その輝く君に永遠を誓う   作:ヨーソローはやて

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第35話 ~桜と蜜柑~

~梨子 Side~

 

 私は私が分からなくなった。あんなに大好きだったピアノが怖くなってしまった。だから逃げ出した・・・。ピアノから・・・自分自身と向き合うことから・・・。

 高校に入って最初のピアノコンクールで私はピアノを弾く事が出来なかった。周りの期待に押しつぶされたとか、怪我をしていたとかでもなく、ただ単に私は自分が奏でたい音色が分からなくなった。自分で作った曲なのにどう表現していいか全く分からなくなったのだ。いわゆるスランプと言うものかもしれないけど、今の私にはそこから抜け出す方法を持っていなかった。

 ピアノを引けなくなった私を心配した両親が『生活環境を変えよう』と東京を離れ自然の多い静岡へ引っ越す事を提案してきた。コンクールで弾く事の出来なかった私を責める人は誰もいなかったし、気を使ってその事について触れる人もいなかったけど、私はあのコンクール以来周りの目が怖くなりいつも何かに脅えていた。だから両親の提案はありがたかった。そして私は逃げるようにその提案を了承して今日この内浦に引っ越してきた。

 正直ここに来たからと言って何かが変わるとは思えないけど、少なくとも私を知る人のいないここなら人の目に脅えず生活できる。両親には申し訳ないけど、ただそれだけの為の引っ越しだった。

 

「やっと着いたわね♪」

 

「そうね・・・」

 

 東京から車で数時間、ようやく新しい家に着いた。車を降りると潮の香りを乗せた風が優しく私の頬を撫でた。たったそれだけの事だったのにもかかわらず、なにも変わらないと思っていた私の心に、何かが変わるかもしれない、と何かを期待する気持ちを芽生えさせた。半年近くもピアノと向き合えずにいたのになんでだろう?

 

「海・・・近いんだなぁ・・・。」

 

「そんなところでボーっとしてどうしたの?」

 

「ううん、何でもない。」

 

「そう?なら新し学校に挨拶にもいかないといけないんだし、出かける準備して来ちゃいなさい。」

 

「はーい。」

 

 私は新しい自分の部屋へ向かい、前の学校の制服へ着替えようとしてある事を思いついた。

 

「・・・海の音を聴く事が出来たら、またピアノ弾けるようになるかな?」

 

 私がピアノを弾く事が出来なくなった原因、それは海の音にあった。海をイメージして曲を作った時は確かにイメージできていたはずなのに、弾けば弾くほどイメージできなくなり、音から色が無くなってしまうような、そんな感覚に陥っていった。そしてこの曲だけでなく、他の曲も音から色が消えてしまい私はピアノが弾けなくなった。

 

「海に入ったら海の音がどんなものか分かるかな・・・?」

 

 私は海の音を求め、海に入る為に制服の下に水着を着て出かけることにした。もう一度ピアノと向き合う為に・・・。

 

 

 

---------------------

 

 新しい学校へのあいさつは思いのほかすぐに終わった。今日は入学式だったようで紅白の幕やら紙で出来た花の片づけをしている生徒が数名いた。そんな中、担任になる先生に挨拶をすませ、新しい制服や教科書などをもらい、明日は登校したら職員室に来るようにとだけ言われ学校へのあいさつは終わった。

 家に帰る途中海の音を聞く為にお母さんと別れ、今は海岸に来ていた。海まで来たのはいいけど私は海に入るか少し悩んでいた。春になったとはいえ、夕方ともなるとかなり冷え込んでくる。当然海の中はかなりの冷たさだろう。

 

「とはいえ、夏までなんて待ってられないよね・・・。」

 

 何も変わらないと思っていた私が、ここの海の風を体感じた時に何かが変わる、そう思う事が出来た。ここで足踏みしていたらきっとこの気持ちは風化してしまう。だから私は海に入る決意をして制服を脱ぎ桟橋を駆けた。

 

「待って待って!!死ぬから!!死んじゃうから!!」

 

 海に飛び込もうとした。その瞬間、私の腰のあたりに誰かが抱きついてきて、海に入るのを止めてきた。

 

「離して!!どうしても行かなくちゃいけないの!!」

 

「そんなこと言ったって~!!」

 

 私と私に抱きついている誰かで揉み合っていると私の足が抱きついている誰かの足に引っ掛かり、その人と一緒に宙に放りだされてしまった。

 

「は!?」

 

「え?!」

 

「「わぁ~~~~~~~~~~~~~!!!!」」

 

 私達は大きな水飛沫を上げて海に落ちてしまった。海に落ちて私は物凄く後悔した。だって、思っていた以上に水が冷たいんだもん・・・。あまりの冷たさにショック死するかと思ったよ・・・。

 私達はなんとか泳いで海岸に戻る事が出来た。そこで初めて私と落ちた人をちゃんと見た。みかん色の髪の私と同じ年くらいの女の子だった。

 彼女は『少し待ってて♪』と言ってどこかへ行ってしまった。家が近いからこのまま帰ってもいいのだけれど、彼女が戻ってきた時に私がいないと心配させてしまうと思い私は海岸で待つことにした。

 体が濡れていて寒かったから膝を抱えて小さく丸くなっていると、さっきの彼女がタオルなど持ってきてくれた上に、近くにあったドラム缶に薪を入れて火まで付けてくれた。

 

「くしゅんっ!!」

 

「大丈夫?」

 

 彼女はそう言いながら私にタオルをかけてくれた。

 

「沖縄じゃないんだからこんな時期にそんな格好で海に入るなんて無謀だよ?」

 

「それは分かってるんだけど・・・。」

 

「なんでそんなに海に入りたかったの?海に入りたいんなら近くにダイビングショップもあるのに・・・。」

 

「海の音が聴きたかったの・・・。」

 

「海の音?」

 

「うん・・・。」

 

「どうして?」

 

「・・・・」

 

「わかった。じゃもう聞かない・・・・・・海中の音ってこと??」

 

「ふふっ」

 

 聞かないと言ったのに、悪びれもせずすぐに自分の疑問を投げかけてきた。でもなんでだろう?不思議と嫌な気はせず、むしろおかしくて私は思わず笑ってしまった。

 

「私ピアノで曲を作ってるの・・・。でもどうしても海の音のイメージがわかなくて・・・。」

 

「へぇ、曲を?作曲なんてすごいね!!見た事ない制服だけどここら辺の高校?」

 

「東京・・・。」

 

「東京?!わざわざその為にここまで?」

 

「わざわざっていうか・・・。」

 

「そうだ!!東京ってことは誰かスクールアイドル知ってる?」

 

 オレンジの髪の彼女は私の横に来ると子供のような無邪気な笑顔で訪ねてきた。スクールアイドルってなんだろ?芸能人かな?

 

「スクール・・・アイドル??」

 

「うん♪ほら、東京だと有名なグループ沢山いるでしょ♪」

 

「なんの話?」

 

「へ??」

 

 何の事だかわからずに聞き返すと子供のような無邪気な笑顔が凍りついていまった。そんなに変なこと言ったのかしら?

 

「まさか知らないの!?スクールアイドルだよ!?学校でアイドル活動して、大きな大会まである!!」

 

「そんなに有名なの??」

 

「有名なんてもんじゃないよ!!ドーム大会があるくらいチョー人気なんだよ♪・・・って、私も詳しくなったのは最近なんだけどね。」

 

「そうなんだ。私ピアノ以外興味なかったからそう言うの疎くて・・・。」

 

 そう、ピアノを弾けなくなるまでも、弾けなくなってからですら寝ても覚めてもピアノの事ばかり頭にあって、はやりのドラマや、人気のある俳優さんなどと言った物はほとんど知らないでここまで来た。

 前に友達に『それは年頃の女の子としてどうよ?』と言われた事もあったけど、その頃の私はピアノさえあればそれでいいと思っていた。そのピアノに今苦しめられている事なんて想像すらできないくらい私はピアノに夢中だたんだ。

 

「じゃぁ、見てみる?なんじゃこりゃ~!!ってなるから♪」

 

「なんじゃこりゃ?」

 

「なんじゃこりゃ♪」

 

 そう言うと彼女はスマホの画面を私に見せてくれた。画面には9人の女子高生と曲名とグループ名らしき文字が映し出されていた。

 

「どう?」

 

「どうって・・・。」

 

 見せてもらっておいてなんだけど、なんて言ったらいいんだろう?たまにテレビで見るアイドルと違うような・・・。

 

「なんていうか・・・普通?・・・あぁ、いえ、悪い意味じゃなくて!!確かにそこに映っている人たちも凄く可愛いし美人だとは思うけど、アイドルって言うからもっとこう・・・芸能人っぽいもの?を想像していて・・・。」

 

「だよね。だから衝撃的だったんだよ・・・。」

 

「え・・・?」

 

「あなたみたいにずっとピアノを頑張ってきたとか、大好きなことに夢中でのめり込んできたとか、そんなの全然なくて・・・。将来こんな風になりたいとか、そんな夢とか一つもなくて・・・。」

 

 彼女はどこか寂しそうな顔をしていた。初めて会って、名前もまだ知らないのに何故か私は彼女の話に引き付けられていた。

 

「私ね、普通なの。私は普通星に生まれた普通星人なんだって・・・。どんなに頑張っても普通なんだって・・・。それでも私が気付いていないだけで何かあるんじゃないかって思ってたんだけど、なにもないまま気が付いたら高2になってた。」

 

 その感覚、なんとなくだけど分かる気がする。ピアノが弾けなくなって半年だけだけど、その半年の間『大丈夫、すぐ元に戻る!』そんな風に足掻いてきたけど気が付いたら何も変わらないまま今ここにいる私がいて、これが凡人の限界なのかな?と最近思う時もあるせいかもしれない。

 

「だから最近ね『まずっ!!このままだと本当にこのままだぞ!?普通星人を通り越して普通怪獣チカチーになっちゃう~!!』て。」

 

 彼女はそういいながら私の前に来ると『がおー!!』っと怪獣のマネをして見せた。そしてそのまま怪獣が暴れている効果音のようなものを口にして言い終わると私の顔色を窺うように振り向いてきた。その姿が可愛らしくて、また笑ってしまった。

 

「偶然だった。本当に偶然だけど、そんな時に出会ったの。あの人たちに・・・・。みんなわたしと同じような普通の高校生なのにキラキラしてた!!」

 

 彼女はその時の感動を一生懸命すべて伝えようとしてくれた。

 

「それで思ったの。一生懸命練習して想いを・・・心を一つにしてステージに立つと、こんなにもカッコ良くて、感動出来て、・・・素敵になれるんだって!!スクールアイドルって、こんなにも・・・こんなにも!・・・こんなにも輝けるんだって!!!」

 

 先ほどとは違い、彼女はまるで新しい遊びを見つけた子供ように純粋に目を輝かせていた。私はそんな彼女を羨ましいと思った。今の私はこんな顔できないから・・・。

 

「気付いたら全部の曲を聞いていた。毎日動画を見て、歌を覚えて・・・。そして思ったの。私もやってみたいって!!この人達みたいに仲間と一緒にこの人達の目指した場所に行ってみたい・・・この人達を追いかけたい、私も輝きたいって!!」

 

 彼女の話はなぜかすんなりと心に届き、ゆっくりと彼女の言葉が全身にしみわたって、励まされているような気がした。

 

「ありがとう。なんか『頑張れ』って言われた気がする。」

 

「本当に?」

 

「えぇ。スクールアイドル・・・なれるといいわね。」

 

「うん♪・・・あ、わたし達お互いにまだ名前言ってなかったね?」

 

「そう言えば・・・」

 

「わたし、高海 千歌♪あの丘の上にある、浦の星女学院って高校の2年生♪」

 

「同じ年ね。私は桜内 梨子。高校は・・・音ノ木坂学院高校。」

 

 この出会いが私の運命を大きく変える出会いだった。

 

~梨子Side END~




いかがだったでしょう?

今回は梨子ちゃんを自分なりに少し掘り下げてみました♪

次回はまた悠君とダイヤちゃんの話に戻ります。
宜しければまた読んでやってください♪
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