生まれ変わったら貞操観念があべこべな世界だった件。
…何を言っているかわからねーと思うが俺だってわからねー。
とりあえず俺の身に起こった事を簡単に説明すると…
・日本という国で生まれる。
・何処にでもいるであろう普通の男に育つ。
・二十歳の時に車に跳ね飛ばされであっさりと逝く。
・気づいたら何故か三歳児インジャパン。
・成長するに従って俺の知っていた日本と違う事に気づく←今ここ。
…何を言っているかわからねーと思うが(ry
具体的に言えば、この世界は男の人口が異常なまでに少ないのだ。
下手に街を一人で歩こうもんなら珍獣扱いされ、逆ナン…この世界では普通にナンパと呼ぶべきものは日常茶飯事である。
ついでに歴史上の偉人も性転換している場合も多く、例えばあの織田信長は織田信奈という女性になっているし、本当どうなっているんだろうな。
この貞操観念があべこべな世界に生まれてから早十五年近く経つ。
薄まってきているが決して消える事のないであろう違和感を抱えながらも何とか生きている。
この言い方は大袈裟かもしれないが、男が女みたいで女が男みたいな世界なのだ。
こういうものだと慣れるまでストレスで胃痛がマッハだった。
親や友人にマジギレしそうになった事も一度や二度ではない。おかげで幼少期の俺は情緒不安定の頭のおかしい小僧だと思われていたらしい。
しかし隣に住んでいる幼馴染の兄妹は今でも俺の頭はおかしいと思っているらしい、解せぬ。
そんな事を自室のベッドの上に寝っ転がりながら考えていると、コンコン、と扉を叩く音がした。
両親は仕事でいないので家には俺以外誰もいないので扉の前にいるのは家族以外の人間という事になり、そうなると隣の家に住んでいる世話焼き兄妹のどちらかという事になる。
その謎の人物の正体を何となく見破った俺は、入っていいぞ~、と間延びした声を出す。
ガチャリ、と扉が開いて姿を見せたその人物は予想通り、世話焼き兄妹の妹の方だった。
「おはよう…ってまたそんな格好してるし」
「別にいいだろ、俺の家なんだから」
「だからって男の子がTシャツとスウェットだけなのはどうかと思うけど。それにもうすぐお昼だよ」
「いいじゃん、まだ春休みだぜ? だらだらと過ごしたって罰は当たらねぇって」
「私達、明日から高校生なんだけどね。そんなんだと明日から大変だよ?」
俺の怠惰さを見て呆れたように息を吐くこの少女は桐ケ谷直葉といった。
直葉とは俗に言う、幼馴染という奴でこの様に我が家に無断で侵入する許可も両親から貰っているくらいには信頼されている…というよりも我が家の合鍵は桐ケ谷家に託されているのだ。
これは母さんが出張で父さんもそちらについて行っているーー母の基本的な家事の能力が壊滅的なので父が代わりに世話をしている――ので心配した両親が付き合いの長い桐ケ谷夫妻に俺の面倒を見るように頼んだからである。
この世界は一般的に女性が働いて稼ぎ、男性が家庭を守る風潮が強い。
あくまで一般的な話なので一概には言えないが、多くの女性は家事が苦手…と言うよりもしない。家庭的な男性に世話をしてもらい、そんな男性を守ってあげたいという願望が強い為らしい。
これも俺が前回生きていた世界とのギャップ、名付けてワールドギャップである。
「それで何か用か?」
「おじさんに言われて来たの。『空がいつまでもダラダラしていないように様子を見ておいて欲しい』ってね。それで来てみたら案の定これだもん」
直葉が来たのは父の差し金らしい。
俺の父はそこそこに過保護で、いつも口を酸っぱくして『空は顔も良いんだし、もっと男の子としての自覚を持ちなさい!』と言ってくる、前の世界の女子はこんな感じだったのだろうか?
ちなみに『空』と言うのは俺のこの世界での名前で、フルネームは一之瀬空である。
「分かった分かった…それより和人君は? てっきり一緒に来てるもんだと思ってたけど見当たらないな。下にいるのか?」
「お兄ちゃんは家でお昼を作ってるよ」
「おじさんとおばさんは?」
「今日は二人共お仕事だって」
「ふーん。俺の分も用意してくれてるのかな」
「勿論。だからこうして私が様子を見に来るついでにお誘いに来てあげたんだから」
和人君は直葉の従兄に当たる人で俺より二つ年上の人で、同じ男という事もあってか俺の面倒をよく見てくれる。
どうして実の両親と離れて暮らしているのかは知らないしきっと俺は知らなくても良い事だろう。
それよりも今は昼食のメニューの方が気になった。
和人君は料理が非常に上手なのだ。
「今日は焼きそばでも作るかなって言ってたよ。一緒にスープも用意するってさ」
「お、いいな焼きそば。男の作る昼飯って感じがする」
「どういう意味なの…って、いきなり脱がないで!」
部屋着のTシャツを脱ぎ捨て、タンスから着替えを取り出そうとすると怒鳴られた。
直葉の前で脱いだのは勿論わざとだ。。
「流石にこの格好でお前の家に行くわけに行かないだろ?」
「そうじゃなくて! どうして私の前で着替えられるわけ!?」
「別に良いじゃん。俺は気にしないし」
「~っ! ほんとそういう所だよ! ばかっ!」
顔を真っ赤にして直葉は俺の部屋を出て行った。
ああいう反応をされるとつい揶揄いたくなってしまうのだ。
直葉は普通に美少女の部類に入る女の子だし、美少女が顔を真っ赤にして狼狽える姿は俺的に結構クるものがあるのだから仕方がない。
しかしああいった事を誰にでもしてはいけない。
この世界の女性は野獣なので襲われてしまう可能性があるからだ。
俺に対して怒鳴っていた直葉も俺の身体をチラチラと見ていた。
流石にこの年齢にもなってこの手の揶揄い方は自嘲した方が良さそうである。
適当な私服に着替えて部屋から出ると満面の笑みを浮かべた直葉が仁王立ちして待ち構えていた。
その手には何故か竹刀が握られている。
何処からソイツを出したんだ。
あ、これは不味い奴だーー
危機を察知した俺が部屋に戻ろうとすると思いっきり肩を掴まれる。
振り返って見た直葉は見惚れる様な笑みを浮かべている。
俺は背筋が冷たくなるのを感じた。
「空君、ああいう事を女の前でしちゃ駄目だって言ってるよね?」
「いや、別に直葉だし、いいかなって」
「私だって女だし、ね?」
「だから、ちょっとした悪戯心で」
「言っても分からない空君にはお仕置きだね。お昼までもう少し時間あるし久しぶりに一本やってみようか。体を動かしたら良い感じにお腹も空くだろうし」
「え、ちょ、それはーー」
「問答無用」
竹刀を肩に担いだまま、片手で俺を引きずっていく直葉はこの歳で剣道の達人である。
師匠である彼女の祖母に『生まれる時代が違えばその剣で天下を取れた』と言わしめる天才剣道少女なのだ。
俺に勝ち目などあるはずもない、この試合は死刑宣告に等しいもの。
俺は引きずられたままガックリと肩を落とした。
「直葉さん? できれば手加減とかしてもらえるとーー」
「私が手加減とか大嫌いなの、空君なら知ってるよね」
「ですよねー」
このあと、昼食ができたと和人君が呼びに来るまでにめちゃくちゃボコボコにされた。
やりすぎだと和人君に怒られる直葉に、ざまぁ、と小声で言ったらもう一発竹刀で叩かれたのは余談である。
☆☆☆☆
「暴力を振るったスグも悪いけどな、そもそも空が悪いんだぞ? いくら相手がスグだって言っても年頃の男の子が簡単に女相手に肌を見せたりしたら駄目じゃないか」
「仰る通りです…」
「そうだよ! わ、私だからまだ良かったものの…他の人には悪戯でもやっちゃ駄目だからね。特に詩乃ちゃんには絶対駄目!」
「なして詩乃限定?」
「とにかく駄目なの! 分かった!?」
「はいはい…」
「返事は一回!」
「イエス、マム」
俺と直葉は着替えを済ませて和人君と一緒に昼食を摂っていた。
相変わらず和人君の作る料理はイケるな、と幼馴染の小言を聞き流す。
彼女は可愛いし心優しい良い子なのだが口煩いのが玉に瑕だ。
「いつも思うんだけどよくもまあ、あんなに思いっきりぶっ叩いておきながら痣一つ付けないなんていう神業を繰り出せるもんだな」
「あれぐらい、桐ケ谷の女なら当然だし男の子に傷つけるとかありえないし」
「俺は普通に…いや、かなり痛かったんだけどそれは良いんだ?」
「痛くないとお仕置きにならないじゃん」
悪気無く言い放つ幼馴染の何と潔い事だろう。
正しく『女らしい』
直葉はこの性格なので異性よりも同性からの人気が高い。本人は複雑そうな顔をしているが仕方がないだろう。
嫌ならば何かあったらすぐに手をあげるその性格を見直すべきだ。
「私が叩くのはお兄ちゃんか空君だけだもん」
「どうして俺の考えている事が分かったし」
「顔に出てた」
「さいですか…」
「空はともかく、俺の事まで殴らないでくれよ…」
俺はいいんかい、和人君や。
文句を言う前に和人君が、そうだ、と何かを思い出したように声を出した。
「この後、皆でSAOにログインして狩りにでも行こうと思ってるんだ。空とスグも一緒にどうだ?」
「私は明日の準備も終わってるし大丈夫だよ。空君は?」
「和人君以外のメンバーって誰?」
「明日奈と里香は来るってさ。珪子は用事が終わって時間がありそうだったら来るらしい」
上のメンバーは和人君の友達で、全員女の子だ。しかも全員が和人君を狙っているという地獄絵図。
見ている俺からすれば楽しい限りだが、本人は苦心しているらしい。一体誰を選ぶのやら。
「俺も行こうかな。暇だし…そういう事なら詩乃と木綿季や藍子も誘おう。アイツらもどうせ暇してる」
俺が思い浮かべたのは友人である少女三人。
今日まで春休みだし、どうせ手持無沙汰だろう。
早速、SAOにログインできるかどうかメッセージを飛ばして聞いてみる。
すると三人からすぐに返事が返ってきた。
「全員来れるってさ。木綿季なんかやる気満々っぽいよ」
「空に木綿季がいてくれるなら前衛は申し分ないし、新しく実装されたらしいボスに挑んでみるのもありかもな」
「おうおう、ボス戦とか燃えますな~」
「油断してデスペナもらわないようにね」
「俺がそんなヘマをするわけないでしょうに。それじゃあ俺は自分の家からログインするからまた後で。和人君、ご馳走でした!」
スープを飲み干して和人君にお礼を言って家を飛び出す。
すぐにログインして仮想世界に飛び込みたい。
俺はあの世界が好きなのだ。
前の世界では絶対に体験する事のできないものだったから。
自室に戻った俺は頭にナーヴギアをセットしベッドに横になる。
食った後にすぐ横になるのは身体に悪い気がしてならないが、若さに任せて大丈夫だという事にしておこう。
とにかく、これで準備完了。
あとはあの一言でログイン完了だ。
「リンク・スタート!」
気分と筆が乗ったら続きます。