ハイスクールD×D 嫉妬の蛇   作:雑魚王

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遅くなってごめんなさい!!!!!


9話 パーティーFirst

 冥界、その悪魔領にある某有名ホテル。そこは敷居と値段が非常に高く、それに応じたサービスを提供することで知られている。まさに選ばれた者しか入れない施設と言えよう。だからこそ貴族はステータスとして利用したがるし、平民は強い憧れを持つ。

 これほど記念の場に即した会場もない。若手悪魔の交流試合が開催されることへの祝い、及び若手悪魔の紹介の場として、パーティーを開くにはうってつけだ。

 

 ——という口実のもとに、超高層超高級ホテルを貸し切り状態にして、魔王主催のパーティーが執り行われることと相成った。

 若手云々については建前と断言して構わない。そも悪魔は悠久の時を生きる種族であり、人間のように老いによる衰えは存在しない。単純な話、時間という大きなアドバンテージを持つ古い悪魔が力を持ちやすく、現政府の重役の多くが現魔王よりも年上という事実がその証明だ。

 つまり、どれだけ将来有望だとか、冥界の未来を担う人材だとか、そんな風に持て囃されようとも、所詮『若手』は『若造』に過ぎない。それが悪魔の権力者たちの思考の基準であり、このパーティーの本当の目的は各家当主同士の交流にある、ということも毎度恒例の話だったりする。

 

「貴族は貴族、か。吸血鬼も悪魔もこういうところは変わらないな」

 

 『種族』に『血筋』に『家名』。貴族たちは、それらを誇らしげに掲げているが、それらは彼らが己の力で手に入れたものではない。ただ生まれた瞬間から、その手にあっただけ(・・・・・)だ。

 

「外面を取り繕うことに関してだけは精力的で、だからこそ見た目は完璧か」

 

 金髪赤目の麗人は、会場内をぐるりと見まわし、吐き捨てる。

 吸血鬼の姫、エレイン・ツェペシュ。ハーフの吸血鬼として生まれながらも、その才能と実力は隔絶しており、堕天使総督曰く『歴代最強の白龍皇』と渡り合う程。女神にさえ勝るとも劣らぬ美貌だが、鋭い棘を持つ女はさながら血染花。半端な者が触れようものならば、その皮膚を突き破り、根を張り、全ての血を吸い上げて乾涸びさせるに違いない。

 

「おいしそうな料理の匂いがするなぁ……! パーティーの楽しみと言えばやっぱりこれだよね!」

 

 剣聖の家系に連なる者、ルル・アレイス。魔力の量では下級悪魔の平均にさえ及ばないという、悪魔としては落第とも言える少女だが、彼女の武器は魔力ではなく剣。天真爛漫かつ可憐な風貌とは裏腹に、その刃は何物よりも鋭く硬い。一部の悪魔は魔力の量の少なさを嘲っているが、そういう者に限ってルルの足下にも及ばないような雑魚である。

 彼女が白兵戦における最終決戦兵器として、主に捧げた勝利の栄光は数えきれないほどにある。またグラナが彼女を眷属とするために『騎士』の『変異の駒』を使用したという事実を重く見る者もいる。

 

「ルル、もう少し落ち着いてください」

 

 所謂、騎士の名家に生まれた才女、レイラ・ガードナー。障壁術・結界術に関しては類稀な能力を見せ、またその身に宿す神器も防御に特化したものということもあり、防御面に関しては一切の隙を見せないヒト型要塞だ。

 

「へぇ、貴族のパーティーってこんな感じなのね。想像通りのような、違うような……」

 

 元中級堕天使のレイナーレ。特異な力を有するわけではなく、特別な血筋の生まれでもない。元々が人間を堕落させる種族と言うこともあり容姿に優れるが、それとて同じく美男美女がデフォルトの悪魔社会では埋もれてしまう程度のものだ。

 加えて主たるグラナは『女好き』という話が浸透していることもあり、口さがない者からは「体を売って誑し込んだに違いない」と言われている。

 現に今この時も、各家の当主の中には、レイナーレを娼婦のように見る者もいるし、婦人たちは馬鹿にするかのように嗤っている。

 しかし、当のレイナーレ本人はそんな悪意の嵐のど真ん中で平然とした態度を崩さない。自分が悪意を向けられる理由が分からないほど馬鹿ではないということもあるが、それ以上に、視線でヒトは(・・・・・・)殺せない(・・・・)。眼光が強すぎるあまりに、『目からビーム』を実際に行える男も世の中にはいるが、あれは例外だ。

 名高き影の国の女王の下でのスパルタ修行。常識を放り捨てた主と仲間たちとの日々。この二つを経験すれば、大抵の事柄には動じない程度には肝が太くもなる。

 それに、貴族たちがいくら睨もうともグラナの『目からビーム』とは比べるべくもないし、いくら罵詈雑言を浴びせようともグラナの詠唱する『魔法』の破壊力のインパクトには劣るし、いくら悪意や敵意を纏おうともグラナの内から溢れ出す覇気の前には塵屑も同然だし、どれだけ威張り散らした貴族も所詮はグラナのデコピン一発で虫けらのように殺される雑魚である。

 今のレイナーレからすれば、雑多な悪意や敵意などそよ風と然して変わらなかった。

 

「ねえ、エレイン。ちょっといいかしら」

 

 レイナーレは態々悪意を向けてくる相手に近づくような酔狂な性格はしていない。加えて、個人的なコネクションを持っているわけではないので、特に親しい相手がいるわけでもない。

 パーティーの初っ端から食事に溺れるほど空腹ではないし、話せる相手は同じ王に仕える女たちのみ。しかし、その同僚の内、稀代の剣士は早速食事に溺れまくっており、もう一人の鉄壁女は前者の付き添いとして面倒を見ている。

 故に、とりあえずとばかりに話しかける相手は、麗しの吸血鬼しか居なかった。

 

「私もちょうど暇していたところだから、別に構わないよ。談笑でもダンスでも相手になろう」

 

 ワイングラスを傾け、コクリ、コクリとグラスの中身を少しずつ嚥下する。そのたびに脈動する喉や揺れる髪が艶めかしい。

 更にはレイナーレに声を掛けられると、グラスから口を離し、流し目を送りながら妖艶に微笑んで見せる。返答のために形の良い唇から紡がれる声は甘く、麻薬のように脳に染み渡り心の隙間に滑り込んでいくのだ。

 自然体でありながらも、とんでもないほどに色気に溢れている。しかしながら、同時に、同等以上の気品も宿ることで、決して下品には思わせることもない。

 

 下手をしなくても男女の区別なく万人を魅了するだろう麗人を見て、レイナーレはつくづく思う。

 ―—自分とは釣り合っていない。本来ならば話すどころか、顔を合わせることもないような別世界の住人であると。

 しかしだからと言って、臆することもない。

 前述したように、今のレイナーレは以前の彼女に比べて、かなり精神的に成長ないしは麻痺している部分がある。気品だとか色気だとか女としての実力だとか、様々な分野で圧倒的敗北を喫したとしても、それで気後れする可愛さなど毛頭ない。また、私情かつ感情論で言うのであれば、模擬戦とはいえ平然と己の腹を杭でぶち抜いてくるような相手に遠慮する必要はないだろう。というか、したくない。

 

「なら、ちょっとした話相手になってね」

 

「ふふ。何か話したいことが、あるいは訊きたいことでもあるのかな? これでも話し上手、聞き上手と言われるくらいには口と耳には自信がある。君が満足するまで相手しよう」

 

 自己申告を信じるのであれば、エレイン・ツェペシュの生まれと育ちは非常に悪い。

 そんな彼女が話し上手・聞き上手になった手法や、そしてその技能をこれまでどのような用途で用いて来たのかは、その過去から碌でもないものだと類推出来るのだが、それはエレインに限った話ではなく、グラナの配下であれば割とよくある話なのでレイナーレも気にしない。

 

「そういうことなら遠慮なく質問させてもらうわね。訊きたいことは色々とあるんだケド……とりあえず、こういう場での時間の潰し方を教えてもらえない? お偉い貴族たちの催しって初めての経験だから、正直、何をしていればいいのか分からないのよ」

 

「基本的にこういった場は、パーティーそのものを楽しむのではなく、パーティーという場を利用して家同士・当主同士の交流や顔繫ぎがメインだ。まぁ、私たちの主は………特別というか特殊なのでね、他家との交流は希薄だが」

 

 権力や地位を持つ貴族と、彼らに睨まれているグラナの二者では、どだい仲良くお話など出来はしない。

 表面上はにこやかに話していても、腹の底では罵詈雑言を吐き、脳裏ではマウントを取って相手の顔面を殴り続ける妄想に耽る。両者の関係など、そんなものだ。

 

「めっちゃ言い淀んでたわね……」

 

「言い辛いことの一つや二つくらいあるさ。壁に耳あり障子に目あり、と言うだろう? 誰が聞いているかも見ているかも分からない場所で、アレコレと本音をストレートに口に出すわけにはいかないよ」

 

 権謀術数が張り巡らされ、魑魅魍魎が跋扈する貴族社会——と言えば恐ろし気に聞こえるが、より陳腐に言い換えれば、他人の失敗が好物の連中による揚げ足取り合戦だ。

 幼稚で、愚劣で、馬鹿馬鹿しい。

 だからこそ、真っ当な理屈や道理が通じない、如何なる賢者でも予測し難い怖さがある。何が原因で、どんな失敗に繋がるかも分からない以上は、慎重に行動するのが吉というわけだ。

 

 実際問題として、グラナが悪魔の貴族の大半をよく思っていないのだとしても、短慮に『うちの御主人様はお前らみんな纏めてファックしろって思ってる~』などとは言えるはずが無い。

 それは貴族たちも同様であり、『グラナ・レヴィアタン死ね!』と心の中では渇望していても表面上はニコニコと「御加減のほどは如何かな?」などと当たり障りのない会話をする。

 両者ともに相手の言葉が単なる建前で、本音が正反対だと理解した上で、表面を取り繕う。平民気質のレイナーレからすれば、迂遠で、遠回りで、面倒くさくて、ややこしい。だが、そういったことの積み重ねが貴族社会で生きていくということなのだ。

 

「あぁ、だからさっきも外面がどうたら~ってオブラートに包んだ言い方してたのね。

 それはそれとして、ちょっと意外ね」

 

「ん? 意外って何がだい?」

 

「あなたの態度が普通なことよ。着飾った女の子がより取り見取りなのに、欲望を全然表に出さないじゃない」

 

 言うと、得心したようにエレインは一つ頷く。恐らく、レイナーレと初めて会った際に欲望交じりの視線を向けたことを想起しているのだろう。

 

「私が欲望に忠実なことは自覚しているがね……畜生連中のように年中発情しているわけじゃあないんだ。そもそも、あれはコミュニケーションの一環だしね。下ネタとでも言うべきか、最初に『自分はこういう女ですよ』とか『ここまではセーフなラインです』と遠回しに教えているだけさ。人と距離を詰めるには、まず自分から胸襟を開くべきだろう?」

 

 言っていることは分からなくもない。ないのだが、迂遠かつ分かりにくいし、わざわざそんな手段を使うあたり、エレインの性格や悪戯心が多分に盛り込まれているのだろう。違和感を抱かせることのない演技力は見事だが、諸手を挙げて称賛する気にはなれない。

 

「……随分と変化球な手法ね」

 

「誉め言葉として受け取ろう。ストレート一種では会話の相手としてつまらないからね」

 

「手札が多ければ円滑な会話ができるというわけでもないと思うけど」

 

「そうかな? 例えば――どうして未だグラナがこの場に現れていないのか、なんてネタはいい具合に賑わわせてくれるだろうけど?」

 

 貴族として、王の主催するパーティーに配下を送るだけで当人は姿を見せない、ということはあり得ない。グラナが常識破りと言うか破天荒な面があるとはレイナーレも常々思っているし、ツッコミを入れる毎日を送っているが、それでもこのパーティーに彼が出席することは間違いない。

 しかし、どういうわけか居城を発つ前には正装した姿を見せていた主が、一向にこの場に姿を見せない。会場入りしてからずっと持ち続けていた疑問を平然と見透かされたレイナーレは、完敗だとばかりに両手を上げる。

 

「確かに気になるわね。差し支えない範囲で良ければ話してくれないかしら?」

 

「ああ、勿論――と言いたいところだが、その必要はもう無いようだよ」

 

 ほら、とエレインが横目を向ける会場の出入り口。レイナーレも同じように見遣ると丁度会場に足を踏み入れようとするグラナの姿を確認することが出来、頼もしすぎる男の登場に安堵したのも束の間。胸を撫で下ろした次の瞬間には一層の混乱に囚われた。

 

「は?」

 

 グラナの服装が変なのではない。悪く言えば粗野な、良く言えば男身溢れる風貌に見合った衣装は、年齢を数割増しに思わせ、『男』と『大人』の二つの魅力を放っている。靴やアクセサリーに至るまで拘り、完璧に調和のとれた全体像はファッション誌に掲載されるモデルのようだ。

 問題は彼の隣。グラナの連れ添う悪魔にあった。

 

「は?」

 

 立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花。グラナにエスコートされる女は当然のように美しい。もし外見を数値化して比較することが叶うのなら、エレインと同等程度だろうが、身に纏う色香の桁が違った。

 濃厚で、豊潤で、脳髄まで痺れさせる天然の麻薬。離れて見ているだけでもその威力は凄まじく、声を聴き、匂いを吸い込んでしまえば、異形の者と言えどあっという間に堕落させられてしまいそうだ。

 

「は?」

 

 艶やかな着物を着崩し、長い黒髪を纏め上げた女悪魔。グラナを見つめる、髪と同色の瞳に乙女のような恋心を宿らせた彼女の容貌はあまりにも有名だ。

 最古の悪魔にして悪魔の起源。原初の人間の伴侶として創造されるも、堕落した女。

 

 その名をリリス。初代ルシファーの妻であり、『悪魔の母』と称される女だ。

 

「は?」

 

 何百年も昔から行方が知れず、とうに死んでいたと思われた女傑の登場だ。パーティーに参加する貴族たちが貴族らしからぬ、困惑の声を上げるのも無理はない。

 




名前:リリス
デジモンシリーズより参戦!

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