白き王子はいつからだろう。
自分が、周りから愛されていないと想い出したのは……
幼い頃、病弱な姉がいた。
病弱な姉は、よく自分と遊んでくれた。
けれど、翌日には熱を出して寝込んでいた。
その姿は
今はもう顔も思い出せないけれど、どちらも優しかった気がする。
けれど、二人がいなくなり寂しかった。
さらに、父までいなくなってしまった。
あの日、自分は病弱な姉と何かを約束した気がする。
けれど、それは現実ではなく、夢の中だった……
みんな、いなくなってしまった病弱な姉の事ばかり口にしていた。
自分一人だけが意味がわからず、独りでいた。
ゆういつ側に居てくれたのは、赤子の妹。
けれど、その妹も次第に会った事もない病弱な姉のことを口にする。
自分は次第に忘れてきていた。
いや、違う。
忘れるようにしていたのだ。
あの病弱な姉のことを……
そんな時だ。
暗夜の王女が、自分の姉としてやって来た。
無口で、素っ気ない暗夜の王女。
自分から、病弱な姉を奪った国の王女。
自分から、父を奪った国の王女。
けれど、彼女の歌う歌は綺麗で、どこか自分の心を癒してくれた。
自分は散歩に出た。
けれど、道に迷った。
涙が込み上げてきた。
すると、あの暗夜の王女が目の前に現れた。
彼女は、自分に手を差し伸べる。
自分は嫌々ながらも、その手を握った。
暖かった。
忘れていた温もり。
自分は泣きながら、彼女と共に城に帰った。
もう一人の母が、泣きながら自分を抱きしめた。
自分は、さらに涙が込み上げる。
涙が止まらなかった。
それからも、自分は暗夜の王女を受け入れられなかった。
けれど、彼女の歌は好きだ。
彼女の優しさを知っている。
けれど、自分は素直になれなかった。
彼女は自分の事を、弟と呼んでくれる。
あともう少ししたら、自分は素直になれるのかもしれない。
そう思った。
もしかしたら自分は、居なくなった病弱な姉を、彼女に見ていたのかもしれない。
今なら、そう思える。
けれど、病弱な姉が暗夜から帰って来た。
居心地が悪い。
そして、また自分から奪ったのだ。
自分が大切だと思うモノ全てを……
ーーカムイは城の入り口へとやって来た。
そこには弓を携えた少年とリョウマ、ミコトが話をしていた。
リョウマがカムイに気付き、
「カムイ、ちょうど良いところに来た。カムイ、お前の弟のタクミだ。」
「…えっと、初めて……ではなく、お久しぶり……ですの方が良いでしょうか?」
カムイは苦笑する。
彼は、白夜王国の第二王子タクミ。
彼は見るからにツンツンしていた。
そして、彼もまた神器『風神弓』の持ち主である。
タクミは、ジッとカムイを見て、
「僕は、アンタを信用してない。ずっと暗夜に居たんだ。スパイかもしれないからね。」
「タクミ!」
「事実だろ。僕は、兄さん達とは違う。カムイ姉さんの記憶なんて、ほとんど覚えてないんだ。」
「……タクミさんの言う通りですね。本来は、それが正しいのかもしれませんしね。お話の邪魔をして、すいませんでした。」
カムイは城の外へと歩いて行った。
カムイは視線を落とす。
『そう、ですよね……タクミさんの反応が、本来私が受けるべき対応。……タクミさんとは、仲良く出来ないのでしょうか……それにマークス兄さん達の本当の
そう考え、拳を握り締める。
と、どこからか歌が聞こえてきた。
その歌のする方へ、カムイは向かう。
そこは湖だった。
その水辺で綺麗な女性が歌を歌っていた。
悲しく、儚げで。
けれど、どこか懐かしむように愛おしそうに。
誰かを想い、誰かに祈るように、そして誰かのための歌。
そんな感じだった。
カムイは聞き惚れていた。
だが、歌を歌っていた彼女はカムイに気付いた。
カムイに近付く。
「すみません、つい聞き入ってしまって……。けれど、不思議です。懐かしく、それでいて心が落ち着く……そんな歌でした。」
「……あなたは、カムイ王女ね。会いたかったわ。」
「では……もしかして、あなたがアクアさん?」
「ええ。暗夜王国の王女だった者よ。今もう、暗夜の王女ではないわ。私は、この白夜に来て救われた。少なくとも、暗夜よりも居心地が良いわ。この国の人は優しい。敵国の私を、優しく向かいれてくれた。ミコト王女は、私を娘のように愛してくれた。リョウマ達も、私を
「……アクアさんは凄いですね。」
「え?」
「……私は迷っています。暗夜も、白夜も、私にとって大切です。けれど、私はまだどうしたらいいのか、どうしたいのかが分かりません。」
「それは当然よ。私も、あなたと同じになるわ。今、私が暗夜に戻っても……私は結局どうしたいのか、はっきりしないでしょう。あなたは、私と似てるわ。私は暗夜の者であり、あなたは白夜の者。けれど……私も、あなたも、偽りの世界に生きている。けれど、私はできることなら白夜の民として生きたい。この国のみんなと生きたいわ。私は、ミコト王女の平和を愛する心を知っている。そして暗夜王ガロンが、どれほど残虐な男か知ってる。だからこそ、私はいつか決めなくてはいけない。……自分の本当の居場所を。それは、あなたも。」
「……そうですね。白夜か、暗夜か……」
「そうね……それもね。」
「……?」
アクアは遠くを見るように、空を見上げた。
カムイは首を傾げて、彼女を見ていた。
そして、視線をカムイに戻し、
「……戻りましょう。あなたは、病み上がりでしよ?」
「あ、は、はい……」
二人は白夜城へと戻る。
中に戻り、皆で食事を取っていた。
タクミは相変わらず、カムイに冷たかった。
「……箸もろくに使えないなんて、本当に元白夜の人間なの。」
「ご、ごめんなさい……」
「タクミ、よさないか!カムイは戻ってきたばかりだ。」
「……僕は、事実を言ってるだけだよ。」
と、そっぽ向く。
カムイは、さらに落ち込む。
リョウマは腕を組んで、
「……母上。明日、皆で買い物に行きませんか。その後、庭で花見でもしましょう。」
「まぁ!それはいいわね。そうしましょ。」
ミコトは手を合わせる。
そして、話は二人を中心に進んでいくのであった。
カムイは城下町を家族で歩く。
無論、その中にはアクアもいる。
カムイとアクアは後、仲良くなるのに時間はかからなかった。
「見てください、アクアさん。可愛いですね。」
「……それはお菓子なのよ。」
「これを食べるんですか?なにか、もったいない感じがします。」
「ふふ。変わらないな、カムイ。」
「え?」
カムイはヒノカを見る。
ヒノカはリョウマとミコトを見て、
「思い出しますね、兄様。私と父上がお菓子を買って、カムイに見せたら可愛いと言っていた。それをリョウマ兄様とタクミに見せていたら、タクミがその菓子を食べてしまった。」
「ああ。そしたらカムイが大泣きして、タクミも大泣きしだしたんだ。二人して、父上の方に駆け寄り、父上の髪を引っ張っていた。俺が、残りの菓子を泣いているカムイの口の中に入れたら、今度は俺に怒り出して……」
「しばらく、カムイに口をきいてもらえなかったのですよね。」
「ああ。菓子を食べたタクミとは、手を繋いで笑いあっていたのにな。だから俺も、菓子を買ってきて許して貰ったものだ。」
と、二人は苦笑する。
タクミは顔を赤くして、
「ぼ、僕が泣き虫みたいに言わないでよ。しかも兄さん、若干怒ってるでしょ!」
「勿論だ。お前とカムイは喧嘩をしても、すぐにその場で仲直りしていたからな。俺とは大違いだった。ヒノカですら、喧嘩したら簡単には許してくれなかったのだぞ。」
「へぇー……そうなんだ。」
タクミは視線を逸らしながら、嬉しそうにしていた。
サクラは視線を落としていた。
カムイはそれに気付き、
「どうしたんですか、サクラさん?」
「い、いえ……私は、カムイ姉様が誘拐された頃は赤子てましたので……」
「それは仕方ないわ、サクラ。でも、私の知るあなたの幼い頃といえば、夜一人で眠れなくて、ヒノカや私に一緒に寝てって言ってきたわね。それは、タクミ以上の泣き虫かも。」
「アクアの言う通りだな。サクラは昔から、私やアクアについて回っていたからな。そうかと思うと、タクミの側でお化けを怖がったり。」
「はう……姉様たち酷いです。」
「ふふ、そうね。サクラは、怖くなるといつだってタクミの服の裾を引っ張って……その姿はまるで、リョウマと幼い頃のカムイみたいだったわ。」
ミコトは口に手を当てて微笑んだ。
カムイは少し頰を赤くして、
「私の知らない話。でも、どこか懐かしく暖かい。私、みなさんと家族でよかったです。」
カムイたちは買い物を続けた。
建物の陰で、フードを深く被った者がいた。
白夜王家の者達を見ていた。
だが、視線を外す。
その者は、懐から一つの布を取り出す。
それを握りしめ、彼らとは別の方へと歩いて行く。
カムイ達は買い物を終え、庭で花見を始めた。
みんな、ワイワイと盛り上がっていた。
カムイは側にいるアクアに話しかけた。
「アクアさん。」
「なに、カムイ?」
「……いつか、マークス兄さん達……暗夜の
「そうね……マークス達とは、話してもいいかもしれないわ。」
「……アクアさんは、マークス兄さん達を知っているんですか?」
「ええ。マークス、カミラ、レオン、エリーゼ。彼らは、私を知らないかもしれないけど……私は、彼らを知っているわ。彼らが、いい人達だということも。」
「……それは……」
「けれど、今はする必要はないわ。きっと、いつかは分かり合える。話し合えるのだから。」
アクアは小さく微笑む。
その日一日は楽しかった。
この暖かさが続くと思っていた。
けれど………現実は辛くのしかかる。
絶望へと。
ーーマークス達は暗夜王ガロンの元にいた。
「……お前たち。此度の失態は、不問にする。」
「……ありがとうございます、父上。父上の配慮、感謝いたします。」
マークスは頭を下げる。
暗夜王ガロンは頬杖をつき、
「さて、お前達にはこれから、白夜王国に行ってもらう。」
「白夜王国に……ですか?」
「そうだ。そこに、カムイが捕まっているそうだ。助けに行って参れ。」
マークスは返事をしようとした。
そうしなければ、この
「……わかりーー」
「だが、カムイが自らの意志で白夜王国に組したのであれば、その時は殺せ。良いな。」
「……ですが、父上。白夜王国には、白夜王妃の結界があります。行ってもーー」
「それはもはやありはせぬ。何故なら、白夜王妃は時期に死ぬ。カムイの手によってな。」
そう言って、暗夜王ガロンは冷たい笑みを浮かべる。
マークス達は拳を握りしめていた。
だが、必死にそれを堪え、
「……わかりました、父上。その任、我ら
そう言って、出て行った。
暗夜王ガロンは大笑いを始めていた。
「くはははは!さあ、絶望しろ!破滅への道へ‼︎全ては、我が神のために‼︎」
ーーカムイはお花見を終え、母ミコトと王の玉座にやって来た。
ミコトは玉座のの隣に立ち、
「カムイ、実はあなたに一つ頼みがあります。」
「なんですか?」
「カムイ、この玉座に座ってみませんか?」
「え?どうしてですか?」
「……カムイ。この玉座には、古の神である神祖竜の加護が宿っているのです。座る者は、真の姿、真の心を取り戻すと伝えられています。」
「それはつまり、私が暗夜に術を掛けられていると言うのですか?やはり、私は信用されていなかったんですね……当然ですよね。」
「いいえ、カムイ。違うのです。あなたを、傷つけたのなら謝ります。ただ、もしもあなたが暗夜によって記憶を封じられていたなら……最後に、私のことを思い出してくれるかも……そう思って。ごめんなさい。私は、あなたを傷つけてばかり……けれど、忘れないで……この玉座のことを。」
ミコトは視線を落とし、カムイの横を歩いて行った。
その日の夕飯、一人の眼鏡をかけた男性がミコトの横に来た。
「失礼します、ミコト様。先日、言っておられた準備が整いました。」
「ありがとう、ユキムラ。」
ミコトは、彼に笑顔を向ける。
そしてカムイを見て、
「カムイ、彼はユキムラ。軍師として、白夜王国の政務を助けてくれています。」
「浅学非才の身ではありますが、どうかお見知り置き下さいませ。」
軍師ユキムラはカムイに頭を下げる。
ミコトは手を合わせ、
「カムイ、実は民の皆に、あなたが戻って来たことを正式に知らせようと思って。知らせを回したのです。」
「そこで、カムイ様のお披露目を明日の昼、炎の広場で行います。」
軍師ユキムラは、簡単に説明する。
ミコトは、ヒノカ、タクミ、サクラ、アクアを見て、
「ヒノカ、タクミ、サクラ、アクア。あなた達で、カムイを炎の広場に案内してあげて。私は執務を終えてから、リョウマ達と一緒に行きます。カムイを、よろしくお願いしますね。」
「承知しました、母様。」
「わかったよ、母上。」
「はい、母様。」
「……ええ、ミコト様……」
その日の夜は、どこか悲しく不安だったのを覚えている。
リョウマとアクアは、起こる悲劇を知っていた。
けれど、何もできない自分をどこか悲しく、悔しく、歯痒かった。
それでも、託された思いを守り通すと誓う。
ヒノカやサクラ、タクミは、彼らのそれに気付けなかった自分を悔いた。
いや、気付いていたのかもしれない。
けれど、母のあの笑顔がそれを見せなかったのだ。
母の想い、
それでも
この後の悲劇を。
大切な
カムイは嘆く。
誰もを護りたいと、のちに思うのはこの為か……
違う。
母の想いに気付けなかった自分。
それもある。
なによりも、自分が壊してしまったあの暖かさ。
やり直せると思った母と子の……家族の絆を。
自分が壊してしまった全てを、自分は背負い歩む。
だからこそだ。
自分は選び取った。
全ては、自分の信じる未来のために……