は暴れたんで退かせてもらうぜ!せいぜい、頑張りな!」
大男ガンズは、馬を駆けさせて行った。
その際に、繋げていた馬の手綱を切り、馬を逃す。
ギュンターは武器を構え、
「くっ!いかん!カムイ様、戦いの備えを!こうなっては致し方ありません!」
「カムイ様!我々の側を離れないように!」
「……分かりました。リリスさんは、私の後ろに!」
「は、はい!」
カムイも、武器を構える。
襲いかかる白夜兵達をギュンターを先頭に倒して行きながら、彼らの砦としていた城砦へと向かう。
橋を渡り、城砦を守るリーダーを殺した。
カムイは視線を後した後、顔を上げて城砦の中を調べる。
「……これでお父様の任務は果たせました。」
城砦の中を調べ終え、帰ろうとした時だ。
「……貴様、暗夜軍の将だな。」
「⁉︎」
カムイの真後ろに、白夜王国の忍びが現れる。
「俺はサイゾウ、白夜の忍びだ。貴様の命、貰い受ける!」
「「カムイ様!」」
と、暗器を構えて襲って来る。
側にいたリリスとジョーカーが庇う。
そしてギュンターがら槍で敵をカムイから離す。
カムイは剣を構えて、
「くっ!油断しました!」
だが、ギュンターの槍を巧みに避け、再びカムイに忍びよる。
「爆ぜ散れ!」
カムイは反応できないくらい速い。
それは、フードを深く被ったあの者を思い出すようだった。
自分の命がここで終わる、そう思った。
が、馬の鳴き声とともに、
「……そうはさせん!」
白夜の忍びサイゾウの暗器を、剣で弾いた。
白夜の忍びサイゾウは距離を取り、
「⁉︎貴様は……」
「マークス兄さん⁉︎」
カムイは兄マークスを見上げた。
彼はカムイを見て、
「間に合ったか。無事でよかった、カムイ。」
「マークス兄さん、どうして……」
「ふ。カムイ、来たのは私だけではない。」
「え?」
と、馬の足音と飛龍の羽ばたきの音が聞こえてきた。
カムイ達の前で止まる。
そこには、馬に乗ってきたレオンとエリーゼ。
そして、飛龍に乗ってきたカミラだった。
「カムイ姉さん、悪運強いね。ま、無事でよかったよ。」
「大丈夫、カムイ?怪我はない?とても心配したのよ。」
「は、はい。大丈夫です。」
「ホントに?カムイお姉ちゃんが死んじゃったら、あたしも死んじゃうんだから!」
と、頰を膨らませるエリーゼ。
レオンはカムイの腕や足の怪我を見つけ、
「……って、カムイ姉さんの嘘つき。怪我してるじゃないか。」
「まぁ、可哀想にカムイ……誰にやられたの?」
「これくらい大丈夫ですよ、レオンさん。カミラ姉さん。」
「ふふ、安心なさい、カムイ。あなたをいじめる悪者は……お姉ちゃんがみんな殺してあげる。ふふ、見ててねカムイ。」
カミラは笑顔で言った。
その手には、斧が強く握られていた。
そして飛龍を操って、敵を切り裂いていく。
カムイは驚き、
「あ、あれがしとやかなカミラ姉さん⁈」
「あ、そっか。カムイお姉ちゃんは、戦場でのカミラお姉ちゃんを知らないんだっけ。かっこいいでしょー⁉︎えへー!」
と、エリーゼが腰に手を当てて、喜ぶ。
白夜の忍びサイゾウは身構え、
「ちっ……」
「カゲロウ推参致した。サイゾウ、首尾は如何に?」
そこに、白夜のくノ一が姿を現す。
白夜の忍びサイゾウは武器を構えたまま、
「……しくじった。奴ら相当手強い。カゲロウ、増援はお前一人か?」
「否。まもなくリョウマ様の本隊が到着なさる。」
「ほう、リョウマ様が……ならばこの戦、俺たちの勝利だ。」
それを見聞きしたマークスは眉を寄せる。
「敵の増援か……さらに、後続も来るようだな。」
「なるほどね……どうする、兄さん?」
「そうだな……目的は果たした。無駄に命を奪う気はない。カムイ、お前はギュンター達と共に先に戻れ。私たちも後から追いかける。」
「はい、分かりました。」
カムイ達は来た道を戻る。
途中、白夜兵達と鉢合わせになりそうになる。
ジョーカーが囮となり、カムイ達は橋に向かう。
「さあ、カムイ様!この橋さえ渡りきれば安全です!」
「はい!」
だが、長い橋の途中で今度は大男ガンズが立ち塞がる。
「……帰す訳にはいかねぇなぁ。」
「ガンズさん⁈」
「貴様!先ほどといい、どういうつもりだ!何を企んでいる!」
「企んでいるのは俺じゃねぇぜ!ギュンター!」
と、大男ガンズはギュンターに襲いかかる。
そして、脆い板場に追い込み、斧を振り上げて下ろす。
足場は崩れ、ギュンターは深い谷底に落ちていく。
「ぐああぁぁ‼︎」
「ギュンター様⁉︎」「ギュンターさん!」
カムイが咄嗟に駆けて手を伸ばすが間に合わなかった。
カムイは拳を握りしめ、
「な、なぜです、ガンズさん!なぜ仲間を‼︎」
「お守りが消えて寂しいか?なら、谷底で二人仲良くやりな。」
と、今度はカムイに襲いかかる。
「カムイ様‼︎」
「よくも……よくも!」
カムイは大男ガンズを睨みつける。
髪が少しフワッと上がり、彼を見る瞳が光る。
そして、何かの力が彼女の周りを覆う。
頭には長い竜の角が現れる。
カムイが左手を上げると、それは槍のような巨大な手の形へと変化する。
「よくもギュンターさんを!仲間を!ガンズさん、許しません‼︎」
「な……!なんだ、こいつは⁉︎ま、まさか……お、おまえ……」
カムイは左手を振り下ろす。
彼は吹き飛んで行く。
そして、彼は膝をつく。
「なぜ仲間を殺したんですっ!なぜ私を狙うんですか!答えてください、今すぐに‼︎‼︎」
「お、俺は……め、命じられただけだ!暗夜王……ガロン様に……!」
「なんですって⁈お父様に……⁉︎」
一瞬だった。
カムイの隙を見つけて、大男ガンズは逃げ出す。
「あ!待ちなさい!」
カムイは追いかけようとする。
が、心臓を抑え、
「ゲフ!ゴホ!」
「カムイ様!」
リリスが背をさする。
カムイの状態が元に戻ると、魔剣ガングレリが黒く光り出す。
そして、カムイを引っ張り暴れ出す。
「……きゃあああっ⁉︎」
剣は意志があるかのように、カムイを谷底へと落とす。
リリスが身を乗り出し、自分も身を投げる。
「カムイ様‼︎」
リリスは祈るように手を合わせて、
「我が祖、我が神、我が血……星竜モローよ、いま一度……我に力を!」
そう言うと、リリスの姿は子竜へと変わる。
カムイを咥え、上昇する。
「リ、リリスさん……あなたは……」
《……カムイ様……いつかこういう時が来るのではないかと思っておりました。私は人間ではありません……》
「そんな……人間じゃ、ない?」
《はい。私はカムイ様に、命を救われた竜です。きっともう、覚えてなどいらっしゃらないでしょうけらど……怪我を負って、あの厩舎に隠れていた醜い獣の私を……あなたは、優しく介抱してくださいました。父も、母も、仲間と呼べるモノ達も失った私にとって、あなたは救いでした。だからこそ、あのとき私はあなたに一生お仕えすると決めたのです。》
「リリスさん……」
《……でも、それももう終わり。この身に余る力を使った私は、二度と人間には戻れません。でもいいのです……こうしてお話しすることも、もうじき出来なくなるけれど……それでも、カムイ様が生きていてくださるなら……それで……》
そう言った時、雷が二人を襲う。
否、カムイを庇ってリリスが大きなダメージを負う。
二人は再び落下し始める。
《……くっ!》
「リリスさん!このままでは危険です!あなただけでも、逃げてください!」
二人は地面に叩きつけられそうになる。
だが、その瞬間風が二人を包み込む。
「……だから忠告してやったというのに。」
「あなたは……」
カムイが起き上がると、フードを深く被った者がいた。
「今からでも遅くない。それを捨てろ。今回の件で身を持って分かったはずだ。
「……で、でも、もしかしたら何かの手違いだったのかもしれません!」
「その手違いで、その子は全てを捨てるのにか?」
「……でも……」
カムイはリリスを抱きしめる。
リリスはカムイを見上げて、微笑みかける。
フードの者は膝をつき、
「……見せろ。」
「え?」
「その子の怪我を見せろ。」
カムイは抱きしめていたリリスをフードの者に渡す。
フードの者は右手でリリスを抱き、左手をかざす。
青白い光がリリスを包み込む。
《……あなたは……もしかして……》
リリスの傷を癒すと、リリスは宙に浮く。
フードの者は立ち上がり、
「……これを持っていろ。」
子竜となったリリスに、手の平サイズの珠を渡す。
リリスはそれを抱えるように、それの上に乗る。
そして再び宙に浮く。
《これは……竜石ですね。でも……》
「構わない。それがあれば話せるだろ。それに、あの国に帰れば、人型にもなれる。オススメはしないがな。それに、もともとそれはお前の父から預かったものだ。お前に渡せと。」
《……お父様が……》
フードの者は背を向け、
「……後は、自分たちでなんとかして生き延びるんだな。」
走り去る彼女の背に、
「あ……行ってしまいました。お礼もまだでしたのに……それに聞きたいことも沢山……」
《カムイ様、ひとまず安全なところに移動しましょう。》
「はい。あそこに森があります。あそこに向かいましょう!」
カムイはリリスを抱き、森へと向かう。
森の中で、カムイはリリス強く抱きしめていた。
「……リリスさん、どうしましょう。道に迷いました。」
《カムイ様、落ち着いてください。きっと大丈ーー》
と、言った瞬間だった。
「暗夜兵か?」
「⁉︎」
カムイは後ろから何者かに殴られ、気絶した。