私だけの星 ずっと輝いてるよ 作:ヴァイロンオメガファントム
八幡side
雪ノ下と別れ、俺と陽乃さんは急いで体育館に向かった。現在8時5分…おいおい遅刻だぞ…
そして舞台裏につくとそこには葉山と、慌ただしいスタッフさん達が待っていた。
「ごめーん!!隼人」
「!陽乃さん!比企谷もなにしてたんだ?」
「ちょっとね?ねー比企谷くん!」
「なんでそこで俺に振るんですか」
「だって一緒にいたのは事実でしょ?」
まぁ事実だから否定はできない。むしろあの雪ノ下陽乃の涙を見てしまったまである。
…あの時…陽乃さんの涙を見たとき、驚きもしたが、それ以上に美しいと思ってしまった自分がいる。いや、こんな事本人の前では絶対言えねーけど。それでも、あの雪ノ下陽乃も涙を流し、ある星のように輝きたいと願っていた。これはあくまでも本当に輝きたいってことではないのだろう。なにか…こう、心の奥の…底から…昔失った本当の自分を出したいとか、そうゆうことではないのか…多分、知らんけど。
「さぁこっちだよ、ここで待機してて」
と葉山に言われるがまま、舞台袖へ。
「隼人、今の状況は?」
「陽乃さんたちが来ないから、校長先生や、市長さんが場を繋いでいるよ」
ちょっと待て、これって市長さんが来るほど大きいイベントなの?こんなイベントがあるなんて情報、俺全然知らないんだけど!これって俺がぼっちだから?はいぼっちだから情報が回って来なかったんですね。そのようですね。そりより緊張してきた…
と…1人、このイベントの偉大さに驚愕していると、葉山が
「じゃあ、俺ももう行くから、多分…5分後くらいにはスタッフさんが呼びに来ると思うよ」
といい、葉山はそこから立ち去っていった。そして俺は、さっきのこともあり陽乃さんが気になって隣をチラッとみると…陽乃さんも俺の視線に気づいたのか、陽乃さんはとても優しい笑みでこちらを見返してきた。
「比企谷くん、身体は大丈夫?」
「まぁ…そう、ですね…足と腰がちょっと筋肉痛に、なりかけてますね…」
そう言うと、陽乃さんは一歩、また一歩近づいてきた。そして…
「比企谷くん、今日は私の頼みをきいてくれて、ありがと」
「あ、いえ…」
「それと…さっきは俺がいるって言ってくれてありがとう」
「いや、俺がいる…というより俺達がいるって言ったんですよ」
「それでもだよ……私はずっと1人ぼっちだと思ってた…私を助けてくれようとしてくれる人なんて、いないって…そう思ってた。だから…」
そして陽乃さんは…今までに見たことない凄い無邪気な、そして凄い綺麗な笑顔で…こう言ってきた。
「ありがとう!」
「うっ…」
可愛い…陽乃さんが可愛い…あれ?陽乃さんってこんなんだっけ?俺の見間違いかな?あまりの緊張で俺は幻を見ているのではないか。そう錯覚するほど、陽乃さんの笑顔は表も裏もないとても素敵な笑顔だった。
「うーん?比企谷くん顔が赤いよ〜あ!もしかしてお姉さんに惚れちゃった?」
あながち間違ってないので言い返せないのが悔しい。あんな笑顔を見せられたら男は誰だってイチコロだ。先行1ターンキルですね。はい。
ん?あれ?
「でも…そういうあなただって顔赤いんじゃ!?…」
「そこに触れるのは厳禁よ?比企谷くん」
と言いながら、指で俺の唇を押さえてきた。そして…
「比企谷くん、もう1つ頼み事があるの。これは比企谷くんだけに」
「……頼み事?…俺だけに、ですか?」
「そう、比企谷くんだけに…いい?」
「え、えぇ…」
そしてさらに陽乃さんは顔を近づけてくる。そして冷たい笑みでこちらを見つめてくる。俺は思わず身体をのけぞってしまう。
「…私は誰よりも万能で誰よりも完璧な自分をだして、皆からさすが雪ノ下陽乃と言われるようにしてきた、本当の私を隠してね」
「そしていつしか、『本当の自分』さえもどんな感じだったか思い出せない。分からないの。私がどんな風に笑っていたとか、どんな風に泣いていたのか、とかね」
「全部嘘だったの、私が笑ってるとか…そんなことは…全部偽りの自分、だから…」
「だから比企谷くん、本当の私を…見つけてください」
なるほど、最初の推理はあながち間違ってなかったのか。彼女は『雪ノ下』の長女で生まれたが故に、いろんな嘘や欺瞞に包まれた空間へと足を踏み入れた。そこでは『弱い』自分を隠さないと、それを弱みにされ、なにをされるかわからない。だからこの人はいつしか誰よりも万能で、誰よりも完璧な自分を作り出した。それ以外の在り方を許されてはいなかったのだろう。それらのことがあったから彼女は人も信じれなくなった。それが今の雪ノ下陽乃だ。
「それが、頼み事…ですか」
「うん」
彼女は今までもずっとそう…強い自分をみせて、俺や雪ノ下、葉山などいろんな人を掌の上に乗せ、弄んでいるようにしてきた。しかし、彼女はそういう役回りでしか俺達や、いろんな人と関われなかったのだろう。でも心のどこか奥底ではそんなことをしなくても周りと関わりたいと思っていたのではないだろうか。そこは俺にも分からないが。
でも…少なくともさっきの笑顔…ありがとうと言ってきたあの笑顔は嘘なんかじゃないと思う。
「分かりました。引き受けますよ、その依頼」
「……ありがとう!」
ほら、やっぱりこの笑顔は本物だと俺は思う。彼女自身気づいてないのだろうか。だったら今出てますよって教えた方が良いのだろうか。
……きっとそれは違う。俺が、いや俺達が彼女がそうなれるきっかけを作り、例え今は無理でも彼女自身に気づいてもらうしかない。たとえ長い年月がかかろうとも。
「陽乃さーん!比企谷さん!そろそろ本番でーす。」
スタッフさんから声がかかった。さて…いっちょ踊ってきますか。
「比企谷くん頑張ろうね」
「えぇ、頑張りましょう」
「あ、そうだ…はいこれ!」
「メガネ、ですか?」
「これを掛けて舞台にあがりなよ」
「は、はぁ…分かりました」
まぁ目が腐ってると一色にも言われたし、少しでもこれで誤魔化せると助かるな。
…よし、行きますか。
そうして俺達は舞台に上がった。
葉山side
比企谷はすごい奴だ。陽乃さんをまさかあんな顔にさせるなんて、俺や雪乃ちゃんには到底無理だ…寧ろその逆で、陽乃さんがあんなふうになってしまったのに俺達二人は見てみぬ振りをしてしまった。
でも彼女も比企谷と出会って変わろうとしている。
凄いな君は…雪乃ちゃんはともかくそのお姉さんまで…
いつか…いつか俺も変われるといいな、皆の葉山隼人じゃない自分に…
「あら?隼人くんじゃないのね、陽乃と踊ってくれるのは」
席に着こうとした時に、不意にそう言われ後ろを見ると…
そう…そこには陽乃さんに冷たい仮面を作らせ、雪乃ちゃんを影で、愛想のない、可愛げがないなど言っていた『雪ノ下』の母がいた。…俺も影で何を言われてるか分からないな…
「えぇ、陽乃さんは彼を選びましたよ」
「彼?」
「えぇ、お見えにした事あると思いますが、」
そして、この人はステージを見る。その顔は冷たさを超えた笑顔だった。
「………彼にどんな価値があるのでしょうね」
「……………」
もうすぐダンスが始まる。比企谷たちは舞台の上で準備をしていた。頼む比企谷、失敗しないでくれ。この母親に目をつけられるとただじゃすまない。そう願いながら、俺は比企谷達を見守りつづけた。
八幡side
あと数秒で本番が始まる。最初の姿勢で待機し、曲が始まるのを待っていた。ちらっと陽乃さんを見るとその姿はとても美しく、絵になるような姿だった。白いドレスがとても似合っている。髪型もこのイベントに相応しい髪型だ。
にしても俺なんかがこんなところに立っていいのかよ。周りを見るとクラスの連中もチラホラいるな。くそ、明日また気持ち悪かったとか言われたらとても立ち直れないぞ。
会場が静寂に包まれる。曲が流れはじめた。陽乃さんが動き、俺も動く…
くっ!思った以上に足が限界らしい。頼む!曲が終わるまでもってくれ!
二人のコンビネーション、ウェーブも決まった。
会場からはおぉ〜などの歓声が聞こえるがそれは陽乃さんを見てのことだろう。
…さぁここからは二人の愛を表す振り付けが増えるため、陽乃さんと嫌でも近くなる。すると近くまできた陽乃さんが小声で喋りかけてきた。
「比企谷くん」
「なんですか」
「おもっきり愛し合うよ」
「えぇ…頑張ります…」
陽乃さんも真剣だ。
まぁこれで手を抜いたら後で陽乃さんに何を言われるかたまったもんじゃないので、今、この場だけは本気で陽乃さんを彼女と思って愛す『表現』をしようと思う。あくまで『表現』なので本気じゃない。ここ大事だな。
さぁ俺のテクニックで陽乃さんをめちゃくちゃにしてやるか。
会場は最初の歓声はどこにいったのか、すごい静かになっていた。え?やっぱり俺キモすぎたかな?キモすぎたんですか?俺。後で小町に聞こう。
もう曲の終盤。くっ!足が…重い…俺の足!頑張れ!!!最後はステップからのキスだ。これさえ終われば全て終わり!あ、本当にキスをするわけじゃないからね?本当だよ?
さぁ最後!キスをやるフリで……!!!?
……俺は今驚いて固まってしまっている。俺の唇に柔らかい感触が広がる…。冷静になれ八幡。……本来なら俺と陽乃さんはキスをしている最中なのだ。だが本当にするわけではないのだが…あれ?練習の時と違いますよ、陽乃さん。そう、俺と陽乃さんはキスをしていた。そして会場が暗闇に包まれる。
俺は小声で、
「な、何するんですか!?」
「どう?お姉さんのお味?」
「どうって……」
そんなの恥ずかしいに決まってるじゃないですか。
会場が暗転する。俺と陽乃さんは礼をし舞台を降りた。まだ陽乃さんの唇の感触がにわかに自分の唇に残っている。俺の初めての…
その時の前を歩いている陽乃さんの後ろ姿を直視することは、俺にはとても出来なかった。
キス!きす!!ここに鱚!