歌姫は願い続ける。
やり続ける。
自分にしかできない事を。
今の自分ではない自分。
何度も繰り返される悲劇。
失う大切なモノたち。
家族、仲間、絆……
いつかそれらを乗り越え、またあの日々を取り戻したい。
口にしてはいけない。
自分の気持ちを殺して過ごす日々。
想いが溢れ、どんなに辛く悲しかったか。
けれど、自分は泣き言は言えない。
立ち向かう彼女を知っているから。
自分は、彼女ともに幾度となく立ち向かった。
自分にかけられた呪いも、残された時間も、恐れずに。
本当は怖かった。
けれど、彼女の成長を見れば怖くない。
それがあれば、自分は進める。
自分の信じる未来を。
彼らと約束した未来を、願いを、想いを。
あの子を守ると、見守り続けると……
ーーフードの彼女の魔術で、水に飲まれた彼ら。
だが、すぐに感覚が軽くなる。
「……私の加護の力だ。」
彼らを水の膜が覆う。
そして、水の中を移動していく。
膜が消えて、地面に立つ。
ジョーカーは驚いた。
そこは空中都市のような場所。
青い空と白い雲に覆われている。
そして、空中にも岩のような大陸が浮いていた。
けれど、建物のほとんど破壊され、廃家と化していた。
木々も、あるところは枯れ、岩が丸出しの所もある。
この国は歪だった。
彼女は、近くの洞窟へと入っていく。
彼女が連れてきたアクアも、その後ろに続く。
ジョーカーはカムイを抱えて、後ろに付いてく。
ひとまず、岩場に横にさせる。
彼女が火を焚き、辺りを警戒していた。
アクアは、カムイの側にいるリリスを見て、
「大丈夫よ、リリス。カムイは眠ってるだけだから。」
それを聞いたジョーカーは、
「は?……いえ、失礼しました。あまりにも、聞き慣れた名でしたので。」
「一つ言っておくが、そこの子竜は考えていた人物で間違いない。元は竜の子だからな。」
フードの彼女は言う。
ジョーカーは、笑顔を保ったまま、
「……私の知るリリスは、人間です。しかも、竜⁉︎そんな馬鹿な……」
《本当ですよ、ジョーカー様。》
「ぐっ!この声は、確かにリリス。カムイ様は知っているのか?」
「むしろ、その姿にならなければ、死んでいたところだ。で、なぜ今になって喋ることにしたのだ?」
《……この地に入ってしまったからです。本来なら、私からは何も言いません。けれど、あなたからはお父様の匂いがするのです。そして、アクア様は歌姫でした。それに、あなただから、です。》
「……そう、か。やはり気づいていたのか。だが、話すな。」
《ええ、わかっています。あなたが私の秘密を知るように、私もあなたの秘密を知る。ふふ、面白い関係ですね。》
「……そうだな。」
二人だけの会話が続いた。
と、ジョーカーは彼女を睨んで、
「で、ここはどこなんです。」
「……ここは透魔王国よ。」
彼の問いに答えたのは彼女でなくアクア。
ジョーカーが眉を寄せ、
「……透魔王国?聞いたことないですね。」
アクアは燃える火を見つめ、
「当然よ。失われし、国の名ですもの。そして、呪われた国。」
「申し訳ありません。言ってる意味が、よくわかりません。」
ジョーカーはさらに眉を寄せた。
と、カムイが目を覚ます。
「ん?ここは?」
「カムイ様!良かった!」
「ジョーカーさん。えっと……どういう状況ですか?」
「……そうね。詳しく教えてあげる。けれど、それは私より、あなたの口からの方がいいと思うの。」
と、アクアはフードの彼女を見る。
フードの彼女は少し黙っていた。
けれど、口を開く。
「……知っていて、私が話すのか?」
「ええ。だってあなたは……いえ、だからこそ、私はあなたから聞きたい。私は全てを知るこそ、あなたの知る全てを、あなたから聞きたいの。」
アクアはジッと彼女を見つめた。
フードの彼女は諦めたように、
「……分かった。全ては今言えないが、少し話そう。さっきも言われていたが、ここは透魔王国。簡単に言えば、お前達のいた世界とは異なる時空に存在する異界の地。竜の加護がある国だ。いや、こう言えば早いのか。全ての竜の生まれ故郷。そこの子竜も、元はここの出身だ。そして、この国は竜の呪いで滅んだ。この国の王は、加護せし竜とは友であったのだ。けれど、加護せし竜は人が信じられなくなっていった。そして、己の中の竜の血が暴走しだした。加護せし竜は、友であった王を殺し、国を滅ぼし、呪いをかけた。加護せし竜は、精神を操る。民を互いに殺し合わせた。奴の力は、死人ですら操る。だがらこそ、民達は竜を恐れ、従う。この国の大地は恩恵が消え、荒れて……そうやって滅びた。」
フードの彼女は拳を握り、
「白夜と暗夜の神祖竜も、元はここに居た。この国の加護せし竜とは違い、双竜は人間に己の血を与え、竜の力を与えた。それが子をなし、子孫となりて王となってきた。それが今の白夜と暗夜だ。この国がまだ滅ぶ前、若かりし頃の白夜王スメラギと暗夜王ガロンの時代まで、ずっと交流を持っていた。と言っても、交流があったのは王たちだけだ。白夜と暗夜を結ぶ中心……今は無限渓谷のある場所。あそこにかつてはこの透魔王国に繋がる門があったのだ。けれど、先言っていた事が起こったために、門も破壊され、その交流も絶たれた。私は竜の呪いを考え、白夜と暗夜の元にある透魔の情報は消した。」
「……その呪いとは?」
カムイはグッと息を飲む。
フードの彼女はカムイの方を見て、
「この国以外で、この国の事を話せば泡となって死ぬ。」
「……え?」
「だから、この国の事は、この国に入らなくては話せないのだ。さらに厄介なのが、この国の事を知らない者には見えないのだ。この国の竜によって支配された兵が。故に、白夜や暗夜はそれに気付けない。」
「……兵の事を教えたくても、見えてる人は呪いで言えない。そういう事ですね。」
「そうだ。だからこそ、私はあえて気づかせるために動いてきた。透魔兵を魔術で潰していく事で、鋭い奴は気づく。そこに、見えない何かがいると。」
「……えっと、この国の竜はそれ程に凄いんですか?加護してたと言うくらいですから。」
「……ああ。この国の加護せし竜の名は、『ハイドラ』。もうほとんど理性は残っていない。あるとすれば、世界の破滅のみだ。それこそが、奴の目的。その為に、この国だけでなく白夜や暗夜に手を出した。全ての裏にあいつがいる……そう、彼らも……」
フードの彼女は拳を握り締める。
カムイはその姿を、彼女のこれまでの行動を想い、
「教えてください。何故、あなたはそこまでして戦うのですか?確かに、あなたはこの国の出身の方です。けれど、一人で戦い続けるなど……」
「……約束だ。」
「え……?」
「大切な人たちと約束したからだ。その約束を果たす為なら、何を犠牲にしたって、私はやり遂げる。その為の覚悟はとうにしている。だが、お前にはその覚悟がない。」
「……確かに、そうですね。私は中途半端です。でも、私は白夜も暗夜も救いたい。きっと手を取り合って、共に居られる……そう思うんです。」
カムイは視線を落として、眉を寄せた。
フードの彼女は立ち上がり、
「それは可能だ。だが、大元をなんとかせねば、来るのは破滅だ。だからこそ、お前は覚悟を決めろ。救える命と救えぬ命。それを受け止めるだけの覚悟を。」
カムイは俯いたまま黙り込んでいた。
フードの彼女はアクアの耳元で、
「……黒き騎士に気をつけろ。あれはすでに飲まれた。その前になんとかしたかったが、間に合わなかった。」
「……そう。分かったわ。あなたはどうするの?」
「待ち人に会いに行く。あの秘密の小屋を知っているか?」
「ええ、知っているわ。」
「……では、そこで再び合流しよう。」
フードの彼女は立ち去った。
アクアはカムイを見て、
「……そろそろ移動しましょう。ここも長居はできないから。」
「わかりました。」
カムイ達は移動を開始した。
フードの彼女は道無き道を進む。
岩陰に隠れながら移動していく。
そして、小さな穴へと入る。
「……やあ、おかえり。」
彼女の前にはフードを被った男性がいる。
彼のフードからは、髪が少し出ている。
その髪の色は青。
声でもわかる優しき男性。
「お前の子供が、こちらに来ている。会いたいか?」
「……会いたいけど、今はやめておくよ。君のおかげで、私はここにいる。私のなすべき事を見定めてからでも、遅くはない。」
「そうか……。だが、移動するぞ。奴にここが見つかった。」
「わかった。」
フードの彼女は彼を連れて移動する。
その数分後、彼らが先ほどいた所には、透魔兵達が押し寄せて来たのだった。
カムイ達は洞窟内を歩いていた。
アクアはカムイを見て、
「カムイ、さっきの彼女の話は本当よ。実を言うとね、私も、私の母も、私の父も、この透魔王国の出身なの。」
「……え?でも、アクアさんは……」
「私は暗夜の人間でも、王族でもないわ。彼女の言ったこの国の王にして、加護せし竜の友だったのは……私のお父様。私は、この透魔王国の王女だったの。」
「……じゃあ、アクアさんは国を追われて……」
「そうなるわね……。誰にも話せないのは、辛かったわ。この国を誰かに言って、助けを求めたかった。けれど、呪いのせいでそれもできない。いくら両親が恋しくても、故郷が気ががりでも、この国の民達を想っても、口にすることは許されない。自分の気持ちに蓋をして生きる日々。今までずっと……それは、きっと彼女も同じ。」
「アクアさん……」
「だからこそ、彼女の意志は強い。その想いも半端なく強い。カムイ、あなたもまた選ばなくてはいけない。これから先の未来を。あなた自身の答えを。」
「……はい。私も、覚悟を決めます。私は白夜も、暗夜も、救いたい。そして、この透魔も救いたい。」
「なら、なおのこと覚悟が必要よ。カムイ、私はあなたと共に未来を掴むわ。」
アクアは小さく笑う。
今まで黙って聞いていたジョーカーとリリスも、
「カムイ様、私は何があってもあなたと共に。この命はあなたの為に。」
《私も、です。カムイ様、私もこの故郷を救いたい。父の想いに応えたい。その為にも、私はあなたと共に行きます。》
カムイは拳を握り、
「はい。みんなで、頑張りましょう!私も、みんなを守れるように強くなります!」
「……ふふ。そうね、みんなで頑張りましょう。」
笑顔だったアクアの表情が変わる。
「……いけない。敵が近くにいるわ。気をつけて!」
アクアが薙刀を構える。
彼女の前からは、兵達が数人やって来る。
カムイも剣を抜き、ジョーカーも短剣を抜く。
《カムイ様、彼らは死人です。気をつけてください!》
「わかりました!」
カムイ達は戦闘を始める。
カムイ、アクア、ジョーカーは敵を斬り裂きながら進む。
そして、走り出す。
「この人数でまともに殺りあっていたら、こちらが不利なるわ。ここは、ひたすら走って!戦闘は最小限に!」
「は、はい!」
カムイ達は、前にいる兵達をなぎ倒して行く。
少し広い所に出ると、彼らは囲まれた。
「くっ!カムイ様、どうしますか。」
「……アクアさん、投降するのはマズいですよね。」
「そうね。彼らにしてみれば、生死は関係ないもの。でも、ここを抜ければ目的の場所まですぐなのだけれど……」
彼らは背中合わせで、身を守る。
カムイが竜石を取り出し、
「……私が竜になってなぎ払ってーー」
「それはダメよ。あなたもよ、リリス。ここで竜の力を使えば、ハイドラにバレてしまう。こいつらは、あくまでこの場所に迷い込んだ者を排除する為にいるだけ。まだ、ハイドラには完全にはバレていないわ!」
リリスが竜の力を使おうと考えていた。
だからこそ、アクアが先に止めた。
ジョーカーが、視線だけをアクアに向け、
「では、どうするのです。この敵を全て薙ぎ払うのは無理ですね。あともう一人、強いお方がいれば……!」
ジョーカーは襲い掛かる兵を斬り裂く。
と、奥の方から馬の鳴き声が響き渡る。
そして、敵に槍が突きつけられて、吹き飛んだ。
その姿を見たカムイ、ジョーカー、リリスは、
「ギュンターさん⁈」「ジジイ⁉︎」《ギュンター様‼︎》
「カムイ様、ご無事で何よりです。」
槍を構え直したギュンターが、カムイを見る。
「ど、どうしてここに?いえ、それよりも無事でよかったです!」
「いやはや、自分も、もうダメかと思いましたよ。この洞窟内で迷っていたところ、聞き慣れた声が聞こえてきたもので。馳せ参じました。さて、私が先陣を切りましょう。いけるな、ジョーカー。」
「誰に言ってやがる!」
彼らは武器を構え直す。
そしてギュンターを先頭に、この場を駆け抜ける。
外に出て、アクアに案内された小屋で一行は落ち着く。
「でも、本当に無事でよかったです、ギュンターさん。」
「それはこちらもですよ、カムイ様。しばらく見ない内に、ずいぶんとお強くなって……。さて、ここはどこで、どういった状況でしょうか?」
「はい。ここは、透魔王国という見えない異界の国です。この国を今支配しているのは、ハイドラという竜だそうです。そして、この国のことはここ以外では言えません。言うと、竜の呪いによって泡となって消えてしまいます。私たちを襲っていたのは透魔兵で、リリスさんが言うには、死人らしいのです。ハイドラは、心を操るそうなんです。しかも、死人ですら操れる。そのハイドラという竜を倒さない限り、白夜と暗夜に平和は訪れません。」
「……成る程。そちらのお嬢さんが、アクアさんですね。もしや、暗夜王国の王女ではございませんか?以前、お会いしたことがあります。ですが、リリスはどこに?」
「あ、はい。この子ですよ。」
と、カムイは抱いていた子竜を見せる。
ギュンターは沈黙ののち、
「…………申し訳ございません、私の知るリリスとは違ったみたいですね。」
《いえ。あってますよ、ギュンター様。私は人間ではなく、竜の子なのです。》
「……むう、この声は確かにリリス。なんとも、色々なことがありますな。」
ギュンターは頭を抱えた。
アクアは一歩前に出て、
「……初めまして。いえ、お久しぶりと言うべきなのかしら……。でも、私は一応、暗夜王国の王女ということになっているけれど、私はこの透魔王国の王女よ。残念ながらね。」
「それは申し訳ございません、アクア様。言葉が過ぎました。そして暗夜にいた頃はお守りできず、誠に申し訳ございませんでした。」
「気にしてないわ。」
頭を下げる彼に、アクアは小さく笑う。
ジョーカーがギュンターを見て、
「チッ。ジジイ、カムイ様から少しだが聞いていた。心配していた、この俺の時間を返せ。」
「……ふん。その減らず口は、相変わらずだな。もう少し、ましな言葉はかけられんのか。」
「は。いいか、ジジイ。色々と危険な国だ。くれぐれも、気をつけろよ。」
「言われなくとも、わかっておるわい。」
「すみません、ギュンターさん。おそらく、辛く苦しい戦いになります。白夜と暗夜の協力も得なければなりません。それでも、私たちについて来てくれますか?」
「はい。お供します。このギュンター、いつまでも貴女様と共に……」
「ありがとうございます、ギュンターさん。」
「いいえ、お礼は不要です。これで、ここで彷徨い生き延びた甲斐があるというもの。それにしても、あのガンズも大したことはありませんでしたな。落とされはしましたが、この通り私はピンピンしております。」
「あ、そういえば……ガンズさんは言ってました。ギュンターさんを急襲したのは、ガロン王の命令だったと。でも、どうして……」
カムイが眉を寄せる。
と、そこに扉をコンコンと叩く音が聞こえた。
ギュンターとジョーカーが武器を構える。
「……私は、この世の闇を知る者。真実を知る一人。」
「……いいわ、入って。」
アクアがそう言うと、フードを深く被った少女が入ってくる。
カムイがパッと明るくなって、
「良かった、無事ですね。」
「……何かあったか?」
「……敵襲があったわ。」
「そうか。」
そう言って、フードの彼女はギュンターの方を向く。
「…………」
「私は、ギュンターと申します。カムイ様の従者をしております。以後、お見知りおきを。」
「……カムイと復讐、どちらを選ぶ。」
「……え?」
カムイは、フードの彼女の言葉に反応した。
ギュンターは苦笑して、
「……ふう。カムイ様、先程のお話ですが、恥ずかしながら……私は、ガロン王に恨まれているのですよ。」
「恨ま……れている?」
「はい。かつて戦場で、幾多の武勲を立てた私は、ガロン王に謁見を許されました。そして、王から竜の血を賜る機会を授けられたのです。それは大変な栄誉でした。王を守る最高位の騎士となれるのですからな。……ですが、私は固辞しました。故郷の街に妻と子がいたからです。私がその役目につけば、家族とは今まで通りには暮らせない。私は平凡な一生を送りたい……ですから、お許しくださいと申しました。あの時のガロン王の憤怒は、今でも忘れません。」
「……そんなことが……」
「……ですが、私はカムイ様にお仕えすると決めた。あなたの為なら、復讐は後回しです。」
「ギュンターさん……」
カムイは視線を落とす。
フードの彼女はハッとして、
「移動するぞ。敵が近い。」
「……え?」
カムイ達も気を引き締め、彼女に従う。
カムイ達は彼女の誘導の元、外に出る。
しばらくして、先頭を歩いていた彼女が立ち止まる。
アクアを見て、
「……少し離れる。物陰に隠れて、やり過ごせ。」
「……わかったわ。」
アクア達は物陰に隠れる。
そして、彼女はどこかに走っていく。
すると、突如女性魔導師と数人の兵が現れた。
だが、何かに包まれており、顔は解らない。
女性魔導師は辺りを見て、
「あそこね……」
アクア達が隠れていたところに、魔術を放つ。
それを避け、彼らの前に出たカムイ達。
そして、武器を構える。
カムイ達を見て、
「去りなさい……。ここは、あなた達のいるべき場所まではありません。」
「何者ですか⁉︎」
「私は透魔王国の魔導士。透魔兵よ、この者たちを排除さなさい。」
「まずいわ……今の私たちでは、こいつらには勝てない!」
アクアは眉を寄せ、冷や汗が出てきた。
透魔兵達が襲いかかる。
「くっ!カムイ様、アクア様、お退りを!ジョーカー、いけるな!」
「はっ、誰に言ってやがる、ジジイ!カムイ様の為なら、このジョーカー、何があってもやりますとも!」
「ギュンターさん!ジョーカーさん!」
ギュンターとジョーカーは、近づいてきた兵を斬り裂いていく。
だが、数からしてもこちらが不利なのは変わらない。
と、戦う彼らと透魔兵の間に魔術が飛んできた。
カムイ達や透魔兵達はそこを見る。
高い岩に乗った一人の女性がいた。
銀髪を左右に結い上げた黄金の瞳を持ったフードの付いたマントを着た魔導師の姿。
女性魔導師がその彼女を見て、
「ルフレ卿、どういうつもりです。」
「いえ、ここで彼らを殺すのは得策ではないと思ったのです。ですので、兵をひいてください。」
岩からおり、こちらに歩いてくる女性。
だが、女性魔導師は彼女に敵意を向ける。
「……あなたは、怪しいわ。突然現れ、ハイドラ様の信頼をすぐに取った。だいたい、これはハイドラ様の命なのよ。それを……あなたはあの方の逆鱗に触れるきですか!」
「……いいえ。私は、ハイドラ様を思っての行動です。先も言った通り、ハイドラ様の願いを叶えるのであれば、彼らは今は逃すのがいい。これは、私が考えるいくつもの作戦の一つです。確実に、あの方の望み通りになるように、のね。だから、兵を引いてください。さもないと……」
彼女は腰にあった剣を抜き、近くにいた兵を斬った。
兵は燃えて消える。
「味方を⁉︎」
カムイは目を見開く。
女性は笑みを浮かべ、
「あなたも、こうなりますよ。私としては、ここであなたを失うのは得策ではない。ですから……ね?」
「くっ!わかりました、ここは引きましょう。けれど、私はあなたを信用していない事をお忘れなく。」
「ええ、それで構いませんよ。私は、私のやり方をするだけですので。」
兵達と共に消える女性魔導師を、彼女はなおも笑顔のまま見送った。
彼らが消えると、彼女はカムイ達を見て、
「……あの方の為にも、あなたがたにも頑張って貰わねばなりません。簡単には、死なないでください。」
彼女はスッと消えた。
アクアは腰を落として、拳を握り締める。
「……なんとかなったみたいね。けど、安心はできないわ。」
「だろうな。」
フードの彼女が、後ろから現れた。
アクアに手を伸ばし、彼女を立たせる。
ジョーカーが、フードの彼女を見て、
「あなたがいない間、大変でしたよ。敵の奇襲にあったのですから。」
「……だからこそ、私は向こうに戻る手配をしてきた。この人数では、危険だからな。向こうに戻って、白夜と暗夜を味方につける。」
「……協力してくれるでしょうか……」
「してくれる、のではない。させるのだ、お前がな。」
そして、歩き出す。
カムイ達も、それに続く。
カムイは拳を握り締め、
「……私頑張ります。きっと兄さん達はわかってくれると思います。私は信じる。」
「……そうね。私も手伝うわ。」
「勿論、この私もです。」
「そうですな、共に行きますぞ。」
「はい。ありがとうございます。」
カムイは彼らに笑顔を向ける。
そして、拳を握り締める。
「……ですが、あのルフレという方、仲間を斬り捨てるなんて!」
《私も、アクア様よりここに長くいましたが、『ルフレ』という方を聞いたことはありません。》
「……あなたは、何か知ってるかしら?」
アクアはフードの彼女を見ていた。
彼女は歩みを緩めず、
「……『ルフレ』は、あるとき突然現れたハイドラの軍師らしい。だが、軍師としての策だけなく、戦闘も行える。故に、ハイドラは駒として仲間にしているらしい。しかし、ルフレはほとんど表には出ないと聞いている。あいつまでもが動き出したのなら、こちらはその倍は急がねばいけない。」
「……そうですか。色々とやることが山積みですね。」
「ああ。」
と、ギュンターが馬を引きながら、
「……それよりも、カムイ様。お体の方は大丈夫なのですかな?ほとんど休まずに進んでおりますゆえ。」
「大丈夫ですよ、ギュンターさん。何というか、とても体が軽いんです。」
「ですが……」
「ここは竜の波動が強い。竜の血が濃いそいつには、ちょうどいいのだろう。それに、そいつの体の不調は、特異体質なだけだ。色々なモノの、な。」
「……あなたは、カムイ様のお体について何かご存知なのですか。」
「さてな。」
「……あなたは、何者なのです。私はまだ、あなたの名をお聞きしていません。」
ギュンターはフードの彼女を睨む。
それを、彼女は簡単に受け流す。
カムイが思い出すように、
「そういえば、私もお聞きしてませんでした。」
「そうですね、私もです。」
《……それは、私もです。ですがーー》
「そうね。私も、これからあなたを呼ぶのに困るわ。」
それに、ジョーカー、リリス、アクアが続いた。
フードの彼女は歩みを止め、
「生憎、自分の名はもうない。……私の事は好きに呼べ。」
そして、フードの彼女の足元に魔方陣が浮かぶ。
そこから水が溢れ出る。
それによって、彼らは来た時のようにして包まれた。
彼らは、元いた世界へと戻る。