万刀千剣   作:神榛 紡

4 / 4
第三刀『第二試験①』

 第二試験はカキン国で日が暮れるまでに新種の生物を見つけてくる事だった。

 一次試験の通過者は百一名。おおよそ二百名程が落ちたらしい。原作はもっと多かったはずだから、全体で見れば不作なのかもしれない。ただ、割合で見れば三分の一は合格しているので、質は高いと言えるだろうか。

 まあ、試験が簡単な部類だったのかも知れないが、ハンター試験は一次試験を簡単な物にしたら二次試験で一気に難易度を上げるのがセオリーなのだろうか。

 少なくとも、「ちょっと多いから難易度上げるか。二日まで見るつもりだったが、荒らされたら堪らないから日が暮れるまでな」などと急場で難易度を急上昇させる必要は無いと思うのだが。

 日付を短くしなくても、大分減ると思うし。

 そんな事をつらつらと考えていたところに悲鳴が響いてきて、カグラが顔を顰める。たぶん、俺も心底嫌なものを聞いたという顔をしているだろう。

 

 「………何人目でしょうか」

 「知らん。このペースだと、念能力者以外は全滅しかねない事は確かだな」

 「……早く新種の生物を見つけて戻りましょう」

 

 やはり、カグラはまだ十にも満たない子供、という事だろう。当たり前だが、人が虐殺される際に上げる、怨念や絶望に満ちた悲鳴は耐え難いようで、顔色が良くない。

 かくいう俺も、人の死に耐性がある訳ではない。動物の解体や狩りはしてきたが、イズモ大社には専門の戦闘組織が存在したため、殺人の経験どころか、その死にすら触れた事が無いのだ。

 無論、襲ってくる輩がいれば反撃するし、カグラは命を賭けてでも守らなければならないだろうが、元々死にたくないがためにハンターを、脅威の殲滅を目指す俺が、果たして自身の命を対価に誰かを守れるのかという不安も、そもそも、殺し合いができるのか、という不安もある。

 カグラの提案通り、可能な限り早く戻れるように、早急に新種の生物を見つけて戻るべきだ。

 

 「カグラ、円は絶対に切らすなよ。試験にも役立つが、敵が来た時に察知できなければ不意打ちで死ぬ」

 「分かっています。エンこそ、試験に集中し過ぎてうっかり殺されないように気を付けてくださいね。あなたは私の肉の盾なんですから」

 「……ずいぶんひどい言われようだ。まあ、まだ余裕がありそうで安心した」

 「これでも感情を制御する術は持ち合わせています。事実、エンの顔の方が酷いですよ。今にも倒れそうで、そこらのトカゲに噛まれたら死んでしまいそうです」

 「大丈夫だ。これからの事を考えたら、こんな所で折れるなんて許されないからな」

 

 これから先、キメラアントを殲滅し、上手く行くならば、幻影旅団のような脅威を対象全ての殺害という方法で取り除こうとしているのだ。見知らぬ他人の死で倒れたりなんかしていられない。

 悲鳴の感覚と距離からして、凶行に走っているのはたった一人なのだ。どれだけ強かろうとも、メルエルに遥か劣るような脅威一つに敗北するなんて事は許されない。

 向かってくるならば全力で殺し、向かって来ずとも脅威であるならば出向いて殺さなければならない。

 今この状況ならば、できる事ならば向かって来て欲しいと思う。装備の関係上、今の俺は自分から斬りかかるよりも迎撃して切り捨てる方が強い。

 

 「エン、それは一体どうい「っ、誰だ!」――間の悪い敵ですね」

 

 カグラが話しかけてきた時に、折り悪く何者かが円の範囲へと侵入してきた。凶行の主を刺激しないように最低限の範囲で広げた円故に、この位置からならば声が届く。

 誰何(すいか)の声に応えてか、それとも初めから俺達と接触するつもりだったのか、その人物は両手を上げて茂みの奥から歩み出てきて軽く会釈してきた。

 その姿を捉えて、俺は刀の柄に掛けた手へさらに力を入れ、薙刀を構えたカグラは緊張に体を硬くする。

 

 「ああ、申し訳ない。警戒させてしまったようですね。まあ、何にせよ、まだ無事で良かった。子供が無為に死んでいくのは喜ばしい事ではありませんからね」

 「そこから動くなよ。怪しい動きをすれば即座に斬る」

 「ああ、はい。不安はごもっともです。悲鳴が連続で聞こえてくる中で現れたとなれば、敵と疑うのも仕方がありません。しかし、私は本当に敵ではありませんよ。これでも医者ですからね。人を殺すなど、安楽死以外では決してやりたくない話です」

 「信用できないな。試験にいた中じゃ、一番凶行に走りそうな奴が何を言う」

 

 このクソ暑い中でもコートを羽織、堅苦しいスーツを一部の隙も無く着込んだ帽子の男は、俺の反応を受けて苦笑を浮かべる。

 ライバルである他の受験者がいる場所で爆睡する少年や黒髪鉄扇娘と比べれば、犯人として一番怪しいのはこのキャラが立ち過ぎな男だろう。

 前世のある漫画の影響も否めないが、それでも一番怪しい事には変わりない。

 

 「ところで、お二人はハンター×ハンター、という単語に心当たりはございませんか?」

 「ハンター、ハンター、ですか? 聞き間違いのないように二度繰り返した、という訳ではないのですよね」

 「…………同類か」

 「男の子の方でしたか。ええ。私は同胞の集まりであるT連盟に所属しておりまして。この度は、私も医療関係の部門の長を務める事に決まりまして。そのための条件の一つとして、ハンターライセンスを取得しに来たのです。ハンターがいなければ入れないようば場所もありますからね」

 

 転生者。何か特別な要素もなく己が転生したのだから、他にいてもおかしくないとは思っていた。

 だが、連盟などと名乗れる程の数がいて、組織を作っているなどという話はさすがに予想外だ。

 

 「全てを信じるなんて事は言えないが、一先ず俺の同類というのは理解した。だが、赤屍蔵人(あかばねくろうど)の格好を真似た奴を信用しろ、というのは無理な話だな」

 「ははは。これは手厳しい。個人的に彼が好きなんですよね。終始敵役でしたが、あれほど格好いい敵キャラはいなかったと断言できますね。それにしても良く知ってますね。実は同年代だったりします?」

 「かなり長くやってた漫画だろ。それに、あの漫画は俺も好きだった」

 「あれは傑作でしたよねぇ。あのレベルの漫画はそうそうありません。終わってしまった時はとても悲しく思いましたよ。彼の漫画が家の棚に無いのが、この世界で最も不満な事です。内容を暗記するほどに読み込んだあの作品は私の聖典(バイブル)ですから」

 「話が見えません。エン、この方はあなたの知り合いですか?」

 「いいえ、違いますよ、お嬢さん。そちらの少年は私たちの同類であり、考えようによっては同郷とも言えますが、少なくとも、私と彼が顔を合わせたのは今日が初めての事です。ただ、可能ならば、同胞になりたいとは考えていますよ」

 

 ニッコリと笑って見せる様は、何も知らなければ人柄の良い人格者に見えたかもしれないが、赤羽根蔵人を知る身からすると、胡散臭いを通り越して命の危険を感じてしまう。

 襲ってくるならとっくに襲ってきているかとも思うが、世の中、油断させて無力化し、ジワジワといたぶるなんてふざけた趣味を持つ輩など、掃いて捨てるほどにいるのだから、見知らぬ実力者を目の前にして、無条件に信用するなどありえない。

 

 「………エン、少なくとも今敵対する気は無いようですし、先へ急ぎましょう。暴れている方がいつこちらに来るとも知れませんし、ここで問答していても、無駄に時間を消費するだけです。襲ってきたなら、襲ってきた時に撃退すればいいだけでしょう?」

 「そうは言うがな。……いや、いいか。行動中は絶対に警戒を解くなよ。それと、あんたは移動中俺達の前を歩け。付いて来るなら、それが最低条件だ」

 「ええ、もちろんかまいませんとも。ああ、自己紹介を忘れていましたね。私はカイル・セレートと申します。では、道中よろしくおねがいしますね」

 「私はカグラ・イズモで、そっちのがエン・テンモクです」

 

 俺よりも先にカグラが名乗り、赤羽改めカイルにお辞儀をする。その間、俺は当然カイルに対して最大限の警戒をしつつ、遠くで再び聞こえた悲鳴に眉を顰めた。

 この試験が終わるまでにどれだけ減るのかと考え、あまりにも軽いこの世界の命が嫌になる。

 不殺を目指す気は無いし、そもそも俺自身が命を奪う武器を作る鍛冶職人なのだから、他者の殺傷にどうこう言える立場には無いのかもしれない。それでも、俺自身は命を軽く扱う事が無いようにしようと、幾度目かも知れない決意を新たにした。

 少なくとも、カグラの顔を見れないような人間にはなりたくない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。